妖夢と藍の! 〜ぶっとばせ、ドキドキワーカー掘りック・胎動編〜

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 06:53:17 更新日時: 2006/03/27 21:53:17 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



 深い深い闇の中。
 月明かりさえも届かないようなその場所に蠢く二つの影があった。
 よほど疲れているのだろうか、聞こえてくる息遣いは荒く、片や地面に座り込み、片や立ってはいるものの手に持った杖のようなものに額をつけて項垂れていた。
「これ、本当に…出て……くるんですか……?」
 座り込んだ影が荒い呼吸の合間に絞り出すように声を出したが、もう一方の影は答える余裕も無かったのか、変わらず杖に支えられて立っているのがやっとという雰囲気だった。
 それでもなんとか無理矢理呼吸を整えようとして――咽せた。
「――ぐっ! げほっ、ごほっ! ……あー、言うな妖夢。あの二人が言っているんだ。たとえ出ようが出まいが、どっちにしろ私達はここを掘り進める運命なんだよ」
「そうは…言っても……もう空も真っ暗ですよ……」
 二人して首を上に向けてみれば、確かにそこに光は無かった。
 日が昇っていた頃はまだ空が見えていたのだが、それでもこんな深い穴の奥まで光が差し込んでくることは無く、唯一の光源だった藍の狐火も先ほど本人の体力の限界とともに消えてしまっていた。
 一体これまでどれだけの深さを掘り進んできたのか。
 まだ日が高いうちから掘り始め、最後に空を見たときは地上へと繋がっている最初の部分が親指と人差し指で輪を作ったほどの大きさになっていた。
 そこからまた数時間。もう山一つ分は掘ったのではないかとも思えてくる。
「しかし、だ。出ないという事はまだ掘らないといけないわけで」
「あー……そろそろ土が出てこない事に――」
『こら二人とも、なにサボってるのよー』
 妖夢の声を遮るようにどこからともなく聞こえてきた第三の声。
 その声に二人は顔を合わせて、同時に盛大に溜息を吐いた。
「やるしかないのかねぇ」
 項垂れていた上体を起こした藍が右手の人差し指をぴんと立てると、その先にぽっと蒼白い火が灯った。
 火はそのまま中空に留まり、深淵の闇に包まれていた空間を映し出していく。
 すっかり闇に慣れてしまっていた目にはそんな淡い光すらも眩しくて、暫く二人は目を細めていたが、それも束の間。改めてお互いを見てみると、汗と土に汚れた顔が尚更ここでの時間の経過を物語っているようだった。
 そして二人の間の空間に走る小さな亀裂。それはこの世のものではない、文字通り世界のスキマへと繋がる空間の裂け目。
 その裂け目の向こうから、何かに納得したかのような「よしよし」という声が聞こえてきた。
 二人はもう一度大きく息を吐き出すと、藍は手に持っていた杖のような物を握りなおし、妖夢は自分の傍らに置かれていた藍が持っている物を同じ物を手に取って立ち上がった。
「ここまできたらもうヤケだ。とことんまで掘ってやろうじゃあないか」
「元より、幽々子さまの言いつけを途中で放棄するなどというようなことはありえません」
 それぞれ疲れきった自分の体に渇を入れると、手に持った杖のようなものの先を思い切り地面に向かって突き刺した。
 杖の先には少し湾曲になった金物が取り付けられていて、更にそれは先端に向かって細くなっていっている。所謂スコップだった。
 ざしゅっという音と共に先の金物部分が地面にめり込むと、てこの原理で一気に土を持ち上げていく。
 そして土はスキマに放り込む。
 こうする事によって、掘り返した土のやりどころに困ることなくここまで掘り進めていたのだが、それは逆に地上でスキマを開いている紫には二人の進行具合が余すことなく伝わってしまうことでもある。
 サボっていれば先ほどのようにスキマを介してその現場を摘発されてしまうという事に気付いたのは、出口が両手の親指同士と人差し指同士を合わせて作った輪ほどの大きさになった時だった。


