葉花御伽

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/16 21:40:42 更新日時: 2005/10/19 12:40:42 評価: 21/23 POINT: 113 Rate: 1.25

  
  ・御注意;オリキャラ(妖精さん達)出してしまいました。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

   
































   幻想郷の辺縁にも近く、広がる森は常緑の葉々を湛えている。
  彼方に見える山系は連なって森を囲み、唯一ぽかりと開いた口には川が流れ込む。
  山から下って少し幅広になったかと思えば、やがて流速を緩徐として一面に水が満ちる。
  湖の中ほどには小さな島が見え、そびえ立つのは紅色の館。
  彼の館から見渡せば、己が緑の大海に取り残された気もして心細くなるかもしれぬ、そんな森。
  冬には冠雪を被り、盛夏には青々と繁る。けれど花を咲かせることはなく、秋に色付くこともない。
  そんな中を空飛ぶ人妖が冬の日に眺めてみれば、彼女らは一つのことに気付くだろう。
  森にはぽつりと一ヶ所、黒々と穴が穿たれていることに。
  その正体は、一本の大樹である。
  空をも射抜かんと四方八方に伸ばした枝は、寒気に裸の肌を晒す。
  落ちた葉は、黒く色を変えて床に敷き詰められたままに朽ちていく。
  緑に身を包む周囲の木々とは異なって、大樹の姿は一種異様にも見えた。
  何故此の大樹が寒々しい姿をしているのか。それには、一つの言われがあるのだ。


 
  〜終秋に花を送る〜 



   始まりは何時のことか既に分からない。
  森で一番の大樹には、何時の頃からか一人の妖精が宿っていた。
  彼女は少女の形をしていたが、永らく生きる大樹の力を得たからか強い能力を行使した。
  大火や大風、時には人や妖怪の類。
  森とその木々に害為すものがあれば、彼女は己の能力を使って森を守った。
  彼女にしてみれば己の住処を守ったに過ぎない。
  けれど、他の大樹に宿る精達からは自然と信頼を得ることになる。
  そうして日々を過ごす内、いつしか彼女は多くの精達から姉と呼ばれる存在になっていた。


 
 「お姉ちゃん、お姉ちゃん。おはよーーっ!」
  ある日の朝のこと。
  目覚めた大樹の妖精が姿を顕現させると、そこにはいつもと変わらず多くの精達の姿があった。
  元気の良い挨拶は◎だな、と思いつつも、毎朝毎朝何故これほど嬉しそうなのかは分からない。
 「ん。おはよ、みんな」
  大樹の妖精は片手を挙げて朝の挨拶を返す。
  その間にも多くの精達が詰め寄って来ては、
 「お姉ちゃん、今日は何して遊ぼうかー?」
 「だ、駄目だよ。お姉ちゃんだって、忙しいかもしれないんだから」
 「あー。でも、年中暇そうだけどな」
  などと実にかしましい。
  大樹の妖精は皆の勢いに圧倒されながらも、自然と笑みが零れるのも毎朝のこと。
  ふふ、と微笑みつつ、失礼千万な奴の額には空手チョップを見舞う。ずびしぃっ。
  痛ぅ、と呻いてうずくまった精を横に放って置いて、大樹の妖精は皆に、ごめんと軽く言う。
  すると途端に、えー? なんでなんで? と非難轟々。精達は皆、落胆した様子である。
  その様にあたふたとする大樹の妖精が思うのは、そんなに落ち込まなくても良いのになぁ、との一事。
  慕われるのも大変結構なのだけれど、此処までべったりなのもどうなのか、とも思うのだ。

 「みんな、本当にごめんね。
  今日は昔の友達が来ることになってるのよ。また明日遊びましょ?」
  大樹の妖精の言葉に、多くの者はこくりと頷く。
  むぅと頬を膨らませて拗ねる者も中にはいたが、他の者達の取り成しもあって、やがて精達はそれぞれに遊び始めた。
  その光景を見届けると、大樹の妖精はやれやれと頭を掻く。
  そうして静かに、今日の来客である花の妖精の訪問を待つことにした。


