大きな文に思いを込めて

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/19 02:28:57 更新日時: 2005/10/21 17:28:57 評価: 25/27 POINT: 158 Rate: 1.41


 秋の博麗神社。

 すでに紅葉真っ盛りの境内は、無数の落ち葉を舞い散らし、鳥居の向こうに映る空の色を鮮やかに彩っている。あちこちにうずたかく積もっている葉は、おそらくはこの神社を司る者が掃除をした後なのだろうが、なぜか捨てられないまま、風に吹かれて少しずつ元の木阿弥になってしまっている。
 はて、とその儚い様相を見ながら、来訪者である霧雨 魔理沙は首をかしげた。袖の長いエプロンドレスに、薄手のマフラーを首筋に巻き、肩には箒を担いでいる。かしげた首と一緒に、彼女愛用の三角帽、そしてそこからこぼれる金髪が揺れた。
「ふむ、おかしいな。ここまでやってりゃサボることもないだろうに」
 魔理沙は不審なありさまを示している境内を明るい色の瞳で見回すと、とりあえず巫女がいるっぽい場所をしらみつぶしに回ってみようと、石畳に歩を進めることにした。
 途中、積もった落ち葉を蹴り飛ばして背筋が冷たくなった。……怒ると結構怖いのだ、ここの神社にいる巫女は。バレませんようにと祈りつつ、魔理沙は足にくっついた紅葉を手で払いつつ、周りを観察しながら歩いていく。だがその努力も空しく、三つほど蹴っ飛ばしてしまった。きょろきょろと周りばかりを見て、足元を見ていないのが主な原因だ。そして蹴り飛ばした跡は―――見なかったことにした。
「……おおう、いたいた」
 訪ね人は、意外なほど早く見つかった。
 賽銭箱の前。その蓋を開けて、博麗霊夢が覗き込んでいた。
 傍らに箒を立てかけ、鮮やかな紅白の装束に黒髪が考え込むように揺れている。おそらく、普段はどこか気の抜けているような―――もしくは穏やかな表情をしている顔は、今は眉をひそめているのだろう。
 ところで、常々魔理沙の思うところではあるのだが、すでに大分寒くなっているというのに、肩と腋をやたらと強調する意匠の服しか着ていないのはさすがにどうだろうか。よく風邪を引かないものだ、と思って聞いたところ、
「厚手だからいいのよ」
「いや、意味無いだろそれ。てかまともな服持ってるじゃないか」
「あれは余所行きなの」
 聞き届けられなかった。
 そのため魔理沙や他数名の人妖は、今も視覚的に寒い日々を過ごすことと相成っている。
「よ、霊夢。なに油売ってんだ?」
 魔理沙は霊夢のすぐ後ろまで忍び寄ると、いきなり声をかけた。途端、ばきんと霊夢が背筋を伸ばして硬直した。珍しく、ここまで近づいていながらまったく気づいてなかったようだ。
 逆にいえば、それだけ注意を引くものが賽銭箱にある、ということなのかも知れない。
「ひゃっ? ……なんだ魔理沙か。来てたんならそう言いなさいよ。茶は出さないけど」
「自分で勝手に淹れるからお構いなくだ。……で、何してたんだ? 掃除サボってまで」
 かすかに顔を赤らめつつ仏頂面で言う霊夢に、魔理沙はにやにや笑いつつ聞いた。といっても、質問に答えてもらえなくても構わない、と言った風情だが。あれだけ驚いた顔の霊夢などそうそう見られたものではないから、賽銭箱がどうなろうと気にならないのかも知れない。
「いや、それがね。ほらこれ」
「おう?」
 霊夢が賽銭箱から何か取り出すと、魔理沙へと差し出して見せた。その奇妙な物体を見て、魔理沙は眉をひそめた。
 一言でいえば、それは落し文。昆虫の一種が卵のゆりかごとして作る、葉っぱの巻物だ。イメージとしてはロールキャベツのようなものだろうか。ただし、これのサイズは手毬ほどもある。こんな大きさの葉っぱはまずありえないのだが、よく見れば紅葉を何枚も張り合わせて包み、細い蔓で縛ってある。器用なものだ。
「ほー、賽銭箱に虫でもついたか。む、いや、こんな吹きさらしのがらんどうじゃあ暮らしにくいか。てことは……誰かが投げ入れたのか? こんな凝ったのをわざわざ作って」
「とりあえず前半の部分はあとで問い詰めるとして、たぶんそうなのよね。でも誰の仕業かわからないのよ……そもそもこれの中身が何なのかわかんないし、怪しすぎるからちょっと怖くて開けられないのよこれ。なんかちょっと妖気も感じるし」
「ふむ、ちょっと貸してみ」
 わきわきと指を動かしつつ、霊夢の手から落し文を取った。意外に重い。葉っぱだけでこんなに重くなるのだろうか、と思いつつ、手の中で転がしながら観察する。どうやら葉っぱ同士が綺麗にくっついている。ただ、糊とかを使った跡は無いようなので、おそらくは妖術か何かだろう。そもそも引っ張っても剥がれないところからして明白だ。
 だったら、やることは一つしかあるまい。
「ほいさ」
 蔓を解いた。
「って、あんた何やってんのよ!!」
 殴られた。
「ってー!! 今本気でやったな!?」
「当たり前でしょ、何かあったら後始末が面倒じゃない!」
「うわー、本音が出た。……でも何も起きないぜ、これ」
「そうねぇ……。なんだ、杞憂か」
「って私は殴られ損かよ」
 頭を押さえている魔理沙の恨みがましい目を無視しつつ、霊夢は落し文の皮を剥き始めた。とたんにはらはらとくっついていた葉が散っていく。どうやら術が解けたようで、元の大きさへと分かれていっている。感じていた妖気もあっさりと消えてしまった。
 そして、ちゃらり、という音。