 さて、なんでこんな穴を掘っているのかといえば、それは遡ること半日ほど前。
 前日から家に遊びに来ていた幽々子と紫はどうやら一晩中酒を呑み通していたようで、朝に藍と幽々子が帰らないために結局帰れなくなった妖夢が起きてきた頃には二人とも、それはもう気持ちいいほどにべろんべろんだった。
 そして、いい加減にやめろと言いにいった藍に向かって、二人は口を揃えてこういったのだ。

『藍、今日は満月よ!』『げつよ〜』
『秋の十五夜、今日は月見酒!』『みざけ〜』
『月見酒といえば何よりも温泉!』『おんせん〜』
『藍、よろしく!』『よーむもね〜』

 そんな訳で、今二人は紫が指し示した地点をせっせと掘り進めている。
『ここよ、ここだわ、間違いないのよ正解よおめでとうゆかりん!』『わ〜ぱちぱちぱち』
 今となってはなんでそんな言葉に従ってしまったのかが盛大に悔やまれるところだが、そこは長年傍らで支え続けてきた従者たち。そう、彼女らは悲しいほどに従者だった。

 再び戻って穴の底。
 集中しているのか、全てを諦めたのか、無言のままに掘り進める二人の姿はまるで親に売られて奴隷のように働かされている子供のよう。
 狐火が怪しく照らす中、規則正しく響くスコップの音に突如がきんという甲高い音が混じった。
「どうした妖夢」
「……でっかい石、ですね」
 スコップの先を見てみると、三角形の先が少しばかりひん曲がっていた。このままではスコップで掘り進める事は不可能だろう。
 生憎、普段ならば肌身離さず持っているはずの二本の刀も今は地上に置いてきている。
 地面から顔を覗かせている石の大きさから見ても、これを無視して掘り進めるのはいささか無理があるように思えた。
「ふむ、確かにスコップではこれをどうにかするのは難しいな……ならば」
「どうにかできるのですか?」
「ふふ、私とて妖狐の端くれ。いや端くれどころか直球ど真ん中。見せてやろう、岩をも溶かす地獄の業火というものを!」
 藍が高らかに叫ぶと、己の右手を大きく振り上げた。
 一体どんな術が見れるのかと妖夢が目を輝かせた、次の瞬間。

 チュドーン!

 確かに石は砕け散った。見事なまでにバラバラに砕け散った。だがしかし。
「火とか出てないし」
 憧れの先輩を見つめるような目から一転、ジト目で見据える妖夢の前で藍は右手をふーふー吹いていた。どうやらそこそこ痛かったらしい。