 
 「――アンタには、華ってもんがないわ。分かるかしら?」
  花の妖精の、あまりと言えばあんまりな言葉にも、大樹の妖精は?を浮かべるのみ。
 「そりゃぁ、私はこの木の妖精だしね。花って言えば、あなたの方でしょ?
  年中浮かれ気味の性格とか、まさに適妖適所よね」
  言って、手で樹皮を愛おしそうに撫でる。
  二人の妖精が腰掛けるのは、大樹の伸ばす中でも高所に位置する枝の一振り。
  視線を落とせば、わいわいと遊ぶ皆の姿も見える。
 「浮かれ気味ってなんだーー!? 
  花の世界もキビシイのよ? 近頃なんてミツバチの野郎が非道いんだから。
  滞納して料金払ってなかったら、もう貴方の花粉は運べませんなんて言い出してからに」
 「払えよ。ってか、話がずれてると思う」
  大樹の妖精の言葉に、花の妖精もハッと気付く。
 「そ、そうよ。わたしが言いたいのは、ズバリ。――アンタが地味ってことよ!!」
  びしぃっと効果音も立つ勢いで自信たっぷり、大樹の妖精を指差した。
  
   その指先をしばらく見詰めていた大樹の妖精だが、やがて錆付いた機械の様にぎこちなく動き出す。
  己の着ている服をつまんだり弄ったりして、冷静に観察してみる。
  色。――緑一色に染め抜かれて、柄は無し。うん、普通だ。
  形。――上下の連なったワン・ピース、スカート丈は基本の膝下。ふ、普通だよね。
  髪の毛。――特に気にした記憶がない。良く言えばナチュラル、悪く言えば野生児か。ふつう、かなぁ。
  顔。――お化粧なんてしたことない。方法も知らない、やる気もない。……。
  
 「地、地味かもしれない……」
  うな垂れる大樹の妖精の横、花の妖精は、そーでしょそーでしょと得意顔。
  落ち込んだ所へと、更にトドメの一撃を痛打する。調子に乗らせると性質が悪いことこの上ない。
 「良いかしら? そのままだと、アンタは恋も知らずに消える運命に違いないわ。
  妖命長いけど、まぁとりあえず恋せよ妖娘。って諺もあるくらいだもの。
  ……つまりね。アンタが地味なのは、妖精としての存在意義に関わる重大問題なのよ!!」

   がーーん、と鈍い音が響いた。
  大樹の妖精は完全に打ちひしがれた様子で頭を抱えている。
  据わった眼をして、地味地味地味地味。私は地味。などと呟いている光景は非常に危険な匂いがする。
  その様子に恐れをなしたか、異変の張本人である花の妖精まで、急な用事を思い出したわ。それじゃね!! 
  などと捨て台詞して帰って行った。
  幾ら多年を生きて来た妖精とはいえ、形も心も少女のそれなのだ。
  他人様に地味地味言われた日には、トラウマの一つも作りたくなるのも当然かもしれない。
  今回の件で深く傷付いた大樹の妖精は、その日を境として姿を現すことが稀になってしまったのである。


 
 「お姉ちゃーん、あそぼーよぉー」
  精達は必死に呼びかけるけれど、大樹の妖精は姿を現さない。
  大樹の内に潜んでは、俯き顔で地味地味と一人唱え続けているのに違いない。
 「どうしよう? このままずっと、お姉ちゃんが外に出なかったら困るよ」
  ある精の言葉に、皆がわらわらと集まり出した。
 「もう一緒に遊べないのかなぁ」
  未だ幼さを顔に残す精の一人が、ぐすりと鼻を鳴らす。
  するとそれに慌てたのか、別の一人が言い添えた。
 「そ、そんなことないわよ。
  今までずっと助けられて来たんだし、今度は私達がお姉ちゃんを元気付けなきゃ」
  それだ! と囃す皆の声に、発言した精はえへへと頬を掻く。
  けれども、じゃあ方法は? との段になると、皆うんうんと唸り出して良い方策は見つからない。
 「綺麗なお洋服でも着せてあげられればなぁ……」
  そんな言葉が出たと同時、慌てふためいた様子で森を廻っていた精の一人が駆け寄って来た。
  ぜーはーと切らした呼吸を整えて、彼女は目にしたものを皆へと伝える。
 「大変大変、たいへんよ! 森の中を変な奴が歩いてるの」
   

