東方花見酒

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/24 12:19:47 更新日時: 2006/04/17 02:41:30 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 長いようで短かった冬が過ぎ、幻想郷にまた春と言う季節がやってきた。
 冬の寒い間ずっと耐え忍んでいた木や草たちが各所で本来の色を作り出していった。
 しかし今年は、その色が少し多すぎるような気がした……。

「う〜ん。」

 幻想郷の隅っこに存在する博麗神社で、てんで巫女らしくないけど一応巫女の博麗霊夢は何時もとは違う、何か嫌な気配に目覚めさせられていた。

「…………。」

 彼女は上半身だけを起こし、しばし布団の中でぼーっとしていた。
 もう春になったとはいえ、未だに冷え込む朝の寒さに彼女は身震いした。

「う〜、寒い。」

 あまりの寒さに布団の中に再び潜り込んでしまった。
 が、この嫌な気配が何なのか気になってしょうがないと掛け布団だけを身にまとい、気配のする外を見ようと這うようにして部屋を移動しだした。
 彼女はすーっと障子を三分の一ほど開け、そこから外を眺めてみる。すると……
 そこには何と、昨日までには無かったはずの無数の花々が至る所に咲いているではないか。
 それも奇妙なことに桜や向日葵、紫陽花、彼岸花等と、様々な季節に咲く花がいっぺんに咲いてしまっているのだった。

「な、何よこれ? やっと春になったからって、これはちょっと張り切りすぎなんじゃないのかしら?」

 彼女は少し驚きはしたが、ことの他冷静に対応していた。
 彼女にとって何か異変が起きることには、もう慣れっこだったのだ。

「ま〜た何時にも増して分かりやすい異変ね。今までは力の在る者の勝手なわがままが原因だったけど、今回はこんなことをして一体何が目的なのかしら? お花見でもするつもりかしらねぇ? 盛大な。……何にせよ早急に解決しなくちゃ。誰かに先を越されるかも知れないわね。もし誰かが私より先に解決なんてされたら、私がサボってるみたいに思われるものねぇ、全く。」

 彼女はやれやれとゆっくりと立ち上がり、手早く布団を片付け、寝床に置いておいた何時もの巫女服に手際よく着替えた。

「さて、面倒だけど早速出かけ……。」

 グー ギュルギュル

「……。」

 唐突に彼女のお腹の蟲が静かな部屋の中に響き渡った。

「……その前に腹ごしらえが必要ね。そのくらいの時間ぐらいあるでしょう。」

 彼女はそう言うと台所へと消えて行ってしまった。


 * * *


 彼女は朝餉の準備を終わらせ、最後に白米の入ったお釜を持って居間へと戻っていくと、そこには先程にはいなかったはずの魔理沙がちゃぶ台の前に座っていた。

「おお、やっと朝餉の準備が出来たか。」

 魔理沙は霊夢の姿を見るなり、既にちゃぶ台の上に運び終わっていた箸と茶碗を使って、まるで楽器のように箸で茶碗をちんちんと叩きながら霊夢に話しかけてきた。

「帰れ。」
「まあまあ、そう硬い事言うなって。それはそうと外を見たか? また厄介なことになってるぜ?」
「厄介なのはあんたよ。」
「厄介になるぜ。」

 そう言うと魔理沙は立ち上がり、霊夢の持っていたお釜をさっと奪って勝手に白米を茶碗に盛りだしている。
 霊夢はふぅと息を漏らし、食器を仕舞っている棚から新たな茶碗を取り出して戻って来た。

「で、あんたはこの神社にわざわざ朝餉を食べるためだけにやって来たのかしら?」
「256分の160は当たってるぜ。」
「分かりにくいから最初から通分してから言って頂戴。というか何その中途半端な数は?」
「特に深い意味はない。今考えた適当な数字だぜ?」
「そんな適当な数字を適当なときに使って欲しくない。」

「で、答えは何なのかしら? 計算するのは面倒なんだけど。」
「つまりほぼこれ目当てだったと言うことだぜ。」
「やっぱり帰ってもらおうかしら。」

 霊夢は魔理沙が今まさに食べようとしている茄子の漬物を取り上げようと手を伸ばしたが、魔理沙がそれにいち早く気付き霊夢よりも早く漬物の入った皿を取り上げた。

「おっと、冗談だぜ?」
「冗談でも帰ってもらうつもりだった。」

「で、残りの96の目的は何かしら?」
「何だ、計算出来るんじゃないか。」
「そんな事は良いから早く教えなさいよ。」
「分かった分かった。どうせおまえはこの後に異変を元に戻すために出かけるんだろう?」
「当ったり前じゃない! それが博霊の巫女の仕事だもの。」
「だから私も一緒についていこうと思ってな。楽しそうだし。」
「それはまた厄介な話しね。」
「これからも厄介になるぜ。」

 結局魔理沙は霊夢と一緒について来る事になってしまった。それは遊び半分でついて来られる霊夢にとってはいい迷惑である。
 だが、もしかしたら霊夢も魔理沙と同じようにこの異変を楽しんでいるのかも知れない。
 何故なら、花を見て不快に思うような人間はそうそう居ないからである。それがたとえ『普通ではない花』であったとしても。


 * * *


「う〜ん。何処もかしこもしっかりと異変が起きてるなぁ。」
「ちょっと、少し飛ばしすぎよ! 何であんたがついて来るって言っておいて私がついて行ってんのよ!」

 花に満ちた草原もとい花原の中で魔理沙の後から少し遅れて霊夢が飛んで行く。

「誰も霊夢の後から飛んで行くなんて一言も言ってないぜ? それにしても多いのは花だけじゃなくて良く見ると妖精も沢山いるんだな。」
「(軽く流されてるし)……確かにそうね。良く見なくても沢山いるわね。どうせみんな花が沢山咲いてるのを見て浮かれてるんでしょう。」
「お気楽な奴らだな。」
「とか言っておきながらその手に持ってる花の束は何かしら?」
「お? え〜っとこれはだな、今度の実験のときに使おうと思ってな。」
「ならわざわざ花飾りっぽく帽子にくくり付けなくても良いんじゃないのかしら?」

 霊夢の言うとおりにいつの間にか魔理沙の帽子のリボンの横に一輪の花が添えられている。

「どうだ? 似合ってるだろう?」
「……。」

「やっぱり厄介ね。」
「そんな事言うなよ。私はただこの旅を華やかにしてるだけだ。」
「これは旅って言うほどでもないと思うんだけど……。それとそんなことしなくても既に十二分に花やかよ。」
「ん、ここは……。」

 とここで目の前に少しばかり大きな湖が見えてきた。湖の方向から少し強い風が二人を包み込むようにして吹き続けて来ている。
 風が魔理沙の花の添えられた帽子を持っていってしまいそうになったが、魔理沙がそれを阻止するかのように帽子を風に奪われないように押さえつけていた。

