紅ク永イ酒ニ月ヲ注グ

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 07:45:41 更新日時: 2006/04/18 12:46:00 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



こんな夜には、応えて欲しい、私が堪えられる内に。
けれど浮かぶ満月は詠わず、妖し緋光をただ振り注ぐ。
あぁもうなんて見事な満月なのだろう、緋い紅い赤い月。
狂気に短絡された在り得ない道。
そう思って来たけれど、その実、迷い得ぬ時など無い。

私より遥かに長く在った月夜に答えを求めた。
故郷でもあり、狂気でもある、月に恨み言を言った。

でも月は詠わない。
唯この夜は酔わされて、今まで感じた事が無い程の酒気が立ち昇り、夜空が月が酔わされていて。
月は詠わない代わりに、いつもより澄んだ紅い光り降ろしていた。



『紅ク永イ酒ニ月ヲ注グ』







-0-


彼女は酒を用意していた。
老いた兎の妖怪が、死に往こうとしていたから。
老兎は薬を拒み、地下蔵に寝かされた紅い酒を所望した。
安楽死、全ての苦痛を忘れ永遠と酔い醒めない魔酒、紅。
彼女は強く反対したのだ。
この世にはこの屋敷にはこの夜にも、生き永らえる術はある。仮に望めば永遠に。
そうなればあらゆる死程など存在しないこの屋敷で、けれど老兎は自然を守ると言う。
その理由は単純で、でも彼女には完全には理解もできなくて。
「この屋敷がずっと前から、ずっと後まで、家族であり続けるためにあの人には頼れない」
そして私は酒好きなのだと言って、いつもの笑顔を見せた。
割り切れない気持ちで一杯になりながらも、彼女は老兎の言に従った。
悔しくて悲しくて。全てを悟り理解する程に彼女は未だ強くなく、業も深かった。
地面よりも一段低い堅い木製の階段を降りた先。
地下蔵は地面を大きく深く掘って高い蔵を埋めて出来ていた。
天井が高く、或いは底が深く、降りて見上げたならば、わずかに地面より上に出た格子天窓から光が降りてきている。
その光の届かない蔵の奥の酒樽から、持ってきた柄杓に一杯の酒を酌んだ。
それはネットリとした芳醇、妖艶な躍り兎の血を甘い果モノで煮詰めて発酵させたような香り。
彼女は柄杓の酒を、天窓から降り注ぐ光に当てて見た。
紅。
あまりにもサラサラと紅すぎるので、彼女は天窓越しに入ってくる光のもとを見つめた。
理解した。今夜の満月もこんなに緋紅いのだ。

ゆらゆら、ゆらゆら、月の緋が彼女の瞳を赤濃く染めて反射して
紅い酒に注がれた。
彼女の瞳を通した月の光が紅酒を揺らす。ゆらゆらと。
それはまるで、酒が、喜ぶ様。











-1-


「酒気が増した」
霊夢は博麗神社の縁側で茶を飲んでいた。
突然くんくんと鼻を鳴らして顔を空に向けたからか、魔理沙が衝動的に霊夢の頬に手のひらをピタリと当てた。
「宴会がしたいのか?」
「違うわよ、酒気が増したって言ってるの。魔理沙は感じない?」
魔理沙の手が興味なさげに払われる。
「酒気って言われてもなぁ。どこかで誰かが酒でも飲んでるのか? あいにく私は巫女じゃないから分からないぜ」
「確かに、今、里の方から酒の匂いがする。でも酒気が増したのはきっと別の場所が原因で。勘だけど。」
「つまりは、飲みたくなったんだろ? 最近確かにあんまり開いてないしなぁ宴会」
「だから、宴会じゃないけど、そうね」
「なんでそう、ひねくれた認め方をするかな」
「認めてないけど呆れたから諦めたのよ」
魔理沙には分からない様だし。 霊夢はそう言って再び俯いて静かに茶をすする。
「まぁまぁ。私に任せなさい」
魔理沙は胸を張ってドンと叩いた。ふんと鼻息も荒い。
「今から準備したら明日の午後には大宴会だ! ちょっと集めてくるぜ」
言うが速いか、勢いよく箒に乗って魔理沙は飛び立っていく。
びゅうとあたりの大気を巻き込んで、砂埃を上げて、けれど、霊夢の感じる酒気は霧散せず、ネットリと鼻につく。
いや、脳に沁み込んで、酔わされる。酔わされる。ぼおっとなって。酔わされ……

霊夢はぱちんと両頬を手でぶつ。意識を痛みでハッキリさせる。
危なかったと思う。なまじ、敏感で意識した分、侵されるのが速い。
二度と酔い満たされぬよう、頭の中に小さな結界を置くことにした。
さて、これは一大事だろう。めんどくさいと思いつつ、解決しなくてはとも思いつつ。
「とりあえずは、里かしらね」
霊夢はそのままふらふらふわふわと飛び立っていった。







人里は比較的落ち着いてほろ酔わず、ただし、酔いの素は何処かしら濃い。
満遍なく濃くなったというよりは、大気がまばらに犯されて見えないカーテンを幾重にも引いたように、酒気の層ができていた。
人がそれを吸ったとしてすぐにどうなるものではないだろう。
長時間居続ければきっと酔う。
立ってるだけで晩酌代わりになるのだ、酔いたいだけの酒盛りの懐を減らさない、滑稽でお得な幸風だ。

もっとも、霊夢はそんな飲み方はごめんだった。
酔うためだけに飲むなど信じられない、おぞましい、狂気の沙汰としか思えない。
以前この感想を霊夢は宴会で言ったことがある。
賛否両論渦巻いてひときわにぎやかな宴会のつまみと相成ったが、概ね結論は霊夢は幸せだと。
霊夢の感想に大賛成したレミリアや紫やらも、控えめに反対していた美鈴やら藍やらも、結論という点では同じだった。
魔理沙だけ、感想は有耶無耶に、“お前の幸せは私から言わせたら不幸だよ”と冗談交じりに知ったかぶって、その後、宴会の間ずっと霊夢のそばで酒を飲んでいた。

適当に酒のことを考えながら里を歩く霊夢。
ひとけが無い事には既に気が付いていた。
まだ日は高いというのに、どの家も戸をきっちりと閉めていた。
霊夢は目の前の家を訪ねて話を聞いて見ようかと思ったが、質問の言葉を具体的に考えたならどれも胡散臭かったのでやめた。
それより心当たりが在った。里がこんな状態なのはきっと彼女がそうさせたからだ。
霊夢などより、もしかしなくとも何倍も里のことを心配している彼女が、こんな異変に何も手を打たないわけがないのだ。
すぐさま彼女、上白沢慧音の庵へと向かう。
酒気がさらに増したのは気のせいではなかった。





慧音は庵の入り口の前で庭石に座って何か考えているように俯いて頭を抱えていた。
主人が外にいるのに、戸はやはりきっちりと閉められている。
近づくにつれ、特に濃い酒気がちらちらと鼻先を掠める。
真水に氷砂糖を落としたように、ゆらゆらと甘い塊が線を作って辺りに広がって行く。
そのとびっきり濃い線が慧音の庵を中心に伸びているようだった。
霊夢が来ていることに気がついてから慌てて慧音は石から立ち上がって霊夢を迎えた。
それは、いつもの折り目正しい彼女らしくない行為。
「霊夢、よく来てくれた」
「あなたが犯人……じゃなさそうね」
少しやつれた顔からは覇気も邪気も感じない。
「お前を呼びに行こうか考えていたところだ」
「原因に心当たりがあるの?」
「話が早くて助かるな。いつもこうだと良いのだが」
「お酒がらみなら考えてもよいわ」
霊夢の皮肉を竦めた肩で無言で流し、慧音は背を向け庵の戸の前に立った。
直ぐ後ろに来て慧音の横から手を伸ばし、戸を開けようとする霊夢を慧音の手が遮る。
「何するのよ、原因はこの中なんでしょう?」
「この中にあるのは、酷い……ものだ」
「は?」
「常人には見せたくないと言っているのだ。まあ、お前の心配を今更する気はないが、それでも私の良心が咎める程には、な。だから言い訳だ、聞き流してくれ」
慧音は言って戸をがたんと開け、中へ入るよう霊夢を促す。
何が出るのか警戒して入り込んだ霊夢はまず、自分が酒風呂にでも飛び込んだのかと錯覚した。
強く蒸した、仄かに紅みすら見える酒気が部屋中に満ちていた。甘ったるくてネトリと。
頭に結界を張っていなかったら、瞬時に酔わされていたかもしれない。
確かに常人にこれは危険であるが、どうやら慧音が酷いと言ったのはこの酒気の事ではないらしい。
この半妖も大概にして酒好きではある。これほどの酒気が、妖怪ほど酒の強くないものにとってどれほどの毒か気が回らなかったのか、或いは霊夢はすでにその辺り同類に扱われているのか。
真面目な慧音の判断だけに、その事について考えると頭の痛くなる霊夢であったが、今は、目の前の酷いものに意識を集中する。

それは、部屋の中央に敷かれた座布団の上に載せられた、
小さな一羽の若い兎 恐らく、死体。
胸の鼓動は見えず、静か。
事切れてからまだあまり時は立っていないのか、白い兎は、白かった兎は、酔った人の顔のようにほんのり赤く染まっていて、そして立ち昇るは見得るほどの酒気。
間違いなく、この里一帯の酒気の原因はこれであった。

霊夢は一度だけ眉をしかめると、遠慮無しにあがり込み兎の死体の前に立つ。
「あ、待て霊夢」
慧音が止めるのも聞かず、霊夢は兎の腕に触れて持ち上げた。
兎の酒漬けだった。体中に染み込んだ酒が重く、重力に引かれてずんとしなる。
それでも、細い腕に力を入れて無理に目の前まで持ち上げたならば
血とも酒ともつかぬ紅い液体がドロリと兎の体をつたって座布団と畳の上に流れ落ちた。
ひぃ、と悲鳴を上げたのは慧音のほうだった。
霊夢はそのままそっと座布団の上に兎を降ろし、手についた紅いドロドロをどうしたものかと慧音に向けて見せた。
慧音は弾かれた様に動いた。仕舞い戸から布を取り出し、霊夢の手にドロリの上から巻きつける。
そのまま霊夢を引っ張って外に出て、裏の井戸から水を汲み、布ごと霊夢の手を洗った。
「お前は何を考えているんだ!」
「別に平気よ。触っただけでどうにかなる類のものではないわね」
「それは、良かったが……。 しかしそれだけではなくてだな、仮にも仏に対して……」
霊夢の安全にまず安堵する様子が慧音らしくて、霊夢は少しだけ柔らかい表情を見せた。
「慧音、その一番罰当たりな元凶をどうにかするのが私の役目よ」
そしてあなたのね と付け加えると慧音は幾分落ち着きを取り戻した。
「それで、あの兎はいったいどうして?」
「今朝は生きていた、ふらふらとあの、甘ったるい酒の臭いをさせながら奥の竹林を歩いていた。様子がおかしかったので連れて帰って看病したが、すぐに……」
慧音は首を振った。
「始めはもっと……その、普通、だったんだが、息を引き取ったとたん内側から紅いモノが湧いて出て、どんどん酒気が強まっていった」
「そう。竹林を歩いてたって事は、何処からか来たって事。それはやっぱりあそこからかしら」
「多分、な。無関係とは思えない」
「確かめてないの?」
「あまり里を長く空けない方が良いと思った。これは、不吉な事だと思わないか霊夢。だから」
「そうね、確かに気分の良いものじゃないわ」
「お前に先に知らせに行くべきか迷っていたところ、お前が来た」
「なら、私が次に行く所は決まったわね」
霊夢が濡れた手をパタパタと払って水を飛ばすと、慧音は別の手ぬぐいを取り出して渡した。
「私もついていったほうが良いか?」
慧音は真っ直ぐ霊夢を見つめてくる。
それは慧音の余裕のなさを、いつもより動揺している事を告げていた。
「優しいのね」
「別にお前の心配をしたわけでは」
霊夢は、分かってるわよ、許せないんでしょう? そう心で思って、口にする代わりにクスクス笑った。
慧音の表情がむすっと固くなったので、取り繕うように話題をそらした。
「それよりも、この近くに川は、上流に水源はあるかしら?」
「急になんだ? 確かにある……が、まさかそんなこと!」
「原因が分からない以上確かめた方が良いわね。あの兎と同じような兎が水源に落ちたら、村がどうなるかあんまり想像したくないわよ。あの紅いの、さすがに飲んだらどうなるか保障は出来ないわ」
杞憂かもしれない、けれど聞いてしまっては慧音は居ても立ってもいられないようだ。
「ならば、私は水源と里の周りを見てくる。そちらは任せたぞ」
「ええ、永遠亭は、任されるわ」
すぐに飛び立つ霊夢、だが、再び慧音は待てと霊夢を呼び止めた。
「なによ、慧音。まだ何かあるの? 手ぬぐいなら返さないわよ」
「おまえ……いや、そんな事は良い。そうではなくて、参考になるか分からないが、あの兎が息を引き取る前に言い残した事があってな」
「犯人の名前とか目的だとありがたいんだけど?」
「いや、歌だ」
コホンと咳払いをして、慧音は詠った。







酔いも醒めれば辛かろう 永く天恵(てんえ)に伝え聞く これ止み間ない紅永酒
 止まぬ止まぬと子童(こわ)までも 罪流すたる命紅色(あかいろ)