   
   女が一人、歩いていた。
  手には日傘を差しながら、ふんふんと鼻歌混じりに森を歩く。
  格好は散策にはそぐわないであろう、丈長のスカート。
  けれど不思議なことに、背高い草に地を這う木の根。それらに足も捕られず、すいすいと女は進んで行く。
  通った後を見てみれば、草は腰を折り、根は伸びる先を捻じ曲げる。
  まるで女の進むを邪魔せぬかのように、草木は己の身を処して一本の道を作っていた。
  さらに精達が驚いたことには、女が一歩を進むたびに森は様々に色付いていく。
  秋の日には見られぬはずの花々が赤に黄にと咲き誇り、白の蝶までが何処からか舞う。
  己の指先に蝶を停めると、女は、ふふと微笑んだ。
  蝶の停まる指は尚のこと色白く、けれど微笑む顔は口唇の朱を映して一層に白さと艶を増す。
  その光景に、隠れて見詰める精達は一言も発することができず、中にはぞくりと悪寒を感じる者もいた。
  すると突然、女がくすくすと声を立てて笑い出す。
  何事かと息を呑む精達だが、女は事も無げに言い放った。
 「そろそろ出て来なさいな、貴方達。隠れて覗き見なんて、御行儀が悪いわよ?」


   
   私に何か用かしら、と女は姿を現した精達に問い掛けた。
 「あ、あの。貴方を偉い妖怪様と見込んで、お願いがあるんです」
  精の一人がそう言うと、女はふぅんと一つ頷く。
  手中の扇が作る風に乗り、甘い香が辺りに漂う。そうして女は微笑を崩さないままに言った。
 「良いわ。話してごらんなさいな?」
  
   女の返答を聞くが早いか、恐々と遠巻きに見ていた精達までが口々に訴え出す。
 「あの、あの。私達のお姉ちゃんのことなんです!」
 「また一緒に遊べるようになって欲しいの」
 「近頃すっかりヒキコモリが板に付いちまってさぁ……」
 「原因はたぶん、アレ。花の妖精さんに地味って言われたのがショックだったんじゃないかと」
 「だから、綺麗なお洋服があればなぁって思って。でも、どうすれば手に入るのか……」
 「ぜったい、絶対。花の妖精さんよりも、お姉ちゃんの方が綺麗だもん!」 

   精達のあまりの勢いに、女の不動の微笑にも思わずヒビが入ったようだ。
  口の端を微かに引きつらせながら、あらまぁ、などと呟いている。
 「貴方達の姉とやら、随分と想われているものねぇ。……良いわ。少しだけ手助けをしてあげる」
  我が家の式ももう少し主人想いならねぇ、と小さく言うが、誰も気付いた様子はない。
  女を取り巻く精達は、皆が一様に笑顔を浮かべて、やったやったと大騒ぎ。
  これでお姉ちゃんも元気になるよ、と嬉しそうである。

   けれども精達の浮かれ具合とは異なって、女は少しだけ固い声音で皆に呼び掛けた。
 「ねぇ、貴方達」
  先程まで微笑んでいた目元は少しく険を増す。
  扇はぱちりと閉じられて、視線の先には精達を見据える。
  女は閉じた扇を口元に当てると、にやりと顔を歪ませながら言った。
 
 「――少し寂しい思いをするだろうけど、我慢できるかしら?」 
  
  くすくすくすくす。堪らなく可笑しいといった様子で、女はいつまでも笑い続けた。



   お姉ちゃん、お姉ちゃん!!
  
  明くる日の朝、森に精達の元気の良い声が響く。
 「お姉ちゃん、おはよーー」
 「出て来てよ、お姉ちゃん。一緒にあそぼーよー」
 「今日のお洋服、ぜったい可愛いからーー」
  木の幹へと向かい、口々に大樹の妖精に呼び掛ける。
  精達は大樹を幾重にも取り囲み、己の思う所を只伝える。
 「出て来てくれないと寂しいよ」
  幼き者は、素直な心の内を。
 「まったく心配ばっかり掛けやがってー。早く出て来いっての」
  素直でない者も、秘めたる心の裡を。
  
