蛍に魅せられ雨に香る

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/23 23:29:14 更新日時: 2006/04/17 22:27:16 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 昔のことは気にしない。だから、いつだって前を向いていられる。後ろに流れる風景なんて、視界から消えればその存在自体が無くなってしまうのだ。例えば七年前に見た流れ続ける星空だって、もう夢の残滓でしかいられなかった。
 だから私に向かって手を伸ばしたことだって、共におどけてみせたことだって、午睡の名残でしかないのだろう。
 窓の外には馬鹿面を引っさげた青空が、これでもかと両腕を開いて私を外へと誘っている。窓ガラスの肌触りはすでに秋。隙間から漏れる風のささやき声に幾分意識をはっきりとさせて、私はベッドから身を起こす。
 下の階から紅茶の香りが漂ってきた。きっと魅魔様が淹れられたものだろう。添えられているであろう洋菓子に期待をしつつ、スリッパを突っかける。
 それで完全に目が覚めてしまった。
 口腔から鼻に抜ける眠りのにおい。そのまどろむ様な重くて湿気た空気を全て吐き出してしまったせいで、夢の世界は永遠に私から失われた。夢の中の蝶は飛び立ち、変わりに鮮烈な紅茶の香りが鼻腔を満たす。
 大切なものを手放した気がする。それは私がドアを開けた時に部屋に残留し、そして魅魔様と紅茶を飲んでいる間に拠り所を無くして消えてしまうのだろう。始めから何もなかったように。
 それは一切の痕跡を残せない儚い溜め息だ。雲散霧消してしまった後は、部屋は何食わぬ顔をして私を出迎えるに違いない。今まで部屋の中にいた何かなど、魔法のように隠してしまって「先ほどまでの私と今の私は何も変わってはいない」なんて済ました顔で嘘をつくのだ。
 代わり映えのしない、その家具の配置で。
 未だ漏れ続ける、窓ガラスからの秋の涼気で。

      ⇔

 一階は甘い香りに満ち溢れていた。未だに熱いであろうオーブンの中から溢れる、焼きたてのマフィンの香りが寝起きの頭をくすぐってくる。遅れて柔らかいベノアールティーの湯気が、自身の暖かさを主張するように魔理沙を包み込んできた。
 ちょうどお茶の支度が整ったところに現れた魔理沙を見て、魅魔はあきれた顔をした。
「普段もこれくらいだったらねぇ」
「何、いつもこれくらいだろ」
 魅魔の言う普段とは、寝起きの悪い朝のことである。それを魔理沙はお茶の時間と捉えた。
 もちろんわざとである。規則正しい生活をと、いつも魅魔が口を酸っぱくしているのに穿き違えるはずがない。
 魔理沙はそっけなく魅魔の対面に座ると、本を広げた。タイトルは『レーザ光の反転領域』。魔理沙の幼馴染の発明品が、最近調子が悪いらしい。
「あーあ、どこかに図書館でもあればなあ……。いっそのこと、建ててやろうか」
 今読んでいる本だけでは修理の見当もつかないらしい。難しい顔をして、勝手にマフィンをひとつ手に取る。魅魔はそうした魔理沙の態度にもいやな顔をしない。許容と揄いをその表情に混じらせるだけだ。
 捻くれたところは出会った時のままだが、最近の魔理沙はそれに加えて妙に乱暴な口を利きたがる。姉御肌な魅魔の影響なのか、それとも霧雨家への反発なのか。
 ともあれ魅魔にとっては楽しい変化である。魔理沙のための熱湯をティーポットに注ぎながら、意地の悪い猫なで声を出した。
「お嬢様。ちょうど今、茶葉が跳ねていますわ。もう少しお待ちください」
 言って、ポットを見せてやる。
 二個目のマフィンに手を伸ばしていた魔理沙は、何の気なしに目線をこちらに向けると、
「あら、葉が踊っているようね」
 うふふ、と上品に微笑んだ。
 もうたまらない。魅魔は一息で笑いの渦に巻き込まれた。粋がっている子供を急に不安にさせる、大人気ない笑いだった。
 うふふ、である。
 魔理沙は気丈に平静を装っている。いるが、地は直情なのだ。上品に振舞ってしまった唇を、どうしても歪めずにはいられない。がりがりと頭をかくと、そっぽを向いてしまった。わざと大きな音を立てて本を閉じるのが、子供臭い。
 魔理沙は元々、学園都市を取り仕切る霧雨家の一人娘である。蝶よ花よと育てられたせいか我がままで嘘つき、負けず嫌いで即物的な、どうしようもない捻くれ者に育ってしまった。それでも躾けられた振る舞いは、魔理沙を相応のものへと見せていた。付近では名を出せば誰もが頷く程に、霧雨家の力は大きかった。
 広大な魔術知識を軸にマジックアイテムの製造を行う霧雨家は、その奉公人も膨大な数にのぼる。魔術装置の製造を行う工場は、さらにその整備のために使われる式を生み出すための工場も併用されていた。さらに錬金術の研究のための専用施設。研究者を育てるための学校。それら勤務者や学生の寮や生活のための商店と、連鎖して規模は大きくなっていく。
 霧雨家はひとつの街として機能しはじめ、象徴として中央に時計塔が建てられた。
 豪奢な窓枠から見えるその塔は、魔理沙をいつも苛立たせた。魔術によってすべてを制御されている街は、人の気配の感じられない死んだ街である。冷たい歯車が徐々に街の人々を侵攻して、ついには朽ち果てさせる。そうしてその頭脳こそがあの時計塔なのだ、と暇さえあれば幼い魔理沙は窓辺に座って幻想をしていた。
 そうして窓辺で憂いた姿も箱入り娘のさまになっており、ますます霧雨家の威光は高まるのであった。曰く「高嶺の花だ」と。
 そうして口々に騒ぐ奉公人たちなど魔理沙の目に入るはずもなく、狭視の幻想に頭を悩ませる日々であった。このまま世界中の人がいなくなったらどうしよう。高い高い塔の上で、私は一人で歯車を回し続けるしかないのかしら。と。
 しかし実際のところ、人々は消えるどころか増える一方だった。従来のマジックアイテムの小型化に成功した霧雨家の勢いはさらに高まり、その名声は幻想郷を越えて遠く冥界や魔界にまで鳴り響いた。
 ミニ八卦炉を開発した研究部門の青年は上層部にまで召し上げられ、彼専用の研究施設を充てられた。
 魔理沙の幼い幻想は、笑い飛ばせる程に夢幻ではなかったのだ。大量の小型高出力炉の生産が可能となった今、魔力の低い者でも簡単に大規模破壊が行えるようになった。
 七年前の霧雨邸は人を部品にして作られた、冷たい鉄と歯車に覆われた一塊の生命体であった。