 今回の異変も流石にここまでは及ばなかったようで、湖上は何も変わっていないように見える。
 とは言え最近ここに訪れて来てはいなかったため、霊夢たちに何が変わっているかなんて分かるはずがなかった。

「あれ? ここって……。」
「湖だな。凄く見覚えのある。」
「アレがいるとこね。」
「アレがいるとこだな。」

「ちょっと面倒ね。ここは特に何も起こっていないみたいだし他へ行ってみない?」
「そうだな。湖の上は何もないから面白くないしな。」
「そういう問題じゃない。」

 と突然二人は辺り一帯の気温が落ち始めたのを感じた。太陽が雲に隠れれば少しは気温が下がるかも知れない。だが、これほどまでに急激な気温の変化の原因は一つしか考えられなかった。
 つまりそれはアレの襲来である。

「ちょっと、さっき言ってた『アレ』って誰のことよ?」
「ほら、うだうだしてる内に面倒なのが来た。」
「私は厄介でこいつは面倒なのか? 意味合いがあんまり変わらない辺りこんな頭が残念なヤツと一緒にしないでくれよ。」
「なッ! こんなとは何よ! こんなとは!」
「怒るところが『頭が残念なヤツ』のほうじゃないのね。」
「やっぱりこいつは頭が残念なヤツなんだなぁ。あ、いや『面倒』なんだっけ? 頭が面倒なヤツ?」
「う〜意味分かんないけどなんかそれムカつくわ! 今何か面白いことが起こってるみたいだから遊びに行こうかと思ってたけど、その前にあんたらをギャフンと言わせる必要がありそうね!」
「そう、なら……ギャフン!」
「ギャフン!……っと言ったぜ? これで良いか?」
「良くない! あたいを子供だからってあんまり甘く見てるといつの間にか霜焼けになるよ!!」

 そう言い放つとチルノは両手を上に挙げ、自分の周りに握りこぶし二つ分くらいの氷の弾を大量に召喚しだした。
 その数はゆうに五十を超えるほどだろうか。

「氷の凶器は溶けたら証拠が残らない。あんたらはあたいの凶器で氷刺しになるのよ!」

 そして手をおもいっきり振り下げ、氷の弾を霊夢たちのほうへ一気に飛ばしてきた。
 大量の氷の弾が向かって来る中、霊夢は静かに懐から一枚の御札を取り出す。

「夢符『二重結界』!」

 霊夢は自分の周囲を囲む強力な結界を張り、自分のところへ飛んでくる氷を次々と弾き飛ばしていく。

「全く、本当にこいつは面倒なヤツだな。まあ私が言うのもアレだが……。」

 魔理沙は表情に笑みを浮かばせ、余裕といった感じで飛び交う氷の弾幕をひょいひょいとかわしていく。
 弾幕避けはお手の物らしく、その笑みは弾を避けることに喜びの様なものを感じているようだった。

「それと霊夢、符を使って弾を防ぐのも良いが弾幕ごっこの基本は避けだぜ?」
「別に良いじゃない。私は魔理沙みたいに稼ぎ屋じゃないから安全策をとってるのよ。」
「でもだからと言ってこいつ相手にそれは過ぎてないか?」
「まあそうなんだけどね。あ〜! それにしてもこいつがいると寒くてしょうがないわ!」
「そうなんだよなぁ。こいつの場合弾幕よりこの冷気のほうが嫌なんだよなぁ。まあ季節が夏なら最高なんだがな。」
「何をごちゃごちゃ言ってんのよ! そんなに寒いのが嫌ならもっと寒くしてやるわ!」
 そう言うとチルノはスペルカードを取り出し、それを発動させた。

「凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 チルノがスペルカードを発動させた刹那、チルノを中心に冷たい冷気が辺り一面を覆い尽くし、今まで飛び交っていた氷の弾を瞬時にして凍り付けてしまった。
 そして凍りついた弾はその場で宙に浮いたまま動きが止まってしまっている。
 文字通り弾が『全て凍りついて』しまったのだ。

「うおッ!」

 急に弾が止まったせいで縦横無尽に動き回っていた魔理沙は危うく被弾してしまうところだったが、何とかすれすれのところで回避することに成功した。
 が、安心したのも束の間に過ぎなかった。凍りついたはずの弾が再び動き出そうとしているのだ。それも予測がつかない様々な方向へ。
 魔理沙は無理に身体を反らせて回避をしたせいでまだ体勢を立て直しきれていない。この体勢のままで弾が動き出してしまえばいくら魔理沙でも全てかわしきるのは不可能に近いと言えるだろう。

「おおおッ!」

 魔理沙が声を上げた。
 その声に霊夢が気付き魔理沙の方を見た。そして直ぐに魔理沙が危険な状態であると察し、魔理沙を助け出そうとすぐさま移動を開始する。

「無駄よ! あんたのその速さじゃ間に合いっこない!」

 チルノが霊夢に言葉を吐き捨てる。
 確かに霊夢の移動速度は速いほうであるとは言えない。それに魔理沙とは少し距離があり過ぎる。
 限界まで急いで飛んでいったとしてもその前に弾が動き出してしまい、自分まで被弾しかねない。
 しかし、だからと言って魔理沙をほっとくわけにもいかない。どうにかして魔理沙をこの窮地から救い出さねば。

 だが霊夢の表情が真顔のまま変化する気配が無い。どうやら焦っている様子はないようだ。霊夢はその『どうにか』が出来るようだった。

「しょうがないわね。」

 そう言うと一層その移動速度が増したかと思えば次の瞬間、霊夢は忽然とその姿を消してしまった。

「!!? き、消えたぁ!?」

 霊夢が一瞬にして霊夢がいなくなってしまい、チルノは驚きを隠すことが出来ない。

「ど、何処!? 何処に行ったの!? ……ま、まさか!!」

 そしてチルノはとっさに魔理沙のいる方を振り向いて見る。するとなんと既に魔理沙の元に霊夢の姿があるではないか。
 それはまるで某いぬにくナイフメイド長の固有能力であったはずの「時止め」を霊夢が使ってしまったかのような衝撃的な出来事だった。

「そんな! どうやって……!」

 チルノはあっけにとられてしまい信じられない、と言った様子で霊夢から目を離せないでいる。
 まさか本当に「時止め」を使ったのだろうか? 確かにあの紅白ならやりかねない様な気がするがそれにしても何時の間にそんな技を取得したとでも言うのだろうか?

