探索!酒を求めて文が行く!

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/22 07:25:26 更新日時: 2006/03/24 22:25:26 評価: 25/27 POINT: 117 Rate: 1.09
*少しばかり私的設定が混じっています





 いつ来ても、何処となく胡散臭い雰囲気が漂っている店だ。カメラのフィルムや部品関係を調達する時に利用しているのだが、それ以外の物を買おうとは一度も思った事は無い。店にある半数以上の物は私の想像の範疇を超えた物ばかりだからだ。
 しかし、逆に言えば普段目にしないような珍しい物が置いてあると言う事だ。何でも店主に言わせてみれば、外の世界の代物も数多く置いてあるそうだ。どこまで信用して良いのかは分からないが、今の私にはうってつけの店と言える。
 商品棚や立て掛けてある物に目を配らしつつ、カウンターにいる店主へと歩を進めた。ネタ探しの一環として店内を物色してみるのも悪くは無いと思うのだが、この雑多な品物の山の中から私が必要としている物を探すのは無謀である。ここは大人しく店主に聞いてみるのが一番だ。

「やあ、いらっしゃい。少し待っててくれ、今フィルムを取り出してくるから。今だったら二本セットで一割引にしておくよ。」
「残念ながら、フィルムはこの間買ったばかりなので間に合っています。それよりも、今日は別の物を探しに来たんです。」

 腰を浮かして奥へフィルムを取りに行こうとした店主が、意外そうな顔をして座っていた椅子に戻った。この店主にとって私がカメラ関係以外の物を買う事が珍しかったのだろうか。しかし、この店でカメラ以外の買い物をしろと言われても、得体の知れない物や実用性がまるで無さそうな物が多いので無茶な話である。日用雑貨はあいにく間に合っている事ではあるし。

「おや、君がカメラ関係以外の物を求めるとは以外だね。ひょっとして新聞のネタに困ったのかい?」
「この幻想郷でネタに困る訳無いじゃないですか。それよりも、私はお酒を探しているんです。それも幻と言われるほどの珍しいお酒を。香霖さんの店なら普通の店で取り扱ってない意味もなく珍しい物を取り扱っているんじゃないかと思いましたので。」

 そう、私はお酒を探していた。本来ならそんな物を探している暇があったら新聞のネタを捜しに行く所なのだが、そこには少し事情がある。
 先日開かれた宴会での事なのだが、スキマ妖怪の持って来た怪しいお酒を飲んでしまったせいか、それともメインディッシュとして出された皆が持ち合わせた物を適当に放り込んだ闇鍋の怪しい具を食べたせいか、気がつくと次の宴会でお酒を振舞う事になっていた。
 酒の席での軽い約束なので適当な物を持っていけばいいのだが、どうせなら皆をあっと言わせるような物を持っていこうかと考え直したのだ。お酒をダシに幾つか弾幕無しの取材の約束を取り付けれれば、との下心の存在も否定は出来ないが。

「幻のお酒、ね。いいかい、幻はつかむことが出来ないからこそ幻と言われる。だから幻のお酒なんて手に入れることなんて出来ないし、もし手に入れることが出来たとしても幻でも何でもないと思うんだけどね。」
「……香霖さんの能書きは良いですから、何かそれっぽい物無いんですか。非常に珍しいお酒とか。」
「やれやれ、せっかちだね。しかしそうは言うものの、一応僕の店にお酒は無い事は無いんだけど、僕はお酒に詳しい訳じゃあないから何が珍しいのかは分からないよ。しかも外の世界の物になると何がなんだかサッパリだ。僕に分かるのは、それがお酒だと言う事ぐらいだからね。」
「それならこの店にあるお酒を全部、ここに全部持ってきてくれませんか。ひょっとしたら何か私の新聞記者としての感で分かるかもしれませんし。」

 店主が奥の方に消えるのを見ながら、私は溜息をついた。外の世界のお酒なら良い物があるのではないかと思ったのだが、この分だと何が飛び出すか分かったものではない。いくら外の世界のお酒とは言え、ありふれたお酒なら幻想郷のお酒とそう大して違いは無いだろう。それでは有り難味が薄く、せっかく私が持っていく意味が無い。
 店主が見慣れないお酒の瓶を十数本持ってきた。瓶のラベルには見慣れた字が書かれたものもあれば、まるで訳の分からない字の様なものが書かれたものもある。共通して言える事は、どれも見た事がないと言う事だ。