  言葉に乗せて、彼の人をいつまでもと待ち続けている。

 「どうしたのよ、みんな? 今日は何時に無くしつこいんだから」
  遂に根負けしたのか、大樹の妖精が姿を現す。
  はぁ、と溜息をついて顔色はすぐれない。未だにショックを引きずっているのが目に見えた。
  けれど、そんな大樹の妖精の顔が一瞬にして驚きの色に染まる。
 「ど、どうしたの、その格好?」
  大樹の妖精の驚きも無理は無い。
  精達はかつて森の色を映し、大樹の妖精と同じく緑色の服を身に纏っていた。
  けれど、今。
  ある者は赤く、ある者は黄を差して、その色を変じていたのだ。
  大樹の妖精は、わぁと嘆息と共に鮮やかな色達に目を奪われる。
  すると、精の一人が水を張った桶を掲げ持って言った。
 「お姉ちゃんも、一緒だよ」
  え? と一寸間の抜けた声を発した大樹の妖精だが、水面が映す光景に目を見開く。
  己の服も色を変じている。
  赤を基調として、流れるように黄が混じる。所々に残る緑の斑と共に、渾然一体と鮮やぐ。
  けれども大樹の妖精が真に驚いたのは、己のことではない。
  勢い良く身を翻して己の背後、大樹があるべき方向へと向き直った。

 「信じられない……」
  彼女が目の当たりとしたのは、常緑を湛えていた大樹の変容。
  あまねく伸ばした、枝に枝。
  幹を基に別れに別れ、多くの枝の更に先。それこそ無数と形容すべき、葉と葉と葉と葉。
  赤に、黄に、朱に染まり、微かに残る緑とも絡み合う。
  大樹は様々に色を内包し、そして一個の色を織り成す。
  根の先より続く葉脈が力強く波打ち、木と葉々とは互いに固く手を結び合っていた。

 「お姉ちゃん、あそぼ!」
  精の一人がそう言って、大樹の妖精の手を取る。
 「う、うん」
  未だ何処か躊躇いがちに大樹の妖精は頷くが、返事を契機と皆が駆け寄る。
  ある者は腕につかまり、別の者は胴に抱きつく。
  寂しかった、と。でも元気になって良かった、と口々に言う。
  そうして大樹の妖精は、皆に手を引かれて一歩を踏み出す。
  
  今日は何して遊ぼうか? そんな声が聞こえた。
  
  それじゃあ、明日はどうしよう? 別の声が答えた。
  
   手に手を取って歩いていく精達の真ん中、大樹の妖精にもいつしか笑顔が浮かんだ。
  風は何時の間にやら冷気を含み、秋は徐々に深まっている。
  けれど、今この時だけ。彼女達には関係のないことかもしれない。
  皆の笑い声が和を成して、風へと乗って辺りに響く。
  赤黄に色づく大樹とともに、森の一角がにわかに華やぐ。
  誰も彼も、心は浮かれて落ち着かない。
  そうしてふわふわと夢でも見るような心地のまま、大樹の妖精は思っていた。

  ――ずっとずっと、こんなに楽しい時間が続けば良いのに。

  そんな、叶うべくもないことを考えていた。



   人の都合も妖怪の思惑も知らず、季節は只在るがままに廻る。
  いつしか秋の日々も終わりに近づいて、森もやがて来る冬の気配を濃厚に感じさせている。
  特に早朝の冴えた空気はぴんと張り詰めて、立つ音を余すことなく拾い集める。
  静寂の森の片隅、かさりとでも物音がすれば、たちまち森中に知れ渡ることだろう。
  けれども今朝は様相が異なる。
  あるべき森の静寂は打ち破られて、一ヶの音声が響き渡っているのだ。

  うわあぁぁん
  
   悲しげな泣き声だけが響く。
  両手で顔を覆い隠して目をこする。
  微かに伺える目元は赤く赤く腫れ上がり、彼女が長い時間泣き続けているのを示している。
  これは幻。次に目蓋を開ければ、きっと消えている幻に違いないんだ。
  そう言いたげに、彼女は何度も何度も、恐々とした様子で指の隙間からそっと眼前の光景を見る。
  けれど、その度に。
  絶望の金切り声を上げ、拭っても拭いきれずに零れ止まない涙が滂沱と落ちる。
  髪を掻き毟り、口元は何か呟くように小さく動いている。
  嫌。嫌。嫌嫌嫌、いやだよ。うわ言のように繰り返すけれど、誰に聞かれるでもなく言葉は消えていく。
  なんで? どうして? 虚ろな瞳が問い掛けるが、答える者など何処にもない。
  昨夜までは、あんなに楽しく過ごしていたのに。
  楽しい楽しい夢を見て、ふと冷たい風に目が覚めた。
  眠い目をこすって辺りを見渡すと、もう誰もいなくなっていた。皆が皆、消えていた。
  けれど皆が消えたというのは、彼女の都合の良い考えに過ぎない。
  皆はいる。昨日の通りに、彼女――大樹の妖精を囲んでいる。
  けれど、それは既に大樹の妖精の望むような皆の姿ではなかった。ただ、それだけの話。 