-2-


彼女は心をすり減らし深い悲しみの中床に就いていた。
想いは複雑に有耶無耶にあらゆる記憶と事象と感情を結びつける。
留まり所無く様々に考え、時に事実にに納得し、時に理不尽に悲しみ、時に最も大切なものを背徳に想った。
そうしているうちに、やがて意識は落ちていった。
紅と黒がぐるぐると渦巻く大きな生暖かい月の砂漠の流砂の中へ。

ふと、自分を見下ろす。浮いている訳では無いのだが現実味の乏しい正に浮いた心地。
自分は立っていた。見慣れない場所に居た。
けれど見慣れないと思ったのは、感覚の希薄さ故であり、本当はつい先ほどまで居た場所のような気持ちになった。
ならば自分はここでほんの数秒意識を失っていたのかもしれない。
けれども確かに自室に戻りまどろみに落ちた気配も在った。
己が記憶を気配でしか察せ無い不思議な精神状態に疑問と言う感情は生まれず、自分かもしれない、或いは自分ではないのかもしれないと思考は曖昧なままであった。
その自分ではない己は何やら先ほどからこの部屋のなかを数回ぐるぐると回っていた。
動いていた事に今気がついた。気がつくと自分の意思で動いていたような気持ちになる。
でも何故動いていたのか理由が無い。
などと考えているうちに、どっと疲れが押し寄せる。
疲れだけははっきりと精神を蝕んだ。多分、自分は何かをしたのだろう。酷くのどが渇いた。
自分の体も同じ気持ちらしく、手が水分を口へと運んでくれた。助かる。
楽になる。だいぶ、楽になる。酷く楽になっていった。
気分が良くなるとさらに、意識の現実味が減った。構わない。眠いのだろう。
近くに居た兎も一緒に水を飲んでいた。あまり飲みすぎると夜中起きる羽目になるからだめよと心で注意して。
それは自分もかも知れないけれど、でも自分はここに居ないのだから問題ない。
何処にも居ないのだから、二度目のまどろみ、思考が削れてゆく甘美を味わいながら自分は消えて言った。
体だけはきちんと動いて最後には何事も無かったかの様にに自室で寝ていた。
そんな夢を見た。









月の頭脳とも謳われた八意永琳であっても答えのすぐに出ない問題がある。
それは理屈ではなく感情を多分に含んだ問いだからだ。
永琳は、自室の奥の製薬に使う小部屋に籠りグラスに紅い酒を注いで液面を揺らしていた。
甘く包み込むような香りが部屋を満たす。
それが、置いてある薬品の微かにのっぺりとした油蒸気と混ざり、蜜入りのロウに閉じ込められたような世界を作り出す。
この部屋に、鈴仙以外が入ってくる事はまずない。
その鈴仙も今は忙しいとてゐから聞いた。だから永琳はここに独り。
思考と感情に浸りたかったからであった。
帽子を取り、髪の束ねを解いて耳たぶの上から手櫛を入れる。
うなじから胸元へと手を走らせ、最後に再び持ち上げて鼻先へとやれば、銀糸に絡みついた先ほどのてゐとの会話の残り香が、再び鼻から頭を通って思考へと戻って行った。
そうして、てゐとのやり取りを繰り返し思い返していた。


少し前の時間。夜。
何処までも暗闇へと続くかに見える永遠亭の廊下にひと気は少なかった。
数羽の兎達が何やら浮き足立った様子で目の前を通り過ぎてゆく。
彼女達は永琳に気がつかなかったのか、挨拶もなしに互いの話に華を咲かせながら先を急いだ。
「あなた達。鈴仙を見なかった?」
永琳は彼女達の背中に声をかけるが、果たして数メートルも離れていないこの距離で、兎達が呼びかけに気がつかない事などあるのだろうか。
行ってしまった兎達を見送りながら、多分宴会に浮かれていたためだろうと思うことにした。
再び、冷えた廊下に独り。音の少ないこの空間に、遠く暗闇の先から微かに歌声が響いてくる。
それは今の兎達も向かったのであろう数日前から続いている葬儀という名の宴会だった。
いや、宴会という名の葬儀だろうかと些細な事を気にしながら永琳は自室へ向かった。
宴会に混ざろうという気持ちは無かったのだ。
そこへてゐが、珍しく跳ねる様子もなく重い空気を連れて歩いて来た。
てゐは永琳に気がつくときちんと挨拶をくれた。
「永琳様じゃないですか、こんな所でどうしたんですか?」
「てゐ。あの老イナバは亡くなったのよね? 今どうなってるのかしら?」
「葬儀の事でしたら、簡単にでしたが済ませましたけど。今は……」
てゐはそこで口を止め、永琳の瞳をにっと見つめてきた。
永琳が、自分も真剣に見つめ返している事に気がついたときには既に遅く、てゐは独り勝手に何かを察して、表情を軽めて言った。
「今は、遺産相続ってヤツをやってます。遺産って言っても、蓄えてた人参だとか、管理してた人参畑だとかそんなんがほとんどですけどね。あの兎はそれなりに古い兎でした。家族も多い、もめるのが当たり前なんです。今は、使い切らなかった肩たたき券の財産的価値について鈴仙が頭ひねってるところです」
「肩たたき券なんてそもそも故人の受ける権利じゃないの」
「そうですよ? でも財産ですからね。それを発券した人が相続したら、誰が誰を叩くんだか」
「馬鹿な話し合いもあったものね」
「ええ、馬鹿ですよ。みんなは、私達は。わざとそうやって騒いでいる。だって、早く済ませてしまったら寂しさばかりが残るから。今回は鈴仙も馬鹿に混ざってます。あの子が来てからこういうことがあったのはやっと三度目ですからね」
老兎の死。
不慮の事故、他の妖怪や人間に捕らえられる、それ以外で永遠亭の兎が減るの事はそう頻繁に在る事ではなかった。
程度の差はあれ皆妖怪兎である。普通の人よりは長命で丈夫だ。
それでも、力によって差はあれ、老いて寿命を迎える兎はいた。今回のように。
生き物の命が繰り返されて流れていく自然に変わりは無いのだ。蓬莱人を除いては。
「特に今回の鈴仙は張り切ってましたねー。お酒まで用意してみんなで宴会しながら話そうなんて、私でもそこまで思い切れませんよ」
「知ってる。私の部屋にまで四六時中歌が聞こえてくる。私の可愛い弟子にそんなねじの緩め方を教えたのはあの巫女かしらね。邪魔して無い?」
「邪魔なんて無いです。むしろ感謝してます。鈴仙が進んで私達の仲間になってくれている」
「そう……」
何かに耐え切れなかったのか、てゐは目を細めてククッと笑みをこぼし黒髪を揺らした。

「そんなに心配なら永琳様も来れば良いのに」

あぁやはり、永琳は思った、この兎には見透かされている。
けれどそれで動揺する永琳ではなかった。
「イナバの事に興味は無いわ。最近鈴仙が忙しそうだから、どうしたものかと聞いただけよ」
「そうですか? でも永琳様はこういった事にはいつも顔を出さないじゃありませんか、イナバたちも皆永琳様を慕っているのに残念に思っていますよ」
「まさか、そんな訳ないでしょう」
「いいえ、永琳様は私を除いて鈴仙を入れた永遠亭のほとんどのイナバから慕われています」
「貴方は違うのね?」
「永琳、私そういう意味では貴方と同じ立場だと思っているから」
……。
「あは、でもやっぱり今度からえーりんさまーって会うたびに飛びつきますか? 鈴仙が嫉妬して今まで以上に懐いてくれるかもしれませんよ? 人参十本で手を打ちます」
「結構よ」
「でも、せっかくですし宴会に一緒に行きましょう、今夜も眠らないで続くと思いますから。鈴仙も居ますし。正直に言うと、今晩は私出遅れまして、今からじゃ良い席も無いと思うんですよ。永琳様と一緒ならきっと融通が利きますからね」
えへへとてゐは悪びれてみる。そこに、作為的な違和感を感じた。
兎達の実質的なリーダーであり、大きな曲者であるてゐが席に困るなど在り得ないからだ。
「てゐ、普通の宴会なら良いけれど、イナバの祭事に係わる気は無いわ。私を珍しく誘うなんて他に理由があるんじゃないの? ここ数日、私はイナバ達に避けられている気がするのだけれど」
てゐはあーぁと頭を掻いた。
「気がついちゃいましたか。でも、私と一緒に来て否定してくだされば誤解も解けると思うんですけどね」
「誤解? 何の話か詳しく聞こうかしら」
「たいした話じゃありません。大袈裟にするのも気分が悪いだろうと思ってほっといたんですが。先日イナバが亡くなったのは永琳様のせいだと、そんな馬鹿な事を言う若い輩がいたんです。なんでも、永遠亭には命永らえる紅い霊酒が隠されていてその力で死なずにすむはずだったのが、永琳様が邪魔したとか何とか」
「てゐ、いろいろと初耳よ。それに、何で私がそんな事をしなくてはならないの?」
「それは……」
てゐは言葉を選んでいるようだった。
「永琳様は天才薬医師様ですから、私達の生活もおかげでだいぶ楽になりました。けれどどんなに頼んでも、例えば目の前で親の死にゆく様を見る子が理性を失い懇願しても、あなたは私達イナバの寿命を延ばすようなお薬は創ってくださいませんでした」
「確かに病気や怪我は見てあげられるけれど、私にだって不可能はあるわ。てゐ」
「そういう事にしておきます。でも、永琳様はそのことで負い目を感じている。いつも葬儀に来ないのもそのせい」

永琳は強く視線に意味を込めててゐを睨みながら言ったつもりであったが、逆に同じくらい強くて考えの読めない視線で睨み返された。
「何度も言うけれど、イナバ達の生き死ににこれっぽっちの興味も無いのよ」
「それは、私達を家族だと思ってくださっているから」
「家族だと思うなら、もっと親身になるでしょう。私がここにいるのは姫様のためよ」
永琳は否定したつもりだったのだけれど、てゐはうんうんと何度も頷いた。
「私もその考えには賛成で、しかも感謝してます。もっとも、私達はこれが自然だからそのまま生きているだけ」

蓬莱人は自然に生きる事が大変ですね。

何の屈託も無く、言ってアハハとてゐは笑った。
嘘つき兎を忘れるほどの自然な笑みに永琳を馬鹿にする様子は無い。
てゐがいつもらしくない事に永琳は気がついて、すぐに銀色の頭脳がその理由を理解した。
今は、兎達にとって少し特別な時であり、てゐはその中でも特に健康に気を使った長命の兎。
つまり、永遠亭の兎達をとても大事に思う立場である事を思い出した。
だから永琳はその秘めた真意まで見透かされたのだろう。
理由も方法も感情も違うけれど、立場が目指す目的は一緒だったから。
それを理解したから、この話はもうやめと、永琳は大げさに両手を挙げてんーっと伸びをして見せた。
「だいたいそんな馬鹿な話、まともに相手にするイナバも少ないでしょ。酔った席で誰かの愚痴を言うのも良い酒の肴よ。それに、霊酒? が在るならば、もっと以前から利用されていたはずだわね」
「確かに馬鹿な話ですけれど。永琳様が葬儀にいらっしゃらないのを理由に勘繰る輩が増えてますね。ですから、今日一緒に来て一発叱り飛ばしてくれたら全て丸く収まるんです。あぁ、それと、霊酒の話。あれはあながち嘘じゃないのも原因の一つです」
「どういうこと?」
「イナバに昔から伝わる紅永酒。永琳様が私達に薬を下さるようになってからは忘れられて誰も利用していませんでしたが、先日亡くなったイナバが最後に利用したのだとか」
「へぇ。その紅永酒とやらには興味があるわね」
「紅永酒ですか? 南の地下蔵にあると思います。しばらく誰も管理してなかったので、どうなってるかは分かりませんが」
「ん。後で行って見る。それと、イナバの揉め事はイナバの仕事よ」
「ちぇ、面倒だなぁ」
「そう言えば今日は姫様も見ないのだけれど、もしかして……」
「姫様ですか? ご想像の通り、私達の宴会に混ざって楽しそうにお酒飲んでますよ」
「やっぱり……」
「しかも、永琳様の悪口を言う若い兎と一緒になってえーりんのおにー! とか騒いでます。鈴仙がそのたびに控えめに文句を言うのですが余計に面白がられてますね」
「全部任せた」
「えーー。だから嫌なんですよ。姫様のことは永琳様の仕事のはずです」
「今日は特別よ、それじゃね、てゐ」
「あ、永琳様! ……もう」



姫様の事は気になるが、やはりこの宴会に顔を出す事は躊躇われた。
それよりも永琳は、てゐの言っていた紅永酒が気になった。
言われた廊下を進み、地面より一段低くなっていた階段を下りた。
はたして其処には紅い酒が隠し置かれていた。
それを見つけると、とたんに視界に紅い香りがまとわりついた。
グラスに汲んで、居待月の光に透かしてみる。やはり紅。
薬を修める者として、永琳にはそれが何であるかすぐに分かった。
そして、やや強すぎる異質で懐かしい波長をこの酒が放っている事も。
「紅永酒か。こんなものが在って、そしてイナバが死ぬのは私のせいなんて言いがかりが出る」

あながち、言いがかりじゃないかもしれないと、再び生まれた迷いが思わせた。






永琳は、そのままグラスを持って帰り、製薬部屋に籠った。
そして今、こうしてグラスを傾けて揺らしているのだ。

てゐの言った、寿命を延ばすような薬、本当は作れる。
姫の力を借りたとは言え、蓬莱の薬を作り得た天才にその程度のもの容易くはないが不可能でもない。
けれど、例え寿命を迎え死に瀕した兎達に望まれても、それを断る理由がある。
命の流れは自然であるが故に、災厄すら乗り越え輝いて、脈々と受け継がれるのだ。
姫様が、自分が、幸せと安らぎを感じられる場所を汚してはならないと誓った。
永琳は永遠亭の自然な家族めいた様を大切に思っていたから。
人の時間と生活の流れる場所が姫様と永琳には必要でそれはまさに永遠亭であった。
永遠に犯された末路、独りになった蓬莱人の擦り切れた行き着く先など考えたくも……ない。