「……をや?」
「おおう、これは……」

 紅葉の間から出てきたのは、そして小さな輝き。
 つまるところ、それは賽銭だった。

「やったな、博麗神社当代始まっての快挙だぜ?」
「おだまり。……でも回りくどいわね。普通に入れればいいものを」
「それもそうだな。妖気ってことは……妖怪か何かか? ますますありえないぜ」
 そりゃ、神社に妖怪が賽銭入れるようになったら大騒ぎだろう。霊夢は喜ぶだろうが。現に今も不審そうな色はあるが、嬉しそうな表情は隠しきれていない。
「いやいや、人間でも妖術使いはいるわよ。使う力の大元は同じだから、人間にも使えるんだ……よろしくないイメージがあるから使わないだけで、って紫が言ってた。確か」
「なんか胡散臭いなそれ。……ふむ、だがこりゃ面白そうだな」
「何がよ」
 霊夢の胡乱げな視線を受けて、魔理沙はにやりと笑った。
「決まってるだろ、賽銭投げ込んだやつを探すんだぜ」
「………うん、それも良さそうね。どういう親切な人か知りたいし」
「神頼みするやつは大体後ろ暗いところありそうだがな」
「怒るわよ」
「冗談だぜ。さて、それじゃあ早速探しに」
「あ、ちょっと待った」
 トーンダウンした声。今度は魔理沙が背筋を硬直させる番だった。
「な、なんだよ藪から棒に」
「……境内。集めたやつが崩れてる」
 霊夢が指差した先。
 残酷無惨に崩壊した落ち葉の山だったものがあった。
「あー……、いやいや違うぜ。実はな、さっき蓬莱人と月の姫が『ラーメンに入れるのはメンマかシナチクか』で大喧嘩してたからだぜ。深く静かに」
「別にあんたなんて言ってないわよ」
「げ」
 墓穴を掘った。
「あー、その、これはだな」
「遠慮容赦問答無用よ。人の仕事を増やしてんじゃなーいっ!」
「いやちょっと待て目がやば……ぎゃー!?」
 少女の悲鳴が、境内に響いた。




 そして翌朝。
 昨日は魔理沙に境内の掃除をやらせていたので犯人探しは後回しとなった。
「……ひどいぜ」
「自業自得よ。……とりあえず検討はついてんの?」
「まあ、な。とりあえず知り合いの筋を探すか」
「知り合い……賽銭入れそうにないやつばっかなのは気のせいかしら」
「悪戯で入れたというのもありそうなんだがな……ところでそっちは?」
「神社周辺にそういう妖怪はいないわね。あんたが掃除してるときに回ってみたけど。だいいち私に悪戯しかけてくる連中って弱いのばっかりじゃない?」
「それもそうか……ってそれレミリアとかアリスとか紫とかをないがしろにしてないか。……まあ別に私の知ったこっちゃないけどな。で、他には?」
「裏手の林に仕掛けてた罠があったけど……かかってなかったわね。一昨日くらいに一匹食べられないのが捕まってたくらいで。さすがに雀といっても人型のは食べる気しなかったわね」
「人型じゃなきゃ食うのか」
「食うわよ」
 呆れたような視線の魔理沙に、霊夢は平然と答える。どうやら本気だ。
「どっちが妖怪なのやら……ともあれ、やっぱり知り合いから当たるか」
「そうね」




 里の人間にはあまり知られていないことだが、里を離れ、獣道に入り、小さな庵を抜けて、長い竹林を分け入った先には、驚くほど広い屋敷が静かに横たわっている。
 迷い込んだ人間曰く―――その屋敷は百鬼夜行。
 無数の兎と永久に美しき姫と従者、そして不死鳥と瑞獣。さらには数多の人妖も時折現れるというそこは、もはや伝説の域となり、口伝えで静かに広がっている。……もっとも、それも最近の話だが。彼らは、すでに自分たちを隠す必要がないために存在を露わにしただけなのだ。誰かが見つけたわけではない。
 永遠亭。それが、永劫の時間を過ごすものたちが住まう、この屋敷の名前だった。
「…………」
「――――」
 永遠亭の長い廊下を抜け、さらに幾つもの部屋を抜けた先。かつては何よりも秘されていた、永遠の主の部屋。
「…………」
「――――」
 そこにいるのは二人の少女。
 かたや流れる黒髪、かたや燃える銀髪。
 永遠亭の主、蓬莱山輝夜と招かれし客、藤原妹紅である。
 二人の間には、白黒の市松模様に染められた板が置かれていた。さらに言えば、その上には小さな像がいくつも乗っている。そのどれもが白一色と黒一色に染め上げられ、精緻な彫刻を施されている。
 要するに、チェスだ。
 見たところ、いくつかの駒を取られているが、妹紅の方が優勢のようである。輝夜の方の軍勢はすっかり取り囲まれ、砦と女王は奪われてしまっていた。
「失礼します、姫」
「……あー、もう!!」
 さらり、とふすまが開く。それで緊張の糸が解けたのか、悲壮感すら漂う目つきで碁盤を凝視していた輝夜が大きく息を吐いて、身体を後ろへと投げ出した。対する妹紅は開いたふすまの方を見て、「あ、お茶もって来てくれたんだー」と小さく呟くだけだった。見るからに余裕そうだ。
「お茶をお持ちしたのですが」
 ふすまを開けた主は、そういいながら盆に載せられた二つの湯飲みを差し出す。その様子に、どこか違和感を感じる。この人がこういうことをしているのはしっくり来ないというような、そんな錯覚。
 それもそうだろう、星座をあしらった赤青二色の服に身を包んだ彼女は、月の頭脳とまで呼ばれた「天才」なのだから。
 八意永琳。輝夜と共に月を裏切った、永遠の住人が一人。
「どうぞ、姫。……あら、劣勢ですわね」
「ありがと永琳。……妹紅の嘘吐き。何が将棋と同じよ。取った駒が使えないなんて聞いてないわよ」
「ふふん、全部同じとはいってないね。負け惜しみはよしな……あ、お茶ありがとね」
「いえいえ」
 輝夜は湯飲みに口をつけると、恨みがましく妹紅を睨むが、本人は何処吹く風で、ただ鼠で遊ぶ猫のようににやにやと笑っている。
「ふん、そんな風にしてられるのも終わりよ。……これでどう?」
 片手を湯飲みから離すと、輝夜は駒の一つを動かした。構築された包囲網の隙を突くように、騎士が女王を倒した。それに、妹紅が片眉を上げる。その手を打つのが意外だったのかもしれない。
「ありゃ、そう来たの」
「ふふん、これで私の逆転は」
「はい、十三手でチェックメイト」
「ゑ?」
 輝夜の目が点になる。お茶をすすりながら、妹紅は冷静に盤を指して指摘していく。
「だって、もう兵士がこことここに来てる時点で、それをどこに動かしても駄目じゃない。この場合だったらまず兵士から片つけないと王様がら空きよ。まあそしたら今度はこっちの騎士で突撃しかけて、女王と一緒に王様狙うけど。けど騎士がここにいたままだったらこれも十分防げるわよね―――ま、私の勝ちってことで」
「え、あ、ちょ、ちょっと待って!!」
「だーめ、さて、負けたからには色々ということ聞いてもらう約束だったよね?」
 ふっふっふ、と怖い笑顔を浮かべて輝夜へとゆっくり近づいていく妹紅。たすけてえーりん、と視線を投げるが、「無理です」のサインを返された。

