秋の日の盗難事件

作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/19 08:52:40 更新日時: 2005/10/21 23:52:40 評価: 23/24 POINT: 125 Rate: 1.25



「天狗の団扇、盗難」
 ○月○日、幻想郷○地区の本紙記者宅で、天狗の団扇が何者かによって偽者とすり替えられていたことが分かった。
偽物は非常に精巧にできており、被害にあったS(本人希望により匿名、天狗)も、実際に使用してみるまですり替えに気づかなかったという。
団扇には大きな力が秘められており、万が一悪用されれば大変なことになる。事件当夜、記者宅に鍵は掛かっていなかった。
 Sは、「今までこのようなことはなく、まさかという思いです。大切なものなので、犯人は早く名乗り出て返して欲しい」と訴えた。
本紙では事件を重大視、専門の調査班を組織して盗まれた団扇の行方を追っている。(射命丸 文)



「秋、満開」
 絶好の行楽日和となった×日、多くの幻想郷の住人達がこぞって紅葉狩りに繰り出した。一昨日までの肌寒さとは打って変わり、汗ばむ陽気となった先日、各地で宴会が執り行われた。中でも紅葉の名所としても名高い博麗神社では、人間、妖怪、妖精、幽霊と幅広い住人が集まり、昨日一番の宴会となった。また、一部の酔った参加者が弾幕ごっこを繰り広げ、宴に花を添えた。
 なお、流れ弾により参加者のチルノ(妖精)が負傷し、臨時の治療室となった社殿の一室から時折悲痛な声が上がったが、他の参加者はあまり気に留めなかったようである。治療にあたった八意永琳(蓬莱人)は、「怪我そのものは軽いですから、唾付けときゃ治ります」と笑顔で語った。(射命丸 文)


文々。新聞 ○月○日朝刊 社会面及び地域面より抜粋


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霊夢は不機嫌だった。
とりあえず不機嫌で、深呼吸しても不機嫌で、一度目を瞑って精神統一を試みても、統一見解は不機嫌だということで、やっぱり霊夢は不機嫌だった。

住人達の目を大いに楽しませた紅葉も、落ちてしまえばただのごみ。
風情が無いなど言うなかれ。一度や二度ならいざしらず、それが毎日ともなれば、掃除はただひたすら煩雑で面倒。
それにもまして境内には宴会の爪痕が色濃く残り、いったいどこから片付ければよいのか。
手伝う者など居やしない。便利な鬼も今日に限って居やしない。
くそう、なんてこったい。

「ちょっ…霊夢さん、……てるん……か、霊夢さん」

それでもいつもだったら大抵誰かが騒ぎに来るので、力づくで徴兵もとい紳士淑女の話し合いによって手伝ってもらえば少しはサボれいやいや効率的に仕事が進むというのに。

「もしもーし、霊夢さん、応答願います。こちらHQ、霊夢さん応答願います」

だのにこいつときたらっっっ。

「いいですか霊夢さん私はまじめな話をしているんですもう秋ですよいつまで春のつもりでぼんやりしてるんですかそういう態度ですと本紙としてもいろいろな手段を考えなければっ」

「やかましいわっ」

玉串代わりに竹箒を一閃一払い。
こうしてみると、ある意味玉串も竹箒も用途は似たようなものだ。

「痛いです非道いです柄のほうで叩くなんてこれはもう傷害罪で訴えるしか」

「五月蝿い、穂で叩いたら髪が絡まって大変でしょうが。せめてもの良心よ」

「まあ今回は大目に見ます。それでですね」

一事が万事この調子。片付けが進まないことこの上ない。
はああ、と大きなため息一つ。
ああ、もう今日は駄目。大体こんな好い天気なのに、片付けなんてやってられないわ。縁側でお茶でも飲みながらぼんやりするのが好いのよ。

