空に向かって打ちますよ

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 01:00:49 更新日時: 2006/03/27 16:00:49 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00




満月の淡い光のみが差し込める薄い闇の中、グラス片手に語り合う二人。
それはある意味、幻想的な光景と言えるかもしれません。



しかしながら、闇の正体が生活苦による光源燃料の供給停止というのは、如何なものでしょう。
その上、時間を共にしている人物は部下であり、なおかつ同性故、ロマンもへったくれもありません。
ついでに言うならば、グラスの中身は特売で仕入れた二級酒だったりします。
理由? 勿論、安いからです。
合成酒ではない分、まだマシでしょう。


「四季様、さっきから誰と話してるんですか?」
「……無粋ね。お約束を解しなさい」
「へ?」

きっと小町は呆れたような表情をしているのでしょう。暗くて見えませんが。

……確かに、些か言動と思考が統一されてないのは認めざるを得ません。
それもこれも、全て貧乏が悪いのです。
幻想郷の最高裁判官たるこの私が、何故に花の金曜に、
このようなおっさんめいた夜長を過ごさなければならないのでしょうか。
きっと今頃、セレブな妖怪連中は、優雅なる一時を過ごしていることでしょう。
恐らくは私の給料の数ヶ月分もするような高級な酒も、湯水の如く消費されているに違いありません。
あな憎らしや、全員問答無用で地獄に落としてやりたい気分です。
残念ながら、私のほうが先に寿命が尽きる気がしますけど。

え? 仮にも閻魔様がそんな私怨で裁きを下して良いのかって?
馬鹿な事を言ってはいけません。
私は、仕事とプライベートははっきりと区別しようと心に誓ったのです。
決して、説教魔と陰口を叩かれるのが嫌な訳ではありませんよ?

そ、そういう訳で、余暇に多少の愚痴を連ねるくらいは許容範囲の筈なのです。
別に実際に行動するつもりなどありません……多分。

「何か面白い事無いですかねぇ……」
「あるなら、こんな後ろ向きな酒盛りなんて交わして無いでしょう」
「……まぁ、道理ですけど」

始まって以来、一体何本の瓶を空にしたことでしょう。
おつまみのアタリメも、マヨネーズが切れた為にまこと味気無いものになりました。

闇は人を素直に語らせる。
例えその闇が資金繰りの悪化が原因であるとしても、格言に偽りは無かったようです。
無論、アルコールが入っているのも理由の一つではあるのでしょうけど。
そもそも私が人の範疇に入るのかも疑問ですが、この際気にしてはいけません。
ともかく、自身でも忘れて久しかった思い出話などを語る気になったのは確かなのです。

「あまり面白い話でもないけど……」
「はい?」
「時に小町、貴方は野球というスポーツを知っていますか」
「また偉く唐突ですね……まぁ、聞いたことはあるって程度ですが、一応は」
「実は私、三度の食事よりも野球が大好きなのですよ」
「はぁ、初耳です」
「これは、まだ私が無垢な子供であったころの話です」
「今でも小さいじゃ……」
「……」
「失礼しました」

まったく……相変わらず小町には敬意の念という物が足りませんね。
昔話をするのにわざわざ卒塔婆ブレードを携帯させないで欲しいものです。

「その頃から私は、立派な閻魔となるべく英才教育を受ける毎日を過ごしていました」
「……」

あろう事か小町は、突っ込みたくて仕方が無い。という顔をしています。
まぁ耐えたようなので許します。というか、そうしないと話が進みませんし。

「そんな境遇ですので、同年代の子供が興じるような遊びをすることは、当然許されませんでした。
 もっとも私自身はそれを不満に思っていたことはありません。
 むしろ、どこか冷めた目で見つめていたくらいです」
「うわあ、嫌な餓鬼です……ぷぇっ」
「続けますよ?」
「は、はひ」
「ですが、そんな私にも、ただ一つだけ興味を引かれたものがありました。
 ……それが野球です」
「はぁ」
「始めのうちは、ただ遠目から眺めるだけでしたが、
 それを幾度と無く繰り返すうちに、私は次第に魅力へと取り付かれていったのです。
 やがて、自分も輪に入りたいと思うようになるまでは、そう時間はかかりませんでした」
「……ははあ、読めましたよ。
 周囲の大人に反対されて、結局プレイは出来なかったというオチですね?」

