六十年目の幻想酒

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 08:50:42 更新日時: 2006/04/17 01:23:56 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00

古来より醗酵は神の御業とされてきた。そして酒はその結晶とも言うべき存在であった。
神に奉げた穀物や果実が徐々に形を変え、やがては芳醇な香りを放ち、口にしたものを桃源へと誘う不思議な食物へと姿を変える現象は、まさに奇跡以外のなにものにも見えなかっただろう。
酒は穀物や果物が腐った成れの果て、つまり死骸でできている。にもかかわらず、それは明らかに生き続けているのだ。
せいぜい死んだ後は妖怪にしか変われない人間とは雲泥の差だ。
酒は甕の内部で複雑な式と唱え続け、刻々と変化し、成長し続ける。人よりも遥かに緩やかに、確実に、長い時間をかけてだ。
現在の洗練され熟達した酒造りの技術はまさに魔法と呼ぶに相応しい。
……だがその一方で思う。その過程で僕達は古代にあった神の御業を失っているのではないかと。
つまり今日、我々が良く知る酒は本物の神酒と比べれば、紛い物ともいうしかない代物なのではないだろうか。
その酒は遠方の伝説にあるような不老不死の酒かもしれなければ、荒ぶる神をも鎮める神授の美酒なのかもしれない。
もし、とうに失われた秘術で造る幻想の酒が存在するのであれば、僕は---------、



そこまで日記に書いたところで、霖之助は一息吐き、筆を置いた。
魔法の森近くになんの必然性もなく存在している店、香霖堂。
遠く離れた人里ではこの店を認識しておらず、すぐ近くにある魔の森の妖怪たちはそもそもこの店を必要としていない。
自然、この店の客は、人里に住まずなおかつ妖怪ではないという希少な人間たちがもっぱらの客となっていた。
もっとも代金を支払わずに商品を持っていく人間を、客と表現することが許されればの話だが。
当然儲かってなどいない。だが、それでもこの店の主は現状に満足していた。
店の格は売り上げなどよりも、その店の品揃えに左右されるものだと思っている。
一流の店はまず訪れた客を愉しませるものなのだ。
その点、香霖堂の品物はまさに多種多様。洋の東西を選ばす、古きを拒まず、新しきを厭わず。見ているだけで時が経つのを忘れるほどだ。
そして今日また一つ、この店が誇るべき逸品を発掘した。日記にあえて酒のことを書いたのはその記念という意味合いが強い。

霖之助がこれを発見したのは、ちょうど花の氾濫とも言うべき、あの不可思議な現象が収まりつつあったころの話だった。
舞い落ちる桜の花びらを見ながら、霖之助はなんとはなしに古酒を仕込むことを思いついたのだ。
花見を連想したからかもしれない。あるいは、散り急ぐ桜をみて時を経ることに特別な感慨を得たからかもしれない。
吟味した精米を蒸し、丹念に醗酵し、丁寧に蒸留し、---準備ができたころには、季節に不相応な花々はあらかた散り終えていた。
仕上げに、古酒を入れる甕を探しに酒蔵に降りたところで……霖之助は、六十年前に自身が仕込んだ古酒の甕を発見したのだった。
こんなものの存在など、霖之助は目にするまですっかり頭から抜け落ちていた。

(きっと六十年前にも、僕は同じ花の散るのを見て、同じことを思いたったのだろうな)

そう考えると急におかしくなった。年をとるとはまさにこういうことなのだ、と。
何故これの存在を忘れていたのか、それは六十年毎になぜ花が咲き乱れるかと同様、自分にはわからないし、知る必要も無いのだろう。
そう結論付けると、霖之助は、古酒を取り出し瓶の中に詰め、入れ替えに仕込んだばかりの酒を入れ始めた。
次の六十年後、やはり自分が酒を仕込むのを思い立ち、そしてこれを発見して驚いた顔をするのを想像しながら。

しかし霖之助はこの酒の甕を前にして一つの懸念があった。
霖之助はこの酒をすぐさま飲んでしまうような勿体無いことはしたくない。
これだけの古酒を自分の店が所持しているという満足感を存分に味わいたいのだ。出来ればこのまま一生飾っておくのも良い。
だが幻想郷には酒好きが多い。彼女らは何かにつけ宴会を開き、蟒蛇(うわばみ)のように酒を飲み干す。
もしもかの人妖たちがこの酒の存在を知れば、何かしら口実をつけこの酒を奪っていくことだろう。

「人目に触れないように隠すのは逆効果だな。そういうのに限って見つけ出す能力に長けたものが多い。……なら、あの手でいくか」

やがて霖之助は一つの妙案を思いつき、それを早速実行するために酒蔵へと足を運んだ。
……だが、彼は気づかなかった。その姿を密やかに見つめる一つの気配があることを。

「ふふふ。良いものみつけたわ。さて、どうやって手に入れてやろうかしら……」

その呟きは誰にも聞きとがめられる事はなく、やがてそれを発した当人と同じように霧散し消えてしまった。







「邪魔しに来たぜ」

霧雨魔理沙がやってきたのは、魔法の森にまだ朝日が射し込む前、妖怪の時間の終わりと人の時間の始まりの境界の時刻だった。
霖之助の店には鍵などという無駄なものは掛かっていない。鍵の掛かっていない扉や障子はそれ自体が結界なのだ。
しかしこの普通の魔法使いには、この程度の結界など無いに等しかった。主が寝ていると分かっていながら、なんの遠慮もなく店内に踏み込んでくる。
ほうっておけば何をしでかすかわからない人間だけに、霖之助は眠たい目を擦りながら店頭に出てきた。

「今日は一段と非常識な時間に来店するじゃないか」
「だから言っただろう。邪魔にしに来たって」
「僕の安眠をかい。いい趣味をしているね」
「こう見えても通人だからな」

減らず口を叩きながらも、魔理沙は鵜の目鷹の目で店内を見わたしている。どうやら突然の来訪には目的があるらしい。
とっとと追い出したい霖之助は、珍しく「何をお探しですか」と自分から用件を促した。

「いや、ちょっと酒を探してるんだ」
「酒?」

霖之助は驚きの色をかろうじて喉元で押しとどめる。
昨日の今日で何というタイミングの悪さだろう。霖之助は咳払い一つして姿勢を改めた。

「こんな朝からなんだい。宴会でもやろうっていうのか」
「なんだ?そんなことを詮索するなんて香霖らしくないな。私に売りたくない理由でもあるのか?」

どうやら魔理沙のほうでも訊かれたくない理由があるらしい。
あえて藪を突くこともあるまい、と霖之助は押し黙った。
だが突いてなどいなくとも、運が悪ければ唐突に藪の中から猛獣がでてくることもある。
今朝はまさにそれだった。

「おはよう、霖之助さん」

霖之助は思わず頭を押さえる。
客が来ることすら稀なこの店に、しかもこんな時間帯に、厄介なのが二人も来訪するとは、すでに奇遇を通り越して奇禍としか思えない。
来訪した紅白の巫女---霊夢のほうも魔理沙を見て意外そうな顔をする。

「あれ、魔理沙がいるわね。こんな時間に何かあったの?」
「それは私の台詞だ。しかも挨拶の台詞が間違ってるぜ。まだ暗いんだから、今はこんばんわだろう」
「おはよう、でいいのよ。私はちゃんと昨晩就寝したんだから」

かなりどうでもいいことで霊夢と魔理沙が言い合いをはじめた。
話が進まないので、霖之助がいやいやながら割ってはいる。

「どっちでもいいよ。それより何のようだい、霊夢」
「ああ、そうだったわ。霖之助さん、昨日からなにか変わったものを仕入れていない?」
「……なんだって?」

今度は驚きを隠し通せたか自信は無かった。
魔理沙の質問よりも具体的で、しかも偶然とは思えないものだった。
霖之助は意図を慎重に探る。

「さて、昨日はまた塵捨て場からたくさん拾ってきたからな。何のことを指しているのか、それだけじゃ検討は付かないよ」
「そう?霖之助さんならそうであるものとないものの区別が付くと思うんだけど」
「おいおい、私の注文が先だぜ。あるのかないのか、はっきりしてくれ」
「ん……ああ、たしかにお酒ならそこにあるけどね」

霖之助はぞんざいさを装って、顎で店の一角を指す。そこには布で覆われた何かの塊があった。
魔理沙は遠慮も無く、それを勢いよく引っぺがした。

「おっ……!」

魔理沙が驚きの声をあげる。
そこには百本あまりはある瓶が群をなして並んでいた。一本一本は日除けのため紙に包まれていたが、中身はお酒であることは容易に知れる。

「なんだ、こんなにあるんじゃないか。なんで勿体ぶるんだ?」
「残念ながら魔理沙のご要望には添えないと思うよ。それは大量入荷した安酒でね。箸にも棒にもかからない代物さ。君は通人なんだろ?とてもお勧めできない」
「……そうか。なら、やめておこう」

魔理沙は意外にもあっさりと引っ込んだ。
霖之助は内心胸をなでおろすが、もう一方の厄介人のほうは別だった。

「じゃあ次は私の番よ、霖之助さん。今朝からこの店で妙な妖気を感じるのよ。厄介なものだったら今のうち処分しないといけないから、拾ったもの全部持ってきて」
「おいおい、人のものを勝手に処分するとは穏やかじゃないね」
「問答無用」
「……はいはい」

霖之助はやれやれといったふうに、重い腰をあげて店の奥に引っ込む。
それを見届けると、魔理沙は足音を忍ばせて先ほどの酒瓶のほうに近寄った。
霊夢が思わずそれを見咎める。

「何をするつもりよ」
「なに、ちょっとな」

魔理沙は振り向きもせずそういうと、お酒の包み紙をそっと取り、中身の瓶だけを取り出した。そして包み紙だけを慎重に戻す。
包み紙は酒の形状を保ったまま他の酒瓶に支えられて立っているため、見かけでは欠けている事がわからない。

「……それ、さっき霖之助さんが飲めたものじゃない、って言ってたじゃない」
「ああ、だからいいんだぜ。美味しいお酒じゃもったいなくて使えないからな」
「妙なこと言うわね。今に始まったことじゃないけど」

やがて霖之助がガラクタを抱えて奥からでてくるのと入れ替わりに、魔理沙は挨拶もせず店を飛び出していった。
霖之助は閉められた扉を不思議そうに見つめる。

「なんだ、もう帰ったのか?」
「見てのとおりよ、それより霖之助さん。ガラクタは見つかった?」
「ああ。このとおりろくなものはないがね」

怪しげな道具ががらがらと音をたてて机の上に広がる。
外の世界の物品は形状からはさっぱり用途が分からない上に、壊れているかどうかも見分けが付かない。
にもかかわらず、霊夢は一つ一つ手にとると、難しい顔をしてうなった後、それを背後にぽーんと放り投げる。

「うーん、違う。これも違う」
「いや、だから人のものを……」
「霖之助だってろくなものじゃない、って言ってたじゃない」
「言葉の綾だよ。なかには衝撃に弱い道具もあるんだから丁寧に扱ってくれよ」

霖之助は自分で入れたお茶を啜ると、ほう、と一息ついた。
なんだかようやく頭がすっきりした心地がする。

「だいたい妖気っていうけど、僕は何も感じなかったよ。霊夢の気のせいじゃないのか?」
「気のせいっていうか、私の勘がいうのよ。これはまた一騒動の元になるって---」

言いかけて、霊夢がガラクタを持ったまま固まった。
まさか本当にやばいものがみつかったのか、と霖之助が身構えると同時に---、
霊夢はいきなり気の抜けた顔をした。

「……あれ?そういえば今は何も感じないわね」
「おいおい。それじゃあやっぱり気のせいだったんじゃないか。こんな朝から人騒がせだな」
「人騒がせなのは、あの妖気よ。あれは絶対気のせいなんかじゃ無いんだから」