誓いは永遠亭を永遠亭たらしめる為に絶対であり、そこに迷いは無いはずだった。
けれど、先日兎が亡くなる前にそれを見舞った他の兎からどうにか生き永らえる薬は出来ないかと懇願された。
結局本人が要らないと断ったため話はそこで終わったのだが。
本来なら出来ることを、出来ないという。
それは、どんな理由があったとしても、他者から見れば見殺しにした事に他ならないのではないか。
そんな自分が大きな顔して兎の葬儀に出る事が躊躇われた。
他者からの責め故ではなく、永琳自らが自分の心をむき出しにして、しとしとと降る雨の中に曝すような行為だからだ。
もし、鈴仙や他の兎達がこの話を聞いたなら意外に思うのかもしれない。
永遠を生きる天才はそんな迷いとは別な次元に生きているのではないかと。
けれどそれは違う。蓬莱人とて人なのだ。
人は人の時間で生きて苦しんで喜んで感じて
人の時間で幸せになって、そして不幸になるように出来ている。
これから先永遠に生きていくという事実が異なるだけで、今この瞬間は長い時を生きてきただけの人間、或いは人妖に過ぎない。
長命の妖怪となんら変わりは無い。てゐが永琳は自分と同じと言ったのは恐らくそういう意味だろう。
彼女は気が付いている。だから永琳が負い目を感じていると言った。
悔しく思ったが、正解だった。


永遠を自然に生きるために良かれと思ってしている事が、今を自然に生きる兎達にとっては余計なお世話で、認められない価値観の押し売りになっているのではないか。
これは皮肉な矛盾だった。
今になってそのことを騒ぎ出した兎がいることは、積もった歪みが吹き出た証拠ではないか。


薬医師としてのプライド。或いは永琳の人間としての強さから来る潔さ。
己が信条と心情に挟まれ、目の前の苦しみに負い目を感じても、永琳は他者には絶対に、鈴仙にも姫様にも弱さを見せなかった。
非情とも言える毅然とした態度を取り続けてきた。

それを、今この、紅い酒が惑わしている。
それを、今この、永い酒が嘲笑っている。

力で解決する事は容易い。
けれど、そうして平和を得た未来が本当に永琳の望む理想に続いているのか分からなくなった。
これから先永遠に生きていくのだ。その結果を見届ける事にはなるだろう。
けれど、今この瞬間、永遠に生きてきたわけではないのだ。
決して人目につかぬこの独りの部屋でその心の内で、永琳はその結果を危惧し迷い悩んでいた。


四六時中宴会から聞こえてきた歌を思い出す。それがこの酒を詠っていると気がついたからだ。

『やみぬやみぬるこわまでも つみながすたるいのちあかいろ』

本当だろうか。永琳は思った。
本当に、やみぬるこわがこの酒を頼る罪までも流してしまうものなのだろうか。

少し様子を見ようと思った。
この酒に混じり浮かぶ異質なそれが本来の役目よりも強く事を運ばせるだろう。
自分が動けば姫様にも迷惑がかかるか? と考えて、姫様は大してこういうことに興味を持たないだろうと思い至った。
それは凄い事だ。あの方は自分とは全く違う方法で永遠を生きている、
自分が惹かれる理由の一つはそこに在ると永琳は思った。
そしてごく自然にグラスを口につけ、紅い酒を飲み干した。



なるほどこれは思った通り
飲めば思考を止めるほど
強く濃く深く酔う。心が。











彼女は自らの手が優しく誰かの耳を撫ぜている事に気がついた。

撫ぜられている兎の表情は幸せなほど酔って緩んで個性など無いまでに歪められていた。
異様だとは思えなかった。事実口から出た言葉は。
「限界が来たならば外に捨て遣ろう。広め様こそ」などとまるで意味の分からぬ音列。
自分の体が満足したと心に伝えてきた。だからそれだけで良いという思いを察した。
兎は自分に背を向け歩き出す。揺れているのは兎なのか自分なのか、平衡を司る耳は自分にもあの兎の耳にも在って役割を果たしていない。
両方とも壊れているのなら、無理に意識を重ねれば共振して止まって見えるのかもしれない。
本当のところを確かめようとするけれど、自分の感覚が既に触覚しか残っておらず、触り確かめるにも離れた視覚の記憶が既にあの兎はいないと告げていた。
かろうじて今自分が歩いている事を足の裏からの板の感触で知る。
けれど、それも、次第に薄まって。
気分は良かった。良い以外無かった。
そんな夢を見た。














-3-


近づいて気が付く。永遠亭は歪んでいた。
物理的にではなく、取り巻く大気が間延びして紅い。波長がやはり、酔っている様。
霊夢は警戒しながら地に下りた。辺りに人影は無い。
漂う香りのせいで正門の大きさが正確に捉えられない。ぐっと迫りくるような圧迫感が在る。
一瞬、中の惨事を思い浮かべた、あらゆる兎達が皆紅く染まり、倒れ、ドロリした何かで床が沼地と化している。
しかしそれは霊夢の杞憂に終わった。
正門に閂は無く開けて入るとすぐに、屋敷から喧騒が聞こえてきたのだ。
時に甲高く、時に唸る様で、固い物がぶつかって、稀にドタンと地面を揺らす振動が伝わってくる
つまり、えらく賑やかもたけなわの宴会の音。飛び交うは、酔った兎の鳴き声だ。
音だけ聞けばまるで平和、いつもの通り。酒臭いのも当たり前。
もっとも、あの紅い香りは間違いなく、ここからも濃く漂っているのだったが。
霊夢は玄関の戸を勝手に開けるか、叩いて誰かが来るのを待つか二秒だけ迷ってやはり勝手に開けた。
と、玄関には見知った兎、へたれた耳を申し訳程度に立てた、今日はブレザーを着ていない。
「白いワイシャツに紅い染みがべっとりとついているわよ?」
「人参ジュース溢されちゃったんですよ、恥ずかしい」
「普通に応えられてもつまらないわ、鈴仙」
「普通に訪ねて来てはいただけ無いんですね、霊夢」
しくしく、と手のひらを真っ赤な目にやり、鈴仙は大げさに泣いた振りをした。
恐らく酔っているのだろう。仕草が一々鈴仙にしては大袈裟だった。
最初にカマをかけてみたものの反応はどちらとも取れない。鈴仙は関係ないのだろうか。
どうした物かと霊夢が思案していると、慌てている鈴仙の背後にこっそりと兎が忍び寄ってきていた。
名前も知らない、恐らく雑多な永遠亭の兎の一羽。
彼女は持っていたグラスを突然振りかぶり、鈴仙に向けて腕を振るった。
液体が宙を舞い、鈴仙の頭から背中を朱色に染め上げた。
突然の冷たさにビクンと体を縮める鈴仙。一方見知らぬ兎は大きく舌を出すと跳ねて逃げていった。
「いじめ?」
「あはは、また恥ずかしいとこ見せちゃいました」
「酔った勢い、にしては割と陰湿ね。あなたって嫌われてるのかしら?」
「いえ、私が嫌われるだけならまだ良かったのですが……」
へらへらと浮かべていた鈴仙の笑みが消え、急に真面目な顔になる。
何か在る。霊夢はそう思って鈴仙の話を促した。
「もし、何か問題が起きているのなら、私が力になれるかもしれないわよ? こう見えて、幻想郷の事件解決は私の仕事なの」
「いえ、これは永遠亭の問題ですから」
「お酒ね」
「え!?」
鈴仙は酷く意外そうな顔をした。けれど、里のあれの原因がここにあるとしたらそれは難しくない推理だった。
「そして、犯人は……永琳」
こちらは勘。けれど、この弟子兎が自分以外で真っ先に心囚われるのは師匠であろう。
「違います! 師匠はそんなことする人じゃないんです!! なのにみんなは!」
霊夢は、突然大声を上げる鈴仙の肩に手をやり低い声でなだめた。
「落ち着いて鈴仙。私はそれを調べるために今日ここに来たのよ。悪いようにはしないから。話してくれない?」
「……分かりました。とりあえず中へどうぞ」

警戒は怠らず、けれど停滞する気もまるで無く、鈴仙に導かれるまま霊夢は永遠亭を奥へ進んだ。
途中、ひときわ賑やかな音のするふすまの前で霊夢は足を止める。
そのふすまの奥から、古い木と和紙にべっとりと染み付いた特に濃い酒気が漏れている。
ガタン、と躊躇いもなく霊夢はふすまを開けた。
「あ、霊夢! そこは!」
少し前を歩いていた鈴仙が慌てて叫び、陰に隠れた。
はたしてそこは、優に千畳は在ろうかという大広間。
足元から視界遥か彼方の部屋の向こう側まで、繰り広げられるは地獄さながら鳥獣絵巻。
もとい。紅く染まり転がり山積まれ、或いは呻き声を盛んに上げて飛び回る、見渡す限りの兎々絵巻。
その全てが酔っていた。赤い目が据わっていた。
突然勢いよくふすまが開いたものだから、数多の兎たちの視線が、意識の飛んでいるものを除いて全て霊夢へと注がれた。
酔っ払い宴会など慣れたものの霊夢であっても、その数には一瞬圧倒された。
が、しかしすぐに瞳をやや細めて全体を見渡し、そのまま眉だけを少し上げて無言で睨み返した。
無数対一の睨み合いは三秒ほど場を静寂たらしめ、兎の多くは耐え切れずに視線をそらし、霊夢など見なかったことにして、おずおずとまた宴会を始めだした。
霊夢は無意識に口を横に結んだままふんと鼻で笑った。
「うちの兎達を苛めて勝ち誇るな!」
「痛っ」
霊夢の後頭部を何かが軽くポカリと叩いた。
「何するのよ!」
どっと場がわく。振り返るとそこに居たのはてゐであった。
先ほどの緊張感はあっという間に吹っ飛んで、霊夢は兎達の宴会の格好のつまみになった。
にらみ合いで負けたぶんざまぁみろと、ウサギ達は思ったのだろう。
しかし、と霊夢は思う。
何故こんな宴会がなされているのか分からないが、兎達の様子はご機嫌そのもので、あの紅く零れ落ちた兎と違って異様なものは感じない。
いや、思考するには早過ぎて、結論を出すには危険だ。今はまだ直感を頼りに進むのみ。
「てゐ、あなたがこの宴会を仕組んだの?」
「悪いけど霊夢、今はちょっと忙しいからまた後で。あんまり屋敷で暴れないでね」
てゐはそれだけ言うと玄関の方へ行ってしまった。
霊夢はやれやれ、と両手を挙げて首を振る。それから部屋の外でずっと待機していた鈴仙に声をかけた。
「鈴仙、行こうか」
鈴仙。その言葉を霊夢が言ったとたん、ご機嫌だった宴会の音がぴたりと止んだ。
ふすまから顔を覗き込ませた鈴仙に向かって野次と人参が飛ぶ。
鈴仙は慌てて首を引っ込め、廊下の奥へと走って行ってしまった。
ここまで鈴仙が兎全体から敵意を向けられてる様は霊夢の認識でも異常だった。
行ってしまった鈴仙を追う霊夢の背後からは、再び音を取り戻した宴会の音が、あの歌が聞こえてきていた。


