延滞料金

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/22 09:47:16 更新日時: 2006/03/25 00:47:16 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 やけに重たいヴェールは、森の緑を一層低くもたげさせる。穂先から滴る潤いは互い違いに時を数える。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、よつ……。
 にぎわう静けさでさえ洗い流すかのような白さも、やがてそのなりを潜める。蒼い世界とともに。
 彼処から聴こえるのは名も知らない鳥の声だが、未だ姿を視たことはない。さぞや美しい翼を有するに違いあるまい。丸い階音をなでるように奏でる。
 木々の落とす影は横たわるようにゆっくりと、地の底に生す新芽の先端にも届かない。

 そして、彼女はいつものように目を覚まし、無機質の色を浮かべた。
 それが彼女らしさだったからに他ならない。



 黒い闇は降り注ぐ蒼にいさめられ、虐げられた微弱な光たちは所狭しと天に貼り付いている。時折、弧を描いて滑る光はいつもその森だけを避けるかのようだった。
 この日の夜はめずらしく星が舞い降りた。
 
「着いたぜ。全く世話のかかる」
 悪態をついても、背中に寄りかかっていては聞いているかさえわからない。半刻ほどからやけにおとなしいと思ったらこれだ。
 アリスの家はおおよそ静かに佇んでいる。森に囲まれていながら、鉛よりも冷たい無機質さが鼻の奥を突く。それは緩やかな夜にあって、異質なるもの。
 仕方ないので、アリスを起こさないようにしたまま箒から降りて、家のドアに手をかける。すると、主の存在を知ってか解錠される音がした。魔理沙はしかし、鍵を確認するまでもなく、ありふれた動作でドアを開けて中に入る。
 アリスを乗せた箒もそれに続いた。

 魔理沙は部屋の明かりを灯すと、暖炉にも火を入れる。揺らぐ部屋の中はこぎれいに整えられ、本当に人が住んでいるのかさえ疑問に感じるほどだった。
 アリスをソファーに降ろそうとしたところで目が覚める。薄く開けた目蓋の先に魔理沙を認めて小さく頷く。
 アリスは魔理沙の手を取って箒から降りた。思いの外足取りはしっかりしてはいたが、思考はまだ追いついていない。
「お茶を出すわ」
 言葉みじかにそう言うと、上海人形にティーセットを持ってこさせた。魔理沙にしても、アリスを送り届けるために宴会の半ばで抜け出したせいで、まだ時間が早かったのである。
 ほどなくして湯気の上がるポットも運ばれてくる。それを受け取ると手際よくカップに注ぐ。カップからは芳醇な紅い香りが立ちこめ、緊張がほぐれた。
「おう、いただくぜ」
 差し出された紅茶を魔理沙は疑うことなく飲む。異変に気付いて一口目で咽せた。
 アリスはある程度その反応に予想していたのか、特にあわてることもなく自分の紅茶を飲んでいる。上海人形が魔理沙の背中をさすっているが、それですら気にもとめない。
「なんで酒が入ってるんだ?」
「違うわよ、ブランデーにお茶の香りをつけたものよ」
 しかめっ面の魔理沙と対照的なアリスは、非難をよそに2杯目を注いでいる。
「おまえ、酔ってるだろ?」
「そんな訳ないでしょ。まだ2杯目じゃない」
 確かにそれは2杯目だが、先に霊夢のところで飲んでいた量は含まれていない。
 魔理沙は、アリスが酔いつぶれたところを見たことはない。だから敢えてそこは口を挟まなかった。
 しかし、それは魔理沙が飲み足りていなかったからに他ならなかった。
「ははっ、いいね。たまにはサシで飲み明かすのも悪くない」
 ツマミには、いつもの宴会では見られないようなものが並べられていた。特に目をひいたのはチョコレートやクッキーだったが、これはアリスの好みなのだろうか?
 魔理沙はキャビアのカナッペを食べながら、何も色にこだわることはないよなと苦笑いした。
 お茶自体がブランデーの甘い香りで、度数も高いのかと思いきやそれほどでもないらしく、飲み明かすには不向きかと思われた。
「たまには私にも注いで頂戴」
「悪い悪い」
 とぽとぽと軽い音を立てながら、アリスのカップが満たされる。満たされ切ったところでアリスの顔を見た。
「なんで泣いてるんだ?」
「べ、べつに何でもないわよっ!」
 泣き上戸だったのか定かではないが、感情が昂ぶっているのは本人でさえ困惑しているかのようにも見えた。
 落としそうになったカップを魔理沙が下から受け止めると、取り繕おうとしてアリスは添えた指を湯に浸してしまう。反射的に指を上げたがそれは遅かった。
「っつ!」
 上海人形に氷水を持ってこさせて応急処置をするが、その間もアリスはただ号泣するばかり。とにかく火傷を冷やしながら抱きしめるしか魔理沙にはできなかった。

