現代の狩り

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/17 20:07:50 更新日時: 2005/10/20 11:07:50 評価: 28/28 POINT: 192 Rate: 1.50


このところ、妖夢の様子がみょんだった。
いえ、妖夢はいつだってみょんだけど、そういう事では無いの。
言ってみるなら、プチ落ち込み状態というところね。

あれは半年ほど前だったかしら。
幻想郷全土で巻き起こった花騒動に、妖夢は積極的に首を突っ込んでいったわ。
結果、得たものはというと、閻魔様からのお説教。
それ以来、私と妖夢が顕界に下りることは殆どなくなっていた。
でも、もともと余り出歩かない私はともかく、妖夢には些か堪える事態だったみたい。
日頃、変化の少ない生活をしていたものだから、あちらでの出来事が楽しくて仕方が無かったんでしょう。
聞き流せれば良かったんでしょうけど、根が真面目な妖夢には無理な問題だったのね。

ま、それはおいおい解決するとして、今の妖夢に必要なのは、気晴らし。
秋もたけなわということで、少し風情でも感じさせてみようと思ってみた訳。
私と二人というのが代わり映えしないけど、白玉楼で鬱屈としているよりは余程ましでしょう。




「妖夢、今日は紅葉狩りに行きましょう」
「はい?」
「時間は……そうね、お昼時が良いかしら。それまでに支度なさい」
「はあ……分かりました」

それだけを言い残すと、そそくさと屋内へと戻る。

……振りをして、影からそっと様子を窺う。
妖夢は返事をした瞬間から、ずっとフリーズしている。
どうやら予想が当たってしまったみたいね。
え? どんな予想かって?
それは勿論、紅葉狩りとは何なのかが分かっていないんじゃないかという懸念よ。
あの子の日常を簡潔に言い表すなら、一に家事、二に修業、三四が無くて、五にみょん、
というくらい偏っているのだから、紅葉狩りなんて風流なものは知らなくても無理は無いでしょう。
だったら最初から説明してやれって?
いやいや妖夢。
ゆとり教育も良いけれど、それと甘やかすことは同意義では無いわ。
そこで私はあえて心を鬼にして突き放してみたという訳。
誰かに言われてやるのではなく、自分で考えて答えを出す事から人は成長して行くのよ。


……でも、もしも妖夢が、素直に私に聞いてきたら、どうすれば良いのかしら。
突き放す?

『紅葉狩りを知らないですって!?
 この白玉楼に、そんな無知で蒙昧な輩を置いておく訳には行きません。即刻退去なさい!』

駄目、駄目よ。
そんな事をしたら、私の食事は誰が作るのよ! 私のデザートには誰がなるのよ!
……もとい。
無知は罪とは言うけれど、退去処分に科すほどの罪では無いはずよ。
まあ、あの子はああ見えて、それなりにプライドを持っているから、その線は薄いでしょう。多分。



一番在り得るのは、間違った答えを持ってくるというパターンでしょうね。
苺狩りや葡萄狩りと同じように考えて、籠と高枝切り鋏を準備してくる姿が容易に想像できるわ。
その時には、どういう対応を取るべきかしら。

『嗚呼、私の育て方が間違っていたのね……こうなっては是非も無いわ。
 妖夢、私と一緒に三途を渡りましょう。はい、六文銭よ』

だから駄目だって。
そもそも育てた記憶なんて無いし。
昨日の晩御飯すら覚えていない私が言っても説得力に欠けるけど。
……あれ? 
すると、妖夢は誰が育てたのかしら?
妖忌?
でも、あの爺様は放任主義を通り越して放置主義が似合うような輩だったわね。
すると……。
……いけない、考えては駄目よ幽々子。
毛皮を纏い、穴倉で肉を齧る妖夢の姿なんて幻視してはいけないわ。
それはそれでワイルドで萌えるなんて間違っても思っていないわ。
過去の事はどうでもいい、大事なのはこれからなのよ。
そう、これから……。
振り出しに戻ってしまったわね。