「どうだい、君のいう新聞記者としての感は何か言っているかい?」
「うーん、悔しいことにどれも珍しそうに見えますね。まあ強いて言うなら、この怪しげな文字が書かれた瓶ぐらいでしょうか。これだけ他とは一線を画く怪しさが漂っていますので。」
「ふむ、それかい。それは確か、手に入れるのに非常に苦労した覚えがあるよ。いつだったかな、本当に偶然見つけれた物だ。ひょっとすると、意外と珍しいお酒かもしれないね。」

 お酒に本当に余り興味が無いのか、今思い出したように店主が呟く。しかし、これはどうやら本当に珍しいお酒のようなので、私はこれを貰う事に決めた。

「それじゃあ香霖さんがそう言うのでしたら、これに決めました。お幾らですか?」
「うーん、そうだね。珍しそうな物だし、需要と供給のバランスを考えると、これぐらいでどうだい?」

 店主が示した算盤の数字にムッとした。明らかに足元を見た金額なのだ。



 勢い良く扉を開け放ち、奥のカウンターへと大股で進む。途中で何かを足に引っ掛けて転がしてしまった気もするが、今はそんな事どうでも良かった。私が用があるのは、目の前に座ってノンビリとお茶を飲んでいるこの店主である。

「おや、いらっしゃい。今丁度お茶にしていたところでね、今君の分も淹れてあげるよ。今君の分の湯飲みを持ってくるから、そこら辺に腰掛けてくれ。」
「いいえ、お構いなく。それよりも香霖さん、よくもこんな物を人に売りつけましたね。お陰で皆のいい笑いのネタでしたよ!」

 そう言って、勢い良くカウンターの上に瓶を置く。先日私がこの店で試行錯誤の上で多少吹っかけられたが購入したお酒の瓶だ。ただし、中身は空である。

「とてもこれは人が飲めるお酒じゃなかったです。臭い変だし味はこの世のものとは思えない物だし、あの萃香さんですら顔色を悪くしたぐらいですから。」
「ふーん、そうなのかい。それは災難だったね。しかし、これを欲しいと言ったのは君だよ。とりあえず何でも良いから幻と言われるくらい珍しいお酒が欲しいって。どうやらこれは余りの不味さに歴史から抹消された、言ってみれば幻のようなお酒だったようだね。本来なら名前は知られているが実物は存在しないというのが本当なんだろうけど、この場合は両方だろうかな。」
「なにを他人事のように分析しているんですか。こんな物をあんな値段で買わせておいて。挙句の果てに飲める物じゃなかったし、いい笑いものになるし。遠まわしに私に対する嫌がらせですか!?」
「仕方が無いじゃないか。売り物を僕が飲む訳にはいかないから、味が分かるはずが無い。そもそも得体の知れない物だというのは君だって分かっていたはずだと思うけどね。まあでも、君が怒りたい気持ちは分かるけどね。」

 そう言って、店主が奥から先日と同じ様にお酒の瓶を一抱えして持ってきた。どうやらあれから調達してきたのか、種類が増えていた。

「君が最終的な判断を下したとは言え、僕も商売をしている身だからね。お客様に対して失礼があったことは認めるよ。確かにあれを売り物にしてしまったのは僕の責任だ。だからそのお詫びとしてこの中から好きな物を一つあげよう。」
「それはどうもと言いたいところですが、ここにあるお酒がどういうお酒なのか分からないんですよね?最悪、人が飲める物なのかどうなのかも。」

 私の問いにお手上げだという仕草をする店主を見て、私は溜息をついた。一応店主が誠意を見せた所で、また同じ事を繰り返しては意味が無い。大枚をはたいて笑いを取るような捨て身根性なぞ持ち合わせてはいないのだ。

「どうにかしてここにあるお酒を判別する方法はないものですか?一応隠し玉として持って来たいので、できればあまり他人の手を借りずにすむ方法があれば一番なのですが。」
「さあ、ね。それにこれらのお酒は外の物だから、たぶん誰に聞いても分からないと思うよ。まあ、数人の妖怪なら知っていそうな気もするけど。どうしても一人で調べたいのなら、お酒が詳しく記載されている本でも探すんだね。もっとも、そんな本がそう都合よくあるとは思えないけど。」