 一方いきなり霊夢が目の前に現れ魔理沙は何が起こったのか見当が付いていない様子だったが、直ぐにニィと歯を見せるようにして微笑んだ。どうやらマジックのタネが分かったようだった。
 そう、霊夢は「時止め」なんてしてはいない、と言うか霊夢にそんな技なんて出来きやしない。
 霊夢は自分の得意技である空間移動術「幻想空想穴」を使ったのだ。霊夢は瞬時にして自分のところに空間跳躍をする穴の入口を作り出し、出口を魔理沙の直ぐそばへ作っていたのだ。並みの者なら入口と出口を作る際に予備動作が入り、わずかにスキが出来るものなのだが霊夢は得意技なだけにそのスキが全く無く、思ったところへ一瞬で出入り口を作り出すことを可能にしているのだった。
 そして霊夢は懐に手を差し入れ、御札を取り出しすぐさま発動させた。

「夢境『二重大結界』!」

 霊夢は先程より更に強力な結界を展開する。結界は霊夢自身と魔理沙を囲む程の大きなもので、ついに動き出してしまった氷の弾を結界に軽く触れただけで瞬時に昇華させていく。
「二重大結界」は霊夢たちの周りにあった氷全ての弾を昇華させ、残ったのは多量な水蒸気とチルノだけとなってしまった。そして「二重大結界」は霊夢たちを守る役目を終えて次第にその効力が衰え跡形も無く消え去ってしまった。

「やるじゃないのよ。まさかあんたがあのメイドの能力を使えるなんてね。あんた実は巫女じゃなくてメイドだね?」
「何か色々と面倒な誤解をするな。あんたメイドになれば『時止め』出来るとか思ってたりしてないでしょうね? アレは特別製なの!」
「そーなのか。」
「勝手に他人のセリフをパクるな。全く……。」

 と霊夢がクルッっと魔理沙のほうを向く。

「魔理沙、確かに避けは基本かもしれないけど危なくなったら符を使うのも基本よ?」
「そんなこと分かってるぜ? けどな危なくなってもそれを避けるのが私なんだよ。今のも華麗に避けるつもりだったぜ?」
「何強気なこと言ってんのよ。本当は結構危なかったくせに。」
「う……そ、そんなことはないって。しかもあいつに限ってな。でもまあサンキューだぜ。」

 魔理沙はそう言うとまたニィと微笑んだ。
 その笑顔はまるで向日葵のようにも見えた。それもそんじょそこらに生えているような物じゃなく、その表情は魔理沙らしい笑顔の似合う向日葵が映えていた。
 霊夢はそんな魔理沙の笑顔を見てほっと胸を撫で下ろした。
 魔理沙はゆっくりと霊夢から顔を離し、視線をチルノへと向けた。

「さて、と。随分と久しぶりなスペルを見せてくれるじゃないか。懐かしすぎて危うく被弾するところだったぜ?」
「……やっぱり危なかったんじゃない。」

 魔理沙とチルノとの会話にボソッと突っ込みを入れる霊夢。
 魔理沙の視線が再び霊夢に戻る。

「おい。聞こえてるぞ外野。今イイ感じに話しを持っていこうとしてるのに割って入るなよ。」
「いやだってさっきと言ってること違うじゃないのよ。……って何で私が外野になってるのよ。……もしかしてこの後全部自分一人で片付ける気?」
「ああ、そのつもりだ。やられた分はきっちり返さないとな。」

「……そっちから話しかけてきて、一体あんたはどっちと話したいのよ。」
「まあこの後全部やってくれるなら助かるんだけどね。今度は助けがなくても良い様にして貰いたいところだわ。」
「おう、任せてくれ!」
「しかも無視されてる〜。どんだけ失礼なヤツなのよ〜。」

「よし! じゃそろそろ弾幕バトル開始と行こうか!!」

 クルッと魔理沙がチルノのほうへ向き直り唐突にチルノに話しかけた。
 霊夢は何も言わず一端その場を離れて行く。

「何無視しておいて勝手に始めようしてんのよ! って言うかもう始まっていたんじゃないの?」
「さっきのは二対一だっただろ? 今度は一対一でやるから良いんだよ。」
「……まあそうね。」
「分かったか? そろそろ始めるぜ? 手短に終わらせてやる。先を急ぐからな。」
「望むところよ! あんたなんて英吉利牛だけとは言わず脊髄付き亜米利加牛と一緒に冷凍チルドパックにしてやるわ!」
「冷凍チルノパック? お前の氷付けになってるとこなんて見ても面白くないぜ。」
「あんたちゃんと聞こえてるのにわざと言ってるでしょ?!」
「そんなことは無いぜ? んじゃ始めるぜ!」

 そういうと魔理沙はほうきを前に傾かせ前傾姿勢をとった。そしてもの凄い速さでチルノへ突進していく。その姿はまるで一本の黒い矢の様に速く、鋭く、真っ直ぐに目標へと吸い込まれていく。
 魔理沙は本当に手短に終わらせるつもりだ。チルノは向かってくる魔理沙に対抗すべくまた大量の氷の弾を作り出し、それらを一斉に魔理沙めがけて撃ち込んだ。
 そして間も無くして魔理沙が氷の弾幕の中に進入する。
 びゅんびゅんと氷の弾が魔理沙の顔や手足の数センチ横をすり抜けていく。魔理沙も前に前進しているせいもあって、氷の弾は先程とは比べ物にならないくらいに速い。
 もしこの弾をもろに受ければ氷刺しになるどころでは無く、下手をすれば貫通してしまうかも知れなかった。しかし魔理沙は一向に速度を下げようとはしない。
 魔理沙の顔にさっきのような余裕じみた笑みは無い。全神経を研ぎ澄ませ真剣な目付きをしている。

 魔理沙の弾幕避けは見事だった。みるみるチルノとの距離が縮まっていく。
 それに気付いたチルノはこのままではいけないと氷の弾幕を放ちながらも今よりさらに大きな、長さ90cmはありそうな巨大な氷柱を召喚した。そして同じものを横に何本も並べて氷の壁を作り出し、それを魔理沙に向け放った。

「これならどう!」
「!」

 大量の氷柱もとい氷の壁は隙間無く完全に埋め尽くされており、人が一人通り抜けられるような隙間は何処にも無かった。

「『危なくなったら符を使う』か。早速危なくなりそうになってるし無理は禁物か……?」

 そう言うと一枚の符を懐から取り出す。

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 魔理沙は大量の星の弾を召喚し、周りの細かい氷の弾もろとも氷の壁に向けて星の弾をぶちまけた。
 氷の壁は星の弾に負け粉々に打ち砕かれた。魔理沙の前方には先へいくための道が開かれ、一気に走りぬける。魔理沙はもうチルノの目の前に辿り着いていた。

「どうやら勝負あったようだな。……そうそうそれとな、確かに凶器である氷が溶けたらその証拠が無くなるかも知れんが、まだ今ぐらいの気温じゃ氷は直ぐには溶けないぜ? それもお前なんかが近くにいたら尚更な。」
「ッ!」

 魔理沙は手には恋の魔砲を撃つためのマジックアイテム『ミニ八卦炉』を握られており、それはチルノに向けられていた。それは何時でも撃てるということを言わずしても理解することが出来た。
 映画で良くあるような光景だった。

