華なき花見に呑む酒に華あり

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/19 10:43:13 更新日時: 2006/03/22 01:43:13 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 電気ブラン

 ヴァンアレン

 ドブロイ波

 奇焼酎

 外来吟醸酒

 超古々神酒

 数々の酒を数々の方法で嗜んできたけど、これが一番ね。



 幻想郷の外れに人知れぬ庵を構え、幻想郷の全てを見通す大妖怪、八雲 紫がそこに暮らしていた。
 春を伝える嵐が通り過ぎ、紫は長い冬眠から目を覚ました。
「紫様、お目覚めになられましたか」
 枕もとには紫の式神、藍がいた。
「あら、随分と用意がいいのね。もしかして、もう春を通り過ぎてしまったのかしら」
「仰る通りです、紫様」
 藍がそう答えると、紫は起き上がり、庵の襖を開けた。
「…どうやら、そのようね」
 紫の視界に飛び込んできたのは、すっかり花が散ってしまった桜の木々だった。

 庵の庭には、桜の木々がそびえ立っている。紫が喰らった人間の遺骸が埋められ、それによって年々その紅味を増していっている。地に枯れ落ちた花びらが、それを物語っていた。
 紫の眠りは深く、冬眠から目を覚ますのも晩春の頃が常だった。紫は庭を歩き回り、溜め息をついた。
「満開の桜の木々に囲まれての宴会、やってみたいわね」
 そう言い放ち、庵の縁側に腰掛けると、紫は一本の木を凝視し始めた。
 目線の先にあるその木は、遅咲きの桜だった。毎年、この一本だけ遅れて咲き、遅れて散るのだ。
「やっぱりこの桜だけはまだ満開ね。今年もこれを呑む時がきたようね」
 紫はスキマから瓶を取り出し、盃に注いだ。目の前に咲く桜と同じ色をした酒だ。
「騒ぎながら呑む酒も良いけど、物静かに呑む酒も良いわね。そう思わないかしら、そこの通りすがりの花遣いさん?」


「あら、誰か居たのね。折角一人で楽しんでいたのに」
 桜の木の反対側に、何者かが居たのだ。紫はそれに気づき呼びかけ、その者はそれに答えて姿を現した。
 日傘を差し、赤と白の市松模様の服を身にまとっていた。その者の名は風見 幽香。花を自在に操れる妖怪だ。
「私も一人で楽しんでいたのよ」
「それじゃ、どうして呼びかけるのよ」
 幽香が不満げに言うと、紫は理由を述べた。
「ここは私の家。その桜は私の家の庭にあるものなのよ。見るだけでも勝手に家の中に上がりこまれちゃ…ねえ?」
「庭だけなら別に良いじゃない。それとも、私の力の強大さに気付かないのかしら?」
 花は自然の一部。自然は時として大地を揺るがし、全てを枯らし、全てを凍て尽くし、全てを水や灼熱地獄の中に飲み込む。それだけの猛威を振るう自然を一部分だけでも操る幽香は、強大な力を持っている。幽香は日傘を紫に向け、家ごと吹っ飛ばそうとした。
「私がどれだけ強いか分からせてやる! ってあれ?」
「ふふふ…気がついたようね」
 幽香は紫から発せられる気を感じ取った。そもそも、紫の発する気はとても禍々しく、普通の人間は近寄ることもままならないのだ。
「ほら、突っ立ってないで私の隣に座りなさって」
 紫は手招き、幽香を自分が座っている縁側に座らせた。


「あなたが噂に聞きし、幻想郷の境界を統べる大妖怪だったとは」
「この世界が好きでやっているだけのことよ」
「それにしても、こんな辺境に春の花が残ってたなんて」
「そうでしょう〜、家の自慢の遅咲き桜なのよ」
 紫はいつもの胡散臭い口調で、幽香と話していた。
「私の友達の一人がこう言ったのよ、『花は集めて咲かせるのが美しい』と。でも、私は違うわ」
 そう言うと、紫は遅咲きの桜を見上げた。
「本当の美しさは、華やいだ中にはなく、物静かなところにあるわ。あなたもそう思わないかしら」
「確かに、花畑の美しさもあるけど、一輪挿しの美しさも悪くはないわね」
「そしてそれは、花だけに言えることではないわ」
 紫は瓶を差し出し、スキマから盃を取り出し、こう続けた。
「酒にも同じことが言えるの。宴会で飲む華やいだ酒も良いけど、一人で飲む華のない酒もまた格別よ」
 紫は盃に瓶の中身―桜色の酒を注ぎ、それを幽香に手渡した。
「これは花酒という酒よ。さあ、お飲みになって」
「そんな酒で私が倒れるとでも思ったかしら?」
 幽香は強気になって、渡された酒を飲み干した。
「…なんだ、大したことない酒じゃないの」
「あなたは勘違いをしたようね。これは文字通りの花酒よ。花弁をリキュールに漬け込んで造る酒よ。あなたが飲んだのは、家の庭の桜を漬け込んだ上物よ」
「花を…酒に?」
 幽香は愕然とした。花を遣うものが花を食らったからだ。
「あなたは花…自然の一部を遣うのよね。では、その自然の本質はどこにあるかしら?」
「自然はそれ自体が本質だわ」
「では、あなたはその本質に、ありのまま触れたことになるわ。この花酒によって」
「自然の本質に、ありのままに触れる、か…確かに、悪くはないわね」
「さあ、もう一杯お飲みになって」