 結局のところ、店主はお酒に関しては興味が無さそうなので私が調べるしかないようだ。軽い気持ちと少しの下心で始めた事なのでそこまで面倒をかける気にはなれないのだが、あそこまで恥をかいては引く訳にはいかない。汚名返上あるのみである。
 あんな風に有り難味を感じさせる為に前置きをつくったり、皆を焦らしたりと演出をしなければ良かったと、面倒臭さを感じつつ改めて後悔する昼下がりだった。



 本、本、本。辺りを見渡すと本と本棚しか存在しない。巨大な本棚の間を歩いていると、何故か圧倒される気分になる。先ほどから周囲の本から呻き声みたいなものが聞こえてくるのは気のせいだろうか。ラベルに『危険:触れるな、呪われる』と書かれているのが見える本があるのは何かの気のせいだろうか。何故か心霊現象という言葉が非常に憎く思えるのは気のせいだろうか。何故か背筋がソクゾクするのは気のせいだろうか。何故か足音が一つ余分に聞こえるのは気のせいだろうか……
 お酒について何か書かれている本を探して紅魔館を訪れたのはいいのだが、肝心の本のありかについてはパチュリーさんでも分からないときた。そもそもパチュリーさんがお酒について感心があるとは思えなかったので期待はしていなかったが、そのお陰で昔何処かで見たという漠然としたパチュリーさんの話を元に探索を開始しなければならなってしまった。ちなみに、パチュリーさんは調べごとがあるといって同行は拒否された。
 それでも私は少し楽観していた。すぐにとは言わないが、そうさほど本を見つけるまでに時間がかかるとは思っていなかったのだ。しかし、それが甘かった。ここの本の貯蔵量は私の想像の域を超えていた。本棚の上を飛び回っているだけでは気が付かなかったが、本を探すとなると泣きたくなってくる。意気揚々と出発したのはどれだけ前の事だろうか……
 パチュリーさんから教えてもらった話では、なんでも図書館の南東の方にある本棚の下の段にそれらしき本を見つけたことがあるとの話だが、余りにも漠然としすぎていた。仕方が無く当てもなく歩き回っていたのだが、いい加減気が滅入ってきてしまった。お陰で、幽霊は見慣れているはずなのに、妙に物音に敏感に反応してしまうという始末である。……断じて心霊現象が怖い訳ではない。鴉天狗である私が心霊現象ごときに怖がらなければならない理由が何処にも無いからだ。
 ふと、何処からともなく物音が聞こえてきて、思わず足を止めてしまった。周囲を見回して何も見えなかったので気のせいだと思い込もうとしたが、歩き始めようとしたらまた物音が聞こえてきた。
 改めて周囲を見回してみたが、やはり何も発見できなかった。もう何も聞こえてもこない。もっとも、周囲は薄暗く視界は余り良くない。もっとも、図書館全体が薄暗いのだが、そのお陰で不気味さが増している。心なしか、手元のランプが心細く見えるのは気のせいだろう。
 首を少し激しく振り被り、気を取り直して歩き始めた。きっとネズミでもいるのだろう。ひょっとしたら、空き巣を繰り返す大きな白黒のネズミかもしれない。うん、絶対にそうに違いない。

「……あっ……」

 しかし、今度ははっきりと声が聞こえた。そしてその声に反応し終える前に、私の目の前に大量の本がいきなり落ちてきた。
私の記憶が確かなのはそこまでである。



「いやー、いつも強気の文さんにも怖いものがあったんですね。心霊現象がまるで駄目なんて、かなり意外です。普段幽霊の方たちを取材している時はどうしているんですか?」

 そういって小悪魔さんが軽く笑いながら新たに数冊の本を持ってきてくれた。あのとき聞こえた声と落ちてきた本の主は小悪魔さんだったのだが、不覚にも一瞬気を失い、その反動で持っていたランプを落とし、ボヤ騒ぎになりかけてしまったらしい。気がつくと少し煤けた小悪魔さんがいたのだが、その後少し無理を言って小悪魔さんに協力を申し込んだ。私の気持ちとしては、もうこんな所は一秒でも早く出たいのだ。

「失礼ですね、私はちゃんと存在が証明できるものは怖くありません。幽霊だって、ちゃんとそこに存在しているって証明できます。それに何かが起きるという事は、何かしらの原因があるという事なんです。だから私が苦手なのは、得体の知れない事や存在を証明できない事だけです。」
「ははあ、それで怖いものを減らそうと躍起になって取材しているんですね。以前からたまに変な事を熱心に調べているのを見かけて疑問に思っていたんですけど、ようやく合点がいきました。誰だって夜道に謎の薄気味悪い声が聞こえてきたら嫌ですよね。」