  ――死色。

   大樹の妖精を取り囲むのは、一面の黒色。
  落葉達はかつての色を失して、今は只の黒へと成り果てた。
  背後に佇む大樹の枝は裸を晒し、風が吹き抜ける度に、ひゅうと悲しげな音を立てる。
  大樹の妖精は独り、森にぽかんと開けた黒の中で泣き続けた。


   
  ――しゅるり。
  
   大樹の妖精の眼前、空中に一本の線が引かれる。
  黒々と浮かぶ線がもぞと波打ったかと思えば、音も無く真円を空間に開け放つ。
  禍々と穿たれた『それ』の内、ざわりと何か蠢く音がした。

   初めは、その手。
  黒い円から突き出した、一本の生白い腕が中空を泳ぐ。
  頭が見える。
  帽と長い髪とに顔は隠されて、表情を伺うことはできない。
  身体が抜け出る。
  とすんと小さく音をさせ、少女が地へと降り立った。
  想像するよりも小さな体躯。
  ふるりと頭を振るわすと、金色の髪が艶やかに舞う。
  薄紅の映える口唇は微かに歪み、彼女が笑むのを示している。
  けれど、その表情。その瞳。
  妖しく微笑むその様は、少女というよりも、むしろ女のそれである。
  驚きに呆と佇む大樹の妖精を見て取ると、女は一層に笑みを増す。
  そうして、女は静かに話し始めた。

 「どうしたのかしら、お嬢さん。泣いてばかりでは身体に毒よ?」
  くすくすと笑う女の声が気に障ったのか、泣き腫らした顔のままに大樹の妖精は怒りの表情をつくる。
 「みんな。みんな、いなくなっちゃたのよ! 
  何処へ行ったの? あんたに分かるの? 知ってるなら、とっとと教えた方が身の為――」
  掴み掛かろうとする大樹の妖精の手を、女はぱしりと受け止めた。
 「あら、何を言ってるのかしら? ……皆、貴方の傍に居るじゃぁないの」
  言われて、大樹の妖精は愕然とうなだれる。
  分からなかった訳ではない。事実を直視したくなかっただけなのだ。
  うぅ、と呻いたかと思えば、目には再び大粒の涙が浮かぶ。
  嫌なものは見たくない。悲しいものは見たくない。
  葉々は地に落ち、黒へと朽ちた。かつての緑は果てて終わった。
  大樹の妖精は顔を覆って泣き出そうとするが、女はそれを許さない。
  女は手を掴んだまま、言葉を放った。
  
  良く見なさい、見ておきなさい、と。

 
 
 「貴方の為に咲いた葉達。貴方の為に散った仔達」
  
  女は静かに地へと膝をつく。
  両の手で黒を優しく掬うと、青く臨む空へと向かって高く高く掲げる。
 
 「だから、こんなにも可憐に。だから、これほど清らかに」
  
  手のひらから、ぱらり、ぱらり。風に乗って、黒が舞い散る。
  ひゅうと浮かんで、流れて褪せる。
  やがて地へと落ち果てて、もう見分けがつきはしない。
  そこに誰がいたのかも、もう既に分かりはしない。
 
 「それなら、今は。――あの花達を葬送りましょう?」

   

   冬枯れた大樹の上空、柔らかな陽射しが差し込んで地を照らす。
  黒き葉々は朝露に濡れて、その身をきらきらと輝かせていた。
  大樹の妖精が零した涙の一粒一粒も、その中へと解けて混じって。
  もう、誰にも分からない。   






  ――季節というのは、巡り巡って廻るもの。
    まぁ、春にまた会ったなら。礼でも言っておくことねぇ。  
SSコンペ初参加で緊張しまくっております。
脳内が三割増くらいでメルヒェンなのは、そのせいに違いないのです。
ヘタレな自分としては、無事お祭りに参加できて良かったなぁ、と。
駄目な所やら粗やらオリキャラやら、叩けば埃の出るSSですが、どうかご勘弁を。