霊夢は負け惜しみなんだか強がりなんだか、よくわからないことを言ってガラクタを放り出した。
もはや言っても無駄だと悟って、霖之助は茶碗を差し出した。

「お茶でも飲むかい。目が覚めるよ」
「飲まない。さっさと帰って二度寝するわ……」

入ってきたときの勇ましさと打って変わって、物ぐさそうに霊夢は開けっ放しの扉をくぐり、のたのたと外に出て行った。
霖之助はしばらくそれを見送ると、霊夢や魔理沙が散らかしたものを片付けにかかる。

「ふむ。気に病みすぎた……か。まぁ、偶然と言うこともあるだろう」

霖之助は口中でそう呟くと、酒の塊を見わたした。
木の葉を隠すには森の中。よもやこの中に幻の逸品が隠されていると思いもしまい。
霖之助は珍しく口笛などを吹きながら、この際、たまには店の掃除でもしてみようか、などと考えていた。







「おかしいわね。霖之助さんのお店に確かに妖気らしきものを感じたんだけど」

得るもの無く神社に帰った霊夢はやや不機嫌に縁側に腰掛け、足をぶらぶらと宙に投げ出した。
紅の袴がはたはたと舞い、無作法な動作にもかかわらずやけに神々しい。

「いや妖気とは微妙に違うかな。う〜ん、なんだろう。昔にもどこかで感じた覚えがあるのよね」

喉の辺りまで出掛かってるのに、どうしても思い出せない。
そんなもどかしさに、霊夢が珍しく悩んでいるとぴょこぴょこと参道を駆けてくる影があった。

「あ、いたいた霊夢。ちょっとお得な話があるんだけど聴いてみない?」
「どうせあんたが一方的に得な話でしょうが。ちなみにお賽銭箱はあっちよ、妖怪兎」

最近幻想郷に顔を出すようになった妖怪兎、因幡てゐの姿を認めて霊夢が嘆息する。
妖怪に好かれるような真似をした覚えは全く無いのだが、なぜか最近こんなものばかり寄り付くようになってしまった。

「あんな腐りかけた箱に用はないわ。今日持ってきたのはこれなの」

てゐはもったいぶって後ろに隠していた瓶詰めのなにかを霊夢に差し出す。
瓶の形状と量感からして中身は酒かなにかだろう。

「なに、これ?」
「見てわからない?」
「お酒なのはわかるけど、私が訊いてるのはこれがここにある意味よ」
「神社といえば御神酒でしょう?これ、売ってあげる。すごいお酒なんだから御利益もきっと倍増するわよ」
「そんな怪しげな酒を神様に嘗めさせたら御利益どころか罰があたるわよ」
「怪しくなんかないわよ。月の頭脳、八意永琳謹製のお酒なんだから!」
「どんな銘だろうと、あんたが持ってきた時点で怪しげなんだけどね……」

霊夢は受け取った酒を陽に透かしてみる。
そんなことをやったって酒の良し悪しが判るわけではないので、行為自体に意味は無い。

「それにしても、あんたのとこのあれって薬師じゃなかったっけ?いつから杜氏に転職したの?」
「私も知らないけど現にお酒が造ってあったもの。きっと酒は百薬の長とかいうからよ」
「……本当にお酒なのかなぁ。酒は百毒の長とも言うわよ」

かなり不安な心地で蓋を開けて匂いを嗅いで見る。確かにほんのりとお酒の芳香が漂っている気がする。

「間違いないわよ。私、少し飲んでみたけどすっごく美味しかったもの」
「……う〜ん、確かに毒ではないようだけど……少し口に含んでみてもいい?」
「いいわよ。どうぞ」

霊夢はほんの少し液体を口にいれ、舌で転がしてふくみ香をみる。
が……、霊夢は妙な顔をしてそれをすぐに地面に吐き出した。

「何よ、これ。全然なんの味もしないわよ。ただの水じゃない」
「え〜?そんなはずないわよ。霊夢の舌がおかしいんじゃないの?」
「失礼ね。伊達に数多の酒宴に参加してないわ。あんたこそ私を騙して変なもの売りつけようとしてるでしょう?」

霊夢の言葉に、てっきりむきになって反論してくるかと思われたが、てゐは浮かない顔をしてしり込みした。

「……やっぱり霊夢でもだめかぁ。おかしいなぁ、私にはすっごいおいしいお酒に思えるんだけど」
「私でも、ってどういうこと?」
「実はここに来る前に何匹かの妖怪や妖精にも売ろうと思ったんだけど、みんなすごく苦いとか甘いとか言って怒るのよねぇ」
「何それ?味がしないってのならわかるけど、苦いとか甘いとかって、意見がばらばらじゃない?本当に同じものなの?」
「同じ瓶に入ってるもの。当たり前でしょ」

霊夢はてゐの顔を見返したがどうも嘘を言っているように見えない。
そもそもてゐのような二流の詐欺師は自分が得になる嘘しか吐かないのだ。
妙な話を聴かされて、霊夢は霖之助の店を訪れたときに感じたあの違和感を思い出した。

「お酒……か。そういえば霖之助さんの店にもたくさんあったし、何か関係あるのかしら」
「なんの話よ?まあいいわ。霊夢が買わないなら他をあたるわよ。誰かこの味がわかる人がいるかもしれないし」

そういい残すと、ていは霊夢の手から酒瓶を引ったくり、来たときの倍の速度で神社を出て行った。
客にならないと分かれば用はないといわんばかりだ。

「お酒と妙な妖気か。まさかアイツの仕業じゃないでしょうね?」

霊夢はそう呟いて、虚空を睨み付けた。
もちろんそうしたからといって何か出てくるわけでもなく、
霊夢を小馬鹿にするかのように、空は底抜けに明るかった。







冥界の空の色はいつもと変わらぬ蒼穹の空だった。
空を隠すべき雲は地平の下にあって、海のように緩やかに波打っている。
西行寺家の縁側に座って、妖夢はぼんやりとその雲の無い空を見上げていた。

「どうしましょうか〜」

間延びした、どこか諦観の漂う声を妖夢が発する。無論、空に問うたところで答えなど返るはずもない。
ただそうしたのは---

「どうしようもないんじゃないかしら〜」

さらに間延びした、しかし底抜けに陽気なこの声の主---幽々子に問うよりは、まだしも建設的だと思えたからに他ならなかった。
顕界は今頃春が終わりかけてるんだろうな、と妖夢は現実から逃避するようなことを考え出した。
幽霊が溢れ出た春先の異変も落ち着いたようだと、妖夢は人伝に聞いた覚えがある。
しかし、溢れ出ていた幽霊は消えたわけでも成仏したわけでもなく、単に移動したに過ぎない。
何処へ逝くのか、と問えばそれは勿論---冥界へだ。
この世には即座に地獄へ落ちる分かりやすい悪人も、直ちに極楽へ昇れる恵まれた善人も意外と少ないものなのだ。

「私、冥界の空が曇るのは初めて見ました」

嘆息する妖夢の視線の先では、無量無辺、幾億幾千の幽霊達が冥界の空を所狭しと飛び回っていた。
無論、妖夢達のいる西行寺家の庭とて例外ではない。
こうして話をしている合間にも、ふらふらと幽霊達が妖夢と隣にいる幽々子の周りを飛び交っている。
新参者の幽霊達は礼儀をしらない。とにかく生きていた頃には得られなかった自由を謳歌することで忙しいのだ。
そういう幽霊を躾けるのも妖夢の仕事なのだが、こう数が多くてはどうにもならない。
時折妖夢の半身の幽霊がぐわあと睨みを効かすのだが、一瞬散っても、しばらくするとまた其処此処を好き勝手を漂い始める。

「私は何度か見たことがある気がするわ。あれも六十年前だったかしら」
「そのときはどうなさったんですか?」
「さぁ?ほうっておけばそのうちいなくなったような気もするし、妖忌がなんとかしたような気もするわね」
「お師匠様がですか!?」

幽々子はどっちでもいいわと言いたげだったが、妖夢のほうは平静ではなかった。
師に追いつき、師の跡を継ぐことこそが、妖夢の目標、というより当たり前の生き方だった。

「どうやってこんな大量の幽霊を……まさか、斬ったんですか?」

がっ、と長刀「楼観剣」に手をかける。
二百由旬を翔る剣の業をもってすれば、冥界中の幽霊は無理でもこの庭の幽霊くらいなら残らず斬って捨ててしまうだろう。
だが---、

「やめなさい、妖夢」

幽々子の声は変わらず穏やかだが、妖夢にはそれが叱責のものだと聞き分けられた。
しゅんとして、妖夢が剣を収める。

「あなたはこの前、死神や閻魔様に怒られたことを覚えていないの?こんな大量の幽霊を一度に成仏させたら、今度は浄土が一杯になって仏様に怒られるわ」
「でも……私は斬ることしか知りませんし、師匠も斬ることしか教えてくれませんでした」

妖夢は掻き抱くように剣を胸元に手繰り寄せた。
幽々子はそんな妖夢を慈しむような哀れむような目で見つめている。

「妖夢、ちょっと剣を構えてみなさい」
「えっ?は、はい」

妖夢は言われたとおり、抜刀して、静かに構えの形に持っていく。
「楼観剣」は少女の背丈には長すぎるものだったが、妖夢はよろけもせず一連動作を終えた。

「…………なるほど、穢れているわね」

その妖夢の姿をじっと見ていた幽々子がそう言葉を零した。
妖夢はその言葉を聞き逃さず、驚いて剣を見直す。

「まさか、幽霊はいくら斬っても刃は毀れないし、血脂も固着しないでしょう?」
「何もしなくたって、穢れは憑くわ。刀にも家具にも人にも……例外なのは幽霊くらいね」

幽々子は廊下の隅をたおやかな白い指でつーっとなぞった。
そしてうっすらと埃が付着したのを妖夢に示す。

「だから定期的に掃除をするの。毎日、季節の変わり目、年末年始、そのたびに心を籠めてね」
「はい。もちろん心得てますよ、庭師ですから」
「掃除は物に対する感謝の儀式よ。掃除を怠れば、人は自然それをどうでもいいものと思い、やがてそれを穢らわしいものとすら見なす。穢らわしいから捨てたんじゃない、捨てたから穢らわしいのよ」
「あの……?おっしゃられたいことが良く……?」

幽々子は機会のある毎に妖夢に説教をするのだが、妖夢がそれをまともに理解できたためしはない。
故に妖夢はいつも煙に撒かれているような、からかわれているような気になるのだ。
だが妖夢のほうから見れば、幽々子は教えるのが下手な部類なのではないかと思う。なんでも天然で自習自得する種類の人にありがちの傾向だ。

「……要するに、たまには清めてあげなさい、ということよ」
「はぁ、依存はないですが。でも私は鍛冶の技術なんてありませんよ」
「そんなものはいらないわ、お酒があれば十分よ」
「お酒、ですか」

妖夢は不思議そうな顔をする。
確かに刀を清めるためにお酒を使用することは聴く話ではあるが、なんとなく楼観剣には合わない様な気がするのだ。

「というわけで、妖夢。顕界に行って、美味しいお酒を探してきなさい」
「はい。……って、お酒なら家にたくさんありますよ?」
「あら、駄目よ。いつもの飲んでるものじゃ有難味がないわ。言ったでしょう、感謝の念を奉げると。なら、苦労して手に入れた特別なものでなければね」
「特別なものですか……。難しそうです」
「頑張ってね、妖夢。これも教育の一環よ」

それを言われると妖夢は弱かった。もっとも最近なにかにつけて「教育」をちらつかせるため、真偽はかなり怪しんでいるが。
何も考えてなさそうな人ほど実は深慮遠謀があるのだと、最近の妖夢は無理矢理にでも信じることにしていた。







魔法の森深くにある霧雨邸。
昼前に魔理沙はここに帰って来ると、扉を閉めてようやく一息つく。

「あ〜、しかし今回はまいったぜ」

魔理沙の視線の先には少し幅広い古びた机がある。
魔導書の研究から、毎度の食事、果ては就寝まで過ごす万能の机である。
何せ部屋にスペースがないものだから(使い方の問題だという意見もあるが)、自然この机から付かず離れず何でも作業をすることが多い。
しかし問題の事故は、ここで食事をしているときに起きたのだ。