そうと決めてしまえば存外現金なもので、機嫌も多少は和らいだ。

「でさ、何度も言うけど、私は盗みなんてしないし、昨日はここで寝てたわよ」

「アリバイになりません。過去にマヨヒガで巫女による日常品略奪の噂がありました。それに団扇は持っていくところに持っていけば高く売れます。前科も動機も十分ですっ」

毛羽立った。

「ほう、真っ先にここに来た理由がそれで、あまつさえ私が貧乏で貧しくてさもしくて時々献血までしないと食うに困るほど困窮している…と」

「当然でっ……いやあの、ちょっと、いややっぱり結構、いえその絶対、違うかな〜と思わないでもないんですけど、それでも一応と言うかとりあえず向かうならここかな〜と思っただけだったりっ。いやそれよりもそこまで言ってないというかどちらかというと後半の方が気になるというか衝撃の新事実というか、できれば根掘り葉掘り微に入り細を穿って伺いたいなぁとか思ったりなんかしてませんからできればそのお札をしまっていただけるとありがたいかな〜〜〜、なんて」

「や か ま しいわっ、他をあたれ、夢想封印っ」

「にょおわあああ、暴力反対ぃぃぃぃ」


ほんの少しだけ気が晴れると、そういえば、雨なんか降ったらもっと片づけがもっと大変になるわね。と呟いて、掃除を再開するのだった。

それからしばらくして…

「あら、これ何かしら…もしかして、いやでもまさかねぇ、うん、そんなはず無いわよねぇいくらなんでも」

とか何とか呟いていたのだがはて?


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「どわっはははっはっ、で、それからどうした」

「いやまあその後のことってあんた達の方が詳しいんじゃない」

「くっくっく、そうだよなぁ、いやこいつがいきなり泥棒っつってきたときは何事かと思ったが」

「泥棒ってのは嘘じゃないじゃないの」

「ははは、まあこうやって肴になってるんだから今回の事は許してやるぜ、なあパチュリー」

「聞いてないのね、魔理沙」

そうやってパチュリーの突込みをさらりと無視しつつ、魔理沙は豪快に笑いながら手にした杯を突き出した。
注がれた酒をまた一息に飲み干し、御代わりを何度も要請する。
心もち俯きながらも黙ってそれに従うのは、当然今回の元凶たる文その人。

あの後、魔理沙、アリス、香霖堂、紅魔館、湖と立て続けに襲撃し、ことごとく返り討ちにあった挙句、意気消沈して神社に戻ったところ、霊夢から団扇を渡された。
霊夢曰く、

「集めた葉っぱを燃やそうとしたら、中に混じってた。燃やす前でよかったわね」

何のことは無い。昨日の宴会で酔っ払った文は、でっかい紅葉の葉っぱと団扇を間違って持ち帰っただけのことなのだ。
で、喜びに咽ぶ文に、こう宣告した。
曰く、

「じゃ、あ、焼き芋でも焼きながらお話しましょうか。皆もいっぱい呼ばなきゃね。あ、もちろん払いは全部あんたね。みんなも喜ぶだろうし、いやあ楽しみね(はあと)」

文としては是が非でも辞退したいところであったが、「謹んでお断り申し上げます」の「つ」のところで、霊夢の手が懐に伸びるのを見、己の運命を悟った。
曰く、

「受け入れるしかなかったんです。それしか方法が…。笑顔って天狗も殺せるんですね。きっと」

そうして全宴会費用持ち及び肴になるという運命を受け入れ、今に至る。



「しかしまあ、見つかってよかったじゃないか。大事なもんなんだろ」

バンバンと乱暴に肩をたたきながら、魔理沙は文にも酒を勧めている。
もう開き直ったのか、細かいことは考えないのか、文もまたそれに応じて一気に器を空けた。
顔が赤いのは怒りか羞恥心か、はたまた今日は酔いが速いのか。多分きっと全部だろうなと思いながら、霊夢は萃香に寄りかかった。
今日こそは逃がさん。だいたい、どうせ見ていたに決まってるし、今朝いなかったのもその方が面白そうだったからに決まってる。

