蓬莱人の宿酔

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 05:26:29 更新日時: 2006/03/27 20:26:29 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


 それは妹紅が、日課となっている竹林の散策を楽しんでいたときのこと。
 ふと足を止めてしゃがみこもうとした彼女の頭上へ、不意に影が落ちた。
 あの春の到来を告げる妖精が今日も乱舞してるのかしらんと空を見上げれば、そこにあったのは白黒モノトーンの影。

「……春になると、ほんと、色々と湧いてくるよね。黒くて素早いのとか」
「不老不死になれる肝とか、か?」

 竹の木の間を縫うようにして、箒にまたがった魔理沙が降りてくる。妹紅と目の高さを合わせると、頭に乗せた帽子の鍔を軽く持ち上げ、

「おいっす。それはそうと、宴会の季節だぜ」
「宴会?」

 不穏な響きを秘めた挨拶はとりあえず無視して、妹紅は尋ね返す。

「宴会と言えば花見に止めを刺す。鬼のように宴会好きな奴が、やろうやろうとせっついてきてな」
「花見ねぇ。それよりはもう、筍の季節だと思うけど」

 妹紅は自分の足元を顎で示した。黒土の表面に、よく見れば筍の先端がちょこんと突き出している。
 ほう、と魔理沙もこれを興味深げに覗きこみかけ、それから我に返った風にかぶりを振った。

「それはさておき宴会だ。例によって幹事は私だ」
「例によっても何も、私はあんたたちの宴会なんて参加したことが……」
「ならば大人しく誘いを受けることだな。宴会の盛り上がりはエントロピーに比例する。常識だぜ」
「無闇に頭数を増やしたいだけじゃないの?」
「決行は明晩、場所は例によって例の如く、博麗神社だ。あそこの時間単位のエントロピー増加率はただ事じゃないからな」

 妹紅はちょっと考える素振りを見せてから、首を横に振った。

「せっかくだけど、遠慮しておく」
「そうか」

 魔理沙は大して残念そうな顔を見せなかった。だが、すぐには去らず、

「一応、理由を聞いておこうか? 幹事の責任ってやつだ」
「いや、大した理由でもないんだけどさ……。その、宴会となると、やっぱりお酒を飲むんでしょ?」
「当たり前だろう。お酒の無い宴会なんて、門番のいない紅魔館だぜ。――あいや、逆だった」
「いや、私、お酒が好きじゃないのよ」

 簡潔な理由に対し、魔理沙はまるで雷光にでも打たれたかのような驚愕の表情となり、よろめきさえした。あまりのリアクションに、妹紅の方が驚く。

「ば、馬鹿な……酒を嫌える奴がいただなんて……」
「待て、別に嫌いというわけじゃなくてね」

 なぜだかとんでもないことを仕出かした気分になって、慌ててフォローに走る。

「なんて言うかさ、私、蓬莱人だから。お酒飲んでも酔えないのよ。酔ってもすぐに醒めちゃうの」
「なんと?」
「私の体では、外部から入った毒物は、すぐに分解されるから。まあ、強いものならちょっとは臓器にダメージも受けるけど、それもすぐに再生されるの。お酒も同じ。酩酊作用を及ぼすより先に、消えてなくなっちゃうってわけ」
「おいおい、酒を毒物と一緒にするなよ。酒は百薬の長だぜ」
「薬ならなおさらのこと。薬と毒とが表裏一体であることくらい、あんたならよく知ってると思うけど?」

 魔理沙は返す言葉に詰まり、妹紅は肩をすくめた。

「そんなわけでさ、他の人が楽しく酔っているのを見ていると、ちょっと悔しいというか、つまんなくなるのよね」
「だけど……先に誘ってきたんだが、輝夜たちは参加すると言ってたぞ」
「あいつらを参考にしないでよ。宇宙人の思考なんて理解できないわ」

 再度、苦笑混じりに肩をすくめて、締めくくろうとする。

「だから……」
「ああ、分かったよ。皆まで言うな」

 急に魔理沙はうんうんと深くうなずいた。
 悟りきったその表情に、妹紅はなぜか不吉なものを覚え、そしてそれは思い違いではなかった。

「つまり、お前が酔えるような酒を用意すればいいんだな?」
「え……ちょっと?」
「なあに、蓬莱人の不死身ったって、たかだか私とアリスの前にへたばる程度のものだったじゃないか。酔わせて潰すくらい、造作もないぜ」