あー、他の人のを読むのが楽しみだー。
匿名希望。
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2005/10/16 21:40:42
更新日時:
2005/10/19 12:40:42
評価:
21/23
POINT:
113
Rate:
1.25
1. 3 おやつ ■2005/10/19 12:35:57
素敵なお話だったです。
秋の綺麗な紅はその後に寂しい冬があるからこそ映えるのかもしれませんね。
2. 6 床間たろひ ■2005/10/20 02:30:23
ふぅー痺れた。ひさしぶりに紫らしい紫を見た気がする。
八雲一家のほのぼのも好きだが、あらゆる事象を俯瞰で眺める紫も好き。
そのどちらの魅力を併せ持つのが紫の魅力。

ただ出来れば大樹の精霊をもう少し掘り下げて欲しかった。彼女と紫の
対比こそが、この作品の肝だと思うが故に。
いや、地味な外見は好きですよ?
3. 8 MIM.E ■2005/10/20 08:04:59
童話のようなストーリー、好きです。
妖怪は紫でしょうか? 春はまた巡るにしても彼女のとった解決策は気の聞いてる部分と残酷な面がありますね。そういった得体の知れなさに死神のようなイメージを抱きました、それは妖精たちがあまりにも純粋で無邪気だから。
最初幽香が出るのかと思ってドキドキしたのは内緒だ!そっち系で力押しで解決する話も見たいとか思いましたw

4. 7 papa ■2005/10/21 16:21:05
これはとてもメルヒェンですね。
紅葉して終わり、冬が来るその境界でこんな物語が展開されているとは。
ちょっと感動です。
5. 2 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 23:22:21
主眼がオリジナルキャラなのですが、その割には読みやすかったような。
オリジナルキャラだと、彼女たちが”何者であるか”が分かり辛いので、
その分損してるかなぁ。
6. 7 匿名 ■2005/10/23 04:08:41
これもまた世の理といったところでしょうか。
7. フリーレス 名前は無し ■2005/10/24 01:28:07
メルヒェンは時に残酷。
それも容赦なく。
美しい花はあっという間に散り、実は鳥に啄ばまれ、美しい紅葉もすぐに地面にとけてしまう。
それでも春はやってきて、そして花をつけ、実り、枯れ……
なんてなことを想いました。
そしてまた、そんな風に容赦ないからこそ、「何も知らずに幸せだった時」が輝くのだなあ、と。
それも、当事者にとっては酷ではあるのでしょうけど……
8. 5 Tomo ■2005/10/24 12:00:32
お話は面白くて構成も整っていると思います。ただ、オリジナルキャラクターの特徴が簡潔に表現されていないため、全体的にぼんやりとした印象になっているのが惜しまれます。
9. 5 藤村りゅ ■2005/10/24 15:27:40
 オリキャラ云々に気を遣い細かい描写を切ったためなのか、展開として分かりづらいところがありました。
 また、紫がただの悪役になっていたような気もします。最後の台詞があっても、結局は葉を付けるかは分からないというホラー。
 ああ、そういうところが妖怪っぽいのか。
10. 7 木村圭 ■2005/10/25 21:54:39
ゆかりんがどこぞの嗤うセールスマンより性質が悪い半詐欺師にしか見えんのですが。
怖いよゆかりん黒いよゆかりん。戯れにこんなことしそうだから本当に怖いです。
結局ずっと誰とも会えない黒い木の下で、大樹の妖精は何を思う?
あれ、どうなんだろう? 春になった時に別の緑色の妖精がいっぱい生まれてきたのかなぁ?
唐突にカミングアウト。我が家の式も〜まで幽香にしか見えませんでしたorz
11. 2 ■2005/10/25 22:54:59
話自体はおもしろかったのですが、東方SSという観点で見るともう少し東方キャラが欲しかったです。
あと皆がいなくなってしまった理由もよくわからなかったです。紫が何かしたのでしょうが、もう少し説明が欲しかった
12. 7 世界爺 ■2005/10/26 00:38:57
ゆかりんはどうしてこういう役回りが似合うのか。
グッド悪役。いやまあ悪役というのとは違いますが。

求めるのであれば、それと同じ分を失わなければならない。
等価交換。残酷な摂理。だから彼女は引き換えられた。

でも、春になればまた会えるのかも知れない。むしろそうなって欲しい。
そんなことを願いつつ、読了。
13. 7 ■2005/10/27 12:29:15
何度でも、季節が来るたびに巡り合えますとも。ええ。
14. 1 風雅 ■2005/10/28 14:10:04
葉花御伽(10)
 何の先入観もなく読むと自分好みっぽいのです。
 が、お題ありの東方SSコンペという点を考慮するとどうしても厳しく言わざるをえません。
 まず、私はオリジナル要素は別に嫌っているわけじゃありません。
 が、この話では東方という要素が殆ど消えてしまっている気がします。
 もう少し東方らしさを意識したほうがいいでしょう。
 そして何より、読んでもお題である「紅葉」というイメージが伝わってこない。
 少なくとも私が覚えているのは紅葉の色ではなく「黒」です。
 もしこのお題が設定されていなければもう幾らか点数を付けたと思います。

