希望の行方

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/28 00:38:06 更新日時: 2006/10/30 15:38:06 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00








秋半ば。

まだ少し残る暑さとこれから来る寒さが喧嘩をしているような気温が続いていた。

「いい?1,2,3で行くよ」

「うん」

神社付近の森の中、茂みの一部が声をあげながらモゾモゾと動いている。

そして、目に見えるほどの深呼吸を1,2度行った。

「いち」

「にの」

「さ―」

「はい、ストッープ」

茂みから飛び出だそうとしていた二つの影は、別の茂みから突如出てきた紅白に止められた。

「いたた……何すんのよ!」

「何をするだー」

紅白に止められた妖精と妖怪はそれぞれ鼻の辺りを摩りながら叫んだ。

「それはこっちの台詞。大結界に何をするつもりだったのよ」

そう言った博麗 霊夢のすぐ後ろには、僅かだが大気を歪ませている結界があった。

「どうしてあたい等がいるって判ったのよ」

会話になっていない。

チルノの言葉に、霊夢はやれやれっと言いたそうな溜め息を吐いた。

「まず、話す声が大きすぎる。それから、ルーミアの周りだけ暗いから昼間だと判りやすいの」

「あっ……」

「そーなのか」

「理解できたかしら?じゃ、今度はこっちの質問に答えてね。大結界に何をしようとしてたの?」

笑みに少し怒気を混ぜながら、霊夢は再び問う。

「霊夢には関係ない」

「ないのだー」

「……………」

プツンという擬音が霊夢の頭の中に響いた。

その後、チルノとルーミアの身に何が起こったのかは語らぬ方が良い。




「くっそーーー、霊夢めー!腹が立つーーー」

「まあまあ、抑えて抑えて」

とある家屋の中で、チルノは卓袱台を叩きながら叫び、ルーミアはそれを宥めていた。

二人の身体にはボロボロとまではいかないものの、擦り傷などが多数見られた。

「しっかし……外の世界に行くにはあの結界が邪魔なのよねぇ」

「ねー」

「なんかいい方法ないかなぁ〜あっ、おっちゃん、冷えた麦茶ちょうだい」

「私もー」

「誰がおっちゃんだ、誰が」

声と共に、薬缶と湯のみを盆に乗せた森近 霖之助が入ってきた。

「全く、霊夢や魔理沙と言い、君達と言い……なんで僕の店を根城みたいに扱うかな」

「何を言ってるのさ、ここはあたいの拠点だよ」

根拠が全くないことを言いながら、チルノは麦茶を飲み干した。

「大体、おっちゃんだって言ったらちゃんと持ってきてくれるじゃん」

「だからおっちゃんじゃないって。そりゃあまあ、邪魔でもお客さんはお客さんだからね。ぞんざいに扱ったりはしないさ」

「なんかよくわかんないけど、手下一号ということで」

「良くない」

「おかわりー」

ルーミアの声に反応し、霖之助は湯のみに茶を注ぐ。

「あ、そうだ手下一号」

「だから違う」

「外の世界のことって何か知らない?」

何処から取ったのか判らない煎餅を齧りながらチルノは訊ねた。

「外の世界?」

「うん。あたい達外の世界に行ってみたいの」

「でも霊夢が邪魔するー」

「なるほど……さっきの叫びはそういうことだったか」

「ふーんだ、あたいが本気になれば霊夢なんてけちょんけちょんのばらんばらんよ」

「チルノちゃんすごーい」

「じゃあ本気になったらどうだい?」

「えーっと、今日はちょっと体調が……」

目を泳がせながらそう言うチルノを見て、霖之助はクスっと笑った。

「うーむ……そうだなぁ。ちょっと待っててくれ」

霖之助はそう言って立ち上がり、店の方へと消えて行った。

かと思えば、1分もしない内にまた現れた。

「少し、頼まれてくれないかな?」

「ん?」

「うん?」

卓袱台の上に、分厚い本が置かれた。

タイトルは何か特殊な言語で書かれているらしく、二人には理解不能だ。

「これを、紅魔館のパチュリーさんに届けてほしいんだ」

「はぁ?何でそんなことしないといけないのよ」

「そーだそーだ」

「彼女は色々と知っている。きっと外の世界についての話も聞けるだろうね」

「あっ、そっか。でもなぁ〜」

「教えてくれるかなぁ〜」

「だから頼まれてほしいんだよ。この本を届ければ、報酬代わりに話を聞くくらいはできるんじゃないかな」

「あ、なるほど。でもなぁ〜」

「入れるかなぁ〜」

「紹介状を書いてあげよう。それを見せたら門番どころかメイド長もすんなり通してくれるよ」

そう言って、霖之助は卓袱台に紙を置いて何かを書き始めた。

「ねぇねぇ、この本って何の本なの?」

ルーミアがペラペラと本のページをめくりながら訊ねた。

「さぁね。数日前に魔理沙が忘れて行ったんだよ。どうも図書館から無断で持ってきた物みたいだったから返すことに決めたんだ。それに、僕には必要のない内容だしね」

「そーなのか」