 ミニ八卦炉を作った青年は森近霖之助といった。
 霖之助は自己への執着が強い男であった。常に憧憬を瞳に宿し、考えうる最良の未来に身を置く。
 捉え所の無い茫洋とした様が、幼い魔理沙には神秘的に見えたのだろう。魔理沙は森近研究所によく出向くようになった。
 珍しさからか、勝手に施設のものをいじる魔理沙に、霖之助はいつも何か言いたそうな顔をしていた。
 ある時、霖之助が霧雨の本邸に乗り込んだことがあった。所員の一人を辞めさせるというのだ。
「彼に今辞めてもらっては困ります」
 霖之助の上申は聞き入られることはなかった。必要のない奉公人は切り捨てるのが常であった霧雨家にとって、霖之助の進言は戯言でしかなかった。それは霖之助もわかっているはずだ。『功績を挙げたからこそ、召し上げられた』ということは、逆もまたあり得ることなのだ。
 霧雨家の本間で、それでも霖之助は闘い続けた。討論の議題は徐々に単明になり「人手が足らなくなって困る」と、霖之助自身の信念を捻じ曲げる反論に、霧雨は簡単な足し引きのように「足らなくなれば、また足せばよい」と返した。いつまで経っても議論は平行線のままで、一時だって話が噛み合うことがない。
 良い機会だからと、話し合いの場に出された魔理沙であったが、居心地が悪いことこの上もなかった。丁々発止の父と霖之助の両方に責められているような気がして、縮こまっているだけで精一杯だ。出来うるならこのまま壁と一体化してしまいたかったが、霧雨家の一員として居る手前、それもできない。広く清浄な本間の隅で、魔理沙は置物としてそこにあるだけだった。
 そして。がんじがらめのまま固まってしまった魔理沙の目の前に霖之助がいた。
 義憤に燃える金色の瞳。枯れる声。振り乱した銀髪。仲間としてではなく、彼本人を助けようと肩をいからせている。魔理沙の眼に、滔々と話し続ける霖之助はどう映ったのだろうか。
 主が退席した後も霖之助の肩は小刻みに震えていた。父に倣い、魔理沙も作法通りに退出する。
 襖に手を掛けたときであった。一言。一言、霖之助が何かを言った。それは魔理沙の耳に届く前に否応なしに形を崩され、結局は音としてしか耳に届かなかった。
 霖之助が何をつぶやいたのかはわからない。ただ廊下に身を置いた魔理沙の目には、再び霖之助の姿が映ることになる。しかし幾百も 『正しいふすまの閉め方』を練習した腕が魔理沙を裏切る。何かを伝えたいはずなのに、今この時でさえ何の感慨も表すことが出来ずに、少しの時を持って、腕は静かに襖を閉めてしまった。
 廊下にいる魔理沙の口からは、ため息が漏れるばかりであった。襖で区切られたこちらとあちらが二百由旬よりも遠い。誰かに置いてきぼりをされたように、寒々しい不安だけが胸に残った。
 以降、魔理沙は霖之助の研究所によく顔を出すようになった。しかし研究所に入り浸り続けるお嬢様を、奉公人は煙たがった。勿論、相手のことをおもんばっての事ではなく、自身の身の安全のために、である。
「あら、これは?」
 好奇心で瞳を輝かせる魔理沙に、霖之助は不機嫌な表情で答える。そうした雰囲気を一向に構うことなく、魔理沙は赤い髪を跳ねさせるのだった。
「そっちは僕のコレクションです。下手に触ると怪我をしますよ、注意してください」
 ただのガラクタにしか見えないが、そういうものらしい。魔理沙は素直に頷くと、それでも手にした小瓶を珍しそうに覗き込んだ。
「でも、これが仕事の役に立つのかしら。意味の無いコレクションなんて、無闇に置いておくものではないわ」
 自分のことを棚に上げるのはいつものことだ。
 さらさらと小瓶の中の砂を転がしながら魔理沙は問うた。霖之助は魔理沙が壊さないか、と気がかりそうにしながらも「そんなことはありません」と反論する。
 当たりの柔らかい反応しかしない使用人に囲まれて暮らしている魔理沙にとって、それは苛立たしくもあり、また小気味良い刺激でもあった。
「そもそも、『無駄の中に宝あり』と古くから言われているように、人に、世の中にとって無駄なものなどは存在しないのです。例えばそこのコレクションですが、まさにアイディアの宝庫。私のみならず所員全員の憩いの場となっているのです。魔理沙お嬢さん。その瓶の中の砂は、どんな形をしていますか」
 苦笑する所員たちを尻目に魔理沙は、手の内をしげしげと観察した。小瓶の中には砂が三分ほど入っているだけだ。
「……別に。ただの砂のようだけど」
 見ているだけでは埒が開かないと思ったのか、キャップを開けて直に手にあけた。そこで初めて砂のにおいに気づいたようだ。
「潮……砂浜の砂なのね」
 そういって霖之助を見ると、黙ってあさっての方向を向いている。所員の一人が笑いながら「キャップですよ」と教えた。
 確かに瓶の栓には「星の砂」と明記されている。しかし魔理沙は霖之助にその事を教えてもらいたかった。
「星の形……しているわね」
「うん。そこが重要なんだ」
 沈んだ魔理沙の声に反応するように、霖之助は逆にぱっと顔を上げた。
 元来、霖之助は長考熟考型の人間である。物思いに耽って外の事が見えなくなるなど日常茶飯事だが、自分が取り残されるような気がして、それが魔理沙には辛い。
 一方の霖之助は気楽なものだ。影になった霧雨のお嬢様などどこ吹く風で、長舌の続きを披露している。
「ああ、そうです。すいません、失礼な口を……」
 思わず出た平易な言葉を尊敬語に切り直してから、
「つまりお譲さんの専攻している魔術と同じということですね。もともと星というものはこうした砂や石から出来ているのですよ。つまりこれらは、夜空から海に落っこちてきた物と考えるのが妥当でしょう」
 全てのものは上から下に落ちてくる。天の頂にあるものだって、逆らえはしないと霖之助は説いた。
 そういわれて魔理沙はむくれた顔をした。何か星に対しての憧れがあったのかもしれない。
「でもあんなに綺麗なのよ。飛んでいると、光に包まれているみたいで……。冬なんて手が届きそうなぐらいなのに、砂だなんて」
「とんでもない。大地と天は一対にして陰陽。正反対のように思われるでしょうが、その実同じものなのです。その瓶だって陽に透かしてみれば、美しく輝きだしますよ」
「そうかしら」
 どうにも合点がいかないらしく、魔理沙は眉根をひそめる。日はすでに落ちてしまっており、試そうにも試せない。清浄な研究室には人工の白い光が満ちてはいるが、とても星の砂が喜ぶとも思えなかった。
 魔理沙は諦めたように右手を振る。
 すると魔女のホウキがもうそこにあった。当たり前のように魔理沙の右手に握られている。飛び立つのは今か今かと身じろぎしているようだ。
「天と仲がいいのね。だったら月光ではどうかしら。いつも星と一緒だもの。きっと嬉しいはずよね」
 うふふ、と野心が多分に含まれた笑みを零して魔理沙は飛び去った。
 さて、と首を捻った霖之助だがすぐに慌てたように付け足す。
「待て、それは。もっていくなー」
 しかし霖之助の大切なコレクションは、すでに研究所の窓をすり抜けた後だった。窓辺に駆け寄るも、ホウキに乗った魔女は薄暗闇に消えてしまった。ただ赤い髪だけが今までの、そしてこれからの騒乱を指すように、風に梳かれて踊り乱れていた。

      ⇔

「という訳なんだ、香霖。これのメンテはまかせたぜ」
 薬草で染めた金髪を肩に乗せて、魔理沙は霖之助にミニ八卦炉を渡した。霖之助は本から目を話そうともしない。そっけなく「ああ」と返事をして、店先のテーブルを指差した。そこに置いておけ、という意味なのだろう。
 香霖堂は退職した霖之助が構えた第二の人生である。どうも人事の一件で不満が表面に出たのがいけなかったらしく、以来の霖之助はことあるごとに上層部に食って掛かった。
 そこまで世渡りのうまい男でもない。辞める辞めない、退職金を寄こす寄こさないで揉めに揉め、一時は霖之助の開発した技術を他の家に売り払うという話にまでなった。相変わらず交渉事は下手である。
 結局は霖之助の技術を霧雨家が買い取るという形で決着がついた。こうして安穏と隠居している霖之助だが、どうにも霧雨家とは因縁が絡んでいるらしい。こまっしゃくれたお姫様が糸に手繰られて辿り着いてきたようだ。
 その魔理沙が今は香霖堂にいた。
「ったく、魅魔様も酷いぜ。指差して笑うなんて……。ああいうの絶対、姑とかになるんだ」
 魔理沙が家出をした後に、魅魔という悪霊に拾われたらしい、という話は霖之助も知っている。元の奉公先のお嬢様の面倒を見るわけにもいかないが、だからといって放っておくわけにもいかない。挨拶がてらに様子を窺いに行ったが、なんともアーリーアメリカンな悪霊だった。
「世話になっているのだし、悪気があって言ったわけではないだろう」
「わかってるぜ」
 そう言ったものの『香霖』に魅魔の肩をもたれたせいか、また腹が立ってきた。紅茶を手に意地悪い笑みを浮かべる魅魔に、何とか一泡吹かせてやりたい。カールさせた髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜて、幻想郷の識字率の低さを嘆いた。
「本さえあればなあ。これの修理だって、新しいスペルだって、思いのままなんだが……」
 テーブルに置いたミニ八卦炉を、なおも諦め悪く弄っている。霖之助は書面から目を離さずに、
「確か湖畔の紅い舘には、図書館があると聞いたが」
「ちょっと花を摘んでくるぜ。」
 言うが早いが、あっという間に店を後にしてしまった。
「だが、そこにはスカーレットデビルと字を持つ恐ろしい悪魔がいるそうだ。そこでは夜な夜な……」
 わかっていたことだが、やはり魔理沙は鉄砲玉だった。書物から顔を上げると、すでに豆粒になってしまっている。空に消え行く色が赤から黄色に変わったが、中身は七年前となんら変わっていない。
(まあ、静かになってちょうどいいか)
 本は貴重品である。そうそう手に入れられるものでもない。特に魔理沙の欲しがるような物は希少だ。
 それは魔理沙の知識欲の深さを表している。そして確かに、学べばミニ八卦炉の修理も、新しいスペルカードの習得も容易だろう。魔理沙にはそれだけの資質がある。
(今は捨てて置くが善し、と)
 魔理沙の母がちらりと脳裏を掠めたが、特に臆することもない。香霖堂の閑を肴に、霖之助は読書を楽しんだ。

 そして美鈴は久しぶりの組み手を楽しんだ。

「……疲れたわ」
 八卦炉も符もない状態で、未知の舘に侵入するなど狭窄の極みだった。エプロンドレスのポケットに残っていたマジックミサイルで応対はしたものの、まさか突然の飛び蹴りとは予想もできない。どうにも自分にはイノシシのようなところがあると、ぼろぼろの髪を抑えて魔理沙は唸った。せっかく綺麗に整えた髪だというのに、どこかくすんでしまっているようだ。袖も破れて、肩口までほつれてしまっている。きっとあの妙な技で、投げ飛ばされた時だ。
 痛む体を引きずって、ようやく家に着いた。魔理沙の仮宅であるログハウスは魅魔の本宅でもある。自分の縄張りに帰ってきたという安堵と、知らない建物に入るときの圧迫感がいまだに同居する家だ。
 ホウキが着陸した。地面に足をつけてみると、途端に体重が負担になった。関節部に残る重さが気だるい。
「かえったぜー」
 気の抜けた声で居間に入ると、魅魔が猫に餌をやっていた。飼っているのではなく通い猫だ。玉になっている毛がみすぼらしい三毛猫が、それでも気品のある仕草で皿のミルクを舐めている。
「おや。こっちもかい」
 魅魔はぼろぼろの格好をした魔理沙に、なんら動じることもない。軽く猫の頭を撫でてから席を立った。代わりに魔理沙が大人しくテーブルに着く。
「じゃれるのも大概にしときなよ」
 鍋や食器がぶつかる音と共に、そんなお説教が飛んでくる。魔理沙はテーブルにあごを付けたままで生返事をした。
 キッチンに立つ背中が「もう一匹の猫は手が掛かるねえ」と小言を漏らしている。そうして夕食を運んでも、魔理沙はむっつりと頬杖をついたままだった。
「だってさ……」
「なんだい?」
「いや。うん……」
 口籠ったのを誤魔化すように遅い夕食に箸をつけた。魔理沙は和食である。魅魔の食事スタイルにはいまだに慣れないが、それでも温かなものを何も言わずに出してくれるのは有難いことだった。
 とろりと熱そうなスープを前にして、使い慣れないスプーンをもたつかせる。そのままパンを一口齧ると、小麦とバターの味がした。さっくりとした歯ごたえに記憶が蘇る。
 霧雨の家を出て、あてもなくさまよった事。雨に打たれ風に冷やされ、空腹で意識が遠のくことを始めて知った。
「そういや、これで十三枚目だな」
 魅魔に拾われて食事をあてがわれても、ぱさついたパンが喉を通らなかった。甘いコーンスープで無理やり流し込んで、それで食べ終わると十二枚もの食パンを平らげていたのだった。
「ゆっくり、お上がんな」
 魔理沙と向かい合う形で座る。食後のホットワインを一舐めして、瞳孔を軽く緩ませた。
 魔理沙も同じように、出されたホットワインを一口飲んだ。
 魅魔は食べる様を包むようにして眺めている。猫をそっと膝の上に置いて撫でながら、そうして魔理沙と同席していた。それは魔理沙への暗示だったのかもしれない。抱きしめられたような柔らかな居間は、きっと魅魔の膝そのものなのだろう。温かなスープ、温かなミルク。共に受け入れた膝と部屋。
 魅魔は人類を皆殺しにしたいと言う。しかしここには、そうした恨みも何もない。ほんの少しだけ疑問に思って、それから魔理沙は太陽の匂いのするベッドに深々ともぐり込んだ。
 今夜はきっと、星が綺麗に違いない。

      ⇔

 飛び立てば満天の星。天蓋に瞬くのは貼り付けられた星。水月の星空は、どこまでも丸く煌いている。
 霧雨家を全貌できるまで高度を上げて、魔理沙は心地よさに浸っていた。森近研究所もあんなにも遠い。そういえば霖之助が何か言っていたような気がする。「もっていくなー」とか「外の世界のものをー」とか。
(まあ、大丈夫よね。借りてるだけで、すぐに返すし)
 ポケットの外から小瓶を確かめる。珍しい形をした砂の、さらさらとした音が聞こえてくるようだ。
「うふふ」
 懐から符を取り出した。
 月光『バンドブライト』。
 習っている最中の初級西洋魔術である。
 指に挟まれた符が金色の光に包まれた。続いて偽月の光が、辺りを照らし出した。その名の通り一条の光が、夜空に浮かぶ魔法使いから放たれる。灰となって崩れ去る符をよそに、魔理沙は小瓶の砂を透かした。
 星だった。丸い中心部がやや影になっているが、その分だけ角が輝いていた。小瓶を傾けると大きく崩れ、まるで流星が大挙しているようだ。
 闇に浮かぶ金色の粒の中で、赤い髪がはためいている。この空には私しかいないと、魔理沙は幼い容貌を歓喜で満たした。世界を掌握したような気になって、くるりと舞ってみせる。偽月が無くなっても、星の砂は輝いていた。それはきっと、夜空に恋する自分だけの魔法なのだろう。
 遠く足元にミニチュアのような家々が並んでいる。芥子粒の人々が動いている中で、一人と目が合ったような気がした。白っぽい服を着ているので研究員だろうか。霖之助だろうと適当に決め付けて、星の小瓶を持って手を振る。なにやら反応があったので、やはり霖之助だろう。
 もう一度手を振った。大丈夫、という意味をこめて振ったから、きっと伝わっただろう。面白くなってでたらめに飛行した。木の葉のように不自然な動きをしてみせる。下にいる人の粒も慌てたように右往左往している。
 からかいついでにもう一度、符を月にした。掲げて急発進する。残像で線のように見えただろうか。再び一条の光を放ちながら、大きく左右に振ってみる。
 すると遠くの森から光が返された。霧雨家から少し離れたところにある魔法の森からだ。
 燃え尽きた符もそのままに、魔理沙は一直線に森へと向かった。
「あら? ここだったはずだけど」
 森に向かってからほんの十分程度で光源に到着した。湿度の高い魔法の森は夜のせいでますます湿気で蒸されていた。花の色ひとつない味気ない黒さも加わって、不快さがすぐに上がる。木々の背が高いせいで、あまり高くは飛べない。地面すれすれの低空でホバリングをする。
 目算が狂ったのだろうか。先ほど光っていたところにきても、何もありはしなかった。
「うーん」
 呻いた途端に虫が口に入った。
 かなり大きいものだ。羽を開いてもがく様が、舌や口壁を通じて伝えられる。魔理沙は軽いパニックに陥った。体内に異物が入った危機感と気持ち悪さから、胃からこみ上げてくるものと共に吐き出した。
 虫は十センチはあろうかという源氏蛍だった。楕円形で色が黒く、魔理沙の唾液によって内側の薄い羽が何枚か破れていた。背になり腹になり苦しんでいるが、苦しみたいのはこっちのほうだ。蠢く虫の腹が自分の口にあったのだと気付いたとき、舌に再びあの感覚と苦味が蘇った。
 もう一度、えづく。胃の中身まで吐き出さなかったことに、拍手を送りたい。
「あはははは。ニンゲンだー」
 闇夜から笑い声が響いた。木々の梢を人が払う、がさがさとした音がした。
 魔理沙は口に残った羽を吐き出しながらも、視線を緩めることはない。この気配は人ではない、恐らく妖怪の類だ。不意打ちされぬよう気を入れて前方をにらんでいると、白色の光が見えた。家の上空で見たあの光だ。
「ふぅん、あなただったって訳ね」
 まんまとおびき寄せられた事に腹が立つ。そういえば、昔話でもよくあるではないか。夜も更けた真っ暗な峠に一軒家の明かりがぽつんと灯っていて、やれ助かったと訪ねてみれば、そこは旅人を襲う山姥の巣だった、という話。
「ニンゲンは、明かりに集まる馬鹿だものねー。光を放つ私たちに、敵うはずもない」
 ちかちかと光を放ちながら、人型の何かはゆっくりと旋回してくる。言い分からして、虫の類だろうか。光が逆光になってよくわからない。
「あら。行灯に集る、蛾の分際で」
 警戒するように一定の距離を保つ妖怪を挑発する。ついでに足元で呑気にバタついている虫を踏み潰した。
「ああ! よくも私を!」
「うふふふ。やる?」
 昏い笑みと一緒に懐から符を取り出す。しかし妖怪は馬鹿にしたように、肩をすくめるだけだった。
「まったく、ニンゲンはいつからそんなに偉くなったのかねぇ」
 わざとらしく上から見下ろす。そんな簡単な挑発に、今度は魔理沙が乗った。
「いつだって、よ!」
 同時に符を掲げ、スペルカードを宣言する。
「さて。私たちの苗床になってもらおうか、ニンゲン!」
 妖怪虫もほぼ同時にスペルカードを取り出す。どうやら魔理沙の挑発に動じなかったのはフェイクだったらしい。一泊おいてから怒り出せる分、まだ魔理沙よりは大人だろうか。
 共にかんかんに頭にきている状態で、一斉に弾を解き放った。なので、共に初弾が命中した。
「月光『バンドブライト』! いたっ!」
「蠢符『闇夜の擬態蟲』! 熱つっ!」
 共にでこを抑えて転がった。出会ってからずっと同じことをしているせいか、仲が良いようにもみえる。
 ごろごろと地面を転がって、互いに気が済むまでごろごろと転がって、それから急にぐったりとした。
 死んだか? そのタイミングさえ同じとは、なんともちょうどいい二人だ。
「うー。何やってくれんのよ」
 虫の妖怪が、でこをさすりながら起き上がった。一条の光が頭に刺さる様は、さながら緋の魔杖といったところか。
「むー。あんたこそね」
 続いて魔理沙がむっくりと起きる。虫は高速で動くと凶器になる。良かった、二人とも生きていたようだ。皆もバイクに乗るときは、充分に気をつけよう。筆者は蝉の体当たりで、ピチューンってなったぞ。
「まあ、いいけどね。ったくもー」
 両者の間に弛緩した空気が流れる。虫の妖怪は前髪の乱れが気になったのか、手櫛で整えている。最後に触覚の跳ねを確認するが、どうも気に入らないようだ。魔理沙も同じように、まっすぐな赤い髪を整えている最中だった。
「鏡とかない?」
 魔理沙の問いに妖怪は顔を横に振った。失望する魔理沙に、
「でも、水鏡ならあるけど」
 妖怪は女の子らしい一面をはじめて覗かせた。
 妖怪の話によると、この先に渓流があるらしい。そこに向かっている内に、二人はすっかり仲直りをした。薄気味悪い魔法の森を飛びながら自己紹介をする。
「私はリグル。蛍の妖蟲で、今は仲間の繁殖を手伝ってる」
「私は魔理沙。よろしくね」
 魔理沙は敢えて自分の苗字を言わなかった。霧雨の名前を、たとえ妖怪であろうと出したくは無かったのだ。
「……ん? マリサって。その赤い髪、もしかして……」
「あ、リグル。蛍って夜光虫よね」
 慌てて話題をそらした。いくら森に住む妖怪だといっても、ここまで近ければ知っているだろう。自分が霧雨だと知られれば、その後に必ず尊敬と好奇の目に晒される。魔理沙にはそれが耐えられなかった。
 一方のリグルも、自分の苗字を間違えられたのにつむじを曲げた。
「夜光虫は原生虫。虫って言っても蟲じゃないし、そもそも蛍は夜光虫じゃない」
 うろ覚えの知識が間違っていたと知って、魔理沙は少し興味を引かれた。
「ふ―ん。でも、夜に光る虫じゃない」
「まあ、いいけどね。虫はみんな私みたいなもんだし」
 なぜか納得されてしまった。ホッとしている魔理沙をよそに、リグルはしきりに「夜光る虫。夜に光る虫かぁ」と呟いている。
 木々の切れ目から甘い香りが漂い始めた。小さく水が流れる音も聞こえてくる。いびつに歪んだ木の幹が隠しているが、もうすぐそこに川がある。低く響いてくることから、滝もあるかもしれない。
 そして月明かりもろくに射さない陰気な森が、眼前で二つに割れた。
 草も生えない土に岩が混じり、そこへ水飛沫がかかっている。上流にはこの森には不自然なほどに大きい岩が崖を造り、そこから滝が流れていた。高低が低いためか豪放さの無い、どちらかといえば品の良い滝だ。
「可愛らしいわ」
 川の上からは月光が注いでいる。水面に顔を映して髪を梳いていると、リグルが大声で叫んだ。
「静粛に!」
 途端に森がざわめき始める。無数の羽音が周囲から迫ってくると、ほつほつと明かりが灯り始めた。
 蛍だ。
 身の危険を感じ、魔理沙はポケットの符を握り締める。
「これから、私の襲名をする! リグル・ナイトバグ! 以上だ!」
 かさかさと蟲たちが身じろぎをした。これは拍手かもしれない。リグルは魔理沙のほうを見て、にっこりと微笑んだ。
「夜光る虫。ぴったりだったからね。キリサメのお姫様」
 背中のマントをたなびかせて、川端にいる魔理沙の隣に座った。リグルが髪や触覚を直している間、魔理沙はほんの少し泣きそうになった。
 家を重荷に感じて苗字を隠した矮小な自分と、そんな自分の思い付きを汲み取ってくれたこと。恥ずかしさと嬉しさで、頭がミキサーに掛けられた。そんな思いを外に出すまいと紛らわすために顔を上げると、川面は一面の蛍に包まれていた。
「うわ、すごい」
 星空が滝まで降りてきていた。月光を反射する水しぶきと相まって、無数の星達がゆっくりと流れているようだ。
「せっかく集まってもらったから、ついでに交尾もしてるのよ」
 リグルの解説で感動が台無しになってしまった。さっきの説明は無かったことにして、魔理沙はロマンに浸ることにした。
「あー、卵産みたいなあ。ね、マリサもそう思わない?」
「……。思わない」
「えー。だってマリサも産んでるでしょ。卵」
 人間は卵なんて産まない、と言おうとしたところで、リグルのいう卵が人間では何にあたるのか気づいてしまった。もしかして卵と卵子を混同しているのだろうか。
「せ、生命の営みって神秘よね。これを星空なんて比喩するなんて人間がいたら、そいつは自分勝手なロマンチシズムをほかの動物に押し付けるエゴイストで、そふゃ人間なんて誕生してからほんの五百万年しか経っていないわけで……」
 赤くなった顔でそっぽを向いて、たどたどしい理論武装を展開した。リグルは「そふゃ?」と、ニヤニヤ笑いながら魔理沙の顔を覗き込んだ。
「噛んでる噛んでる」
 意地悪く指摘すると、木の葉を何枚が摘んできた。
「でもさ。そういうのは悪くないと思うよ。私たちが夜に生きるのは、それこそ星の元で生まれたからかなって」
 葉っぱを何かに細工しながらリグルは言う。魔理沙はまだ赤い顔をしたままだ。
「はい、これ」
 もじもじと言い訳にもならない魔理沙に頓着せずに、弛緩したままリグルは木の葉細工を渡した。
「……これ、コップ?」
 リグルは頷くと、川の水を汲んだ。そのまま美味しそうに一口飲む。
「ここは私たちの家でもあるからね。こっちの水は甘いよー」
 言ってもう一口飲む。
 確かにこの川を見つけたときから甘い香りが漂っていた。さすがに毒でもないだろうが、妖怪と人では体のつくりが違う。気をつけなければと恐る恐る口に運んだ。
「わ!」
 口に含んだ瞬間に、甘くとろりとした舌触りがあった。舌先を刺すぴりりとした強さと、米の旨みがのどを潤す。鼻に抜けるは土のものだった。木や草、茸の香りが豊かに含まれて、米の芳香に良いアクセントを隠している。飲み終わった後に残る森の香気が、後味を淡く溶かしていった。
「水じゃないわ……。これ、お酒?」
「そのとおり」
 いたずらが成功した子供の表情だ。目を白黒させる魔理沙をよそに、あっという間に杯を干してしまった。
「ここにニンゲンが来たのは、いつ以来だったかなぁ」
 川べりの岩に腰掛けて足を流れに任せている。そのまま前傾になって水を掬うと、一気に飲み干してしまった。対照の魔理沙はちびちびと舐めるようにして飲んでいる。
「母親が病気だとか言ってさ。少し分けてあげると大喜びしてたなぁ。なんでもニンゲンにとって、ここの川の水は薬になるんだってさ。あ、おかわりいる?」
 昔を懐かしむようにしてリグルは話をする。魔理沙はもう酔いが回ったのか、ぽうと頬を染めて聞いていた。頷いたので、リグルはコップを受け取って川の水を汲んでやる。混ざり気の無い、透き通った味わい。酒とはこのように旨いものなのかと、魔理沙は感心した。
「その後、若返ったりもしたって聞いたけど、そこまではねえ」
「昔話で聞いたことあるわ」
 芯の抜けた声で魔理沙が相槌を打った。視線は蛍と星に向けられている。すでに夢見心地だ。
 唐突に、酔眼のまま魔理沙はスペルカードを展開した。酔っているせいか、適当な魔術式だ。
 魔符「ミルキーウェイ」。どこにも無い、魔理沙だけのスペルカードだ。
 色とりどりの星たちが、蛍と重なるようにして照らし出す。驚いた様子のリグルだったが、魔理沙に敵意がないのを感じ取ってか、再び木の葉のコップを手元に戻した。
「びっくりさせないでよ」
 ただ演出がしたかったのだろう。魔理沙はうっとりと蛍と星を見つめている。冴える星空をバックにくるりと舞って、得意満面だ。
「蛍は星なのね〜。これからは蛍は撃たないわ。避けるだけにする」
「マリサ。あなた、お酒弱いの?」
「呑むのは、初めてよ〜」
 ふらふらと上半身を揺らめかせている。踊っているのか、歩いているのかわからない。リグルは呆れたように、魔理沙から木の葉のコップを奪った。
「ふーん。脆いものなのね」
 たった一杯半でつぶれた魔理沙は、それでもなお食い下がった。
「大丈夫だって〜。これはニンゲンには薬なんでしょ〜」
 コップを奪い返すと、再びちびちびとやりだす。
 米とアルコールでできた甘い水に、蛍たちも産卵を始めた。それが魔理沙には宴会をしているように観える。月光で照らし出された蛍光と星光は、もはや神秘でもなんでもなく、ただのどんちゃん騒ぎになってしまった。
 リグルとさんざに笑いあいながら、いつしか魔理沙は甘水の底へと沈んでいった。

      ⇔

 夢の中には大人になった私がいた。髪を金色に染めて、カールもさせている。我ながらなかなか似合っている。
 その私が誰かと激しく口論をしていた。私の胸中は憤怒と憎悪、そして一片の愛情によってはち切れんばかりになっていた。
 薄く泣き声もある。後ろから聞こえるそれは母のものだった。部屋を満たし体に纏わりついてくる。母の悲しみが私にも伝わり、ますます胸が苦しくなる。
 とすると対面している相手は……父だろう。私はもうすっかり大人になったのに、どうして何もわかってくれないのだろうか。口論は激しくなる一方で、想いは千々に乱れるばかりだ。
 だから私は家を出る。
 霧雨が降る中、誰もいないときを見計らって部屋を出た。……深夜に勝手に部屋を出ることは禁じられている。見つかったらまた、きついお仕置きをされるだろう。
(臨むところね)
 挑む闘志が笑みを形作る。そして背後から急に肩を叩かれ、すぐに涙目に変わってしまった。
「なひぇ」
「やっぱりですか。お嬢さん」
 振り返ると霖之助がいた。人を驚かせておいて、よくまあ平気でいられると思う。文句を言おうとしたところに、妙なものを押し付けられた。
「餞別です」
 包みを解くと中にはミニ八卦炉があった。
「火力の微調整をしておきました。これで戦闘だけでなく、日常生活にも応用できるはずですから」
 ほんの少し、眼鏡の奥が和らげられた。
 夢を見ている。未来の、家出をしようとしている魔理沙を観察している、もう一人の魔理沙がいる。
 その赤い髪をした幼い私が驚いていた。香霖がこのような表情をするとは、あの頃には想像も出来なかっただろう。
 香霖は霧雨家に見切りをつけるだろう。そして能力を最大限に使えるような、言い換えれば、自分自身が納得できる生き方を選ぶのだろう。
 その香霖堂という雑貨屋には、きっと私もいる。既に家出をして一人暮らしをしていて、時たま香霖の店に遊びにいくのだ。不精な香霖は部屋が汚いだろうから掃除をして、小言を言って、それから料理を作ってやる。
 でもそんなに上手く出来るだろうかと不安にも思う。もしかしたら使用人が必要かもしれない。身の回りの世話をして、おいしいものを作る、香霖にとっての私のような存在が。
 何かおこがましいことを言って怒られたような気がして、首をすくめた。彼女を怒らせると本気で拙い。
 霖之助と別れた後、私はすぐに家を出た。懐にはしっかりとミニ八卦炉を収めている。霧雨の中ホウキに乗って無暗矢鱈に飛ばしたせいか、あっという間に体が冷えた。指が強張って、今にもホウキから落ちそうだ。ろくに知らない外の世界を、負けん気だけで進み続けた。
 どこをどう飛んだかも覚えていない。魔法の森の木々は微妙に傾斜が付いていて、平衡感覚が失われる。まっすぐ飛んでいるつもりだが、本当はどうだっただろうか。
 結構飛んでいた気もするけれど、見たことのある景色しか出てこない。この森が無限に続いているのか、それとも私がぐるぐると回っていたのか……今となっては同じことだ。
 大きな木の下で雨宿りをして、それでも吹き付けてくる風のせいで何の意味も無かった。ミニ八卦炉で暖を取ろうとしたが、緊張しているのか魔力の消耗がとても激しかった。
 炉に火を点してやっとの事で、かじかんだ指を暖めることが出来た。指が温まったせいで、体がどれだけ冷えているかを思い知る。
 寒い。八卦炉の赤い光に霖之助が浮かんで、突風によってあっさりと消された。森の葉が風にざわめいて、真っ暗の中には何者かが潜んでいる。
 それだけでもう限界だった。私の意地などは、夜に吹く風の一凪ぎで全て消し飛んだ。
 謝ろうと思った。今ならまだ間に合う。つっぱったってそんなもの、腹の足しにもなりはしない。すぐに冷え切った手で八卦炉を戻し、ホウキを何度も取り落として、家に向かって飛び立つのだ。
 顔はもう、濡れきってぐしゃぐしゃだ。雨なのか涙なのかもわからない。ホウキに乗って木の枝に引っかかれながらも、無理やりに突き抜けた。頭がふらついてしょうがなかった。
 後ろから急に撃たれた。振り返っても誰もいない。嫌な笑い声が響いて、それで妖怪の仕業だとわかった。八卦炉で焼き殺してやろうとしたが、うまく体が動かない。再び木の枝に押し付けられたと思うと、次の瞬間には泥濘だらけの地面に突っ伏した。
 泥で息が出来ない。咳き込んで気管の泥水を吐き出した。手が重い、足も動かない。頭上からまた嫌な笑い声が響いて、情けなさに拍車がかかる。撃たれる気がする。逃げ道を探してがむしゃらに隠れた。
 潜りこんだ茂みの向こうに家があった。もう恥も外聞も無い。折れたホウキを放り出し、幽鬼の足取りでドアを叩いた。
 木製の扉が開いたとき。その向こうに暖かい光が灯っていたとき。そのとき私は生まれて初めて、心の底から本気で感謝をしたのだと思う。
 森の中のログハウスに住むその人は魅魔様といった。泥だらけの私をお風呂場で生き返らせてくれて、食事も出してくれた。むせながらも必死で食べ物を詰め込んだ。
 私は十二枚のパンをスープと共に平らげて、それから魅魔様の淹れてくれたホットワインを舐めた。
「あったまるだろ。ゆっくり、お上がんな」
 温かなワインで意識が朦朧としてくる。うとうとと舟を漕ぐうちに眠り込んでしまった。気が付くとベッドに移されていたが、それの記憶はまったく無かった。枕の形が違うせいで首が据わらない。寝返りをうつと干し草の匂いがした。何かを考えなければならない焦燥が胸にあるが、頭のほうが休息を求めて仕事を放棄している。
 どうしようどうしよう、何とかしなきゃ何とかしなきゃ。不安定な波に揺られながら視界は暗く重くなる。柔らかいシーツにくるまって、私は今夜の悪夢をもう一度夢に見た。
 
 これは夢なのに眠り込んでしまうなんて……ここでさらに夢の夢を見る気なのかしら。
 ともかく、おしまい。意識の外側から私を呼ぶ声がするから、もうすぐ私は起きてしまう。
 リグルとお酒を呑んで眠り込んでしまっただけの私に、どうしてこんなことがわかるかって? 予知をする程度の能力?
 いいえ。これはもうひとつの可能性の世界。神の力によって作られたお酒は、境界を越える力を持っているの。妖怪蛍の産卵場にもなっているんですもの、これぐらいの幻想は起こって当然。
 ……さようなら魅魔様。そちらの魔理沙は徐々に横柄になっていくだろうけれど、でもそれは表面上の事だけだから。
 ……さようなら香霖堂。香霖のことだから上手くやっていけるだろうけど、あんまりカビたものばかり食べないでね。
 この感情は夢の残滓にしか過ぎないけれど、今このときだけは私はちゃんとここにいるから。
 まあ、今生の別れでもないしね。お酒を飲めば、また境界を越えて会いに行けるんだし。
 あーあ。それにしても香霖の奴。もう少し私に気を配ったっていいんじゃないかしら。最近は霊夢とばかり話している気がするわ。

「そうよね、香霖? もしかして霊夢のこと好きなのかしら?」
 薄闇が徐々に濃くなった魔法の森で、霖之助は魔理沙を見つけた。側には甘い香りのする不思議な滝がある。
「魔理沙お嬢さん。しっかりしてください」
 意味のわからない寝言をいう魔理沙に、霖之助は苦笑をする。言った魔理沙も魔理沙で、しばらくは年に似合わない大人びた含み笑いをしていたが、すぐにぽかんとした表情に変わった。
 しばらく「魅魔様はどこ?」やら「八卦炉をありがとう」やら、うわごとを並べていたが、じきに合点がいったようだ。現実味がありすぎる夢を振り払い、霖之助が迎えに来てくれたことを把握した。
「……んーっと。あら、リグルは?」
 酔いがまだ醒めないのか、呂律が回っていない。辺りを見渡しても誰もいなかった。もう一度霖之助を見、それから身振り手振りで伝え始めた。
「妖怪蛍なの。触覚がこうあって、ズボンとマントがこう」
 星と蛍を舞台に、馬鹿騒ぎをし合った相方を探す。しかしほんの数十分前の喧騒が嘘のように、川辺は静まりかえっていた。
「いえ、見かけませんでしたが。というか妖怪といたんですか?」
 それで、と得心の表情を作る。
「うーん。一緒にお酒を呑んでたところまでは覚えてるんだけど」
「これは養老の滝ですよ」
 霖之助は呆れたように説明をした。
「これは本来、若返りの薬なのです。だから飲みすぎた人間は、必要以上に若返ってしまう」
 目線で魔理沙を指し示した。
「そのような安易な行動を取られたばちが当たったのでしょう。お父さんにもしっかりと怒ってもらいますからね。良い薬としてください」
 そこでようやく魔理沙は、自分の体に何が起こっているのかに気が付いた。白いワンピースの袖がだぶついている。スカートの丈は長すぎて、一歩でも前に出ようものなら簡単に転びそうだ。
 現状が理解できずにあいまいな笑みで霖之助を見る。霖之助はわざとしく沈痛な面持ちで、深く頷いた。
「若返った?」
「性悪な妖怪もいたものですね」
 どう楽観視しても体が一回りは縮んでいる。若返ったというよりは幼くなったとみるべきか。飲みすぎて赤子になった昔話の落ちを自ら体現してしまった。
 これはもう笑うしかない。医者に診てもらえば何とかなるかもしれないが、相手はあの養老の滝だ。治療が成功するとは、とても思えない。
 しばらくうふうふと笑っていた魔理沙だが、脳の隅で急に合点がいった。
「そう、それで会えないのね」
 幼くなってしまえば、魔力もまた弱まっているだろう。そうすると家出の計画も見直さなければならなくなる。あの霧雨が降る夜に迷わなければ、きっとあの命の恩人にも会えないのだろう。
 未来の予想図がもう少し先になってしまった。家出の計画も延期しなければならない。世話になる人ともう金輪際会えなくなるような気がして、魔理沙は少し残念に思った。
 しかし、だからこそ代わりに得られるものもある。大事なコレクションを持ち出されて、それを心配しただけかもしれないとは到底思えなかった。熱を帯びた手の平によって、魔理沙は力強く起き上がらされた。
「ねえ、香霖?」
 両者の距離が無くなる。妙な呼ばれ方をして霖之助は顔をしかめた。酔いがまだ抜けないからか、足腰がおぼつかない。使用人の務めだからと霖之助は魔理沙を負ぶった。表情が見えないからか、かまわずに魔理沙は霖之助の後ろ髪に顔を埋める。
「もう少し、一緒にいてね」
 月は既に中天に差しかかっている。魔理沙はポケットから星の砂を取り出した。小瓶に入った星の砂がその光を受けても、輝きだすことはもう無いだろう。砂は砂。霖之助の言ったとおり、大地は決して天ではない。
 それでもいいと、魔理沙は思った。届かない場所にあるからこそ、想い焦がれることだってできる。
 前よりも大きくなった霖之助の背に顔を寄せ、魔理沙は酔いに身をまかせた。今度はもっと、楽しくて幻想的な夢を見られることを願いながら。
 豪雨 lunatic
オレ魔理沙を笑って許せる人にも向かない。

(やめときな! やたらオレ設定だぜ?)
博麗の氏子
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/23 23:29:14
更新日時:
2006/04/17 22:27:16
評価:
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Rate:
5.00
1. 1 無記名 ■2006/03/25 04:52:31
やたらオレ設定でした。
2. 5 月影蓮哉 ■2006/03/25 11:13:44
確かに魔理沙はうふうふ言ってたり髪紅かったりするんだよなぁと。
とりあえず、香霖は相変らず羨ましいかな(笑
3. 5 爪影 ■2006/03/25 23:15:38
かなり練り込んでいるのが、ヒシヒシと伝わってきました。
4. 3 落雁 ■2006/03/26 11:44:09
旧作未プレイですが、何と言うか、寄り切られてしまった気がします。
5. 6 名前はありません。 ■2006/03/26 19:39:12
途中でちょっとこんがらがりましたが、うまくまとめてると思いました
6. 6 おやつ ■2006/03/26 20:54:22
俺設定上等。
とにかく旧作熱が上がってる私にとってはツボですねこの魅魔様。
いいなぁ丸くてw
各キャラも魅力的に仕上がっていたと思います。
7. 6 水酉 ■2006/03/27 19:02:10
もう一人の魔理沙に、幸あれ。
8. 10 名無し妖怪 ■2006/03/30 01:38:28
魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙mwえわmしmtますんfmだwんhす
9. 5 凪羅 ■2006/03/30 14:29:52
つい先日旧作をプレイする事が出来て、実際にうふふ魔理沙を見たもんで何やらタイミングが良いと言うか(笑
10. 6 papa ■2006/03/30 19:00:23
なんだろう? 霖之助とリグルがやたらとかっこいい。

時間軸がバラバラで読むのが忙しかったです。
11. 2 つくし ■2006/04/01 13:25:59
あまりの難易度に被弾しました。もう少し腕を上げてきます。
12. 6 かけなん ■2006/04/02 18:20:25
斬新な独自設定。

だがそれがいい。
13. 6 ■2006/04/05 15:10:55
こんなオレ魔理沙も、全然アリ。ごーさいん。
14. 5 藤村琉 ■2006/04/07 01:37:39
 「作者」はすべからく自重し、語り部に徹するべし。
 自己設定はともかく、平行世界うんぬんは飛躍しすぎでどうも設定の無駄打ちをしているようで勿体なく。というか、最初の解説が長くて長くて飽きてしまう……。魔法はあっても、魔法都市扱いだから雰囲気も東方と乖離しているような感じがしますし、それは香霖堂全作読んでいればまた違った感想も覚えたのでしょうけど。本当のところどうなんだろう。
 また、リグルの立場が中途半端といいますか、お酒あんまり関係ないです。養老の滝くらいでしょか。それにしても、どこか収拾付かなくなった話を平行世界でぽーんと投げてしまったような印象を抱いてしまうのはこれまた勿体ないです。それくらい濃い設定だったからそう思えるのですが。
15. 7 ■2006/04/09 00:23:46
だが!君が泣いて謝るまでッ!読むのを止めないッ!
16. 10 ルドルフとトラ猫 ■2006/04/10 01:09:18
ゆるい、ゆるい境界だ
なんだかおれも夢心地だわん
17. 6 床間たろひ ■2006/04/11 01:57:21
うむ、確かに俺設定w
だけど大事に大事に物語を紡いでくれているのが良く解る。こういうのは心地よいねぇ。
俺設定だからこそ先が読めず面白かったですw
18. 8 MIM.E ■2006/04/11 22:14:11
オレ設定とのことですが、物語の面白みを削ぐほどには気になりませんでした。
若返りネタにちょっと心トキメイチャッタのは僕とあなたの秘密です。
しっかりと描かれた霧雨家と散りばめられた現在の世界との接点。それらがどう繋がるか
魔理沙の原点に思いを馳せる感覚は、映画のような幻想的で作られたノスタルジーを感じました。
すごく気に入った作品なのですが、気になった点は二つ。リグルシーンでの筆者登場はこの作品では
いらないのでは? もう一つは、若返りネタが実際の魔理沙史にどう影響するのかしないのか
なるほどと思える筋が通ればよかったのにと私としては思いました。読解不足ならすみませぬ。
19. 6 木村圭 ■2006/04/12 02:15:36
きっちりと調理された独自設定は大好物ですよ。
それにしても、西洋魔術もするのに和食しか食べないって変わった家だなー。
20. 7 NONOKOSU ■2006/04/12 03:22:51
実はリグルの頭が良ければ最強では、と思う今日この頃。
21. 8 反魂 ■2006/04/12 05:01:58
いや、魔理沙より誰より、私が夢を見させられた気分です。
まどろんでいるように、夢を見ながら現を見ている、そんな気分です。

素晴らしい夢世界でした。
或いはこのお話をきっちり理解出来ていないのかもしれないと……
そう思うのは、このSSが本当に夢のようだったからだと、私は思っています。
22. 9 とら ■2006/04/12 06:44:46
可能性は無限。それでも選べる道は一つ。
だから出来ることは、ひたすらにひたすらにゴーイングマイウェイ。
23. 7 K.M ■2006/04/12 21:41:40
読み始めて「おや、このタイトルなのにリグルは出ないのか」と思ったら・・・こう来るとは思わなかった
24. 1 椒良徳 ■2006/04/12 23:27:16
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
25. フリーレス 博麗の氏子 ■2006/04/21 19:01:06
どうも皆さん始めまして。博麗の氏子です。
お忙しい中、私のSSを読んで下さってまことにありがとうございます。
しかも魅力的なコメントも数々いただき、感もひとしおでございます。
それでは簡単ではありますが、お返事を返していきたいと思います。


>御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただき>ます。
 はい、お待ちしております。見ると、他の筆者方にもコメントされているようで。大変でしょうが楽しみにしています。


>読み始めて「おや、このタイトルなのにリグルは出ないのか」と思ったら・・・>こう来るとは思わなかった
 蛍と出てますからね。「蛍に魅せられ」ですし、やっぱりリグルは出てこないと。もちろん魅魔もですが。
 ただ、リグルは出番が少なかったですね。近々HPを開設予定なので、そこの修正・加筆版ではもう少し色々させてあげたいと思ってます。


>可能性は無限。それでも選べる道は一つ。
>だから出来ることは、ひたすらにひたすらにゴーイングマイウェイ。
 ゴーゴー魔理沙。go go MARISA
 でも家に帰ってからはベッドの中で、あれこれと思い出しては、凹んだり嬉しがったりしてるんだろうなあ。


>いや、魔理沙より誰より、私が夢を見させられた気分です。
>まどろんでいるように、夢を見ながら現を見ている、そんな気分です。

>素晴らしい夢世界でした。
>或いはこのお話をきっちり理解出来ていないのかもしれないと……
>そう思うのは、このSSが本当に夢のようだったからだと、私は思っています。
 過分のお褒めの言葉、恐縮です。
 酔って虚ろになるさまは、夢の虚ろと似てますよね。右も左もわからぬままに足がもつれて伏す。まさに酔夢といった所でしょうか。


>実はリグルの頭が良ければ最強では、と思う今日この頃。
 リグルは一面ボスだからか、弱っちい馬鹿にされてしまいがちですよね。でもそういうのは場合によると思うんです。ニンゲンなのにやたらに強い霊夢たちだって、寝込みを襲われたらひとたまりもないですし。同様にリグルは虫だからこその賢さを持っているんだと考えています。
 たとえば蟻の巣なんて超高層ビルを建てられる現代にだって、完全な再現は無理なんだそうです。すごい技術ですよこれは。
 まあ、暗算対決とかになるとチルノと良い勝負なんでしょうけれど。


>きっちりと調理された独自設定は大好物ですよ。
>それにしても、西洋魔術もするのに和食しか食べないって変わった家だな>>ー。
 うーん。色々な知識を勉強していても、習慣や文化はなかなか変えられないんでしょうかねえ。
 お父さんがえばってるみたいだし「パンなんて食べるもんじゃない!」なんて感じなんでしょうか。でもお母さんはこっそりと買ってきたパンを食べてたり。で、それを魔理沙に見つかったりして。
「あー!」
「しーっ! ……魔理沙も食べる?」
「……うーん。だって駄目だし。お父さんが」
「ぷっ。魔理沙はいい子ねえ。誰に似たのかしら」
 なーんて感じなんでしょうか。
 たまには家に帰って、お母さんに親孝行しなさい魔理沙。家出ったって、飛んで十数分の所にいるんだし。


>オレ設定とのことですが、物語の面白みを削ぐほどには気になりませんでし>た。
>若返りネタにちょっと心トキメイチャッタのは僕とあなたの秘密です。
>しっかりと描かれた霧雨家と散りばめられた現在の世界との接点。それらが>どう繋がるか
>魔理沙の原点に思いを馳せる感覚は、映画のような幻想的で作られたノスタ>ルジーを感じました。
>すごく気に入った作品なのですが、気になった点は二つ。リグルシーンでの>筆者登場はこの作品では
>いらないのでは? もう一つは、若返りネタが実際の魔理沙史にどう影響す>るのかしないのか
>なるほどと思える筋が通ればよかったのにと私としては思いました。読解不>足ならすみませぬ。
 ぶかぶか服は男の浪漫!
 きっと幼い魔理沙は、不安げに香霖を見上げていたんでしょう。その瞳、その儚さ。怯えるだけの華奢な肩を、香霖はそっと抱き。シュークリームの脆さに思わず、この柔らかさを握り潰して自分の物にしてしまいたいと、黒いタールを胸中にたぎらせるのであった。
 ……。えー、取り乱しまた。すいません。指先が袖にすっぽりと覆われていると、脳内で急激な化学変化が起こるようです。
 筆者の蝉ピチューンは削除するかどうか、最後まで迷ってたんですよ。物語の完成度を上げるためにはもちろん不要なのですが、ここで脱力系のギャグもおいしいと、迷った挙句に採用してしまいました。きっとみんなここを突っ込むだろうなあと、一人浮かれていた私の芸人ぶりを笑ってやって下さい。でもやっぱり、突っ込まれて幸せ。
 実際の魔理沙はきっとあのままでしょうね。いわゆる原作の魔理沙なので、何の変化もないでしょう。ただときどき冒頭のように、なにか懐かしい夢を見てしまうぐらいでしょうか。目が覚めると我知らず泣いていて、訳のわからない郷愁が夢の残りと共に薄れていく。楽しい仲間たちに囲まれていては、そんな何気ない日常に構っていられるほど、こちらの魔理沙は暇じゃないでしょうしね。


>うむ、確かに俺設定w
>だけど大事に大事に物語を紡いでくれているのが良く解る。こういうのは心>地よいねぇ。
>俺設定だからこそ先が読めず面白かったですw
 実は中盤から後半にかけては見切り発車だったりします。推敲するには時間が余り、書き直すには時間が無い状態だったので、どうにも演出が半端になってしまいました。特にリグル登場シーンと魔理沙とリグルの弾幕喧嘩のあとの仲直りは、どうにも言葉不足でしたね……。
 川原で殴り合って「なかなかやるな」「おまえもな」とは、友人の弁。……なるほど、的を射ている。
 俺設定でも納得させられるほどの力量を早く身に付けないと。


>ゆるい、ゆるい境界だ

>なんだかおれも夢心地だわん
 そう言って頂けますと報われます。
 他の方のコメントにありましたが、中盤はあちらとこちらを行ったり来たりしているせいか、混乱してしまうんですよね。
 もちろんそうした効果を狙っての構成なんですが、その分混乱しやすいというかややこしいというか。
 さじ加減の調整が難しい作り方をしてしまいました。
こうした苦労が肥やしになってくれればなー、と他人事のように考えております。

>だが!君が泣いて謝るまでッ!読むのを止めないッ!
 ”コメントだ”と心の中で思ったらッ! その時スデにssは読まれているんだッ!


> 「作者」はすべからく自重し、語り部に徹するべし。
> 自己設定はともかく、平行世界うんぬんは飛躍しすぎでどうも設定の無駄>打ちをしているようで勿体なく。というか、最初の解説が長くて長くて飽き>てしまう……。魔法はあっても、魔法都市扱いだから雰囲気も東方と乖離し>ているような感じがしますし、それは香霖堂全作読んでいればまた違った感>想も覚えたのでしょうけど。本当のところどうなんだろう。
> また、リグルの立場が中途半端といいますか、お酒あんまり関係ないで>>す。養老の滝くらいでしょか。それにしても、どこか収拾付かなくなった話>を平行世界でぽーんと投げてしまったような印象を抱いてしまうのはこれま>た勿体ないです。それくらい濃い設定だったからそう思えるのですが。
 いわくの蝉ピチューンですね。基本を無視してふひひと笑うのは、中学校で卒業しないと。でも指摘されて、やっぱり顔がにやけてしまう。因果な性格です。
 平行世界が突拍子も無いのは、きっと伏線不足から来ているのではないでしょうか。中盤のごちゃごちゃを、どこかで一度整理するべきでしたね。最初の設定の説明の下手さ加減もどうにかしないと。
 魔法都市はですね。ま、学園都市なんですが、これは駄目ですね。「都市」という単語は現代的すぎて違和感が残ってしまう。霧雨村とか霧雨町にすべきでした。修正・加筆版で直しておきます。
 リグルも出番が微妙です。養老の滝でどんな生活をしているのか、魔理沙とどんな酒盛りをしたのか。描かなければならないところは、まだまだたくさんありますね。
 こうした出来損ないのssに、細かいところまできっちりご指摘くださって、どうもありがとうございます。
 氏の行動力と観察眼の鋭さには感服いたしました。精進し直してきます。


>こんなオレ魔理沙も、全然アリ。ごーさいん。
 「も」ですか! かなり幅広いオレ魔理沙を攻略してますね!
 ううむ。まさかここまでの上級プレイヤーが、こんなに身近にいるとは思いませんでしたよ。
 これはもっと腕(という名の妄想)を強めなければ……。


>斬新な独自設定。


>だがそれがいい。
 ありがとうございます。そう言って頂けると、とても嬉しい。励みになります。
 二次設定ですら吹っ飛ばした「オレオレss」ですが、私自身は案外と肝が小さいんですよ。okサインを何度も確認してから、やっとスタートを切るタイプなので、これでようやく走り出せるような気がします。


>あまりの難易度に被弾しました。もう少し腕を上げてきます。
 まあ、難易度は高いでしょう。何せ唐突に、リグル×魔理沙ですから。しかも赤マリ。
 何だこのカップリング。


>なんだろう? 霖之助とリグルがやたらとかっこいい。

>時間軸がバラバラで読むのが忙しかったです。
 何回か頭の中で噛んで含めないと掴みにくい設定でしたね。読みやすさと効果を天秤にかけて、バランス取りに失敗した感じでしょうか。
 リグルは、「リグルンは男の子だよ」派に配慮して中性的な雰囲気を意識してみました。あとは蟲の王様っぽさを付け加えると……あら、凛々しい!
 こーりんは冴えない中に骨太さを出したかったですね。見た目が細いので、ギャップを狙って行動力で勝負。あとはいつものトンデモですかw


>つい先日旧作をプレイする事が出来て、実際にうふふ魔理沙を見たもんで何>やらタイミングが良いと言うか(笑
 実は旧作未プレイだったりします。まとめサイトでキャラ設定を頭に叩き込んで、キャラスレで妄想を練り上げ、幻想郷は全てを受け入れるんだとばかりにぶちまけました。
 コメントから察するに違和感は無いようですから、まずは一安心でしょうか。まあ、本作自体が違和感だらけなので、キャラの異質さが目立たなかっただけかもしれないですけどね。


>魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙mwえわmしmtますんfmだwんhす
 同志よ!
 魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙mwえわmしmtますんfmだwんhす


>もう一人の魔理沙に、幸あれ。
 満点の星の下、魔理沙もきっと、あなたに微笑んでいるでしょう。


>俺設定上等。
>とにかく旧作熱が上がってる私にとってはツボですねこの魅魔様。
>いいなぁ丸くてw
>各キャラも魅力的に仕上がっていたと思います。
 ようこそ、いらっしゃいました。魅魔様のログハウスへ。
 まずは蕩けるミルクティー。体が温まったところで、アップルパイをどうぞ。種植えから収穫まで手をかけ続けた、自慢のりんごを使っています。

 ってなことで。魅力的でしたか……この魅魔様はアーリーアメリカンですよ。いいんですか?
 きっと大型ナイフひとつで、ログハウスを作ったに違いないんですよ? オーブンがとても大きくて、掃除に苦労してたりするんですよ?
 ダイニングでぼんやりとテーブルに頬杖を付いて、足元にはいつもの通い猫がミルクを飲んでたりして。
(ああ、魔理沙が冥界に行くなんて。そそっかしいから悪霊なんかになって帰ってこないだろうねえ)とか考えてたりするんですよ?
 うおー! 魅魔様、大好きだー!


>途中でちょっとこんがらがりましたが、うまくまとめてると思いました
 そーなんですよー。やっぱりどうしても途中でこんがらがっちゃうんですよ。勉強するしかないですねー。偉大な文人の方々の遺産を盗み、自分の文章にしなくてはなりません。そうです。これはまるで、パチュリーと魔理沙のようではないですか!
 よーし、こうなったら思い立ったが吉日。さっそく図書館に行ってみるぜ。なぁに心配するな、借りてくだけだ。ちゃんと返すさ、死んだらな(貸し出し停止


>旧作未プレイですが、何と言うか、寄り切られてしまった気がします。
 寄り切れましたか。ごっつぁんです。
 寄り切って押し出し。お前の土俵には、もう上がんねーYO! ってことじゃないですよね、ね!
 それで座布団なんか飛んじゃって、横綱になったのに批判ばっか浴びて、ふと気がつくとブルガリア出身の大関にカメラが向いてたりして、何か知んないけどキムタクを肩車してたりして……。
 ってわしゃ、朝青龍かーい! かーい! かーぃ ヵーぃ(長い長いノリツッコミのあと、ライトが消える。一度、何か言いたそうに観客席を振りかえり、下手へすごすごとフェードアウト)


>かなり練り込んでいるのが、ヒシヒシと伝わってきました。
 ごめんなさい。途中からは雑です。
 霧雨家の設定はだいぶ練りこんだつもりでしたが、それを説明するスキルがまだまだ未熟なようです。場所と時間があって、キャラクターがいて、ある事柄が起こって、それを説明して。……そしてその合間に設定を出していかなきゃならないんだよなあ。
 難しい。 


>確かに魔理沙はうふうふ言ってたり髪紅かったりするんだよなぁと。
>とりあえず、香霖は相変らず羨ましいかな(笑
 原作の引用や各設定は、できうる限り含ませようと心がけました。うふふと笑ったり、髪が赤かったり。香霖と魔理沙の関係もわかる範囲でですが、なるべく崩さないようにしたつもりです。
 逆にわからない所は思いっきりにしましたね。魔理沙が家で西洋魔術を習っていたり、魅魔がメリケン人だったりw
 霧雨家なんて、もう何が何やら。霧雨を主体にした霧雨都市。しかも学校やら工場やら研究所やら……学園都市って筑波かと。やっぱり魔界にも負けないくらいの都会なんでしょうか。いや、自分で勝手に作った設定を、他人様に聞くのもなんですが。


>やたらオレ設定でした。
 ふ、ふんっ! だからなんだって言うの! それで私に勝ったつもりかしら? 甘いわ! 魔法の森の特製マフィンよりもずぅっと甘いわ! そもそも後書きにオレ設定って書いてあるじゃない。それを鬼の首を取ったみたいに「オレ設定でした」って、それじゃまんまじゃないの!
 筆者はこれを見てちょっと泣いたんだからね! 
 うーっ! なによっ、なによぉ! 最後にオレ設定、なんてコメントなんて。……オチみたいになってるくせにぃ! ばかぁっ! もう知らないんだからあっ! うわーん、おかあさぁーんっ!
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