酒と肴と白いうなじ

作品集: 最新 投稿日時: 2006/03/25 08:53:02 更新日時: 2006/03/28 01:07:03 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



「だーかーらーあなたはもぅ何度も何度も口を酸っぱくして言っているというのに……っ!」
「え、あーそっすね。反省してますですよ。はい」
「わかってない! わかってなーいー! いいですか。そもそも死神と言うのはですね。こうもっと……高尚で、誇り
高き仕事なんれすよっ! それなのにあなたときたら……」
「そうです、そうです。正に仰るとおり。死神は高尚で誇り高いんですよー あ、おっちゃん、手羽先追加ね」
「まったく……今日だって昨日だってずーっと待ってたのに……待ってたのにっ! なーんで一人もわたひのところに
来ないんですか! なんで、どうして、何故ゆえにっ!」
「きっと風水が悪いんすよ。あ、熱燗二合追加〜あと砂肝とネギマもねー」
「ううー小町はもっと真面目な娘だと思ってたのに……思ってたのに……っ」
「まぁまぁ、ささどうぞ、ぐーっといっちゃってくださいな」

 小町は映姫のお猪口に熱燗を注ぐ。本当は人肌くらいが良いのだが、小町の好みで煮え立つほどに燗している。アル
コール分が飛ばないよう、一気にきゅーっと飲むのがコツだ。

「ううっ……ありがと。頂きます」
「遠慮なくどうぞ」

 薦められるまま飲み干す映姫。酒は強い方なのだが、今日は変なところにガン決まりしたのかすでにべろべろ。顔色
はほんのり桜色から赤に変わり、時折信号機のように青になったり黄色になったりしている。それに比べて小町は平気
な顔だ。先に映姫が酔ってしまったので、ハメを外すタイミングを失ってしまったのだ。こうなると後はどれだけ飲ん
でも酔えはしない。先に潰れる、これが飲み会での鉄則である。

「それにしても……」

 小町は砂肝を齧りながら思う。はて、四季様ってこんなに弱かったっけ? と。

 普段ならまず間違いなく小町が潰れる。べろべろに酔っ払って、映姫をからかい、あげく笏でぶっ飛ばされる。
 これが古から続く二人の作法だった筈だ。ここまで荒れてる姿など小町は見るのも初めてだった。

「大体、あなたはですね。いつもいつも言ってるのに、ろくすっぽ仕事しないで、寝てばっかで……」

 映姫の愚痴を右から左に聞き流しながら、小町は今日のことを思い出す。
 そういえば今日は……






「ふぃー今日もいい天気だねぇ……」

 三途の川のほとりに横付けした舟の上で、商売道具の鎌を枕にのんびり昼寝。鎌の柄など固くて眠るのには適さないの
だが、小町クラスのサボリマスターともなれば、その程度の事は意に介さずに爆睡できる。何処ぞの門番は立ったままで
眠る事が出来ると言われているので、それに比べればどうって事はない。
 花事件が一段落したとはいえ、普通に死者の魂は三途の川へとやってくる。
 だが、一人二人を乗せてちまちま送っていたら面倒くさい。何人か纏まったところで一気にがーっと運ぶのが効率的と
いうものだ。その際、映姫の苦労は考慮されていない。流石は小町だ。

「ふわぁぁぁぁああああ……っふー んー眩しいな……」

 いつもどんよりと曇っているイメージのある三途の川原だが、このように暖かな春の日差しが差す事もある。
 そんな日はどんなに仕事が溜まっていようとも、絶対何があろうと昼寝をすると小町は決めていた。
 折角の太陽の恵み。享受しない事こそが罪悪だ。それこそ地獄に落とされても文句は言えない。
 だから小町は眠る。川原で何人か待たせているがそれでも眠る。

「それが誇りってもんさね……おやすみー……」

 違うだろ、との突っ込みは少なくとも小町の耳に届く事はなかった。
 何処ぞの貧弱眼鏡ボーイのように、目を瞑って五数えるうちに豪快ないびきを掻いている。ある意味漢らしい。

 日が昇り、日が沈む。

 夜露が小町の頬を伝うまで、目を覚ます事はなかった――






「……そんな訳で今日は誰も運んでないから、裁判はなし。はてさて……何で四季様はこんなに荒れてんのかな」

 うーうーと唸りながらぶつぶつ言ってる映姫。頭をぐーらぐら回しながら、すでに目は虚ろ、けふっと吐いた吐息は見事
に酒臭い。呂律は廻らずなにを言ってるのか判らないが「……小町は」とか「……胸が」とか「……婚期」とかの不穏な単
語が漏れている。触らぬ閻魔に祟りなし。小町はそっぽを向いて一人手羽先を齧る事にした。