「……あれ?」

気が付くと、妖夢はもういなかった。
ああ良かった。どうやら答えが見付かったようね。

いいわ、妖夢。
たとえ貴方がどんな用意をしてこようとも、嬉々として受け入れましょう。
それが私に出来るただ一つの思いやりですもの。







「幽々子様、支度が整いました!」


予定の時刻ぴったり。
満面の笑みを浮かべた妖夢が、私を出迎えた。
否、満面の笑みだろうと推測できる。としか言えない。
準備を終えたという妖夢の姿は、私の想像から355度ほどずれていた。
要するに、ズレにズレた結果、ほぼ一周して予想通りに収まったという意味だけど。

でもね、妖夢。
少なくとも紅葉狩りにマクシミリアン式の甲冑を着込む必要性は感じられないの。
というか、何処からそんないかめしい代物を見つけ出してきたのかしら。
きっと延々と考え込んでいる内に、紅葉狩りから紅葉の二文字が何処かへと吹き飛んでいってしまったんでしょうね。
それにしたって、狩りにフル・プレートメイルは必要無い気がするけれど。
背負った長弓は、那須与一が愛用したアレかしら。
扇を出したら、問答無用で打ち貫かれそうね。
今日は、口元を隠すのは止めにしましょう。

「……幽々子様? 如何なさいました?」
「あ、いえ、何でも無いわ。ご苦労様、妖夢」

いけない、反射的に返してしまったわ。
これでもう間違いを指摘することは出来ないわね。
風流とか優雅とか、そういった類のものがガラガラと崩れ去っていく様が感じられるわ。

「ええと、馬の準備は出来たのかしら」
「はい、こちらに」

びっくり。
やけっぱちで言ってみただけなのに、本当に用意しているなんて。
その行動力を少しでも思考に回せないものかしら。
妖夢が連れて来たのは、いかにも名馬然とした白馬だった。
もっとも、ここにいるということは馬の亡霊なのだろうし、そもそも私に馬の良し悪しなど分からないけど。

「これはまた勇壮な駿馬だこと」
「はい。『的盧』なる名前らしいです。庭で草を食んでいたところを偶然発見致しました」

よりにもよって、それを選ぶか。
馬のほうも、二千年の時を経て紅葉狩りに狩りだされるとは、思ってもいなかったでしょうね。
「祟らないでね?」
一応言っておく。
亡霊に言われたくは無いだろうけど。
「おう、任せろ」
しゃべった!?
……ま、良いわ。
というか、もうどうでも良いわ。
跨った後も、主の悪癖について愚痴っているような気がしたけれど、私は一切合切無視した。

「妖夢、槍を持ちなさい!」
「はっ、ここに!」

やはりというか、妖夢は本当に槍を用意していた。
赤と言うには余りにも鮮烈な色使いをした、十尺を由に越える長大な代物。
根元の部分には『ぐんぐにる』と名札が付けられていた。
だから、本当にどこから持ち出したのかと。
問い詰めたい。
小一時間問い詰めたい。
お前、グングニル言いたかっただけちゃうんかと。
まったく、あの吸血鬼もどういう管理をしているのかしら。
流石、脳が無いと豪語するだけはあるわね。
……とても他人の事は言えませんけどね、ええ。


「では参りましょう殿!」

きらきらと瞳を輝かせつつ、妖夢が言い放つ。
……いえ、ギラギラのほうが正しいかしら。
誰が殿やねん、とは突っ込まない。
思えば既にこの時点で私は妖夢時空に囚われていたんでしょうね。
だって、殿って呼ばれて、悪い気分じゃなかったんですもの。

「うむ! 紅葉という紅葉を屍へと還してやろうぞ!」
「はっ!」

某吸血鬼ご自慢の槍を片手に、鐙を蹴って馬を走らせる。
名馬だけはあって、乗り心地は実に快適だったわ。


流れる雲、色づく木々に、飛び交う小骨。
そんな景色を見ていると、ぐだぐだと考え込んでいたのが馬鹿らしく思えてきた。
紅葉狩り。
そう、これは狩り。
日本語は正しく使わないといけないわ。
だから、私と妖夢は紅葉を狩る、ただそれだけで良いのよ。