 嗚呼、絶望。

「ううう、嵌められたわ! こんなことなら変な約束なんてしなきゃ良かったわー!」
「最初ッからチェス勝負っていってたでしょうに。人を詐欺師みたいに言うんじゃないっての。さて、とりあえずはネコミミゴスロリで恥ずかしいポーズを―――」
「い、いやー!! そんなどこのネコミミモードか分からない格好するのはいやー!!」
 きゃーきゃー騒ぎながら必死で抵抗する輝夜だったが、ああ、箱入りお姫様の悲しい宿命か、野性の力全開で生きてきた妹紅には敵わない。
 そして永琳は「ゴスロリは素敵ねえ。ウサミミも持ってこさせようかしら」などと助ける気ナッシング。もはや万策尽きたと思われた――――

 が、助けは意外なところから来た。

「邪魔するぜ――――!!」
 ふすまが爆発した。いや、正確にはぶち抜かれた。あまりの衝撃波に爆発が起きたとしか思えなかったのだ。
 そして吹っ飛ばされる妹紅と輝夜。永琳だけは統計的に最も被害を受けづらい場所へと退避していたのでほぼ無傷。さすが天才、抜け目なし。
「ふー、到着到着。日が暮れる前にやんないとな。手際だぜ手際」
「と、飛ばしすぎよ馬鹿……」
 器用に箒を旋回させて着陸するのは、魔理沙と目を回している霊夢だった。
「さて、じゃあとりあえず尋問……って永琳しかいないのか?」
「「いるわよ!!」」
 どばん、とふすまを跳ね除けて飛び出す蓬莱人二人。木片があちこち刺さってたりほこりまみれになっていたりする姿が迫力をいくばくか削いでいるが。
「まったく、いきなり飛び込んできて……あー、チェス盤まで引っくり返して!」
「あら、これで最初からね。うふふふふ」
「むきー! だったら弾幕ごっこで決着を「姫の部屋が燃えちゃうから駄目」ごっ!?」
 怒り狂った妹紅がスペルカードを抜き出し、あわやという刹那。
 いきなり妹紅が宙に浮いた。三センチほどだろうか。
 鮮やかなショートアッパーが打ち込まれたのだ。
 永琳だ。いつ近づいたのか、いつ放ったのかすら不明だった。ただ残像のみが、目の中でかすかに残っただけだ。
 そして、顎を打ち抜かれた妹紅は、糸の切れた人形のように、かくんとうつぶせにぶっ倒れてしまった。脳震盪だ、たぶん。
「……え、えーりん? いまちょっと宙浮いたわよ、妹紅が」
「せっかく姫のためと揃えた調度を、燃やされてしまうわけにはいきませんから」
 目を丸くする輝夜に、にこやかな笑みを向ける永琳。
「……こわ」
 これは魔理沙の率直な感想だった。




「…………賽銭、ねぇ」
「ここのところは妹紅のところにしか行ってなかったし」
「そもそも入れる賽銭持ってないし」
 とりあえずは荒れ果てた部屋を簡単に片付けた後。
 一応客人扱いとして(部屋の修復と掃除をやらされた月の兎は不満そうだったが)迎えられた霊夢は、その言葉にため息をついた。
「何よ、徒労じゃない」
「ま、最初はこんなもんだ。捜査の基本は足だぜ……って香霖が言ってた」
「……また妙な本読んでるのね、霖之助さんは」
「でも確かに、犯人はこの中にいそうよね……」
 ふと妹紅が意味ありげに視線を魔理沙から別の方へと向ける。
「特に黒いのとか」
「あら、私のどこが黒いって言うの?」
「腹」

 ……無言の取っ組み合いが始まった。

「……ともあれ、次はどこに行こうか。亡霊嬢とかどうよ?」
「あいつが賽銭入れるようには思えないけど……うーん」
「あら、こういう話って意外性が重要なのよ? まさかこいつが、っていうのが犯人だったりね」
 ふふ、と永琳が笑う。後ろで自分の主が関節技をかけられて悶えていることなどまるで気にしていない。実に大らかだ。輝夜がその大らかさに涙を流すほど大らかだ。
 ともあれ手がかりがないとなれば、長居は無用だろう。
「……そうね。参考にしとくわ」
「ん、邪魔したな」
「あ、こら台無しにしたチェスの責任とってから―――あいたたたたたた!?」
「うふふ、四の字固めは引っくり返せばいいのよ!!」
「そんなのどこで知ったー!?」
 ……取っ組み合いの続きは気になるところだが、それは後回しだ。
 どこか後ろ髪引かれる思いで、二人はその場を後にした。

 後日聞いたところによると、決まり手は妹紅と乱入した慧音によるロングホーントレインだったという。




 空の彼方にある結界。そこを越えた先には、長い石段がある。
 死の気配に満ちたその先には、どこまでも広大な桜の木が広がっていて、春となれば尽きることなく宴会が行われる、死人の集うらしからぬ場所が存在している。
 白玉楼。華胥の亡霊、西行寺幽々子の住まう冥界の別名である。
 秋の夜長、月見に宴会と大騒ぎするここも、今は静かなたたずまいを見せ―――

「っと、ちょっと待て今帽子切れたぞ!? 殺す気かよ――――!」
「うるさい、人がせっかく手入れをした庭を荒らすとは何事か! そこに直れ、その性根と二枚ある舌の一本、この楼観剣で刻み墜としてくれる!」
「いやいや、ありゃ事故だぜ?」
「全速力で庭に突っ込んでおいて何を言うか――――!!」