「大体小町はねぇ!  ――うぷ」

 いきなり立ち上がって叫んだかと思うと、真っ青な顔で口元を押さえる映姫。その頬は冬眠前の栗鼠のようにぱんぱんに
膨れている。

「……便所はあっちっすよ」
「――――――っっっ!!」

 口元を押さえたまんま駆け出す映姫。小町はやれやれと肩を竦めて、お猪口に残った酒をぐいっと飲み干した。






「うーうーうー」
「……たく。世話の焼ける……」

 便所から戻ってきた映姫はもうすでにグロッキー。席に着いたはいいものの机にうつ伏せてうーうー唸っている。
 小町は映姫の背中をさすりながら、そっと溜息を吐いた。今日はこれが限界らしい。小町は酔い損ねた事を残念に思いなが
らも、自分が映姫の世話をしているという非常にレアな状況に満足もしていた。これで明日からはあんまり強い事も言えまい。
とは言うものの小町は映姫の事が好きだったから、これを肴に苛めるつもりもないのだけれど。

「……偶にはいいっすよね。こういうのも……」

 そう言って手にした酒を、微笑みと共に飲み干した。






「……と。ほら四季様。水ですよ。みーずー。口濯がないと気持ち悪いでしょー」

 小町は店の親父から受け取った水を映姫に差し出す。すでに店は看板、親父からは邪魔だから早く出て行けという冷たい視線
が突き刺さっている。唸り声が聞こえなくなったかと思えばすーすー寝息を立てている映姫。小町は映姫が肩を揺すっても起き
ないので閉口していた。

「ほら、四季様! あーさー。朝ですよー気持ちの良い朝ですよー早く起きてくださーい」
「……」
「あ、四季様大変です! 地獄の鬼たちの反乱です。クーデターですっ! こんな安月給でこき使いやがって! と鬼のような
顔で迫ってきてます! 鬼だけどっ!」
「……」
「ヤバイっすよ! ちょーヤバいっすよ! 紅魔館と白玉楼と永遠亭が結託して地獄で攻め入ってきましたっ! 何か一大リゾー
ト地に改造するとか、戯けた事いってます! これがホントの地獄めぐり、別府なんかにゃ負けねーとか何とか言ってますよー!
ほら、だから起きて下さいってばー!」
「…………」

 駄目だ。全然目を覚まさない。耳元で大声で叫んでも肩を力一杯揺すっても全然起きる気配がない。

「うーん、困ったなぁ……置いていく訳にもいかないし……」

 すでに店内は小町と映姫以外に客はいない。店長の親父が皿洗いをしながら横目でこっちを睨んでいる。

「もう……四季様ぁ……起きてくださいよぅ」

 へんじがない ただのしかばねのようだ

「あーあ、まいったなぁ……これじゃ……おおぅ!」

 肩を揺すったのが効いたのか、むくりと映姫が顔を起こす。
 右を見る。左を見る。
 そしてまたまた、こてんと潰れた。

 小町の胸の上に。

「うぇぇぇぇえええええ!!!」

 真っ赤になって慌てる小町。でも映姫の頭がずり落ちそうになったので、慌てて両手で映姫の頭を抱く。
 その姿はまるで母親に甘える子供のようで、何も知らない無垢な子猫のようで。
 だから小町は真っ赤になりながらも、胸で映姫を受け止めたまま、身動きできなかった。

 小町の目が泳ぐ。心臓がばくばくいっている。顔は真っ赤で湯気でも吹き出しそうになる。
 ふと視線は下に向けると、ほんのりと朱に染まるうなじ。
 触れれば折れそうな細いうなじ。緑色の後れ毛がとても柔らかそうで、小町の目はそこから離れなくなる。
 胸に感じる映姫の重み、安心しきったように眠る横顔、白く細いうなじ。その三つが小町の頭をぐーるぐると駆け回る。もう
うなじしか見えない。

「あ、ああああああああ……」

 壊れた機械のように、あーうーとしか言えない小町。脳の回路はショート寸前、リミッターがぎしぎしと軋んでいる。
 どうしよう、このままイッチャウ! でもでも人目があるし、仮にも部下が上司を押し倒すなどっ! そんな事は許されない、
 でもだけどこんなチャンス二度とないし、四季様が可愛いすぎて仕方ないし、うーあー私はどうしたらっっっ!!!