ルーミアが本を閉じるのとほぼ同時に、霖之助が書く手を止めた。

「さぁ、これが紹介状だ。無くしたり水に濡らしたりしないようにね」

「それくらい余裕よ」

「軽い軽い」

そう言って、二人は霖之助の紹介状を受け取った。

「さぁ、目指せ紅魔館!」

「の図書館!」

二人は表に飛び出そうとする。

「ちょっと待った」

が、霖之助に止められた。

「本を忘れてるよ」




二人は驚いていた。

何に対してかと言うと、霖之助が書いてくれた紹介状の効力に対してだ。

本当に門番はおろか、あのメイド長ですらすんなりと通してくれた。

調子に乗ったせいで、メイド長に紹介状を破り捨てられかけたのには少し焦ったが、図書館前まで来ることに成功した。

「むらさきもや―」

叫びながら図書館に入ろうとした途端、チルノが後方に吹き飛んだ。

「こんにちは〜」

ルーミアはあえてチルノの方を見ず、挨拶をしながら図書館の中に入った。

「こんのーーーあったまきた」

怒ったチルノは走って図書館に入ろうとする。

そしてまた吹き飛んで、3回目にしてようやく中に入ることができた。




「それで、本を持ってきたということね?」

霖之助の紹介状を読みながら、パチュリー・ノーレッジは二人をジロジロと見た。

「うん、これ」

ルーミアがそう言いながら、一冊の本を差し出した。

「ふうん……確かに4,5日前に盗まれた本だわ」

パラパラと捲って数ページ読んだ後、パチュリーは従者らしくない少女に本を手渡した。

少女はそれを持って本棚の森へと消えて行った。

「で、駄賃代わりにあなた達に話をしろと書いてあるわね。何が聞きたいの?」

「えーっと……」

「何であたいは入れなかったのよ!」

ルーミアを遮って、チルノが叫ぶ。

「どういう意味よ?」

「この図書館のこと。あたいだけ2回も入れなかったよ?」

「あぁ、それは図書館に侵入しようとする物体の発する音の大きさが一定以上、速度が一定以上だった場合、弾くように結界を張ってるのよ。そのどちらか片方を満たしていれば吹き飛ばされて当然よ。図書館に騒がしい連中は必要ないわ」

「むう……」

思い返してみれば、確かにチルノは大きな声を出しながら入ろうとしたり、走って入ろうとしていた。

チルノでもそれくらいは理解できる。

「満足かしら?」

「満足じゃない。まだ聞きたいことがあるもん」

「できたら次で最後にしてね。静かに本を読みたいから」

「ケチ」

「嫌なら今すぐ帰って」

そう言って、パチュリーは持っている本に目を落とす。

「私達、外の世界のことについて知りたいの」

歯軋りしているチルノを尻目にルーミアが本題を切り出した。

「外の世界……それってつまり幻想郷の外のことかしら?」

「うん」

「あたい達、外の世界に行きたいんだけど、霊夢んとこの結界が邪魔なの。何か良い方法ない?」

「あなた達は外の世界の状況等が知りたいの?それとも行く方法が知りたいの?」

「両方」

「どっちもー」

「……………」

パチュリーは深い溜め息を吐いた。

そして、少し考えた後、口を開いた。

「まあ良いわ。話してあげましょう。少し長くなりそうだけど」

「どんとこい!」

「どーんとこーい」

「外の世界は一言で言うなら恐ろしい場所よ。遥か昔にはこちら、幻想郷と同じ程度の文明だったのに、僅か数百年の間に目まぐるしい進化を遂げた」

「文明って何さ?」

「いきなり話の腰を折らないでほしいわね。文明っていうのは技術的・物質的な所産のこと。ちなみに所産というのは作り出される物、生み出される物のことを指すわ」

「そーなのか」

「例えばどんなのがあるの?」

「人を乗せて空を高く飛ぶ鉄でできた鳥とか、特定の道を走る鉄の芋虫、何処でも水場以外は自由に走れる鉄の獣とかね。それらは全部人間が作ったの」

二人は頭の中でその様子をイメージしてみた。

「へぇ……変なの」

「でも、それがどうして怖い所なの?」

「確かに、それがあるだけなら恐ろしくもなんともないわ。けど、人間達が作ったのはそれらだけじゃない」

「人間達って……妖怪とか妖精は?」

「妖怪や妖精はそのほとんどが追いやられ、行き場を失い、そして幻想郷に流れついたの。私もその一人だけどね」

「そ、そーなのか」

「まーあんたのことはどうでも良いわ。早く続―」

突如、チルノが燃えた。

しかし、ものの数秒で火は消えてしまった。

「少しは反省したかしら?」

「何を!」

「あなた風情に『あんた』呼ばわりされるほど私は落ちぶれてない」

「知らないよそんなの」

「もう1回燃やしたいところだけど、早く終わらせるために続きを話しましょう」

パチュリーは持っている本を枝折を挟んで閉じ、それをテーブルの上に置いた。

「人間達は命を奪う武器を作った。まあ武器自体は幻想郷ができるよりも前から存在したけど、武器の性能はどんどん進化を遂げて行った。今では、ボタン一つ押すだけで何千、いや、何万の命を奪うほどの物が出来上がってしまった」