 断じてそういう理由で私は新聞を作っている訳ではない。得体の知れない事だからこそ新聞のネタになるからだ。皆が知っている事を改めて記事にする事に何の意味もなく、真実の探求こそが新聞記者としての燃えるのだ。別に怪談話が怖いから真相を突き止めて理由付けをし、克服している訳ではない。

「さて、大体こんなものです。いやー、驚きましたね。前々から色んな本があるとは分かっていましたが、こんな本まであるとは思いもしませんでした。しかし、お酒の本なんか調べてどうするつもりですか?」
「まあ、色々とこちらにも事情というものがあるんです。小悪魔さんはいつも留守番で宴会には出席しないか分からないとは思いますけど。それにしても、思っていたよりも結構ありますね。」

 恐らく、これだけあれば私が探している本が何冊かはあるはずだ。後はその本を借りてこの薄暗い図書館を出るだけである。小悪魔さんがそばにいてくれるとは言え、不気味な事には変わりはない。
 本を方端から読み続けてどれだけ時間が経っただろうか。小悪魔さんにも協力してもらってようやく全ての本を調べ終えた。しかし、お酒の製法に関する本などは数多く目にしたが、お酒の銘柄や種類などが載っている本は結局一冊しか見つからなかった。

「はあ、結局あれだけ調べてあの一冊だけですか。まあ、存在自体が危ぶまれていたんですからあるだけマシだとは思いますけど。小悪魔さん、さっきの本取ってください。しばらく借りていきますので。」
「ちゃんと返してくださいよ。貸した本が帰ってこないとパチュリー様が悲しみますから。ええっと、確かここら辺に置いておいたはず……って、えっ!?」

 小悪魔さんが驚きの声を上げたが、私も驚いていた。振り向くと、いつの間にか蒐集家にして自称幻想郷最速の霧雨 魔理沙がそこにいた。ついでに、何故か私達が探し当てた本を読んでいる。

「ふむふむ、酒の銘柄が詳しく載っている本か。これまた珍しい本があったもんだな。へえ、世の中にはこんな酒も有るのか。って、おお、邪魔してるぜ。お前等が余りにも熱心に本を読みふけていたからつい挨拶が遅れただけだから、気にするな。」
「魔理沙さん、どうして貴方がここに居るんですか!?」
「ああ?そんなの決まっているじゃないか、文。今日もいい天気だから本をサックリ借りに来ただけだぜ。それで何か良い本が無いかと探索していたら、ここにこういう本があったと言う訳だ。」

 不味い、魔理沙さんはどうやらあの本に興味を持ってしまったようだ。あの本は私の苦労と涙の果てにようやく見つける事が出来た物だ。持って行かれると苦労が水の泡になり、全てが振り出しに戻ってしまう。

「じゃあ、そう言う訳でこの本を借りていくぜ。パチュリーには宜しく行っておいてくれ!」
「ああ、本を持って行かないで!!」

 小悪魔さんの悲鳴とも取れる制止をいつものごとく無視し、魔理沙さんが箒に跨り飛び去って行った。私もすぐさま宙に舞い、追撃の態勢に入る。

「小悪魔さん、後片付けは頼みます!!」



 魔理沙さんの後を追って紅魔館を出た。流石に幻想郷最速を自称しているだけあって、なかなか追いつくことが出来ない。しかし、ここで見逃す訳にもいかなかった。

「待ちなさい、魔理沙さん!!その本を返しなさい!!」
「待てと言われて待つ奴が居るか!!この本は私が借りていくと決めたんだ!!」

 本を仕舞う余裕が無かったのか、魔理沙さんは片手に本を持っている状態である。そのせいか、箒上の彼女はバランスが少し悪く、両手が塞がっている為に弾幕を撃つ事が出来ないようだ。彼女の苛立ちが手に取るように分かる。
 しかし、弾幕を撃てないのは私も同じだ。今の私の目的は魔理沙さんを打ち落とすことではなく、捕らえることである。下手に弾を撃って本にでも当たった日には自棄酒三昧になるからだ。
 魔理沙さんが姿勢を低くして加速の態勢に入る。今までは館の中だったので速度を出せなかったが、今はもう障害物は何一つ無い。一気に私を振り切ろうという魂胆であろう。