 ることもなく、ある意味いつも通りだった。
 風もかくやとばかりに疾走する魔理沙を追従するのは、二刀を振り回す、まだ子どもっぽさを残した顔の中に、強い光の瞳を置く少女。
 白玉楼二百由旬の庭を一人で預かる剣術指南役、魂魄妖夢であった。
「あらあら、妖夢ったら元気ねぇ」
「そうね、魔理沙も楽しそうだわ」
「こら霊夢お前、なに一人だけ我関せずみたいな顔してお茶なんか飲んで、わあぁ!?」
「ちぃ、あと半歩前だったか!」
「ちょ、おま、自分で荒らしてるだろおい! 今桜の枝が落ちたぜ!?」
「お前を切れば問題はない――――!」
「なんだこの辻斬り庭師ー!」
 ぎゃーぎゃーと騒がしく弾幕鬼ごっこをかましている二人を眺めつつ、霊夢ともう一人はのんきにお茶を楽しんでいた。
 桜をあしらった衣装、どこか宙に浮いた雰囲気。そして帽子についたうずまきをあしらった白い三角。
 西行寺幽々子、その人である。
 彼女もまた、元気そうに走り回る従者の姿を見て嬉しそうに微笑んでいる。あの様子を見て「あらあら楽しそうねぇ」などと本気で思っているのでなかなか侮れない。伊達に天然物と呼ばれてはいない。
「……やれやれ、あんたも違ったのね。じゃあ後は二つかな」
「でもどうしてそんなに拘るのかしら? いいじゃない、せっかくのお賽銭。御利益なさそうですけど」
 結論から言えば、彼女たちも違っていた。
 曰く、「……死人が入れてもねぇ」「御利益ないのに入れるはずがないだろう。そもそも給金は貰ってないし」とのこと。そして巫女に無礼を働いた庭師は仕置きつかまつられたようだ。具体的には悶符「電気按摩」で。その詳細については割愛させていただく。
「神社なんだからあるわよ失礼ね。……たぶん。まあそれはそれとしても、やっぱり久しぶりなわけだし、気になったまま放っておくのも嫌じゃない?」
「それもそうね。でも紅葉に包んで送るなんて、相手も洒落ものねぇ。好かれてるんじゃないの? 誰かは知らないけど……あら、妖夢ったら桜の枝を落としちゃったわね。あとでお仕置きかしら」
「あら本当ね。けっこうでっかい枝なのに。……好かれてるってことはレミリア辺りかしら。しょっちゅう来るし。あ、でも賽銭は入れそうにないわね。神社より私に興味あるみたいだし」
 そうして一言二言交わした後だろうか。
 ざん、と強風が唐突に縁側を吹きぬけた。たぶん、自然のものではない。
 妖夢だ。どうやら魔理沙を見失ってしまったらしく、屋敷の前まで戻って来たようだ。
「はあ、はあ……まったく、どこいったんだあの黒白め」
「お疲れ様。ちょっと休んだらどうかしら?」
「いえ、気持ちだけは頂いておきます……って、また賽銭のお話ですか?」
「そうよ。素敵な賽銭入れた人探し」
「……もう少し現場を調べてみたらどうだ? 証拠が残ってるかもしれないし」
「調べたからこうして回ってるのよ。ちょっと音速遅いわよ」
「……む」
 妖夢が不満そうに押し黙る。剣の腕は確か、というか最強の部類に入るとは思われるが、その所作のところどころに子どもっぽいところが残るあたり、いまだ半人前だろう。幽々子がいうには「だがそれがいい」とのことだが。
「あら霊夢ったら妖夢を苛めちゃ駄目よ。私だけが苛めていいんだから」
「そりゃ失礼」
「うわ、酷いですよそれ!?」
「いやいや妖夢、可愛い子ほど苛めたくなるものなのよ〜? うりうり〜」
「ちょ、止めてくださいよ、幽々子様。巫女が見てま……わあぁみょんなとこ撫でないでください!!」
「……お邪魔みたいだからそろそろ帰るわね。それじゃね」
「って、止めないのか!?」
「だって仲良さそうじゃない」
「えええ!?」
「ほらお墨付きよ〜、うふふふふー」
「きゃあああああああ!?」
 賑やかだなあと呆れつつ、霊夢はその場を後にした。
 ……余談だが。魔理沙は屋敷の屋根の上に隠れていた。空を飛ばれたらすぐに分かりそうなものだが、庭師はそこまで気が回っていなかったらしい。




 空を映して青く光る湖の向こうに、赤い館がたたずんでいる。
 いつから在ったのかは誰も知らない。ただ、気がつけばそこに建っていて、強い存在感を放っているその洋館は、いつしかこの風景に馴染んでいた。
 ただ、そこに住んでいるものが何かは、ほとんど誰も知らない。ただとある話では、あの屋敷の近くでは、人が消えることがたびたびあるという。
 そして、戻ってきた者が曰く、「赤い悪魔が住んでいる」。
 ゆえに、紅魔館。それは住人もその他の人妖も認める、この館の名前となっていた。

「……意外と、穏便に通されたなおい。いつも私にやってる応対はどうした?」
「そこな巫女と一緒にいるんじゃ、あんまり手荒な真似はしないわよ。だいいち私や門番が貴方を襲うのはパチュリー様の命令だし。貴方に本を持っていかれるのが好きじゃないみたいね。というか返してないでしょ」
「む、失礼な。ちゃんと返してるぜ。きっとな」
 目にまぶしいほど白いテラス。赤を基調にした館の中で、ここがアクセントをつけるように目立っている。
 そこには大きなパラソルが一つ。その下にはテーブルと、湯気を立てているポットがある。そのとなりにあるバスケットに載せられたスコーンは茶菓子だろう。焼き立てなのか、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「その割には、蔵書量がどんどん減っているのよね。……使い魔でも差し向けて強制徴収しようかしら。ビヤーキーあたり」
「返り討ちにするぜそんなもん」
「じゃあ本に片っ端からネコイラズしかけようかしら。指挟むと痛いのを」
「……そりゃ勘弁だな」
 茶会の席についているのは、四人の少女。いや、正確には五人だが一人は魔理沙に抱きつくようにして立っているので席についている人数には入れていない。
 霊夢は紅茶を一口すすると、
「……まあ、お茶のお誘いありがとね。それで聞くけど、賽銭入れたのってあんた?」
 目の前に座って微笑んでいる、赤い少女にそう切り出した。
 見た目はひどく幼い。しかし、その眼差しと全身ににじみ出る空気、そして背中の翼がその印象を完全に否定する。
 レミリア・スカーレット。五百年を生きた、運命を操る吸血鬼。
「貴方が私のものになってくれるなら、いくらでも入れてあげるんだけどねぇ。御利益がないから入れないの」
「あ、そ。……とすると後は紫とアリスくらいかしら」
「どっちでもなさそうだけどね。そんな賽銭入れるような殊勝な心がけ持ってる連中なんて、指が一本しかなくても数えられるんじゃない?」
 カップを音も立てずに置くと、レミリアはくすくすと笑った。それを半眼で睨むと、霊夢は大きくため息をついた。どこか疲れているようにも見える。
「あんたね。……ま、いいわ。でもどっちでもないってのは?」
「答えを言ったらつまらないじゃない。自分で見つけるのが楽しいんでしょ。……フラン、はしたないからきちんと座りなさい。魔理沙は逃げないから」
「はーい。でも魔理沙は速いから捕まえてないとすぐいなくなっちゃうのよ?」
「そのときは咲夜に頼むとすぐよ。……そらしちゃったわね。まあどっちでもないってのは語弊があるわね。重要度の違いかしら」
 その会話に肩をすくめて、魔理沙が口を挟んだ。かじっていたスコーンを置いて、紅茶に口をつける。
「よくわからんなー、それは。……で、フラン? それは私がかじったスコーンだから、って一口かよ」
「んぐ!? え、そうなの!? ……あ、でもこれって」
「いやそこで照れんでいいから」
「……百合の花、見ごろはいつだったかしらね」
「パチュリー、お前な」
 半眼で睨む魔理沙の向かいにはパチュリー。紅茶を片手にすすっていても、本は決して放さないあたりは流石というべきだろうか。慣れているのか、危なっかしさは全くない。
 ちなみにさっきまで魔理沙にまとわりついていたもう一つの赤、宝石めいた羽根を持った少女、レミリアの五歳違いの妹になるフランドール・スカーレットはレミリアと魔理沙の間に座っている。
「……あの黒白は不思議ね。フランがあんなに懐くなんて。相性がいいのかしら」
「力技のあたり?」
「かもしれないわね。どっちも何でも壊すし。……まあそれはそうとして、どうせ紅茶飲んだらすぐ帰っちゃうんでしょう? 一つだけヒントは上げるわ」
「ふうん、何?」
 霊夢が興味を持ったのが嬉しいのか、レミリアは楽しそうに笑い、