……まったく。
人が興に乗ってきたところを、無粋な突っ込みをしてくれるものです。
小町は背も胸も存分に持っている癖に、肝心なものが足りないようですね。

「違います。何しろ私は神童でしたので、本気である事と、
 学業を疎かにしない事さえ伝えれば、あっさりと許可は出ました」
「へ?」

ふふふ、あんぐりと口を開けていますね。
やはり暗くて良く見えませんが、多分その筈です。

「許可を得た私は、喜び勇んで広場へと向かいました」
「あ、今度こそ読めました。
 生意気なコエンマが何しに来た。って感じでハブにされたという悲しい思い出ですね?」

……。
この娘は私に何か恨みでもあるのでしょうか。
確かに二十三時間耐久説教を行ったり、新型卒塔婆ブレードの実験台にしたり、
賞与が芳しくなかった腹いせに小町の査定も下げたりはしましたが、
それはあくまでも彼女の為を思っての行動に過ぎないというのに……一部を除いて。
ですが、まだ甘い。

「それも違います」
「え? でも、それじゃ話にオチが……」
「いいから黙って続きを聞きなさい。それが今の貴方に出来る善行よ」
「……はあ」
「流石にすんなりという訳には行きませんでしたが、
 いくらかの交渉を経て、私は彼等の仲間として迎え入れられたのです」
「こ、交渉ですか。本当に生意気な……いえ、何でも無いっス。ええ」

三度目は無い。
流石にこれは理解しているようですね。

「しかし、そこで問題が起きました」
「え?」
「その面々は、子供連中でありながら、意外にしっかりとした面を持っていました。
 ……そう、プレイするメンバーがきちんと固定されていたのです」
「はぁ……」
「そこに新参者の私が割って入るのは、並大抵の苦労ではありませんでした。
 ですが、そこは未来の閻魔様。影で努力する事にかけては誰にも負けません」
「自分で言いますか、普通」
「私だから良いんです。ともかく、私は精一杯練習に打ち込みました。
 それこそ、六法全書よりも先にルールブックを暗記する勢いで」
「約束早速破ってませんか、それ」
「努力の甲斐あってか、私はチームの誰もが認める実力者となることが出来ました。
 えーきちゃんなら絶対に歴史を動かすヒロインになれる、と言われるまでに」
「……」
「そして……迎えた初の公式戦当日の事です」
「こ、公式戦なんてあったんですか……」
 
もう面倒なので突っ込みは無視します。
何しろ、ここからがクライマックスシーンですので。

「相手は地区でも有数の強豪チーム。
 当然、チームメイト達の緊張は嫌が応にも高まります。
 もっとも、そんな中でも、私の心情は喜びで満ち溢れていました。
 これまでの努力が報われる瞬間なのだから当然でしょう」
「……」
「しかし……試合前のミーティングで、監督役の子供が私に告げた台詞は一生忘れる事は無いでしょう」
「ど、どのような言葉だったんですか?」
「……」

ああ、思い出したら頭痛がしてきました。
しかし、ここまで話しておいて以下次号では、小町にも読者にも申し訳が立ちません。
……読者って誰でしょうか。いけない、アルコールが存分に回ってきたようです。

ともかく私は言います。
なけなしの勇気を出して。








「『あ、えーきちゃんは審判ね』……と」









「……」
「……」
「……」
「……」
「……笑って良いんですよ」
「……いえ、笑えません。
 笑っちゃいけませんよ。これは……」
「……」

その心遣いは、返って私の感情を揺るがす結果となりました。
嗚呼、駄目です。
もう抑えられそうにない……!


「こっ……この時に炸裂した私の切なさが分かりますか!? 
 体格や運動量を持ってしてポジションを決められたのなら納得は出来ます!
 ……でも、『えーきちゃんだから審判』ってなに!?
 私は歩くルールブック!? 物心も付かない年代から判決に精を出せと!?
 ライン際の判断を誤って、助っ人選手や鬼監督から暴行を受けろと!?」

「私は打ちたかった! 大地を揺るがすかの如き一発を!
 そして守りたかった! 弾丸の如く襲い来る球を横っ飛びで!
 例え上手く行かずとも、それでもきっと満足することができた筈なんです!」

