冬の紅葉

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/13 18:37:43 更新日時: 2005/10/16 09:37:43 評価: 28/28 POINT: 166 Rate: 1.32





ふわりふわりと浮かぶ黒い球。
まっくろな球が空を飛んでいた。
辺りはもう、冬。
まっしろな雪だけ。
どこまでもどこまでも、同じように白かった。
びゅうびゅうと吹き付ける風は氷まじりで、かなり痛い。
その中を、ルーミアは当ても無く飛ぶ。
金髪を止めてる真っ赤なリボンはお気に入り。
自分で触れないのが癪だけど、そのリボンは封印のお札だから仕方ない。
そーなのかー、と頷くしかない。

「あれ?」

闇の中。
自分の力で『見えなく』しているのだが、実は自分も見えていない。
外から見るとまっくろな球。
そして中から見てもまっくろなままの筈なのに、なにか別の色が見えていた。

「なんだろ?」

行く当てもない妖怪は、興味が出たので近づいた。
近づく途中、夏はあんなに騒がしかったのに、いまはとても退屈だな、とちらりと思う。
ルーミアは基本、キリギリス的な性格だ。

「ふうん」

着地して目の前にあったのは、とてもとても大きな樹。
種類とか名前はよく分からない。
もとよりあまり気にしてない。
ただし、普通とは違っている点がひとつ。
大振りな枝先には、目にも鮮やかな紅葉が繁茂していた。
こんな白い景色の中では、全力で目立つ。
不思議なことに、樹の周辺には雪が積もっていなかった。
枝や葉にも、降り注いでる様子はない。
ルーミアはちょこん、と首を傾げる。
そのまま、じい、っと紅葉を見つめる。
いつの間にか、自分の闇が無くなっていることにも気づいていない。
外の吹雪なんか関係なく、ただ静かなまま、一匹の妖怪と一個の巨木は向き合った。
やがて、なにか納得がいったのか、それとも無言で会話をしてたのか、ルーミアはうん、と頷いて、

「そーなのかー」

感嘆した。
そしてそのままふらふらと、どことも知れない場所に飛んでった。


 ***


同じように黒いもの。
だけれど妖怪でもなければ宵闇も使わぬただの魔女。
霧雨魔理沙は難儀をしてた。
突然の大雪。
それも容赦のない烈風つき。
更に言えばミニ八卦炉は故障中で、暖を取るものもありはしない。
この不思議な紅葉を発見しなければ、きっと凍死していただろうとホンキで思う。

「うう……」

ガチガチガチと歯が鳴っている。
カスタネットみたいだと、一瞬思う。
思ってから私は楽器じゃないぞとツッコミを入れる。
実はまだ余裕があった。
少なくとも、その目の輝きは、まだ爛々としてる。

「しっかし……」

魔理沙は後ろの巨木を振り返る。
不思議だった。
なぜ、ここだけ雪が積もっていないのか。
これほどまでに暖かく、また、寒風が心地よい暖風に変わっているのは何故なのか。
アイテムハンターとしてのアンテナは、敏感にこの樹が『レアモノ』であると告げていた。
職業・魔女。日々精進を積み重ねてなんか絶対無いぜ? と心の中ですら思ってしまう捻くれ者としても興味深い。

「ま、どうせ紫が季節の境界をズラしたとか、その辺なんだろうけどな……」

夢も希望も無いことを言いながらも、魔理沙はペタペタと樹皮にふれる。
まあ、それでも助かったことには違いない。
お礼に、普段であればありとあらゆる検査を施し、目も当てられない姿にしてから、最後にマスタースパークで証拠隠滅するところを特別に見逃してやろうと、寛大な心で頷いた。
ああ、なんて自分は心が広いんだろうか。