「そう、どう考えてもこれは事故だぜ、私はいつもどおり食事をしていただけなんだからな」

魔理沙は一人得心がいった顔で呟いた。一人だと騒がしいほうでは決して無いのだが、いまはとにかくしゃべってないと落ち着かないのだ。

「たまたま脂っこい料理を頬張っていたら、たまたま机から皿が転げ落ちた。そしてそれがたまたまパチュリーから借りた貴重な魔導書の真上に落っこちたんだ。うむ、誰が聴いても完璧な事故だぜ」

脂っこい料理で山盛りの皿が所狭しと机の上に並べられており、さらに床が汚してはいけない貴重な魔導書で埋まっている光景を見たものが他に居たならば、また違った意見を聴けただろう。が、もちろん魔理沙はそんなことを気にしなかった。

「……しかし頭の固いあいつらは、私の高説には耳を貸しはしないだろうな。ただ事実だけを取り上げて私を責めるに違いないぜ」

間の悪いことに、最近パチュリーがいつまでたっても本を返さないのに業を煮やして霧雨邸までやってくるのだ。
その都度、今は何処にあるかわからないから今度来るときまで探しておく、と言い逃れているがさすがに限界だった。
だが、やっとのことで見つけた魔導書を今度は無くさないように傍らに置いておいたのが失敗の元だった。
パチュリーから借りた魔導書は表紙にべったりと料理の油が付着し、見るも無残な姿に変わり果てている。

「このままだと紅魔館の住人によってたかって袋叩きに遭いかねないな」

魔理沙は片手でわしわしと頭を掻く。もう一方の手には香霖堂から拝借してきた酒瓶が握られていた。
油汚れを落すにはアルコールが有効だとなにかの本で読んだのだ。切羽詰った末に思いついた知恵だった。

「さてと、そろそろパチュリーが来るかもしれないし。早速、仕事にとりかかるか」

アルコールを綿に含ませて、慎重に油が付着した部分を擦っていく。
元が紙であるので、勢いにまかせればとたんに傷ついてしまう。
だが、汚れは意外なほどぽろぽろと落ち、見る見る間に本は元の姿を取り戻しつつあった。

「おお、ものすごい効果だな。香霖はあんなことを言っていたが、意外に良い酒なんじゃないか、これは」

さきほどまでの苦悩は何処へやら、汚れが落ちるのが楽しくなってきて、魔理沙は一心不乱に本を擦っていく。
酒から洩れ出る香りが、知らず魔理沙の気分を高揚させているようだ。

「んー、少し汚れが残りそうだが、これぐらいならむしろ古びて見えて格があがるぜ」

勝手なことを言いつつ、もはや口笛さえ吹きながら本を磨き上げていく。
やがて、汚れをあらかた拭き取り終えた魔導書を取上げ、魔理沙が満足げな顔で微笑む。

「よし、これで完全だな」
「完全だなんて恥ずかしげもなくよく口にできるわね。人のやることに完全なんてないわ」
「目的を十全に達せられるなら、それは完全と言ってかまわないんじゃないか?」
「目的は常に次の目標の出発点ですわ。そのときは誰も気づかない些細なずれでも、それを繰り返すごとに大きな歪みに変わる。時間を戻すことのできない人間が築いたものなど、どんなに大きく立派でも所詮いつかは崩れる砂の城にすぎない」
「偉そうなこと言うなよ。まるでどこかの残酷メイドみたい---」

とそこまで応えて、魔理沙ははた、と我に返った。ギギギとブリキ人形のようなぎこちなさで振り向いていき、人影を視界の端に捕らえると、バネ人形のごとく後ろに跳び退る。

「おおっ!?ノックせずに人の家に侵入するのが瀟洒なメイドのやることなのか?」
「あなたに言われたくないわ。それにノックなら少し後にちゃんとしたわよ」
「あー?後って---」

魔理沙が訝しげに問い返した直後に、コンコン、と誰かがノックをする音が確かに聴こえた。
ややあって魔理沙は『時間を操る程度の能力』をもつメイド---咲夜が何をしたかを理解する。

「……意味の無いことをするなよな」
「意味ならあるわ。黒いのがなにか怪しげなことをやっているのを目撃できたから。さて、真昼間からなんだかお酒臭いけど、何をしていたのかしら?」
「それはだな……」

どうやら咲夜はつい今しがた着たばかりで、肝心の場面は目撃していないらしい。
しかし本当のことを言ったら、次の瞬間には魔理沙の体は山嵐のようにナイフで棘だらけになるだろう。
腕組みなんぞして手元を隠しているが、あの中にはすでにスペルカードが握られていると確信できる。

「あー、そろそろ本を取り返しにパチュリーがやってくることだと思ってな。お酒で歓迎しようと準備していたんだ」
「……お茶の代わりにお酒で客を迎えるのがこの家の流儀なの?」
「いや、茶葉が見つからなくてな。まぁいいじゃないか。酒は茶の代りになるが、茶は酒の代りにならぬと言うぜ」

魔理沙は胡坐をかき帽子を目深に降ろして視線を隠しながら、適当にそこらに転がっていたグラスにお酒を注ぎこみ差し出した。

「ほれ、飲むか」
「だから要りませんわ。なにより職務中ですし」
「職務?」
「ええ、職務。あなたが自分で言ったのよ。そろそろパチュリー様が本を取りに来ると」
「なるほど。お前が代理か。あいつの引きこもりぶりも筋金入りだな」
「本人が尋ねてもあなたが本をなかなか返さないからでしょうが」

咲夜が怒ったように、魔理沙の手からグラスを取り上げる。
そのまま捨てようとしたのか、魔理沙にぶちまけようとしたのかはしらないが、咲夜はそれを振り上げようとした時点で固まった。

「ん……?このお酒?」
「見てのとおり箸にも棒にもかからん安酒だぜ。香霖の店からかっぱらってきた」
「香霖堂から?ふ〜ん、それは、ひょっとするとひょっとするわね……。まぁ魔理沙だし、有り得るか」

咲夜は口元に掌を添え、なにやら一人で呟いていたが、やがて幽かに妖艶な微笑を見せた。
咲夜を知らないものなら見蕩れるような、知るものならば怖気が走る表情だ。

「これ、パチュリー様のためのものだって言ったわね。しかも安酒だって」
「言ったかな?」
「言ったのよ。ちょうどいいわ。貸した本の利子に、このお酒を丸ごと戴いていいかしら?」
「ああ?」

魔理沙が意外そうな顔をする。
咲夜はそれほど酒好きではなく、宴会のときも主人の付き添いで来るだけで、ほとんど飲みもせず料理ばかりしている。
個人で酒を嗜むことなど有り得ないと思っていたのだ。
が、それはそれとして断る理由も思いつかなかった。元々負い目もある。少し悩むふりをした後、魔理沙は本と酒瓶を差し出した。

「仕方ないな。いいぜ、持っていきな」
「そう。なら遠慮せず---」

受け取ろうとして、咲夜は自分がまだグラスを持ったままであることに気づいたらしい。
ちょっと辺りを見わたして、傍らの本棚にグラスを置く。

「これは置いていきますわ。あとで気が向いたら飲んでみてはいかが?」
「気が向いたらな」

内心、魔理沙は胸をなでおろす。
汚れは目立たないようにしたとはいえ、本人が見ればやはり気づく可能性はある。
咲夜が取りに来たのは僥倖と呼べた。

「じゃあな、パチュリーによろしく伝えてくれ」
「ええ。よろしく伝えてあげるから心配しなくていいわ」

にこりと微笑む咲夜に一抹の不安を感じたりしたが。
魔理沙は扉を開けて出ていったのを確かめると、緊張の糸が解けたように床に崩れ落ち、そのまま大の字になって寝入ってしまった。







陽光が照りかえり、紅がどこか色あせて見える真昼の紅魔館。
ここの主であるレミリア・スカーレットは苦手な時期がやってきたせいか、最近就寝が早く眠りは深い。
自然、メイドも主の時間に合わせているのだろう。咲夜が帰ってきた頃には、すでに館内は静まり返っていた。
無論、咲夜にとって時間は操るものであって振り回されるものではなかったので、自身は規則的な生活とやらには縁遠い。

「とはいえ、パチュリー様はまだ起きてるわよね。あの方は私とは違った意味で時間など関係のない人だから」

黒い魔法使いから半ば強引に奪ってきた酒瓶をさげてキッチンに入る。
いくらなんでもこのままでは無粋である。棚からそれなりに格式のあった洋酒の空き瓶を、取り出し並べてみる。

「どれがいいかしらねー」

名状し難いユニークな形をした瓶。香水と見間違うような華美な瓶。なにやら偉そうなお爺さんが描かれたラベルが張られた瓶。
趣味で集めているわけではないが、なにかしらに使うこともあるので保管はしてあるのだ。
その中の一つが咲夜の目に止まる。一際小さいが自己主張に富んでおり、まるで野に咲く一輪の花を思わせる。

「これがいいわね、量も適当だわ」

咲夜はその小瓶に例のお酒を注ぐと、別の棚から包装紙とリボンを取り出し、なれた手つきでラッピングする。
ものの五分と経たないうちに、魔法使いからとりあげた怪しい酒は、見るからに人を瀟洒な気分にさそう、魅惑の逸品と化した。
咲夜は数歩離れてそれを眺め、出来栄えに満足する。
と、そのとき---玄関でチャイムが鳴った。

「誰かしら。この時刻は誰も通すなと言っておいたのに」

あとで門番を締め上げようと考えながら、咲夜は玄関に向かう。
今のでお嬢様が目覚めていれば至極厄介なことになっていたが、どうやらその気配はなさそうだ。

「御免下さい。どなたかいらっしゃいませんか」
「何の用件?こんな非常識な時間に」

扉を開けると一瞬誰もいないかと思われたが、目線の少し下方で背丈の低い少女がお辞儀をしていた。
銀色の髪に、黒い小さなリボン。そして異様なのは、背に負う大小二本挿しの刀。さらに輪をかけて異様なのは傍らに立つ大きな人魂。
顔を上げずとも誰だか知れた。

「夜分遅くにすいません------あれ、今はお昼ですよね?」
「ええお昼よ。でもあなたの謝意は間違ってないわ。お嬢様はお休み中なの。出直してくれない?」
「いえ、用件はどちらかといえばあなた向きのものなんです。お聴き願えませんか?」
「……まぁいいけど、手短にね」

咲夜は仕方ないというふうにため息をつく。この冥界の少女---妖夢は見かけによらず頑固なのだ。
押し問答でもして騒がしくなっては元も子もない。
玄関で立ち話などするわけにもいかないので、咲夜は自分の居た厨房に案内した。
お嬢様方のお客でないのならば敬意を払う必要もないし、客間などは声が響きすぎる。

途中、かなりどうでもいいことだったが、なんとはなしに訊いてみた。

「門のところに無理してみればなんとか門番に見えなくも無い雑魚っぽい妖怪がいなかった?」
「ああ、確かに門のところに妖怪が確かにいましたよ。でもなんだか眠そうだったので思い切って寝かせてあげました」

と言いながら、妖夢は剣の鯉口をかちんと鳴らした。
どうでもいい質問の答えはやはりどうでもいい内容だった。
そんなやり取りをしているうちに目的の場所にたどり着く。
咲夜は妖夢に椅子を勧めながら、自身も椅子に腰掛け、長い足を折りたたむように組んだ。

「で、用向きはなにかしら」
「はい。あの……実はお酒を都合して欲しいのです。できるだけ、美味しくて珍しいものを」
「……お酒、ねぇ」

咲夜は指を口元に持っていきながら、例の酒瓶を横目でちらりとみる。
なんとなくタイミングが良すぎる。偶然ではあるまい。
こういうことには霊夢ほどじゃないにせよ、咲夜も勘が働くのだ。

「何故この館に?ここは酒屋じゃないわよ」
「わかっています。ここに来る前にあのお店……ええと……例の酷い店主のいる」
「ああ、香霖堂のこと?」
「そうです。そこに寄ってみたのですが、良いお酒がないかと聴くと『無い、断じて無い、とにかく無い』の一点張りで。なんだか怒っていたようにも見えました」
「……商売する気があるのかしらね」