「しかし、現実に私に許されたのは、裏声でカウントを宣告することのみでした……」









「……つまらない愚痴でしたね」
「……」

反省。
いくら酒が入っていたからといって、小町に聞かせるような話では無いでしょう。
自制が効かないのは高槻だけで十分なのですから……。


結局、この日はどことなく気まずい雰囲気のまま、お開きとなりました。
その後、私が自棄酒とばかりに残りの瓶を空にしたのは言うまでもありません。
















「うう……頭が喉で乾きが痛くて……」

翌日。
絵に描いたような二日酔いが、私を出迎えてくれました。
安酒はこれだから困ります。
いえ、高いお酒なんて、とんとお目にかかってませんけど。

しかし、せっかくの休日だというのに、最悪のスタートですね。
こんなにも良い天気にも関わらず、私の心には延々と止まぬ雨が降り注いでいます。

……はて、何故に私はこうも暗い気分なのでしょうか?
何かがあったような気もしますが、どうにも記憶が曖昧です。

「……ま、いっか」

とりあえず、今の私に必要なのは冷たい水と新聞の回収です。
閻魔たるもの、休日であろうとも世の情勢には気を配らねばなりませんから。
どうにも発行元が疑わしいのが難点ですが。


「四季様ーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ひゃっ!?」


土間声が頭蓋にぐわんぐわんと響き渡ります。
こめかみを押さえつつ振り返ると、満面の笑顔で扉を開け放った小町の姿がありました。
殺す気ですかこやつ。

「ありゃ、どうしました? アルティメットガードの訓練ですか?」
「こ、小町、頼むから大声を出さないで……というか、入ってくる前にノックくらいしなさい」
「しましたよ。聞こえませんでした?」

……ふむ、嘘では無いようですね。
大方、アルコールによる呪縛で、意識の覚醒がスムースに進展しなかったのでしょう。
しかし、何故小町はこんなにも元気なのでしょう。
記憶が確かならば、私よりも早いペースで呑んでいた筈なのですが。

「それよりも早く行きましょう!」
「何がですか、今日は天下に名高い休日です。
 私の休息を妨げるものは、何人たりとも許しませんよ」

正直に言うなら、休日でなくてもこのままおねむしていたい気分です。
流石にそれは出来ませんが、今はもう少し布団との逢瀬を楽しませて欲しく……。

「だからですってば。早くしないと連中が怒り出しますから」
「……連中? って、ちょ、ちょっと、まだ着替えてない……!」

聞いちゃいませんね。












「……」

果てしなく青い空の下。
強固に存在を誇示する太陽の光が、私の頭蓋をガンガン痛めつける……筈でした。
が、眼前に広がる光景には、そんな二日酔いなど軽く吹き飛ばすだけの威力がありました。

整然と引かれたライン。
それを挟み込むように位置するベンチに陣取った、どこか見覚えのある人妖の面々。
そして……白球。

「これは……どういう事ですか?」
「見ての通りですよ。これから野球するんです」
「野球……」

ああ……だんだんと思い出してきました。
昨晩、憤りに身を任せて、そのような思い出話を口にしたような気がします。
苦く悲しい思い出を。

「でも、私は……」
「ああ、安心してください。誰も審判やれなんて言いませんし、言わせませんよ」

やはり……小町は覚えていたのです。
そして、私が惰眠を貪っている間に、準備に走り回っていたのでしょう。

「昔出来なかったんなら、今やればいいじゃないですか。
 閻魔様はスポーツしちゃいけないなんて、就業規則に無いですよね?」
「……多分」
「ならばよし! さ、試合開始と行きましょう。
 実を言いますと、あたい経験者なんですよ」

経験者、か。確かにそうなのでしょう。
今ならば良く理解できます。

それにしても……酒の勢いで洩らしたような戯言を、良くも間に受けたものですね。
しかも、敷地も用具も人員も、すべてをこの一晩で集めるとは。
それだけの行動力を、どうして本業のほうに生かせないのでしょうか。
貴方さえもう少しやる気を見せてくれれば、私の生活も……。

……いえ、止めておきましょう。
今、自分の心を偽るのは、何よりも大きな罪です。


「小町」
「はい?」

だから私は、言います。
白球を胸に抱き、精一杯の気持ちを込めて。













 

「これはバレーボールと言うんですよ」




WBC日本優勝だけどそれって東方SSコンペと何の関係があるんや記念。

野球と排球って似てるとは思いませんか?
ほら、角度とか。
YDS
作品情報
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最新
投稿日時:
2006/03/25 01:00:49
更新日時:
2006/03/27 16:00:49
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1. 7 名無しに代わりましてVIPがお送りします ■2006/03/25 10:08:48
似てる
すげぇ似てる