 どこにそんな根拠があるのか、にやりと不敵に笑う。

「じゃ、明日を楽しみにしてな」

 妹紅が止める暇もなかった。魔理沙は箒を急発進させ、あっという間に竹林の上空へと飛び出していった。猛スピードで星になり、運悪くすれ違ったリリーホワイトが目を回す。とてもじゃないが追いつけない速度だった。

「……どうしよう」

 足元の筍に訊いてみる。返事はない。



  * * *



 翌日の夜。妹紅は迷った末、博麗神社を訪ねることにした。
 いちいち魔理沙を追いかけて説得するのも面倒だったし、それに実のところ、宴会そのものには少なからず興味があったので。しっかり手土産まで持参していたりする。
 到着した時には、既に場は混沌たる様相を呈していた。
 見たことのある顔、見たことのない顔。ざっと三十人近くからなる、人間に妖怪、幽霊などといった脈絡のない混成師団が神社の敷地を占領している。彼女らがしゃべる声だけでも十二分にかしましかったが、それに加えて合奏している騒霊たちやら熱唱している夜雀やらまでいて、騒々しいことこの上ない。
 場の熱気に当てられて、ぼんやり立ち尽くしていると、背後から呼びかけられた。

「ああ、あんたも来たのね」

 恨みがましい響きの声に振り返ると、この神社の巫女、霊夢がどことなく険のある眼差しを向けてきていた。

「ねえ、知ってる? 参加人数が増えても、後始末をする人の数は変化していないの。理不尽だと思わない?」

 どう応じたものか迷った妹紅は、手にしていた荷物の存在を思い出し、とっさにそれを差し出した。

「手ぶらで来るのも悪いと思って」

 重箱の包みだった。今日調理したばかりの筍ごはんに筍の煮物、筍の刺身などが詰め込まれている。
 すると霊夢は、ぱっと愛想良い笑顔になって、

「楽しんでいってね」

 包みを手に、スキップしながら社務所の方へとフェードアウトしていった。
 またひとりになって、妹紅は、さてどうやってあの輪の中に入ったものかと思案する。慧音も一緒に来てくれていればな、などと考えていると、

「おっ、メインターゲットのご到着だぜ」

 魔理沙が酒瓶片手に飛び出してきた。

「ターゲット?」
「さあさ、みんなお待ちかねだ」

 彼女に導かれるまま場に加わると、奇妙に好奇心で満ちた視線が、一斉に注がれてきた。思わずたじろいでいると、魔理沙が瓶をマイク代わりに、高らかな宣言を行う。

「それじゃ行くぜ! “第一回チキチキ妹紅を酔わせてアッフンあんた何するつもり? 選手権”――!」

 ぱらぱらと拍手。ぷぁー、とトランペットの合いの手。
 ひとり妹紅は、目をしばたたかせている。

「え? え? なに?」
「さあ、今回エントリーしてくれたのは、たったの二人だこんちくしょー! まずは私、霧雨魔理沙!」

 魔理沙はぐっと親指を立てて、自分を指す。

「そしてもう一方の雄は、ルナティックファーマシストこと八意永琳だ! さあてお立ち会い!」
「ムーンヒーリングアナイアレーション! あなたの生殺与奪権は、既に私の手の内よ」

 どこから湧いて出たのか、永琳が魔理沙の隣に立ち、妹紅へ指先をずばっと突きつけてきた。

「なにごとなのー?」

 おろおろとする妹紅の両肩に、魔理沙が力強く手を置く。

「安心しろ。私の名に懸けて、今宵の宴会は妹紅ちゃんのトラウマになるよ?」

 さっぱり要領を得ない言葉に、妹紅は早くも精神的外傷を負いつつある。
 そこへ不意を突いて、魔理沙は真面目な表情を見せた。

「言ったろ? お前も酔って楽しめる宴会にするって」
「それって……私のために?」
「酔いすぎて損はない。それが今回のテーマだ」

 真摯な口調に、妹紅は複雑な心持ちになった。もしかしてこれは、彼女なりの気遣いなのだろうか。気持ちだけで腹いっぱい、胸焼けまでしそうなのだが。
 沈黙した妹紅を見て、魔理沙は了解が得られたと判断したのだろうか。