「まてよ……?」

ふと思いつく。
目がギラン、と輝いた。

「焚き火って、暖かいよな?」

魔理沙の視線の先では、巨木が幻想の大火に覆われた。
これから実行する予定の、近未来の映像である。

「――うわっぷ?」

途端に、氷雪が吹きつけた。
気づくと紅葉はどこにも無かった。
いつの間にか、魔理沙は氷原で独りぼっちだ。
ほうほうの体で彼女は帰宅した。


 ***


黒い妖精が飛んでいた。
吹く風は冷たさを更に増し、とてもじゃないけど哺乳類は生存できない。
微生物ですら冬眠すると思える極寒。
風は飢えたケモノのように大地を這い、どんなちっぽけな暖かさも喰らおうと、凶暴な唸りを上げている。

「――」

そんな様子を、更に冷たい視線で見ながら、彼女は飛んでいた。
黒い服装は冬の影響を受けない。
あの世の春は、こんな冷たさではない。
むしろ微温いくらいだわ、とすら思う。
リリーブラックは飛んでいた。
目的を持って真っ直ぐに。

狂ったように咲き乱れていた春が終わり。
ひっそりと、けれど例年よりも力強い夏が収束し。
実りと、どこか疲れた様子の秋が過ぎて、ようやく手にした冬休み。
だから、会っておこうと考えた。
きっと春は忙しくて、また会うことはできないだろうから。

そして降り立ったのは一本の樹。
どこか紅葉も弱々しい、一本の巨木の前だった。
リリーブラックは、風雪が消えた空間に眉をひそめる。
外はちょうどいい温度だったというのに、ここには魂魄すら堕落しそうな温もりに満ちている。
あまり長居したくない場所だった。

「フン……」

冷たい視線のまま、歩を進め、彼女はそっと樹を見る。
その枝振りや、枯れたものとは思えない紅い葉の群れを見る。
変わらぬ様子を確認し、ちゃんと健康でいることを認識した時、彼女の心の中で、
ごとり、となにかが蠢いた。
実に不快だった。
まるで、この紅葉のようだ。
白一色で染められている筈の場所に、ただ一色だけ違ったものがある。それが全体の統一を妨げてる。
苛立たしい。
苛立たしいが、それでもこの場を動けない。
紅葉の様子を、その中心をじっと眺める。

「またね……」

ほんの数十秒。
ただそれだけ見てから、きびすを返す。
また元の道のりを引き返す。
長い長い時間をかけて。
苛立たしさなんかではなく、それは『嬉しさ』だってことを、彼女は決して認めない。


 ***


一人の紅白が目の前にいた。
いつ来たのか分からなかった。
幽霊のように脈略のない出現だ。
だけれどそれより、
――珍しく黒くない。
そのことに、紅葉は驚いた。
黒くなければ来てはいけない、別にそんな法則はないのだけれど、ここまで偶然が続いていれば、それはもう必然だと思ってた。
たしかに髪は黒いけど、全体としては『紅白』そのもの。
思わずビックリ。
ほんの僅かに身じろぎする。

(――)

いけない。
彼女が起きてしまう。
こんな瑣事で動揺するなんて、まったく守役失格だ。

長いこと生きているが、これほど長く葉をつけているのは、紅葉としても初めての事だった。
やはり疲れる。
常に力を出しつづけなければならないのだから。
もちろん、これは名誉なことだ。
この疲労ですら素晴らしい。
それは彼女を守っている証である。
我ら植物にとって、これ以上、誇り高い仕事があるだろうか?

「ふうん」

二色の巫女は、ものめずらしげに紅葉を見てた。
雪はもう、一段落している。
冬の峠は過ぎたのだろう。
ほんのりと、期待に似た何か。
力強い何かが、大地の奥から迫りあがろうとしていた。

「魔理沙が言ってたの、ウソじゃなかったんだ……」

はぁー、と両手に息を吹き込んでた。
ワキが丸出しなのは、ちょっと寒そうだと紅葉は思った。

「んー、焼き芋できるほどの落ち葉はなさそうね」

せっかく持って来たのに残念、と呟く。
紅葉は戦慄した。
焼き芋、ということは、やっぱり火を使うのだろう。
あんな大量殺戮兵器を、どうして人は平然と使えるのだろう。
まったく理解できなかった。
ここは公平にする為に、植物も毒ガスを日常的に吐き出すべきではないだろうか?
自らを滅するものが気軽に使われるのは、誰だって気分が宜しくないのである。