 一方その頃。地上では紫と幽々子がちょうどいい場所にあった切り株に腰掛けて、秋の涼風を肴にまだ呑んでいた。
「なんか穴の方から大きい音がしたけど、二人とも大丈夫かしら」
「心配ないわよ。まだ生きてるわ」
 その答えに満足したのか、そう、とだけ返して幽々子は手に持った御猪口をくいと傾けた。
 静かなはずの夜の世界も、穏やかな風に揺られた草木があちこちで談笑を交わし、あるいはそれは恐怖を呼び起こすものでもあったが、この二人にとって怖いものなど数えるほどもなし。
 流される髪を押さえた紫を見た幽々子がほう、と溜息。
「どうしたの?」
「ん〜、なんかいいなぁ〜って」
 にへらっという表現が似合うような顔で笑う幽々子に対し、風に吹かれて幾分酔いも冷めたのか、紫はまだ幾分朱に染まる頬をふっと緩めた。
「別にいいもんじゃないわよ。寝るのも大変だし、起きたら起きたで絡んでたりすると尚更大変だし、手入れだけでどれだけの時間を喰っているのやら」
「その割には切ったりしないのね〜」
「それは――って貴女覚えてないの?」
「なにを?」
 相変わらずにへらっと笑ったままの幽々子を前に、紫は思わず片手を額に当てて項垂れてしまった。
 しかしそこで何かを思いついたのか、額に当てた手の人差し指をぴんと立てると幽々子の方を向いてにっと笑った。
「なら貴女もなってみる?」
「え?」
 なにを――と聞き返そうとした時には、ソレは既に成っていた。
 背後から吹き抜けていった風に舞い上げられた、幾重にも散りばめられた桜色の細い線。
 突然の事に、幽々子が慌てるようにわたわたと視界を遮るソレを押さえ込もうとすると、その手はやがて自らの頭へと辿り着いた。
「え? あれ?」
「どぉ? 中々煩わしいものでしょ?」
 ようやく収まったソレと紫とを見比べながら、幽々子はきょとんとしたまま言葉を失っていた。
 掌から流れ落ちるように伸びるそれは、紛れもなく幽々子のもの。
 普段は肩の辺りまでしかないはずの、桜色の髪だった。
「わぁ〜……」
 しかし、紫の思惑とは逆に幽々子はまるで新しい玩具を見つけた子供のように、長く伸びた自分の髪をぱらぱらと流してみたり、それに飽きると今度は切り株から降りて、草原の中を両手を広げてくるくると回って吹く風に合わせて髪を舞い上がらせてみたりと、中々に気に入った様子だった。
「んー……、アテが外れたわねぇ……」
 切り株に座ったまま、紫は新しく作り出したスキマに頬杖をついてくるくる回る友人を眺めていた。
 真円を描く月の光に照らされて、風に波打つ草原の中を舞い踊る一羽の蝶。
 流れる着物に合わせて流れる髪も舞い上がり、外気に晒されたうなじは白く細く、折れてしまいそうなほどに儚く。しかしそこから始まる少女の曲線は何よりも魅力的で。
 見慣れたはずの少女の姿に何故かどきりとさせられて、顔が熱くなったのは果たして酒の所為なのだろうか。
 くるくると、くるくると、少女は舞っていく。
 くるくると、くるくると、少女は夜を舞っていく。
 虫が歌う、草木が歌う、風に乗せられ空高く。
 そして夜の世界に舞い降りた桜の少女は再び現へとその身を降ろした。
「ねぇ、ゆかり」
「――……っえ?」
 よほど見惚れてしまっていたのか、目の前に来た幽々子に呼ばれてようやく紫は己を取り戻した。
「これ……やっぱり戻してくれる?」
「あら、気に入ったように見えたけど?」
「う〜ん、私が好きなのは、やっぱり紫の長い髪みたい」


『紫の髪って凄い綺麗よね。伸ばしたらきっと似合うわよ』


「……あら残念」
 そこに何を見たのか、十分すぎる間をとってようやくそれだけ言うと、紫はつい、と指を宙に滑らせた。
 すると、まるでそんな事は初めからなかったかのように、幽々子の髪はいつもと同じ、肩の辺りまでの長さに戻っていた。
「ありがと。でもちょっと楽しかったわ」
「……私としてはこの大変さを味わってほしかったのだけれど」
 少し不貞腐れる素振りを見せる紫に、幽々子はまたもにへらっと笑ってみせた。
「大変といえばあの二人はどうしてるのかしらね」
「んー……あぁ、掘り当てたみたいよ」
 スキマを少し開いてみれば、そこには湧き出る湯水に手と手を取り合って喜びを分かち合う二人の姿。
「そう、じゃぁ乾杯といきましょうか」
「何に?」
「そうねぇ……新しい二人の友情に?」
「あの子達が私達のようになるとでも?」
「さぁ、どうかしら」
「ふふ、貴女らしいわね。でもまぁ、乾杯」
「乾杯」
 再び切り株に腰掛けて互いに酒を注ぎあい、御猪口がちんと音を立てたその直後、大きな地鳴りが鳴ったかと思うと、穴から一気に吹き出た温泉とともに空へと投げ出された二人の従者。
 気を失っているのか、大きな放物線を描いて自分達の方へと落ちてくる。
「あらあら、助けないとねぇ」
「私としてはあのまま落ちたらどうなるのかが見たくもあるけれど」
「ダメよ紫。たまには抱きとめてあげるのも、私達の役目でしょう」
「……呑みすぎよ、幽々子」