『やみぬやみぬるこわまでも つみながすたるいのちあかいろ』











霊夢は鈴仙の自室に通された。用意された座布団に座り、真っ先に茶をくれと言う。
とりあえず言って見ただけだったが、どうやらこの奥の部屋は鈴仙の実験室らしく簡単な調理場も兼ねているらしい。
律儀に出された茶を飲み干してから、霊夢は聞いた。
「それで、理由を聞こうかしら。ここで何が起きてるの?」
「はい……。先日、一週間ほど前、年老いたイナバの一羽が亡くなりました。大往生と呼べるものでした。彼女はお酒が大好きでしたから、その葬儀も重苦しいものではなくお酒の席にして騒ごうと、そのほうが彼女も喜ぶと、これは私が提案したんです」
「へぇ。真面目なあなたにしてはちょっぴり飛んでる案ね」
「そうでしょうか? 良いと思ったんだけどな。とにかくそう言う訳で、葬儀と宴会を同時に行ったのですが、その席で彼女が亡くなったのは師匠のせいだと騒ぐ若いイナバが出てきたんです」
「あぁ、いろいろ秘密実験とかしてそうだものね。犠牲者は尽きないわね」
「そんな事ないです! 師匠は私以外にはそんな危険な人体実験はしません!!」
「そこで顔赤くしながらそういう事言うのもどうかと私は思うわよ?」
「あ、別に変な意味じゃ」
「どっちでも良いから続けて」
慌てて手を振る鈴仙に対し、無関心そうに言い放つ。鈴仙は気持ち肩を落として話を続けた。
「その若いイナバが言うには、寿命を延ばし若返る事の出来る霊酒が永遠亭には伝わっているとか。亡くなったイナバは最後にその霊酒を飲もうとしたけれど、それを師匠が邪魔したと言うんです」
「霊酒って?」
「紅永酒、と言うお酒らしいです。私も知らなかったんですけど、地上のイナバ達に古くから伝わるお酒で、飲めば寿命を永らえるとか」
「嘘臭いわね。あ、それってもしかすると、止められない止まらない……ってやつ?」
慧音の詠っていた歌を思い出す。
「そうです、その止まぬ止まぬと子童までも……その歌です。お酒自体は本当にあるものらしくて、実際に亡くなったイナバがそのお酒を飲みたがったと言う話はみんな知っています」
「本当に在るのなら、そのお酒を調べればすぐに本物の霊酒かどうか分かるでしょう?」
「それなんですが……なくなったんです。古い地下蔵に取りに行ったイナバが言うには、天窓が開いている以外まるで何もなかったと。そして、タイミングが悪い事に地下蔵から出てくる師匠の姿も目撃されているんです。だから、紅永酒が無いのも師匠がどこかに隠したからだと」
「それで、永琳は何でそんなことしたのよ」
「師匠はそんな事してません!」
「分かった分かった。でも、日の無いところに影は差さない。或いは月影かしら?」
「師匠は本当に最高の薬医師です。治せない病などありません! けど、極稀にですが薬を作れない事があります。年老いた体には強い薬は使えないとか、複数の病に冒されていて薬が互いの効果を打ち消すから使えないとかそういう止むを得ない事情があると師匠はおっしゃいます。ですが、感情的に納得できないイナバもいるみたいで。加えて師匠はあんな人ですから、イナバ達の祭事にはあまり興味を示されません。葬儀などにも出席しなかったので、ますます不満に思ったのだと思います。そんな時に師匠の薬でも治せない病を治し、寿命永らえる紅永酒があると知った。師匠は自分のプライドと立場を守るため、その紅永酒をイナバから奪ったのだと、そんな風に若いイナバは言いました」
「いろいろとおかしな話ね。そんな話、信じる人も少ないと思うけれど。兎は人より騙されやすいのかしら?」
「そんなことは無いと思いたいんだけど……。確かに最初は誰も相手にしなかったんですよ。でも最近は信じてる方が多いみたいで、私は毎回師匠の弁護をしていたのでいつの間にか師匠と一緒に疎まれる様になりました」
鈴仙の言う事が本当だとしたら、信じる兎が増えた理由はこの酒気のせいだろう。
霊夢は改めて周囲の赤甘い酒気の濃さを確認した。
慧音の庵ほどではないが、永遠亭に一日と住んだならば間違いなく酔わされる。
それが、若い兎か、或いは永琳か、或いは他の何かの意図だろうか。
「話はだいたい分かったわ。まずはその若い兎か永琳かどっちかに会って、力ずくでも真意を聞けば問題は解決しそうね」
「出来るだけ、穏便にしてくださいね」
「分かってる。相手次第だけれどね。それで、何処にいるの?」
「あの子は……すみません今日は見て無いです。師匠は……自分の製薬室に数日前から籠りっきりです。声をかけても忙しいと言って出てきてくれません。おかげでますます疑うイナバは増えるばかりです。こんな事体になってもイナバ達のことにあまり興味が湧かないのかもしれません。それが少し寂しいです」
たくさん思ったことを吐き出した為か鈴仙は背中を小さくして、はぁとため息をついた。
妙に哀愁漂うその姿が居た堪れなくて、霊夢は励まそうと思い言葉を選んだ。
「しょうがないわね。永琳の部屋の前まで案内して。後は何とかするわ。具体的には問答無用で扉に夢想封印」
「止めてください!!」
「ん、元気でた」
「本当に、止めて欲しいわね」
艶をわざと掠れさせた様な低い声がした。
そちらへ視線をやれば、部屋の入り口にやや俯き加減で顔を半分帽子で隠した永琳が立っていた。
「師匠、出てこられたんですね!」
「なんだか物騒な気配がしたからね」
いつも綺麗に整えてある長い銀髪が解け、やや乱雑に跳ねている。服も若干くたびれていた。
心もとない足取りでこちらへ歩み寄り、霊夢の目の前に立った。
顔を隠しているので表情は分からないが、疲れているようには見える。
鈴仙の言うとおり製薬部屋だとかに籠ってずっと何かをしていたのだろう。
あるいは……霊夢は袖からすぐに符を取り出せる様にして神経を永琳の挙動に集中させた。
「猿っぽい、と言うと怒られそうだからヒトっぽいにしておこうかしら。私もヒトだしねぇ」
しかし、隠された永琳の表情から発せられたのは奇妙な物言い。
真意を測りかねてわずかに霊夢の集中が途切れたその瞬間、永琳は大きく手を開きあっという間に霊夢の頭を自らの胸にかき抱いた。
明らかとなるその表情は、とても緩みきっていて。
「ん! ぐ……むぁ、放して! 齧るわよ!」
「あぁこのサイズと頭蓋骨から肩甲骨にかけての骨格が最高ね! やっぱり、かき抱くならホモサピエンスに限るわ!」
永琳はギュウと締め付けるのみならず、頭に手を当て髪を梳る様に、或いは頭蓋骨の形を確かめるように様々に霊夢の頭を撫で回した。
そしてうっとり溜めた息を吐き出す。
霊夢はそれで納得した。
あぁ、実に、酒臭い。
「やっぱり頭の形が一番違うわね。耳に邪魔されないで思う存分ぐりぐり出来るのがイナバと違って新鮮」
「し、師匠!! 私、もういらない子ですか! 霊夢がそんなにいいんですか! 耳が、耳が邪魔なら取り外す努力を惜しみません!」
そういえば、こっちも酔ってるんだっけ。
今さっきまでおとなしく語り上戸だった鈴仙は、永琳が現れた事で興奮しているようだ。
横から永琳にしがみついてイヤイヤと首を振っている。
霊夢は永琳の手とこの状況に頭回され眩暈を覚えた……が、同時に違和感も覚えた。
とりあえず開放されるために、目の前のうっとうしいのに本当に齧りついてやろうかとも思ったが、それはそれで別に絡まれそうだと思い止まり、思いっきり足を握りこぶしで叩きつける事にする。
「イタっ!」
永琳を狙った筈なのに悲鳴を上げたのは鈴仙であった。永琳の手も緩んだのですかさずに離れることには成功したが。
酷いです師匠、と霊夢でなく永琳に不満を言う鈴仙の様子から、一瞬の間に二人の間に何かやり取りがあった事が分かる。
そんな師弟の阿吽の呼吸にはあまり興味はなかったが、念のためじっくりと二人の様子を観察する。
大丈夫、鈴仙のことも変わらず好きよ、と言いながら耳を引っ張ったり引っ張られたりする二人はどう見ても酔っ払い師弟でしかなく、霊夢の感じた違和感はまさにそこだった。
「お取り込み中悪いんだけど、永琳、あなたに聞きたい事が在るわ」
「あぁごめんなさい霊夢。仲間はずれにしてしまって。さ、あなたも入って来て良いのよ」
「霊夢がどうしてもって言うなら、今日だけは師匠を半分貸します。今日だけですけど……」
二人は肩を組んで手を広げた。今ここに広がる生暖かく酒臭い友輪の花。
「興味ないから」
「所詮猿巫女ね」
「猿って、まぁいいわ。よくないけど。それより話は聞いてもらえるのかしら?」
「話ねぇ。それは……」
永琳はフッと息を吐くように間を空け視線を遠くに向けた。
「それは、お酒で紅い話かしら?」
「そうよ。閉じ籠ってたって聞いたけれど、話が早いじゃない」
「鈴仙、座布団」
永琳は用意された座布団に座り霊夢と対峙した。
「鈴仙、お茶」
霊夢が頼むと、先に差し出されたのは永琳の方であったが、それでも用意してくれた。
永琳が鈴仙を特別視する理由が分かる気がした。
「あなたが紅永酒に興味があるとは思わなかった」
「残念だけど、全く興味ないわね」
「あら? 長寿の秘薬が欲しくてここへ来たんじゃないの?」
永琳はくすくすと笑いながら聞いてくる。違うと分かって聞いている。
「その通りよ。事と次第によってはこのままあなたを懲らしめて、この馬鹿騒ぎを終わらせて帰るつもりよ」
「霊夢! 師匠はこの騒ぎの犯人なんかじゃ!」
「鈴仙。嬉しいのだけれど少し黙っていて」
「はい」
「霊夢、あなたは今否定したけれど、でも、もし叶うなら限りなき長寿に、不老不死になりたいとは思わない?」
「思わないわね」
もったいぶった聞き方をした永琳であったが、霊夢は実にあっさりと答えた。
「どうして?」
「どうしてって言われても。そうね、20年分くらいなら長生きしたいかもしれない。人も世界も60年で生まれ変わるらしいじゃない? だったら、生まれ変わったその先、もう一度青春を楽しむくらいの風流は解さないでも無いわ」
「風流に青春ねぇ。霊夢、あなたって私より若いのか年寄りなのか分からないわね」
「何とでも言って。私は私が好きなのよ。死だろうが、不死だろうが、人を止めて私じゃなくなるなら一緒だわ」
「なるほど。あなたは何処まで行っても人で在り、霊夢で在るのね。でもそんなあなたが凡そ人らしからぬ生活をしているのは私達に対する皮肉かしら?」
「蓬莱人って言うのは、なんでも自分を中心に動いてると思ってるのかしら?」
「違いないわね。もし、この世の生き物全てがあなたのような考えをしていたならば、私は迷う事もなかった」
「やめてよ、そんな例え。ゾッとするわ」
「どうして? きっと平和よ」
「無理。三年で死滅するわね。世界中のお茶が飲みつくされて」
「ふふ、霊夢、お茶が無くなったならば、お酒を飲めば良いじゃない」
永琳は黒い小瓶を取り出しその栓を開けた。すると、まるで煙のように紅い気配が立ち上る様が見えた。
あらゆる波長を赤く間延びさせる酒気。
血の混ざった果実のような強い香りは間違いなくあの里で見た若い兎のモノと同じ。
その香りを嗅いだだけで、黙って成り行きを見守っていた鈴仙の顔が真っ赤になっていくのが分かった。
グラスに注ぐとその色は、見紛う事なき紅をして。
「これが、紅永酒よ」
「永琳、やっぱりあなたが隠していたのね! そのお酒を使ってなにを企んでいるの? 里を、幻想郷中を酔わせるつもり?」
「里……何の話? 私はただ、霊夢、あなたを酔わせたいだけよ」
霊夢は鼻先に突きつけられたグラスを手で払った。
ひらりと霊夢の手をかわす永琳だが、グラスの中身がわずかにこぼれ、畳に紅い染みを作る。
背後に飛んで永琳との距離を開け、その動向を警戒する霊夢を詰まらなさそうに見つめながら永琳は言った。
「もったいない。これ、美味しいのよ」
ぐいっとグラスの残りを飲み干した。くーっと息を吐いて目を閉じる。
「やみぬやみぬるこわまでも、つみながすたるいのちあかいろ、私に罪が在るとしても、これで全て流れたかしらね?」
そのまま、パタリと永琳は倒れた。
「師匠!」
駆け寄って鈴仙が体をゆするも、起きあがる気配は無い。
紅永酒を飲んで倒れた永琳。全く意図が分からない。迷っていたと本人は口にした。
慧音の話では、兎が死ぬと内側から紅いアレが湧いてでたらしい。
「鈴仙! 離れて!」
慌てて取り乱す鈴仙を強く叱咤する。反射的に手を止めて、けれど鈴仙は永琳から離れようとしなかった。
そして、場の秒僅かの静寂を壊して、永琳の口からはひゅぅという音とともに吐き出された。
ぐぅ。と言う音。
「いびき?」
「寝息です!」


蹴り起こそうと思ったが鈴仙に体を張って止められた。
鈴仙は永琳を介抱するため背負って自室へと連れて行った。
畳の上に転がっていた黒い小瓶を持ち上げてみても中身は空だった。
里での兎の変死がここの騒ぎに関係しているのは明らかだ。
例えばこんな事件。
変死した兎は永琳の実験の犠牲者。事を隠すために永琳は紅永酒を悪者に仕立て上げた。
それに気が付いた若い兎が酒の席で永琳に異を唱えた。
ありがちな物語であるが、矛盾がある。この場合今紅永酒を持って使っているのは永琳だが、兎達の判断を狂わせ、永琳への不信感を容易に染み込ませているのも間違いなく紅永酒の酒気である。
自分か、或いは永遠亭かどちらかの破滅を望んでいるのでなければそんな使い方はしない。
ならば、永琳以外で騒ぎを裏から操っている人が居ると考える。
いまさらこんな騒ぎが起きたと言う事は、永琳が紅永酒を知ったのも最近の可能性が高い。
その永琳が紅永酒を持っていたということは、犯人で無いのならば、今は消えた紅永酒をどこかで手に入れたことになる。
永琳の部屋を調べたならば出てくるのだろうか。
それならば話は早い。けれど直感的な紐が絡まったままに感じる。
先に、他の可能性をつぶしておこう。霊夢はそう思い鈴仙に断りを入れることなく、永遠亭の屋敷を捜索することにした。







