女心と上の空

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/19 08:14:10 更新日時: 2005/10/21 23:14:10 評価: 25/27 POINT: 132 Rate: 1.21

日も昇りきろうと頑張る正午前。
香霖堂の奥の部屋で僕、森近霖之助は困り果てていた。
「さて、どうしたものかな……。」
無縁塚での収穫をチェックしていたのだが、その中に少し、いやとても困る物が混じっていたのだ。
紐で括られた本が数冊。一番上の本だけ鑑定したら、外の世界の技術本だったのでまとめて拾ってきたのだが……。
「まさか、こんな本が混ざっているとはね。」
問題の本をめくってみる。ページ一面の肌色。
妙齢の女性が扇情的なポーズでこちらを見ている。
「春画本というやつか……。」
幻想郷にもそういった類のものはある。
しかし、表だって流通しているものではないし、なにより絶対数が少ない。
そういう意味でこれは希少であり、価値のあるものだ。
しかし、
「店には並べられないよな……。」
うちの店は立地条件もあり、あまり村の人間は来ない。
そして、来る客は圧倒的に女性が多いのだ。
さすがにそんな状況で、店先にこんなものを並べるわけにはいかない。
なにより、その女性達は圧倒的に僕より強いのだ。
「仕方ない。今度無縁塚に行った際にでも捨ててくるとしようか。」
そう思い、本を括り直した時、


「香霖ーーー!! いるかーーーーーーー!!? 」
店の扉が思いきり開く音と聞きなれた声。
なんたる迂闊。
僕としたことが最大の危険要素を忘れていた。
この本が魔理沙に見つかればいったいどんな目にあうか創造もつかない。
魔理沙のことだから、このまま奥の部屋までやってくるだろう。
それまでにこの本を隠さなければ。
近くにあった風呂敷で本を包み、部屋の隅に蹴って追いやる。
と、同時に部屋の襖が勢いよく開かれる。
「よう香霖。今日も元気か! ……って何やってるんだ?」
「や、やぁ魔理沙。き、今日は何の用だい?」
咄嗟のことだったので体勢が少々不自然だったようだ。
しかし、危なかった。あと1秒遅れていれば魔理沙に見られているところだ。
「……まぁいいか。それよりも飯にしないか?私が精魂こめて作ってやるぞ?」
時折、魔理沙はこうやって僕にご飯を作りに来てくれる。正直な所、不精な僕には非常にありがたい。
「あ、ああ、ありがとう魔理沙。台所は好きに使ってくれていいよ。」
「なんだ、いつもは文句いうのに今日は随分殊勝じゃないか。とうとう私の魅力に気がついたか?」
「たまには感謝しとかないとね。でも魔理沙、年頃の娘が男の家に上がりこんで料理するというのはだね……」
「ああもう、わかったわかった。とりあえず台所借りるぜー。」
逃げるように台所へ行ってしまう魔理沙。
まったくなにを考えているのやら。
「っと、考え事してる場合じゃないな。」
魔理沙の目がないうちにあの本をなんとかしないと。
押入れにスペースを作り、奥の方に本を押し込んでさらにガラクタでカモフラージュする。
売れない物でも役に立つことがあるんだな。

……
………



「ふぅ、おいしかったよ。ごちそうさま。」
「ああ、おそまつさま。」
昼のメニューはも饂飩だった。
料理人曰く、
「今日の饂飩は月製だから電波入りだぜ。」
いったいなんのことやら。
「さて、それじゃそろそろ店を開けるかな。」
「店なんて開けても開けなくても一緒だろ?客なんか来ないじゃないか。」
「そんなことはないさ。霊夢や魔理沙以外にも客はいるんだよ。」
「紅魔館のメイドとか里の歴史妖怪だろ。あれは客というのか?」
「……少なくとも、上白沢さんはちゃんと代価を払ってくれるよ。」
常連の中では唯一といっていいほど良心的な上白沢さんは家計の救世主でもある。
紅魔館のメイドの十六夜さんは、料金以上に商品を持っていくから困りものだ。
「店主自ら仕事を放棄しちゃどうしようもないよ。魔理沙こそ魔法の実験とかしなくていいのかい?」
「ずいぶんと邪険にされるな。ま、皿洗ったら帰るから気にしないでくれ。」
「そんなことはないさ。それと、いつも言ってるけどあまりそこら辺の物は触らないでくれよ。まだ鑑定してないから危険な物もあるかもしれないからな。」
「わかってるって。心配性だな香霖は。」
そういって、皿を下げる魔理沙。なんとか誤魔化せたかな……?
「これでおとなしく帰ってくれればいいんだけどな……。」

