先秋楽

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/04 10:53:09 更新日時: 2005/10/07 01:53:09 評価: 26/28 POINT: 154 Rate: 1.33



 山の紅は眉唾めいて、暗がりが恋しい私を、その歪な五本の指で、おいで、おいでと手招きする。

 だから出て行ったのだ。
 貪欲な手たちの誘いを受けて、素直に家を発った。
 
 なのにあれらと来ると、近付いてみれば何てことも無い。
 ただの葉っぱの集まりなのである。
 
 なぁんだと私は残念がる。
 あんなに皆して、私を呼んでいるものだと思ったのに。
 
 勘違いして喜ぶのは馬鹿みたいで、けれど今の私にはお似合いに思えた。
 そうとも。
 私は、こうしてずっと、勘違いをしてきて。
 まだまだ、まだまだ、まだまだし足りないっていうこと。
 
 ざわざわと蠢いていた幾千万の指先たちが、はらりはらりと落ちていくのを見ながら、ふと思う。
 紅葉は、私以外の何を求めていたのかな?

 赤いといえば姉様のことで、転じて私のことで、彼らが呼ぶならどちらかなのだと思った。
 だから出て行ったのだ。
 
 紅いお姉様に水を向ける。
 話し掛けるという意味で、然して、全く言葉通りの反応、流水を厭う冷たさ。
 冷淡にただ一言、お前も私も呼ばれてないから、勝手に出て行くんじゃないよ。

 そんな風だから私が違えるのも無理もないと思う。
 じゃあ呼ばれているのが誰か、気にならないのお姉様?
 気になるから待っているのよ馬鹿ね、とただ一言。

 ああ言えばこう言う。
 そう、最近のお姉様は割とよく喋る。五月蝿いぐらいにね。
 きっと銀色な咲夜がいるせいで、まぁ、いい徴候かな、と思うぐらい。
 私は咲夜の銀色が怖いから余り近づけない。
 パチュリーの暢気な紫色を待ってもいられない。
 
 遊びに行かなきゃ、姉様!
 あの紅い山に、お弁当を持っていくのよ!
 
 フランドール様は時々変なことを仰いますね。紅葉なんて二月も前に帰ってますわ。
 彼女、あなたとは見るものが違うのよ。時々じゃなくて、いつも。
 いえ、お世話するのが時々なのですよ。
 
 私は咲夜に切り刻まれてしまいそうで近づけない。
 パチュリーに閉じ込められているので動けない。
 姉様はいつの間にか随分と遠くなって、まぁ、いい徴候だ、と思う。

 そう。最近のお姉様は私を見ていない。淋しいぐらいにね。
 きっと毎日が紅茶みたいに甘くて苦くて美味しいからよ。
 血よりも美味しい幻想を手に入れたのね?

 それなら教えて、姉様の幻の紅葉を。
 幼い十枚の翼に、どんな甘味と渋味を宿したのかしら。
 私はどうだろう。
 醜く尖った羽根、千々に乱れた私の味は、マーブル模様のチョコレート。
 見た目は七色でも甘いだけの単色。

 ああ、甘ったるいのが嫌になったのね。
 お姉様、それなら尚更よ。

 あのお山に行きましょう!
 銀のナイフと紫の栞を連れて、お花見をするのよ!
 ああ何を言ってるのお姉様、天地に花でないものなんて無いわ!
 海は命の花、山は星の花、ミサイルは戦の花、銀河は宇宙の花!
 猫も杓子も花なのよ、五百年前から変わってないのに!

 勿論、血の色の紅茶が欠かせないわ。
 カップ一杯も飲み干せないお姉様でも平気。ぐい飲みを使うの。
 そんなのお屋敷には無いって? 血も愚痴も零しちゃあ駄目よお姉様!
 平気平気、大丈夫なんだから!

 お山は紅を呼んでるの。
 巫女がきっと持ってる!
 
 ほら冬の雪山なんて見てないで。
 他は兎も角、紅が見えないのかしら?
 後ろばかり見て、あの早い速い疾い色が見えなくなったのね。

 あれは秋。
 私たち紅が、全色揃ったクレパスを爪に塗る季節!
 
 来年の紅葉よ、お姉様!
