「……あたいの負けのようね。ザ・エンドってとこかしら?」
「それを言うなら『ジ・エンド』だ。……まあいいや。負け犬は負け犬らしく尻尾巻いてそそくさと家に帰ることだな。」
「弾幕バトルはもう終わったのかしら?」

 霊夢がふよふよと魔理沙達の近くへ戻ってきた。

「終わったぜ。勿論私の勝ちだ。」

 魔理沙は話しながら帽子を脱いでさっき付けた花が無事かどうか確認している。
 どうやら花は無事だったみたいだがむしろ帽子の形が崩れてしまっていた。

「そう、なら先を急ぐわよ。こんなところでとんだ道草を食ったわ。」
「ああ、全くだぜ。」

 帽子を整えながら魔理沙が答えた。ついでに花の位置も調節している。

「何よ。あたいが悪いって言うの? って言うかそもそも何で弾幕バトルなんてしてたんだっけ?」
「まあ、私たちが原因なんだけどな。煽ったりしたし。」
「あ、そういえばそうじゃない! 理由も無くケンカを売って来ないでよ!!」
「でもまあ、何か異変が起きたら理由も無く適当に妖怪やら妖精やらに攻撃を仕掛けるのは何時ものことだし。たとえ面倒な相手でもね。」
「遊んでいる暇はこれっぽちも無いって言うのにな。」
「別にこれは遊んでるわけじゃないわよ! と言うかさっきここに来る前までに遊んでいたヤツに言われたくないわね。」
「だからあれは遊んでたんじゃなくて旅を華やかにするために〜。」
「もうそれは良いって。さ、先へ急ぐわよ。今度は私が先頭を行くことにするわ。あんたが先じゃ何処に連れて行かれるか分かったもんじゃない。」

 そう言い飛び出していく霊夢。

「あ、待てよ霊夢! どっか行くあてがあるのか!?」

 後に飛び出していく魔理沙。

「ちょっと、あたいはほっとかれっぱなしなの!?」

 霊夢たちに煽れてバトルをした挙句、結局最後はほっとかれてしまい一人取り残されるチルノ。

 春というこんなにも平和で陽気且厄介な季節は他には無いと言えるだろう。
 霊夢たちの異変解決の旅は大勢の花たちと共に次のステージへと映っていく……。


 * * *


 時刻はもうじき正午を迎えるころ、何本も同じような木が続く森の上を二つの風が駆け抜けていく。
 先程の時とは立場が逆転しており、今度は魔理沙は霊夢の後を飛んでいる。
 霊夢にははっきりと目的地があるようで魔理沙のようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりということはしていなかった。

「一体何処へ向かってるんだよ。」
「行ってみれば分かるはずよ。」

 霊夢は何処へ行くと伝えようとはしない。

「何だよ。ちゃんと言ってくれたって良いじゃないか。」
「まあ言わない理由も無いから別に言っても良いんだけどね。……あ、でも言わずに済みそうね。目的地に着いたわよ。」

 木ばかりしかない山の上をずっと飛んでいたが、ここに来てやっと変化があった。山と山に囲まれるようにして小さな里が見え始めて来た。これは紛れもなく人間の里だった。
 霊夢はその里の一歩手前の森の中へ吸い込まれるようにして降りていった。魔理沙も後に続いていく。
 里に直接下りていかないのは、里の人間に直接飛んでいる姿を見られないようにするためだ。もし見られでもしたら里の者たちを驚かせてしまうからである。

「どうした? ここは人間の里があるとこじゃないか。」

 魔理沙が長い空の旅からようやく地面に足をつけて、先に降り立った霊夢に向けて問いかけた。
 辺りに軽く砂煙が立つ。

「ここには普通の人間と半分そうじゃないヤツがいたでしょ?」
「……あの半獣のことか。……成る程、闇雲に飛び回ってもしょうがないからあの知識人になけなしの知識とお茶と茶菓子を貰いに来たってわけだな?」
「そこまで言ってない。あんたの頭の中は遊ぶことと食べることしかないのかしら?」
「失礼なことを言うなよ。お前はさっきのバトルで後半は見てただけかも知れんが、私はずっとあいつとやり合ってたんだぜ? ちょっとは休みたいんだよ。」
「分かった分かった。悪かったわよ。……それで半獣のことだけど、確かにあの知識人ならこの異変について何か知ってるかもしれないけど、素直に私たちに教えてくれるかしら?」
「それは別に大丈夫だろう。そこまで固いやつじゃないだろうし。」
「そうならいいんだけどね。」

 里のある方向から風が吹き付けてきた。風は森の中に新鮮な空気と里の音を運んできてれた。二人はここで初めて里が騒がしくなっていることに気が付いた。

「……それにしても里のほうが騒がしいわね。」
「そう言われればそうだな。多分里人たちが色んな花が咲いているのを見て適当に花祭りみたいのでもやってるんだろう。とは言えどうせ酒の入る騒がしい宴会みたいなのだろうけどな。」
「それはあんたがやりそうなことね。すごく。」
「お、そうだ。帰ったら宴会を開かないか霊夢? 勿論花見のな。」
「……やっぱりあんたはそれしか考えてないのね。帰ったらってあんた今私たちがここまで何しに来たか分かって無いでしょ?」
「そんなことより霊夢、そろそろ行こうぜ? 私はもうへとへとだぜ。」

 魔理沙が霊夢を置いて勝手に里へと走り出す。

「……そんな風に見えないのは何故なのかしらね。さっきは謝り損したわ。本当に。」

 霊夢も魔理沙に続いて里へと走り出していった。

 森を抜け里の入り口までやってくると、里には多くの人影が見られる。皆外に出て花を見て喜んでいるようだ。
 花を腕一杯に抱え込み大喜びで持ち帰っていく者、花を摘みアクセサリーのようにして楽しむ者、花が咲いている様子を絵に描いている者と、里の人々は大いに花を楽しんでいる様子だった。
 その里人の中でひときわ目立つ服を着た人物がいた。それはあのウワサの半獣、上白沢慧音であった。
 魔理沙はそれを確認すると、おーいと手を振りながら慧音に近付いていく。霊夢も後から歩み寄っていく。
 慧音は魔理沙が近付いて来たのに気付くと、それまで里人たちを眺めて微笑んでいた顔から一変して固い表情をしだした。

「ん? 何だお前か。」
「あれ? 宴会はやってないのか?」

 魔理沙が周りをキョロキョロと見回して言う。
 確かに里人たちは花に浮かれているようだが宴会らしきものは行っていないようだった。

「何のことだ? ……それは良いとしてこの村に立ち入ってきて一体何しに来た?」
「まあそう怖い顔をするなって。ちょっとお前に用があってきたんだよ。」
「私に? つまらないことなら相手にするつもりは無いぞ?」
「お茶と茶菓子をご馳走してもらうためだけにやって来た。」
「即刻この村から出て行ってもらおうか。」