「いつまでしがみついてる気?」
 どれくらいの時間が過ぎたのか、アリスはいつもの調子を取り戻した様子で、それで居て魔理沙と視線を合わせるのをかたくなに拒んでいる。
「あ、ああ。そうだな」
「悪いんだけど、もう休みたいから」
「ああ」
 まるで叱られた子どものようにばつが悪そうに魔理沙は身支度を調え始める。
 そんな後ろ姿を見ながら。
「わかってるとは思うけど……」
「わかってるさ、他言無用。だろ?」
「借りが増えるのは釈然としないけど」
「なぁに、私は常に借りる専門だぜ。気にするな」
 いつもの口調で言い放つと、裏口から外の闇に消えていく。悲しかったはずのアリスの口元が心なしかほころんでいた。
 そして、大事なものを胸にしまって眠りにつく。やがてくる朝のために。
 
 三度の飯より酒が好き。

 テーマが『酒』に決まったとき「この人らいっつも呑んでんじゃんかよう!」とホンネを叩きつけましたが、そこを敢えてお題にしてみるのも面白いかなとか。とは言え、普通に宴会にすればそれはそれで書けるのでしょうけども、あくまでも売れない路線で、かつ、自分らしい支離滅裂としたものを書かなきゃならぬこの性分が憎い。

 短い作品ですが、読者に対して不親切な作りです。
 余計な解説なしにアリスの心情が伝えられればよいのですが、必ずしも「こう」っていう答えは無いと思っています。だからといって魔理沙が朴念仁って訳じゃないですよ?(^^;

 よろしくお願いします。
力尽きた
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最新
投稿日時:
2006/03/22 09:47:16
更新日時:
2006/03/25 00:47:16
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5.00
1. 3 月影蓮哉 ■2006/03/25 01:54:10
ちょっと展開が速すぎる場面があったかな…。
しかしアリス、良く落ちなかったな(ぇ
2. 3 爪影 ■2006/03/25 21:58:25
もう一声、何かが欲しかったかもしれません。
3. 4 おやつ ■2006/03/25 22:21:38
不親切な作りでも、あえて公言するほど不親切というわけではないと思いますよー。
アリスの心情を想像するだけでも十分楽しめましたし。
4. 3 反魂 ■2006/03/25 23:10:58
ほのぼのデレモード。之も亦良き哉。和む。
5. 4 名前はありません。 ■2006/03/26 08:02:18
マリアリなので+1
6. 7 ■2006/03/26 21:55:33
この夜の静かな雰囲気の中で、アリスが余計に可愛いです。
7. 6 ありがとう ■2006/03/27 01:04:22
全てを整然とさせるより、こういうものだと提示する。その心意気に、
8. 6 水酉 ■2006/03/27 03:45:26
青春だなあ。
アリスの乙女心が行間から溢れて来るようで、読みながら微笑が。
9. 5 凪羅 ■2006/03/27 06:04:43
確かにちょいと言葉少なめでアリスの心情の移り変わりが急なように見えて分かり辛いですが、それが味と言うのなら、それで納得しておこうかと。
魔理沙ですんで、本人の深いところに触れたがらないんじゃないかなぁ、と。
気楽な関係を魔理沙が一番望んでいるって事で。
10. フリーレス 二見 ■2006/03/28 16:10:20
ここで投げてしまうのは、とても勿体無い。
11. 4 かけなん ■2006/03/29 04:58:28
うーん、もっと長く掘り込んだのを読みたいような気分。
けれどこれでいいのだろうか、とも。

雰囲気は大好きです。
12. 4 papa ■2006/03/30 18:47:49
こうして静かに二人で飲むのもまた一興。

文章が色々と足りていないせいか、何を伝えたいのかがわかりづらかったです。
13. 5 つくし ■2006/03/31 16:21:04
こういう不親切さはそれなりに好きです。ただ、視点や主語の揺れがあったり、そういう意味での読者への不親切さ(つまり読みにくさ)には気をつけたほうがいいと思われます。ごちそうさまでした。
14. 3 藤村琉 ■2006/04/07 01:29:18
 書き込みが足りません。
 余計な解説を抜きにして、と言ってるわりに初っ端から余計なものが多いのは難点。
 あとお酒あんまり関係ないです。
15. 5 MIM.E ■2006/04/11 22:18:10
冒頭の数行がなければ8点
アリスと魔理沙の心情が少しのやり取りの中で活き活きと感じられました。
二人の関係の是非はともかく。アリスがたまらなく可愛い。
読解力の無さ故か最初のところは理解できませんでした。
16. 5 銀の夢 ■2006/04/12 14:10:29
もう少し織り込んでも良かった気がします。
不親切な作りならなおさら。さりとて長すぎても冗長。その按配が難しいですが。