「そりゃぁもう大事ですよ〜。私にとってぇ命の次くらいに…いえ、私の命と言ってもいいかもぉ知れません〜」

「そこまで言うか。まあ、天狗に団扇は付き物っちゃ付き物だけどさ」

「えぇ〜まあ団扇ってぇ部分はぁ〜割とどうでもいいん〜ですけどぉ」

























『は?』


























「あ〜れ、皆さ〜んどうしたんですぅ。どうせ〜私持ちなん〜ですからぁ、飲まないと損ですよ〜しくしく」

「待て、団扇がどうでもいいってのはなんなんだ。聞き捨てならんぞ」

「あれぇ言ってません〜でしたっけ。こうやって使うんです〜」

詰め寄る魔理沙代表及び人妖どもの前で、やおら団扇をひっくり返し、軽く力を込めると…

パキッ

と音がして、団扇が二つに割れた。
正確には、団扇の柄の先だけが外れ、その下からは何かとんがった部分が姿を現す。
そのまま文は皆に背を向け、襖の前に仁王立ち

「いざっ」

と、気勢を放つと、ぶんと振り上げた腕が目にも留まらぬ速度で動き出し、しかし全体としては上から下、右から左へと流れながれて澱みなく、唖然とする一同を尻目に襖の二面を丸々移動したところでようやく止まった。

そうして根っからのブン屋はのたまったものである。

「明日の朝刊はこれで決まりですね。やっぱりこのペンじゃないと、筆がいまいち進まないって言うか、ノリが悪いって言うか」















我に返った霊夢が悶絶したのはまた別のお話。



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「団扇盗難事件解決。秋風に誘われて」
 先日発生した団扇盗難事件は、本紙調査班および協力者達の尽力により解決に到った。盗難にあったと見られていた団扇は博麗神社の境内でさわやかな秋の風を浴びているところを博麗霊夢(人間)によって発見され、同日、本紙記者に返還された。
 S(本人希望により匿名、天狗)は、「この団扇には風の属性があり、また常に私と共に空を飛び回っている。きっと酔った私に代わって取材しようと、一人飛び立ったのだろう。協力してくれた方々に深く感謝します」と、晴れやかに語った。
 団扇が単独で空を飛ぶ。そんなことがありえるのだろうか。しかし、ここ幻想郷では日夜様々な事件が発生し、また人知れず収束している。何が起きても、何が起きなくても不思議ではないのである。もし本当に団扇が一人で動いたのだとしたら、心を持つ相棒足りえるとしたら、それはすばらしいことではないのか。見上げた空は吸い込まれるほどに青く、私達を誘っているようにも見えた。(射命丸 文)


文々。新聞 ○月△日朝刊 社会面より抜粋

一発ネタでございます。
読んでくださった皆様ありがとうございます。早々に退散いたします〜。
IC
作品情報
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投稿日時:
2005/10/19 08:52:40
更新日時:
2005/10/21 23:52:40
評価:
23/24
POINT:
125
Rate:
1.25
1. 8 銀の夢 ■2005/10/19 08:33:37
文化帖を髣髴とさせる内容でした。GJ。
そして落ちに笑った……w
2. 5 匿名 ■2005/10/20 01:39:17
いつもペンを持っているから、どこから出しているのかと思えば……
3. 4 おやつ ■2005/10/21 23:12:54
文々。いいなぁ、一家に一部欲しいです。
それにしても、ペンだったとは……
4. 6 papa ■2005/10/22 14:34:53
最後、襖になんと書かれたのか、非常に気になります。
5. 2 一之瀬翔弥 ■2005/10/23 00:18:50
さっぱり読めて楽しかったです。
空白が大きめなので、一瞬”終わり?”と戸惑ったりはしましたが…。
6. 7 MIM.E ■2005/10/23 14:58:40
これはよい文ですね。
新聞の内容とか人に対する態度とか。
文には笑顔が似合いそうだなぁいろんな意味で。
○月△日朝刊の裏面に巫女乱心? の記事が乗ってそうですねw
7. 3 床間たろひ ■2005/10/24 01:17:47
むーオチにもう一捻り欲しかったかなーとか思ったり。
8. 5 Tomo ■2005/10/24 11:16:31
「文々。新聞」を使った構成にコインいっこ。自分自身のことを記事にしてしまう文たんがいいですね。
9. 5 藤村りゅ ■2005/10/24 15:54:54
 自己完結してます。まあもっと頑張れ鴉天狗、というかめげてないのが良い感じ。
 卑屈になっちゃいけませんよね。
 弄られ属性の文も珍しくて好きです。
10. 7 七死 ■2005/10/24 22:48:38
一流の呑ん兵衛が前後不覚になる可能性がひっかかりましたが、それはまあ端に置いといて、この文章からは狡猾な鳥類の匂いがする。