「犯人はすぐそばで見てるものよ。あなたが騒ぐのを見て楽しんでるというわけ」

 そう、告げた。




 神社に戻った頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
 長い影法師が、本殿と鳥居を繋ぐように伸びて、まるで塔のように横たわっている。
 石畳に足をつけて、霊夢が大きく伸びをした。さすがに疲れたようだ。
「あーあ、全部空振りね」
「そーだな。こりゃ明日に持ち越しだな」
「そうね。……大分どうでもよくなってきた気もするけど」
「なんだ、飽きたか?」
「いや、そうじゃなくて。なんだかね、探し回るのはおかしい気がしてるのよ。なんというか……」
 感じているもどかしい感覚をどう現せばいいのか。霊夢がいいあぐねているのを見て、
「頭の上にある眼鏡を探すような?」
「そうそれ。……って私はもうろくしてないわよ」
「いやいやわからんぜ。お前、いっつも頭の中春っぽいしな。一年中花見ができるのは羨ましいぜ」
「……今度あんたのお茶にセンブリしこんでやる」
「うえ、そりゃ勘弁だ」
 いいながら、二人は霊夢の住まいへと足を進めていく。
 かたん、と引き戸に手をかけて、
「ただい……ってなんでアリスがいるのよ」
「こんにちわ……っていうよりはこんばんわかしらね。誰もいなかったから勝手に上がってるわよ」
 卓袱台の前。居間と客間兼用の部屋。畳の上へ清楚に正座してお茶を楽しんでいる少女が一人いた。傍らには人形が一体。ただ、それは自ら意志を持つように動いて、帰宅した主人とおまけに一礼している。
 七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。魔界まで遠征に行った以来の仲だ。……彼女の方が一方的にライバル視しているだけかも知れないが。そもそも今ではその目的も怪しくなってしまっている。ひょっとしたら、魔理沙と霊夢は悪友、という認識になっているのだろうか。
 ふと、漂っているお茶の香りに、霊夢がいきなり顔色を変えた。
「あー、玉露勝手に淹れたわねー!? 明日の楽しみだったのに!!」
「お茶は早めに飲まないと香りが消えちゃうのよ。みみっちく取っておかないことね」
 アリスは悪びれもなくいうと、これまた勝手に持ち出したらしい湯飲みに口をつけた。
「……あんた、なんか魔理沙に似てきた気がするわ」
「なんですってー! あんな黒白のどこと似て――――げ。いたの、あんた?」
「なんだ今ごろ気づいたのか。よー、アリス。いつからいたんだ?」
「さあ、いつだったかしらね。日が落ちるより前ってのは確かだけど」
 肩をすくめるその様子に、魔理沙のにやにや笑いが深くなる。
「ほー、つまり今まで待ちぼうけ食って寂しい思いをしてたわけか」
「ちょ、なんでそうなるのよ!!」
「お、図星か?」
「ち、違うわよ黒白馬鹿!!」
 ……なんでこうも同じ手に引っかかっているのだろうか。むきになるだけ損なのに。
 そんなことを考えながら、霊夢はこっそりアリスが飲んでいたお茶を奪い取っておいた。ああなったらしばらくは魔理沙に遊ばれっぱなしになる。だったら冷める前に頂いておくのがお茶への礼儀だろう。
「あ、そういえばさ」
「な、なによ!」
 竜巻でも起こしそうな勢いで振り向くアリス。顔が真っ赤になっているあたりで、もうどうしようもない気がする。からかったら楽しそうなタイプだろう。
「別にそんな顔真っ赤にして否定することでもないじゃないの。……ま、それはおいとくとしても。あんた、賽銭入れた覚えってある?」
「ないわよそんなの。意味もないのに。それと誰がそんなに必死なのよ!」
「そういうところがだぜ」
「……ッ! あんたとは一度決着つけないといけないようね! 表に出なさい!」
「おう、望むところだ。負けた方は三日間メイドの刑で」
「こっちこそ望むところよ! あんたの師匠に受けた屈辱、倍にして返してあげるわ!」
「……やれやれ」
 宣戦布告するやいなや、障子をぶち抜いて飛び出した二人を見て、霊夢は思わず頭痛を感じた。続けて、外で目に優しくない光が乱舞し始める。まあ、いつも通りの風景だ。
「……あとで障子直させないとね」
 はあ、とため息をついて、とりあえずお茶をすすることにした。通る風が秋らしくて心地良い。……現実逃避ではない。きっと。