自分が何を感じたのかここに書き記すのもいいかと思いましたが、あえてそれはやめておくことにします。
一人のアリス好きとして、内緒にしておきます。他言は無用、ですね。
17. 6 とら ■2006/04/12 16:21:33
これなら、まあ安いもんです。
明日もまた払ってもいいかなと思えるぐらい。
18. 5 K.M ■2006/04/12 22:58:37
ふむ、送り狼になるかと思ったんだがなァ…そう思ったのは俺が汚れている所為かorz
19. 3 椒良徳 ■2006/04/12 23:23:06
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
20. 6 名無し ■2006/04/12 23:36:54
良い雰囲気ですね。できればもう少し長く読んでいたかったです。
21. フリーレス 力尽きた ■2006/04/15 08:16:25
>名無しのお方
>できればもう少し長く
 前触れもなく泣き出すシーンと、冒頭には黎明にそぐわない気怠さ。
 この対比と、魔理沙のヘタレっぷりのバランスがなんていうか。
 ちなみに時系列は朝と夜が逆です。二日酔いではありません。

>椒良徳さま
 お気になさらずに(^^;

>K.Mさま
 ネチョOkでしたらね(^^;
 いあいあ、アリスもあれでいて酔い潰しにかかってくるのですよ?

>とらさま
 いろいろ足りて無くてすみません。ありがとうございます。

>銀の夢さま
>その按配が難しい
 私にはまだまだ足りてません。
 ただ、こいつは一部実話という曰く付きでして。なんで泣いたのか自分でもさっぱり。
 悲しくない、辛くないって、押し殺し切れてない未熟。

>MIM.Eさま
>アリスがたまらなく可愛い。
 おしゃまな感じって言うんでしょうか。鼻にかけたような。
 そのお言葉はとても栄誉です。まだ勿体なくて、とっておきたいです。
 読解力ではなく、私の力量不足です。
 陽の差さないようなところに陽が差す。でも敢えてそれを享受しない。ひねくれ。
 らしくないらしさ。

>藤村琉さま
 精進いたします。
 本当にちぐはぐで申し訳ありません。
 ありがとうございます。
 もそっと全体像とか、重みとか構成みたいなところから組み立てていきます(^^

>つくしさま
 お愛想様でした(^^
 いろいろ勉強させていただいてます。

>papaさま
 妄想が先走って大事なところがぼやけてしまっては本末転倒。
 イメージすら伝わらなくては独りよがりもいいところです。ごめんなさい。
 ありがとうございます(^^;

>かけなんさま
>もっと長く掘り込んだのを読みたいような
 単に力量不足です。ひらに、ひらに m(_ _)m
 勿体ないお言葉、感謝いたします。なるべく早くにお答えできるよう頑張ります。

>二見さま
 orz
 ごめんなさいー。どっかで取り戻す野望を胸に抱きつつ。
 ご期待下さい。ミクロン単位で(切腹

>凪羅さま
 アリスのようなヒトは、何がきっかけでふっきれるか、その脆さみたいな。
 普段から何考えてるかわからない、そのヒトらしさってのは誰が作っているのか。
 繊細さとがさつさ。いいペアだなーってことでマリアリ乾杯。

>水酉さま
 乙女心だなんてっ!お上手です。ありがとうございます。
 でも、いろいろ指摘されてるのもその通りです(^^;
 多分、うまくダメな部分がとれたらそのときにまたお褒めのお言葉下さいね。
 いろいろな人に頭が下がりっぱなしです。

>ありがとう(あなたに)
 心意気だけじゃダメですね(あはは
 お祭りですからアリなんですけどね。
 公にするのであれば、誰もが気持ちよくなるものでなければと思っています。
 この作品に関して言えば、さんざ飲んだくれて自分のコントロールも効かずっていう、
 とんでもなく恥ずかしい実話がw
 下手の横好きなりに、上手い文章を書きたいって言う欲があからさまに。
 少なくとも、気分を害したとまで評価されなかったので、首の皮一枚ってところです。
 後書きは蛇足でした。これに関しては自分価値そのものを貶めたと。

>翼さま
 好きな人にはばれないように意地悪をするのです。
 何バカやってんのよと(*^^*

>名前はありません。(マリアリ好きのシャイなお方)
 貴方のマリアリに乾杯!

>反魂さま
 シリアスっぽいものを書こうとしたのですが、こうなっちゃいました(^^;
 いろいろダメすぎるー!

>おやつさま
 ごめんなさい。後書きはお目汚しでした。人格が痴れると言うものです。
 重ねて、勿体ないお言葉ありがとうございます(^^

>爪影さま
>もう一声、
 いやー。もう、本当にごめんなさいと言うしか(泣
 近いうちに創想話とかに発表できれば……。なんとか!
 しばらくは忘れててください。ひぃぃ(嬉

>月影蓮哉さま
 音速を飛び出て自己陶酔へと。うわったた!すみません。
 アリスは狸寝入りですから(マジ?
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