「では、始めるとするか」

 そう言って口の端を吊り上げた。えらく楽しそうに。
 その表情を見て、ああ、やっぱり弄ばれているだけなんだな、と妹紅は早とちりを後悔するのだった。


「私が用意したのはこれだ。スピリタスをベースとして、素敵に無敵なキノコをランダムかつふんだんに投下した、マジカルリキュール! 『酔わぬなら、殺してしまえ蓬莱人』を合言葉に、対象の異物分解速度を上回る破滅的火力を目指した一品だ」
「いやちょっと、色々と聞き捨てならない言葉が……」

 目の前に置かれたコップの中身を、妹紅は強張った顔で凝視する。液体は無色透明だったが、突き刺すような匂いが鼻まで届いていた。鼻よりも目にくる、発火性物質を思わせる臭気。
 本当に、こんなの飲んで大丈夫なのだろうか。いくら死なない体とは言え、死ぬほど辛い目を味わわずに済むわけではないのだが。
 逃げ場を求めるように視線を巡らせると、愉快そうにこちらを見ている輝夜の一味が目に飛び込んできた。頭に血が上っていく。

「ねえ、ちょっと。よく考えてみたら、あそこにも蓬莱人がいるじゃない、ふたりも。あっちで試してみない?」
「それは妙案だが、あいにくと今回のテーマは、あくまで『妹紅を酔わせて色々やっちゃえ』なんでな。企画タイトルを守るのは、非情の掟だ」
「そんなふざけたテーマを堅守するな! て言うか、さりげなくテーマを変えるんじゃない! ……あ、そうだ。私、ちょっと急用が……家の戸締り、忘れてきたかも」
「無駄な抵抗は無駄である――どっかの詩人の言葉だぜ。さあ、覚悟を決めな」

 ずい、とコップが押しやられ、

「さあ、一気にどうぞ!」

 魔理沙の音頭に続いて、周りから囃し立てる声が上がる。ぷぃー、とトランペットの音。
 それらの音に押されるような形で、妹紅はコップを手に取っていた。
 ――ああ、私ってこんなに流されやすい性格だっけ?
 自問自答の中、やけくそ気味にコップを口許へ運ぶ。目をぎゅっと閉じ、強烈な臭いを吸わぬよう呼吸も止め、そして一気に傾けた。

「――!!」

 熱い。口から喉から胃の腑まで、謎の液体が通った後には、灼熱の痛みが刻まれた。味もくそもない、感じるのは熱さだけ。
 焼ける。爛れる。燃える。
 発火。

「うわっ」
「火が、火がっ」

 比喩などではなく、妹紅は燃え出していた。体温が急激に上昇したことで危険を感じ取った肉体が、妹紅自身の意識とは無関係に排熱行動をとったのである。普通の人間ならば発汗で済ませられるところだが、そこは鳳凰の力を有する蓬莱人、緊急排熱となれば自らの身体を燃やした方が早いのだろう。
 そんなメカニズムは、しかし周りの者たちにとってはどうでも良いことであった。集団の真ん中にいきなり現れた火達磨は、辺りを阿鼻叫喚の地獄と変えるに十分なものであった。

「あー」

 いち早く避難した魔理沙は、遠くから瞳に炎を映し、頭を掻いた。

「なんか、違うボーダーを超えさせてしまったみたいだな」


 少女弾幕中――
 ――決着。


 暴走する妹紅が取り押さえられるまでの間、神社の本殿に火が燃え移りそうになったり、持ち寄られた食料の三十パーセントが消し炭と化したり、氷精が溶けかけたりと、甚大なる被害が発生した。巫女も大変ご立腹の様子です。
 それでもなお、宴は続く。常人には計り知れぬ意地が、そこにはあった。
 桜の木に悄然ともたれかかり、団扇で胸元を扇ぐ妹紅の前で、魔理沙がめげずに進行を続けている。騒動の原因として批難の視線を集中され、さすがにいくらかトーンダウンしているようではあったが。