……
………



「じゃ、お邪魔したな香霖。」
店を開けて半刻。魔理沙が奥から出てくる。
「随分遅かったじゃ……って、その手に持ってるのはなんだい、魔理沙。」
「まったく香霖も人が悪いぜ。魔道書があるならそういってくれよ。」
血の気が引くのを自覚できた。
「香霖も人が悪いぜ。外の世界の魔道書があるならあるって言ってくれよ。」
魔理沙の手にあるのは見覚えのある風呂敷。
間違いない、押入れの奥の奥に隠したはずの春画本だ。
「待つんだ、魔理沙!その魔道書は危険なものなんだ。勝手に触ると危ない!」
咄嗟に嘘を付いて取り替えそうと試みる。が、
「何言ってるんだ、ヴワル魔法図書館常連の、この私に危険な魔道書なんてあんまりないぜ?」
ひょいと魔理沙にかわされてしまう。
「いつもいつも手癖が悪いな、魔理沙は。紅魔館からいつも本を奪ってるんだろう。新聞に書いてあったぞ?」
なんとか奪い返そうと手を伸ばし、袋の端をつかみ引っ張る。
「げ、香霖もあの三流新聞読んでたのかよ。あれは奪ったんじゃない、借りてるだけだ!」
魔理沙もそうはいかじと抵抗してくる。
「いつもいつもそうやって店の商品も持っていくんだから!たまにはツケを払ってくれ!」
「ああ!私が寿命で死んだら、遺産は好きなだけ持って行っていいぞ!ただし、死ぬのは120年ほど後を予定しているけどな!」
お互いに引っ張り合っているせいか、包んでいた風呂敷から不吉な音がしてきた。
しかし、ここで手を緩めるわけにはいかない。
「……ぐぬぬぬ!」
「このぉ……!」
包んでいた風呂敷はもうだめよといわんばかりに引き千切れた。
勢いあまって、辺りに散らばる魔道書、もとい春画本。
「……。」
「……。」
気まずい沈黙があたりを支配する。
「えーと、これはなんだ。こーりん?」
「は、ははははは。」
笑うしかない状況だった。
「まぁ、こ、香霖も男だもんな。こ、こういうのに興味はあるよな。」
魔理沙の目の前に落ちている本。そこには金髪の女の子が艶かしく踊っていた。
ふらりと幽鬼のように魔理沙が立ち上がる。
「ま、待て落ち着くんだ魔理沙!これには深いわけがあってだな……。」
「そうそう、香霖。たった今新しいスペル思いついたんだ。」
じりじりと迫る魔理沙と、じりじりとあとずさる僕。
「へ、へぇ。さ…さすが魔理沙だね。そ…それならきっと霊夢にも勝てる……よ?」
「やっぱりここは香霖に一番最初に見てもらわないとな。慮もお釣りもいらないぜ?全部もっていくといい。」
だめだ、もうだめだ。
魔理沙の口は笑っているが目が笑っていない。
あの目は本気だ。マジと書いて本気と読む目だ。
ああ、いつの間にか馬乗りされている。
あの手の四角いのはスペルカードだろうか。粥……美味……。
「光掌『ブレイジングフィンガーーーーーーーーーーーーーーーー!!』」
星を纏って光り輝く魔理沙の手が振り下ろされると同時に、僕の意識は途絶えた。

