あったとしてもお金のない妖夢はやはり追い返されるだろうが。
しかし魔理沙が奪ってきたという例のお酒のことを考えると、なんとなくつじつまの合う話だ。
ふと咲夜は妖夢が先ほどから携えているものが目に入った。
形状といい、大きさといい、どうみても酒瓶である。

「ん?結局お酒は手に入ったんじゃないの?」
「あ、これですか」

妖夢は今初めて気が付いたとばかりに酒瓶を掲げる。
酒瓶に映った咲夜の体が横に歪んで見えた。

「これはお酒ではありません。毒です」
「誰がうまいこと言えと言いました」
「いや正真正銘の毒なんですよ。飲んでみますか?」
「本気で勧めてるでしょう。飲まないわよ」

にっこりと非の打ち所の無い笑顔で応える。咲夜がこれをやると大抵の人間は震えて謝るのだが、目の前の少女には通じないらしい。

「そうですか。実は、何故私がこんなものを携えているかと言うと---」
「訊いてないけど」

咲夜の冷淡な言葉に、妖夢がぴしりと凍りつく。
これが紅白やら黒いのやらなら、聴こえてないかのように滔々と話し続けるところだが。
少女は青菜に塩といった態でしゅんとうな垂れてしまった。なんだか面白い。

「あー、冗談よ。反射的に言い返してしまっただけ。なんなのその毒」
「あう……、これはですね」

なんだか疲れたような、諦めたような顔で妖夢が話を再開する。
……きっとしょっちゅうこんな感じでいじめられているのだろう。

「お酒を求めて当て所なく飛び回っていたら、何処かで見たような妖怪兎がお酒を売り歩いていまして」
「前に賽銭箱持ってうろついてたやつかしら」
「それは知りませんが、確かに怪しげなやつでした。ですので買う前に毒見をさせてもらったところ、案の定、ものすごい毒だったんです。半分幽霊じゃなかったらきっと死んでいました」
「酒と称して毒を売りつけるなんてずいぶん悪質ね」
「はい。ですのでその場で手打ちにして、この毒を取り上げてきたんです」
「……あなたのその斬り捨て癖もどうかと思うけど」

咲夜は足を組み替えながら考える。
話を総合するに妖夢がここにきたのは、単にあてが無くなったかららしい。
しかしどうしてこうもお酒が絡むのだろう。みんな自分の考えで動いているようで、一つの意思に密やかに主導されている。
前にも幻想郷にはこんなことがあった。あの時はたしか---。

不意に何処からか漂ってきたお酒の香気が……。
まるで妖霧のように辺りに漂った……。

「…………ええと、何の話だっけ?」
「あ、はい。ですからお酒を都合してもらえないかと」
「……そう、だったかしら」

つい、さっきまでは別のことを考えていたような気もしたが。
茫洋とした頭を振りながら、咲夜はいつの間には手に取っていた例のお酒を見た。
すでに必要な分は取り分けてある。それにこの館でこの手の酒を好むものは少ない。

「じゃあ、これを持っていきなさい。銘はないけど、相当いいお酒だと思うわよ」
「えっ、そんなあっさりといいんですか?」
「いいわよ。どうせ貰い物だし、皆に飲んでもらったほうがお酒も喜ぶわ」

言ってから、咲夜は自分の言葉に微かに違和感を感じて眉を潜める。
なんだろう。今のは本当に自分の口から洩れた台詞なんだろうか。
まるで酩酊した自分を醒めた自分が俯瞰しているような、そんな感覚が咲夜を襲った。

「ありがとうございます。本当に助かりました」

妖夢が屈託のない笑顔でお酒を受け取ったときには、その違和感も綺麗に消えていた。
なんだか憑き物が落ちたような気分だ。

「例には及ばないわ。一つ貸しにしとくから」
「あぅ……」

なんとも言いがたいような表情で妖夢はうめいたが、そのうちぴょこんと来た時と同じように一礼して去っていった。
咲夜がそれを見送った後、ふとテーブルを見ると、その上には妖夢が持ってきたお酒のような毒物がおいたままだった。
一瞬呼び止めようとも考えたが、彼女自身どうでもいいものだから忘れたのだろう。
やはりあわただしい少女だった。彼女の主も大変だろうと、咲夜は自分のことを棚にあげて考えた。

「ああ、そういえば当初の目的を忘れるところだったわ」

咲夜は思い出して、テーブルの上に用意してあった小瓶と、黒い魔法使いから取り返してきた魔導書を手に取る。
静まり返った館内を悠然と闊歩し、咲夜は目的の部屋の扉を叩いた。

「パチュリー様、ただいま帰参致しました」
「ご苦労。入りなさい」

抑揚の無い静かな声が返ってくる。
彼女は静寂を好む。そしてそれを乱すものを嫌う。それが自身の声であっても同じことだった。
それを心得ている咲夜は音もたてずに扉を開けた。
パチュリーはこちらを向きもせずに、一心に本を読んでいる。
咲夜は黙ってパチュリーの傍らに魔導書を、次いでプレゼント用に包装された小さな瓶を置いた。
本から顔を上げてその瓶を見たパチュリーが、なんとも形容しがたい顔をする。

「なにこれ?」
「お礼ですわ、黒いのからの」
「……なにかの婉曲な嫌がらせかしら」
「あら、素直な好意だと思いますわよ。あなたによろしく言って欲しいと念を押されましたわ」

パチュリーがますますもって妙な顔をした。だが今度のはどういう表情かよくわかる。
戸惑いを隠そうと必死なのだ。こういう表情が見たくてわざわざこんな手の込んだことをしたのだと、咲夜は心中でほくそ笑む。
パチュリーは毒虫でも触るがごとく、おそるおそるそれを手に取った。

「中身はなに?」
「かなり上等なお酒ですわ。少なくとも私はこれほどのものは目にしたことがありません」
「そう」

素っ気無さを装って、パチュリーは小瓶を元の位置に戻し、読書を再開した。
頬がほんのり赤く染まっているのがなんとも愛らしい。
いま少し見物したいところだったが、これ以上立っていると怪しまれると思い、咲夜は立ち去ろうとする。

「では---」
「待って」

パチュリーにしては強い語気で咲夜を呼び止めた。
自分でもそう思ったのだろう。パチュリーは咳払い一つ挟んで続けた。

「もしあの魔法使いに会ったら---」

言葉を捜しているようだ。もちろん咲夜は黙って待つ。
やがて、パチュリーは憮然とした顔で言い放った。

「今度はちゃんと自分で本を返しに来るように言いなさい」

言ってから、拗ねたような表情でまた本に顔を戻す。
そのおかしさを必死でこらえながら---

「ええ。わかりましたわ、パチュリー様」

紅魔館の最も忠実で有能なメイドは、瀟洒に一礼して承った。








「うう……ひどい目に遭ったわ」

頭の大きな瘤を押さえながら、てゐはのそのそと起き上がる。
今朝からずっと抱えていた酒瓶はすでに無い。妙な言いがかりをつけて弾幕勝負を挑んできた少女に取られてしまったのだ。

「言うに事欠いて私のお酒を毒だなんて……今度出遭ったら生かしておかないんだからーーー!」

てゐが拳を振り上げて天に向かって叫んだその瞬間、轟という音ともに一陣の風が舞った。
心の臓と脳が激しく揺さぶられるほどの衝撃。視界が暗転するほどの急激な浮遊感。
まるで自分以外のすべてが一度に崩壊してしまったかのような現象にていの意識が遠くなっていく。
そのてゐを正気にもどしたのは、自分の耳が上空に捩じ上げられるような痛みだった。

「え?あ?あいたたたたた!耳が、耳がとれる〜!?」

てゐが驚いて耳の辺りに手をやる。
だがその手を伸ばした先に、自分以外の生物の体温を感じ取り、ていの顔色がさーっ、と音すらたてて真っ青に染まっていく。
ようやく見えるようになってきた目で周りをみれば地面は遥か下方にあり、遠方の山は白雲の海に沈んで見える。
何者かが自分を吊り上げ、空を飛んでいるのだと悟ると同時、頭の上から恐るべき捕食者の声が聴こえてきた。

「ん?なんだ、野兎かと思ったら妖怪だったのか」

恐る恐る上空を見上げる。
視界にはいったのは大陸風の衣装。その合間に棚引く狐の尾。そして全身にみなぎるおぞましいほどの妖力。

「あ……、あ……」

恐るべき光景がてゐの脳裏にフラッシュバックする。
あれは、永遠亭が月からの迎えを眩ますべく地上を密室化したときのこと。
全く事態に関係のない妖怪や妖怪じみた人間達がなぜか乱入し、永遠亭に攻め入ってきたのだ。
てゐ率いる兎軍団は已む無くそれを迎え撃ったのだが、その中にこの世のものとは思えないほど不気味で恐ろしい妖怪の少女が居た。
彼女自身の力もさることながら、彼女の使う式神はまさに鬼神のごとき強さで、永遠亭の中を誰も捉えきれないほどの速度で縦横無尽に飛び回り、てゐ配下の兎の軍団を草でも刈るかのようにたやすく薙ぎ倒していった。
……その悪夢のなかの式神の姿が、今目の前にいる妖怪の姿とぴったり重なる。

「あのときの化け狐ーーーーーーーーー!!」
「まぁいいか。鍋に入れてしまえば全部一緒よね」
「ぎゃーーー!食べないでー、私なんか食べたら毒で三日三晩苦しみぬいた後、体がどろどろに溶けて死んじゃうんだから〜」
「私や紫様をそんな目にあわせる毒があるなら是非拝んでみたいな」

式神はますます加速する。速度はすでにていが感じたことの無い領域に達しつつあった。
絶望と疲労のあまり、ふたたび意識が遠のいていったそのとき---、

「ん?お前は」

式神の声に、てゐははっと目を覚ます。
どうやら第三者、つまり助けを請えるものが出現したらしい。
これぞ天佑とばかりに、ていは声がするほうを見る。……そして天に神などいないことを実感した。

「なにやら見覚えのあるものが飛んでいると思ったら、紫様の式神ではないですか。藍、と言いましたか」

さきほどてゐを斬り捨てようとした少女が、高速で並走して式神に話しかけている。
……やはりこの人間も妖怪じみていた。

「ん?そういうあなたは紫様の友人の使用人だったか」
「魂魄妖夢と言います。訂正すると庭師です。あと護衛も兼ねています」
「主人より弱い護衛なんて意味あるの?」
「あなただって人のことは言えないでしょう」
「私は式神だから、そういう存在なのよ」

式神と辻斬りはなんだかどうでもいいやりとりをしていた。
それでも藁を掴む思いで、てゐは精一杯可愛い表情を作って助けを求めた。

「そこの人〜。お願い助けて〜。困っている兎を助けるときっとよいことがありますよ〜」
「ん?兎?」

妖夢は今初めててゐを見つけたとばかりに目を見張る。
藍はああ、と頷いててゐを妖夢の目の前に吊り上げた。

「さっき捕まえた妖怪兎よ。夕餉のおかずにしようと思って」
「そうですか。あ……れ?なんだかさきほど成敗した妖怪兎とよく似ているような……」
「他人の空似です。永遠亭でもよく間違われるんです。兎ではよくある顔なんですよ」

勿論、てゐが無事なのは妖夢にやられる間際にオートボムを発動して必死に逃げてきたからなのだが。
しかし目の前の少女はなるほど、と納得したようだ。
馬鹿でよかった、とてゐは内心胸をなでおろす。
だが頭上の狡猾そうな狐は別だった。呆れたような目でていを見下す。

