麗しのそれ

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 08:49:03 更新日時: 2006/03/27 23:49:03 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



「……うーん。……ほら、見てごらん。この壮大な星空を。幾億星霜の時を越えた彼等の光を僕等が見上げるというのは、どれもこれもが人という存在の小ささを教えてくれるし、圧倒的存在の星々の前では身も心も引き締まって清々しい気分になる。見事なものだ」

 深く感心した男の声と共に、大きな手が遥か上空を仰ぐように振られる。

「ふふ、そうね。そしてなんて素敵なの? 夜空に瞬くあれ等は、まるで一つ一つが磨き抜かれた輝石のよう」

 女の声音による返事には、感嘆めいた吐息が混ざっていた。

「でもちょっと気障すぎるかしらね? 霖之助」

 名を呼ばれ、男は首を軽く左右に振る。

「いいかい、紫。こういうのは気障なくらいでちょうど良いと思うんだ」
「……そうかしら」
「そういうものだよ。現に、君もどういしていたじゃないか」
「ふふ、それもそうね」

 優しく諭すように言われ、名を呼ばれた女は申し訳無さそうに俯く。その俯いた顔を上げさせようと男が声をかけようと息を吸った時、女はひょいと顔を上げて言う。

「……ね、霖之助。突然押しかけて迷惑じゃないかしら?」
「珍しいね、君がそんな事を言うなんて」
「あら、たまには私だって気にする事くらいあるのよ?」
「成る程ね」

 新月の夜空を彼方に臨み、一組の男女が織り成す妙に誰も立ち入れない会話が一つの区切りを迎える。
 幻想郷にある古道具屋香霖堂。その店先に敷かれた茣蓙の上にその男女はいた。
 二人の内右膝を立てて座るのは、霖之助と女性に甘ったるく呼ばれた男。
 その霖之助の左隣で彼にしな垂れかかっているのは、紫呼ばれた女。
 何故こんな事になっているかと言えば、夜中に気紛れを起こした紫が霖之助に襲撃をかけたのである。それも大量の酒と一緒に。

「それに……たまには、こうして夜空を眺めてみたいと思っても良いじゃない?」

 呟き、紫は吹き付けた夜風に微かに身動ぎする。そんな彼女の動きに応じてか、霖之助が静かに彼女の肩に置いた手を自分側に引く。無抵抗にされるがままに、紫は霖之助の右肩に頬を埋めた。
 霖之助の頬は既に赤い。上気を通り越して泥酔も泥酔である。恐らく色々境界を弄られてもいるのだろう。
 紫の方はただ楽しんでいるだけという節が窺えた。たまには誰かによっかかりたくもなるのだろう。その手段はあまり褒められたものではないが。

「……ああ……本当に素晴らしい夜空だ」

 霖之助は紫の言葉に同意する。見上げる夜空には、寒さと引き換えに充分な見晴らしが広がっていた。月が隠れる事で充分な煌きを発する星々は、充分嘆息するに値する。

「これで月が出ていたら良いのに……」

 紫は彼の言葉を更に繋ぐように呟く。

「星見だから、そこのあたりは我慢だね―――うん、それにしても実に酒が旨い」

 言葉の途中で液体を嚥下する音を喉から立てた彼の右手には、やや大きめで朱塗りの雅な盃が有った。そして言葉の最中、その中身を飲み干したらしい。
 少々下品だが唇に付いた酒を舐め、紫の肩を寝る子をあやすように優しく叩いていた左手の動きを止めた彼は、彼女を更に抱き寄せる。自然とそれに従った紫は背の右半分を霖之助に預け、彼の頬に自分の頭を寄せた。
 どこからどうみても出来上がっている。
 天狗が見たら狂気にかられたようにシャッターを切りまくるだろう。

「霖之助」

 そう言った紫の左手には、中身が半分ほど入っている一升瓶がある。

「ああ」

 返事をし、霖之助は右手の盃を紫の前辺りに動かす。瓶の首を持つ紫は、片手だけだというのに何ら不安定さの無い動きで盃に酒を注ぎ始めた。
 実に旨そうな音を立てて注がれていく酒が盃の中で細波を生み、その様を片方だけの目で愉しみながら紫は表面張力ぎりぎりまで注ぎ込む。

「とと……」

 口振りだけは慌てた風に霖之助は言うと、彼は何の躊躇も合図も無く、中身満載の盃を紫の唇にそっと当てた。
 紫の方も紫の方で、何ら違和感無く自然に盃の中身を飲み始める。
 何処となく艶っぽい小さな嚥下の音が定期的に響き、霖之助の手は阿吽の呼吸で盃を傾け続け、結果一息で紫は盃の中身を干す事となった。

