逆さマトリョーシカ

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/27 21:26:10 更新日時: 2007/01/16 16:24:03 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 
 ・0・

 両翼に全力を込めて羽ばたかせる。
 帰ろう。紅い、あの幻想郷の館へ。
 広い世界を知った、今だからこそ。
 そして、ただいまと言おうと思う。
 もう、ここに見るべきものはない。
 満ちる、この充足感だけを持って。
 赤い紅いあかい箱庭へ帰っていく。
 紅茶を飲む毎日を皆と過ごす為に。

 ・1・

 黒蜜のような、その夜、空に舞うように、ただただ滑空を繰り返して。
 七色の羽を持つ少女は目を閉じて不規則にしなやかに軽やかに飛んでいる。
 中天、天の川、満月、その中にあってさえ一際輝く星が如く、少女は一つの宝石として存在していた。

 そうやって、少女は夜が終わり、空が朝を迎える直前まで、輝き続けるだろう。
 瞼を閉じて銀河を背に泳ぎ、瞼を開いて澄んだ空気の風景を飛び跳ねるのだ。

 何度も、幾度も、箱庭の外の箱庭であるここを自分の心に刻むまで。繰り返し、くりかえし。
 ただ、自分にのみ通ずる意思を持って、フランドール・スカーレットは翼をはためかせる。

 風を切る音をただ一人、傍らに連れて。
 星の海、中空に煌くようなワルツを踊る。

 ・2・

「幻想郷の外に出たい?」
 私は鸚鵡返しのように、目の前にいるフランドールの言葉を繰り返した。
 ええ、そうよとフランドールは肯定する。まあ、それはそうだろうけどねえ。
 自分で言った事を否定したら、凄く面白いわよね。狂ってて。
「別に、それは良いのだけども、またなんで?」
 外に出たいからよとフランドールは答える。持っている日傘をくるくると回しながら。
 ……ははあ、これは面白い。
 この会話のかみ合わなさはなかなかどうして、縊り殺したくなるぐらいに面白い。
 まあ噂で聞くところによると、触れているとか言われているし当然か。
 ふむ、と。普通にお願いを聞くだけではつまらないわね。そんな趣味もないし。
 さて、どうするかな。
 ……どうしたら、暇潰し程度にはなるのかしら?
 こういう突発でやってくるおもちゃは出来るだけ楽しまなくては。
 食う寝る遊ぶってのは生きるうえでの必要不可欠で実用的な娯楽。
 何をするか、いくつか考える。
 ――まあ、しかし、だ。
 ここが幻想郷であって、そしてフランドールという相手だから、結局選ぶ遊びはひとつ。
 さあて、ちょっとは楽しめると良いが。
「それじゃ、せいぜいこの八雲紫を満足させる事ね。そうしたら、考えてあげるわ」
 日傘がピタリと止まる。
 コインいっこ分は満足させてあげるよ、とフランドールは笑ったのだった。

 ・3・

 ひんやりとした空気、埃とインクの匂いが混じる本の群れの中で、少女二人はお茶会を始める。
「最近、フランドールが外に出たがるの。どう思う?」
「良い傾向だと思う。少なくとも、妹様の今の状態なら外に出しても問題ないはず」
「まあ確かに。最近、無駄に落ち着いているというか、前とは何か傾向が変わってきてはいるわね」
「ええ、本当に」
「そうでなければ、そもそも部屋から出さないし」
「部屋から出て、館の敷地内を歩くだけならまだしも……という感じ? まだ外は早いと」
「ええ、そう思っているわ」
「……段階を置いて、というのが面白いところよね。そうね、箱庭療法をなぞっているように思える」
「なによそれ」
「木の箱の中におもちゃや人形をならべて、自己の世界を表現する事よ」
「ああ、お人形遊びの一種なのね。それで自己が表現できるとは、なかなか簡単だわ」
「それと一緒だと思うの」
「……どこが?」
「今まで、自分の部屋だけという箱庭にいたわけじゃない?」
「――解ったわ。それならまあ意味も通じるか。いささか強引だとは思うけど」
「どんどん、領域が広がっているのよね。求める広さが」
「自分とあの部屋だけで満足していたのに、最近では庭まで出るようになったわよね」
「そう、部屋から館内、そして外へと。……心境の変化があるんじゃない?」
「かもね。それは成長かしら?」
「さあどうかしら。成長かもね」
「そこは本人のみぞしる、か」
「妹様の思考なんて読める自信ないわよ?」
「そんなの、他の誰でも変わらない。博麗霊夢だろうが、八雲紫だろうが」
「自分と違うってだけで、もうほとんど解らないわよね」
「そりゃそうだ。そうじゃないと、面白くないさ」
「それは同意」
「でしょう? ああ、咲夜、紅茶が冷めてしまっているから入れなおしてくれる?」
「私のもお願いするわ」
「かしこまりました」
「お茶が冷めるほど、話に熱を入れるのも久しぶりね」
「レミィは妹様の事だといつもこんなもんよ」
「ああ、そういえば、この一つ前もこの話題だったわね」
「そう。前はこれと真逆の内容だったけれど」
「あの頃は出すなんて考えてもいなかったのよ」
「良い事……なのかしら?」
「ふむ……悩みどころね」
「お嬢様、パチュリー様、お茶が入りました」
「ありがとう咲夜。さて、今度は冷まさないようにお茶会ね」