 こうして、一本の桜相手に行われた、たった二人だけの花見は暫く続いたのだった。
 紫が五杯目を飲もうとしたとき、幽香が帰る素振りを見せた。
「あら、もうお帰りかしら。花酒はまだまだ沢山あるのに」
「もう行かなくちゃ。夏の花が、私を待っているわ」
「そう。それでは行ってらっしゃい。ここはいつでも、花酒があなたを待っているわ」
 幽香は立ち上がり、花酒を育んだ庭の桜の木々に笑顔を向けて感謝すると、風任せに遠くへ飛び去っていった。
 幽香が見えなくなるまで見送った後も、紫は縁側に座ったまま酒を嗜み続けていた。
「紫様、何時まで呑んでおられるのですか?」
「酒も花見も楽しめるときに存分に楽しむものよ。藍、邪魔しないで頂戴」
 紫は呑み過ぎを心配した藍を追い払うと、もう一杯盃に酒を注ぎ、桜花弁を浮かべ、それを口元に運んだ。
 来年も、遅咲き桜の前で、物静かに花酒で花見が出来ることを願って。



 一本の桜の木の前で、桜の花酒を呑むのが一番ね。
花酒
それは、与那国島で造られているアルコール度数の高い泡盛のことであり、その度数は40度を越える。
劇中で、幽香が勘違いしたのはこの酒のことである。
然しながら、花びらをリキュールに浸して造る花酒も実在し、一般に売られる料理本にも、その造り方が紹介されている。

東方で酒、というイメージで思いついたのが、萃香でも宴会でもなくて、紫の物静かな飲酒でした。これは某アレンジアルバムのジャケットの影響が大きいと思われます。
紫と共に酒を呑む相手は幽々子でもよかったのですが、幽香を書きたかった。
寝ぼすけ、寝巻き、胡散臭い言動、日傘、強大な力と隠れたカリスマの持ち主…後の幽々子、紫やパチュリーのモデルになったと云われ、花映塚で復活を遂げた幽香をどうしても書きたかった。
…とまあ、不純な動機で幽々子から幽香に差し変わってしまったのですが、紫の言う「私の友達の一人」が幽々子だったりします;

「華」で繋がる「花」と「酒」の話は如何だっただろうか。
「酒」という御題を半分も消化出来ていない気がしてたまらないが、少しでも楽しんでいただければ、これ幸い。
BYK
http://www.geocities.jp/bykenterprise/
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投稿日時:
2006/03/19 10:43:13
更新日時:
2006/03/22 01:43:13
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1. 4 真紅の巫女 ■2006/03/25 00:27:55
へぇ・・花酒ってはじめて知りました。

ちょっとためになったかも。
2. 5 月影蓮哉 ■2006/03/25 01:00:03
そういえば、紫と幽香の話も珍しいかな。
某アルバムで酒といえば、某幻影ですかねぇ。


3. 5 爪影 ■2006/03/25 01:41:24
雰囲気は好きです。欲を言えば、もう少し会話の間に何かが欲しかったです。
4. 3 名前はありません。 ■2006/03/25 17:08:14
藍や橙との絡みも見たかったかも
5. 3 無記名 ■2006/03/25 17:38:32
作者さんの酒の知識を披露させられてるだけな感じでSSとしての面白みに少しかけるかなと。あと会話文の比率が高いなと。
6. 3 おやつ ■2006/03/25 21:06:35
花妖怪のゆうかりんは花咲く方へと流れ行く。
やっぱり彼女がモデルなんですかねぇ。
それにしても、花では一番ボス臭をお持ちだったのがこのお方だった気がします。
ゆうかりんかっこいいよゆうかりん。
7. 5 水酉 ■2006/03/26 05:36:10
景色を眺めつつ、ぼうっと飲む酒もまた一興

