Your Faces, O My Sisters! Your Faces Filled of Light!

作品集: 最新 投稿日時: 2006/09/29 10:08:32 更新日時: 2006/10/02 01:08:32 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00







なによりも、少女は投げ出されると動かなかった
それは五百年近い時を刻むまで変わることはなかった


  コッ    コッ


目覚めたとき、少女はひとり打ち捨てられていた
彼女が最初に目にしたもの、それがこの世界のすべて
平原と青い空、そして明かりに満ちた光の源
何もなく、何の変化も感じられない無為の世界に取り残された
しかし自分がある、彼女は悲しまなかった、そして初めての外の光景
背を地に付けると自然に空を見上げる形になった
明かりがまぶしく目をそむけた、そして閉じる


  コッ    コッ


瞳が明かりをとらえたとき、そこに地平線は無くなっていた
青い草原に山、世界は少しだけ狭くなった
大地と空の切れ目は消え失せ、遠くに緑と茶色の巨塊
近くにはいつのまにか大きな樹が幾本か立っている
まだ眠たげな目を両手でこするとゆっくりと歩き樹へと近づく
触れるとひやりとした感触、うれしくなった
樹に登る、さらに遠くが見渡せるようになった
しかし、どれだけ高く樹に上っても山の向こう側を見通すことはできない
少し落胆した少女は樹をすべり降りると山へ向かって駈けはじめた

遠い、山は目で見たよりはるかに遠いものだった
へとへとになり彼女は腰を下ろす、すぐそこに山はあるのにとても遠い
少女は世界の広さに驚嘆する、だからこれから知りに歩きはじめようと思う
世界は歩いた分だけ狭くなる、いつかは自分自身が世界となるために
少女はほんの少しの間、眠りを求めた

 ――この広い世界は私だけのものだもの


  コッ    コッ


目を開く
何かが動いたのを少女の瞳がとらえる
 誰?
目を凝らす、小さな黒いもの、この世界で始めてみる動く形のもの
猫だ、おそらくは猫、少女は猫を知らない
名前は聞いている、姿形も聞いている、きっと猫だ
 待って!
追いかける、黒い何かは走り回る、彼女の周りを一周したかと思うと
今度は彼女を置いてずっと向こうへ行ってしまう、彼女はあせり追いかけた
もしかしたらたった一人、己以外に生きているものなのかもしれないのだ

少女の胸に抱かれたそれは止まっている、身じろぎすることもなくただそこにいるだけ
それは暖かかった、素晴らしく暖かかったのだ
何百年ぶりかと思わせるようなぬくもりが少女に一瞬の夢へと落ちることを許した


  コッ    コッ


 ――どこからきたの?かわいいおじょうさん


  ――どこからともなく、ここへきたのよ


  コッ    コッ


まぶたをそっと開く、少女はベッドの上で天井を眺めた
のそのそと上半身を起こすと何も置かれていない部屋を見渡した
赤い壁で覆われた小さな家、動かない猫がただひとつ置かれたベッドの上にある
出口も入り口もなく、背丈よりはるか上に窓がひとつだけあった
鍵はついていない、開けるための窓でもない
そして彼女は開けようという素振りも見せなかった
考えのつくことではなかったのだ

家ができて猫もいる、世界は家の中だけとなった
どれだけ小さくなろうと、そこは彼女の世界
それを背負ってどのようにしてか生きていかねばならないのだ
軽くステップを踏んだ、猫はそんな彼女を眺めるだけ

少女は窓を見上げた、夜の闇と小さな無数の星星が瞳へと飛び込みながら語りかける
夜は涼しく明るかった、光が差し込み少女と猫とベッドを照らす
そんな姿はついぞ見たことがなかった、少女は光というものを意識し
その暖かさと怖気だつようなむずがゆさを感じた、猫は動かない
少女もただ光のみが出入りを許されたたったひとつの窓からくる明かりに照らされ続けた
少女はベッドに身重く横たわる、胸に猫を抱いて、光が届かなくなり目を閉じた