「それでは二番手、というかラスト。大トリ、八意永琳師匠の手番だ」



「ふふ、だいぶお疲れみたいね」

 人垣が割れ、その向こうから艶然とした笑みをたたえながら歩み出てきた永琳を目にして、妹紅の意識は自然と鋭さを取り戻す。
 永琳の隣には輝夜がいて、こちらもにこにこと愉快そうに笑っていた。ふたりの向こうでは兎たちが声援を送っている。
 妹紅は目の前に立った天敵たるふたりを、きっと睨みつけた。

「なんだってお前らまでこんな茶番に参加してるのよ。長生きしすぎて、自分の体質を忘れちゃったの?」
「もちろん、知り尽くしているわよ。この体のことなら、あなたよりもずっと、ね」

 より艶やかに、より冷ややかに。永琳は口許をほころばせる。恐れるものなどとうに失ったはずの妹紅でさえ肝が冷えそうになる、妖しい微笑。

「そう、確かに外部から異物を投入しても、私たち蓬莱の薬を飲んだ人間には異変を起こせない。起こせたとして、その効果は瞬きほどの間に消える。だけど――」

 すっと伸ばされた指が、身を緊張させている妹紅の顎を撫でた。

「それはあくまで肉体に限った話。蓬莱の薬は精神構造の不変までは保証してくれない。喜び、悲しみ、怒り、憎しみ、愛おしみ、昂ぶり、沈み……ひっきりなしに変調する心理を、ニュートラルへと修正したりはしない。だからこそ、私たちは心を鍛え、精神を力の根源とする諸諸の術なんかも修得できているのだけれど。逆に狂気に侵されてしまう危険性と隣り合わせになりながら」
「何が言いたいのよ」

 妹紅は彼女の手を払いのけ、後ずさりしようとする。が、背後の木がそれを邪魔した。たった今までそれに寄り掛かっていたというのに。そんなことすら失念してしまうほどに、妹紅は相手に呑まれつつあった。
 永琳は静かに、諭すような口調で続ける。

「だからね……肉体じゃなくて、心を酔わせればいいのよ。精神に直接作用し、とろけさせ、酔い痴れさせる、そんな美酒で」
「そんなもの……だいたい、あんた手ぶらじゃない」
「ここにあるわ、とびっきりの美酒が」

 永琳はすっと脇へ身をどかし、妹紅の視界から外れる。そこに残ったのは、

「その銘は――『蓬莱山輝夜』」
「なにっ?」

 輝夜がぎらついた笑顔を見せていた。妹紅を捉えるその眼は尋常ならざる熱情に燃え盛り、さながら原始の野獣の如く。
 なるほど、と妹紅は獰猛な笑みを作る。

「私を酔わせるほどの弾幕を浴びせてくれるって、そういうつもりね。いいだろう、ならばこっちも……」
「あら、何を勘違いしているの?」

 輝夜は転瞬、きょとんとした顔になる。

「永琳が言ったじゃない。私は今宵、お酒なのよ。あなたに飲まれるための、ね」

 そして妄執的な表情をよみがえらせて、にじり寄ってきた。
 不気味なその様子に妹紅は気勢を削がれ、後退り――しようとして、できない。

「ちょっ、なにこの冗談。笑えないって」
「妹紅……とうとうあなたを味わえるのね」
「酒が飲み手を味わってどうする? いや、ていうか……」

 かつてない危機感に衝き動かされ、妹紅は飛び上がって逃げようとした。しかしすかさず永琳がそれを阻んでくる。

「だーめ。天網蜘網捕蝶の法!」
「いきなりラストワードかい! けれどたかが蜘蛛の糸、焼き尽くしてくれる!」

 妹紅の背に炎の翼が広がり、永琳が張り巡らせた捕縛結界を焼き払おうとする。ところが予想外、あらぬ方角から飛来した弾が、彼女の背中を直撃した。

「なっ……誰よ?」

 殺気立った目で茶々を入れた人物を探そうとするも、そこへさらに多方向から弾幕が畳み掛けてきた。大玉小玉、レーザー、ナイフ、御札、座薬、七色、天狐、蹴り、氷柱、苦無……多種多様な弾に怒涛の如く殺到されては、いつまでも抗えるものではない。加えて鳥目にされたり時間を止められたりしたのでは、なおのこと。
 奮戦むなしく、ついに妹紅は撃墜された。

