ウサギごろし

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/22 11:04:25 更新日時: 2006/10/25 02:04:25 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00

 トラックあんちゃん ぶーぶーぶー
 夜空見上げてこう言った
 「星までとんでいけたらなあ!」
 そこでトラック ひとっぱね
 トラックあんちゃん ホシになった
 
・・・
これは、てゐのお話です。
・・・

 今は昔、あるところに男がいました。
 男は兎を食うのが好きで、いつも野山に混じりて兎たちを何十匹も殺していました。
 この男は、それはもう、釈迦が人類を愛するが如き魂で、兎たちに殺意を抱いていたのです。ある厄年、お寺でお坊さんにお経を読んでもらっている時、境内に兎がひょこっと現われると、男は突然立ち上がるや否や、罰当たりにも、兎を裸足で追いかけ始めました。このことに怒ったお坊さん、男に呪いをかけました。
「お前さんは兎によって殺されるだろう」
「なんだって? 後生だ、助けてくれ」
「お前さんは兎によって殺されるだろう」
「後生だ、助けてくれ。俺が悪かった」
「お前さんは、兎の歯や爪によって殺されることはないだろう」

 さて、それからしばらく年が過ぎました。ある年の大晦日、金繰りに窮していた男は借金取りから逃れるため、竹林の中へ逃げ込みました。するとそこには、古びた一軒の料理屋があります。男はかくまってもらおうと思い、その料理屋の中へと入ります。
「いらっしゃい」
 と、そこにいたのは、一人の少女。また随分幼いです。
「この店の人かい。かくまってほしいんだがね」
「何か食べていってくれるんなら、どうぞ勝手にいてちょうだい」
 さて、男は椅子に腰掛け、少女を呼びます。
「この店にゃ、何があるんだい」
「そうさね、ちょうど今日は、年越しソバなんかいいかもしれんね」
「じゃあそいつを頼まあ」
 少女は店の奥へ引っ込み、トントントンと包丁鳴らす。さて、店の中には誰もおらず、男はこれじゃあ借金取りから隠れられんと肝を冷やしました。で、おそるおそる少女に尋ねます。
「なんかもっと、店に入ってきたやつから見えにくい席はないんかね。これじゃ、借金取りにすぐ見つかっちまう」
「なあに、この店に二人以上、客が入ったためしなし」
「そうなんかい」
 さて、少女はそばを持ってきます。あつあつです。男はわくわくしながら、割り箸を割って、そばに口をつけました。
「ぶっ。ぶーーーー! なんだこりゃ? 腐ってるじゃねえか!」
「去年打ち、長い間寝かせた特製そばだよ」
「去年のそばだと!?」
「へえ、ですから年越しそば」
「そんなそばは食えん。普通のそばはないのか?」
「そりゃ、そのそばよりは沢山ありますよ」
「そっちを寄越せ」
 で、少女はまた奥に引っ込みトントントン。
「ほい、普通のかけそばでありんす」
「またずいぶん少ないなあ」
「あたしはたくさん作ってやりたかったんだが、あんたにケチをかけられちまったからねえ」
「まあ三品目をたのめばいいな。おい、他には何がある?」
「まずは箸一本、もう一本。あと茶碗、お次にお椀、皿に、ごはんにそれとみそ汁。あさり汁、日本酒、あと大フナ、里芋の煮付け、塩鮭、茄子の浅漬けにごま大福。そんなとこさ」
 男は不審な顔をします。
「箸だの茶碗だの、二つもいらんよ」
「頼まんとそれなしで持ってくることになるんだよ」
「なんてこった。ちなみに料金は?」
「一つ八両」
「高いな。まあ仕方ない、全部持ってきてくれ」
「ほいさ」
 さて、今度は少し時間をかけて、少女がやってきます。まずはご飯です。おやまあ、みごとなコシヒカリ。でも、茶碗に半分しかありません。
「ばかに少ないなあ。茶碗を使う必要ないんじゃないか」
「そりゃあ、ご半でございますから」
「ま、いいや。みそ汁ももってこい」
「ほい」
「うわ、臭い。色も濃い。いくらなんでも発酵しすぎだ」
「今年で三十路らしいよ」
「こいつはいらねえ。あさり汁は?」
「ほい」
「ふわ、こりゃあ、また底の深いお椀だな。かきまわさんと、あさりが出てこない」
「だもんであさり汁」
 男は思います。酒でも飲まんとやってられん。そこへ、ちょうどよくお酒が。
「ぐびぐび。ふー。ちったあ、気がおさまった」
「じゃ、十二品目の大フナだよ」
 出てきた料理は普通で、男は上機嫌。
「お、こいつはまともじゃないか。始めからこれを頼んでおきゃよかったな」
「大フナからは十五両編成になるよ」
「な、な、なんだって? そいつぁべらぼうに高けえ!」
「ほれ、十三品目の里芋の煮付けと十四品目の塩鮭、ついでに十五品目の茄子の浅漬けだ」
「どれもまともだ。まともになったら高くなりやがったな」
「色々増しになったのさ」
「まさか、もう食えないもんは出てきまい?」
「さて、それでは、これから護摩を焚くとしようかね。大福大福」
「やれやれ、邪魔したな。これ以上この店にゃいたくない」
「おや、お帰りで?」
「ああ。外で兎でも捕ってくるさ。俺は兎が大好きなんだ」
「そいじゃあ、最後にこいつをどうぞ」
「そうだな。水くらいは飲んでやろう。ごくごく。うん? なんだこりゃ、水じゃねえな」
「ういさ。そいつぁ、青酸カリ」
「な、な、なんだと?」
 動揺して震える男に、少女は言います。