 救いを求めるかの如く、首をぎぎぎっと親父の方へ向ける小町。
 親父は小町の瞳をまっすぐに見つめると……


 ぐっと親指を突き出した。
















 焼き鳥屋『涅槃』 そこで三十年、焼き鳥を焼き続けてきた東海道 源十郎(五十五歳)は、そっと店の灯を落として、
扉に鍵を掛けた。店の中から「し、白いう、うなじがぁぁぁぁあああああ!!!!」という雄叫びが聞こえてきたが、

 そっと聞こえない振りをした――














シュキバリアン
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投稿日時:
2006/03/25 08:53:02
更新日時:
2006/03/28 01:07:03
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5.00
1. 5 ありがとう ■2006/03/25 01:15:19
ちいさいこかわいい。
2. 2 ラナ ■2006/03/25 04:21:58
うなじ好きが多い件。
3. 3 落雁 ■2006/03/25 13:57:30
おやっさんGJ。えーき様、ご愁傷様……。
4. 7 ひるぅ ■2006/03/25 15:30:19
良いなぁこの四季&小町の会話
四季様は小町のサボり癖に悩まされてストレスを全部お酒にぶつけているんだろうなぁ
店のおやぢも良いキャラしてるw
5. 6 名無し ■2006/03/25 19:59:13
うなじをそっと撫でたい件について
6. 5 月影蓮哉 ■2006/03/26 10:58:33
映姫様は美人ですからねぇ…。こまっちゃんが惚れるのも無理はありません。
7. 2 二見 ■2006/03/26 20:33:32
話がオチていない、中途半端。
それと多くの箇所に粗が目立ちます。
短い文章であるからこそ、丁寧さが欲しかったですね。
8. 4 爪影 ■2006/03/30 01:00:30
親父、俺を店に入れてくれ、頼む。
9. 6 名前はありません。 ■2006/04/02 07:34:09
親父…
10. 6 つくし ■2006/04/02 17:45:11
……(笑顔でサムズアップ)。
11. 4 SSを読む程度の能力 ■2006/04/03 02:13:12
いいうなじです。
12. 3 藤村琉 ■2006/04/07 02:20:26
 うなじ多いな。
 うーん、しかし強引。映姫が酔っぱらって、というシーンまでは自然に事を運んでいたのですが、事態を収拾させるための道具としてえろすな展開を引っ張ってきたのはちょっと安易。
 いろいろと片手落ちなモードが漂っているのは、もうやむを得ないことだと思うことにしました。
13. 6 おやつ ■2006/04/08 23:01:37
良いだろう。
そのうなじ、国宝に指定する価値がある!!
ついでに藍様が着古した割烹着も加えて貰おうか!!

しかし、このSSのポイントは東海道 源十郎(五十五歳)だと思う俺勝ち組w
14. フリーレス かけなん ■2006/04/09 03:21:07
> ぐっと親指を突き出した。
ナイス源十郎。

>映姫のうなじを国宝に指定する件について。
異論はない。
15. 7 かけなん ■2006/04/09 03:21:30
しまった、フリーレスにしていた悪寒。
16. 5 水酉 ■2006/04/09 14:20:54
グッドジョブ!>東海道 源十郎(五十五歳)
17. 8 ■2006/04/09 23:23:58
否。えーき様のうなじは私一人の宝です。
18. 5 MIM.E ■2006/04/11 21:30:34
東海道 源十郎(五十五歳)がかっこよすぎる件について
映姫ちゃんもかわいいですな。うなじがすきですな。
19. 5 NONOKOSU ■2006/04/11 22:20:19
国宝級……?
いえいえ、世界遺産レベルです、きっと!
20. 5 とら ■2006/04/12 03:09:31
映姫のうなじだけでご飯三杯はいけそうです。
21. 3 木村圭 ■2006/04/12 03:17:02
いいな、このオッサン。
22. 5 papa ■2006/04/12 21:45:03
うなじか!うなじがいいのか!
酒酔い映姫様、テラエロス。
23. 6 K.M ■2006/04/12 22:27:44
やるじゃないか店の主人ww( ・∀・)b
24. 4 反魂 ■2006/04/12 23:33:17
うなじ6号。本当にアンタ好きねえ。
うん、ストッパーが壊れた小町も小町なんですが、やはり最後に一言。


親父コラw
25. 6 ■2006/04/12 23:55:59
親父…粋な真似するじゃねぇか…っ!w
26. 3 椒良徳 ■2006/04/13 00:01:02
御免なさい。時間がないようなので、コメントはまた後日書かせていただきます。
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