「はふっ……」

 絶妙のタイミングで盃を離すと、一息で干した事で恍惚とすらとれる表情と化した紫の口から、溜息にも似た声が洩れる。

「紫」
「ええ」

 一言ずつが交わされて、再び盃に波々と酒が注がれた。
 今度は自分の唇に盃を当てると、霖之助は紫同様一気に飲みにかかる。
 威勢のいい音を立てて霖之助の喉が鳴り続け、止むと一拍置いてから盃を離した。
「っはぁー……」
 干し、双眸を閉じ、前傾となった首を左から右に軽く振るようにして大仰に息を吐く。彼の飲酒後の動作は、紫同様わざわざ旨いと口にする必要も無い程、実に旨そうだった。
 その有様に、紫が静かに微笑む。彼女の笑いを聞きつけた霖之助は双眸を開いて彼女を見、視線の合った二人は心から愉しそうに微笑みあう。そのまま静かに笑い合い、どちらからとも無く微笑みの声だけを止めると、再び盃に酒が注がれる。
 この繰り返しが一段落すると、今度は最初のような不可侵の会話が開始される訳だ。
 ちなみに、彼等の回りに転がる空の一升瓶の数が、どれだけの深酒かを物語っている。
 その数、今さっき紫の手から離れた物を含めてなんと六本。

「ん、もう無くなったのか?」

 瓶が転がり、ぶつかり合う事で発生した音を耳にし、霖之助がたった今気付いたような風情で言う。

「今新しいのを出すわ」

 ひらひらと蝶のように左手を中空に踊らせた後、紫の手が酒が納められている箱の蓋を捉える。辿り着いた手の中指と親指で蓋の押さえを外すと、押さえを持ったまま人差し指だけで蓋を弾き開いた。
 決して軽くは無い音を立てて開かれた中から、霖之助にかかりきりでそちらの方を見ようとしない紫は、さかさかと蜘蛛のように手を動かして新規の一本を手に取った。

「霖之助」

 呼びかけ、行儀悪く瓶の尻でクーラーボックスの蓋を締めると、紫は掌と三指で押さえた瓶から、人差し指と親指だけで軽々と栓を引き抜いた。

「ああ」

 盃が差し出される。そのまま、星見を始めた当初からずっと変わらない、どうしようもなく静穏な時間が緩やかに流れていった。
 ただ消費されている酒量に関しては、星空か、まるでお互いの存在と交わす言葉が肴である、と言わんばかりの勢いだ。
 呑んだ酒が果たして何処に入っていったかはつくづく不思議だが、一升瓶六本分+現在消費中である多量の酒を全く体外に排出した様子が無いのは、不思議を通り越して異常であり致死的だろう。

「ふふ、良い夜ね……」

 呟き、紫は額を霖之助に軽く擦りつける。

「……今夜は本当に、どうしたんだい?」

 紫のまるで猫の如きな態度に、盃の中身を一層揺らしながらも霖之助は危なげなく維持する。そのまま喉を撫でれば音がしそうな紫は、笑顔を見せると霖之助の手に自分の手を合わせ、盃を自分の口に引き寄せた。

「ん……―――っふ」

 そして口をつけ、溜息のような余韻を残し、やはり一息で干す。

「全く、君を見ているとどちらが年上か分からなくなるな」
「私でしょう? 坊・や。んふふふふー」

 言葉と一緒に顎先を指でなぞられて、霖之助は軽めの溜息をつく。

「……まったく、そうならそうで相応の行いをだね」
「あら。そんな行いをしたら誰もが私を疑うじゃないの」
「そういう問題でなく―――っと、と」

 一升瓶が傾いでいくのを見て、霖之助は少し慌てて注ぎ口の先に盃を移動させた。小さな波紋を生み出しながら残り少ない中身が空になるまで注ぎ込まれた盃を、霖之助はそれが当然だといわんばかりに一息で干す。
 霖之助も紫も中々命知らずで、注がれた酒は迷う事無く一気に干していた。

 そして、夜は更けて行く―――





 ―――翌朝。

「……あれ?」

 凄まじい頭痛に目を覚ました霖之助は、しかし何故自分が店先に茣蓙を敷いて寝て居るのか理解できなかった。
 それと、痛烈な二日酔いであろう頭の激痛も心当たりが全く無かった。