 念のため、叩いているわけじゃないのです。
 「ここがこうなら……」と歯噛みしながら読んだくらいですから。
 是非今後も書き続けて頂きたい、応援してます。
 長文大変失礼でした。
15. 3 七死 ■2005/10/28 22:05:11
慣れない内からオリキャラを使うのは諸刃の剣。
まず原作の理解から進める事をお勧めします。

ハッピーエンドなのでしょうが、そうはあまり見えない所がまず一番の改善要求点ですね。
16. 3 ■2005/10/28 22:06:42
ゆかりんワルいなぁ。最初ゆうかりんの方が適任かと思ったけど、それだといたずらじゃなくていじめになっちゃうか。
時折、場面転換の際にキングクリムゾンが発動して(過程の省略。具体的には『花の妖精の訪問を待つことにした。』や『そんな、叶うべくもないことを考えていた。』の後)テンポが崩れているように思います。そういう演出法があるのも確かですが、できる限りしっかりと書き込んだ方がいいでしょう。
17. 5 弥生月文 ■2005/10/28 22:47:41
どんどん葉が黒くなって、妖精たちが消えていくシーンを書いたほうが悲壮感が強くなってよかったかも?
……この辺は好みによるでしょうかね。
18. 5 ななし ■2005/10/28 23:12:43
すみません、コメント間に合いません。
19. 8 IC ■2005/10/28 23:23:43
すれ違いが生んだ悲劇…やっぱり悲劇ですよね、これ。
いろいろと思うところはあるわけですが、春に巡りあう精たちが、変わらぬ彼等であることを祈って。
20. 9 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:36:26
春夏秋冬巡り廻る。幻想郷式御伽噺、堪能させていただきました。
春をあえて書かず冬で話を終えるのもまた良し。
ただ、ゆかりんじゃなくて幽香だった方がらしかったかもしれません。
後、最初に語られたように「由来」の話であることを最後に再度言及した方がいいような気もするんですが、今の終わり方も素晴らしいだけに難しいところ。
21. 8 es-cape ■2005/10/28 23:49:11
後味悪っ。

紫様の好感度大幅ダウンで悪のカリスマアップアップ。
邪悪です。
何が邪悪って、紫よりも作者様が邪悪。
魔神に不相応な願いをして、結果的に不幸になるお話は確かにメルヘンにありそうですが。
願っていない者が不幸になるってそんな。フォローがないなんてそんな。
でもまあ……こんなものなのですね、願いって。虫のいいこと言ってんじゃないよ、と。
22. 5 K.M ■2005/10/28 23:57:41
冬の離別は春の再会のために
悪役っぽくなってる妖怪さんですが、それもまた良し
23. フリーレス 匿名希望。 ■2005/10/30 14:18:11
ここにレスをして見てくれる方が居るかは分からないのですが、
賛否様々下さった皆さんに、無上の感謝を。

個人的なテーマは「ゆかりんと陰惨な美しさ」だったりします。
ラストシーンから逆算して全体を作った典型的なものだと思います。
東方の「らしさ」が薄れてしまったのは二次創作として最も恥じるべき所。猛省です。
けれど、それもひとえに自分の力量不足が故。
なにせ「らしさ」とオリキャラを両立させる作者さんが一杯いるのですから。
……味付けが薄味なのは、「オリキャラ恐い」の印象が強いのでー。とか言い訳してみます。

紫様を悪者にするつもりはなかったのです。本当です。誰か信じてー。
お題に関する指摘もその通り。
一番印象に残る色が「黒」では……嗚呼。

技術的なことを指摘してくれた方も本当に有り難いです。
なかなか一人では上達が難しいもので。コンペという場に感謝。

ともあれ読んで下さった方、感想を下さった方にもう一度だけ感謝を。
これを機会にもっと向上したいものです。

……踏まれて踏まれて泥にまみれて。
それでも秋の名残を留めてくれる、葉っぱに捧げるお話でした。
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