冷凍保存採用のこと

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/19 08:30:47 更新日時: 2005/10/21 23:30:47 評価: 24/25 POINT: 130 Rate: 1.24
 薄日しか差し込んでこない晩秋の森に、冷たい風が吹く。そこかしこに転が
る氷塊のせいか、例年よりも心なしか冷たく感じる。本来、森に存在するはず
のない異物が醸し出すのは違和感と寒気。そこに――
「ふんふんふーん」
 どこからともなく鼻歌が聞こえてくる。その先で一匹の氷精が今も氷塊を増
やし続けていた。


 チルノは上機嫌に氷を創り出し、
「うんうん、いい出来ね」
 満足げに一人頷く。彼女の行く先には一つ、また一つと氷塊が転がっていく。
そんな彼女の周りから、ふいに明るさが消えた。


「あれ?」
 訝しむチルノ。顔を巡らせて周囲を確認するが、辺りは暗くなったままだ。
陽に雲がかかった――ということとは異なり、もうすぐ夜になってしまいそう
な程に暗い。
「なにしてるのー?」
 彼女の頭上から声をかける、こちらも幼い声の持ち主。チルノが見上げると、
金髪の少女が宙に浮いていた。





「あたい、もうすぐ起き出してくる友達にこの紅葉を見せたいんだ」
 何でこんなことをしているのか? との問いにチルノはこう答えた。彼女の
友達は冬の間しか活動しないらしい。
「ひょっとすると、見たことがないかもしれないじゃない」
 驚いてくれるかなぁ……と、笑顔で話す彼女に、
「うん、きっと喜んでくれるよ!」
 と、こちらも笑顔で同意するルーミア。


「それでね、こうやって」
 チルノはその場に屈むと、数枚の葉を巻き上げる。両手を頭上に掲げ、高い
音が鳴った後には、紅く染まった葉を閉ざした氷塊が出来ていた。
「これなら冬まで残せるって寸法」
 紅を内包した氷はさぞかし綺麗なのだろう、が。
「よく見えないね〜」
「あんたのせいでしょ!」
 鋭くツッコミが入り、鈍い音と共に崩れ落ちるルーミア。そう、彼女が来て
からというもの、辺りは暗くなったままだ。真っ暗というわけではないのだが、
鮮やかな色彩を楽しむことなどできそうにない。
「うーん……キレイなはずなんだけどなぁ」
「こ、氷で殴るのはちょっと酷すぎるんじゃないかな……」


「これ、キレイなんだよね?」
 落葉を拾い上げてルーミアが尋ねる。
「そのはずなのよ! よく見えないけど」
「わたしも見てみたいな、紅葉」
 時も場所も選ばず、彼女の周りでは宵闇となってしまう。光量を調整すれば
字くらいは読めなくもないが、周囲を眺めても、
「うーん、木があるのは分かるくらい」
「やっぱり、あんたには無理ね」
 二人して溜息を吐く。


「お邪魔にならないうちに退散するわ。それじゃ〜」
 そう言ってルーミアは去っていった。彼女が去ると、森に再び薄日が差し込
んでくる。今までの暗さが嘘のようだ。この明るさならまだまだ作業は進めら
れるだろう。
「もう一息、頑張るわよ」
 友達が喜んでくれることを想像してか、チルノの足取りは軽い。





 数日後





「こりゃまた随分と……」
 異変の報せを受けて霊夢が山に入ると、そこかしこに大小様々な氷が鎮座す
る凄まじい光景が目に入ってきた。事の顛末が嫌でもある程度は予想できてし
まう。
「あれ? 紅白じゃない。どうしたの?」
 霊夢の衣装はどんな場所でも目立つ。チルノもすぐに気が付いた。


「……どうしたの、じゃないわよ。聞くまでもないと思うけど、これはあんた
 がやったのよね?」
「もっちろん!」
 胸を張って答えるチルノ。彼女は嬉々として計画を話し始めた。紅葉が綺麗
だったこと。レティにも見せてあげたいと思ったこと。彼女は冬が深まるまで
出てこないこと。――そして、何故こんなことをしているのかということ。
 皆まで聞かなくても理解出来た。霊夢の顔はチルノとは対称的に苦虫を噛み
潰したようなものになっていく。彼女は溜息一つの後、
「悪いけど、その話はご破算よ」
 普段以上にやる気のない顔で宣告した。