あとタータンチェックと言ってあげてくださいっ>市松模様
いや非常に笑わせて貰いましたが
8. 3 落雁 ■2006/03/26 13:40:52
これで御題を半分も消化出来てないとか言うのは、謙遜ではなく天然風無自覚嫌味だ!
……勝手なこと言ってすみません。でも、短い中に「華」の雰囲気が込められている上手い文だと思いました。
9. 7 ■2006/03/26 20:52:10
やっぱり誕生の古い年増同士仲がよさそうわなにをす(ry
10. 8 凪羅 ■2006/03/27 00:31:30
紫の前では幽香も大人しい様子。
こういった珍しい組み合わせも面白いものですね。

そして幽香が幽々子や紫、パチュリーのモデルになったっていう話は初めて知りました(ぉ
11. 7 ありがとう ■2006/03/27 01:05:33
ゆかりんたら、寝坊の言い訳もお美しい。
12. 3 かけなん ■2006/03/27 03:02:51
話自体は割と好きだったのですが『〜た』が多すぎてテンポが乱れるというか何と言うか、な感じでした。
13. 5 papa ■2006/03/30 18:40:20
全部読み終えて、タイトルをもう一度見て、ようやくタイトルの意味がわかりました。
紫&幽香って意外と相性よさそうですね。

文字数が増えてでも、もう少し詳細な描写がほしかったところです。
14. 7 つくし ■2006/03/30 19:00:29
紫、幽香、花酒。面白い組合せです。美味で静かな酒、堪能させて頂きました。ごちそうさまです。書き出しの文章が、少々物語に入るのにひっかかる感じがしたので、この点数で。
15. 3 藤村琉 ■2006/04/07 01:22:08
 何かさりげなく残酷ですね。遺骸とか。そこも含めて雅というのは過酷すぎるでしょうが。
 総じて急ぎ足です。余韻を楽しむ暇もなく。
 幽香も登場してすぐに居なくなってしまったので、もう少しやり取りがあっても面白かったような。
16. 3 ■2006/04/10 22:05:24
電気ブランが異彩を放ってる気がする今日この頃。
騒がしく呑むのも酒なら、静かに嗜むのも酒。
酒の魅力を書いたと言う意味で、これもひとつの酒の話かと。
もうちょっと幽香にも語らせても良かったかなとか思いつつこんな所で。
17. 1 反魂 ■2006/04/10 23:57:24
そして米を使い、自然の力だけで出来てゆく酒そのものも、或いは自然そのものか。
だから花を浮かべたり、月を浮かべたり、有形無形の自然と馴染んでゆくのだろうか。

ちょっと会話の展開が不自然かな? と思います。
この老獪な二人なら、お互い煙に巻きまくった話を展開するんじゃないかと思ったり。
相手の言い分に簡単に同意したりしなさそうです、この胡散臭い二人はたぶん。
18. 3 Hodumi ■2006/04/11 01:03:30
ちと、弱い気がします
19. 4 MIM.E ■2006/04/11 22:22:08
静かな酒盛りは良いですね。華のある人ならなおさら。
紫の前でちょっとおとなしいく素直になっている幽香より
最初の幽香のふてぶてしさがなかなか好きです。
旧作は知らないので花映塚での印象ですが。
20. 6 とら ■2006/04/12 18:11:25
盛りは過ぎたけどまだ風情は味わえそうです。
暇見つけて見に行ってみようかなあ……
21. 8 K.M ■2006/04/12 21:03:39
静かな、落ち着いた雰囲気・・・Good
22. 6 椒良徳 ■2006/04/12 22:34:51
幽香と紫の二人で酒を飲むというシチュエーションは目新しいですが、それ以上に感じ入る所はありませんでした。
23. フリーレス BYK ■2006/04/14 03:11:41
花が散り終え、庭が緑一色の世界になる頃。
紫は藍に命じて庭に散った桜花弁を集めさせた。
「今年は去年以上に上物が出来そうね」
年々紅味を増してゆく桜花弁を見ながら、花酒の仕込みに掛かるのだった。

久々に小説を書いてみようと思い立ち、このこんぺの存在に気付き、参加してみたまではよいものの、出来上がったものは小説ではなく「台本」だった。
どうも自分は、小説を書き始めた頃から、「台本」から脱却出来ないでいる。絵のスキルを身につけて漫画を書いた方が良いかもしれない...

