作品集: 最新 投稿日時: 2005/10/19 08:55:18 更新日時: 2005/10/21 23:55:18 評価: 20/21 POINT: 108 Rate: 1.27
「あら?」
 歩みを止めてふと顔を上げると、木の枝に一人の女性が腰を掛けて座っていた。
 金色の長い髪を無造作に下ろし、意味を成していない日傘を手の中で弄びながら。

「あら…」
 眺めていた空から視線を外しふと見下ろすと、一人の少女が立っていた。
 青と白の冷たい色を身にまとい、雪のように白い帽子を被って。

 二人が互いに姿を確認すると、
「珍しい」
 息を合わせたように、同時に声を上げた。





「貴女がこんな時間に起きているなんて、珍しいこともあったもんね。お天道様はまだ空
 の上を散歩している時間だというのに」
 木の下の少女は、幹に背中を預けながら見上げるて言う。
「眠りに着く前に、秋を楽しんでおこうと思ってね」
「もう冬眠の準備? 随分と早い」
「今年は色々と働きすぎて疲れたから、少し早めに寝ようかと思ったんだけどね。でも葉
 の落ちる様を見ておかないと、何だか年が終わった気がしないのよ」
「貴女の季節から冬がすっぽりと無くなっている事が悲しいわね」
 そう言って少女は、肩をすくめた。

「貴女が起きてくることも珍しいわよ、今だ秋深まらぬこの時期に。貴女の時間はまだ先
 でしょうに」
 木の上の女性は、足を組みなおしながら見下ろす。
「ちょっと寝苦しかったから目が覚めたのよ。何時まで経っても暑さが引かないし、冬の
 香りも微塵も感じさせないし」
「そうかしら? 暑くもなく寒くもない、いい陽気じゃないの」
「貴女達にとってはね。でも私には少し暑すぎる。去年の今頃はもう少し寝やすかったよ
 うな気がするけど。夏が長すぎなのじゃなのかしら」
「夏はいつも通りよ、ただちょっと前の冬が欲張りすぎただけ。そのせいで季節がちょっ
 とズレてるのよ」
 そう言って女性は、目の前の葉っぱを指で弄ぶ。


 突き抜けるように高い空に、楽しむかのようにゆっくりと闊歩する雲。
 いつもよりも長い影を背負いながら、悠々と飛び回るトンボ。
 秋の色に染まり始めた空ではあったが、照らされる木々の葉はまだ青く、夏の名残りが
そこにはあった。
 確かに何時もならもう紅く色付いてもおかしくない時期ではあったが、彼女の言った通り、
まだ夏は遊び足りないらしい。
 二人はその景色をじっと眺める。
 鬱陶しそうに、名残惜しそうに。
 あるいは、先にある冬という季節を望みながら。


 しばらく二人の間に沈黙があった後。
 少女は預けていた幹から体を開放し、ぐっと空に向かって伸びをした。
「そろそろ行くわ」
 そのまま一歩と足を踏み出す。
「これから何処へ?」
「散歩。もう一眠りする前に、ちょっと辺りの様子でも楽しんでおこうかと思ってね。
 それに…」
 少女は少し可笑しそうに、続けていった。
「少しくらい寒いほうが葉も落ちやすいでしょうに」
 その言葉に女性も、ふふっと笑いを漏らす。
「楽しんでらっしゃい、でもほどほどにね」
 木の上からの声に、振り向かずに手を振って答えると、ゆっくりとした足取りで少女は
歩いていく。


 少女が見えなくなると、木の上の彼女は一つ欠伸をもらした。
「私ももう一眠りしようかしら」
 今はまだ、夏の色を残している景色。
 だがそれも今日までの話。
 次に目を覚ます頃には、見違えるほどに紅く染まっているだろう。
 一足早い冬が目を覚ましたのだから。
 遊びすぎた夏に終わりを告げるために、彼女の目を覚ましたのだから。

 どうやら今年は何時も以上に美しい紅葉が見れそうだ。
 彼女はその光景を思い浮かべ、隙間へと姿を消した。


何も残らないかもしれないけど、
何か残ったら嬉しいです。

短い読み物ですが、
最後まで読んでくださった方々、
ありがとうございます。
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最新
投稿日時:
2005/10/19 08:55:18
更新日時:
2005/10/21 23:55:18
評価:
20/21
POINT:
108
Rate:
1.27
1. 4 匿名 ■2005/10/19 01:41:35
そういう秋の見方もあるのか……
2. 5 七死 ■2005/10/19 22:17:00
惜しい!
構成にもう一捻り欲しいぜ!