「な、なんでよ!?」
 チルノが激昂する。山に入れなくては冬支度が進められないから、氷塊が邪
魔なのだ、と霊夢は説明したが、彼女は聞く耳を持たない。
「……なんで私が人間の都合なんかにっ!」
 そこかしこから冷気を集め、敵意を剥き出しにする彼女の前に、霊夢は小さ
く呟いた。
「本当、しょうがないわね……」




















「……あれ?」
 地面に倒れていたはずのチルノが、頭に柔らかい感触を得て目を覚ます。
「あ……目が覚めた?」
 その彼女の目に前には懐かしい顔があった。


「レティ……ッ!?」
「相変わらず泣き虫ねぇ」
 思わす起き上がり、泣き出したチルノを慌てることなくあやす。声を詰まら
せて泣くチルノはぽつりぽつりと事情を語り始めた。


「あ、あたしは……レティと一緒に紅葉を見たかっただけなのに……」
「チルノ」
 泣き止まないチルノの言葉を一旦止めて、優しい口調でレティが話す。
「ありがとう、あなたの気持ちは嬉しいわ。それに、そのお願いはもう叶って
 いるの。ほら……」
 空からは緩やかに初雪が降り出していた。
「あ」
 紅葉もまだ――そこにあった。氷塊がたくさん転がっているとっても不可思
議な光景だけれど、レティが隣に居てくれる。
「うん、来てくれてありがとう……レティ」





「手間をかけさせちゃったかしら」
 チルノが再び眠りについたのを確認して、レティがどこへともなく話しかけ
た。
「あんたより、もっと寝起きの悪いのを知ってるわ。それよりも、さっさとあ
 の氷をどかして頂戴」
「あらあら、この娘ったら疲れて眠っちゃったわ。明日まで待って頂戴な」
 うんざりした様子の声が返ってくるが、彼女は気にした風もなく流す。その
様に、霊夢は苦笑しながら呟いた。
「ほんっとに」

「「しょうがないわね」」
読んでくださった方、ありがとうございます。
私の話は登場人物がおせっかい焼きばかりになる気がするのですが、
その辺がうざったくなっていなければいいなぁと切に願います。それ以前の問d(略

一度チルノメインで話を作ってみたかったので、
何とか作り終えることができて嬉しい限りです。
あと、ルーミアごめんよ。オチで苦しんでほとんど全部カットしてしまいました。
みどりの
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最新
投稿日時:
2005/10/19 08:30:47
更新日時:
2005/10/21 23:30:47
評価:
24/25
POINT:
130
Rate:
1.24
1. 5 匿名 ■2005/10/20 03:53:46
これは良いおせっかいですね。
2. 3 おやつ ■2005/10/21 01:48:08
頑張るチルノが好きです。
真っ直ぐで一途なバカは本当にカッコいい。
3. 6 床間たろひ ■2005/10/21 22:10:40
文花帖で否定されちゃったけど、レティチルはこういう親子のような関係が
好き。
霊夢も甘いね。だがその甘さ……嫌いじゃないぜ。
4. 9 七死 ■2005/10/22 10:57:23
キターッ!!
こう言う浪花節ににはおっちゃんめっさ弱いのよ!!

チルノはこう言う一生懸命な脱線気味の頑張りが実に良く似合う。
確かにボリュームは少ないかもと思うけど、でも旨みしっかり冷凍保存!