「お兄さん、ちと兎を殺しすぎたね。あたしの名前は因幡てゐ。兎たちの王、強い力をもつ兎の妖怪だよ。たくさんの兎があんたに殺されたと言った。たくさんの兎があんたを殺してくれと言った。あたしも、あんたは死ぬべきだと思った。
 愚かで、簡単に欺かれたあんた。おかしいことだらけだったのに。こんなところに店があるわけないし、普通の店があんなメニューを出すはず無い。あんた相手に、あたしの歯や爪を使うまでもない。
 あんたの舌がほんの一飲み、毒を味わえばそれで死ぬ。ささいな言葉の過ちがその人の生命を奪うことがあるように。ここには誰も助けに来ない。あんたはここで死んでいく。あんたはここで死んでいく」
「ああ、すると坊主の言葉は、俺を許すものではなかったのか。坊主の言葉に盛られた毒によって、兎たちの恨みによって俺は死ぬのか。俺の食い意地は多くの兎たちを殺し、俺の舌は多くの兎たちを味わってきた。俺は俺の食い意地によって欺かれ、俺の舌によって毒を味わうことになったのだな。
 少女よ、てゐよ、これはラストオーダーだ。俺の最後の願いを聞いて欲しい」
「言ってごらん」
「棺桶(おはこ)を頼む」


ひどい話だ。
スミス
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投稿日時:
2006/10/22 11:04:25
更新日時:
2006/10/25 02:04:25
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1. 5 ひな ■2006/10/28 00:58:11
ですます調の話は好きです。オチが早々に読めてしまうのは少し残念ですが。


ありんす。
2. 2 箱根細工 ■2006/10/28 04:30:32
そうですね。
3. 3 床間たろひ ■2006/10/28 08:00:31
残念、ハコ割れ。
あんたを箱詰めにしても運ぶのも面倒臭いしさ。
あんたはここで干乾びな。