-4-


静かな廊下を歩く。兎達の大半はあの宴会に出ているようだ。
酒気を頼りに進むも、あまりに屋敷中に広まっていて方向が定まらない。
ふと少し先の部屋のふすまが開くのに気が付いた。そして、中から黒髪をさらさらと揺らした輝夜が姿を見せた。
廊下で対峙して輝夜がすぐに霊夢に気がつかない訳がないのだが、霊夢が気がついたそぶりを見せた後で、わざとらしく口元を扇で覆う。
雅を自認する輩のそう言った面倒くささが霊夢には理解できなかったが、この屋敷の主である輝夜のやり方に倣い先に声をかけることにした。
「輝夜、いたんだ」
「ふぅん。永琳が騒がしいと思ったら巫女が来ていたのね」
霊夢の皮肉を気にする風でもなく、輝夜は長い睫毛から覗かせたしっとりと濡れたガラスの様な瞳を細めた。
「永遠亭はいつもこんなに賑やかなのかしら?」
「元気よく飛び回ってる分には変わり無いわね。申し訳ないけれど、私はこれから故き親しき友の垢を落としに行かなくてはならないのよ」
「遂には裸で語り合う仲か。前は私に行かせた癖に」
「それまでずっと隠れていた癖でね。でもね、霊夢、落とす様を直に観る方が楽しい事に気がついたのよ。あれは見た目にも艶やかだもの」
「兎、垢、紅、酒、今度は何を企んでいるのかしら?」
「イナバの事はイナバに任せてあるわ。その祭り事はただの暇つぶしよ。お酒の誘いなら明日、私の凱旋を祝って飲みましょう」
「地下蔵って何処にあるかしらない?」
「何故、私がそんな場所に行く必要があるのかしら?」
輝夜はそのまま、別れを意味する挨拶もなく、視線を霊夢から外して歩き出した。
その後姿に声をかける。
「あなたの従者、永琳が酔っておかしくなってるわよ?」
輝夜は後姿のまま速度緩めることなく、ただ右手を上げて手を振った。
そのまま角を曲がり視界から消える。まるで霊夢の言う事に何の意味も無いとでも言うかの様な態度。
その態度は気に入らないがしかし、輝夜という人間の不思議な魅力も理解する。
直感を信じるのならば、彼女は嘘をついていないだろう。つく理由も信条も無いからだ。
輝夜のことは今回の事件から除外して考えることにした。


それから少しさ迷って、気が付いたら玄関の方に来ていた。
もしかすると、永遠亭には侵入者用の幻視が施されているのかもしれない。
もう一度鈴仙を頼ろうかと思案していると背後からコロコロと転がり弾むような声音が聞こえた。
「霊夢、用事は住んだの?」
「てゐ」
そういえばまだこの兎から話は聞いていない。日ごろの行いからは何か企んでいるとしてもおかしくはない。
てゐは、竹箒と桶、それから一塊の草の束を持っていた。
「話聞きたいんだけど」
「さっきもそんな事言ってたわね。掃除も終わったし聞いてあげる。ちょっと待ってて、これ納屋に入れてくるから」
中庭を通って屋敷の側面へ向かうてゐに霊夢は付いていった。
てゐはてきぱきと道具を納屋に仕舞い入れた。草は納屋の脇の大きなくぼ地に捨て入れる。
「掃除当番? あなたが真面目にやるなんて珍しいんじゃないの?」
「んー? そうかもね。でも、これは仕事じゃないし。先週亡くなったイナバの話は聞いた? 今日はちょうど七日参りだったのよ」
てゐは極自然な笑顔でそう言った。
玄関へ歩きながら話を続ける。
「宴会の話だっけ? 混ざりたくて来たのかしら。参加費は私に人参……霊夢は一本の半分でいいわ」
「妙に現実的で哀れんだ数字は止めて。それより、紅永酒について聞かせて」
「あぁ、あのイナバが亡くなる前に思い出して引っ張り出してきたあれね。私も忘れてたんだけどさ、あの子お酒大好きだったからなぁ」
「そのせいで、永琳と鈴仙が兎達ともめてるでしょ、ほっといて良いの?」
「別に? 私が困るわけじゃないし。下手にことを騒がせない方がそのうち勝手に収まるわ」
「でも」
玄関まであと数歩の所で霊夢は足を止めた。
「兎達が麻薬めいた酒に囚われて、勝手に崩れ落ちていくのは構わないのだけれど、そんな魔を里にまで広げるのならば私は見過ごせないのよ」
「麻薬って何の話? 紅永酒はただの弱い麻酔薬、飲みすぎてもアルコールで潰れるだけだわ」
「あなた達の歌にも在るじゃない、止められない止まらない、幼子までも死に誘う紅って」
「紅永酒の歌なら違うわよ。“止められない止まらない”ではなくて“病みぬ病みぬる子童までも”その節は病に倒れた子どもをせめて苦しみから救いたいと言う歌。昔は、治らない病が多かった。助からない我が子に何もしてやれ無い罪をせめてその苦しみから解放することで少しでも償えたら。そういう意味の歌」
「そうなの? でも、里で起きた事は本当よ。その紅永酒のせいであなたの大切な仲間が一羽死んだのよ」
「え?」
てゐは振り返った。
夕闇の訪れを知らせる強い風が竹林を揺らし、外の澄んだ酒気に犯されて無い空気を運び込む。
風に黒髪が洗われてさらさらと流れ、けれどまたじわりじわりと酒気に紅く染められていく。
「若い兎だったわね。今朝、酔ってふらふら歩いているところを慧音に助けられたらしいのだけど、すぐに死んだって。紅魔酒に浸されて、内側からドロリと溶かされていた。強い酒気は里を覆い微かに神社に届くほどだった」
「昨日の夜から、永琳様を悪く言っていたイナバが見当たらない」
てゐの言いたい事にはすぐに気がついた。
そうであるならば、もっとも疑わしい犯人、騒ぎの首謀者が既に居ない事になる。自滅ならば問題ない。
けれど、もし誰かが、永遠亭の誰かが裏で糸を引いているのだとしたら、第二、第三の犠牲者が出るかもしれない。
「てゐ、地下蔵に案内して」
「里へ行って確かめないと!」
「それは後でもできる。慧音がきちんと見ててくれるから今は原因を調べるのが先」
まずは、消えたと言う紅永酒を見つけて、確かめる。
てゐの言うように本来は安全でたわいも無い薬酒なのか、或いは、命永らえると詠われる命食い溶かす魔酒なのか。
てゐは唇をかみ締めて頷くと素早く駆け出した。

屋敷の中の廊下を進む途中、てゐが霊夢に聞いてきた。
「さっき言ってた、止められないとかいう歌。誰に聞いたの?」
「慧音が死んだ兎に聞いたって」
「そう」







地面よりも一段低くなった木製の階段を下りた。
古さの割りに作りはしっかりしていて堅い。
てゐとともに霊夢は地下蔵の底に降り立った。
深く、大きい空間を見渡す。
見上げると地面よりわずかに上に出た天窓から斜めに弱く朱の光が差して、輝いて、薄れていった。
夕日が落ちて、いよいよ時刻は宵の刻、酔いは濃く、地上よりも一段と強い香りに眩暈を覚える。
この香りは、濃いだけでなく、長い間底に溜まって地と木の精を吸って発酵していた。
けれど、肝心の紅永酒は見当たらなかった。
「無いわね」
蔵の中央に立ち、もう一度ゆっくりと四方を見回してから霊夢は言った。
「なんの痕跡も無いのがかえっておかしいわ。ねぇ、霊夢……」
と何か思案しながら話しかけてきたてゐが急に言葉を切った。
頭上に気配を感じ見やると、鈴仙がおっかなびっくりといった様子で階段を下りてきていた。
「あ、やっぱりここに居たんですね。探しましたよ」
「鈴仙、永琳は?」
「お部屋に寝かせました。疲れていただけだと思いますから、大丈夫です」
「鈴仙、あなたも紅永酒の手がかりを探すの手伝って。永琳の無実を晴らすためよ」
霊夢に促されて鈴仙も蔵の隅々を探すが手がかりと言えるものは見つからない。
がらんとした空間が広がるのみ。石造りの床は冷気を蓄えて、気温が落ちてくる。
ふと、イナバ達二人の顔が赤いことに気が付いた。
永遠亭中がほろ酔い加減になっている今、ここの酒気はさらに濃く、こんなところに長時間居たら危険かもしれない。案の定、先に鈴仙が悲鳴を上げた。
「すみません、なんか、フラフラします」
よろめいた鈴仙にてゐが肩を貸す。
「大丈夫?」
「平気。でも、この甘ったるい匂いが紅永酒の香りですよね。フラフラはするけれど、良い気分で酔ってる感じ。なるぉど、これは、止められなくなる歌の、意味が、よくぁかるぅ」
「てゐ、そのままじゃ危険だわ。すぐに外の空気に当ててあげて」
「……」
「てゐ?」
「アハハハ! 何で今まで気が付かなかったのかしら!!」
突然大声を上げててゐは笑い出した。おかしくて、楽しくてしょうがないといった様子。
顔は真っ赤で、明らかに普通の状態ではなく見えた。てゐも酔わされた? 或いはてゐこそが……
「紅永酒、幸せになれる霊酒、香りだけで酔える、極楽を得た気分になれる、味も香りも極上のこの酒を売れば、間違いなく大儲け出来るわね!」
「そんな事をしたらどうなるか分かってるの? あなたの仲間がそのお酒で死んだのよ」
「里の人間や馬鹿な妖怪たちが死ぬ事になっても、別に気にする事では無いわね」
瞬時に判断して霊夢は符を切った。
飛び来る符はまっすぐてゐの服を壁に縫いつけようとする。
それを大きく跳んでやり過ごし、そのままの跳躍で階段の上にてゐは飛び移った。
「霊夢、紅永酒は私が見つけて売りさばく。あなたに邪魔はさせない」
「てゐ、正気? だったら容赦しないわよ」
「アハハ、こんな事に気が付かなかったなんて灯台下暗しとはこの事だわ。でも霊夢、下弦の月に照らされたなら足元もはっきり赤く見えるのよ!」
言うが速いか蔵の外へと飛び出すてゐ。追おうとするが、足元に寝かされ気を失っている鈴仙を放っては置けない。
鈴仙を抱きかかえ、酒気の溜まった蔵から外へ飛び上がる。庭に面した廊下まで飛び、そこに寝かせて頬を叩いた。
「うぅん……あれ、霊夢、私どうして」
どうやら、大事には至っていないらしい。ほっとするがしかし今は一刻が惜しい。
「てゐが暴走したわ、動けそうならすぐに探して!!」
「え? え!?」
「良いから早く!」
「は、はい!」

二人で手分けして、永遠亭中を飛び回った。
相変わらず続いていた宴会に乱入し、引っ掻き回すもてゐは見つからない。
てゐの部屋、鈴仙の製薬室、兎達の個室を全て見て回った。
半刻ほどして、玄関先で鈴仙と落ち合った。
首を振って見つからなかった事を伝えると、鈴仙はさらに苦い顔をして言った。
「てゐだけじゃなくて、師匠も見当たりません……」

やられた、と思う。二人は共犯だったのか、或いはそれぞれ別の思惑があるのか。
偶然か、見逃しが在るだけなのか。

落ち着いて考えるべきだ。
この事件は初めから不可解なところが多い。
永琳を陥れるのが目的か。或いは、紅永酒を使って世界を酔わせるのが目的だろうか。
この事件の引き金に明確な目的があったのか疑問だ。
永琳と兎達の仲を引き裂いて得するものは誰もいない。
永遠亭の或いはその周辺の誰が犯人だとしてもその目的に筋の通った理屈が見えない。
そして、ここへ来て不可思議な行動に出たてゐと永琳。
全てを裏で操る人がいる。或いは、誰も、いない。






「私は一度慧音のところに戻るわ」
「でも、師匠とてゐは……」
「二人とも一日二日放っておいても死なないから。永遠亭に残って帰りを待って」

もし、てゐたちが紅永酒を持って外へ逃げたのだとしたら、里の様子をもう一度見に行った方が良いかもしれない。
鈴仙を残して里へ向かう。少し飛んで振り返ると永遠亭の周りの竹林まで真っ赤に染め上がっていた。
中に居ては気が付かない程に、そこは紅に濡れていた。