霊夢の粋な図らないに、ご苦労さんの駄賃も兼ねて。
さて私も氷の紅葉をじっくりと堪能しますか、もう一度読むことでね!
5. 6 papa ■2005/10/22 13:35:48
こういうほのぼのとした話は好きです。

でも展開が速い気がしますけれど。
6. 3 一之瀬翔弥 ■2005/10/23 00:11:42
ふんわり読めました♪
ちょっとみんな”性善”過ぎるかな…。仰るとおり。
でも楽しく。
7. 6 MIM.E ■2005/10/23 12:55:08
ルーミアって実は不憫なのかなと思ったり思わなかったり。
そしてチルノは愛されてるなぁと思う作品でした。
みんなおせっかい焼きでいいと思います。
8. 6 おビールをお持ちしました ■2005/10/23 19:03:37
ほのぼの。
ほんわかしました。
9. 4 Tomo ■2005/10/24 11:24:27
タイトルの印象に比べて、予想外にしっとりとした雰囲気だったので意外でした。紅葉を閉じ込めた氷塊の、映像的な広がりがもっと欲しいと思いました。
10. 5 藤村りゅ ■2005/10/24 15:52:26
 理想的な展開として、打ちひしがれるチルノが見たかったという私は鬼畜ですか。
 確かに、ルーミアは浮いてるような。ここは泣きべそをかくチルノのために散ってくれと願う私(ry
 レティの登場がやや唐突に思えるので、霊夢とチルノのバトルなどを織り込んだりしてタメを作っても良かったかも。
11. 5 es-cape ■2005/10/25 01:46:14
ルーミアが切ないです。
いえ出番を削られたということではなく。
そうか……ルーミアは見たくても見れないのですね……。
私の中ではチルノや霊夢やレティよりも、ルーミアの方が大きな位置を占めてしまったのでした。
12. 7 銀の夢 ■2005/10/25 10:32:29
あったかくて優しい氷の華をありがとうと言いたいです……
13. 5 木村圭 ■2005/10/25 21:42:34
おせっかい焼きは大好きです。それにしてもチルノはいい娘だわぁ。
人の通らない所に氷塊を移動させりゃいいじゃんなんて無粋なことを考えた私はきっと負け組。
14. 6 世界爺 ■2005/10/26 00:56:33
霊夢にしては珍しいアフターケア付。
後腐れなく終わらせられるあたりが実に空飛ぶ巫女。

にしてもチルノは可愛いなあ。
誰かのために頑張れるというのはそうそうない。
ちょっとお馬鹿だけど、そこもまたよし。
15. 8 ■2005/10/27 23:04:09
惜しいっ!ルーミアの部分もカットしてなければ9点か10点あげたいっ!(笑)バカならではの一途さって好きです。それと、バカをちゃんとフォローして何事もなかったように振舞う周囲も。しょうがないなあ。
16. 5 ■2005/10/27 23:22:38
霊夢が一瞬ものすごい悪人に見えたのはとにかく。
心温まる話でした。
17. 3 風雅 ■2005/10/28 14:32:52
やっぱり省かれた部分が引っかかってしまいますね。
妖精にとって人間の都合なんて関係ないんだ、とふと考えさせてくれる作品でした。
18. 6 K.M ■2005/10/28 17:34:47
決して、うざったくなってはいなかったと思います
みんながみんな優しい人or人外だからこそ迎えたハッピーエンド
めでたしめでたし。良かった良かった
19. 6 名無しでごめん ■2005/10/28 20:39:46
氷メインながら温かい話を有難うございます。
飄々としつつも、お節介焼きな霊夢がまた良いです。
20. 6 流砂 ■2005/10/28 20:54:46
短いながらも強く印象に残る作品でした。
カットするという思い切りのよさにも脱帽。 むぅ。
チルノが健気で可愛い。 チルノって実は一番人間らしいのでは無いだろうか。
21. 5 弥生月文 ■2005/10/28 23:19:02
 
22. 4 ななし ■2005/10/28 23:19:48
すみません、コメント間に合いません。
23. フリーレス 名前は無しで ■2005/10/28 23:37:10
カタマリの氷に紅葉。
ちょっと見てみたいかもしれません。
紅葉狩りならぬ、氷結紅葉狩りでしょうか?
しかし……綺麗なものを誰かに見せたいという願いは、なかなか難しいものですね……
24. 6 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:56:27
チルノかわいいよチルノ。楽しく読ませていただきました。
紅葉入り氷塊、ちょっと見てみたいかも。
25. 5 IC ■2005/10/28 23:58:29
なんだかんだで霊夢優しいなぁと。
春が近づいたらまた何かやらかしそうなチルノですね。
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