夕刻。カラスの鳴き声も遠くなりかけた時分。店のドアが開く。
「霖之助さん、いるー?ちょっとお茶葉分けて欲し……って、あははははは!」
「何を笑っているんだい、霊夢。いくら君でも失礼じゃないか。」
店に入ってくるなり笑うとは……、どういう教育されてきたんだ、まったく。
「ぷっ、くくくくく、ごめんなさい霖之助さん。でもその顔見たら……無理ないわよ。」
「僕の顔になにかおもしろい物でついているのかい?」
いったいなんだというのだ。憮然として答える。
「は……はぁはぁはぁ、だって……。」
よほどツボに入ったのか、呼吸を整えながら霊夢が答える
「ほら、頬に大きな『紅葉』」













平手打ちの痕を紅葉というのはうちの地方だけの風習じゃありませんように
新角
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2005/10/19 08:14:10
更新日時:
2005/10/21 23:14:10
評価:
25/27
POINT:
132
Rate:
1.21
1. 6 月城 可奈女 ■2005/10/20 00:53:05
まさかと思ったけど本当にこう紅葉を使ってくれる人が居るとわ(笑)。とても滑らかに勢いが良かったので気持ちよく楽しめました。
2. 7 匿名 ■2005/10/20 04:14:36
落とし方が最高だと思いました。上手いなあ。
3. 4 おやつ ■2005/10/21 01:37:32
霖之助さん……あんたひょっとして天然不幸属性持ち?
そういう病気は髪とか眼とかが紅い人によくあるらしいですぜ?
一度医者に診てもらうことをお勧めします。
4. 6 papa ■2005/10/22 13:30:22
香霖・・・君には同情するよ。
変態じゃないけれど、その分何かと幸の薄い香霖に幸あれ。
5. 1 おビールをお持ちしました ■2005/10/22 21:09:51
……キツイ
6. 6 一之瀬翔弥 ■2005/10/23 00:07:19
こーりん、強く生きてくれ…。
いや、面白かったです。
すっきりシェイプアップされているのもgood♪
7. 7 MIM.E ■2005/10/23 12:28:45
俺も紅葉で真っ先に思いついたのが平手打ちだったよ。
友人に紅葉で連想するもの聞いたらやっぱり平手打ちだったよ。
みんな同じ地方出身じゃないとよいですねっと。
そしてGJ、楽しい話でした。魔理沙いいなぁ。
8. 4 床間たろひ ■2005/10/23 17:51:21
広島名物、紅葉まんじゅう〜

えぇ、小学生の頃はみんな背中に紅葉を背負ってましたよ。
女子に冷ややかな目で見られながら……
9. 7 Tomo ■2005/10/24 11:25:17
紅葉というお題からその着想が出てくるあたりお見事。これは予想していませんでした。魔理沙の反応がすごく魔理沙らしい上に、ちょっといじらしい感じもして面白く読みました。
10. 5 藤村りゅ ■2005/10/24 15:51:23
 ベタですな。あと、えろい展開を期待したのは私だけではないはずだ。きっとそうだ。

 流石に、首の絞め痕を紅葉と呼ぶのはうちだけの風習だったようです。
 あとやっぱり金髪美女は相当にglamourousだったんでしょうなあ。
11. フリーレス 楠木忍 ■2005/10/24 22:48:50
よもやこんな所でバイオネタを見るとは思いませんでした。

ちなみに自分の近辺でも、真っ赤な平手痕を『紅葉』と言います。
12. 3 es-cape ■2005/10/25 02:52:11
エロ本が見つかる→女が男に馬乗り→肉と肉のぶつかり合い