辺りは暗くなっていて、今日の月はまだ昇っていない。











-5-


里は昼間と変わりなく、まばらな酒気の中ひっそりと静まり返っていた。
慧音はやはり同じように、庵の前の石に腰掛け霊夢を待っていた。
「慧音、変わりは無い?」
「おお、霊夢! 無事でよかった。事件は」
駆け寄って来た慧音に首を振って答える。
「そうか……。こちらは今のところ問題ない。水源とその周辺も調べたがあのような兎は他には居ないようだ」
「こっちは散々よ。てゐか永琳が来ていない?」
「いや、今日一日はお前以外に客は来ていない。犯人はその二人なのか? 何があったか話してくれ」
「良いわ。とりあえず中に入れる?」
「あの仏は一時的に歴史から消しておいた。あまり良い気はしないが、このまま家に入れないのも、勝手に供養してしまうのも躊躇われてな」
「便利ね」
「そう言うな」
慧音の庵の中は何もなかったかのように澄んでいた。
けれど本当はここにまだあの死体がある。そのことが気になるのは霊夢よりもむしろ慧音だった。
でなければ、日も落ちたというのに外で待っていたりしないだろう。
囲炉裏に火は入っていて、程よく暖かい。霊夢が何も言わなくても茶を淹れてくれた。
永遠亭のものより美味しく感じたのは淹れ方が上手いからだと思った。
ぱちと炭火のはぜる音を聞きながら、霊夢は言った。
「間違いなく原因は永遠亭だわ。そこに古くからあった紅永酒というものがあの兎の死因ね」
「紅永酒。聞いたことはある。血で作られたとも言い伝えられる紅い酒。けれど実際は赤い木の実が原材料だ。それを長い年月醗酵熟成させ作られる。強い鎮痛作用など神経を麻痺させる効果があり、酔いが長く醒めない事が特徴。古来人の間でも薬用に、あるいは、治らぬ病に伏せる人の安楽死用に使われる事があった」
「へぇ。聞いた話とだいたい一致するわね」
「紅永酒は、昔は霊酒とも呼ばれた貴重な品だとは聞く、けれど、例え飲みすぎたとしてあのような形で生き物を死に至らせる力は無かったはずだ」
「そうね、てゐの話でもそんな恐ろしい物のようには言ってなかった。兎達の間でも昔はそれが利用されていて、最近では忘れられていたみたい。そりゃ、永琳がいればそう言う薬はいらないわね。けれど、先週亡くなった年老いた兎がその酒を知っていて最後に飲みたいと言ったらしいわ。それでその兎の死後に、死んだのは永琳が紅永酒を飲ませなかったからだといって永琳を謗る若い兎が出てきた。紅永酒は命永らえる寿命を延ばす霊酒だそうよ?」
「そんなものが、ほいほいと世の中に在っては堪らないな」
「もちろん、信じる兎は少なかったそうだけど。でも、永遠亭は濃い紅い酒気で濡れていた。次第に理性を失い、酔わされて、遂には殆どの兎達が紅永酒を霊酒と思い、永琳とかばった鈴仙を疎んじるようになった。彼女達が紅永酒を隠したとまで言い出した」
「永琳殿は何故そうなるまで放っておいたのだ。彼女ならすぐに酒気にも気が付いただろうに」
「永琳は……飲んだくれて閉じ籠ってた。みんなが私みたいに不老不死や長寿に興味が無ければ悩む事など無いのにって愚痴ってたわよ。言われてみれば全く彼女らしくないかも知れない」
「ふむ。私は永琳殿を見誤っていたのかもしれない。彼女とは数度しか話したことはない。理知的ではあるが毅然としすぎて冷たい印象を持っていた。霊夢、お前とは別な意味で迷いなど無いように思っていた」
「褒、め、な、い、で」
「あぁ、すまない。悪気は無かった。永琳殿は妹紅と比べて、同じ蓬莱人であるのになんと人間味にかけると思っていた。蓬莱人というのは皆そう言う鼻持ちなら無い人種で、妹紅がむしろ特殊だと思っていたんだ」
慧音は冷めた湯のみを握り締めながら呟くように言った。
それは決して慧音が悪い訳ではないのだが、自分が責められているかのように肩を落とした。
「逆なのかもしれない。特殊だったのは永琳殿個人の資質の問題で、蓬莱人といえども皆普通の人と何も変わらない感情を持っている。何処までも人でありながら、永遠に生き続ける。正しく呪いなのだな。私は……彼女と友人になるべきだったのかもしれない」
「なれば良いじゃない。それよりも、その話が今回の事件に関係あるの?」
「全く、簡単に言ってくれる。つまり、これは予想に過ぎないが、永琳殿が紅永酒の事を放っておいたのは迷いがあったからだ。不老不死に興味が無ければ良いと悩む、裏を返せば出来るという事だ。蓬莱の薬、或いは別の禁忌と呼ばれる薬の類を彼女は作る事が出来る。けれど決してそれをばら撒いたりはしなかった」
「もし、そんな事をするようなら、私が真っ先に退治しなくてはいけないわね」
「そうだな。けれどそれは見捨てるという事と気持ちの上では同じなんだ。本当に大切に思うなら、どんな手を使っても助けたいと思うと同時に、決して呪う様な行為もしてはいけないと思う」
慧音も、同じような思いをした事があるのだと霊夢は直感的に悟った。
「そうやって心すり減らし、けれど毅然と耐えてきた。ところが今回、その大切な相手からお前のしている事は迷惑だとそう言う意味にも取れる謗りを受けた。自分が係わらない方が良いのではないかと迷いを生じた」
「んー。あんまり。ぴんと来る悩みじゃないわね。間違った事をしていないのならば、後はなるようにしかならないわ。そのまま受け入れて、事体が変わったらまた動けば良い」
「霊夢。お前には自分より、自分の心よりも大切なものが無いのか?」
「失礼ね、私にだって好きなものや嫌いなものはあるわよ。でも、心より大切なんて考えた事も無かった」
「まぁいい。話がそれた。永琳殿とてゐがどうと言っていたな?」
「原因である紅永酒を探したんだけど、見つからなかった。そしたら突然てゐが暴走したのよ。紅永酒を売りさばけば儲かるって、それが本心か、酒気に当てられてかは分からないけれど。妙な捨て台詞を残して逃げたわ。そして永琳もいつの間にか居なくなっていた」
「妙な捨て台詞とは?」
「えーっと。灯台下暗し、下弦の月に照らされたなら足元が良く見える…かな」
「霊夢」
慧音は立ち上がり、庵の壁に掛けられた板を一枚剥がした。そこは窓になっていて、夜が見えた。
月が出ていた。
「今日は下弦の月だ」
「あぁ、そう言う事。でも何故こんな面倒な事を」
「理由があると考えるべきだな。警戒するに越した事は無い」
「行って来る。ちょうど時間も良い具合に潰れたかも」
「私は、念のためここに残る。手を貸せなくてすまない」
霊夢は手をひらひらさせて挨拶だけするとすぐに庵を出て行った。

霊夢が飛び去った後、もう一度里の見回りをしようと慧音は考えた。
独りでこの部屋にいるのはやはり落ち着かない。
夜はまだ冷える。仕舞い戸から上着を一枚取り出して羽織ると庵の外に出た。
風が吹く。自然のものではなく、作為的で局地的な突風。
「珍しいな。何か用か?」
「明日なんだけどさ……」











-6-


独りになってからだいぶ時間がたった。
この夜すぐに眠りにつく事が出来ず、月が高く上る頃に漸くまどろみが差して来た。
渦を巻いて落ち行く感覚。薄い酩酊感。他の感覚はほぼ皆無。
ただ、体は何かに興奮しているようで、強い足取りで動いていた。
寝ていたのではなかったようだ。次に現れたのは冷気。
おっかなびっくりと冷気を触ったりつついたりする様を今の自分に例えて満足した。
口が動く気配がする。否。音が聞こえたのかもしれない。
「やっぱり、ああ言ってここで待っていれば来てくれると思ってた」
「広め様こそ望むなら皆酔わさん。されど何故知った?」
「歌。あなたと霊夢が言っていた事が一緒だった。知らなくて当然だった訳ね。それよりも、望むわ。酔うわ。だから、早く見せて」
「即ち此処に」
開放されたと思った。そんな軽い倒錯。多分力を消した事実。
感触だけがわずかに波のように浮き沈みする。断続的な冷たく固い感触が揺れる。
今一番安らかな香りが立ち込めて、目の前の彼女に差し出した。
気配しか無い自分に気配が近づく。気配は重なりを見せるほどに至り、鼓動まで肌を揺らす。
触る。柔らかくゆがむ。意識の上で、これが己の望みなら、そう思わせるほどに酔い睦まじく。
しかし突然に、掴み揺らされ反らされた。落ちた音が聞こえ、動かないのではなく動けなくなったのを知る。
理由は外から押さえつけられる力。背後に回られ腕をとられた。
これは望まない結果だと酒が告げてきた。けれど、心配は無いと。ただひたすらに己は虚ろう酔い。
「この様は謀りか」
「背後に回れば幻視も受けない。正体表して近づいてくるタイミングを狙ってたのよ。動かないでね、変なことすると至近距離から焼くわ。すぐに酒気を消して、そこの酒を全部無力化することね」
「それは妄言、する意思無し。それは失言、する意味無し。それは空言、する事が出来ぬ」
甘い。それが広がって強い。先程持っていたのは熟れた果実。今いるのは腐り落ちる寸前のその中。
「く、力が……」
「紅酒香にて酔わぬもの無し」
「こんな力、本来のものじゃない。おかしくなったんじゃなくて、おかしな物に憑かれたのね。目的は何よ!?」
「理由は不知。意思が在ると錯覚しているのみ。月に酔わされた。月が酔った。ただ目的は、皆酔い広め様こそ」
向きを変えて、すぐ目の前にある細いものを掴んだ。それは弱く暴れて揺れてやがて力失う。
心は善くない事をしている時の様に背徳の甘美を得ていた。吐き気が欲しい。
けれど、何の苦しみも後悔も生じない。既にそれらは生きていない。
体のほうはつまらなく思っていた。故に乗り気ではない。溶けていく程が望み。
殺す事はどちらの本意でもなかった。
止める理由は自分にもあったが理由をつなぐ感情が渦巻いて使い物にならなかった。
ゆっくりと、指に力をいれ、持ち上げた。














月は重い方を持ち上げた。
空間をひしゃげて空を走り行く捩れた因果の夜。
霊夢は全速力で永遠亭の門を飛び越え南側の庭に面した廊下から屋敷に飛び込んだ。
下弦の月は天蓋の真ん中に来ていた。
場所は合っていた。地下蔵から一番の濃い紅が漏れ出している。
頭中の結界を張りなおし、降りる時を狙われぬよう一瞬で蔵の底まで飛び降りた。
其処には大きな樽があった。人が十人手をつないでも手が周らないほどの大きさ。
大人二人が肩車して漸く縁に手の届きそうな高さ。
夕方に来たときには無かったそれは曇った木目が赤く滲む紅く永い酒の大樽。
そして、大樽の上には二羽の兎が浮いていた。
それはよく知る兎達。白い寝巻き姿の鈴仙がてゐを持ち上げていた。その、首を掴んで。
「鈴仙! 何してるの放しなさい!」
鈴仙は何の表情も読み取れない虚ろな瞳を霊夢に向けた。
「放せば此れは落ちる。古き妖兎の血は精霊が宿る。酒気益々強くなり望ましきかな」
拾った小石に興味をなくして捨てるように、鈴仙は手の力を抜いた。
「間に合って!」
霊夢は強く跳ね、羽が舞うように、落ちるてゐの下にもぐりこみ受け止める。
勢いが付いて落ちる人の体は重く、霊夢の無重力をしても慣性には逆らえず、そのまま酒樽に落ち行く。
霊夢は落ちながらも冷静に周囲を見、酒樽の縁に狙いを定め手を伸ばした。
縁を掴み勢いを殺そうとして、けれどその手が空を切る。
拠り所を無くし、霊夢とてゐはそのまま落ちた。
硬い床に強く打ち付けられ、肺の中の空気が飛び出したまま息が吸えなくなる。
寝転がったまま自分の肩に手を当て強く押し下げ、無理やり息をさせた。
いつの間にか大樽は離れた場所に在った。
「お前は酔わぬ。けれど結界にて香を防いでも幻視は利くか。初めからそのまま酒に入れる意思は無く。血だけで好いのだ。この様に」
鈴仙は自らの指を齧りぽたりと滲み出た血を大樽に落とした。
「霊夢……鈴仙は紅永酒に乗っ取られてる。何でか知らないけど、あの酒は妖怪化してる……」
「大丈夫?」
鈴仙から目を離さない様にしつつてゐに駆け寄る。
顔が赤く、苦痛に汗を掻いていた。黒髪が額に張り付いている。
落ちた衝撃か、足を痛め血が流れていた。鈴仙は相変わらず無表情で酒樽の上に浮いている。
「たぶん、本体はあの酒のほう。さっき背後を取って脅したけど、意味が無いって言ってた」
「けど、近づこうにもあそこで見張られちゃ幻視でまた惑わされるわ。私、目をつぶって突っ込む無謀な策は嫌よ?」
「私が、鈴仙を引付けられれば良いんだけど、この怪我じゃ……ごめん、役に立たなくて」
「いっそ此処からあの酒ごと全てを吹き飛ばそうか」
「だめ! 鈴仙を、助けなさい」
「そうね、ならあなたがあの酒樽を壊す役」
「それは無理よ、近づくと強い酒気で酔わされて、力が入らなくなる、霊夢じゃないと」
「大丈夫、転がってでも近づきなさい、怪我は手当てしてあげるから」
霊夢は懐から手ぬぐいを取り出し、てゐの足の怪我に巻いた。
「密談は終いか。まま去れば追わぬ。仮にこの兎を殺したとして、屋敷の兎はあらかた酔った。それを使うだけ」
「生り立ての変化、低級な酒の精が粋がるわね。あなたが無差別に幻想郷を酔わせるというのなら博麗の巫女が必ず阻止する」
「ならば、この妖兎の力、自在に限界まで使うのみ」
鈴仙は跳ねた。
一瞬で霊夢の目の前まで詰め寄る。
普段遠慮がちで、本気を出しても幻視による遠距離からの戦いを得意とする鈴仙だが、その肉体の損傷を無視して使えばこれほどの瞬発力が出るのだと驚いた。
「月の兎は伊達ではないか」
鈴仙の蹴りを舞う羽のように受け流し、符をばら撒く。
ひらひらと落ちて散らばった符が、急に糸を張り詰めたように真っ直ぐに飛ぶ。
それから、空ぶった蹴りの勢いを殺すために旋回した鈴仙を八方から狙った。
鈴仙は構えたまま符を避けようとしない。その様に違和感を覚え霊夢は後ろを振り向く。
背後には、実体の鈴仙が再び蹴りを入れようとしていた。
符は、構えをとった鈴仙の幻をすり抜けあさっての方向へ飛んでゆく。
間一髪、足を両手で受け止めたが、蹴りの重さに肩が悲鳴を上げた。
構わず掴んだ足を放り投げバランスを崩させる。
いったん離れて残心をとった鈴仙に真っ直ぐ針を投げつけた。
針は瞬時に鈴仙の頭を突きぬけ壁に刺さった。
視線を上げると、少し離れた宙に鈴仙が浮かんでいた。
「やりにくいわね」
「滑稽なり、巫女」
霊夢は再び大量の符を舞わせる。
「数で攻めるわ!」
百に達しようかという符が隊列を組んで霊夢を周った。
その高速に動く符で出来た球が膨れあがって行く。
霊夢を中心に全方位を符の壁が押しつぶしていった。
けれど鈴仙は接触の瞬間その波長をぼかし、次の間には球の中にいた。
「かかったわね」
「結界か」
宙に赤い線が浮かび上がった。それは霊夢と鈴仙を囲んで円い輪を作る。
「この中なら幻視は使えないわよ」
「ならば、この妖兎を殺すか。構わぬ。それが可能なら」
「確かに、敵が自分を人質にするってのは難しいわ。でも私の目的はあなたを閉じ込めておく事よ。てゐ!」
「させぬ」
這って紅永酒のそばまで近づいていたてゐが樽を焼こうと力を溜めた。
しかし突然、紅永酒の周りが紅の霧に包まれた。紅永酒本来の力。
「やっぱり、無理」
てゐは苦しそうに呻き、そのまま崩れ落ちた。
「無駄であった」
「これで良いのよ!」
「む!?」
崩れ落ちたてゐの足を縛った手ぬぐいの中から白く光った符が飛び上がった。
「待て!」
鈴仙は霊夢を止めようと円筒形の高速弾とともに霊夢に飛び込んできた、が、それが霊夢に届くより先に、白い符が紅永酒の樽に張り付いた。
カッと白い閃光。
光が明けるとそこには、白く塗り封印された樽があった。
蔵の、屋敷の酒気が弱まっていた。
「ふぅ、霊力を分けたり傷付けないように戦うのは大変だったわ」
「おのれ、口惜し」
「あら、本体は封じたのにまだこっちは戻らないのね」
「皆酔わせたし。飲まれたし。生く物全て苦楽無く、唯一様にまどろむ天の様を作り上げたし。それも叶わぬか」
「そんな、押し付けがましい天国は要らないわ」
「ならば。この兎共に朽ち果てむ。我独り望む天恵を享受せり」
ふらふらと底に足を下ろした鈴仙が人形のようにぱたりと倒れた。
駆け寄る。抱き起こすもその体がまるで酒を吸ったように濡れて重い。
昼間、里で見た光景を思い出す。血とも酒ともつかない紅くドロリとしたものがこぼれ落ちる様を。
意識の無い鈴仙の口からコフと息が漏れて、酒気が昇った。
これは、考えていなかった。紅永酒に浸されすぎたのか。
妖気を封印しようにも、既に鈴仙からは変質した紅永酒の効力以外感じなかった。
お手上げだった。ここへ来るまで事体が分からなかったとは言え、こうなる事を予測すらしていなかった自分を後悔した。
助ける方法はあるか、救う方法はあるか。
気が焦るばかりで知恵は浮かばす、ただ、叫んだ。
「鈴仙!!」