「そうか。よくいる兎だったら一匹くらい減っても誰も気にしないだろう」
「そりゃどういう了見よ、この化け狐---いたたたた、耳を締め上げないで」

てゐが涙目になって耳を抑える。
なんだかもう自暴自棄な気分になってきたところで---さきほどから神妙な顔をしていた妖夢が予想外なことを口にした。

「あの……、人語を解するものが食されるなどあまり見ていて気持ちのいいものではありません。逃がしてあげられないでしょうか」

てゐと藍は思わず顔を見合わせる。
風景はどんどん背後にながれているのに、その周囲だけ凍りついているかのように固まる。
先に我に帰ったのはていだった。

「そ、そうよ。人語を解するどころじゃないわ。歌だって詠むし、踊りだってできるわよ。こんなの食べたらきっと畜生道に……いやああああ、私の耳がーーー!」
「どういう風の吹き回し?言っておくけどこいつを助けたってあとで恩返しになんてこないわよ。それとも今更極楽にでも行きたくなった?」

藍の声がどこか凄みを帯びている。長い時を生きてきたこの妖怪にとって、年端もいかない幼い人間の説教など笑止と言うほかないだろう。
一方、妖夢のほうは自分でも不可解だといった顔をしていた。

「今日、私は幽々子さまに説教をされたのです。なんだかよくわからなかったのですが、私が斬ることばかり考えているのを怒っているようでした。そして私は今日、一匹の妖怪兎を斬ったのです」

別に斬られていないけどね、とてゐは内心舌を出す。

「お師匠様は真実は斬って理解する、とおっしゃった。しかし兎を斬ったからといって、無論、私がその兎を理解したわけではない。その兎を斬る前と斬った後で私自身には何の変化もありません。しかし私はお師匠様のおっしゃったことが間違っていることは思えない。間違っているのは私の理解のほうなのです。そしてその間違った理解に囚われてしまっている。でも何がどういうふうに間違っているのか、それすらわからない。だから、斬る以外の行いをもって自身を試してみたいのです」
「……なるほど。不器用な人間だ。あなたのお嬢様が頼りなく思うのもよくわかる」

張り詰めていた空気がふっと緩む。
藍は大きくため息を吐き、緩やかに首を振った。

「しかし逃がしてあげるわけにはいかない。私のほうにも事情がある」
「なんですってー!少女の健気な想いを踏みにじるなんてお前の血は何色……あぎゃあああああああ、いい加減とれる、とれちゃうってーーー!」
「もうすぐ紫様がお目覚めになられる」

まるで世界の終わりを告げるかのように、藍は遠い目をする。
もちろん、てゐと妖夢にはわからない。

「寝ている紫様は常に冬眠しているようなものだから、食事を要求すること自体少ないのだがその分満足のいく食事を要求する。しかもそれを量にではなく質に求める」
「幽々子様とは逆ですね」
「うむ。笑顔のままちゃぶ台をひっくり返されたことなど一度や二度じゃない。昔は人間でも捕ってくれば満足したのだが、最近ではそれをやろうとすると紅白の巫女がものすごい勢いで飛んできて---」
「ああ……」

一同が思わず同情の篭った声で呻る。
お札やら陰陽玉やらを高らかに哄笑しながら投げつけてくる羅刹のような巫女(注:左記はイメージであり実在の人物とは一部異なる表記があります)が期せずして脳裏に浮かび上がる。

「仕方無しに迎え撃つと、紫様に『勝手に戦うな』とこっぴどく叱られるのだ。理不尽だとは思わないか」
「うぅ……。それはまぁ……なんだか身につまされるような……」

なんだか妖夢が弱気になっていくのを見て、てゐは不安になる。
応援したいところだが余計なことをいうとまた耳を引っ張られる。命も大事だが耳も大事だ。

「納得したようなら私は先を急ぐ」
「あ、待ってください」

振り切ろうとする藍を、妖夢が片手を上げて制する。その手からちゃぷんと音が鳴った。

「あれ?」
「お?」

おもわずその手に視線が集中する。
そこには妖夢が紅魔館から譲り受けた酒瓶がある。

「なんだ、それ?見たところお酒のようだが」
「あ、これはですね---」

言いかけて妖夢ははっと思いつく。

「そうだ。どうです、このお酒と兎を交換しませんか?」
「その酒と……ふむ……」
「もっとも私も多少必要としていますので全部と言うわけにもいきませんが」

目踏みするように藍が酒瓶を見つめる。

「そのお酒は美味しいのか?」
「紅魔館のメイドがいいお酒だと言っていました。あの人間はそういう嘘は吐かないでしょう」
「んー」

藍はちらりとてゐのほうを見る。思わずてゐが身を震わす。きっと今晩の献立の組み方とか考えているのだ。
しばらく両者を見比べた後、藍は大きく頷く。

「いいだろう、その酒と交換しよう」
「そうですか、ありがとうございます」
「ありがとう、本当にありがとう!」

てゐが涙目で喜ぶが、酒と比べられて負けたというのは結構複雑な気分だった。
藍はやれやれといったふうに肩をすくめた。

「じゃあこの兎は離せばいいのね?」
「ええ、お願いします」
「……え?ちょ、ちょっと待った---」

てゐが抗議する間もなく、藍はそのまま素直に、ぱっと手を離した。
慣性の赴くまま急速度で、水平方向にていは落下していく。
ていも一応飛べるので抗おうと努力するが、急流の中を流される蛙がばたばたと暴れるようなものである。

「あああああぁぁぁぁぁぁーーーー-------」

藍と妖夢が見送る中、ていの悲鳴が長く尾を引きながらか細くなっていったかと思うと、ややあって---
どぉん、と山の壁面と激突した音が寂れた山間の中を木霊した。
それを呆然と見送っていた妖夢が首を傾げた。

「……何故でしょう。善い行いをしたはずなのに、ものすごい後味が悪いんですが」
「それはきっと善行ではなかったからね。人間はそうやって学んでいくものよ」

半幽霊と式神はそう言って頷きあうと、今の一件は綺麗さっぱり忘れることにした。







「幽々子様、ただいま戻りました」

陽は傾き、そろそろ地平に懸かろうかとしている。
眼下にたなびく白雲や霧のように舞う幽霊達がほの赤く染まり、まるで冥界全体が燃えているかのように錯覚してしまう。
幽々子は妖夢がで出かけてからずっと縁側にいたらしい。見送りのときと同じ格好、同じ表情で手を振っていた。

「おかえり、妖夢。どう?いいお酒は見つかった?」
「はい、幽々子様。親切なメイドがお酒を分けてくれました」
「きっと私の日頃の教育がいいからね〜」
「いえ、全く関係ないと思います」

言い切って、妖夢はお酒を取り出す。
帰ってくる途中、余計なことをしたたため量は減っているが、剣を清めるという本来の目的は十分に果たせるだろう。
いつも笑っている幽々子がお酒をみて、より一層顔を綻ばせた。なんとなく全身から蝶が羽ばたいてきそうな喜びようだ。

「まぁ……ずいぶん縁起のいい古酒を持ってきたのね。偉いわ。妖夢」
「はぁ、そうなのでしょうか?良いお酒だとは聴いていましたが」
「わかって持ってきたなら満点だったけど。まぁいいわ、早速始めましょう」
「はい。そうですね」

妖夢は持ってきた瓶の蓋をあけ、刀を取り出し---
そこで戸惑ったような顔をした。

「あの、幽々子様」
「なぁに、妖夢?」
「恥ずかしながら私はやり方を知らないのです。ご指導願えないでしょうか?」
「やり方をしらない?妙なことを言うのね」
「そうでしょうか?普通知らないと思いますが」
「仕方ないわね。じゃあ、まずお酒を口の中にいれなさい」
「はぁ……」

確かに口に含んだ酒を霧のように刀に吹き付けるのを、妖夢は本かなにかで見た記憶があった。
このような見目麗しい少女がやることではないが、妖夢は疑いもせずお酒を口一杯に含んだ。
するとまるで栗鼠のように妖夢の頬がぷくりと膨む。

「そのまま上を向いて」
「ふぁい」

言われるままに妖夢はそのまま上を向く。夕焼けの空がやけに目にしみた。

「えい」

気の抜けた掛け声とともに、いつの間にか背後に回っていた幽々子が抱きつくように妖夢の鼻と口を押さえにかかった。

「ふごぉ!」

妖夢は慌てふためくが、幽々子を力任せに振りほどくわけにもいかない。
だが呼吸が出来なければ、どうやったって口の中のものを嚥下するしかなかった。
やがておとなしくなった妖夢の喉が二度、三度と大きく波打つ。
それを見届けて幽々子はようやく妖夢から離れた。

「ぷはあああ!げほ、ごほっ、……な、なにをなさるんですか、いきなり〜」

酒と過呼吸のせいでひりつく喉をさすりながら、妖夢が訴える。
一方、幽々子は平然としていた。

「だってあなたがやり方をしらないなんていうから。思い出すわ〜。まだちっちゃい妖夢がむずがっていたときは、こうしてご飯をあげていたものよ」
「そんなふうに育ててられてたんですか、私!?」

もっと突き詰めたい証言ではあったが、それより妖夢は幽々子の台詞に何か引っかかるものを感じた。

「あの、やり方をしらない……って幽々子様、私に何を教えようとしたのですか?」
「お酒の飲み方」
「……お酒を飲んでどうするのですか?」
「お酒を飲まないでどうするの?」

にこにこと微笑む幽々子の前で、妖夢は首をかしげる。
どうも根本的なところでずれている。あるいは目の前のお方は故意にずらしている。

「清めるのですよね?」
「清めるのよ」
「剣を」
「妖夢を」
「なんで私を!」

思わず叫び返すが、幽々子はまさに馬耳東風といった感じでひらひらとあたりを舞うように歩く。

「あら、私は剣を清めるためにお酒を探してきて、なんて一言も言ってないわよ」
「いや、きっぱりと言ってたじゃ……、あれ……言ってない?」
「妖夢が勝手に勘違いしたのよ〜」
「こ、この人は……」

がっくりと妖夢は力を落す。
そんな妖夢を尻目に、幽々子は縁側に腰掛け、いつの間にか用意した杯にお酒をついでいたりする。
さきほどの落ち着きの無い様とはうって変わって、楚々とした所作で幽々子は杯を口元に運んだ。
そして、ほぅ、と妖艶に息をつく。

「美味しいわ〜。ねぇ、妖夢は飲まないの〜?」
「飲みませんよ!まったく、食べたり飲んだりすることしか頭にないんだから。まじめに聴いて損しました」
「あなみにく 賢しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見れば 猿にかも似る〜」
「歌を詠んでごまかさないでください。って、今なんだかすごく失礼なことを言いませんでしたか!?」
「きっと気のせいよ。最近の妖夢は何事も気にしすぎるわ。たまには清めてあげなさい、と言ったでしょう。あなたは半分は幽霊だけど、半分は人間。人間は生きていれば、知らないうちに穢れがたまり澱んでくるわ。冥界の時間の中で生きていると、それには気づきにくい」
「え……?そ、そうでしょうか?」
「貴方は剣を研ぐ前に、自らの険を研がなければならないわ。何故お酒で剣を清めるかわかる?それはいいお酒がなにより人の心を清めるてくれるから。だから人を斬って穢れに満ちた剣も清めてくれるんじゃないかと考えたの」
「むぅ……。うまいこと言ってもごまかされませんよ」

そう言いながらも、妖夢は幽々子が出した杯を素直に受け取った。
先ほどは味わう間もなかった典雅な芳香が妖夢の嗅覚をくすぐる。
幽々子の真似をしたわけではないが、妖夢はゆっくりとお酒を口元に運び、一口、また一口と味わいながらそれを飲み干す。

すうっと喉元から腹部までを冷水が浸していく感触。
確かに心の澱がお酒に溶けて消えて行く様な、そんな錯覚すら覚えた。
否、というより、妖夢は穢れを落とされて初めて自分がいかに疲れ、焦っていたかを実感した。
言い方は変だが、掃除した雑巾が真っ黒になっているのを見た、あのような感じだ。
それに似た奇妙な清々しさが妖夢を満たしている。

「なんだか不思議な気持ちがします」
「でしょうね。これは特別なものだから」
「特別……ですか」

なんとなくいつもより遠くが見えるような気がする目で、妖夢は庭を、次いで空を眺めた。
幽霊達はあいかわず大量に舞い踊り、妖夢の視界をさえぎっている。だが、今度は不思議と不快には思わなかった。
しばらく幽々子と妖夢は並んで縁側に座っていた。
二人してお酒を飲み、感嘆の息を吐き、またお互いの杯をお酒で満たす。
どのくらい時間が経ったか、お酒の残り少なくなってきた頃---、
ふと妖夢が思い出したように幽々子に向き直った。