「……まったく、あの子ったら」

 ・4・

 暇。
 暇ね。
 暇なの。
 暇だわね。
 暇すぎるわ。
 暇なのかしら。
 よくわからない。
 何か無駄な思考を。
 そうやって、時間を。
 いつもの通りの暇潰し。
 お題もいつもの通りかね。
 それで十分だから、良いか。
 まあ、魔理沙も言っていたし。
 黒帽子の魔女の言葉を反芻する。
 考えるというのが大事、そうだろ。
 ベッドに横たわり、天蓋を見つめる。
 無心の草木を装い、考えを深めていく。
 だがしかし、なかなか上手くはいかない。
 原因たる右の手を顔の前に持って行き思考。
 右の手の中に、全てを壊せる目を持っている。
 これを一捻り、ただほんのちょっと突付くだけ。
 それだけで私は、いかなるものでも壊せてしまう。
 それが実に面白くて面白くないのよね、と一人事を。
 まるで、世界全てが私の能力以下に思えてしまうわね。
 ああ駄目だ。やっぱりいつもどおりの方向性になる。
 どうにかして、気分を変えていかなくちゃ。ふむ。
 ――叫ぼう。アアアアアアアアアアアアアアア。
 まだだな。アアアアアアアアアアアアアアア。
 アアアアアアアアアアアアアアアアア、あ。
 ここにないのなら、外には答えがあるか。
 名案のように思える。発展性があるわ。
 どうして気づかなかったのだろうか。
 自室だけでは世界を全知できぬと。
 ほぼ495年。ここで過ごした。
 ようやく見つかった気がする。
 気づくのが遅いのかしらね。
 さっそく準備しなくちゃ。
 お弁当が必要になるわ。
 逃げ出す算段も必要。
 準備段階は暇だわ。
 でも仕方ないし。
 ああ、暇、だ。
 退、屈、だ。
 扉を前に。
 さてと。
 開錠。
 閉。
書き終わった後の読み返しての感想。
見立て殺人失敗した人みたいな文章ですね。

追記

ちょっと訂正。

 書く時に色々考えていた事などは長くなってしまったのでこちらに。(http://huiuti.blog48.fc2.com/blog-entry-44.html)
 作品解説なんて大層なもんじゃないんですが、とりあえず。

 読んでくださった皆様には本当感謝感謝。正直マイナスありうるかなーと思っていたので、点数が入っているだけでも凄く嬉しいです。本当にありがとうございました。

 あと、形が歪だったのを直せるのに気づいたので直しなおし。
萩 ほとり
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/10/27 21:26:10
更新日時:
2007/01/16 16:24:03
評価:
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Rate:
5.00
1. 6 as capable as a NAMELESS ■2006/10/28 13:57:31
トリックだけに終始せず、ちゃんとキャラが活きてるのが流石。
2. 3 箱根細工 ■2006/10/29 14:58:31
歪です。
3. 4 反魂 ■2006/10/29 16:20:09
もったいない。
ただひたすら落ち切ってません。本当にもったいない。
これからさあ、物語が面白くなってきそうだというところでぶつ切り。起、承ときて承の1/3で止まった感じです。

タイトル含め、コンセプトや狙った物語は非常に秀逸。震えるほどに。
なればこそ、出来ればもっと完成された形で、この物語を読みたかった。作者様の世界観を、余すことなくこの作品にぶつけて欲しかった。そう思わずにはいられない。
4. 3 爪影 ■2006/11/01 02:14:58
 理解なんて物は、概ね願望に基づく物だ。とは、よく言ったモノですね。
5. フリーレス らくがん屋 ■2006/11/01 17:45:23
オチが無い。オチ無い話だから受験生に受けるかもね。あぁでも後書きに“失敗”ってあるじゃん……。
6. 5 椒良徳 ■2006/11/03 12:22:19
よい雰囲気の作品だと思います。
とはいえ、レミリアとパチュリーがしゃべっているシーンで、ひたすら会話文を羅列しているのはどうかと思います。もう少し、細かな描写を地の文として間に挟んでみてはいかがでしょうか。いや、狙ってやっているのでしたら御免なさい。
7. 5 Fimeria ■2006/11/04 19:46:18
結局彼女は狂っていた。かな?