ああ、そういえば、あの黒い魔女こそが、その殺戮を行おうとしていた。
あの時は何とか瞬間移動できたが、いまはその体力も残っているかどうか……

「ま、がんばんなさいな」

ぽん、と軽く叩いて、巫女は宙を飛んでいった。
ふわりふわりと浮かぶ様子が、冬の透明な空に揺れていた。

「――――」

がんばれ、と言われた相手――紅葉は、うん、頑張ろう、と思った。
自分の中心で、いまだ眠っている彼女。
我ら植物の待ち望む者。
あの宵闇の妖怪も、「このままだとちょっとタイクツ」と望んでいた。
姉妹である彼女も、直に会えることを楽しみにしていた。
そして、もちろん、紅葉自身も。

声が聞こえる。
寝言なのだろうけど、その時は近いのかもしれない。
ほんの小さな、かすかな声が、紅葉の中で反響してた。
なによりも大切な、彼女の声が――





( ……はーるー、春が来ましたよ〜…………むにゃ…… )













テーマが紅葉なら、やっぱり紅葉がキャラクターとして登場しなきゃ! とか、よく分からん理由で書きました。
リリーネタは、かぶってそうで怖い……
nonokosu
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投稿日時:
2005/10/13 18:37:43
更新日時:
2005/10/16 09:37:43
評価:
28/28
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166
Rate:
1.32
1. 4 流砂 ■2005/10/19 01:23:42
リリーは植物達の人気もの。 どうして紅葉してたのか分からない私は愚かもの。
ともかくとして、雪と紅葉と霊夢の在る風景を想像すると ほぅ ときた。
2. 4 おやつ ■2005/10/19 01:32:08
リリー萌えグッジョブ!
最後まで読んで最初のルーミアとの絡みがやけに印象深くなってました。
3. 4 床間たろひ ■2005/10/19 01:55:56
大切な春を守る紅葉。雪原にて一人、大切な春を守る秋の化身。
吹雪の中に立つ紅葉という幻想的な風景を堪能させて頂きました。
4. 7 MIM.E ■2005/10/19 11:47:57
神秘的で幻想的な謎の紅葉、その正体は!? わくわく読み進みました。
けれど、紅葉が内心あんな事考えていたのがむしろGJ。
それにしても、紫が境界いじるのが夢も希望もない世界な幻想卿が好きだw
5. 10 Q-turn ■2005/10/20 00:09:55
>がんばれ、と言われた相手――紅葉は、うん、頑張ろう、と思った。

葉を落として待ち続けているだけじゃない。望み、葉をつけたまま頑張っている樹木も存在る。
そして、そこまで想われている存在が、確かにそこに存在る。
だから、わたしもただひとつ、「頑張って」と。
6. 7 匿名 ■2005/10/20 01:46:56
締めを踏まえてリリーブラックのところを読み直すと、また違った感慨が抱けそうです。いいよー、いいよー!
7. 7 たまゆめ ■2005/10/20 13:35:48
これはいい黒百合。
短いながらも凝縮されていて、ベネ!
お疲れ様でした。
8. 3 七死 ■2005/10/20 23:51:27
まだ全部読んでませんが、たぶんこのテーマで春の君のネタが被る事等絶対にないに100オーラム。

ただ紅葉さんがなんでリリーの守役になっているのかを、作中でもう少し書いてあげて欲しかった。

求む、キャラクターの確立。
9. 6 papa ■2005/10/21 15:42:41
リリーはこうやって冬を越しているんですね。
ちょっと目からうろこが落ちた気分です。