「み、みんな……なんで?」

 周りを取り囲むギャラリーからは、申し訳なさそうな表情が返ってきた。

「いや、ごめんね。なんか、どうなるのか興味が出てきちゃって」

 それが彼女らの総意らしい。
 妹紅は観念するしかなかった。どの道、この包囲網を脱出できるとは思えない。なんでこんなことに、と嘆く。

「それじゃ仕切り直しね」

 気がつくと、輝夜の顔が鼻先にあった。今の弾幕ごっこには参加していなかったのだろう、息も切らさず汗もかいていない。どこか涼やかな香りが、その緑なす黒髪から流れてきて鼻腔をくすぐる。
 しばし至近距離で、ふたりは複雑な感情の入り乱れた視線を交わす。
ギャラリーが固唾を飲んでそれを見守る。緊張に耐えかねたのか、誰かがトランペットを鳴らそうとしたが、ガッという打撃音と共にそれは阻止された。

「共に溺れましょう、妹紅」

 そしていきなり、ふたりに残された最後の間合いを、輝夜が一息に詰めた。

「――?!」

 唇に唇の触れる感触が、妹紅に呼吸を忘れさせた。嫌悪と驚きにのけぞるが、輝夜は身を乗り出して追いかけてくる。わずかに湿った輝夜の唇に何度もなぞられた挙句、妹紅の下唇は上下を挟み込まれてしまった。
 捕えられた――
 そう認識した途端、妹紅は脳が痺れたようになって、身を硬直させた。
 ぱさりと輝夜の髪がひと房、肩から滑り落ち、密着する妹紅の頬を撫でる。
 力の抜けた妹紅は背中からばったり倒れ、その上に輝夜がのしかかる形となった。
 ふたりの長い髪が絡み合って白黒のまだらをつくり、無意識に虚空を掴もうとする妹紅の手にも輝夜の指が絡められる。
 口を塞がれっぱなしで、ふっ、ふっ、と鼻だけで荒い息をしながら、妹紅は意識が朦朧としていくのを感じていた。もはや抵抗する気力も湧かない。
 口内に侵入してきた温かな「それ」の味に陶然となりつつ、

 ――ああ、暑いよ……

 ぼんやりと考えていた。
 目の端にきらりと光る涙は、何を思ってのものだったのか。



 ギャラリーの反応は、大興奮と、どん引きと、見事なまでに二極化していた。
 熱狂に満たされる場から少し離れた位置に、魔理沙と永琳は並んでこの一幕を見つめていた。永琳はやっぱり嫣然と、方や魔理沙は目のやり場に困るかのように帽子の鍔を鼻の先まで引っ張っている。

「あら、妹紅ったら、もしかして初めてだったのかしら? ずいぶんとあっさり篭絡されちゃったけれど」
「いや、まあ、普通はあんまり経験ないんじゃないか? 同性同士ってのは」
「そんなことないわよ。私たちなんて、ひと通りのことは試してるわ」
「お前らイカれ宇宙人と一緒にするなって……」

 飽きることなく顔をくっ付けているふたりの少女を、魔理沙は帽子の陰からちらちらと見やる。

「なんか……お前らに利用された気がしてならないんだが。妹紅も、私も」
「ふふ、どうかしらね? まあ、十分な余興になったんだから。幹事さんとしては、素直に喜んでおくべきところじゃなくって?」