「そういえば聴いてください、幽々子様。今日、変な兎と出会ったんですが---」

お酒のせいか、妖夢が愉しげに今日顕界で見たことを語りだした。
幽々子は微笑みながらそれを聴き、時々、たしなめたり、褒めたりしていた。
その周囲で幽霊達は好き勝手に空を泳ぎ、自由を謳う。

晩春の夕暮の中、冥界はいつもと変わらぬ風景を見せていた。







吸血鬼もメイドも眠る丑三つ時ならぬ申三つ時。
紅魔館の台所をこっそりと蠢く黒い影があった。
無論、ゴキブリの類ではない。もっとも此処、紅魔館での扱われ方はそれと似たようなものではあったが。

「どうやら誰もいないようだな」

四つん這いの体勢から起き上がって辺りを見わたす。
いつも潜入するところは図書館か倉庫と相場が決まっているので、この辺りは不案内である。
なんでこんなに広い台所が必要なんだ、と黒い影---魔理沙は勝手なことぼやいていた。

「それにしてもまずったぜ。まさか香霖の店から持ち出したものがあんな上物だったとは」

少し前。昼寝から目覚めた魔理沙は喉の渇きを覚えて飲み水を探した。
ちょうど目の前にあったのが、咲夜にが置いていった例の酒の入ったグラスだったのだ。
飲んでみて魔理沙はひどく驚いた。その酒は、酒好きの彼女でも滅多に口にしたことがないほどの逸品だったのだ。
しかもただの酒ではない。なんだかわからないが、香味以上のものがあのお酒にはある。

「あれはきっと香霖のとっておきのお酒だったんだな。隠そうとしてしてあんな小細工をしたんだ。そうだと知っていたら借りていったりしなかったのに」

なにせ物と違ってお酒は使えば無くなるのだ。
盗むというのは流儀に反する、と彼女自身は思っている。
今現在進行形で行っていることが、窃盗と呼ばれるものだということは当然、彼女の意識には無い。

「香霖が気づく前に元に戻さないとやばいぜ。あいつは結構根に持つからな。恩はすぐ忘れるくせに」

ひょこりと首だけだしてテーブルの上を見る。
すると中央になんで今まで気づかなかったのか、というくらい高々と酒瓶が聳え立っていた。

「おおっ、これに間違いないぜ。……なんか心持ち量が増えてるようにも見えるが、きっと気のせいだということにしておくか」

瓶を服の下にいそいそと隠すと、魔理沙は一路香霖堂へと立ち去っていった……。







藍が庵に帰ったころには、すでに太陰が茫洋と空に浮かんでいた。

「あ、おかえりなさい、藍様〜。今日のご飯なに〜?」

背後から無邪気な声と共に、式神の橙がぴょこんと藍の尾の隙間から顔を出してきた。
そのままごろごろと尻尾に顔を擦り付けたりしている。
よしよしと藍はその頭をなでてやった。

「ただいま、橙。紫様はまだお目覚めではないな」
「うん。でもそろそろ目を覚ますんじゃないかなぁ」
「そうか。では、急いで支度をしよう」
「なにかいいもの見つかった?」
「ああ、掘り出し物が一つあったが、使えるかどうか……」

藍は妖夢から渡された酒を取り出す。
古酒は料理に使うにはアルコールが少し強めだ。
味醂と同じ感覚で使うと、香りが目立って酒臭くなってしまう。

「藍様、それ何?お酒なの?」
「ああ。後でな、橙。料理が出来るまで居間で待っていなさい」

台所に入ると、手早く野菜を刻み、味噌などの調味料と一緒に鍋に入れる。
頃合が良いころを見計らって、捕れたばかりの魚と、次いで古酒を加えてみた。
独特の芳香が鍋から漂うが、べたつくような不快なものでは決して無い。
鍋の臭みだけを打ち消した上、ほんのりと良い甘味を加えている。よほど上質のお酒だったのだろう。

「ほお。これは存外に拾い物だった。しかし……」

藍が少し訝しげに眉を顰める。

「こんな良いものが都合よく帰りがけに拾えるなんて、少し出来すぎな気がする」
「あら、良い香りがするわね」

居間のほうから眠たそうな、しかし威厳を十分に含んだ声が聴こえてきた。
背後からの視線を感じ取り、藍が振り返る。

「紫様、お目覚めですか?」
「私が寝言を言うとでも思ってるの?起きているにきまってるでしょう」

と言いつつ、紫の視線は定まっていないようで、藍の頭上の辺りをじっと見つめている。

「それより、藍。あなた、ずいぶん妙なものをもってきたわね」
「え!?み、妙ですか?まぁ確かに本日は珍しいものを仕入れましたけど、決して怪しいものではなくて」
「……まぁいいけど」

それっきり紫は黙ると、スキマに乗ってふわふわと居間の奥のほうに移動してしまった。
藍は主人の様子がおかしいのに首を傾げていたが、深く考えずに料理を再開する。
やがて鍋の具がいい感じで煮え、あたりに空腹に染み渡るような匂いが充満した。

「藍様、ご飯まだ〜」

もはや待ちきれないのか、橙が食器を箸で叩く音がする。
なんとも行儀が悪いが、過保護な藍は何も言わない。
一方、紫があえてなにも言わないのは、式の式を躾けるのは式の役目だと心得てるからだ。
……つまり紫の橙に対する不満はすべて藍に転じられるわけだが。

「よし。できましたよ」

藍が片方の手で鍋を、もう片方の手で酒瓶を危なげなく運んでくる。
鍋はちゃぶ台の中央に、酒瓶は紫の隣にそれぞれ置かれた。
紫が何か問いたそうに酒瓶をちらりと見た。

「それは料理に使って余ったお酒です。晩酌にでもしてください。紫様のお口に合うかはわかりませんが」
「あら。今日はずいぶん気が利くのね。なにか私に隠れて悪いことでもしてるのかしら」
「そんなこと出来るはずが無いことはご存知でしょう。私がやることは一から十まで筒抜けなんですから」

藍の言葉に、紫はふふ、と笑うだけで否定も肯定もしなかった。
おそらく私は紫様の一や十はおろかその桁すら計れないのだろう、と藍は心中で恐れ入る。

「それではいただきましょう」

紫の言葉とともに、橙が矢のように箸を伸ばして鍋の中のものを掴み取り---
案の定、熱ものを口に含んで思いっきり吹き出す。

「ふにゃああああああ!」
「ああ!駄目じゃないか、橙。ちゃんと冷ましてから食べないと!」
「学習しない式神ねぇ」

呆れながら紫は鍋から魚を一切れ、箸で摘まんで口に放り込んだ。
しばらく満足げな顔をしていたが、紫は唐突に咀嚼を止めた。

「……藍。この鍋に何を入れたの?」

紫の言葉に、舌を水に突っ込んで冷やしていた橙も、それを介抱していた藍も驚いて振り向く。
当の紫はとくに怒っている様子も泣く、不思議そうに鍋の中を見つめていた。

「え?あ、あの……これは、その、古酒をですね、少々味付けに」
「酒……か。なるほど、そういう筋書きだったのね」

紫は何を悟ったのか、目を閉じて天井のほうを見上げる。
そして、予想だにしなかった言葉を口にした。

「萃香、そろそろ出てきなさい。あなたの目当てはこれなのでしょう」
「え!?」

藍が驚いて辺りを見回す。それを嘲笑うかのように---、

「あーあ、ばれちゃった。寝起きだっていうのに相変わらず紫は鋭いなぁ」

藍の頭上、何も無い中空に霧が萃まり……人の形を成した。
藍にも見覚えがある。少し前、幻想郷で宴会騒ぎを引き起こした太古の鬼とやらだ。
小柄な童女のような姿をしているが、その力は鬼の名に相応しく強大かつ危険である。

「貴様!」

藍は瞬時に飛び退って萃香と向き合い、同時に何枚かのスペルカードを取り出す。
が、そんな藍に一瞥もくれず、紫は机の上にあったお酒を手に取り、ぽんっと萃香に放り投げる。

「ばれないわけないでしょ。物欲しそうな気配がさっきから漂っていたもの」
「持っていっていいの?」
「いいわよ。独り占めするほど野暮じゃないし、この鍋だけで十分よ」
「ありがと。さすが紫。道理が分かっている人は話が早くて助かるわ。回収する機会はいくらでもあったんだけど、私が顔出すと変に勘ぐりそうな人が多くてねぇ」

萃香はじと目で藍のほうを見る。
不精不精、藍は萃香に対する警戒を解いた。

「疑いを招きたくないのならばもう少しマシな現れ方をしたらどう?」
「それはあなたのご主人様に言うべき台詞じゃないかなぁ」

もっともなことを鬼が言う。藍はむすっとして元の席に戻った。

「じゃあねー、紫。今度また宴会にでも誘うからちゃんと来てよね」
「あら、ここで飲んでいかないの?酒肴もあるわよ」
「んー、最近お気に入りの場所ができたからね。どうもあそこで飲むのが一番しっくりくるんだよ」
「なるほど。ならお行きなさいな。せいぜい羽目をはずしすぎて祓われないようにね」

紫の言葉に小さく舌を出すと、萃香は現れたときと同じようにまた霧に変わってどこかに散ってしまった。
藍はやや呆然として、それを見送っていた。

「どういうことなのでしょうか。もしかして私はあの鬼に誑かされたのですか?」

それはひどく藍の名誉を傷つける。ひいてはその式を使っている紫の名誉を汚したことにもなるのだ。
だが紫は平然として、萃香が消えた方角を見つめる。

「気にすることは無いわよ。今回は誑かされたといえば誰もが誑かされたんだろうけど、結局誰も損などしていない。つまりこれが本物の詐術ということね」
「はぁ……」
「私も全てを見通しているわけじゃないけど、気が向いたら探偵のように話を訊き集めて全体の断片をくみ上げてみるといいわ。多分面白い絵が浮かぶから」
「いや、遠慮しておきます。知るとがっかりしそうですから」
「賢明ね。さし当たっては目の前の鍋に満足するとしましょう」

紫はそう言って泰然と、藍はやや釈然としない様子で、橙は能天気に、皆で鍋を突くのを再開した。
どのような異変が起こっても此処だけは変わりないのではないかと、そう思えるくらい堅固な日常だった。







「うう……、ただいま……」
「おかえり〜。よく帰ってきてくれたわね〜、てゐ」

得るものなく心身ともにボロボロになって永遠亭に帰ってきたていを、一人の少女が出迎えてくれた。
その少女は労をねぎらうかのようにゆっくりとてゐの頭に手を伸ばして---、

「ぎゃーーーーーー!」

その両耳をむんずと掴みあげた。
宙に吊り上げられて、ていが手足をばたばたとさせて暴れる。

「やめてくださいー!それは今日からトラウマになったんですよー!狐がーーー!空を飛ぶ狐がものすごい勢いで私をーーーー!」
「何をわけの分からないこといってるの。あんたのおかげで私が師匠に叱られたのよ!こっちに来て説教を喰らいなさい」

暴れるていを引きずるようにして少女---鈴仙・優曇華院・イナバが永遠亭の長い廊下をスタスタと進んでいく。
規則的に襖が並んで何処までも続いているさまは、まるで終わりが無い無限回廊のようだ。
が、一つの襖の前で唐突に鈴仙が立ち止まる。その挙動に全く迷いはない。

「師匠。下手人を引っ立てました」

きびきびとした動作でそう言うと、鈴仙は右手の襖をがらりと開けててゐを中に放り込んだ。

「ご苦労。ウドンゲ」

師匠と呼ばれた女性、八意永琳は振り向きもせず薬台に向かってなにやら調合している。
興味が無いわけでも、素っ気無いわけでもなく、これが彼女の常態なのだということは永遠亭の誰もが知っている。
そして彼女の常態は崩れない。そう、たとえ怒髪天を突いていたとしても、彼女は見た目ではわからないのだ。