・・・でも、何で紅葉なんだろう?
10. 4 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 22:56:55
工夫を凝らした印象の展開がgood♪
守りたい気持ちと、愛おしい気持ちが伝わってきたような。
テンポ良く、楽しませていただきました。
11. 8 ■2005/10/23 04:15:12
眠りながらも、自分のまわりの小さな空を見守りますか…リリーらしくていいですね。あと、最初のルーミアのやり取りが実に「そーなのかー妖怪」チックでツボでした。
12. 6 SSを書き損ねる程度の能力 ■2005/10/23 22:13:06
成る程、四者四様の触れ方。
とてもほのぼのとした、一種御伽噺のような印象を受けました。

でも、なんで楓の木にリリーホワイトがいるのか、リリーブラックはどうして外に出ているのかなんて疑問も残ってしまったのが残念です。
13. 5 Tomo ■2005/10/24 12:05:43
樹の視点で語るというのは興味深かったです。最初のルーミアの場面から樹の一人称で統一されていれば、叙述トリックになるのにと思いました。
14. 7 藤村りゅ ■2005/10/24 15:20:04
 アイディアに惚れました。
 黒リリーの性格付けが恣意的でやや気になりましたが、
ラストの締め方が非常にスムーズで心地良かったです。
15. 7 ABYSS ■2005/10/24 19:34:36
む。最後までだまされてた。こういうのもありですね、面白い。
16. 6 銀の夢 ■2005/10/25 10:59:50
『むにゃ』……(*´Д`)
17. 5 木村圭 ■2005/10/25 21:58:14
魔理沙は気付かなかったのかー。というより霊夢が凄いんでしょうね、きっと。
頑張れ紅葉さん。春の訪れは君にかかっているぞ!
18. 5 ■2005/10/25 22:37:05
紅葉視点とはまた斬新ですね。
それぞれのキャラの反応が素直でおもしろかったです。
19. 9 世界爺 ■2005/10/26 00:34:32
意外! それは紅葉の妖ッ!

この話にはやられた。
あんた漢だよ、紅葉の旦那。いや、性別不詳っぽいですが。

『彼』とその『護っているもの』に対する三者三様の反応もらしいなあ、
と頷けるのもまた良いです。でも魔理沙はひどいなぁおい(笑
なんとなく春が待ち遠しくなってしまいました。

ともあれ、御美事でございました。
20. 6 風雅 ■2005/10/28 14:02:37
紅葉そのものがキャラクター、というのはなかなか思いつきませんで。
人間には理解できない感性のルーミアが何だか素敵。
21. 7 名無しでごめん ■2005/10/28 20:16:58
短編ながらお見事です。黒百合さんの箇所で気付かなかった自分は色々と失格でしょうか。
最後、きれいに締めてくれたのが尚素敵です。
紅葉さんの温かみと眠るリリーが、芽吹きを待つ春のイメージにぴったりでした。
22. 5 弥生月文 ■2005/10/28 22:37:40
 
23. 6 IC ■2005/10/28 23:00:01
黒さん登場でああもしかしてと思いましたが、それを抜かせばほとんど思考だの外だった結末。
霊夢じゃないけど応援したくなります。
24. 4 ななし ■2005/10/28 23:10:47
すみません、コメント間に合いません。
25. 2 ■2005/10/28 23:12:47
紅葉が登場しなきゃというその発想が凄い。
26. 7 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:31:27
確かに彼女が眠ってるなら雪も積もらないですね。納得。
冷静に考えるとなんで紅葉の中で寝てるのか気にならないでも無いですが、読み終えた時は気にならなかったので気にせず。
でも黒いのばっかり集まった謎はまだ解けてな……え、謎じゃない?
27. 8 es-cape ■2005/10/28 23:31:51
和む。
どのシーンも、自然と和ませてもらいました。
短めにまとめてあるのでダレないのもいいところ。
特にルーミアと黒リリーで和ませられるなんて、一本取られたって感じです。
暖かいファンタジー、ですね。
28. 7 K.M ■2005/10/28 23:50:13
誰を抱きその木は存在するのか・・・正直、かなり後半まで判りませんでした
色々と努力する木がとってもナイス
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