「いいでしょう、ならば実力をもって奪い返すだけです。天狗にスピード勝負で勝てると思わないでください!」
「ふん、ここらで誰が幻想郷最速なのかをはっきりさせようじゃないか。もちろん、私に決まっているがな!」

 魔理沙さんが魔力にものをいわせて強引に急加速をかける。私も負けじと加速をかけるが、みるみると差が開いていく。だが、勝負はこれで決まった訳ではない。

「ちっ、やるじゃないか、文。自称幻想郷最速は伊達じゃないって事か!」
確かに加速力は魔理沙さんの方が上である。しかし、トップスピードでは負けるつもりは無い。そもそも天狗はとても素早い一族に加え、魔理沙さんは姿勢を低くすることでなんとか空気抵抗を弱めようとしているが、風を操れる私にとって空気抵抗など無いに等しいのである。

 私は風に乗り、上昇をかける。そして私が見えないことに気づき、周囲を見回すために一瞬速度が緩んだ魔理沙さん目掛けて一気に急下降を仕掛けた。風と重力の恩恵を受け、私の腕が彼女の体を捉える。

「くそ、なめるな!!」

 しかし、魔理沙さんも負けてはいなかった。箒を立てて急減速をし、私の手から辛うじて逃れる。空中で縦に二回転した後、体勢を立て直す。そして、方向を変えて飛び去っていく。

「く、なかなかやりますね。幻想郷最速を自称するだけはあって流石に速いです。しかし、このまま逃げ切れると思わないでください!」

 私も全力を振り絞って魔理沙さんに追いつこうとする。彼女は先ほどの奇襲を警戒してか、複雑な飛行経路をとっている。そのお陰で追いつきやすいのだが、彼女を捕らえにくくなっている。
 箒の軌跡をなんとか辿り、魔理沙さんの後ろを取る。そして曲がろうとした瞬間を狙って捕獲を試みた。だが、上昇されて辛くも失敗に終わった。

「ふん、お前の考えてる事ぐらいお見通しだぜ!」

 魔理沙さんが大きく円を描くように右へと方向を変える。スピードがありすぎて小回りが効かなくなっているのだ。私は更にそのインをつくようにして後を追う。風を操れる私にとって急な方向転換は割と容易い事である。

「さあさあ、そろそろ終わりにしましょうか。風に乗ることが出来ない魔理沙さんは、直線以外に私に勝ち目は無いのですから。それとも、馬鹿の一つ覚えのように真っ直ぐ飛び続けますか!」

 魔理沙さんの描く円状の軌跡よりも内側を私は行く。そして彼女が曲がり終えた時には、もはや私の射程圏内であった。これなら捕まえる事が出来る。

「そうかい、だったら風よりも早く飛んで見せるだけだ。見てろ、音速だって超えてやるぜ!」

 魔理沙さんの体が白色の光に包まれだした。どうやらブレイジングスターを発動させるつもりのようだが、このままでは一気に差をつけられてせっかくのチャンスをまたふいにすることになる。
 これでは一向に埒があかない。魔理沙さんもそろそろ体力の限界に近づいてきている頃だろうが、諦める気はさらさら無いようだ。何かいい手を思いつかねば、一日中飛び回り続けなければならなくなってしまう。しかし、今私が打てる手は弾幕を放つ以外はポケットの中のカメラを使うかぐらいだ。こんなもので一体何ができるのだろうか……
 ふと、ある事を思い出した。私はこれまで数多くの写真を取ってきたが、確か魔理沙さんが写っている写真は全て……

「魔理沙さん、いきなりですが写真を取ります!はい、チーズ!」
「え、何!ち、ちょっと待てっ!」

 スペルカード発動を一時中断して、魔理沙さんは慌ててポーズを取った。しかし、無理な体勢で振り向いたのでバランスを崩してしまった。これはチャンスである。
 私が思い出した事は、魔理沙さんはいつもカメラ目線で必ずポーズを取るという事だった。取る写真全てが余りに記念写真にしかならないので記事には使えないと嘆く毎日だったのだが、それがこんな所で役に立つとは思ってもいなかった。

「あっ!!」

 魔理沙さんが崩れかけた体勢を戻す為に、思わず両手で箒にしがみ付いた。しかし、それは当然持っていた本を手放す事を意味していた。何の支えも無い本は、重力に引かれるがままに湖面へと落ちていった。