感想を書かれた皆様、有難う御座います。お一人づつ御返事を書かせて頂きます。
>真紅の巫女さん
実は自分も、この話を書く時に「花酒」で検索をかけて初めて知ったりします;
>月影蓮哉さん
答えを言ってしまうと「セフィロト」なのですが。
紫が飲酒するシーンは、二次創作でよく見かけるので、セフィロトのジャケに留まらずそれらにまとめて影響を受けたかもしれません。
>爪影さん
その何かが何なのか、まだまだ模索しているところです...
>名前はありません。さん
えと、その…ゴメンナサイ
華無き静かな花見がテーマなので、その二人が出てくると騒がしくなって普通の花見になってしまうので;
>無記名さん
当初は冒頭で書いた色んな酒を、もっと有効活用させたかったのです;
あと、会話文が多いのは本当に悩みどころで…どうしたものか。
>おやつさん
紫のモデルが幽香だと信じて止みません。例えZUN氏が否定されようとも。
>水酉さん
漢文が好きなので、市松模様は譲りません(笑)。こんなところでウケられるとは思わなかったなぁ。
>落雁さん
これを書く前から、御題を「花」と勘違いしてないだろうか?と思っていたまででして…
気に入って頂けたみたいで、有難い限り。
>翼さん
その年増なところが良いのです。紫が少女臭を漂わせてはいけn(ry
>凪羅さん
魔界神を跪かせた幽香でも、敵わない相手にはおとなしいのかもしれません。
あと、色んなキャラのモデルになった、というのは云われているだけです。が…
寝ぼすけ、胡散臭い→紫
ぼけぼけ、でも実はカリスマ持ち→幽々子
寝巻き、魔理沙に技をパクられる→パチュリー
…少々こじつけも有りますが、幽香とWin版東方キャラとの共通点は結構上がってくるのです。
あと、もんぺキャラも妹紅以前に、旧作幽香が挙がりますね。
>ありがとうさん
言い訳させたつもりは無いのですー
>かけなんさん
テンポをとったり、行間を調整したり…その面でいつも苦戦します。要精進
>papaさん
自分でも書いてて上手くハマってくれる組み合わせだな、と思ったものです。<紫と幽香
これでも説明文が多いな…と思ってしまうのですが、逆に描写が足りないという意識をもっと持たないといけないようです。要精進
>つくしさん
たのしんで頂けたようで何よりです。
冒頭の文章は、もっと内容自体に活用させたかったのですが、幽香を出すことを決めてから浮き足立ってしまいましたね;
>藤村琉さん
醜きものに美を見出してしまう人なので...
あと、さり気なく残酷なのも好きです。千と千尋のテーマソングとか。
まだまだ盛り込める要素が多々あるかもしれませんが、盛り込まなかったのは、それだけの向上心が無かったということで…締め切り間際まで粘って書き続ける気力もなかったです;ああ、反省たっぷし...
>坂さん
萃夢想の紫ストーリーで登場した酒を挙げていったら冒頭のような感じに。<電気ブラン
この話の目的は「幽香に酒を飲ませること」だったりするので、幽香があんまり喋ってない感じはするかも。十分に喋らせたつもりですが;
>反魂さん
煙に巻く会話をさせるのが難しいです;
なので、こう考えました。「胡散臭い者同士の会話は、胡散臭さを通り越して率直な会話になる」と。
…言い訳にもなりませんね。これも精進。
>Hodumiさん
振り返ってみてみると自分でもそう思います。あぁぁ…
>MIM.Eさん
旧作の幽香はもっとふてぶてしいですよー と言う自分も、旧幽香は資料ページでしか知りませんが。
素直な幽香は、やっぱり幽香じゃないかぁ。
>K.Mさん
このまったり感こそが幻想郷だと思うのです。お気に召されたようで嬉しく思っております。
>椒良徳さん
書いてるうちは「良いシチュだ」と思ったものですが、書き上げてみるとなかなか…修行が足りません。

この小説をお読みになった皆様、感想を寄せられた皆様、本当に有難う御座いました。
今後は例大3に申し込んでおりまして、そこで中〜長編を1,2本公開できれば…と思っております。
至らない点ばかりの目立つ作品となってしまいましたが、それでも他の作品が読みたい、という方は私のサイトにある小説をご覧になりつつ、新作を楽しみにしていただければ、これ幸い。
それでは、これにて失敬。
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