 ――もういちど、光の下で世界を走り回れますように


そして憐れむような足音


  コッ    コッ


いつの間にか眠り込んでいたらしい、少女は静かな物音で目を覚ました
それは心地よい震えではなく骨まで凍る恐怖に彩られた冷たい足音
そして少女は知る
世界を削っていた存在と失ったもののありか
少女は膝を抱えじっと座り込む
足音が少女を揺らす

少女の前で止まった足音はひと言ふた言言葉を交わす

「素敵な世界だったわね」

「おかげさまで」

階段をゆっくりとあがっていく
少女は静かに横になる、小さな足音に愛情と尊敬を向けながら
遠ざかっていく光に手を伸ばす


 ――これが今の私の本当の世界

  ――空を見上げれば星ではなくて苔むした青い天井

 ――眼前に広がるのは草原ではなくつめたくしみる固い床

  ――山だと思っていたのは剥がれ落ちた壁のかけら

 ――樹に見えていたのは鉄格子

  ――手を伸ばして触れられるのはつめたい湿った壁の肌

 ――子猫だと信じていたのは黒くて長い虫の死体

  ――光は私のお姉様、光に満ちたあなたのその顔

 ――暮らし遊んだ私の世界はあなたの作った箱の中


Wish you were here?
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/09/29 10:08:32
更新日時:
2006/10/02 01:08:32
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5.00
1. 6 2:23am ■2006/10/28 00:32:24
そうだろうと思っていたものが覆される、そういうものはいいですね。
2. -2 スミス ■2006/10/28 00:54:39
「箱入り娘」としてフランを持ち出すのは、王道で良いと思います。
レミリア姉さまはその場合だと、姉としてあるいは館の主としての、
対照的な存在になるでしょう。
設定は王道です。しかし――私はフランが窮屈であることを好みません。
また、描写の一面性も。できることなら、不思議な国のアリスの
冒険のように、コミカルな一面も欲しいと思いました。

というわけで辛口。申し訳ありません。
インド人には好評なんでしょうけれど。
3. 1 爪影 ■2006/10/28 01:19:53
何だか摩訶不思議な印象です。
4. 4 Fimeria ■2006/10/28 02:21:38
あぁ、思わず溜息を溢して目を閉じてしまいました。
本当に切ない、人工的な箱のお話でした。
5. 2 箱根細工 ■2006/10/28 02:37:57
もう少し寝かせればより良い作品になんたんじゃないかなと思いました。
6. 3 翔菜 ■2006/10/28 02:42:52
何となく悲しいお話。
これで500年と言うのはどうにも辛そうです。
7. 3 反魂 ■2006/10/28 03:24:02
こういう作風は、嫌いではないのですが……
ちょっといかにも、色々とぼかしすぎです。煙に巻きすぎてる感じです。私自身の読解に、自信を持てません。なので、大変評価に困ります。