「霊夢! 早くこれを飲ませて」
頭上、階段の上から小瓶が投げてよこされる。
躊躇うことなく、その中身を鈴仙の口に注いだ。
「永琳! 遅いわよ! 奥にてゐも居るから!」
「任された」
階段を下りてきたのは、夕方から行方の知れなかった永琳だった。
相変わらず髪はぼさぼさで服は皴のまま。けれど表情はすがすがしく、凛として歩いててゐに近寄っていった。
腕の中の鈴仙が震えるように肩を揺らした。
けほ、と先程飲ませた薬を少量吐き出す。色は透明だった。
恐らく、紅永酒は中和されたのだろう。もう、命に別状は無いはずだ。
「てゐの方も念のため薬を飲ませた。気を失ってるみたいだけどきっと大丈夫でしょ。足の手当てしたのは霊夢? いい加減すぎよあれ」
「そんなことより! あなたが飲んだくれて酔っぱらってなければこんな事にはならなかったのよ! 自分の家ぐらい自分で管理しなさい! 変なの住まわせないで!」
「ちょっと黙って霊夢。高い声で騒がれると頭が痛くなるわ。それに、私が酔ったりしない事はあなたも知っているでしょう?」
「前半と後半で言い訳が矛盾してるわよ。まぁ、知ってるけど。それで、何してたの?」
「鈴仙が犯人だろうなとは思ってた。空間の波長を弄って隠してあったからね。でも少し考えたくて。こんなに大変な事になるとは思ってなかったから、それは霊夢の言うとおり反省だわ。でもお酒を飲んだのは治療薬を作るのに身をもって紅永酒の効果を知るためよ? 味もそれなりに良かったわ」
「はぁ、まぁいいわ。後は、あの紅永酒をどうするかね」
白く封じられた酒を見る。
「それはイナバに任せるわ」
「イナバの事はイナバで、結局それなのかしら?」
「さぁてね。それより、二人を部屋に運びましょう」


二人を治療室に運びベットに寝かせた。
それから、紅永酒の中和薬を普通の酒に混ぜ、まだ続いていた宴会に出した。
兎達から紅酒気は消えたていった。
永琳と手分けして屋敷中の襖を開けて澄んだ夜風を通し、染み付いた甘い香りを吹き飛ばす。


香りと一緒に永琳の悩みも吹き飛ぶだろうか。
霊夢はふとそう思った。












-7-


日が昇った。気分は悪くないと永琳は思う。
霊夢は永遠亭に泊まった。
あのまま帰したら後でどんな恨み言を言われるか分からないと判断したためだ。
永琳としてはそれは楽しく思えたが、可愛い弟子たちが苦労するので辞めた。
今回、恐らく一番辛い目にあわせてしまったからだ。
その鈴仙も朝には目を覚ました。
こうなった原因はやはり一週間前のイナバの死事に鈴仙が紅永酒を用意したため。
あの日は満月だった。
もともと半妖化していたまま忘れられていた紅永酒が、鈴仙の赤い瞳に反射した強い月の光を浴びて活性化した。
おぼろげながら、紅永酒に乗っ取られていた間のことも覚えていると鈴仙は言った。
鈴仙が寝ている間や、永琳が居ないときにしか鈴仙の意識を乗っ取らなかったためだろう。
紅永酒は皆を酔わせるために宴会をさせた。
永琳への反感を煽ったのはそうする事で注意を引き多くの兎を巻き込むため。
賢い妖怪だったが、外の世界を知らないのが仇となった。巫女を呼び寄せてしまった。

里で亡くなった若い兎の話を聞いて、鈴仙は全て自分のせいだと責任を感じているようだ。
本当はそんな事は無い、仕方の無いことだってある。
そう慰めてやりたいと永琳は思ったが、それは、立場を変えれば、永琳が兎達に思う負い目となんら変わり無い。
仕方が無い、と言われただけで永琳の迷いが消える筈も無く
それを知っていたから、永琳は何も言わず、鈴仙のやりたい様にやらせた。
答えは自分で見つけなくてはならない。
鈴仙も、永琳自身もだ。

鈴仙は霊夢につれられ里へ行き、若い兎の死体を運んできた。
それを永遠亭の裏の墓地に生めて供養する。
里で譲り受けた花と、てゐの用意した供え物と、霊夢が台所から勝手に持ってきた塩と酒を置く。
鈴仙は終始無言で手を合わせていた。
手を合わせるという習慣は、本来外の人間の風習だ。
しかし大切なのは形ではなく亡くなった相手を思い、それをこの先背負う自分に言い聞かせる事。
「永琳、先週亡くなったって言う兎のお墓は何処?」
「それならば、向こうよ」
ここまでずっと永遠亭に付き合っていた霊夢が唐突に永琳に聞いて来た。
永琳は軽い気持ちで答え、直後、ニヤニヤした霊夢の顔を見て後悔した。
「昨日の夜、独りでここに来てたでしょ」
「そんな事して無いわよ」
「でも、兎達の祭事には興味ないんじゃなかったの? 何で知ってるのよ?」
「霊夢の誤解よ」
霊夢は老兎の墓の前でしゃがみ、目を閉じた。
しばらくして瞳を開けて、そのまま墓を見つめたまま言った。
「それで良いと思うわ、永琳。私がそう言うんだから納得しなさい。少なくとも私が生きている間はね」
霊夢は答えを出してくれた。
それは霊夢の答えであって、永琳が納得できるとは限らない強引な答え。
永琳は思った。
答えの無い問いに答えを出せるのは死に行くものの特権ではないか。
一方の自分は呪われているのだ。答えを出して楽になる事は出来ない。
けれども、しばらくは、自分の大切と思う人たちの出した答えに納得させられておこう。
まずは、兎達の死事にも逃げずに立ち会う事。
そして、これまで以上に、永遠亭を、家族を大切にしようと、再び誓った。





地下蔵の白く固まった紅永酒は焼いて処分する事に決まった。
もともとの是非はともかく、今のこれは危険である。
てゐの命令で、兎全員で手伝って白く石のように固まった酒を壊し庭で焼いた。
「味は良かったんだけどね」
永琳がそう呟くのを聞いたてゐが、一瞬ものすごく真面目な顔で永琳を睨んだ。



作業は昼過ぎに終わった。



「帰ったわよ、永琳、イナバ達、今日は勝ったわ!」
大声を上げて屋敷の主が帰ってきた。
「はしたないですよ、まだ客人も居ますのに。それに、今日は、ですか?」
永琳が出迎えて、破けた服を隠すように布をかける。
「ん、あら、霊夢。まだ居たのね」
永琳に服を抑えられながらも、口元を隠し緩やかに微笑む様を見て霊夢は呟いた。
「父ちゃん、元気で留守が良い……ね」
永琳が噴出すのはとても珍しい光景だった。
「霊夢、昨日約束したわよね? 私が勝ったら宴会するって。やるわよ、霊夢の主催で。みんな、イナバたち、すぐに神社に向かうわよ!」
「ちょっと待って、宴会は良いけどどうして神社なのよ、ここでやれば良いじゃない」
不満を述べる霊夢の肩にぽんと手が置かれた。
「霊夢、事件は解決したのだろう。それにこの宴会はお前が言い出したことだ。あの魔法使いが言っていたぞ?」
「慧音まで!」
「逃げ場は無くなったわね」
「めでたい事は良いじゃないか」
慧音と永琳に両手を掴まれ、霊夢は無理やり連れられた。
「慧音、あなたが私たちの宴会に参加するなんて珍しいわね。しかも姫様と一緒に来るなんて」
「あぁ、永琳殿。今回はあなたと話がしたいと思った。たまにはそう言うのも良いだろう」
「妹紅はほっといて良いの?」
「ふ、今回あれが負けたのは先に神社での宴会の話を魔法使いから聞いて集中できなかったかららしい。そうなると自業自得だ。何よりあれは先に神社での二回戦を待っている」
「魔理沙の馬鹿、いったいどれだけの人に声かけて回ってるのよ……」
「紅い館から来たと言っていた。次は冥界とか不吉な方を回るらしい」
慧音の答えに、霊夢は抵抗を止めてうなだれた。どうせ全員そろうのだ。
酒気ばかり気にして魔理沙が動いた事実を軽く見たのが失敗だった。

こうなれば、酔いつぶれるまで飲もうと霊夢は思った。
昨日は一日中、周りで酒と酔っ払いばかり見てきたのに結局自分は飲んでいない。
酒気に酔ってすらいないのだ。
今日は酔いたい。飲み過ぎたい。こんなに酒に飢えたのは久しぶりだ。


あぁ、これが酔うために酒を飲むと言う事か。

宴会の席、霊夢はこの感想を自慢げに発表した。
間違っていないはずなのに、結局霊夢は幸せだと言う結論になったのが不満だった。
今回は魔理沙も手を叩いて笑っていたのだ。





『酔いも醒まさず逃げ切ろう 永く博麗に伝え行く これ止み間ない紅白酒
  酔わぬ酔わぬと子鬼より 酒流すたる涙シアワセ
           
             酔いつぶれたら後片付けしなくて良いしね!  霊夢 』








気が付くと、散らかったままの境内に霊夢は独りで寝ていた。


あとがき
永遠亭は家族と言う様がとても似合うと思いました。
ただ四人が仲良くしていれば家族なのかと言う疑問に当たりました。
永遠亭は家族であり一つの社会です。
兎達と蓬莱人、本来混じりえない二つの社会が一つに調和を保つのは二つの母性の努力と苦悩があるのではないか。
純粋な人でありながら人と少し異なる立場に居る霊夢の視点から酒と死事をテーマに永遠亭が永遠の家族である為の物語を描いて見ました。
時間の制約、おのれの力量など、様々な要素があって上手く料理できたか心配ですが、お口に合えば幸いです。
コンペと言う場を提供してくださった主催者様、およびここまで読んでくださった全ての読者の方に感謝申し上げます。