とか何とか。
4. 6 らくがん屋 ■2006/10/28 15:48:09
落語好きには堪らぬこの文章、この空気。開始五行で爆笑し、以降も爆笑の連続でした。
最後のてゐの口上でもうちょっと地の文の描写が欲しいところだが、それをやると落語らしさが減るから、まあ、しょうがないのでしょう。
5. 1 爪影 ■2006/10/29 03:11:44
 牛肉より、淡白な鶏肉の方が好きです。
 兎は未経験なので分かりませんが。
6. 6 Fimeria ■2006/10/29 23:58:17
どこかの落語みたいですね、巧いです。
元ネタとか無いなら、凄いなぁって思います。
7. フリーレス サカタ ■2006/10/30 22:32:26
落語ですかね?
8. 3 2:23am ■2006/10/30 22:57:19
御愛想は線香ですかね。
9. 3 翔菜 ■2006/11/01 18:38:24
うむ、本当にひどい話。
しかしながらてゐのキャラがいい。
男の最後の注文もまた、いい。ひどいがそれこそがおもしろい。
10. 7 nn ■2006/11/01 21:12:00
ぽいなあ、と感じていたらやっぱり落語だったんですね。
こういう芸風は大事だと思いますが、私が粋を解せなかったんでこんな点数でした。
11. 3 おやつ ■2006/11/01 23:02:35
ああ、これはひどい話だ。
……余裕あるねこの男w
12. 2 椒良徳 ■2006/11/03 10:15:34
大変読み辛いので、もう少し改行を増やすなり、一文を短くするなどしていただけるとありがたい。
内容に関しては、自覚があるようですので何も言いません。
13. 6 雨虎 ■2006/11/03 20:01:14
なかなか面白い文体ですね。最後の一言も良かったです。
14. 2 つくし ■2006/11/04 13:07:13
落語的なおはなし。これが高座なら話術次第ですが、文章だと、特に中盤、どうもドカンと腹に来る笑いが来ませんでした。ところで、冒頭の数行がよく理解できません。
15. 6 as capable as a NAMELESS ■2006/11/05 13:23:29
落語っぽいのも良いなぁ。
どうせ死ぬだろうと読めてしまうのは残念。
16. 8 ■2006/11/10 23:22:08
むしろ、死に際にも妙に余裕のあるこの男に賞賛の言葉を贈りたい気持ちがあったりして。
17. 6 たくじ ■2006/11/12 22:39:44
兎好きは仕方ないけど、相手が悪かったね。てゐはしっかり役割果たしているなぁ。
18. 3 藤村うー ■2006/11/13 01:02:08
 落語ですねえ。
 結局のところ、これてゐでなくてもよかったんじゃないか、というのが最後まで頭に残りました。
 箱のところも無理やりぽいのですけど、それが話のオチになってるから無関係とも言い切れませんし、そのあたり微妙です。箱度が薄いのは確かなのですけど。
 あと、冒頭の愉快な歌はなんなんだろう……。
19. 5 反魂 ■2006/11/15 14:19:26
落語的な雰囲気が漂ってますが、これは何か元ネタがあるんですかね。
私自身落語に造詣が深くなく、知ってる限りの演題の中には見あたらないんですが。

テンポ良く、挟められた小ネタも洒落が利いてて面白い。
異質でしたが、きっちり楽しめる作品でした。
20. 6 いむぜん ■2006/11/15 20:16:25
小噺、なのか。言葉の使い方が見事。何気にギャグが入ってたり。
面白かったです。
21. 8 しかばね ■2006/11/16 20:03:24
>大フナからは十五両編成になるよ

噴きました。
オチも上手いし、感服でございます。
22. 5 blankii ■2006/11/16 20:22:43
落語らしくテンポが良いなぁ。大船って総武線でしたっけ?
23. 9 ABYSS ■2006/11/16 21:33:42
全く酷い話ですね。
ともあれ、小噺のように…っていうか小噺なんですね、これは。
上手くまとまっていて良かったです。
24. 5 ルドルフとトラ猫 ■2006/11/17 15:47:18
おいしい
25. 4 人比良 ■2006/11/17 20:25:33

ひどい人だ。
26. 7 目問 ■2006/11/17 21:40:27
 上手い。素直にそう思いました。
 掛け合いも小気味良く、楽しめました。ただ導入部が分からない。
27. 7 K.M ■2006/11/17 21:53:42
昔話風の文体と落ちのコンビネーションが心地よい。
兎の王…っててゐよ、オスだったのk(ry
28. フリーレス 時計屋 ■2006/11/17 22:46:12
これを東方SSとはさすがに言えないんで。
点数はないですが、話自体は面白かったです。
29. フリーレス おばか ■2007/04/02 03:28:00
今頃も今頃だが言わざるを得ない。
だれがうまいこといえと
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