 そうなのだろうか。魔理沙は唸る。
 そして、もはや当初の目的など誰も覚えていない気がしたが、一応「勝者・永琳」の判定を下した。ひっそりと。



  * * *



 永い永い夜が明けて。
 竹林の奥、ぽけーっと緩んだ顔つきで歩いていた妹紅を、飛行中の慧音は見つけた。そばに降り、並んで歩く。

「妹紅、昨夜の宴会はどうだった? 私も里での用事がなければ、顔を出してみたかったのだが」

 すると妹紅は、なぜか顔を真っ赤に沸騰させ、わたわたと慌てだした。

「だ、だめよ、慧音!」
「妹紅……?」
「慧音は……慧音だけは、清い体でいてね……」

 わけのわからぬ言葉と涙の粒を残して駆け出し、瞬く間に木々の陰へと消えていく。

「何があったんだ……」

 ぽつんと、取り残された慧音は、茫然たる顔つきで立ち尽くすばかりだった。


蓬莱人の体質について、今回はこういう形をとらせていただきました。考察系と捉えていただいて間違いないかと思われます。
まあ、あれですよ。嫌がる人に酒を無理強いしちゃ、ダメ。
びば
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/25 05:26:29
更新日時:
2006/03/27 20:26:29
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 6 月影蓮哉 ■2006/03/25 16:30:06
なんつーか、えろかった。
2. フリーレス S某 ■2006/03/25 17:19:34
様々な方面で自分とは解釈の齟齬があるなー。
素直に評価しがたいというかなんというか。
3. 3 落雁 ■2006/03/25 20:41:46
悪酔いしそうで、でもクセになったりする酒なんだろうなあ。
4. 4 爪影 ■2006/03/27 23:30:07
酔うのは、良いものです。
5. 4 unit ■2006/03/30 02:08:20
件のシーンで思わず体を乗り出してしまった私はどうすれば。
6. 5 名前はありません。 ■2006/03/31 16:44:37
『蓬莱山輝夜』は通販可ですか
7. 7 つくし ■2006/04/01 22:36:53
なんというかその、永琳グッジョブ(鼻血と共に)としか申せません。ごちそうさまでした。
8. 4 水酉 ■2006/04/04 00:37:40
見事に「酔わされた」ようで>妹紅
今宵のお酒はお嬢ちゃんのトラウマになったよ・・・
9. 5 Fimeria ■2006/04/04 02:11:03
『酔わぬなら、殺してしまえ蓬莱人』……語呂がいいと感じた。

流れるように進む文章で時折波のようにくるネタにクスクスと笑える作品でした。
そのネタが笑いのツボにすとんとハマる感じがとても良いです。
しっとりと来るコメディなこの作品に5点を。

10. 4 おやつ ■2006/04/04 23:06:43
考察ですと!?
違う!これはガチ百合だ!w
それはそうと、弾幕に天狐て(泣
11. 4 藤村琉 ■2006/04/07 01:55:32
 いちゃいちゃするのはいいのですが、いきなりそっち方面に雪崩れ込むと対処のしようがないと言いますか。
 うーん。
 うーん。
12. フリーレス 反魂 ■2006/04/07 22:50:52
採点辞退。
13. 6 かけなん ■2006/04/09 23:08:11
蓬莱人に対する見解は微妙ですよねぇ。
僕なんかは元が『人』である以上、人間の死と同じだけのダメージを受けたら、なんて考えてますけど。
おまけテキストにも何にもなかったような、改めて探してみよう。

と、そんな事はさておき途中でオチが読めましたが、それもなかなか。
14. 7 ■2006/04/10 23:17:32
…ひでぇwとりあえずもっとよく見せ(鳳翼天翔
15. 6 papa ■2006/04/11 02:00:58
冒頭を読んでシリアスな話かと思ったら・・・笑いました。
16. 8 MIM.E ■2006/04/11 22:03:47
なるほど考察系か…………………………………………………………そうか?
妹紅の流れ行き戸惑う様にいろいろとあれこれと感情を思い出してしまった。
輝夜との最中に一歩引いて魔理沙の様子を描いたりする書き方がより、その空間のリアリティと
時間の経過を際立たせていてつまり何が言いたいかというと、宇宙人の思い切りの良さに乾杯
17. 7 NONOKOSU ■2006/04/12 02:39:47
うむむ、そうか。
考えてみれば蓬莱人は酔わないっぽいですな。
死の無い人間は、死へ歩み寄ることすら許されない、みたいな。
18. 3 木村圭 ■2006/04/12 02:42:05
うわー、ネチョだよ大興奮だよもっとやれめるぽガッ!
妹紅を酔わせて色々弄れ大会にエントリーしてるのが2組というのはなんと勿体無い。あまり多すぎると間延びしてしまいそうな気もしますが、もう少し読んでみたかったというのが本音。
19. 6 とら ■2006/04/12 05:22:12
お酒で酔えないならしょうがないよね。うん、しょうがない。
20. 6 ■2006/04/12 21:39:44
おぉう…キス以降の描写が艶っぽいというか、流し込まれてるっ!?w
21. 6 K.M ■2006/04/12 22:40:34
妹紅、哀れの一言に尽きますな

みんな(除く慧音)ヒデェよw
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード