過ぎ行く季節と散らせた過去

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/18 10:28:51 更新日時: 2005/10/21 01:28:51 評価: 25/25 POINT: 148 Rate: 1.33
 
「あー、もう秋なんだなあそういや」
 
 箒に乗って遙か上空、いつも通りの歩いてない空中散歩。
 眼下に広がる、赤や黄色に色付いた葉。すっかり紅葉の時期だ。
 というか、こうしてみて初めて秋を実感しただなんて……我ながら、しばらく研究に没頭しすぎていたか。
 
 秋は綺麗で楽しいから好きだ。もっとも私は、春も夏も好きなのだが。
 食べ物の美味しい季節だし、涼しくなって過ごしやすい。普通の私は香霖と違って、夜長に読書も当たり前。
 それにもちろん、こうして紅葉を楽しむことだって、だ。
 
 ただまあ、私こと霧雨魔理沙の楽しみかたは少々他と違ってたりする。
 
「せっかくなので、ってやつか。ま、遊べる時に遊ばないとな」
 
 予定を変更。
 速度調整、急加速、急降下。紅葉した木々へと一直線。
 赤い黄色い葉という葉を撒き散らして、突っ切る。
 
 ……ひゃっほう!
 
 一旦、空へと飛び出し、また急降下。
 一陣の風となり駆け抜ける私。背後を振り返れば木の葉の乱舞。
 それはさながら弾幕ごっこの如く。
 こういう視界で遊べるのは、この季節しかない。
 
 
 暫く飛び回っていると、少し開けた場所に出た。
 丁度いいので箒から降り立ち、休憩。
 いつの間にかあっちこっちにくっついた葉っぱもそのままに、うーんと伸びをしてひっくり返る。
 払い落としはしない。あの速度の中くっついてきたなんて根性ある奴だしな。
 そんな「戦友」と共に、小春日和の暖かな日差しの中、昼寝でもしてしまおう。
 そう、思っていたのだが。
 
 
 ……広場の中央、大きな大きな楓の木が視界に入った。
 
 ちくり。
 不意に、胸が痛む。
 
 ……へえ。
 こいつは随分と、立派な楓だぜ。まるで実家の、あの大嫌いだった楓のようじゃないか。
 嫌なことを思い出す。せっかく紅葉狩りを、楽しんでいたというのに……
 
 
                  *                  *                  *
 
 
 ひらひら。ひらひら。窓の外。
 お庭の大きな楓の木が、真っ赤になってひらひら、ひらひら。
 ちっちゃな頃から見慣れてるけど、でもやっぱり、綺麗だなあって思う。
 まるで真っ赤なお星様が、どんどんどんどん降ってくるみたいで。
 
 でも、もう降らないで欲しい。
 あれが全部散っちゃったら……また冬が来ちゃう。
 寒い冬が来ちゃう。
 寒いの、いやだ。
 だからもう、それ以上降らないで……
 
 ……あ、お母さんが呼んでる。早く行かなくちゃ。
 
 
 
 また、お父さんお母さんに怒られた。
 何で出来ないんだ、お前も霧雨家の娘だろう。
 そんな風に言われたって……私は、一生懸命やってるのに。
 なのに出来ない、どんなに頑張っても出来ない。
 特に氷の魔法が苦手。どんなにやっても手のひらぐらいの大きさしか作れない。
 光の魔法のほうが、まだ得意なのに。
 
 ……また、涙が出てきた。
 泣いちゃいけないのに。泣いたらまた、怒られるのに。
 
 涙を拭いて、また窓の外を見る。
 ……もう、かなり散っちゃった。真っ赤なお星様は、あとほんの少し。
 
 きっと、あれが全部散っちゃったら、寒い冬が来ちゃうんだ。
 そしたら今度は雪が降って、また外で練習させられるんだ。
 雪と氷の魔法を。
 出来るまで、家に入るなって言われて。
 
 いやだ。
 なんで、何で散っちゃうの……散らないでよぉ。
 秋を終わらせないでよ、降らなくていいよ、綺麗でもいやだ、真っ赤なままでいてよ。
 ちっちゃな頃からお願いしてるのに、どうして、どうして…………
 
 
 ……あんな紅葉、きらいだ。
 
 
                  *                  *                  *
 
 
(そう、だったよなあ……昔は紅葉なんて、だいっ嫌いだったっけ)
 
 起きあがって、木の葉の舞い散る楓の木をじっと見上げる。
 脳裏でダブる、過去の記憶。
 あの頃、冬が来るのが怖いあまり、私は紅葉を嫌っていた。
 過ぎ行く秋の象徴のような、庭の大きな楓の木を。
 