「あ、あの……永琳様。なにやらお怒りのようですが……」
「怒ってなどいないわ。ただ不思議なだけよ。どうしてあなたは人の部屋の戸棚に仕舞ってある物を、主の断り無く持ち出せるのか」
「うぅ……」
「それもよりによって私の物に手をつけるのか、ということがよ。あなたは私など恐ろしくもなんともないと、そう皆に誇示しようとしているのかしら」
「め、滅相も無い!」

ひたすらてゐは平伏する。というか怖すぎて永琳を直視などできない。
一方で頭脳は全力で回転し、なんとか言い訳の糸口を紡ごうと必死だった。

「こ、これはですよ、永琳様が最近自ら薬を創って売っているという話を聴きまして、部下として私も何かお手伝いができないかと、そう思いまして---」
「勝手に師匠の薬を持ち出して売り払おうとした、と」

身も蓋もないことを鈴仙が後ろから言い放つ。てゐは思わず舌打ちしそうになるのを懸命にこらえた。
鈴仙は背後で呆れたように腕を組んでいる。

「語るに落ちてる。薬売りは師匠の趣味に決まってるじゃないの。永遠亭は閉鎖してても自力で今まで暮らしてこれたんだから、今更幻想郷の面々と交易なんかしなくても何の問題もないわ。なんであんたが危機意識をもつ必要なんかあるの?」
「うぅ……、で、でもずるいですよ、永琳様。あんなに美味しいお酒を独り占めしようと隠しておくなんて!あれは薬を売ったお金でこっそり買ったんでしょう」

もはやこれまでと見ててゐは居直りに走る。
このまま追い込まれるよりはいっそ窮鼠猫を噛む心地で反撃したほうが自体が好転するのではないかと、煮詰まった脳が答えを弾き出したのだ。
が、永琳は心底意外そうな顔をする。

「美味しいお酒?あなたは何を指して言っているの?」
「えっ?惚けないでくださいよ。戸棚に仕舞ってあったお酒のことですよ」
「……ああ、そういうこと。なるほど、そういう使い道もあったわね。で、そのお酒は売れたのかしら?」
「え……?いや、それがいざ売ろうとして味見をさせると、みんな辛いだの味がしないだの、中には毒だと怒り出すものまで……」
「なるほど。それはそうなるでしょうね」

永琳は一人と得心がいったような顔をして、部屋の奥に歩いていった。
残されたてゐと鈴仙は思わず顔を見合わせる。
---ししおどしが二回鳴る程度の時間をおいて、永琳は小さな薬瓶を携えて戻ってきた。

「なら、てゐ、こっちのほうを飲んでみなさい」
「え……?なんですか、それ?なんか嫌な予感が」
「いいから飲むのよ。あなたは今許しを請おうとしているのでなくて?」
「あぅ……」

永琳の口調は変わらず穏やかだが、どこか有無を言わさない力があった。
もとよりこの永遠亭で八意永琳に逆らえるものなどいない。てゐは意を決して、薬瓶の液体を一気に飲みこむ。

「うぐ……」

とたんにてゐが目を白黒させる。一拍置いて、すさまじい絶叫が普段静謐な永遠亭に木霊した。

「に、にがいーーーーー!しかも体が苦しいーーー!な、なんですかこれーーーー!何の薬なんですかーーー!」
「何の薬なんですか、師匠?全身に毛が生えるとか、尻尾が九個くらいに増えるとか?」

苦しみ悶えるてゐを横目に、鈴仙は心から痛快そうに永琳は問いかける。
が、永琳はどこか不機嫌そうに、そしてつまらなそうに目を閉じる。

「別に薬じゃないわ。てゐがもちだしたものと全く同じものよ」
「え?」

てゐの動きがぴたりと止まる。
落ちついて自分の体に何の異常も無いことを確かめると、安堵するまもなく永琳に詰め寄る。

「そんなはずないですよ。だって今朝飲んだときは、ものすごい良いお酒に---」
「良いお酒だと思いこんだのでしょう?私が酒瓶に入れて戸棚の奥に隠しておいたものだから」
「どういうことですか?」

変わりに問いかけたのは鈴仙のほうだった。ていのほうは魂が抜けたように呆然としている。

「今、因幡は私が差し出すのだからきっとものすごい苦い変な薬に違いない、と思って飲んだ。だからそのとおりになった」

普段どういう目で私を見ているのかよくわかった、と言わんばかりに永琳がていを睨む。
てゐは思わず耳を伏せ視線を逸らした。

「それってどういうことです。思い込んだものに変わる液体なんですか?」
「変わるんじゃないわ。当人だけが感じるのよ。甘いものと思えば蜜のように甘く、苦いものと思えば珈琲のように苦い。薬と思えば全身に活力がみなぎり、毒と思えばたちどころに床に伏せる。でもこの液体自体はあくまで無味無臭、人畜無害なのよ」
「つまり私がつかう催眠の能力と似たようなものでしょうか」
「そうね。でもあくまでこれは副産物。本当は偽薬を創りたかったのよ」
「偽薬?なんでそんなものを?」
「前にも言ったかもしれないけど、幻想郷には体が丈夫なものが多いから、治療が必要なのはむしろ心のほうなの。心の異常が原因で体に影響が出る例は今更あげるまでもないでしょう。でも心にかかる病を人は自覚し難いし、認めたくないものよ。愚かな人間はたかが心などと思うし、さらに愚かな人間は心が病気になることすら信じない。そこまで極端じゃなくても、あなたは心の病気です、といって自覚を促し正面から治療するのは難しいわ。それより、人が受け入れやすい幻想を創りあげ、それを解決したほうが心に関してはうまくいくこともあるのよ」
「うーん、分かったような、分からないような。つまりその幻想と言うのが、この万能薬もどきなんですね?」
「そうよ。私が創った薬なら、その効果を疑うものなどいないでしょう。だから知らないものにとっては、真実万能薬であるのよ」
「そういうことを御自分できっぱりいうところが師匠のすごいところだと思います」
「うう……、なんてこと。それなら最初からそう言ってくだされば……」

涙目で見上げるてゐに永琳が追い討ちをかける。

「だから最初から知っていたらこれはただの水でしかないのよ。それに酒だと触れ込んだこの薬を飲んでみて、誰もが味がしないだの毒だのと言い出したということは、あなたが騙して別のものを売ろうとしている、と皆が思ったということよ。いかに普段のあなたの行いが悪いか、思い知ったでしょう」
「あうぅ……」
「そうそう。これに懲りたら少しは悔い改めることね」

鈴仙がなぜかてゐに向かって得意げに胸をそらした。いつも騙されたり馬鹿にされてる当人だけに溜飲が下がる思いなのだろう。
永琳はといえば、珍しくため息などを漏らしている。

「とはいえ、これはやはり使いものにならないわね」
「え?なんでですか?とても凄いものだと思いますが」
「いくらなんでもお酒にまで擬してしまえるなんて精神に強く作用しすぎるわ。これはもはや麻薬に近い。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。どんな良薬も押さえが効かなければ毒に過ぎないわ」
「そうですか。私に言わせればそんなものは使う者の責任だと思いますが」

師匠もなんだかよくわからないところでお優しいんですね、と鈴仙が微妙な一言を付け足した。

「で、結局ていが持ち出したやつはその後どうなったのかしら?」
「……それなら大丈夫ですよ。なんか幽霊みたいのが持っていきました……いや式神のほうなのかな?とにかく心配するとこっちが馬鹿になることだけは確かです」

てゐが地面に「の」の字を書きながら答えた。
鈴仙はやれやれという感じで肩をすくめた後、不意にさびしげな顔をした。

「でも、なんだか皮肉なお薬ですね」
「何故かしら」
「だって、何も知らず最期まで騙された人間だけが幸福になれる。知識を増やし、真実を暴くことが幸せを遠ざける結果にしかならないなんて、賢者があまりに報われないじゃないですか」
「あら、ウドンゲ。あなたはそうだと知っていたからこそ、私の弟子になろうとしたのではないの?」
「そうですね……。そうだったかもしれません……」

鈴仙はかつての自分を振り返るように夜空を見上げた。
今夜は満月に近いので、なるべくなら見たくは無かったが---
それでも見続けることが贖罪なのだと、少し前にそう教えてくれた誰かの声が聴こえてきた。







闇でも輝く紅の鳥居の背後に、待宵の月が浮かんでいた。
その鳥居の最上段の横木の上に、小さな人影がある。影は月光の中で上下左右不規則に由良由良と揺れていた。
それは踊っているのか謡っているのか、その判別こそ出来なかったが、その影がとても嬉しそうなのは誰の目にも明らかだった。

「へへー。こんないいお酒を口にするのは数十年ぶりだなぁ。月も綺麗だし、今宵は愉しめそうだよ」

影---萃香は、酒瓶を掲げて月に透かす。瓶の中に月光が燦爛と映りこみ、まるで瑠璃を詰め込んだようだった。
納まっている酒量はすでに五分の一に満たなかったが、それでも萃香は十分満足だった。
やがて目を愉しませる段階は終えたのか、嬉々として栓を抜き、萃香はそれを口元に運ぼうとした。そのとき---、

「やっぱりあんたの仕業か」

そう言って、萃香の後ろから酒瓶を取り上げる者があった。
当然、今時分にこの境内に現れる人間など一人しか居ない。

「あーーーー!霊夢、何するのよ。それは私のーー!」

返せと言わんばかりに振り向いて酒瓶に手を伸ばすが、霊夢はひょいと宙に浮いてそれをかわすと、鳥居の反対側の端に着地する。

「何が私の、よ。これ、霖之助さんのお店にあったものでしょう」
「そうだけど……、でもそれは霖之助の造ったものだけど、霖之助のものではなくなったの。だから私が飲んだっていいのよ」
「わけの分からないこと言って誤魔化したって私はすべてお見通しよ!また皆を操って、お酒をたらい回しにしていくことで最終的に自分のものにしようとしたでしょう。そうすれば、みんなを共犯にできるし、誰が犯人か分かりにくくなる。密と疎を操るあんたらしいやり方だわ」
「うわあ、やっぱり勘違いされてる。ひどいよ〜、霊夢」

萃香は涙目になって頭を、というか角の根元を押さえつけてうな垂れる。

「白を切っても無駄よ!このお酒から漂ってくる幽かな妖気が何よりの証拠!」
「だからそれは違うんだって〜。もう、百聞は一味に如かず。とりあえずそれを飲んでみてよ。そうしたらはっきりわかるから」
「ん?……まぁこれだけ減ってれば今更二口三口で変わらないだろうけど」

霊夢は淵から覗き込むようにしたあと、瓶に口付ける。
酒の味をかみ締めるように、目を閉じ、虚空を見上げる。
澄んだ味が喉をとおり、純な芳香が鼻腔を潤し、清水は五臓六腑を駆け巡り体内を潤す。
今まで味わったことのない感覚に霊夢が思わず身を震わせる。

「なにこれ?すごく美味しい。じゃなくて、なんだろ、これ?妖気……じゃなくて、もしかして精?」
「ようやく気づいたか。そのとおりよ。初めて味わったかな?」
「じゃあこれ、お酒の精なの?そんな……、まさか」

霊夢はまだ得心がいかない様子で、酒の瓶を矯めつ眇めつ眺める。

「そうよ。大陸では酒虫ともいうかな。酒に溶けいればその酒はたちどころに味わい豊かな良い酒に変わり、人に入ればその人は決して酒に酔わず、家が栄えるともいわれるわ」
「あんたの腹の中にも十匹くらい飼っておけばいいんじゃない?」
「冗談じゃないわ。我が群隊は、百年三万六千日、一日すべからく傾くべし。それにお酒同様、酒の精にも良い面と悪い面があるわ。お酒がいくらでも買えるくらいお金持ちになったのにいくら飲んでも酔えない。これってどういうことかわかる?つまり幸福を飽食してしまうことの象徴なの。幸福に慣れた人間はより強い幸福を、より強い快楽を求め、終いには何も無くなり、何も感じなくなってしまう。幸を萃めすぎた人間ほど不幸な人間はいないわ」
「……そんなもの飲んで大丈夫なの?」
「完全にお酒に溶けちゃってるから大丈夫よ。それにみんなでちょっとずつ分けたから、みんなでちょっとずつ幸福になるの。良いことでしょ?」