「あら、日も落ちたのに賑やかですのね。朝からずいぶん活動的だったみたいなのに」
「っと、紫?」

 突然の声。どこから聞こえたのかは分からないが、霊夢の勘はある場所を捉える。
 畳のすきま。
 するり、とそこから大人びた姿が現れた。どうやって出てきたのかは、目で見ていただけでは分からない。何時の間にか傘まで取り出している。ただし開かない。屋内だから。
 八雲紫。
 良くわからない、掴み所がない。
 しかし力があって、博麗大結界を司っているのは確実な妖怪である。
「こんばんは。なんだか目が醒めちゃったから遊びにきたわ」
「それは別にいいけど、変なとこから出てくるのは止めなさいよ。この前やかんの口から出てきて火傷したばっかりじゃない」
「あれはうっかりよ、うっかり。……それで、朝から何してたのかしら? 賽銭強奪?」
「似てるけど違う。……そういえばさ、あんた最近神社に来た? 私がいない間に」
 霊夢の何度繰り返したか分からない問いかけに、紫は首を傾げるだけだった。
「んーん。半分冬眠状態だったから覚えがないわね。夢遊病だったら分かりませんけど」
「今まで寝たまま来たことはないからそれはないわね。……ってことは、知り合いじゃないのかしら? 見ず知らずの人?」
「何の話か見えないわね……賽銭でも入ってたの?」
「見えてるじゃないの。そうよ、誰が入れたのか気になってね」
「気にする必要あるのかしら。いや、ないわねぇ」
「なんでよ」
 あっさり今日やったことを否定されてしまった。さすがに憮然として、霊夢は紫を睨んだ。「おお、怖い怖い」とおどけつつ、紫は笑顔で返す。
「じゃあ、賽銭は誰のものだったかしらね。思い出せる?」
「神様じゃないの?」
 即答した霊夢に苦笑して、紫は答えた。
「惜しいわね。もうちょっと端っこの方よ。……神様に仕えている人のものなのよ。どうしてみんなが神社に賽銭を入れるようになったか知ってる? それはね、神社で仕事をする巫女や宮司が、神様の代理で色々なことをしてくれているからなの。それに感謝してお金を送るようになったんだけど、お金の話はあまりよろしくないものでしょう? 昔は普通に採れた物を上げてたんだけど、手軽で便利だからお金になったのよね。でもそれって大体はたくさんの人のよくない気持ちで穢れてるじゃない? それは集まると本当に強くなって、普通の人の心もゆがませてしまうの。財布の紐を縛ってばかりのドケチさんみたいに。使わないと意味がないのにね。だからいったん賽銭箱に……神様の元で預かってもらって、清めてもらった後で改めて頂くようになったのよ。……回りくどくなっちゃったけど、要するに貴方への感謝の気持ち、ありがとうとかおめでとうとかそういうものが、賽銭として入るものなのよ。この場合で大切なのは入れた人の気持ちなんだから、誰が入れたかなんてあんまり関係ないでしょう?」
「まあ、そうなんだけどね。でも気になりだすと止まらないし。……だからうちには賽銭が入らないのね。あんまり人目につかない場所だし、それに私が活躍しても誰も分からない。だから感謝する人もいない。それで賽銭が入らない、ってことなのね。……って当たり前じゃないのそれ。自分で言うと悲しいけど」
「そうよ、当たり前なの。でも外だとこの前提も忘れてる人が多いのよねぇ。御利益目当てに入れてる人ばっかり。そんなのじゃ願いはなかなか叶わないのにね。まあ、こっちもそうなんだけどね。魔理沙だって私が話すまで知らなかったみたいだし」
「はあ、やっぱり魔理沙も知らなかっ…………あー、そういうことね」
「どうかした?」
「謎が全て解けた………かも」
「あら、それは良かったわね」
「一応礼は言っておくね。ありがと」
「いえいえ、晩御飯一回でいいわ。とりあえず今日で」
「図々しい奴」
 にっこり笑う紫に、霊夢も笑顔で応じた。
 外では、ひときわ眩い閃光が爆発していた。どうやら魔理沙が勝ったようだ。しばらくして、ぼろぼろになった二人が入ってくる。ぼろぼろ度合いはアリスの方が大きい。
「あー、疲れた。ともあれ、これで私の勝ちだな。また腕上げたなぁ、楽しかったぜ」
「うううっ、もう二度とやるもんか………」
「はいはい泣くな泣くな。無理いうつもりなんかないぜ? 部屋の掃除くらいだ」
「無理難題にも程があるわよ!」
「こっちまで来て騒ぐな。…………そういえば、あんたたちは晩御飯どうするの? 食べてくなら多めに作るけど」
「いや、今日は私の家でアリスが作ってくれるからいいや。じゃな、また明日ー」
「はいはい、また明日。……頑張ってね、アリス」
「うるさいわよ馬鹿……生きて朝日が拝めるかしら」
 ぱたぱたと、まだ残っていたのかと思うくらい元気に手を振って、魔理沙はアリスと一緒に空を飛んでいった。
「……さて、私もご飯にしようっと」
「今日のご飯は何かしら?」
「出来てからのお楽しみよっ、と」
 それを見送ってから、霊夢は台所へと引っ込んだ。作る量は二人分だ。
 心の奥にわだかまっていた霧―――謎は、もうすでに綺麗さっぱりと解けていた。




「さて、邪魔したわね。それじゃ、また冬眠してくるわー、ふわわ」
「随分よく寝てたくせにまた寝るんだ……ま、いいわ。またね」
 翌朝。眠そうな目で笑いつつ、紫は去っていった。ひらひらと手を振って見送った後、
「さて、とりあえずは御飯食べて掃除ね」
 とりあえずいつものように過ごすことにした。どうせ“あいつ”は来るはずなのだから、焦ることもない。謎の元凶は、向こうからやってきてくれる。
 ―――来た。
 視線を上げると、青い空にぽつりと黒。
「おっす、おはよ」
「朝から元気ね。アリスは?」
 魔理沙だ。颯爽と降りてくると、石畳に積もっていた落ち葉が吹き飛ばされて何処かへと飛んでいく。ちょっとだけ掃除の手間が省けた。
「なんか嬉しそうだなお前。アリスは……部屋の掃除やってもらってるが、多分無理だな。私でも手の付けようがないしな」
「だったらやらせるなよ。……ところで、今日は何の用?」
「そんなの決まってるだろ。ほれ、昨日の続きだぜ―――」
 その言葉に、霊夢はふっと笑った。何事かと目を丸くする魔理沙へ、高らかに宣言する。