最後の部分、彼女の思考の文が誰かを思い起こさせますね。
なんとなく、本人ではない気もする。
これで本人だったら、私の洞察力もその程度ってことですね。
8. 3 nn ■2006/11/05 20:10:00
何か投げっぱなしな気がするのですが。これが完成品です的な芸術家のようなペテン師のような佇まいが感じられたので、一応点をつけてみました。マイナス点でもおかしくなかったような気がします。
9. 6 つくし ■2006/11/07 18:15:00
あとがきが的確すぎてワラタ。さて、タイトルの意味に気づいてみるとかなり実験的かつ面白い作品ですね。フォルマリズムというか。箱庭の大きさと文章の大きさが矛盾しているあたりとか、フランドールの狂気と照らし合わせ、かなり深読みというか妄想をさせてくれます。文章自体を箱にしてしまったのは今回この作品だけではないか、という点に関してはお見事という他ありません。エンターテインメントとしては少しマニアックにすぎる気もしますが。
10. 3 おやつ ■2006/11/07 21:10:06
最後のような文の使い方が出来るって武器だなぁと心底思う。
暗い地下室から出て歩き始めた妹君に幸在れ。
11. 3 翔菜 ■2006/11/07 22:57:14
暇をもてあまして箱から飛び出て
12. 4 2:23am ■2006/11/09 21:16:58
面白いテンポ。けっこういいですね。落ちが弱かったのが残念。
13. フリーレス サカタ ■2006/11/11 05:53:33
よく分かりませんでした。どこら辺が逆さマトリョーシカなんですかね?
14. 8 ■2006/11/11 18:12:13
底知れないフランだからこそ、何らかの底知れない理由で、紫は「外に出してみてもいい」と思ったのでしょうか。ちょっと知ってみたいような、知ってみたくないような。
15. 3 たくじ ■2006/11/12 22:20:09
最後の三角形なんかは面白いなぁと思いましたが、物語としてはオチらしいオチもわからず。
私の読解力の問題でしょうか。
16. 3 藤村うー ■2006/11/13 02:03:45
 全体的な構成は漠然と理解出来るのですけど、横ピラミッドの文章が読み辛かったり叫び声で字数を稼いだりとさほど上手いとは感じられませんでした。
 フランドールと箱・箱庭の関係にある作品は、どうしてもお題が薄く感じられてしまいます。
17. 4 いむぜん ■2006/11/15 20:48:15
出るための努力を本人が独自にしている事。
出てもなお戻ろうとしている事。
同じ料理が並んでいる中では少し味が違った。そんな感じ。
フランドールは愚鈍ではないはずだし。
18. 4 ABYSS ■2006/11/16 17:14:10
私には理解が及ばないところが多々あります。
ですがこんな作品もあったっていいと思います。
個人的には割りと好きです。
19. 6 blankii ■2006/11/16 20:57:51
ううむ、うむ。人形含人形が逆さになると、どうなるんだろう? 読込み不足・理解力不足ですみません。
20. 4 しかばね ■2006/11/17 18:36:56
狂気や内面世界というのは、とても魅力的なテーマだと思います。
フランドールの内面世界なんて、いかにも難しいです。
文字の並びも表現の一つ。ご馳走様でした。
21. フリーレス 人比良 ■2006/11/17 20:17:28

……。
この文字数だと読みやすいな、と反省。
22. 4 K.M ■2006/11/17 20:28:20
首尾よく外に出たとして、フランは箱の外で何を知るのだろうか?
23. 5 時計屋 ■2006/11/17 23:12:22
逆さマトリョーシカ??うーん?あれ?
わかるようなわからないような……。
最後の場面でフランの情緒不安定さがうまくでてると思います。
24. 6 ルドルフとトラ猫 ■2006/11/17 23:33:20
なんというかこう……うまたげなことしてるなぁ
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