えへん、と胸を張る萃香に「はいはい」と霊夢が気の無い返事をする。

「でも、これがお酒の精だったとしても、あんたが盗んだことに変わりはないんじゃないの?」
「だから、そこが勘違いなの。お酒がみんなに配られたのはお酒自身の意思よ」
「意思?じゃあこのお酒がみんなの手に次々と渡ったのは、このお酒の精の力ってこと?」
「まぁ力と言うほど大層なものじゃないけど。私が使う疎と密の力にたしかに似てるかな。鬼(キ)と酒(キ)のつながりは言うに及ばず、鬼と酒は切っても切れない関係があるし、お酒それ自体が疎と密を繰りかえして熟成されるから。でもそれすら関係ないかもね。何しろよいお酒と感じるれば誰だって欲しがるし、皆にも飲んでもらいたくなるものよ」
「んー?まだわからないなぁ。なんでお酒の精がそんなことをするの?」
「だって酒の本来の意義は神と人同士を結ぶものだから。この幻想郷には妖怪と人間とそれ以外が混在している。たぶんそれらの橋渡しをするのに、酒としての働き甲斐を感じたんじゃない?」
「働き甲斐ー?」
「霊夢にとっての妖怪退治のようなものよ。それがお酒の仕事なの。霖之助はお酒を飲まずにずっと店に飾っておくような真似をするから、お酒がすねちゃったのよ」
「なんとなく霖之助さんらしい話しねぇ。あんな能力持ってる割には道具の使い方が下手だし」
「そんなことどうでもいいからさぁ。霊夢ー、そろそろ返してよー」
「わかったわよ。じゃあ一緒に飲みましょうか。それがこのお酒の意思なんでしょう?」

霊夢は社に戻って、御猪口を二つ取ってくる。このぐらい小さな入れ物じゃないと、大とらの萃香はすぐさま飲み干してしまうだろう。
酒を一筋も溢さないように、慎重に御猪口に注ぐ。酒に精が宿っていると知れば、決して粗末には扱えない。
霊夢は片方の御猪口を萃香に差し出した。

「じゃあ乾杯しましょうか」
「お酒に?」
「そう、これからも良い酒が飲めますように」
「いいね。そういう音頭も大歓迎」

チン、と風鈴を鳴らしたように透明な音が境内に木霊する。

---夏はもうすぐそこまで来ていた。




霖之助は一人、店の中でたたずんでいる。
窓から射し込むのは宵待の月の光。酒の肴はそれのみだった。

金は遣われてこそ、酒は飲まれてこそ、道具は使われてこそ、その真価を発揮する。それは一つの真実だろう。
だが、年を経て、歴史を刻み、人の手を経ていく度、それは別の側面を持ち始める。
貨幣はそれが創られた歴史を雄弁に物語り、酒は長年の熟成を経て神秘を得て、道具は使っていた人の想いを宿す。
それらは創られた本来の意義とは、おそらくまったく異なる側面なのだ。
しかしそれこそが真の価値なのだと霖之助は思う。それは万人には通じず、理解者がいなければ塵に堕してしまう儚さがあるが、それ故に幻想に相応しいといえる。
残念ながら霖之助の能力で分かるのは道具の役割だけで、その幻想を見ることはできない。だからこそ霖之助は一層それらに焦がれるのだ。

霖之助はこの酒を飲む気などなかった。六十年目の奇跡がもたらした幻想の酒として、いつまでも留めておくつもりだったのだ。
だが、彼は今その酒の封を開けている。
まるで誰かに誘われているような、いや、誰かに願われているような、奇妙な心地だった。
今日はやたらとお酒を求めてくる人間が多かった、そのせいかも知れないし、
あるいは心の奥では幻想を穢してしまいたかったのかもしれない、とそんなふうにも考えた。

店の中で一番上等な徳利と御銚子を用意して酒を注ぐ。
月の光が乱反射して、薄暗い店内に硝子をちりばめたような光彩を投げた。

しかしどんなに美味い酒であろうと、この酒はこの刻を境に現実へと還るのだ。
況してや火落ちなどしていたら、まさに幻滅といったところだろう。
霖之助は苦笑いして酒を一口飲んだ。



------恍惚の吐息が、全く別の、異なる場所から聴こえてきた。
そう思えるほど、霖之助は意識は遠いところにいた。酒が誘った忘我郷の地。
誰もが忘れた六十年前の記憶、すなわち人が感じえぬ六十年の重みがそこにあった。
酒が自身を満たすのではない。自身が酒の一部となっていく。神秘という名の幻想に取り込まれていく、その圧倒的な安堵感と開放感がない交ぜになって霖之助を包んだ。

須臾かあるいは永遠の時を隔てて---、
霖之助が我に戻っていたときには、その鮮烈たる感覚は忘却の彼方に過ぎ去り、ただ僅かに酒量を減らした酒のみが徳利の中に揺らいでいた。
慌てて月を見た。時がそれほど経っていない証に、月の形に変わりは無かった。しかし周期を経ているのだと言われても、霖之助はそれを否定することは出来なかっただろう。

「今のは地の恵みか、天の罰か。……なるほど、僕は度し難いようだ」

霖之助は皮肉な笑みを浮かべて首を振った。
彼は酒瓶の蓋を丁寧に閉じると、それを棚の奥に仕舞い、替わりに日頃飲んでいるお酒を取り出した。


<了>

こんな長いSSを最期まで読んでくれてありがとうございます。
あとがきから読んでる人は、どうか目を通してみてください。結構気合入れて書きました。

4/4
とりあえず「てい」という恥ずかしい誤字を修正しました……orz
時計屋
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/03/25 08:50:42
更新日時:
2006/04/17 01:23:56
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 10 読み専 ■2006/03/25 08:31:33
彼のらしさが上手く出ていると思います
2. 9 月影蓮哉 ■2006/03/26 10:28:21
やはり最後の部分が印象に残りますね。…うーん、上手いなぁ。
少し余計かなと思う部分もあったかなと思いましたが、それを補う情景活写が素晴らしく思いました。
3. 9 名無し妖怪 ■2006/03/27 17:37:28
構成が凝ってて、でも読みやすくて、まとめもうまいと思いました。お見事!
4. 10 ルドルフとトラ猫 ■2006/04/01 01:03:09
あっはっは、こーりんらしいw
5. 5 落雁 ■2006/04/01 14:39:47
主観が一貫していないというか、あれもこれも見せようとして詰め込みすぎた感じがします。読んでいて疲れたのは、単に長さのせいだけではなく読者側で処理すべき情報が多いからかもしれません。
ただ、詰め込んだ結果として、どのエピソードも欠かすことの出来ない物語にはなっている。二次創作SSとしては、よく書けている作品だと思います。
6. 6 名前はありません。 ■2006/04/01 17:13:39
実に面白いのですが、誤字とていが残念
7. 10 つくし ■2006/04/02 16:44:42
ばらばらなそれぞれのドラマをひとつに纏め上げる群像劇。とても楽しんで読み、感服いたしました。ごちそうさまです。
8. 6 藤村琉 ■2006/04/07 02:13:32
 ていじゃなくててゐですから。変換できなかったかもしれませんが要注意。
 魔理沙がプラシーボ酒を奪い返すシーンは、もっと細かく書かないと危険です。咲夜がプラシーボ酒をどこに置いたのか、どの色の瓶か、それを明記しておかないと、咲夜がそれをパチュリーのところへ酒精と一緒に持って行ってしまったとか、そもそもキッチンに酒精がまだ残っているとか、そういう意図しない読み方をされてしまいます。あるいはそれも考慮に入れていたのかもしれませんが、もう少し詰めて書かないといろいろ気付かれない可能性も。
 あと、この物語ならもっと短くできます。といいますか、80kbを書くなら常に平易な文章では相当飽きがきてしまうため、もっと抑揚のある文章を心掛けた方がいいと思います。
9. 8 水酉 ■2006/04/08 07:18:36
酒があやなすえにしに惹かれ
人とあやかし織り成せし 
それは幻想物語

いや良いもの読ませて貰いました。
ただ、永遠亭の詐欺兎の名前は「てい」じゃなくて「てゐ」です・・・。
間違え続けているといつかきっと「ていっ」という掛け声と共に
弾幕が飛んできまs(エンシェントデューパー
10. 2 おやつ ■2006/04/08 21:45:10
酒が廻って皆の元へ。
それぞれが少しづつ幸せになる良いお話しだったと思います。
パチェ可愛いよパチェ!


11. 10 反魂 ■2006/04/09 06:47:55
いや……凄い。
酒というテーマでここまで荘厳で壮大な物語を書けるとは。

何故人間が骨董品だとかアンティークグッズだとかに惹かれるのかを考えた時、
それは先時代的形状美とかそういう底の浅い美学ではなく、重なった年月が
何物にも代え難い装飾となってそれを美しく、魅力的に見せるからだと思う。
誰かに使われてきたこと、長い年月この地球上に在ったこと、それを考えるだけで
なんとも浪漫な気持ちになれますね。

モノの価値が人の主観によって決まるとすれば、このSSは私にとって至極の銘酒の如し。
たっぷり酔わせて頂きました。本こんぺ初の10点満点採点です。
12. 10 ■2006/04/10 00:34:02
見事な詐術。確かに誰も損をしていない。しかし、この場合は賢者も得をしましたね。
13. 6 Fimeria ■2006/04/11 06:54:03
酒の渡る先の幻想郷の日常表現に魅入られるようでした。
表現もくどい所も無く入り込むことが出来、巧い文章だと思います。
気になるところというと文中に使われている“---”ですがこれは“―(ダッシュ)”を2つが原則として使われるので注意です。
14. 10 ■2006/04/11 19:26:49
長い…だが
15. 5 MIM.E ■2006/04/11 21:35:18
酒が様々な人妖の手を渡っていく、次はどうなるか、最後はどうなるのかと長さは気にならずに読めました。
裏でめぐる永琳の薬との交差の妙も面白かったです。騙されると幸せな薬なんて実にてゐらしい。
そう言うトリックのようなものは上手いといろいろ感じましたが若干気になった点は
硬派な部分と軟派な部分が上手く混ざりきれて無いように感じた点
最後の盛り上がりにやや欠けると感じた点です
16. 7 NONOKOSU ■2006/04/11 22:32:45
皆に飲まれたかったのが酒精の望みなら、美味しく成り終えるまで酒蔵でじっとしていたのも酒精の望みだったのでしょうね。

あと、たぶん、誰もが指摘しているだろうことをあえて指摘。
『てい』ではなく『てゐ』です。
17. 1 木村圭 ■2006/04/12 03:10:02
ていは無いでしょういくらなんでも。面白かっただけに残念です。
18. 10 とら ■2006/04/12 03:50:05
成る程。お酒の”漬け”方、心得させて頂きました。
なんとも奥の深い道でありますな。
19. 3 床間たろひ ■2006/04/12 15:51:03
酒は天下の廻りものー 美味い酒は飾るもんじゃなく呑むべきですよねぇ。
そうはいいつつも貰い物の高い酒は、勿体無くて飾ってある俺チキンw
20. 9 K.M ■2006/04/12 20:52:23
こんだけ大勢関係して引っ掻き回して、尚誰も不幸になっていない・・・スゴいなァ
21. 7 papa ■2006/04/12 21:39:27
ようは人の心の持ちよう・・・ってことなんですね。
自分が飲んだら、果たしてどんな味がするのか。
22. 4 かけなん ■2006/04/12 22:40:23
何か……どれかに絞ってもよかったような。
話としては結構いい感じで読めたんですが、「てゐ」が終始「てい」になってたのはさすがに痛いなぁ、と思いました。
23. 6 椒良徳 ■2006/04/12 23:46:16
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
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