 慧音が懐を探っている。どうやらスペルカードを取り出そうとしているようだ。
 とそこへ後から来た霊夢が割って入る。

「違うでしょうが! あんた本当に何のために来たか分かって無いわねぇ。」
「ちゃんと分かってるぜ? 1527分の928がご馳走のためだろ?」
「またそれ? しかも桁上がってるし。」
「残りは599じゃないか。やっぱりご馳走目当てか!」
「計算早いな。」
「計算早いわね。」
「何がしたいんだお前らは……。」

「冗談はさておき、実はこの異変について何か知ってるか尋ねに来たのよ。」
「異変? この様々な花が咲き乱れていることか?」
「そうよ。あんたはこの異変を何とも思ってないの?」
「この異変は私が何をして元に戻るようなものではない。勿論お前たちにもだ。」
「やっぱり何か知っているようだな。詳しくはお前の家で聞かせて貰おうか?」
「さり気無く家に上がりこもうとするな。この与太郎が。」
「与太郎じゃなくて私は魔理沙だ。……ってそれは良いとして真面目にこの異変のことについて知ってるなら教えてくれないか?」
「私もお願いするわ。詳しく教えて貰えないかしら? 戻せる戻せないなんてやってみなきゃ分からないじゃない。」

 慧音は少し間を空けて考えた。

「……まあいいだろう。お前たちにこの異変の事について話してやる。だが、そしたら直ぐにこの人間の里から出て行くんだ。それでいいだろう?」
「ありがとう。」
「礼には及ばん。さあついて来い。」
「よっしゃ! そうと決まれば早く家を案内してくれ。もうへとへとなんだ。」
「むしろ元気になってるように見えるのは気のせいなのかしら?」

 魔理沙は霊夢の突っ込みを尻目に慧音が案内する後に続いていった。霊夢もやれやれと魔理沙に続く。
 慧音の家は村の入り口から少し歩いた里の外れにある、小高い丘の上にあった。
 ここからは村が一望できる。きっとここから里の様子を常に監視しているのだろう。
 慧音の家の屋根は茅葺屋根で家全体は純和風でとても風情がある家だった。他の里人たちの家と基本的には同じ構造しているようだったが、慧音の家は少し大きめに造られてあった。

「着いたぞ。ここが私の家だ。」
「おおここか! 結構良い感じの家じゃないか。」
「確かに立派な住まいね。でもまあ私は神社の方が良いけど。」
「そう言われると私も家は和風より洋風の方が好みだな。」
「そんなことは良いから早く家に入らんか。」
「おお! それじゃ家にお邪魔するぜ。」
「私も。」
「あ、待て。部屋まで案内する。」

 先にお邪魔とした霊夢たちの前に立ちはだかり行く手を塞いだ。

「何だよ入れって言ったり待てって言ったり。」
「お前に先を行かれたら真っ先に台所に行くだろうからな。」
「ちぇ。」
「当たってたのね。」

 霊夢たちは慧音に案内されるまま玄関を過ぎ、廊下を進んでいった奥の部屋、客室まで案内されていった。
 客室は8畳ほどの畳の部屋で中央には小さなちゃぶ台が置いてあった。部屋からは外を眺めることが出来、縁側の奥に庭が見える。庭には松や楓などが植えられておりオマケにししおどしまであった。まさに純和風な日本庭園、といった具合だった。
 だが今は異変のお陰で向日葵が立ち並んでいたり彼岸花が咲いていたりと庭園は無茶苦茶な状態だった。何とも奇妙な光景ではあったがこれはこれで味がある様な気もした。
 慧音は二人をちゃぶ台の前に座らせるとちゃぶ台を挟み込むようにして霊夢たちと向かい合う形で腰を下ろした。

「さて、今回起こった花の騒動。まず何から話そうか。」
「まず何が原因でこんなことが起こったのか教えて欲しいぜ。」
「そうね。最初はそれかしら。」
「原因か。分かった。簡単に話そう。実は以前にも今回と同じような現象がここ幻想郷に起こったんだ。」
「え? そうなのか?」

 慧音の意外な言葉に思わず驚きの声を出す魔理沙。

「ああそうだ。まあ知らないのも無理は無いだろう。何せ今から丁度60年前のことだからな。」
「60年前? かなり昔の話なのね。」
「ああ。」
「今の異変の原因も気になるが60年前に一体何が起こったって言うんだ?」
「それは……。外の世界で大規模な戦争が起こったらしい。」
「せ、戦争?!」

 魔理沙が再び驚く。慧音は重い口をゆっくりと開き話しだした。

「――その戦争の名は『第二次世界大戦』。外の世界ではそう呼ばれている。」
「『第二次世界大戦』……。何か凄くヤバそうな感じだな。」

 霊夢が腕を組みじっと考えている格好のままで喋り出した。

「『第二次世界大戦』……。何か聞き覚えのある言葉だわ。」

 霊夢の方を見る魔理沙。

「霊夢、知ってるか?」
「ええ。詳しくは分からないけど、確か私たちがいる幻想郷の外にある国と何処か違う国と協力して、世界を敵に回して戦い続けたって言う……。」

 霊夢が言い終えると慧音が相槌を打った。

「うむ、その通りだ。一体何処からこの事を知った?」
「神社にあった古い文献からだったかしら。物を整理してたら出てきたのよ。」
「……そうか。それ以上に何か知っていることはあるのか?」
「いや、それ以上は良く分からないわ。」
「分かった。ならもう少し詳しい内容を話そう。」
「お願いするぜ。」
「まず第二次世界大戦は1939年から1945年までの6年もの間休み無く続けられていた。流石に世界大戦というだけ合って各国では傷ついたり亡くなったりした者たちが後を絶たなかったんだ。それは戦争に駆り出された兵士たちが任務を遂行するために、自分たちの未来を見つけるために、そして自分たちの国へ無事に帰るために戦い続けた証でもあった。世界中の人々がこの争いを見つめる中、戦い続けている国の国民たちは誰もが皆我が国の勝利を願って止まなかった。」

「だが同じように幻想郷の外の国、名はニホンと言うらしいのだがそこでも同じようにそう願っていた頃、この戦いに終止符を打つきっかけとなった最悪の事態が起こってしまった。」
「一体何が起こったんだ?」

 恐る恐る魔理沙が慧音に尋ねる。

「1945年8月6日ニホン国内にあるヒロシマと言うところに原子爆弾、通称『原爆』と呼ばれる爆弾が落とされたんだ。」
「爆弾……。ニホンは空爆されたのか?」
「空爆と言っても落とされた爆弾はたった4トンの原爆一発だ。」
「その『原爆』とやらはどんな爆弾なんだ? 4トン足らずのもので戦争を終わらせることの出来るなら並みの爆弾じゃないな?」
「当たり前だ。原爆の火力は超強力だ。いや、むしろ超凶悪と言ったほうが良いかも知れん。原爆は大量の原子を狭い空間内で核分裂を起こさせ、その莫大な核分裂エネルギーを利用した爆弾だ。」
「その莫大なエネルギーって具体的にどのくらい凄いものなの?」