「つつ……、おかしいな、昨日は確か―――おや?」

 思い出せない。
 店を閉めた所までは何とか思い出せるが、そこから先がさっぱりだ。
 多分、魔理沙か霊夢かその両方が来て、酒を呑ませていったのだろうが……

「記憶が曖昧になる程呑むなんて、まったく、らしくないな……」

 自嘲し、霖之助は頭痛に耐えつつ茣蓙を引き摺って店に戻って行く。


 その俯いた前傾姿勢の霖之助をこっそり見下ろす、スキマが一筋。
 そこから除く一対の目は、紫のものだ。

「ふふふ、ごめんなさいね」

 艶やかに言いつつ、しかし紫は霖之助のある一点から目を離せない。
 それは霖之助のうなじ。
 普段太陽に当たらない生活をしているからだろう。
 色白な彼のそれは、清らかな乙女にも劣らない清純な魅力を放っていた。
 それに俯き加減でもなければ覗けないという点も魅力への大きなプラスとなっているだろう。

「ふふ、綺麗なうなじだこと……」

 昨晩、酒と共に霖之助に襲撃をかけ、さすがに酒が無くなる頃には境界を弄るのも限界に達して霖之助は酔い潰れていた訳だが、その時紫は初めて霖之助の奇跡とも思えるうなじを目撃したのだ。

「ああっ、あんなうだつの上がらなさそうで胡散臭さが取り得の男にあんな幽々子や藍にも劣らない綺麗なうなじがあるなんてどういう事かしら!? どういうミスマッチ!? 宇宙も随分罪作りな事をしてくれるわよね……っ」

 スキマがうにうにと蠢く。

 幻想郷は今日も平和だ。




紫と霖之助でエロさを出そうと思ったが途中で挫折した件について。
シュキバリアン
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/25 08:49:03
更新日時:
2006/03/27 23:49:03
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 4 反魂 ■2006/03/25 17:08:50
つい先日このノリの作品をプチで見た気がw
コレはデジャビュか?アレは肩?ああそうか。
2. 9 月影蓮哉 ■2006/03/26 10:14:50
頑張れ、貴方なら出来るさ。
俺を超えるエロさを次は期待しているぜ(誰
3. 6 ラナ ■2006/03/27 05:15:44
適当に読んでいってうなじが現在三作目くらいな件。
あと最初の会話があまりにベタでコメディかと思いきやそうでもなかった件。
エロかったです。
4. 5 名無し妖怪 ■2006/03/27 17:48:18
ああ、前半の艶っぽい雰囲気が音を立ててガラガラと……w
5. 3 爪影 ■2006/03/29 15:23:09
もううなじしか見えない――見えない?
6. 3 名前はありません。 ■2006/04/01 07:52:58
うなじて
紫様…
7. 5 つくし ■2006/04/02 18:00:11
その探究心に脱帽する件について。
8. 2 二見 ■2006/04/06 04:36:29
最低限の描写しかしていないので、どうにも薄い感じが……
それと読み終わった後に「だからなんなの?」と聞きたくなりますね。
ただ文章を垂れ流すだけじゃなくて、構成に工夫が欲しいところです。
9. 3 藤村琉 ■2006/04/07 02:12:26
 うなじ多いな。
 どうも無理があるなあ……。カップリングにしてもえろすにしても。
 紫と霖之助が飲み明かしたという話と、後半のえなじが全く噛み合っていません。
 書く際に枷をはめるのはいいとしても、それで完成度が低くなっては本末転倒。
10. 3 水酉 ■2006/04/08 02:58:48
紫にだけは言われたくないと誰もが思いそう>胡散臭さが取り得
11. 3 おやつ ■2006/04/08 21:18:52
とりあえず霖之助に殺意湧いたから成功かと思われw
12. 9 ■2006/04/10 00:42:59
最後のあんまりな台無し感にて点数をプラスw

それはそうとこーりん、ちょっと体育館裏まで来やがれ。
13. 2 MIM.E ■2006/04/11 21:35:47
そんなオチかとがっくりしましたがそれがかえってプラスでした。
彼のうなじがそんなに良いとは意外です。ていうか、ゆかりんは何を思って襲撃したんだwww
14. 6 NONOKOSU ■2006/04/11 22:33:29
う、うなじSSが三つ目!?
ひょっとして同じ作者なのだろうか、それともシンクロニシティなのだろうか。
それともやはり東方界隈はフェチの巣窟だという証左に他ならないのだ(略――
15. 6 とら ■2006/04/12 03:52:07
子供も大人もお兄さんも。

うなじ。
16. 5 papa ■2006/04/12 21:38:57
うなじはいいものだ。いいものだけど・・・そっちのかい!
17. 6 かけなん ■2006/04/12 22:16:02
ゆかりんはれんちだよゆかりん
18. 6 K.M ■2006/04/12 22:44:02
いい雰囲気もラストでぶち壊しだぁー−−!?

んーむ、コレはコレで面白いですけどね
19. 2 椒良徳 ■2006/04/12 23:44:11
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
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