 まあ……実家にいた頃のことなど、苦い記憶ばかりなのだが。
 
 代々が魔法使いの家系、霧雨家。
 それなのに私はおちこぼれ、学べど学べど魔法は身に付かず……父と母は、そんな私に実に冷ややかな物だった。
 今思い返しても、優しさがあったのか疑問だ。折檻すらも、珍しくなかった。
 紅葉の記憶など、言ってしまえばそんな中での断片に過ぎない。
 しかし断片でも感情は感情だったらしい。それはしっかり焼き付いて、離れなかった。
 実家を飛び出し、魅魔様に師事した後も、しばらくは。
 
 
 どうして紅葉は、散ってしまうのか。
 なぜ、あんなに寒い冬がやってくるのか。
 
 答えが知りたくて、ある時魅魔様に尋ねてみた。
 しかしお師匠様は、そんな私に答えなど示してはくれなかった。
 
『なんだ、魔理沙は楽しくないのかい?
 色とりどりの葉を楽しみ、秋の美味い食べ物に舌鼓を打って、月見酒。
 冬は冬で確かに寒いが、だからこそ熱燗が美味い。
 移ろいゆくから楽しめるんだよ、魔理沙。移ろわざる悪霊の言う事じゃないかも知れないがね。
 植物だって、ああやって色付いたり散ったりしなきゃ、疲れてしまうのかも知れないだろう?』
 
 ただ、教えてくれただけだった。
 ……そう、楽しめばいいのだと。
 
 
 そして私は、変われた。
 
 魔法の使い方を覚えた。学び方、ではなく。
 笑い方も物事の楽しみ方も覚えた。さらに霊夢という友人兼ライバルと出会って、勝負の楽しさをも覚えた。
 変わるついでに口調まで変えてみれば、ものの見事に世界の見え方さえ変わってしまった。
 寒いのが苦手なのだけは変わらなかったが……着込めばいいのだ。大したことではない。
 
 何のことはない。
 私は実家はとうに捨てたのだ。ならば、いつまでも引きずられなければならない道理など無い。
 散りゆく紅葉もいっそ散らせて楽しめばいい。
 それにようやく気づいて……そして、現在に至るのだ。
 
 
 ……気が付けば夕暮れ。なんだかいろいろと、思いを馳せてしまった。
 大きな楓は「あの木」のように、真っ赤に色付き葉を散らす。
 綺麗だぜ、それだけだ。もはや胸の痛みなど無い。まあ昼寝はし損ねてしまったが。
 仕方がない。このまま霊夢のところにでも、行くとしよう。
 
「よ、っと」
 
 立ち上がり、箒にまたがり、狙いをつける。
 ――目標! 前方楓の木へぎりぎり掠める!
 さあ飛ぶぜ、長年連れ添う愛用の箒で、全速!
 
 
「――行くぜ!」
 
 
 
 
 余談。
 
「よーぅ霊夢、遊びに来たぜ。晩飯まだか?」
「あら魔理沙、っていきなりたかる気満々かあんた。
 っていうか何よそのかっこ。葉っぱ一杯くっつけて」
「たかるのはお互い様だと思うけどな。
 ちなみにこれは見ての通り紅葉狩りだ。大猟だろ?」
「本当に狩ってどうすんのよ。てか珍しく掃除したばかりなのに葉を散らすな」
「いや珍しいのかよ。まあきっと事実だが。
 ……ああそうだ、霊夢。なんで秋になると紅葉するんだろうな? お前わかるか?」
「なんだかずいぶんと音速が遅い質問ね。
 そんなのは……」


「当たり前じゃないの。
 春に芽吹いて夏に生い茂って秋に散って冬を過ごす。あんたの大好きな『普通』でしょうが」
 
 
 ……ほんと、そうだよな。
 お前ならそう言うと思ったよ、霊夢。
テーマは紅葉、と。秋といえば冬の先触れ。
ところで魔理沙は冬が苦手だったよね。では紅葉を見たら何を思うんだろう?
……と、いったあたりから。

あまり多くは語れません。
ただひとつ、最後まで読んでいただけたなら幸いです、と。
M.SPARK2
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投稿日時:
2005/10/18 10:28:51
更新日時:
2005/10/21 01:28:51
評価:
25/25
POINT:
148
Rate:
1.33
1. 4 おやつ ■2005/10/20 19:02:50
旧作持ってない私も、魅魔様はこんなだったら良いと思いました。
あるがままに今を楽しむ少女達に幸多からんことを……
2. 7 papa ■2005/10/21 18:19:10
魔理沙の昔話は結構読む機会がありますけれど、こういう風な話は
ちょっと珍しいですね。
短い中でも、しっかりとメリハリのある作品だと思いました。
3. 6 床間たろひ ■2005/10/22 01:46:54
これは良い魔理沙ですね。
ラストの霊夢の台詞も好き。

でも男前な魅魔に一番痺れたのは内緒ですよ?
4. 6 おビールをお持ちしました ■2005/10/22 02:22:58
これはいい切り込み方ですね。
この過去あって現在の魔理沙あり、といった感じとか。