 今度は霊夢が慧音に尋ねた。

「そのエネルギーは爆発したと同時に中心の温度が100万度を超え、空中に発生した直径280メートルにも及ぶ火球から3000〜4000度にも達する熱線を四方八方に一気に放出させる。鉄の融点は1500度程だ。だから爆心から1.2キロ以内で熱線を遮る物なく直に受けてしまった者たちは殆ど即死状態だったらしい。考えただけで恐ろしいことだ。」

 慧音は両手を組んでそのまま上半身を前に倒し、ちゃぶ台の上に肘を突き組んだ両手に口元を近付け目をつむった。熱線によって焼け死んだ人々に対して酷く心を痛めているようだった。
 だが、その慧音の行動は霊夢たちには被害を受けた人々に黙祷しているようにも見えていた。

「――原爆の恐ろしさはそれだけじゃない。」

 再び慧音の目が開く。

「万が一何かで熱線を直接受けることなくかろうじて生きていたとしても、原爆にはそれまでの爆弾にはなかった放射線と言う一番厄介なものがある。」
「放射線だって?」
「そうだ。放射線は微量ではあるが常に人体に受け続けているもの。だが急激に放射線を浴びてしまうと人体は細胞や血を作る機能が破壊されてしまったりする急性障害と言う障害を引き起こしてしまう。この病気が発病した者は例え火傷や怪我をしていなくて元気な状態であったとしても数ヶ月後には急に死亡してしまうこともあったらしい。爆心地から1キロ以内で直接に放射線を浴びた者は殆ど亡くなってしまったそうだ。」
「……惨い話しね。」
「全くだ。人々は何が起こったかも分からず死んでいってしまったのか……。」

 皆が声のトーンを落とし、被害の凄まじさを実感していた。
 ――原子爆弾。とてつもなく強力で尚且凶悪、危険な大量殺戮兵器……
 何故そんな物が作り出されてしまったのだろうか?
 何故そんな物を作り出す必要があったのだろうか?
 そもそも、ニホンを止める手段としてこの空爆を行うことは正しかったのだろうか?
 ――その問に答えることの出来る者たちはいる。それは今なお放射線による障害に苦しむ被爆者たちである。

 部屋の空気が重たくなるにつれ霊夢はその空気から逃れるかのように視線を庭に運んだ。
 庭は先程見たときとは違い、今は何か変な気配する。それはまるで何者かがそこにいるような感じだった。しかし庭には誰も居なかったはず……。
 おかしい、と霊夢は庭を眺め回した。すると一輪の花に目が止まった。

「向日葵……?」

 小声で霊夢が言った。
 その向日葵は何かが変だった。普通に咲いている様に見えて普通ではない。
 向日葵の陰に何か居る。でもそれが何なのか分からない。
 霊夢は向日葵を見つめる。向日葵も霊夢を見つめる。
 と、向日葵が風が吹いた様子もないのにゆらりと軽く前に倒れる。
『会釈』のようにも見えた向日葵の行動に霊夢ははっとする。

「もしかして外に咲いてる花はみんな霊が取り憑いている!?」
「そうだ。やっと分かったか。」
「ど、どういうことだ?」
「60年前に起こった花騒動の原因は、戦争によって何も知らずにして亡くなってしまった人々の霊が新たな身体を求め花に取り憑いて起きたものだったのよ! 通りで花から異様な気配が伝わって来てたのね。」
「うむ、その通りだ。花と言うものは人の心に割と近い存在にある。だから人の魂は自然と花に乗り移ってしまうのだ。」
「そ、そうだったのか。……ってことは私が摘んで来たこの花も……!」

 魔理沙が急いで被っていた帽子を取り、そこに飾っていた花を見つめる。

「多分それも憑いてたわね。他に摘み取ったのも。」
「な、何だって?! ひぃ、ふぅ、みぃ……げー! 知らない間に10人近く成仏させちゃったじゃないか!! 霊夢、お前は一応巫女なんだからさっき持ってた時点で早く気がつけよー!」
「まあ実はその時から変な気はしてたんだけどね。」
「そういうのは変だと思ったら早く言ってくれー!」
「ん? ちょっとまって。60年前は戦争が原因だったけど今回は何が原因なのよ?」

 魔理沙が大騒ぎしてるときに突然思い出した霊夢が慧音に問いただした。

「む、そのことなんだが……。実ははっきりとした原因は分かっていないんだ。」
「あ、そうなの?」
「ああ。大地震か、大洪水か。もしかしてまた戦争が起こったんじゃないだろうか……? どちらにせよまた大勢の人々が亡くなってしまったようだ。」
「……。」
「この花騒動はどうやら60年周期で起こっているようなんだ。60年に一度人々は何らかが原因で大勢亡くなる、悲惨なことだがこれは自然の摂理、掟なんだ。」

 慧音が下を向き、悲しそうな顔で言う。

「庭の奥にある竹林を良く見てみろ。竹の花が咲いている。」
「竹の花? 竹に花なんて咲くの?」

 慧音に言われ、霊夢が庭を眺める。
 確かに庭の奥には竹が鬱蒼と生え、その中の何本もの竹の節々から白い花が咲いているのが分かった。

「あれが竹の花? 今まで見たことがなかったわ。」
「それもそうだ。竹の花は60年に一度しか咲かない代物だ。」
「60年に一度? そしたら一生に一度しか見ることが出来ないわね。まあ人間意外のヤツなら何回でも見られるかも知れないけどね。あの紅い悪魔とか。」
「実はあの竹の花、あれも外の人間たちの霊が咲かせた物なんだ。」
「……まあ、そうでしょうね。」
「60年周期で人々が亡くなり、そして竹の花を60年振りに咲かせる。竹の花が60年に一度咲く理由はここにあるんだ。」
「ふうん。そうだったのね。」
「さ、もう分かっただろう? この異変はお前たちがどうやろうと解決できるものじゃない。もう自分たちの場所へ帰るんだ。直に霊も少なくなっていくだろう。」

 慧音が立ち上がり霊夢たちに帰るよう促した。

「待って! 今外の世界で多くの人が死んで幻想郷が霊で溢れかえっている。でも直に霊がいくなっていくのなら誰かがそれをしているってことでしょ? ならそいつらにもっと早く霊を片付けるように懲らしめ……じゃなかった催促しに行ったらどうなのよ?」

 霊夢も立ち上がり慧音に詰め寄る。
 一方魔理沙はと言うとちゃぶ台に顔を埋めて潰れており、ぶつぶつと唸っていた。

「そんな事をしてどうすると言うんだ? 懲らしめに行っても霊を処理するのを邪魔するだけだ! 今は何もせず霊が少なくなるのを待ち続けるのが無難だろう。」
「むー。癪だけどそうするしかなさそうね。仕方ないわ、魔理沙、帰るわよ!」
「んあ〜? 霊夢ぅ〜私はもう駄目だ〜。」

 魔理沙がよろよろと顔を上げる。その顔は今にも泣いてしまいそうな情けない表情をしていた。
 そんな魔理沙に霊夢が活を入れる。

「ほら! 帰ってすることがあるんでしょう?」
「ん〜? 私そんなこと言ったっけ?」
「何言ってんのよ! 宴会するって言ってたじゃない!」
「おおお! そういえばそうだったな!!」

 そういうと魔理沙は元気良く立ち上がり、一輪の竹の花付きの帽子を頭に乗せ、箒を持ち上げ庭に飛び出した。

「何やってんだ霊夢! 早くしないと置いていくぜ?」

 魔理沙はどうやら『宴会』と言う言葉が効いたようで、表情が先程とは一変し今はハツラツとした表情をしている。
 霊夢は思惑通り魔理沙が立ち直り、安堵したと言うよりむしろ呆れている。

「全く……。じゃ、お邪魔したわね。」
「あ、ああ。……宴会を開くなら私も後から参加しても良いか? 二人だけじゃ宴会としては賑わいがないだろうし他の連中にも声をかけてみるが……。」
「別に構わないわよ。まあ宴会を開いたら大概は誘ってないヤツも勝手に来るんだけどね。」
「お、慧音も来るのか? なら私も霊夢が宴会の支度が出来る間他のヤツを誘ってるか。」
「誘う係りは一人で十分。魔理沙も宴会の支度を手伝うの! あんたが宴会をやるって言い出したんじゃない!」
「えー! 面倒だぜ。宴会の支度も一人で十分だって。じゃそういうことで!」
「支度する苦労を知らないくせに一人じゃ大変なんだって! あ、こら待ちなさい!!」

 魔理沙は箒にまたがると勢い良く庭から飛び出して行ってしまった。
 流石幻想郷『元』最速の少女。霊夢は庭に出て空を見上げたがもう何処に行ったのか見失ってしまった。

「しょうがないわね。慧音、じゃ宜しくね。」
「ああ、後で適当な時刻に向かう。」
「そう、分かったわ。じゃ後で。」

 霊夢はそう言うと庭の中央で宙に浮き出し、自分の神社へと飛んでいった。


 * * *


 もうすっかり空が真っ紅に染まる時刻となり、幻想郷の隅っこに存在する博麗神社は人間から、妖怪から、はたまた亡霊等が多数萃まり、ワイワイガヤガヤと大変な賑わいを見せていた。
 だがこれら全ての人妖は神社の参拝客として来ている訳ではない為、朱色の鳥居をくぐった正面にある賽銭箱には見向きもされるはずがなかった。
 彼女等の目的は勿論宴会、つまり『酒』である。
 普段は神社の中で宴会を行うのが基本形であるが、今回は一応『花見』が目的であるため、縁側や神社の庭にビニールシートを敷きそこで呑み食いをしていた。

「さっきはよくも逃げてくれたわね。」
「いや悪かったって。ほんとに。」
「悪い悪いって思っているのなら当然後片付けを手伝ってくれるわよね?」
「さー、そんなことよりもっと酒を呑もうぜ霊夢。」
「あんたこのまま酔い潰れて後片付けするのを免れようとしてるわね?」

 縁側で霊夢と魔理沙が庭に咲く様々な花を眺めながら酒を呑み交わしている。
 慧音の家を後にして随分と時間が経つのだが未だに花の数が減っている様子は無い。
 そんなに直ぐに減るもんじゃないかも知れない。あっちはあっちでそれなりに頑張っているのだろう、と霊夢はそう軽く思っていた。

「結局何も出来ずに終わったわね。今回の騒動に関して。」
「そんなことは無いんじゃないか? 今日は慧音に色々と知識を頂いてきたし。」
「まあ今日やったことは全て無駄では無かったかも知れないけどね。」
「話しが変わるが霊夢、お前なら花に憑くとしたらどんな花に取り憑くんだ?」
「いきなり変なことを聞いて来るわね。魔理沙こそどんな花に取り憑くつもりかしら?」
「私はやっぱり向日葵だぜ!」
「ふぅ〜ん。魔理沙、向日葵の花言葉って知ってる?」
「へ? 知らないぜ?」
「『あなたを見つめる』よ。まあ何か魔理沙らしい感じね。」
「私にぴったりじゃないか。やっぱり私は死んだら向日葵に取り憑くぜ?」
「何かこれ実に妙な会話ね。」

 霊夢が苦笑いしだした。

「そんなこと気にするなって。っでお前はどうなんだ?」
「ん〜。私は桔梗かしら?」
「ほう桔梗か。桔梗の花言葉は何なんだ?」
「『気品』よ。私にぴったりね。」
「ぷっ」
「ちょっと、何笑ってんのよ!」
「だ、だって霊夢のどの辺に気品さがあるって言うんだよ。」

 魔理沙が縁側でお腹を抱えて笑い転げ出した。
 するとその話を今まで聞いていた紫がニヤニヤしながら話しに割って入ってきた。

「そうねぇ〜。霊夢にちょっと桔梗は合わないわねぇ〜。」
「何よ。二人して失礼な奴らね! あんた達何かに私の気品さは分からないわよ! ……ならそういう紫は何の花に憑くって言うのよ!!」
「私〜? ん〜そうねぇ。カロライナジャスミンってとこかしら?」
「何だその変な名前の花は? 霊夢その花の花言葉を知ってるか?」
「花言葉どころかそんな花があるってこと自体知らないわよ。」
「そうか。おい紫、何なんだよその花の花言葉。気になるぜ。」
「いやぁねぇ〜知らないの? 『長寿』よ『長寿』。」
「「お前はこれ以上長生きしなくて良い!!」」


 結局霊夢は今回の異変を完全に解決することは出来なかった。
 でも彼女はもうこれで満足だった。彼女にとっては取り合えず異変に対して行動を起こしたので自分が怠け者では無いと言うことを皆に伝えることが出来たからである。
 彼女は今日慧音から聞いたことを忘れることはないだろう。何故なら既にあの話のことは彼女自身の心に深く刻まれているからだ。
 もし彼女が忘れてしまったとしても、幻想郷が今回の花騒動のことを忘れたとしても60年後には必ずまたこの異変は起こるだろう。
 60年に一度人々が大勢亡くなる。これは地球が我々に対してそうなるように仕向けているのかもしれない。そう考えるとゾッとした。
 だが彼女は今日だけは、いや今この一瞬だけでも慧音から聞いたことを忘れたかった。折角の宴会だと言うのにこんなしんみりとなんてしていたくない!!
 少女はそう考え今日を忘れる為に、宴を楽しむ為に幽霊憑きの花を眺めながらコップに並々注がれた酒を一気に飲み干すのだった。