「あんな事言ってさ。秋になったら春よ桜よ薄紅よ、って五月蝿いのよ。ったく」
「というか、なんで来年の色なんて見てるんでしょう?」
「私への当てつけに決まってるじゃない。
 あいつは、その気になれば紅葉なんて、桜なんて、全部まるって無い季節にもできるんだもの」
「冬は見ないんですか。冬にも色々あると思いますけど」
「同属嫌悪の累乗。レミィばかり見るのは、裏返しの裏返しの裏返しのどんでん返しね。
 マイノリティが嫌いなのよ、フランドールは。それを支持するのも、同様に。我侭と思うかしら」
「あの破壊力は私の力を遥かに凌ぐ。
 言い換えれば・・・そう、あの我侭は。そういうことよ」
「王様が一番少数派だと思いますわ」
「あら? 偶には気の利いた事言うのね、咲夜。愛い奴」
「殿様は沢山いますけど」
「むー、憂い奴」
「結局、どうするの、あの子?」
「ん? 昔から決まってるじゃない」
「言う事にゃ逆らえない。正しく、お山の大将ですわね」
「やれやれねぇ」
「パチェはお天気係よ?」
「まぁ努力はする、と思うわ」

「血の池地獄よ、紅色の幻想郷よ!」

「・・・ハラハラドキドキですわ」
「それ、いつの言葉?」
「ともかく、楽しみなことは確かね」
「一日千秋」
「千夜一夜の如く、と」


 紅いということは特別であるように思える。
 3倍速かったりするのは特別かもしれない。
 郵便物をブラックホールのように吸い込むのも。

 じゃあ、特別でない色って?

(ぁ、紅いのは稲妻でしたね。失敬)
shinsokku
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作品集:
最新
投稿日時:
2005/10/04 10:53:09
更新日時:
2005/10/07 01:53:09
評価:
26/28
POINT:
154
Rate:
1.33
1. 7 床間たろひ ■2005/10/19 00:36:54
フランの独白が、微妙にカッ飛んでて良いカンジ。
そこに見るのは幻想か、それとも確定した未来か。
どちらにしても紅い山。

特別でない色? そんなの決まっている。
俺の心の色さね。
2. 5 流砂 ■2005/10/19 00:56:24
フランが素敵な感じにイッててかなりニヤリ。 三人の会話もらしくて素敵。
3. 4 おやつ ■2005/10/19 01:06:59
妹様の独白から最後の締めが気持ちよかったです。
いい距離感の紅姉妹と感じました。
4. 8 es-cape ■2005/10/19 01:42:16
何故かゴスロリズムを感じました。

わたしゃ頭悪くて三人の会話がわかんね!
いえフランの詩も分かる様な分からない様なですけど三人の会話はもっとわかんね!
喩えと大和絵が一重になったような。いや分からない、この表現が分からない。

マイノリチーが嫌いなフランは何故特殊すなわち少数派である紅に惹かれるのですか。姉様に惹かれるのですか。
そういう事ってどういうことですか。
わかんね。

でもその辺が魅力です。
5. フリーレス MIM.E ■2005/10/19 11:03:09
あのお山に行きましょう!
からの畳み掛けるような流れが好きです。舞台で見てみたい作品でした。浪々と語りたい! 結局フランは愛されてるんだよね?
6. 7 MIM.E ■2005/10/19 11:03:38
点数つけ忘れごめんなさい。
7. 7 七死 ■2005/10/19 19:14:59
むう・・・・・・、この文章からは僕の大好きなヤマアラシの匂いがする。

最初に読んだ時、なんでこんな仰々しい言の葉を並べているのかと思いきや、読むに連れてその違和感が霧のように消えてゆき、やがて最後に至って最初に戻れば、なんでそんな違和感を抱いていたのかすら思い出せない。

バケモノ思考はバケモノ嗜好。 それに魅かれる人間は、自らを壊す事すら愉しむと言う。
それを望めば望む程、触れるものを傷付ける、そんな愛しいヤマアラシ。

つまりここが僕のツボ。
言と意に、無様に酔っ払いながら感想は素直に回れメリーゴーランド。



「・・・・・・でも最後の最後でガンネタはよくないな」
「む、知っているのかライデン?」
8. 7 Q-turn ■2005/10/19 23:25:47
―― 幼い十枚の翼に、どんな甘味と渋味を宿したのかしら ――