「その必要はないわよ。もう謎は解けたから。それに犯人も判ったしね」
「なにゃ!?」

 ……考えてみれば、今まで来た中で十分ヒントはあったはずなのだ。それが、紫の言葉ではっきりと現れただけで。

「なんだよそれ、お前だけずるいぜ。で、犯人って」
「それはね」

 霊夢はもったいぶって言葉を切ると、ゆっくりと指を指し示した。その先には―――


「あんた」


 魔理沙がいた。
 伸ばされた指先を見つめて、ぱちくりと目を瞬かせている様子が、ちょっと可笑しい。

「えーと、なんでだ?」
「そうねぇ、消去法ってのもあるけど。まず一つは、アレね。賽銭包んであった葉っぱ。どうしてアレをあっさり解けたのかしらね。まったく躊躇ってなかったわね。よく分かんないものなのに。てことは、それが何なのか知ってた可能性が高い。……それと、あんたが賽銭に興味持ったのもちょっと変よね。別に入れた人なんて誰でも良かったのに、私にその相手へ興味を持たせたかったみたいね。だから自分から引っ張っていこうとした。さらにいえば、永遠亭のとき。犯人は意外だとか、黒いのが怪しそうだとか、そういうのにちょっとだけ反応してたわよね。……まあ、アレは気のせいだと思ってたんだけど。次に……たしか幽々子に会ってきた時だったわね。普通に賽銭入れりゃいいのに、わざわざああいう風にして入れるようなひねくれ者なんてあんたくらいのもんよね。これだけで断定するには理由がまだ弱いけど、あとはレミリアがくれたヒントが強かったわね。そう、私と一緒についてた奴が、一番私を見ていられる。こりゃ言われなきゃ簡単には気づかないわよね……」
「あ、ちょっと待った。それだと、アリスや紫はどうなるんだ? 怪しいのは私だけじゃないぜ?」
 確かにもっともな疑問だ。彼女たちもまた、信用にたるだけの理由がないし、そもそも嘘をついているかも知れない。そしてどっちも四六時中霊夢の様子を見られるし、それなりに霊夢とも付き合いが長い。つまるところ犯人はまだ絞り込めていない―――
 しかし、霊夢はにやりと笑った。
「そこで紫から聞いた新情報。神社に賽銭を入れる本当の理由、知ってるのはあんただけなのよ。少なくとも、あいつは私に嘘は言ったことないからこれは確実ね。……どう? 反論ある?」
 紫、という言葉に驚いたのか、魔理沙は目を丸くして、すぐに苦笑に変わった。
「……ちぇ、なんだよ。紫のやつ、あっさりばらしちゃって」

 そして、あっさりと負けを認めた。
 ふふん、と笑う霊夢に、両手を上げて降参の意を現す。
「ふーん、あんただったのね。意外よ、一番賽銭入れそうにないのに」
「はっはっは、気まぐれって奴だぜ。お前と一緒にあちこち引っ掻き回すの、楽しいしな。この賽銭騒ぎ、私が幹事役ってところだ」
「……でも、聞きたいことが残ってるわね。なんで普通に入れなかったのか、それとどうして賽銭入れたのか」
「嫌いなのか、賽銭」
「大好きよ。私が聞きたいのはあんたの動機」
 即答する霊夢に、魔理沙は照れくさそうに笑った。何だその反応、と霊夢が問いただそうとする前に、魔理沙はぽそりと答えた。
「いや、ほら。賽銭って感謝の気持ちだろ? それでだ。……知ったのはほんのちょっと前だったが」
「……感謝されるようなこと、したっけ?」
 眉をひそめて首をかしげて、疑問符全開といった風情の霊夢に、魔理沙は笑った。見ててくすぐったくなるような笑みだった。

「ほら、今まで一緒に馬鹿やってくれて、友達やってくれてありがとう、ってことだぜ。お前と知り合ってから、楽しいことばっかりだしな」

 その言葉を聞いて、一瞬霊夢の思考が止まった。
 意外どころか名状しがたい角度から襲ってきたような答え。それが一時的に霊夢の推測を吹き飛ばしてしまったのだ。
「……あ、あんたねぇ。だったらはっきり口に出して言えばいいじゃないの」
 けれど、はっきり言われたらどんな反応を返すのか自分にもわからない。今でも反応に困っているというのに、フルスロットル直進で来られたらどうしろというのか。
「だって照れくさいぜそんなの」
 頬を掻きつつ、はっはっは、とわざとらしく笑う魔理沙。


「ま、それはともかくとして。……今までありがとう、これからよろしく、だぜ」
「……まったく、回りくどいんだから」

 しょうがないわね、と小さくため息をつくと、

「はいはい、これからもよろしくね。魔理沙」

 どこか嬉しそうに、霊夢は応えた。


 そして、今日も普通に秋がふけていく。


初めましてこんにちは。
恥ずかしながら参加させていただきました……あ、名乗っちゃいけないんだった。

ともあれ、いろいろ書きたい書こう書いてみようと思ったことを寿司詰めにしたところ結構な分量に。
読みづらかったら申し訳ないです。ただいま模索中なのでご容赦プリーズ。
さて、前置きはここまで。どうぞ楽しんでやって下され。楽しんでいただけたら幸い。
紅葉を肴にお祭り騒ぎ。私も楽しむ所存にございまする。

そういえば、オトシブミって最近見かけませんよね。
幻想になっちゃったのかなあ。
世界爺
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2005/10/19 02:28:57
更新日時:
2005/10/21 17:28:57
評価:
25/27
POINT:
158
Rate:
1.41
1. 6 月城 可奈女 ■2005/10/20 00:50:39
推理物大好きです。魔理沙が紅葉を使った理由が弱いかな、と。最後にでも上手く使って欲しかった感が少し惜しい。
2. 4 おやつ ■2005/10/20 21:33:30
……これからもよろしく。
やはりこの二人は良いコンビなんでしょうね。
面白かったです。
3. 7 たまゆめ ■2005/10/21 11:16:11
うふ、うふ、うふふふふふふふふふふふ・・・・。
れいむかあkうぃいいよ!”!!
4. 7 papa ■2005/10/22 12:57:41
この二人は未来永劫、死んでも一緒に馬鹿やってるんだろうなぁ。
うらやましい限りです。
5. 6 MIM.E ■2005/10/22 22:51:53
普通に入れなかった理由は、謎度をUPして霊夢の興味を引くため?
場面の数はこのままで、もう少し削って強調して極端なくらいが好みです。
などと押し付けがましく言う。
永琳よいなぁ。
6. 4 床間たろひ ■2005/10/22 23:31:38
へー賽銭ってそういう意味があったんだ。知らんかった。