例えばなんで紫が冬に冬眠するのか?
レティが春から秋まで寝てしまう理由と対にして書かれていれば、評価は二味変わった事でしょう。

でも文章自体は嫌いじゃない。
幻想郷の一場面っていっつもこんな感じですよね。
やや寒くなってきた秋風の中、ほのぼの、そうほのぼの。
3. 4 es-cape ■2005/10/19 23:29:13
 寒暖の差は激しい方が紅葉は綺麗に色付くとか。
 なればなるほどこの年の紅は鮮やかになることでしょう。
4. 5 おやつ ■2005/10/21 23:37:44
そうか……この二人って会うことが無いんだ。
珍しい会合はきっと二人に何かを残すんでしょう。
もっとも、紫様は起きたら忘れてしまいそうですが。
5. 6 papa ■2005/10/22 14:49:26
そういえば、この二人も秋と冬の境界で出会える者なんですね。
冬と春の境界はよく見かけますけれど。
6. 4 一之瀬翔弥 ■2005/10/23 00:24:33
大人びた二人に乾杯。
7. 7 MIM.E ■2005/10/23 15:51:30
二人は意外と気が合うのかもしれませんね。
毎年一度、あるいは何年かに一度偶然会って四季を感じる間柄。
幻想郷の妖怪だからありえる不思議な関係。
GJでした。
8. 6 床間たろひ ■2005/10/24 01:29:14
レティ(だよね?)と紫、珍しい組み合わせですね。
冬の妖怪と、冬眠する妖怪。二人の接点が赤い紅葉の季節というのも
必然なのかも。
文花帖を読んでもなお、レティは冬の到来と共に目覚め、春の訪れと
共に消える儚いイメージが拭い去れません。
9. 5 Tomo ■2005/10/24 11:13:22
登場人物を見分け難いのが気になりましたが、描写が丁寧で、とくに序盤はリズム感もあって素敵です。また、背景に白を選択されていたのが効果的だったと思います。
10. 8 藤村りゅ ■2005/10/24 15:58:31
 珍しい組み合わせ、それでいて据わりが良く、短くてなお良し。
 寒さに身体が引き締まると言った調子。
11. 4 木村圭 ■2005/10/25 21:38:58
ほのぼのー。
本来会うことの無い二人の邂逅にも不思議さを感じさせない不思議。
ちょっぴりの非日常があちこちに溢れてるんでしょうかね、幻想郷って所は。
12. 5 世界爺 ■2005/10/26 01:02:11
何も残らぬ、想いが残る。

ああ、すっきりだなあ。すなわち爽やか。
話の尺に物足りないところもありますが、雰囲気が純粋に素敵だと思います。
13. 9 ■2005/10/27 23:42:57
自然の流れそのままの飄々とした会話がいいですね。そして、境界を操るだけに、季節ものの妖たちとは紫は確かに仲が良いのかも知れません。
14. 5 ■2005/10/27 23:47:54
普通の日常ですね。
普通なんですが、やはり心に残るものはあります。
幻想郷、という感じのこの空気感がいいと思いました。
15. 5 美鈴まさき ■2005/10/28 03:48:17
 ホント珍しい取り合わせです。
 意味深そうで、じつはたわいなさそうな雰囲気、結構好みです。
16. 3 風雅 ■2005/10/28 14:36:48
珍しい組み合わせですね。
しかし並べて見ると意外と似てるのかも。
殆ど寝てるところとk(ry
しかしやはり二人である必然性がほしかったところで。
17. 6 K.M ■2005/10/28 16:17:07
おぉ、珍しい組み合わせだ。しかし、のんびりした空気によく合っている。
18. フリーレス 名前は無し ■2005/10/28 17:10:38
幻想郷では妖精が季節を運んでくるのか、
それとも季節に乗って妖精が来るのか、
これは、いったいどっちなんだろう、とかたまに考えます。
普通に考えれば、現世と地続きになっているのだから、季節に乗って妖精が現れる、と考えた方が正しいのでしょうけれど、そうなって欲しくない気持ちがどこかにあります。
夏という妖精いて、冬という妖精もいて、そして、秋という妖精がいる。
春のリリーホワイトがそうするように、それぞれの季節を運んでくれる。
少なくとも幻想郷ではそうあって欲しい、そんな風に思います。
その方が、ちょっとばかり風流ではありませんか。秋雨前線が〜、とか温帯低気圧が〜、と言うよりも。
……なんか、感想になっていませんね、コレは。
読み終わった時に、ふとそう考えついてしまったということで、カンベンしてください……
19. 7 名無しでごめん ■2005/10/28 20:42:48
実にきれいに、良くまとまった一編だと思います。
レティの特性を活かした、最後数行が余韻を引きます。
短編の醍醐味といった所ではないでしょうか。
20. 5 弥生月文 ■2005/10/28 23:23:45
 
21. 5 SSを書きなぐる程度の能力 ■2005/10/28 23:59:34
意外な偶然の出会い、と思ったら。こうして幻想郷の季節は調整されるのですね。
短いながらも楽しませていただきました。
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