物事を一番良く見ているのは果たして何色の瞳なのでしょう? 
9. 6 匿名 ■2005/10/20 00:37:14
むー、言葉回しが軽快ですな。
ポンポンとリズムよく読めました。
10. 6 papa ■2005/10/21 15:33:30
もうすでに来年の秋を幻視(?)してはしゃぐフランがかわいいです。
その他の面々のやり取りもいい感じ。
11. 1 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 22:51:12
書き慣れてらっしゃる印象が。
こう言うサッパリ風味もいいか。
12. 8 ■2005/10/23 03:53:37
何かとりとめのないような言葉がいつも深くを見通してるって言うのは、非常に狂気の視点っぽくていいですね。
13. 6 hito ■2005/10/23 19:20:03
人生は長く、けれども過ぎ去ってしまえばそれは一瞬の煌き。
来年の東方が楽しみです。
14. 7 SSを書き損ねる程度の能力 ■2005/10/23 21:43:10
く……私の読解力では妹様の見る風景を視ることが出来なかった……
しかし、こんなにも引き込まれたのはなぜだろう。
知ろうとする知識欲かはたまた別の何かか。
その文章力に敬意を表します。
15. フリーレス 名前は無し ■2005/10/24 03:05:13
特別で無い色とは?
それはもっともありふれた色がそうだろうと考え、原子の色はなんじゃらほいと調べてみた。
……どうやら色は無いらしい。困った。
水素原子は水色だと硬く信じてたのに……
しかし、考えてみれば光を分光器に通しただけで、波長順に色は分かれてしまう。つまりちょっとしたことで変わってしまう困ったやつなのだ、色とは。
いやいや、考えてみれば某犀で川な先生も「色は主観的なもの」と言ってた。
目に映る色彩を、「他人と同じかどうか」確かめるのはかなり難しいことだ。
いっそ不可能と言っても、いいかも知れない。
うん、だから、わがままな妹様の主観に周りが合わせるのも、決しておかしなことではないのだ、きっと!(強引にまとめる)。
16. 5 Tomo ■2005/10/24 12:07:11
フランドールの一人称は考えてることがよく分からないあたりも含めて雰囲気が出ていると思います。一人称で動きのある物語も読んでみたいです。
17. 2 藤村りゅ ■2005/10/24 15:17:57
 いまひとつ、胸に落ちるものがありませんでした。
 難解すぎる、というよりは地の文含めヒントが少なすぎて答えに結びつけることが出来ませんでした。
18. 2 ■2005/10/25 22:29:13
あまり話がつかめなかった……のは自分の読み方が浅いのかもしれませんが。
つまり妹様はどういうつもりなのか…
19. 10 世界爺 ■2005/10/26 00:32:14
ヤバイ、ヤバイ。この言葉遊びの名状しがたいセンスはヤバイ。
匂い立つような単語一つ一つの存在感。
狂いながらも楽しそうなフランドール・スカーレット。
他にも数え切れない艶やかなる対比。
駄目だ、私の感覚では捉えきれない。ランクが違う。
くそう、完敗どころか壊滅だ。
20. 5 風雅 ■2005/10/28 14:00:48
ただの子どもでもなく、独特の感性を持ったフランが伺えます。
でもそのまま最後までフランを話の中心に据えてほしかった、かも。
21. 8 セノオ ■2005/10/28 15:32:13
小気味がいい。
何故か続きを予感させないこの紅い世界に惹かれました。
ああ、紅いといってもムゲじゃないですよ。幻想で溢れてましたから。
22. 8 偽書 ■2005/10/28 16:32:25
テンポが良い。何と言うか、これは一本取られたわ、って感じ。
ところで。「全部まるって」ってのは、恐らく誤字だとは思うのですが、違うのか。「全部纏めて」辺りでしょうか。それともあれか、お前らのやったことは全部総てまるっとお見通しの「まるっと」なのか。
23. 8 名無しでごめん ■2005/10/28 20:15:08
妹様の思考具合が凄い。短編ですが非常に強く残る一作でした。
さらには、『妹様』を文章で表現できる上手さに脱帽です。
意味不明ぽい感想になってしまってごめんなさい。
24. 5 弥生月文 ■2005/10/28 22:33:14
言い回しがステキです。テンポもいいですしね。
25. 6 IC ■2005/10/28 22:47:34
読み返してタイトルを見てああそういうことかと。
フランの独白も三人の掛け合いのリズムもとても良かったと思います。

ちょっと読み解くのが難しいだけに、繰返し読むほど味が出てくる話だと思いました。
26. 3 ななし ■2005/10/28 23:09:18
すみません、コメント間に合いません。
27. 9 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:29:20
フランドールの突き抜けきった感じと、対照的な他の紅魔館メンバーの諦念がいい感じです。
文章の独特の雰囲気もそれを活かしていて良。
ていうかやばい、このフラン俺の書いたのより明らかに可愛いよ。
28. 4 K.M ■2005/10/28 23:41:46
これは格別にハイテンションなフランですね
タイトルは誤字かとも思いましたが、そうではなかったのですね
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