ひゃっほう!
5. 7 MIM.E ■2005/10/22 20:46:04
シンプルで真っ直ぐで魔理沙が好きになれるお話でした。
魔理沙は好きだし、個性だって強い。
けれど理解しづらいと思っていました。
こういう話がもっとたくさんあるとよいなあと思ったのは私のごく個人的な感想です。
6. 2 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 23:46:31
すっきりした読感ですね。
トータルしてスマートな印象でした。
7. 7 匿名 ■2005/10/23 20:14:38
短く良く纏まっていると思いました。
8. 4 Tomo ■2005/10/24 11:37:17
魔理沙の一人称は見たこと無かったので新鮮でした。魔理沙が安心して降り立つことの出来る場所は、霊夢のいる所なんでしょうね。
9. 6 藤村りゅ ■2005/10/24 15:42:55
 霖之助の立つ瀬がないよね、と思ったりしました。
 魔理沙の実家のことはよく分からないので、よく出来ているなあ以上のことは言えませんです。
 短いですが、非常にまとまりが良かったです。
10. 7 銀の夢 ■2005/10/25 10:47:50
人って変わっていけるんですよね。
好きなものが嫌いになったり、嫌いなものが好きになったり。
いつだってその色は変わるから、人間って素敵なんでしょうねぇ、妖怪のような永い存在から見て。まるで紅葉するように色が変わるから。
11. 4 Q-turn ■2005/10/25 15:23:44
>「当たり前じゃないの。春に芽吹いて夏に生い茂って秋に散って冬を過ごす。あんたの大好きな『普通』でしょうが」

好きな季節を決めてしまえば、嫌いな季節あり。
でも、「普通」が好きだから、全ての季節が好きになれる。
そんな戯言を書き残してみたり。
12. 3 木村圭 ■2005/10/25 21:47:48
魅魔さまかっこえー。
娘に逃げられる馬鹿親は誉めて伸ばすって言葉を覚えやがれ。
13. 6 世界爺 ■2005/10/26 00:48:21
ええいくそう、もっと長い尺で読みたい……ッ!
文章が上手いだけにそれが惜しい。
次あらば長編で読んでみたいものです。

そういえば、魔理沙の過去話ってあまり描かれませんね。
そんな中果敢に挑戦した作者さんに、改めて謝辞を。
14. 9 ■2005/10/27 15:53:37
根性のある紅葉が戦友って、なんだか魔理沙っぽくていいですね。それに、最後の霊夢の答えもまた。
15. 6 ■2005/10/27 22:41:21
なるほど、霧雨家……そう見るとまたおもしろいですね。
自分の中の魔理沙株をまた上げてくれる作品でした。
16. 9 流砂 ■2005/10/28 03:57:48
やるなぁ。 こじつけ難い所をさらりとやりおった。 ご馳走様でした。
17. 7 七死 ■2005/10/28 12:27:05
魔理沙が男前になっちまったのは魅魔様の影響だと思いたい。
でも旧作だとうふうふ笑ってたな。

夢破れて現実逃避。
思いがけずに魅魔様が見れてしあわせでござんす。
18. 6 風雅 ■2005/10/28 14:21:35
散り行くものを見ると色々考えますよね。
桜や紅葉が散るのを物悲しく思いながらも次の季節に順応していくのは、やっぱり来年も「普通に」巡ってくるからでしょうか。
19. 6 名無しでごめん ■2005/10/28 20:34:43
魔理沙の過去と紅葉を上手く組み合わせた手腕がお見事でした。
旧作はあまり分からなかったり(魅魔様くらいは知っております)しますが、
作者様の考える、旧作から新作への橋渡しが覗けて面白かったです。
20. 5 K.M ■2005/10/28 21:46:08
魔理沙のちょっと苦い過去
しかし、既に克服した身では昼寝をし損ねる程度の障害でしか無い・・と
世界は、そうそう変わらない。ならば、自分が世界の見方を変えるほうが
よっぽど効率が良い・・・これは、一つの真理ですね
21. 6 弥生月文 ■2005/10/28 23:03:28
 
22. 7 orenge ■2005/10/28 23:16:45
実は意外に魔理沙の過去を語った作品は東方界隈を探しても相当少ないです。
逆に咲夜の過去を語った作品は非常に多いです。

何かその意味で新鮮な気がしました。
吶々とした語り口も良いですね。
23. 5 ななし ■2005/10/28 23:17:20
すみません、コメント間に合いません。
24. 8 IC ■2005/10/28 23:47:23
秋に葉が散るのは普通。でも、今まではそれそのものしか見ていなかった気がします。
春、夏、秋、冬、一括りにして語られてみると、不思議なほどストンと納得できました。
25. 5 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:48:26
過去を気負うな、今を生きろ。未来(さき)へ、進め。
さらりとまとまった良品だと思います。ただ、楓をただの実家を思い出させる物としてではなく、何らかのエピソードに絡めればもっとよかったかと。
霊夢の回答はすごくらしいなあ。
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