06/04/15 誤字、誤表現、改行等の修正
改めて、たくさんのコメントいただけたことにお礼申し上げます。 
MIM.E
http://homepage2.nifty.com/mahyura/main/index.html
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/25 07:45:41
更新日時:
2006/04/18 12:46:00
評価:
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5.00
1. 8 ■2006/03/25 01:24:09
紅き月見酒、何よりも死を忘れ、誰よりも死に近く。
「酒」と言うテーマに対し、真っ向から向かい合った作品であると感じました。
何故酔いを求めるのかと言う問いがあり、それを緩やかに解きほぐしていく様な心地よさ。
エンターテイメントとしての怪異もまた、その解答のひとつであり、在るべくして在ったと思わせます。
最後に「もっとも幸せな解答」を示して終わる所は、まさに小説的? と言うような。
(そしてあとがきで笑う)
しかし、永遠亭は心情入り混じった物語に向いてるなぁと今回実感。
まさに家族、お見事。
2. 7 月影蓮哉 ■2006/03/26 09:27:17
流れるように読んでいました。
正統派純文学というのでしょうか、随所に見られる細かな表現が良かったです。
3. 8 しょいち ■2006/03/26 23:23:34
面白かったです。
4. 10 名無し妖怪 ■2006/03/28 23:41:40
群を抜くレベルの高さ。この物語を読めたことを感謝します。
5. 7 爪影 ■2006/03/29 11:36:42
酔いがあるから、酒は美味い。
6. フリーレス 春雨 ■2006/03/29 20:40:57
寿命の差という問いは、人と関わる妖にも答えを求めるものだと思います。
永琳は、どうにかしてしまえるからこそ悩むのですね。
相手を想うなら、見殺しにしなければならないと。
紛れもない家族でした。良い時間を頂いたことに深くお礼を申し上げます。
7. 8 名前はありません。 ■2006/04/01 06:40:08
レベルが高いから要求水準も高くなるのですが、
不気味な酒の正体は実は妖怪で悪い奴ってのが、もう一ひねり欲しかったです
他が良いだけにそこが残念
8. 6 つくし ■2006/04/02 15:57:05
テーマのとりかた、歌の食い違い方など、よく練りこまれた良いお話でした。ごちそうさまです。ただ、少し文章がうまく流れてくれないというか、冗長に感じ、読んでいて疲労を感じたというのも正直な感想です。
9. 10 Fimeria ■2006/04/04 01:13:43
蓬莱人の苦しみ、悩み等が切なく響くようでした。
てゐがしっかり者って感じですね、腹黒意地っ張り鈴仙萌えとはまた違った面が見えたようです。
物語の進め方も巧くて読み易すく、純粋に楽しめました。

多少誤字や表現が分かりにくい(私の読解力の低さの為かもしれませんが)所も見受けられましたが、それを拭う程に素晴らしい作品だと思いました。
二次作品でこういったオリジナルの事象を書けると言うのはとても凄いと感じます。
まさに酒がテーマの大作って感じですね、満点です
10. 10 おやつ ■2006/04/05 22:33:55
こりゃ凄ぇ。
ストーリー、構成、言うことなしです。
良いものを読ませていただきました(平伏
11. 10 水酉 ■2006/04/05 23:45:11
作者様にただただ感謝を。
そして永遠亭にとわのしあわせあれ。

病みぬ止まぬる永遠までも えにしがつなぐいのちあかいろ
12. 4 藤村琉 ■2006/04/07 02:09:04
 基本、80kbもの長い物語を読ませるに足る文章ではありません。単調な文だけではしんどいです。
 お酒が魔物化したー、というのもそれはそれでいいのですけど、どうも鈴仙とかてゐとか永琳とかと関係ないところの現象ですから、真犯人が登場人物と全く関係ない存在であるためかなり肩透かしに。問題の酒と永琳の苦悩も、根本的なところではあまり関わっていませんでしたし。
 また、この作品の霊夢もどことなく冷淡な印象が。どうも感情がないように見えてしまうのは、あえてそういうふうに書いているのか、印象付けされているせいなのか。
 途中に挟んだギャグっぽい会話も、重苦しい雰囲気を薄める本来の効果はあまり発揮できなかったような。
13. 10 坐木 ■2006/04/09 01:57:33
酔った。 いろいろと。
14. 10 ルドルフとトラ猫 ■2006/04/09 23:30:12
では酒の精は家族ではなかったのか、いや、家族の域を越えてしまったからこそ退治されてしまったのか
うーん
15. 3 反魂 ■2006/04/10 04:54:27
薬を扱う能力のある人は、命を扱う能力のある人とされがち。
私はそういう人間でないので判らないですが、命を操るに準ずる
力を持つと言える人間にとって、周りの命というのはどのように見えるのか。
そして、準ずるどころか現にそのような力を持つ彼女にとって、兎達と永遠の家族でいるための条件、姿とは何なのか。
命への力を持ちすぎた者にとって、永遠の家族の為の苦悩と深慮は計り知れないものがある。
だから百薬の長たる酒が命に牙をむく時、酔いはそのまま命を操る力になって、
蓬莱人の永琳を悩ませるのかもしれない。

非常に重みのあるお話でした。
非常に文章力が高く完成度も素晴らしいと思うのですが、いささか文章に力がありすぎて
いかんせん疲れます。願わくば、もう少し読点を使って頂ければ、もっと読みやすいかと。

また、(この文章量では致し方ないですが)誤変換やタイプミスがやや多かったかと。
今覚えてるだけでも、
高等部→後頭部、用意→容易、消えたていった→消えていった、自信→自身
と有ります。あと2つか3つ有ったと思いますが、ちょっと失念しているのでひとまず4つまで。
それにしても、この文章力は凄い。羨ましい限りです。
16. 9 papa ■2006/04/11 02:07:43
つい時間を忘れて読みふけってしまいました。
それだけ、このSSにはひきつける魅力があると思います。

中盤で、誤字や改行ミスが多かったのが実に惜しい!
17. 10 ■2006/04/12 00:19:33
永遠のジレンマの表現が見事の一言。また、妖物としての酒が、迫力があって素晴らしいです。
18. 2 木村圭 ■2006/04/12 03:04:43
面白かったんですが、(後述の理由もあって)長すぎると感じてしまったのであまり満足はできず。誤字なのかどうか判別の付かないものもありましたが、どうも引っかかる部分が多くて読み辛かったです。
19. 8 かけなん ■2006/04/12 04:05:28
そうなんですよね、4人が仲良ければってわけじゃない。
いい永遠亭でした。
20. 8 とら ■2006/04/12 04:21:12
永琳の立ち位置がいいなあ。
この解釈は新鮮に感じました。
21. 10 K.M ■2006/04/12 20:16:10
圧倒的文量と練りこまれたの話。
ほぼ非の打ち所が無いのですが・・・惜しむらくは「高等部」と「紅永酒の効力意外」が引っかかりました。
22. 7 床間たろひ ■2006/04/12 20:54:04
あー勿体無い! 内容はめちゃくちゃ面白いのに、ターニングポイントである六章に誤字が多いので、ちょっと酔いが醒めてしまった。そこがちょっと減点かな。
では改めて内容について……ミステリ仕立てで文章の続きを渇望させる手腕は見事。ミステリのパターンからの消去法で、犯人がかなり早い段階で推測できるのがあれだけど、言い換えればそれだけ王道な良質ミステリという事。
でもそれよりも何よりも、全てが出来るが故に何も出来ない永琳の苦悩が、凄く心に響きました。
輝夜も鈴仙もてゐもそして沢山のイナバ達も、みんなみんな何かを背負って生きている。そうして作られるコミュニティ。それを保つにはやっぱり一人一人の隠れた努力や苦悩がある訳で、そう考えるとそれは、もっともっと大切なものだと思えてきますね。
良い物語でしたw
23. 8 偽書 ■2006/04/12 21:58:46
これは……読み応えがありますね。文章もかなり好み、後でゆっくりと読み返したいと。
24. 9 ■2006/04/12 23:27:28
いや、とにかく面白かったです。黒幕が予想外。
25. 8 椒良徳 ■2006/04/12 23:42:08
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
26. 8 名無し ■2006/04/12 23:59:37
空気読んでない姫最高w
27. フリーレス MIM.E ■2006/04/16 00:49:29
>>坂様
永遠亭とその周辺ほどキャラクターの関係や心情が複雑で魅力的な場所は無いと
私はそう思っています。大好きですよ。
そして、家族と言うテーマにしてはやや切り口の一般的ではない描き方でしたので
そう言ってもらえると嬉しいですありがとう

>>月影蓮哉様
文学と言われると恐縮してしまうのですが、それでも、私の表現のいくつかを気に入ってもらえた事が
嬉しいです

>>しょいち様
そう言ってもらえると本当に嬉しいです。こういう方向性で面白いと言ってもらえたこと
おごらない程度に自信とさせていただきます。

>>名無し妖怪様
こちらこそ、読んでいただけてありがとう。こういう、個性の強い粗い面もある物語を受け入れてくださる
そんな貴方の読者としての度量の深さに感謝しか出来ません。

>>爪影様
私は一人酒で味を楽しむところから酒に入りました。けれど最近人と共に酔う良さも分かるようになった気がします。
酔うために酒を飲む、酔うから美味い。お酒は身近で単純で、でもそれぞれの人にとって奥が深いですよね。

>>春雨様
家族を脈々と受け継がれ行くものと考えるなら正しい事でも
大切な存在その個人と永琳との間では見殺しにするだけという矛盾
永琳は天才ですが、悩みが無いとは思えない。そんな面をおっかなびっくり書いてみました。
そう言ってもらえるとホッとしますありがとう。

>>名前はありません。様
初めは、紅永酒は酔いと安楽死というテーマで、永琳の思想に真っ向から対立する存在として考えたのですが
力量不足ゆえこのような形をとりました。ご指摘はその通りと思います。今後精進いたします。

>>つくし様
どうも、描きたいことにこだわるあまり、読者に不親切な文章を書いてしまうところが多いと自覚します。
冷静に読み返すと内容的にも冗長な部分もあり、構成や文章の基本から少しずつでも改善したいと思います。

>>Fimeria様
てゐは大好きなのです。永琳も大好きですが。いろんなてゐの描かれ方があり、どれも好きです。
自分で描く場合はどうしても華を持たせたりしたくなる。
誤字は当然完全に私の落ち度ですが、分かりにくい表現も同じようにこちらの怠慢と考えます。
それでも、満点いただけたこと本当にありがとうございました。

>>おやつ様
褒められると照れます。
読んでくださってありがとう。

>>水酉様
貴方と永遠亭に祝福を。幸せが続きますよう。
自分で書いておいてなんですが、永遠に答えの出ない永琳の苦悩を先の家族達と
東方ファンの皆様がやわらげてくださる事を祈ります。読了感謝。

>>藤村琉様
私は、文章に関しては本当に素人で、どうすれば人に読んでもらえる文章になるのか
単調では無い文とはどういうものか、まだ理解できていません。
ですが、そこに大きな自分の問題があると強く気付かせていただけたことに感謝いたします。
霊夢については、意図してそう感じるように描きました。理由は永琳の人間らしさと
人間らしくない面を持つ間違いない人間という霊夢の雰囲気を対比させたかったからです。
それも、上手く料理できなかったようで反省点です。
途中のギャグですが、挟むかどうか躊躇しました。全体をこういう雰囲気で統一した方が良いか
息抜きが必要か、躊躇ったための中途半端かもしれません。
厳しい意見は本当に嬉しいです。ありがとうございました。

>>坐木様
つよい雰囲気を出す事に成功したならば、私として本当に嬉しいことです。
ありがとう。

>>ルドルフとトラ猫様
確かに、紅永酒ももともとは永遠亭の家族の一部ですね。私は酒を人格よりは現象として捉えていたので
そう言う考えは新鮮です。今後、新たに普通の美味い酒として、紅永酒を作り直すことはありえるのかもしれません。

>>反魂様
永琳の悩みの答えは、私が納得する答えは出せますが、一般的な答えは無いのだと思っています。
けれど、家族という理想と目的があるから、永琳は毅然とした態度を取った。
ただ、永琳が今回悩みを見せた理由は、単純には
自分が相手のために正しいと決めた事を相手に否定された という点にあります。
重みがある、といっていただけた事はテーマの消化は出来たのではないかと嬉しく思いました。
文章自体のほうは、確かにご指摘の通りです。もっと努力したいと感じます。

>>papa様
ありがとう。そう言っていただけると本当に救われます。

>>翼様
妖怪の酒、原因としての紅永酒の描き方はいろいろと迷いました。
初めはもっと人格の無い現象的な存在でした。
若い兎から紅い酒が零れ落ちる、そんなシーンが私のお気に入りでした。
本来恐ろしい存在である妖怪モノの雰囲気を感じていただけたなら幸いです。

>>木村圭様
もっと平易でそれでいて力のある文、ストレスを感じさせないもの、そう言うものを理想として
次に活かしたいと思います。最後まで読んでくださって本当にありがとう。

>>かけなん様
癖のある4人が様々な関係を見せて、それでも確りと繋がっている。
根の部分で安心して帰ってこれる関係。そう言う様が家族だと私は思いました。
それをずっと続ける事の難しさ。大好きな永遠亭を描けて良いと言って貰えた。
すごく嬉しいです。

>>とら様
少しイナバ達との距離をとりすぎたかもとは思いました。
けれど、どんなに捻くれたりあるいは突き放しても、きっと大好きに違いない。
そう言う大きい母性に憧れて描いてみた次第です。受け入れていただけて感謝します。

>>K.M様
ご指摘の誤字は、投稿後に気がついて、激しく後悔しました。
分かりやすい誤字なのに何故気がつかなかったのか。
感想、本当にありがとうございます。

>>床間たろひ様
誤字は本当に私にとって鬼門というか、言い訳ですね、気をつけます。本当に。
個性の強い登場人物たちですから、ミステリーを出来るのかという点はいろいろ気を使いました。
結果、分かる人にはすぐ分かるし、あるいはもったいぶった描き方が読者のストレスになる
そんな事もあったと思いました。だからそう言っていただけると本当に救われますありがとう。

>>偽書様
好みといってもらえて嬉しいです。読んでもらえるって本当に嬉しいですね。

>>匠様
犯人を不自然にならないようにミスリードさせるのに苦労しました。
ほとんどオリキャラのような面もあり、反則に近い気もしますが、楽しんでいただけたなら幸いです。

>>椒良徳様
こうして、読んでもらえて点数ももらえた、それだけで感謝です。

>>名無し様
輝夜も蓬莱人ですが、彼女はきっとそのままで自然にずっと生きていける
そう言う強さを持っていると思うんです。
それは、蓬莱人も長く生きてきたにすぎない個性と感情豊かな人間である。
という考え方に基づきます。
姫様のような存在がいるから、永遠亭がより魅力的にしっかり締まるんですよね。
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