秋は夕暮れ

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/17 12:22:11 更新日時: 2007/02/15 20:42:39 評価: 24/24 POINT: 153 Rate: 1.42



「ここも異常なし、っと。いや、異常なのかな? まぁどっちでもいいか」

 一日かけて幻想郷中を見て回り、最後に立ち寄った竹林の前で肩に担ぐように持っていた大きな鎌を下ろすと、自分もその場に腰を下ろした。
 普通に考えてみればこれは異常な事なのだろう。
 だがしかし、こんなにも自分にとって有難い異常なのならば、黙って見過ごすのもまた一興。

「なにより、これなら四季様にまた長い説教を聞かされる事もないだろうし」

 今頃は頬杖をついて、ハムスターが回す滑車を緩みきった笑顔で眺めているだろう上司を思い出しながら、手に持っていた小さな包みを紐解いていく。
 中から出てきたのは林檎……ではなく、なんの変哲もない握り飯が二つ。
 死神だって腹は減る。減るらしい。そしてこの包みの中身はちょっと遅めの今日の昼飯だった。
 死神だからって林檎ばっかり食べてると思うなよ? とは彼女の弁である。

「それでは、いただきま──」
「小町! 何処に行ったのかと思えば、貴方はまたサボっているのですか」
「きゃん! ……って、お前はいつかの人間じゃないか」

 突然背後からかけられた声に、座ったまま一尺ほど飛び上がってしまった小町が振り向くと、そこにはいつもと同じようで微妙に違う白黒の服を着た少女が一人。

「へへ、どうだ? 中々そっくりだっただろ?」
「あまり驚かさないでくれよ。あたいだってまだ三途の川を渡りたくはないんだ」

 声をかけてきたのが意中の人物ではなくてよほど安心したのか、はぁぁぁぁ、と大きく息を吐いて座りなおした。
 そうして再び手元の包みに手を伸ばす小町の背後から、魔理沙が「いつも渡ってるじゃないか」とつっこんだが、そのつっこみも小町の「あーーー!」という叫びによってかき消されてしまった。

「ど、どうした!?」
「あたいの……お昼…ご飯」

 魔理沙が肩越しに覗き込むと、なるほど、小町の手の上に広げられた包みの上には何もなかった。
 そして小町のすぐ前には、握り飯が無残にもその白を土に汚していた。
 考えなくても直ぐに解る。先ほど飛び上がった拍子に落ちてしまったのだろう。
 涙目になって無言の抗議をする小町に気付いた魔理沙がうっと後退ったが、取り繕うように引きつった笑いを浮かべると、

「そうだそうだ、私はこれから紅葉狩りに行くところだったんだが、よかったら一緒に行くか?」
「……紅葉狩り?」
「他の奴らが食い物も持ってきてるだろうからな。飯をダメにした代わりと言ったらなんだが、味は保障するぜ?」

 流石にそこまでしてもらうのは悪いと遠慮していた小町だったが、それでも腹はぐぅ、と主の返答に意義を唱えた。
 口ではなんと言おうと、体は正直なものである。

「決まりだな」

 にっと笑って魔理沙が箒に飛び乗った。
(こうなっては仕方がないか、まぁ何か食べれるのならそれに越した事はないし)
 などと思いつつ小町が置いてあった大鎌を肩に担いで後に続こうとしたところで、魔理沙が訝しげな顔をして言った。

「何してるんだ? 早く乗れよ」
「乗るって……その箒にか?」
「他に何があるんだ? 集合時間はとっくに過ぎてるからな。もたもたしてたら宴が終わってしまうぜ」

 確かに魔理沙の方が飛ぶスピードは早い。
 それならお言葉に甘えようかと後ろに跨った小町が「宴ってなんだ?」と聞いたが魔理沙はそれには答えず、小町が座ったのを確認すると「しっかり掴まってろよ」と言うやいなや、一気にトップスピードで飛び上がっていった。

「ちょ、ま! 速すぎ! 速すぎーーーー!」
「まだまだ飛ばしていくぜーーーーーーーー!」




    ※ ※ ※



「到着ーっと、どうした?」
「いつも……あんな…スピードで……飛んで…いる……のか?」
「何言ってるんだ。そんな訳ないだろ」

 そうだよな、と魔理沙の返事に幾分ほっとした小町だったが、完全に三半規管が狂ってしまったのか、地面に降りてからも中々真っ直ぐに立つ事ができない。

「今日は二人乗りだったから、安全運転でかなり抑え目だったぜ」


 ぱたん。


 あ、倒れた。




    ※ ※ ※




 三十秒後、魔理沙に引きずられていた小町は、目を覚ますと同時にその手を振り払い、自分の足で立ち上がった。
 土に汚れた服をぱんぱんと払いながら抗議の声を上げたが、魔理沙は笑ったまま謝ろうともしなかった。
 もういっそ自らの手で上司の元へ連れて行ってやろうかと、自慢の大鎌を振り上げたところで、

「ほら、見てみろよ」

 振り向いた魔理沙が指差す先を見ると、そこには黄色くなった芝生と、一見無秩序に見えるが、自然の作り出した絶妙なバランスで生え揃っている紅葉の紅。
 ……と同時に、いつか見た人間やら妖怪やらが束になって騒いでいる、そんな光景だった。

「どうだ? たまにはこんなのもいいだろ」
「……紅葉狩りはどこに消えたんだ?」

 目の前に広がる光景に唖然とする小町の隣で、魔理沙はからからと笑っていた。

「いいんだよ、とりあえず“紅葉”って言っとけば」
「???」
「魔理沙ー、そんな楽屋ネタ暴露してないでこっちに来て呑もーぜー」

 誰も彼もが騒ぎ合っている中、その中心にいた萃香に呼ばれて魔理沙は「今行くぜ」と、その輪に向かって駆け出そうと一歩を踏み出したところで、足を止めて振り返った。

「なにしてるんだよ、お前も行くぞ」
「え? お、おい、楽屋って何──」

 目を丸くしたまま立ち竦んでいる小町の手を引いて、もう一度、今度は止まることなく目の前で騒いでいる輪に向かって駆けていった。
 それから先はもうそれこそ紅葉狩りなんて言葉はどこに消えたのか、呑めや歌えやのどんちき騒ぎ。
 最初こそ遠慮気味に隅の方で咲夜の特製料理をつついていた小町だったが、魔理沙と萃香に煽られて呑み進める内に次第に酔いが回ってきたのか、今では率先して皆の中心で「四季様の嬉し恥ずかしハプニング集 -私生活編-」などと銘打った暴露話を声高らかに、それはもうべらべらと喋っていた。
 その場にいる誰もが小町の話に笑い、手を叩く。
 そんな状況下で一体誰が気付けたというのだろうか。
 いや、一人だけ気付いた者がいた。
 後に彼女は語った。

「あれは人間でも妖怪でもありませんでした。修羅……そう、そこには修羅がいたのです」

 当時の事を思い出したのか、話す彼女の体は震え上がっていた。むしろ若干溶けていた。所詮Hよのう。

 そんな話はさて置いて。

 身振り手振りを交えて面白おかしく話す小町に、回りの連中ももうボルテージは最高潮。私、今ならニュートラルから4123692+BCだって出せるかもしれない!

「断言する! 私はこれを本にしよう! これを知らずにいて何が善行か!」
「ほう……それは一体どんな本になるのでしょう?」
「そりゃあもう! 烏天狗と共謀して今まで溜めに溜め込んできた四季様のあられもない姿を収めた写真をふんだ…ん……に……?」

 なにか後ろからもの凄く冷たい空気が漂ってきてるのに気付いた小町が、ギギギ、とネジのきれかかった人形のように首を後ろに向けた。
 後に彼女は語った。

「い、嫌だ! あたいは何も見てない! 見てないんだぁっ!」

 否、語れなかった。

 そんな話もさて置いて。

「小町、貴方とは一度ゆっくりと、ゆーーーーーーーーーーーーーーーーっくりと話をする機会が必要なようですね」
「四……季…………さま?」

 小町が振り向いた先には、満面の笑みを振りまく映姫が立っていた。
 あぁ、仏の笑顔ってこんななのかな。きっとそうだよね、三蔵法師だってこんな顔して悟空の頭の輪っかを……あれ? もしかしてあたい大ピンチ?
 あは、あはは、と引きつった笑いを浮かべる小町とは対照的に、映姫はにっこりと微笑んだまま微動だにしない。

「四季様! これには訳がぼあっ!?」

 決死の弁明を試みる小町。
 だがしかし、そんな弁明の第一声が発せられるよりも前にその体は弾丸ライナーで場外ホームラン。
 皆が飛んでいった小町を追っていった視線を戻すと、そこには笏を振りぬいた格好のまま佇む修羅が一人。

「……閻魔より鬼の方が似合ってるんじゃないか?」
「容赦ないわね……」
「閻魔様がハムスター……」
「あの赤毛、大丈夫なのか?」
「あのスイング……間違いないわ、彼女こそ──」

 そんな囁きが聞こえたのか、映姫は振りぬいた笏を収めるとぽかんと自分を見つめる輪の前へと歩み出た。

「貴方たちも貴方たちです。以前にも言いましたが、人間と妖怪というものはですね──」

 だがしかし、映姫は気付いていなかった。
 背後から忍び寄る一つの黒い影に……。
 その影は説教を続ける映姫のすぐ背後にまで迫ると、ゆっくりと両手を上げ、せーの、とでも言わんばかりに一気に飛びついた。

「ひぁっ!?」
「まぁまぁ、そう固い事言うなよ。お前さんも折角来たんだ。そら呑んでけ呑んでけ」
「こら、離れなさい。私はお酒を飲みに来たのでは──んぐっ!?」




    ※ ※ ※




「くぅ〜、四季様も容赦ないなぁ……。ってちょっと待て。あいつらまさか四季様にお酒なんて!」

 大急ぎで小町が場に戻ってくると、連中が綺麗に並んで座って、その前に映姫が立っていた。
 心なしかその顔はほんのりと朱に染まり、一昔前の生活指導部の教員が竹刀をそうしたように、笏をぺちぺちともう一方の手に叩いていた。

「あぁ小町、ちょうどいいところに帰ってきました。貴方もそこに座りなさい」
「……遅かったか」
「それと、今まで溜め込んだ写真とやらは全部没収です」
「え! えぇぇぇぇぇぇ!」
「何か?」
「いえ、なんでもありません……」

 全てを悟ったかのような小町が大人しく座ると、映姫はざわめきたつ連中に向かって「貴方たち、よく聞きなさい!」と声を張り上げると共に、とりあえずレーザーを乱射してみた。うん、レベル16がかわいく見えるな。
 正直言って避けれる気がしません。それが全員の意思であり、意見だった。ならば取る行動はたった一つ。

「え? ちょっと、なにを!」

 そして全員に盾にされて黒コゲになった美鈴が崩れ落ち、これ以上は堪らんと思った魔理沙たちが渋々座り直すと、映姫は「それでいいのです」と頷いた後に持っていた笏をびしっと前に突き出した。
 人を盾にするのがいいのかよ、と漏らしてしまった蓬莱人Cは、その後二回ほど焼き殺された。

「人間と妖怪が一同に会して戯れるなど言語同断! いいですか、これ以上このような事を続けるというのならば、わたちは貴方たちを皆地獄へ──」

 目を瞑っていつもの説教モードに入った映姫は、酒の所為で早くも呂律が回らなくなっていたのか、自分の口から出た言葉に気付いて固まった。
 まだ気付けただけ、そこまで酔いが回ってはいなかったのだろうか。だが止めてしまった事が命取りだったとは本人も気付いていないだろう。
 映姫が恐る恐る目を開けて自分の周りを見渡すと、そこには自分を見る目、目、目、目、とりあえずたくさんの目。
 それと一緒に聞こえてくるのは。

「わたち」
「わたちだって」
「閻魔様がわたち……」
「わたち……ねぇ」
「……これは強力なライバルの登場だわ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「あ、逃げた」

 目尻に涙を浮かべて頭のてっぺんから足の先まで、全身を真っ赤にした映姫が一本の紅葉の木の後ろへと駆け込んでいく。
 っていうか、四季映姫ってあんなにちっちゃかったっけ?
 そんな事を思っている内に、何故か幾分ミニサイズになっておられる四季映姫・ヤマザナドゥ様が顔だけをひょっこりとお出しになられた。
 暫く目を潤ませたまま口をぱくぱくとさせて何かを言おうとしていたが、ぎゅっと目を閉じて目尻の涙を振り飛ばすと、

「ばかにするなぁっ! 閻魔様なんだぞぉっ!」

 さて、これはいかがなものか。
 その場に居合わせた全員が呆然と立ち尽くしているではないか。
 今まで座っていたはずなのにわざわざ立ち尽くしているではないか。
 いや、解る。解るよ? あたいも初めはそんな反応だったさ。
 だがしかし、このまま放っておいてはえらい事になってしまう。
 それみろ、年mスキマ妖怪が涎をたらしてじわじわ近寄っていこうとしているじゃないか。
 つーか止めろよ狐。
 あ、メイドが倒れた。大丈夫か、その鼻血の量。おい医者はどこだ、医者は。ああもうお前でいいよ薬師。ってお前は何を持っているんだ。ビデオカメラ? そんな物幻想郷にあったのか?

 とりあえずこのままではいけない。
 少なくともスキマ妖怪の毒牙にかかるのだけは御免だ。
 薬師よ、後でその映像あたいにも焼き増ししてくれ。

「あー……ほら皆、四季様はああなると聞かないんだ。あたいがなだめておくから、どうか宴に戻ってくれないか。否、戻れ」

 言っても聞きそうにないので、巫女にそっと耳打ちしてみた。

「ほら皆! 戻りなさい戻りなさい。さっさと戻らないやつは順番に無想転生喰らわすわよ!」

 地獄の沙汰も金次第とは正にこの事だな。ってちょっと待て。それなのか? 本当にそれなのか? 実は後三人姉妹が居たりするのか?
 まぁ結果としてこの場が収まったのだから深くはつっこまないようにしておこう。
 どっちにしても、他の連中のあの怯えようを見ているとつっこむ気にもなれないが。

 さて、と小町が振り返ると、映姫は相変わらず顔を半分ほど出したまま涙目でこちらを睨んでいて、木の陰から出てくる気配はなかった。
 ふぅ、と一息ついてから飛びっきりの笑顔。これなら大丈夫だろう。

「ほら、四季様。皆行ってしまいましたからもう大丈夫ですよ」

 諭すように柔らかい声で話しかけると、映姫も納得したのか、しかしまだ不安そうにおずおずと一歩ずつ確かめるようにその姿を現した。
 そしてそれまで向かい合っていた小町は、木に片手をついて立ち尽くしている映姫の隣まで行くと、くるりと回って木の幹にその背を預けた。

「座りませんか?」

 問いかけはしたものの、小町は返事を待たずに腰を下ろした。
 暫く迷っていた映姫も、こくんと頷いて、しかし返事を声に出す事はなく、ゆっくりと座り込んだ。
 そのまま二人、無言のまま小町は空を眺め、映姫は終始俯いていた。

「まぁ、失敗なんて誰にでもあるものですよ」
「……慰めなんていりません」

 返事が来るとは思っていなかったのか、小町が少し意外そうに映姫を見たが、その顔はまだ俯かせたまま。
 それでもその反応に幾分気をよくしたのか、小町はんーっと伸びをして、もう一度その背を幹に傾け、頭もこつん、とつけて少し上を見る格好になった。
 再び訪れる静寂。そよ風が二人の頬を撫で、落ち葉をカサカサと運んでいく。

「なんだかこうしていると、昔を思い出しますね」
「……私は忘れました」

 そうですか、と小さく笑う小町はその時の事を思い出しているのか、見上げるその目は浮かぶ雲よりもずっと先を見ているようだった。
 そのまま何も言わない小町に、映姫が俯いていた顔を上げてその横顔を見る。

「私は今でも覚えていますよ。それこそ、四季様が初めてここに来た時の事だって」

 遠い空を眺めたまま、小町が静かに言った。
 それにつられるように、映姫もまた彼方の空を見つめた。








『貴方が新しくここの担当になった閻魔様?』
『は、はい。四季映姫といいます』
『四季様ですか。あたいの名前は小野塚小町。大丈夫。案内役も長いことやってますから、安心してどっしりと構えて待っててくださいよ』
『あ……はい、私もまだ見習いから上がってきたばかりなので、その、こちらこそよろしくお願いします。えと……小野塚さん』
『はは、そんな呼び方しないでください。小町でいいですよ』
『じゃあ、小町……さん?』
『……まぁ気長にいきましょうか』








『……ち……まち!』
『……ふぇ?』
『小町! 大丈夫ですか!?』
『え、あれ……四季様!? あ、わ、わわ私は別にサボってた訳じゃありませんよ? ちょっと寝転がってたら日差しが気持ちよくてそのままなんて──うわっと?』
『小町……よかった。貴方がずっと来ないから、私……』
『えー……あー……す、すいません』
『無事でよかった……』
『えと、あの、その、あー、やっとさん付けがなくなりましたね』








『……暇ですねぇ』
『私たちが暇だという事は、それだけ世の中が平和だという事なのですよ』
『そんなものですか?』
『大きな戦も起きていない。流行り病も無い。来るのは老衰で死んだ者たちばかり。世が安定している証拠です』
『何事も無く死んだ年寄りはあんまり面白い話が聞けなくて、私はつまらないですけど』
『小町……貴方はそんな事を考えていたのですか!』
『きゃん!』








『小町、私は今のままでいいのでしょうか?』
『どうしたのですか? 突然』
『私の所に来る魂を裁き、地獄や天界へと送る。それに不満はないのです。ただ……』
『ただ?』
『最近はあまりにも地獄行きになる者が多すぎる』
『それは……仕方がないんじゃないですかね? 最近の外の人間たちは私たちのような者の存在なんてすっかり忘れて、何をしても死ねば極楽浄土に行けると思っている連中ばかりですし』
『確かにその通りですが、私もなにも好き好んで地獄行きを命じている訳ではないのです。できる事ならばもっと多くの魂に良い死後を送ってもらいたい』
『……四季様は優しいんですね』
『な、ななな何を言っているのですか! 今はそういう話をしているのではありません!』








『四季様、なんかハムスターが迷い込んでいたのですが』
『なるほど。渡しなさい』
『え?』
『貴方に任せていては世話もサボってしまうでしょう?』
『それはそうですが……って、そうじゃなくて、飼うんですか?』
『何を言っているのですか。その者はこれまでに救いようのない大罪を犯しています。このままでは地獄行きは免れない。しかし、私の下に来るというのならば話は別です。そう、残りの生を私の下で過ごす。それが今のその者が積める善行なのです』
『……飼うんですね』
『善行なのです』








 どんな場面を思い出していたのだろうか、小町がくすっと笑った。
 そして今度は空の彼方ではなく、目の前に広がる幾重にも重なった紅葉に目を向けた。

「赤って言うとどうしても自分の髪とか彼岸花が先に思い浮かんで、正直もう見飽きたと思ってったんですけど、この世界にはもこんなに綺麗な赤もあったのですね……」
「zzz……」
「あれ、寝ちゃいましたか」

 小さな寝息と共にもたれかかってくる四季の頭を肩で受けながら、小町はもう一度空を見上げた。

「四季様……そう、貴方は少し働きすぎる。今日はしっかりと息抜きをすること。これが今の貴方が積める善行ですよ……なんてね」

 視線を落とせば、そこにはまた何事もなかったかのように騒ぎ合う人間と妖怪の集まり。
 人間だって妖怪だって、騒ぎたくなる時くらいはあるだろう。

「たまにはいいんじゃないですか? こういうのも」

 遠き山に日は落ちかかり、秋の空はいよいよ赤く染まりだす。
 その中で、芝は黄金色に染まり、紅葉の紅は一層紅く。
 そんな赤と紅の世界に染められた映姫の寝顔が、偉大な閻魔様でもなく、口煩い上司でもなく、一人のあどけない少女のそれに見えて、小町はそっとその頭を撫でた。








 ……っておいそこの薬師! なにこんなとこまで記録してやがる!
 なんだその憎たらしい微笑みは! くそ……って四季様、いつの間にそんながっちりホールドオンミー!?
 お前は地獄行きですぅって、なにその可愛いけどHIDOI寝言! しかも「ですぅ」かよ! おのれはオッドアイの翠色した人形かあああぁぁぁ!
 ちくしょう! エイリィィィン! そいつをよこせええええぇぇぇぇぇぇええ!





















 // 翌日 //


「はぁ、昨日は霊が来なくなったと思ったら、今日ははまた大賑わいだな。一体どうなってるんだ?」
「小町! 貴方はまたこんなところで遊んでいるのですか!」
「きゃん! ……って、そう何度も同じ手にかかると思っているのか?」

 ちっちっち、と人差し指を振りながら振り返ると、

「あら、四季様……今日は大変お日柄もよく……」
「えぇ、よく晴れていますね。こんな青空の下、絶好の仕事日和だとは思いませんか?」
「そうですね……これだけ晴れていれば、昼頃には絶好の昼寝日和に……」
「小町!」
「きゃん!」

 飛び上がるよりも早く、映姫の笏が小町の顔面をクリーンヒット。
 そのまま押し込まれるように座らされた小町に向かって、映姫は実に嬉しそうに咳払いを一つ。

「あ〜……四季様、申し訳ありませんがあまり怒鳴らないでもらえますか? 昨日の所為でまだ頭が痛くて……」
「昨日? そういえば貴方は昨日もまったく仕事をしていませんでしたね。一体どこで何をしていたのですか」
「え、えぇっ!? 四季様、昨日の事……覚えていらっしゃらないんですか?」
「何を言っているのですか。そんな事を言って自分の過ちをはぐらかそうとしても駄目ですよ。いいですか小町、貴方はそもそも死神としての自覚が──」
「そ、そんなぁ〜」
「小町! 聞いているのですか!」
「ひ〜〜ん」


はぁ……まったく、ひどい目にあったよ。
でも待てよ? 四季様が昨日の事を覚えていないという事は……!
そうだ! こまっちゃん特製丸秘四季様アルバム・その@〜Cはまだこの引き出しの中に!


ガラッ!



つづかない



少々補足を
>四季様過去話
ふと逆○裁判の話が出て、四季様にも見習い時代とかあったら……とか妄想してたらあのように。
だが後悔はしていない!
>エイリィィィン! そいつをよこせええええぇぇぇぇぇぇええ!
元ネタは攻殻機動隊です。
何個かある小ネタの中で、これだけはあまりにも解り辛いと思ったので。


11/07 追記
いい加減時効だろうと思い、名前晒しと共に、コメントをくださった方々へのレスを。
長くなってしまったのでCoolierのうpろだの方に上げさせていただきました。
掘り出していただければ幸いです。
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2005/10/17 12:22:11
更新日時:
2007/02/15 20:42:39
評価:
24/24
POINT:
153
Rate:
1.42
1. 5 おやつ ■2005/10/20 17:21:09
やっぱり四季様は幼女がデフォか……
お姉さんなこまっちゃんと本当に幼かった頃の閻魔様にほのぼのしました。
おだいしょうかが非常に力技なのもワロス!
2. 7 床間たろひ ■2005/10/21 02:36:52
映姫様と小町の関係、色々妄想できますねぇ
何つーか、主人の方が弄ばれ属性なところが。

最近この二人のSSを見る事が多いせいか、二人の株がニョキニョキと上昇中
ですよ。特にえーきたん。

がんばれ! おろろん閻魔ちゃん!
3. 6 papa ■2005/10/21 17:48:23
小町が先輩風で映姫さまが後輩風というのはなかなか新鮮なものですね。
でもすぐ逆転するのは小町の小町たる所以なんだろうか?
4. 7 MIM.E ■2005/10/22 18:58:29
永琳最高だw
小町や四季様の関係も楽しくてよかったです。
全体的にギャグが面白かったのですが(つーかこののりは大好きだ)
残念に感じたのはギャグが一つ一つはぶっ飛んでいてよいのですが
方向がばらばらでストーリーの速度を切るように感じられたところです。
どうせならキャラをもう少ししぼってもう少し濃くてはじけたノリを見せてもらいたいです。
なんか、お茶目な師匠が俺の中でデフォになりつつある…
5. 3 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 23:35:22
わたち、にやられました。
説教癖を巧い具合に処理されてますね、感心。
6. 7 匿名 ■2005/10/23 20:22:23
GJです。
ほのぼのしてていいなあ。
7. 6 Q-turn ■2005/10/23 22:19:35
その暴露本ってなんてタイトルですか?
これは是非とも予約しなければっw
8. 4 Tomo ■2005/10/24 11:52:22
きゃん。幻想郷の雰囲気のまま、外の世界の小ネタが出てくると違和感があります。小ネタが出てきても違和感のない雰囲気を作り出す工夫が欲しいと思いました。
9. 6 藤村りゅ ■2005/10/24 15:37:48
 ネタ(半分くらい)被っちゃったよ!
 でも面白いからいいです。
 幼児化は行き過ぎかなーとか思ったりしましたが、可愛いから許す。

 二次具合はこっちの方が強いですね。幼児化のあたりとか。
 似たようなテーマでも、書く人によって違うという良い例だと思います。
 確かに、小ネタは分かり辛い部分が多々ありました。
 あと、紅葉ダメじゃん……。
10. 8 銀の夢 ■2005/10/25 10:41:39
これと逆パターンのお話が創想話にありましたが、映姫様が新任で小町が古株というのも素敵な在り方かも知れないな、と思いました。
ほんと、萌えさせていただきました。良い仕事です。
11. 9 木村圭 ■2005/10/25 21:51:00
くぁぁ、何て脳内イメージと合致する小町&映姫なんだ憎いぜあんたがよぉ!
もうどうしようもないくらいに同じです。妄想してたSSが一つ消滅の危機。
だってこれ以上のものなんて書ける自信が無いんだもの。
いじけるのはいいとして、ちっちゃくなったのが残念。あれさえなければ全会一致で十点だったんだけどなぁ……。
12. 5 ■2005/10/25 23:24:58
四季様かわいいなーw
おもしろかったです。
13. 8 世界爺 ■2005/10/26 00:44:41
閻魔様を萌え化するという神も恐れぬ所業ッ!
そんな貴方に私は言葉を送ろう!
LUCK……これに一文字加え、PLUCKッ!
幸運とッ、勇気あれッ!

……いやまあ、もらっても困りますか?(何
ともあれ、ハムスターながめてふにゃふにゃしたり、台詞かんだり、
木の陰に隠れて「ばかにするなぁっ! 閻魔様なんだぞぉっ!」とかのたまったり、
これはどこのパーフェクト幼女ですかといわんばかりの可愛さ加減。
花映塚で見せたカリスマは何処へいった。これが実は素なのか。そうなのか。

何はともあれ、小町の語りと共に笑ったりじんわりさせて頂きました。
14. 9 ■2005/10/27 13:47:30
GJ!GJ!GJ…っ!(鼻血の海の泥濘の中でぶんぶんと手を振っている)
ところで、映姫様のレーザーを全部受け止め切った美鈴って、やっぱり紅魔館最強の盾なんですね(棒読み)
15. 7 流砂 ■2005/10/28 02:52:50
引き込む力があった分、冷める所もあったかも、その後またすぐに引き込まれましたが。
テンポもいいし面白かったです、ただネタを全部理解できたかあやしいのが残念。
16. 7 七死 ■2005/10/28 12:22:55
閻魔様が見ていると言う名の話を思いついた。
いつのまにかホラー小説になった……。

見事なまでにストーカー化しちゃう閻魔様かわいいよ閻魔様。
17. 4 風雅 ■2005/10/28 14:17:40
「いいんだよ、とりあえず“紅葉”って言っとけば」に苦笑。
こじつけるのもありだとは思いますが、いっそお題なしに投稿という方法もあったと思います。
閻魔様が小町より後から着任っていう設定は新鮮ですね。
彼女も最初からあんな説教くさかったわけでは……あるかもなあ(笑)
18. 5 偽書 ■2005/10/28 16:37:59
とりあえず“紅葉”って言っとけば、ってところで、おいこら、とか思ったとか思わなかったとか。
所々に織り込まれた小ネタが面白い。小町のキャラ立てが巧いと感じました。
19. 8 名無しでごめん ■2005/10/28 20:31:49
こまっちゃんが年上っぽいのも、また良いものですね。
どうしても先に読んだSSと重ねてしまうのですが、お見事でした。
じぃっとハムスターを見詰める映姫様を想像して、何とも言えずほのぼの。
20. 7 弥生月文 ■2005/10/28 22:58:23
>「いいんだよ、とりあえず“紅葉”って言っとけば」
ここまではっきりと開き直られると却って清々しいなぁw
21. 8 K.M ■2005/10/28 23:05:01
ブレイクスパイラル発動可能なテンションとか北斗神拳究極奥義使える巫女さんとか
ある意味禁断の楽屋ネタとかの小ネタもGJだったのですが、
何より翠星石チックな小さい閻魔様が私のツボにクリティカルヒットしました
・・・小町、大丈夫だろうか?そして薬師は映像をどうしたんだろうか?・・・気になる
22. 5 ななし ■2005/10/28 23:15:03
すみません、コメント間に合いません。
23. 6 IC ■2005/10/28 23:40:38
こまっちゃんの方が先輩だというのは新鮮です。
ってか、今でも映姫は見た目幼稚園児だったりしますか。確かにResultの映姫は園児服に見えますが。



つづけ
24. 6 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:42:39
ザナたぁぁぁん! こっちにおいでええええぇぇぇぇぇぇええ!
……いかんいかん、取り乱してしまいました。
ギャグの多い中にちょっぴり混じったほんのりした展開がいいアクセントになってると思います。
ただ、前半部分が尺のわりに詰め込みすぎてる感あり。要素を削るかそれぞれの要素をきっちり書き込むかしたほうがいい気も。
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