 ――今やっと、幻想郷に本当の春が訪れた気がする。
最後までこの物語をお読み頂いた方、有り難う御座います。
僕は今回こんぺ初参加させて頂きました者です。

いやぁ〜、僕は書くの遅いんで結構早い内から作品の作成に着手していたんですが、かなりギリギリの投稿となってしまいました。
まあ色々と忙しくてなかなか思い通りに書いていられなかったんですよw

この話しは本家の各東方シリーズのフォルダに付属されている「おまけ」テキスト内で書かれている「エキストラストーリー」でキャラのテンション、書き方を参考にして書いてみました。
会話の一つ一つに名前を書いたのもこれを参考にしたせいにあるのです。
自分の中では霊夢は霊夢っぽく、魔理沙は魔理沙らしく書けたと思っています。

今は締め切りと言う今まで味わったことも無かった重圧から解放され、やるべき事を成し遂げたと言う気持ちで一杯なのですがまだこんぺは終わっていないんですよねw
これから大事な採点、そして発表へと続いていきます。僕も一読者として出来るだけ多くの方の作品を読み上げ、採点させて頂きたいと思います。
では本当にここまで読んでくださった方、有り難う御座いました。
ひるぅ
http://ringlabyrinth.web.fc2.com/
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投稿日時:
2006/03/24 12:19:47
更新日時:
2006/04/17 02:41:30
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1. フリーレス ひるぅ ■2006/03/25 00:16:11
本文中で変なところで改行されているところが多々ありますが、これはわざとでは無く、単なる僕のミスによるものですorz
結果発表期間になったら修正できるようになるのでその時は直ぐに手直ししたいと思います。
折角この話しを読んで下さった読者の皆様に読みづらい思いをさせてしまって申し訳ないです。
2. 3 無記名 ■2006/03/25 04:09:37
台本やおまけテキストとかじゃないのだから、もう少し文章の決まりごとにそって書かれた方がいいかと。あと、注意書きわざわざいりません。
それら除けば、楽しめた部分もいくつかありました。
3. 6 月影蓮哉 ■2006/03/25 15:07:13
名前が無かった方が読みやすかったかなぁ…。ちょっと惜しいかも。
自分と内容が少し被ってたので、少し焦りましたw
全体的には良く出来ていたと思います。
4. フリーレス 落雁 ■2006/03/26 11:09:39
台詞の前に名前が書いてあると読みにくいんですよね。霊夢と魔理沙みたいに文字数違う場合は特に。
彼女達を彼女達らしく描けた。そう思うのなら、わざわざ書く必要無いのになあ、と思いました。

と言ってもSSは十人十色。作者の好きに書くのが、その作者にとっての正解なのでしょうね。
5. フリーレス 爪影 ■2006/03/26 20:22:45
全体的に物足りない、と感じました。
6. フリーレス おやつ ■2006/03/26 22:55:31
うーん……後書きを読んだ上で、やはり台詞の前の名前はもにょるのが正直な感想です。
キャラの違和感以前にまず読みにくいと感じましたので。
7. 4 水酉 ■2006/03/29 18:05:52
「花映塚異聞」とでも言うべきお話、楽しませて貰いました。
ただゲームと同様の書式でなく小説形式の方が
読みやすかったかも、とか思ったり。
8. 5 名前はありません。 ■2006/03/29 18:35:29
面白いんですけど3つほど
・台詞の前にキャラ名は不要だと思います。拙い印象を受けます
・酒があまり活かしきれてないような気がします
・戦争のやりとりにもっと焦点を当てるのも面白いかもしれません。
 不謹慎かもですが、悲惨なエピソードでキャラを泣かせるとか、
 シチュエーションとして
9. 4 papa ■2006/03/30 19:08:50
別の視点からの花映塚ですね。

不自然な改行と、とってつけたようなテーマがどうしても気になってしまいます。
10. 1 つくし ■2006/04/01 15:03:28
注:自分の作品に対して卑屈になりすぎるのは命取りです。
テーマの焦点を絞ってあればいいのにな、と思いました。ちょっと冗長に感じました。
11. 2 かけなん ■2006/04/06 00:41:59
「おまけ」テキスト参考とのことですが、読みにくかったと言うのが第一印象。
短ければ兎も角、結構長い作品ですし、普通に書いてみてもよかったのでは、と思います。

12. 2 藤村琉 ■2006/04/07 01:44:07
 おまけテキストを参考にしたんだろうなあ、というのは想像が付きましたが、これだけ地の文が書けるのなら「」の前にある名前は邪魔です。くどい。付ける意味がありません。おまけテキストの雰囲気は、地の文と会話文でほとんど継承されていますし。
 戦争のくだりもそこまで詳しく言わなくてもいいと思いますし、それが伏線になるかと思いきや精神論で話のけりが付いてしまいますし、全体的に何が言いたいのか分からない印象が。チルノほったらかしですし。
13. -1 反魂 ■2006/04/07 16:06:04
う〜ん……
色々と余計な物を詰め込みすぎて、肝心の物語の焦点がぼやけてしまってる気がします。
特に原子爆弾の説明とか、ほとんど必要性を感じません。なんか東方というより、道徳か社会科の教科書でも読んでるような気分になってしまいました。
結果的に、SSで伝えたかった事も、テーマのお酒も、どこかに行っちゃった感じです。

色々と生意気言って申し訳ない。
今後の活躍を期待しています。

P.S.読点をもっとこまめに使うと、格段に読みやすい文章になると思われます。
14. 7 ■2006/04/10 23:40:59
全体的にちょっと読みづらいのが難点ですね。あと、幻想郷では科学的説明を理解出来ない人妖がほとんどなのではないでしょうか。邪教扱いだそうですし。
15. 3 MIM.E ■2006/04/11 22:11:00
確かに、会話のテンポは小気味良くウィットも効いていると思いました。慧音の計算速いとか
笑いましたwですが、そのノリだけでこの長い話続けるのは少々辛く感じました。
16. 1 無記名 ■2006/04/12 02:45:08
会話文の前の名前表記が読み進める上で非常に邪魔でした。
SSというよりも台本読まされてる気分ですし。
17. フリーレス とら ■2006/04/12 06:14:34
これは花映塚?
いずれにしろオリジナリティがまったく感じられません。
18. 5 K.M ■2006/04/12 23:22:26
幻想郷にとっては60年に一度の「いつもどおり」
しかし、外の世界では・・・出来れば、周期性あるものではあって欲しくないんですけれどもね
19. -3 椒良徳 ■2006/04/12 23:30:59
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
20. フリーレス ひるぅ ■2006/04/14 02:47:03
皆様に指摘されたところを参考に簡単に直せるところは修正しました。
これで少しはマシになったかと思います。

上の後書きに関しては、今思うと少し行き過ぎたと言う感じがしてならないです。
尚、本文を修正したので後書きで書いてあるのと本文が合っていない部分があります。(あえて後書きは書き直していないので……。)

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