 すごい勢いで湖面が近づいてくる。私は落ち行く本を目掛けて一心不乱に垂直に降下していた。掴めないか掴めるかの距離に本がある。しかし、手を伸ばしても僅かに届かなかった。
 体勢を立て直すのに手間取ったのか、魔理沙さんは追ってはこない。しかし、本当の勝負は本を手にする事が出来るかどうかで決まる。
 後、少し。全力で湖面に向けて疾走する。しかし、本との距離はなかなか縮まらず、焦りだけが募る。
 後、もう少し。腕を命一杯伸ばして本を掴もうとする。しかし、指が本の表紙を触るだけで、掴むには至らない。
 後、ほんの少し。湖面が視界一杯に広がっていた。湖面上の波が一つ一つ確認できる。だが、本を掴みかけてもいる。
 そして、ついに手の中に確かな手ごたえを感じた。しかし次の瞬間、余韻に浸る暇もなく湖へと派手に突っ込んでいた。



「ええっと、このお酒の名前が××で美味しくない。それでこっちのお酒が○○産のお酒で非常にレアな物っと。ふう、大体こんなものですか。」

 私は持っていた本を机の上に置き、置かれていたお茶に手を伸ばした。正体不明のお酒は結構有ったが、先ほどまでの奮闘によりほぼ判別は終わった。

「お疲れ様。これでお酒の判別は終わったみたいだけど、結局どれを持っていくことにしたんだい?」
「そうですね……、これにします。確かこのお酒は珍しさも美味しさも兼ね備えているはずですので。皆が私に感謝する光景が目に浮かびますね。」

 珍しいお酒なら他にも沢山あるのだが、曰くつきで珍しい物が多い。普通に供給量が少ないが美味しくて有名なお酒は無いものかと思ったが、ここの店主の適当に拾ってくる為か殆ど無かった。仕方が無いので、妥協できるこのお酒に決めたのだ。

「それにしても、この本は便利なものだね。僕が適当に拾い集めてきた物とは言え、全部判別できるとは。お陰で正当な値段がつけれるんだから感謝しなくてはね。」
「簡単に言ってくれますね。私がこの本を見つけるのにどれだけ苦労したと思っているんですか。全身筋肉痛にはなるし、風邪は引くしと大変だったんですからね。気分的にはもう後二、三本もらいたいところです。」

 涼しげな顔で気軽な事を言う店主に文句を言う。しかし、この店主に限って感謝の印にタダでお酒を譲ってくれる事はあるまい。正式に珍しい物だと分かったからには、更に高い値段を吹っかけてくるに違いない。

「それじゃあ、私はここらへんで失礼させてもらいます。この本もいい加減返しに行かなければいけませんので。風邪のせいで返却するのが遅れましたが、私はどこぞの魔法使いとは違って借りたものはちゃんと返す事に決めているんです。」
「そうか、気をつけて。魔理沙も少しは君を見習ってくれると、僕としても少しは助かるんだけどね。」

 本とお酒を両手に、店を出た。そして紅魔館へ行く前に自宅にお酒を置いて来る為に戻る事にした。それにしても、このお酒を手に入れるために酷く苦労する事になった。初めは軽い気持ちで始めた事だったはずなのに。
 しかし、何か腑に落ちない事があった。もともと私が珍しいお酒を求めて調べまわった事なのだが、いつの間にか香霖堂のお酒を全て識別する事になっていた。こうでもしなければちゃんとお酒を調べれなかったのだが、これは本来香霖さんがする事なのでは。ひょっとして、香霖さんにいいように利用された……?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
エカテリーナ
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/22 07:25:26
更新日時:
2006/03/24 22:25:26
評価:
25/27
POINT:
117
Rate:
1.09
1. 6 月影蓮哉 ■2006/03/25 01:50:20
湖に突っ込んだとなると、文はびしょ濡れに…や、邪な妄想してすみません。
それにしても、香霖は弁舌の天才なのかと思いましたね。
そんな彼もまた、魅力的なものですが。
2. 6 真紅の巫女 ■2006/03/25 15:27:17
クーリエの絵板あたりから少しもらった部分もあったり無かったり?

少しためになったなぁと思いました。
3. 6 爪影 ■2006/03/25 21:12:32
オチが少し弱いですが、全体的に見て綺麗に纏まっていたように思います。
4. 4 おやつ ■2006/03/25 22:18:04
いいねこの香霖さんw
作為ありなのか無しなのか、微妙に判別しにくいですが。
幻想郷最速決定戦も面白かったです。
5. 6 名前はありません。 ■2006/03/26 00:27:07
ぶんぶんまるぶんで+1
6. フリーレス ■2006/03/26 21:52:10
実は怖がりな文…これはいい。非常にいい。

それはともかく、もしかしてドッグファイトがお好きでしょうか?空中戦の描写に熱が入っている気がします。
7. 7 ■2006/03/26 21:52:49
点数を入れ忘れていました、申し訳ありません。
8. 5 水酉 ■2006/03/27 03:36:23
どうやら香霖の方が一枚上手だったようで。
怖がりで少しだけ抜けてる文が可愛かったです。
9. 7 凪羅 ■2006/03/27 04:06:58
文は必死になると割と周りが見えなくなる性質?
しかし魔理沙はほんとに傍若無人だなぁ。
折半案さえ出さないし(笑
10. 2 床間たろひ ■2006/03/27 23:15:43
感× 勘○ 感心× 関心○ とりあえず誤字報告w

中々やるな香霖w
できれば、手に入れた珍しい酒が何なのかも知りたかったかな。
11. 4 かけなん ■2006/03/29 04:56:01
店主、侮れん
12. 6 papa ■2006/03/30 18:47:03
まさか酒というテーマから、文と魔理沙のスピード勝負にまで発展するとは・・・。
文かわいいよかわいいよ文。

締めがちょっと弱かった気がします。
なんかこう、あっけないといいますか・・・。
13. 7 つくし ■2006/03/31 15:56:43
文と魔理沙のスピード対決の描写が非常に楽しめました。そしてオチ。ごちそうさまでした。
14. 3 ■2006/04/04 21:00:16
んー、ちょっと地の分が説明臭すぎる、かなぁ…あとオチが弱いような。
15. 4 藤村琉 ■2006/04/07 01:27:43
 霖之助が黒幕でも、なんとなくありえそうなのであまり驚きはしませんでした。それが落ちだとインパクトが弱い。
 また、文がその本と酒の調査にこだわった理由がちょっと薄いです。何故そこまで、と遊びに真剣になる幻想郷の住民には禁句なのかもしれませんが、物語上ではその動機が弱いとどうしても首を傾げてしまうのです。
16. 5 MIM.E ■2006/04/11 22:18:36
とぼけた香霖が良い味出してました。読んでいて私も文と一緒になっていいように使われてました。
文の恐がりや魔理沙との競争など、どれもありそうですよね。
酒がどんな酒かに興味がいっていたので、最後の印象が少し弱く感じました。あれ? って。
でも、それってきっと文の心情ですよね。なるほど。楽しいお話でした。
17. 1 木村圭 ■2006/04/12 02:07:04
何か物足りない。宴会で笑われたのを省いたのはあまり良くなかったかも。魔理沙との追っかけっこはもう少し短くまとめてもらった方が良かったです、個人的には。
18. 8 NONOKOSU ■2006/04/12 03:32:50
なるほど、漁夫の利とはこういうことですね。
それとも果報は寝て待て?
萃香すら飲めないという、幻の酒が気になります。
19. 4 二見 ■2006/04/12 07:37:15
最後にもう一文足して欲しいです。
すっきりと終わったって感じがしないので。
登場するキャラ達がとても「らしい」のが読んでいて好感を持てました。
20. 3 銀の夢 ■2006/04/12 14:04:20
やるな香霖w
個人的には文の理屈はいい加減な気もするけど商人的に考えると香霖はやっぱりまずいっちゃまずいんだよなぁ、信義誠実に反するといえばそうだし。
21. 6 とら ■2006/04/12 16:25:28
自分の利益もきちっと回収。
香霖に銀次郎のカゲを見ました。
22. 7 K.M ■2006/04/12 21:48:54
結局、文は利用された・・・のかなぁ?
だとすれば香霖恐るべし

恐怖体験したりスピードバトルしたり、文にはご苦労様としか言い様が無いですな
23. 2 反魂 ■2006/04/12 22:30:09
人をいかに上手く使うかが商売のコツだって、こーりんが言ってた。
24. 5 椒良徳 ■2006/04/12 23:22:42
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
25. フリーレス 匿名評価
26. 2 age ■2012/01/17 19:09:06
逝ってよし(人・ω・)★ http://www.e29.mobi/
27. 1 めぐみ ■2012/06/11 13:52:34
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