そうですね、この文章をもって一句詠んで見るとすると・・・・・・

文上手し ネタに難無し 落ち弱し

あんまり上手く行きませんでしたが、楽しませて頂きました。
11. 7 木村圭 ■2005/10/25 21:40:30
立て続けで消耗してたとはいえ、チルノにまで負ける文のヘタレっぷりがステキです。
天狗の身で酔っ払うほど呑んでも嘘八百な爽やか記事が書けるあたり、普段から当然のように嘘ばかり書いてるんだろうなー。
12. 5 世界爺 ■2005/10/26 00:58:21
いやちょっと待て、団扇じゃなかったのかそれ――――!!!
オーケー見事に騙されました。

ちょいあっさり目なのが惜しいなあ。
たらい回しにされて大騒ぎしてる文がもっと見たかった、かも。
13. 8 ■2005/10/27 23:24:51
ぶぶー!捏造記事っ!(笑)
14. 5 セノオ ■2005/10/27 23:38:13
平然としらばっくれた記事を書く文かわいいよ!!!
15. 6 ■2005/10/27 23:38:24
オチに笑いました。
しかも文本人が記事にしてるのもまた……w
16. 5 美鈴まさき ■2005/10/28 03:20:52
 やはり文は自分の醜聞となるとグレー領域な書き方をするイメージありますね。
17. 5 風雅 ■2005/10/28 14:35:00
ペンか……ペンなのか、文(笑)
頑張れ文、物事を美化するのも脚色するのも新聞のお仕事だ。
18. 3 ■2005/10/28 14:49:56
よわよわな文も可愛いな〜……ってちょっと待て、湖でも返り討ちにされたのか!?
よっぽど動揺してたんだなあやちー……あわれ。
19. 7 K.M ■2005/10/28 16:57:04
「ペンかよッ!!」
いかん、月並みだがこんなツッコミしか思いつかん・・・いや、もう一個あったか
「霊夢、そこまで飢えとったんかい!」
私は献血でカロリーメイト(チョコ味)とジュースを貰ったことがありますが・・・
献血って日付が手帳に記載されるから期間置かないと出来ないハズなんですけどね
20. 6 名無しでごめん ■2005/10/28 20:41:36
うわっ誤認報道ですよ、射命丸さん。
おまけに事実隠蔽とは閻魔様に舌を抜かれることになっても言い訳が……
ともあれ、楽しんで読ませていただきました。
21. 4 流砂 ■2005/10/28 21:48:55
文さん抜け目ないなぁ。 地がちょっと読み辛かった、が新聞はかなりイカしててた。
22. 5 弥生月文 ■2005/10/28 23:21:30
文さん、そのペンはデカい葉っぱのウェイトで凄く書きにくくなってるんじゃないかと俺は思うんだw
23. 7 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:58:13
それペンかよっ!?
と、不覚にも吹きそして突っ込んでしまいました。
一発ネタではあるのですが、ネタの前の部分も比較的ちゃんと描写されているのが好印象ですね。
24. フリーレス Aretteinfor ■2011/09/02 04:28:12
私が探していたものを、ありがとう
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