やっぱりドリルは漢の浪漫な件について。
シュキバリアン
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/25 06:53:17
更新日時:
2006/03/27 21:53:17
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 9 ■2006/03/25 01:49:27
トマホークも忘れるな!
2. 8 銀の夢 ■2006/03/25 05:32:38
花のようにたおやかに、水のようにしなやかに。
くるくると長い髪を宙に咲かす幽々子様を幻視しました。


ところでドリルは漢の浪漫? 基本でしょ。
3. 6 月影蓮哉 ■2006/03/25 17:33:53
ド、ドリル!?
4. 6 爪影 ■2006/03/28 16:55:06
大脱走のテーマが頭に浮かびました。
5. 4 名前はありません。 ■2006/03/31 20:37:10
ドリル出てきませんドリル
6. 5 つくし ■2006/04/02 17:52:27
むしろうなじが浪漫な件について。
7. 7 toki ■2006/04/03 02:24:55
でてきて良かった。紫様がスキマを使わないのは愛の鞭。いや、いじめ?
8. 5 おやつ ■2006/04/05 04:48:18
藍様北斗神拳を!?
いや、良い主人良い従者を堪能しました。
GJっす。
9. 4 水酉 ■2006/04/05 07:39:30
だからドリルは取れと言ったのだ! と言いつつ
従者の持つドリルに貫かれる主人二人を幻視しました(違

まあこの従者二人は、何があろうと主人に反逆しないんだろうなあ。
10. 3 藤村琉 ■2006/04/07 02:02:52
 うなじ多いな。
 どういう話をしたいのか、話の軸がしっかりしていません。
 温泉か幽々子と紫の会話か、どっちつかずであるために後半よさげな話をしていても印象には残らず。
 前半と後半の両方を生かすつもりだったのだとしたらそもそも尺が足りません。もっと粘りましょう。
11. 6 かけなん ■2006/04/10 14:52:35
超同意
12. 5 papa ■2006/04/11 02:04:49
妖夢と藍のほうはオチもなにもなしって、テラカワイソス。

しかし、これじゃタイトルが・・・。
13. 6 MIM.E ■2006/04/11 21:41:46
理由も場面も結果も一々もっともらしくてとっても素敵な幻想郷でした。
髪の長い幽々子にはちょいと憧れる。
14. 6 NONOKOSU ■2006/04/12 02:35:26
長髪もロマンです、きっと。
15. 1 木村圭 ■2006/04/12 03:00:51
実にその通りだ。ついでに、長い綺麗な髪は女の浪漫なのかもしれないですね。
16. 5 とら ■2006/04/12 04:58:47
本当に憐れ従者。
17. 8 K.M ■2006/04/12 21:25:54
兎にも角にも、従者二人はお疲れ様です

ひたすら掘り続ける行為は、「四時間穴を掘り、
また四時間かけてそれを埋める」に比べれば掘った実感が涌くだけマシ・・・かな?
いや、どちらもやりたくは無いですが
18. 7 ■2006/04/12 22:32:35
きっと藍様は狐火も出せたんだけど、二人してヴェルダンになっちゃうから敢えてしなかったんだよ!きっとそうだよ!
あと、ドリルは間違いなく漢の浪漫。
19. 9 dbn ■2006/04/12 23:07:13
従者ズは逞しいですねぃ。
そして局地戦たるコンペにおいても酒を愉しめるのは風雅な主人ズだけという不条理。まさにワーカーホリック。堀りック。幸アレ。
そして紫様とゆゆ様が何時までも、それこそ髪よりも長い友でありますように!
20. 4 反魂 ■2006/04/12 23:25:50
女の子にとって、髪は誉められると凄く嬉しいものだそうで。
それゆえの、紫と幽々子の友情の証。ほほえましいなあ…

…と思っていたら後書きで台無しw
飲んでたコーヒー吹くかと思ったw
21. 5 椒良徳 ■2006/04/12 23:39:58
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
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