野山に分け入り待ち受けるのは、怪人ヒトデンジャーか、超肉体を持ったマッド医師か。
はたまた薄幸のおかっぱ頭の少女か。
そのイメージが少し妖夢に似てないことも無いと思ったけど、直ぐにそれが誤りだと気が付いたわ。
だって、私がこんなに幸せなのに、妖夢が薄幸である筈が無いじゃない。


「ようむーーーーーーーーーーーーーーーー!」


馬を走らせながら、名前を叫ぶ。
意味なんて無いわ。
ただ、呼びたかっただけ。


「ゆゆこさまぁーーーーーーーーーーーーー!」


阿吽の呼吸で返される叫び。
被っている鉄仮面のせいで若干くぐもってはいたけれど、それでもはっきりと耳に届いた。


「ようむーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「ゆゆこさまぁーーーーーーーーーーーーー!」

「ようむーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「ゆゆこさまぁーーーーーーーーーーーーー!」


秋の色が濃くなった冥界に、私達の呼び声が、いつまでも響き渡っていた。
















「……って事があったのよ」
「……」

思わず紫は頭を抱えた。
話を締めくくった幽々子は、満足気に微笑むと、山のように積まれた饅頭へと手を伸ばしている。
一応、ヒロシマという所の名物であるとは言ったのだが、
幽々子にとっては饅頭であるかどうかだけが重要だったらしい。
山だったはずのそれが、ありえない速度で丘から平地へと変化して行く。
が、頭を抱えた理由はそれではない。
幽々子の食欲が旺盛なのはいつものことだから。

「どしたの、紫?」
「あのね、幽々子。
 別に、貴方達が幸せならばそれで構わないと思うの」
「ええ、幸せよ」
「……でも、ね。でも、一つだけ言わせて頂戴」
「なに?」

頬に餡をくっつけつつ、上目遣いに覗き込む様は、まこと愛らしい。
が、紫の目にはそのような幽々子の姿など入っていない。
今の彼女を支配するのは、ただ一つの本能。
誰もが持っておりながら、誰もが表には出すまいと努力し、また極一部の人間は積極的にさらけ出そうとするもの。
まこと扱いに難しいのだが、これが無くなると世界は崩壊する。
幻想郷をこよなく愛する紫が、この本能に従ったのは当然の事だろう。



「なんでやねん!!!」



人はそれを、ツッコミと言う。

これはひどい冥界組ですね。
名前は忘れた
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最新
投稿日時:
2005/10/17 20:07:50
更新日時:
2005/10/20 11:07:50
評価:
28/28
POINT:
192
Rate:
1.50
1. 5 おやつ ■2005/10/20 18:05:40
こういう吹っ飛んだギャグを扱えるテンポとリズムが素敵です。
一気に読んで笑わせてもらいました。
頑張れゆかりん!
こいつらは唯の冥界組みじゃないぞ!!
2. 6 床間たろひ ■2005/10/20 23:28:00
「ようむーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「ゆゆこさまぁーーーーーーーーーーーーー!」

紅葉まんじゅう吹いた。和洋中折衷の勇ましい狩人達でした。
3. 9 たまゆめ ■2005/10/21 10:15:36
これはひどいうつけ者たちですね。
・・・・・・・なんでや、ねーん!!!Σヽ('∀`ヽ*)
おつかれさまでしたーー!
4. 7 papa ■2005/10/21 17:49:32
心の底から笑いました。
こんな天然な妖夢もたまにはよし。
5. 4 おビールをお持ちしました ■2005/10/22 01:22:33
まったくですね。
どこから突っ込んでいいのかわかりゃしません。
6. 5 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 23:36:26
お館様〜っ!
幸村〜っ!
…という幻視をしてしまったのは私だけでいい。
7. 8 匿名 ■2005/10/23 20:44:12
アホだ! 阿呆だ! すっごくA-HOだ!
そしてそんな筆主様が大好きです!!
8. 6 Q-turn ■2005/10/23 22:31:39
つまり全くつっこまず、むしろのりにのったゆゆ様は本能に縛られない、理知的なお方だということですね。
9. 4 Tomo ■2005/10/24 11:51:37
みょん。書き出しはすごく良いし、発想も面白いと思います。場の空気の作り方に一工夫あるとネタが引き立つのではないでしょうか。
10. 10 藤村りゅ ■2005/10/24 15:39:05
 これはひどい紅葉狩りですね。

 最後の台詞が全てを物語っています。
 もはや隙なし。全てがボケ、全てがノリ。
 まさに妖夢時空。

 ……。

 なんでやねん!(つっこみたかったらしい)
11. 7 es-cape ■2005/10/25 02:43:31
うつけものめ!
12. 10 MIM.E ■2005/10/25 09:23:29
お前最高だ
13. 9 木村圭 ■2005/10/25 21:50:30
これは賑やかで楽しそうな冥界組ですね。
ってなんでやねん!!!!!!!
14. 6 ■2005/10/26 00:14:40
これはおもしろい冥界組ですね。
もう途中からノリが……ww
15. 6 世界爺 ■2005/10/26 00:45:14
たまらぬバサラであった。
そしてフルアーマーダブル妖夢のトびっぷりが素敵。
ああ、こういう勘違いが面白すぎる。いいぞもっとやれ。
16. 8 銀の夢 ■2005/10/27 10:21:18
ゆゆ様一人称のナイステンポなノリツッコミ、そして諸所のネタに爆笑w
そしてとどめの紫様に万歳w お見事でした!
17. 9 ■2005/10/27 13:54:08
…いや、狩りの準備をして来るとは思いましたけどさ。よりにもよって的盧ってあなた!それにグングニルって!激しく突っ込みながら大笑いさせて頂きました。それと、幽々子様が妖夢のペースにのまれるとは実に珍しい…素敵だした。
18. 5 流砂 ■2005/10/28 02:57:36
ネタが分からないー、至極残念。 分かればもっと楽しんだろうなぁ。
19. 7 美鈴まさき ■2005/10/28 03:24:22
 ここまで崩れると、いっそ清々しく思えてきました。
20. 10 七死 ■2005/10/28 12:14:02
いい! ただひたすらにいい!
こういう脱線型の妖夢大好き!
あとがきの無責任っぷりも大好き!
やっぱりみょんはこうでないとねw
21. 5 風雅 ■2005/10/28 14:18:33
溜めに溜めて後書きで一番吹いた……というのは失礼かな(笑)
妖夢は素直に相談できなさそうなタイプですよね。
で、一番外れに近いものを選ぶと(笑)
22. 6 偽書 ■2005/10/28 16:38:34
デザートには誰がなる、って。このゆゆさま酷すぎだー。しかしここまで愉快な妖夢を見るのは結構珍しい気も。
――そして、空飛ぶ小骨を幻視(違
23. 7 名無しでごめん ■2005/10/28 20:32:10
腹を抱えて笑いました。
まさか東方で某戦国アクションネタが拝見できるとは夢にも思わず。
冥界組を当てはめて脳内で再生してみたら、腹筋が攣った。
24. 1 ■2005/10/28 21:58:33
ゆゆこさまぁーーーーーーー!
伏兵には気をつけてーーーー!
25. 10 K.M ■2005/10/28 22:42:37
「秘境異次元ごっこ」を会得してるっぽい妖夢とか
抑制役の皮被ったボケボケの幽々子様とか
劉備(?)について愚痴る的盧とかも良かったのですが
最後の紫様があまりにも最高すぎますw
・・・ところで、薄幸のおかっぱ頭の少女とはもしかして「楓」のことですか?
26. 6 弥生月文 ■2005/10/28 22:58:55
>「おう、任せろ」
>しゃべった!?
が凄いツボでしたw
あとこれ狩りじゃないよ! 殲滅戦だよ!!w
27. 8 IC ■2005/10/28 23:41:24
だめだ、ニヤニヤが止まらない。
ただ一つの突っ込みでこれだけ笑えるとは想いませんでした。
28. 8 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:43:04
きみはじつにバカだな。……いえ、もちろんほめ言葉ですよ?
ワイルダネスな妖夢の幻視あたりからもう笑いっぱなし。ご馳走様でした。
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