……まあ、私の予想通りの作者様なら、それが味と言うことになるんですが。

いずれにせよ、冷たく湿った雰囲気を持った、作者様の作風に沿う作品だったとは思います。
こんぺという場である以上採点が必要ですが、フリーレスでは0点扱いになるので遠慮。「これはいい作品ですね」の3点でご勘弁下さい。
8. 3 復路鵜 ■2006/10/28 03:39:17
客観的な視点から見れば、この少女の様子はさぞかし異常なものなのでしょうね。
9. 3 おやつ ■2006/10/28 08:58:32
500年近い時の中で、何ゆえ妹様は外に出ようとしなかったのか。
公式で狂っている彼女は、地下室という箱の中で何を見ていたんでしょうね。
10. 1 らくがん屋 ■2006/10/28 14:14:39
真面目に二回読んでも東方SSに見えてこない。深読みに深読みを重ねれば東方SSになるんだろうけど、それは読者の想像力に任せるところが多すぎる、気がする。
テーマ処理と詩の上手さから、0点ではなくこの点数を。
11. 3 雨虎 ■2006/10/29 11:43:52
まさしく箱入り娘(失礼)
フランのレミリアに対して抱く思いを今一度考えてしまいますね。
ただ少し淡々としすぎていたようにも感じました。
12. 4 nn ■2006/10/29 22:48:52
何か、あっさりし過ぎな気もします。
もうちょっと物語に起伏があったら良かったと思います。
13. 5 as capable as a NAMELESS ■2006/11/02 22:50:25
綺麗ですね。
14. 9 椒良徳 ■2006/11/03 09:02:49
鳥肌がたちました。
ただ、箱ネタのかぶる作品が多いので、一点引かせてもらいますね。
15. 2 つくし ■2006/11/04 10:29:03
描写の焦点(対象と語り手の距離感)がつかみづらく、読んでいてわかった気にさせられるけど結局何もわからない、と思いました。読むのに疲労を感じました。フランのいる箱の中身を反転させる、というアイディアなら、このようにジワジワと雰囲気を出す文章にするよりは、ある地点で劇的にひっくり返した方が読者的には衝撃が大きかったような。狂気は中々良い感じに出てると思います。
16. 8 ■2006/11/05 00:08:52
なんとも寂しげな話ですね…しかし、それでも光は存在している。
いつか、紅い霧の後に雨が降れば、その次には晴れ間が覗くはず。
17. 1 匿名 ■2006/11/12 17:53:47
これフランドールですよね?でもなんだか言いたいことがよくわかりませんでした。
18. 3 たくじ ■2006/11/12 22:48:42
夢と現実の対比があまりに悲しくて。
19. 1 藤村うー ■2006/11/13 00:23:03
 初めは全く理解できなかった……。
 最後の最後に分かりましたが、読み初めに何のキャラの話なのかなと確かめたいのに全く見当が付かないのは、読んでいてかなり疲れました。オリジナルのキャラクターでも、身の振りを明らかにするだけで話の理解度が格段に上がりますし。
 救いようのない話で、この話はそれでよいのでしょうけども、話としてどんづまりなので未来がないというか後味が悪いというか。そこが売りではあるのでしょうが。
20. 4 いむぜん ■2006/11/15 19:56:09
長編のワンシーン、という印象を受ける。始まりも終わりもない感じ。
明るい世界(自由)と陰惨な地下室(監禁生活)との差を書きたかったのかもしれないが、吸血鬼の価値観で見た場合、日の当たる明るい世界を望むのはちょっと違う気がする。自由の象徴にしても、もう少し、こう何か。
21. 3 しかばね ■2006/11/16 17:48:20
「私」とは誰でしょうか。
もう少し読者に手がかり(?)を提示しても良いような気がします。
22. 7 blankii ■2006/11/16 20:12:50
箱、密室、地下牢。妹様の思考トレースが素敵、お題に映えていると思います。……お姉様は残酷なのか、それとも、とてもとても優しいのか。
23. 4 K.M ■2006/11/17 20:26:12
閉じた世界の内側で見る泡沫の夢。淋しい箱ですね。
24. 1 人比良 ■2006/11/17 20:30:35

雰囲気モノとしては良いものの、情景が今一。
25. 5 目問 ■2006/11/17 21:28:51
 真実はいつだって無慈悲で、でもいつかこの悲しみが終わることを我々は知っているのだ。たぶん
26. 1 時計屋 ■2006/11/17 22:35:58
あまりにありがちなネタになってますので、もうちょっと工夫を。
27. 4 木村圭 ■2006/11/17 22:38:21
虫ー!?
28. 10 名無し ■2006/11/17 23:38:33
一度読んだだけでは足りない物語。
二度、三度と読むことでその狂気と怖さに気づかされました。
狭くなっていく世界に住まわされた少女に幸あれ。
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