角度とか
2. 3 月影蓮哉 ■2006/03/25 15:22:57
そしてお酒と何の関係があるのやら(ぇ
ちなみに閻魔様が持っているのは卒塔婆じゃなくて笏ですよと。
3. 5 落雁 ■2006/03/26 10:42:07
たった一言で全てがひっくり返るこの感覚、たまりません。SSの醍醐味の一つだと思います。
4. 8 ■2006/03/26 22:10:47
オチに噴きました。やってくれますね、ええ。
最近えーき様が愛しくてたまらない。
5. 8 爪影 ■2006/03/26 23:21:26
野球ユニフォーム姿な映姫様を想像して何だか悶々としている、今日この頃。
6. 9 反魂 ■2006/03/27 10:45:23
取りあえず映姫様、ボ○・デ○ッドソンを裁いてやって下さいまし。
話はそれからd

後書きからタイトルに至るまで計算し尽くされた構成、お見事です。
創想話にあったら文句なし100点だったのですが、「酒」というテーマとの
関連がやや薄いので、惜しいですが9点で。
7. 7 名前はありません。 ■2006/03/30 06:50:55
「ありがとう」って言うのかと思ったら!
オチで+1
8. 6 papa ■2006/03/30 19:10:24
あ、あれ? お酒の話を読んでいたのに、いつの間にか野球に? しかもバレー?
あれれ?
9. 4 水酉 ■2006/03/30 22:10:40
目指せ幻想郷のア○ックNO1ということで。
・・・背が足りなくてブロックできな(卒塔婆ブレード
10. 6 つくし ■2006/04/01 15:22:33
オチwww
ごちそうさまでした。
11. 7 おやつ ■2006/04/02 19:35:01
こ、この赤貧閻魔は見覚えあr
長くないネタですが非常に面白かったです。
『あ、えーきちゃんは審判ね』
これ最高w
こまっちゃんの勘違いも素敵でしたー
12. 7 名無し ■2006/04/04 22:41:58
似てる似て……ねえよwwww
13. 9 藤村琉 ■2006/04/07 01:46:50
 駄目だ負けた。
 要所要所にはめこんだ小さな笑いで撹乱しつつ、良い話っぽく締めようとするその一歩手前で、溜めに溜めた最後の一言を解き放つその姿勢がたまらなく好きで好きでしょうがありません。過不足なく野球の説明をしておいて、その上でバレーと誤解されるように上手くミスリードさせていますし、もう本当お見事。
 こういうタイプのお話には、なかなか巡りあえないと思うのですよ。はい。
14. 5 かけなん ■2006/04/08 12:57:04
似てねぇwww
でもこんなえーきさまも好き。
15. 9 ルドルフとトラ猫 ■2006/04/10 00:16:13
あなたは眼科にいくべきなのよ
16. 6 MIM.E ■2006/04/11 22:09:01
そんなオチかぁぁx! えーきちゃんの想い出に涙して小町の思いやりに涙してそんなオチかぁ!
けれど、えーきちゃんなら思いっきりバレーボールを打ち込んでくれると思います。
小町めがけて。
映姫様は結構運動神経良さそうに思ってしまう。
17. 6 木村圭 ■2006/04/12 02:25:22
二回吹きましたよもう思いっきり。読者に向けて語られるのはあまり好みじゃないですがもうどうでもいいや。
18. 8 NONOKOSU ■2006/04/12 03:08:48
エーキ様ならきっと打てる!
19. 4 床間たろひ ■2006/04/12 04:00:03
よし映姫。俺とキャッチボールしよう。
しかしなんでこう不遇な設定が似合うんでしょうね。この楽園の裁判長はw
20. 7 とら ■2006/04/12 05:57:09
あるあ……ねーよwww
21. 7 ■2006/04/12 17:04:44
小町にバレーボールは反則だと思うんです。
だって飛んだら間違いなく揺れるじゃないですか。ゆっさゆっさなんてレベルじゃないじゃないですか。
それはそうと……えーき かわいいよ かわいいよ えーき。
22. 6 Hodumi ■2006/04/12 18:08:02
裁判長……裁判長……っ!
23. 9 K.M ■2006/04/12 20:54:34
小町はいい女だなぁ。どうしようもなく抜けてるけど
オチ読んだ瞬間、リアルで唾液が気管に入って咽ました

白い球以外に関連性がみつからねぇ!
24. 7 椒良徳 ■2006/04/12 23:32:39
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
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