最後の魔理沙と霊夢の会話、ない方が良かったかも。
多分霊夢は聞かなくても解るし、魔理沙も意地でも言わないと思うから。
偉そうな事を言ってゴメンなさいでした。
7. 3 一之瀬翔弥 ■2005/10/22 23:52:39
アイディアはいい感じですね♪
ただ、ちょっと詰め込みすぎな印象も。
このあたりは好みかなぁ…
8. 6 匿名 ■2005/10/23 18:27:35
「身近に居る」ってあたりで萃香を想像してしまいました。
ああ、してやられた……
9. 5 Tomo ■2005/10/24 11:35:11
終わり方はくすぐったいけどほっとする感じにコインいっこ。オトシブミは図鑑でしか見たこと無いです。幻想郷では増えてそうな気が。
10. 8 藤村りゅ ■2005/10/24 15:45:25
 コメディ展開にグッジョブ。
 犯人はてっきり萃香だと思ってました。もう半分は魔理沙でしたが、
そう推測させる伏線の張り方が弱く確信には至らず。
 何となく、萃夢想っぽい展開ではありましたが。
 タイトルから文の話だと思っていましたが、欠けらも出て来ませんでした。無念。
 推理ものにしてはヒントや演出が弱かったですが、純粋に物語として面白かったです。
 幻想郷で推理ものは難しいですね。誰でも犯人になれるから。
 謎解きというよりは、最後のシーンに集約される物語だと思います。
11. 8 銀の夢 ■2005/10/25 10:09:30
不思議なお話でした。けれど、不思議なお話なのにしっとりとしました。
こういう何気ない謎解きは良いですね。

神仏にお参りしたりするのって、その作法の一つ一つに本来意味があるものですよねぇ。今では大方の意味は忘れられて結果(ご利益)だけが残ってる感じですが。そのほうがわかりやすいですけどね。
そう言うことは、家庭でのお供えとか(火の神さまとか水の神さまへお供えするお正月の鏡餅とかが良い例か)そう言うものにもいえるかもしれないですね。
12. 8 木村圭 ■2005/10/25 21:47:01
うーん、犯人は魔理沙だったか……。てっきり紫だと思ったのに。
決めてである賽銭を入れる理由は紫も知ってるんだから、魔理沙と同列だろうと思ったんですが。
永琳の話に反応したことは文を見ても分からないし、容疑者の面々が妙に鋭いのはスキマから覗いてる紫に気付いていたからじゃないかなーと。
と思ったら、紫は嘘つきじゃないのか。紫なら寝てたと言いながらスキマから観察くらいしそうなものですが……って自分のイメージじゃん。
閑話休題。
ステキで平和な幻想郷、堪能させていただきました。
13. フリーレス 世界爺 ■2005/10/26 00:51:45
……今読み返すとすっげぇ読みづらい。
改行するかタグ使うかすれば良かったか。
意外と気が回らないなあ……むう。
14. フリーレス ■2005/10/27 22:23:35
最後の魔理沙の言葉、ストレートなだけにとんでもないパンチ力ですね。
それに、前編を通して小気味いいくらいにテンポがいいです。

…ところで、妹紅と慧音がロングホーントレインってことは、完璧超人は霊夢と魔理沙だったり?ほら、マスクではありませんけど本だの小物だの剥ぎ取るの大好きですし(笑)
15. 9 ■2005/10/27 22:23:56
…ごめんなさい、点数入れ忘れました。
16. 9 ■2005/10/27 22:54:14
大好きな話です。魔理沙ー霊夢ー
魔理沙の不器用な伝え方……GJです。
ただ、もう少し改行を使ったほうが読みやすいと思われる部分もありました。
17. 4 美鈴まさき ■2005/10/28 03:15:10
 ミステリ調な部分はなかなか面白いと思った反面、過剰気味の小ネタがメリハリを無くしてしまっている印象を受けました。
18. 5 流砂 ■2005/10/28 04:58:09
地は十分に面白かったのですが、推理物(?)としてはちょっと……。
ちょっとヒントを出しすぎたかのように思われます。
19. 6 風雅 ■2005/10/28 14:23:47
魔理沙って愉快犯だ、絶対(笑)
でも遊び相手がいるって大事ですよね。
それに感謝できるっていうのも素敵なことだと思います。

それからひとつ、蛇足ながら。
会話文が入るとその他の描写が疎かになるように思えます、ご注意をば。
20. 3 ■2005/10/28 14:58:21
登場キャラが多いにも関わらず、個性と調和のバランスが取れていて気持ちよく読めました。
21. 5 偽書 ■2005/10/28 16:40:26
タイトル見て、ほう、大きな射命丸、とか思ったのは秘密でもなんでもないですが。いや、それは冗談として、「ふみ」だとは思いながらも、「あや」だったらどんな話しなんだろーかと、変なところでわくわくしたのはまあ、事実。
失礼ながら、少し冗長かなという印象を受けました。永遠亭の面々見てる辺りは面白かったです。
22. 8 名無しでごめん ■2005/10/28 20:35:50
お題の使い方も話の締め方もお見事の一言です。
読後に題名を見て、正に名は体を現す。良い題名だな、とつくづく思いました。
23. 10 K.M ■2005/10/28 21:05:35
ミステリー仕立てなストーリーと適度に散りばめられた笑いがうまい具合に
融合している良作だと思いました

とりあえず、賽銭投入犯人はレミリアのセリフでピンと来ました
ワトスン役が犯人と言うのは時々見かけるネタですので
笑いに関しては、ロングホーントレインや電気按摩がかなりのツボでした
・・・そういえば、オトシブミなんでついぞ見た記憶が無いなぁ・・・
図鑑か国語の教科書、昆虫の本ぐらいでなら見たことがあるが
24. 6 弥生月文 ■2005/10/28 23:09:47
 
25. 8 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:50:05
タイトルでアポカリプスばりに巨大化した文(あや)を幻視したのは俺だけでいい。弱点は帽子。
さておき、黒白の落し文から始まる物語、楽しませていただきました。
ただ、途中の文章が一部ぐだぐだ説明口調になってしまってるのがやや難かも。
26. 5 IC ■2005/10/28 23:51:11
きつい言い方になってしまいますが、全てが中途半端だと思いました。そしてもったいないとも
まず、ミステリー風味に仕上げたかったのだと思いますが、各場面でドタバタしているせいで最後まで気付きませんでした。そのドタバタも既出ネタを羅列しているだけに見えます。せっかく輝夜と妹紅にチェスをやらせるという場面もあったのに帰結がネコミミと魔理沙乱入ではもったいなさすぎます。
同様に、台詞もゲームかどこかで見たようなものが多いような気がしました。原作の台詞は記号として便利ですが、頼りすぎはどうかと。
また、レミリアの台詞「犯人はすぐそばで見てるものよ。あなたが騒ぐのを見て楽しんでるというわけ」とありますが、作中で騒いでるのは専ら魔理沙で違和感が。確かに霊夢は動かすのが難しいキャラかもしれませんが、なんとか霊夢を積極的に動き回らせ、遠巻きに眺めてる魔理沙という構図の方が本作品には合っているのではないかと思います。
              
落とし文という題材と騒ぎの真相は良かったと思います。それだけに、間の話の展開を練ればもっともっと良くなると思いました。ううん、残念。
27. 8 es-cape ■2005/10/29 00:00:19
じかんがーーー
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