これだけ見るとネチョいのネチョくないのって黙れ私これは他の人のコメントときっと被っている。
写真集のモデルがあくまで妙齢の女性であって、年端も行かぬ少女ではないことに良心を見ました。誰かの。
13. 5 木村圭 ■2005/10/25 21:43:27
蒐集癖もここまで来れば職人芸なのかー?
エロ本一つで気絶するほどはたき飛ばせる純情魔理沙が可愛いっす。
14. 7 世界爺 ■2005/10/26 00:55:34
こっちでもそういいます。ばちばち叩いて遊んでた少年時代(何

しかし香霖って……つくづく思うけど何者なのか。
魔理沙やら霊夢やらが怒涛のアプローチ(語弊あり)かけてもなびかない。
さらに今回拾った春画本にも(そっち方面で)興味はない。
アレか、やっぱり妖怪ですかこの人。色々と。
15. 8 ■2005/10/27 23:01:33
うちの地方ですと、体育の着替え時には、何よりも背後から襲い来る紅葉が恐れられていたもんです…(遠い目)
16. 4 ■2005/10/27 23:18:48
笑わせてもらいましたw
魔理沙も乙女ですからねーこーりんも男ですからねーあはは
17. 8 七死 ■2005/10/28 00:01:27
や、このネタは絶対誰かやると思ってました。
びんたの跡を紅葉というのは、太陽系だと木星くんだりまで通用する世界共通言語だと死んだ祖母が申しておりましたので、

それにしてもブレイジングフィンガー。
香霖の首がもげてなかったのは奇跡というかなんと言うか。

まあ、魔理沙のこう言う一面を魅せてくれる話にあっしは目が無いもんでして。
語り口調も小気味良く、旨いお話、有難うございました。
18. 4 美鈴まさき ■2005/10/28 04:14:54
 災難なこーりんに南無。
 魔理沙なら逆に面白がって幻想卿中に広めそうな気もしますが。
19. 3 風雅 ■2005/10/28 14:31:58
>平手打ちの痕を紅葉という
意外と多数ネタのようで。そちらだけじゃなくてよかった……のか?
しかし魔理沙、そのくらい許してやりなさいな(笑)
あと、ちょっと誤字が目立ちましたのでご注意を。
20. 3 ■2005/10/28 14:53:06
ビンタだったのか。なぜかアイアンクローを想像してしまった。スペル名のせいかな(苦笑)。
シチュは定番だけど、お題の絡め方が素敵だ。
21. 6 K.M ■2005/10/28 17:44:42
ビンタの痕をモミジに例えるのはお話の中では結構有る気がします
それにしても、ただ間が悪かっただけで輝く指を叩き込まれた霖之助、いと哀れ
22. 5 名無しでごめん ■2005/10/28 20:39:05
こーりんどー、かむばぁーーっく。
頬の紅葉を使った中では一番の王道作品だったと思います。
それにしても霖之助が悲惨なことに。……漢の子だもの(違
23. 5 流砂 ■2005/10/28 20:46:03
この魔理沙がなんか可愛くて仕方ないと思うのはウチだけじゃありませんように
24. 5 弥生月文 ■2005/10/28 23:18:01
 
25. 6 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:55:27
大丈夫です、うちでもいいます。しかし、さすがの香霖も幻想郷の外のゴミのカムフラージュ方法までは知らなかったか……。
欠点は比較的短い事ぐらいでしょうか。でも、一発ネタ系ですからこの方がいいのかも。
26. 7 IC ■2005/10/28 23:57:28
-_-っ/凵チ-ン
二次の変態属性が染み付いているせいか、普通な香霖が普通にやられてるだけで新鮮な笑いが。
27. フリーレス 新角 ■2005/10/30 01:04:32
作者コメント欄書いた時はどうなるかと思ってたんですが、結構ネタが被っていた様である意味安心?
こちらの予想以上に好評だったようで本当にスッパテンコー状態です。
コメント付けてくださった皆様、本当にありがとうございます。

SS書くのは初めてだったのですが、ここでの評価を大切にして次回作書ければ、と思います。
もし創想話等で見かけた際にはニヤニヤしてやってください。
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