「そんなの作ってどうすんのよ」

「そーだよね。お魚とか取るには手とか棒で充分だし」

二人は千や万の大きさがどれくらいなのか判ってはいない。

ただ、凄く多いということだけは何となく判った。

「簡単よ。人間同士が殺し合うために作ってるのよ」

「はぁ?外の世界の人間ってバカ?」

チルノに対し、2つの視線が集中する。

どちらも、『お前が言うな』とでも言いたそうだ。

「でも、幻想郷の人間達は皆仲良しだよ?」

「それは幻想郷が狭いからよ。外の世界は幻想郷よりもっともっと広い。そして、色々な所に色々な考えを持った者達がいる。そうね、ある所に霊夢がいるとしましょう」

そう言って、パチュリーは小さな紙を引っ張ってきてそれに『霊夢』と書いた。

「そしたらそこに魔理沙がやってきました」

また紙切れを取り出し、『魔理沙』と書き込む。

「さて、二人が出会ったらどうなる?」

「知らない」

「一緒にお茶飲む」

「そうね。多分そうなるでしょう」

チルノを無視し、ルーミアの意見に肯定した。

「では、そこにさらに咲夜がやってきました。困ったことに咲夜は霊夢や魔理沙と仲があんまり良くない。さて、どうなると思う?」

「喧嘩するんじゃないの」

「そうなる可能性は高いわね。ではどうして、同じ人間なのに霊夢は魔理沙と仲が良いけど、咲夜は二人と仲が悪いのかしら?」

『咲夜』と書いた紙切れを指で突付きながら、パチュリーは二人に問う。

「わかんない」

「私もー」

二人の数十秒でのギブアップに、パチュリーはまた溜め息を吐いた。

「いい?霊夢や魔理沙は自由奔放に生きている。それに比べ、咲夜は私やレミィに仕えている。この2種類が何かをする時、何を優先させると思う?」

「自分じゃないの?」

「あー、そっか」

「判ってても判ってなくてももう良いわ。一言で言うなら、考え方が違う。そして、何を利とするか、害とするかもね。その考えや利害が仮に一致するならば、例え仲が悪くても一緒に行動したりする。けど、一致しないのなら、争いが起きるのよ」

「私が人間を食べたいと思っても人間は抵抗するもんねー」

「何かおかしい気がするけどまあそういうことよ。相手と考えが合わないから争い、殺し、奪う」

「変なの。楽しく遊んで暮らせば良いのに、どうしてそんな風になるんだろ」

「じゃあ聞くけど、あなた達は何を食べてる?」

「木の実とか」

「お肉ー」

「それはどうやって得ているのかしら?」

「森とか探したら見つかるよ」

「私は狩りかなぁ〜」

「あなた達二人ぐらいならそれで足りるでしょうね。でも、幻想郷の里の人間達はお米などの食べ物を作ってるでしょう?」

「そうだっけ?」

「そうだよー」

「人間は群れる生き物なの。数が多いから木の実や動物一頭分の肉じゃ足りないし、人数分を取り続ければいずれはそれら自体がなくなってしまう。だから自分達で作物を育てたりするのよ。狩りをするのにも武器や道具を作ったりする。他にも住む所がないから家を建てたりする。あれがしたいから作る、それがしたいから作る。そうやって人間は文明を築いていくのよ」

「へぇ〜人間って色々大変だねぇ」

「そして、数が増えすぎて住む所に困ったり、食べ物が足りなくなったら他の所から奪う。そこに別の人間がいれば話し合い、利害が一致しなければ争う」

「ほんと、人間って変な生き物ね」

「そーだねぇ〜」

「けど、世界の幅は決まっている。領土は飽和し、様々な国ができ、考えが違うも無理に利害を一致させて牽制し合いながら存在している。それが今の外の世界よ」

「そうなのか」

ルーミアのその返事を聞いて、パチュリーはホッと一息吐いた。

「人間もあなた達みたいに気楽に生きれたらねぇ」

「ふふーん、人間風情にあたい達の真似なんてできやしないさ」

そう言いながらチルノはふんぞり返る。

それを見て、パチュリーは笑った。

微笑むのではなく、嘲笑った。

「まあ、外の世界がどんなのかってのは大体判った」

「そう……じゃあ、そろそろ―」

「次は外の世界に行く方法教えてよ」

「……………」

パチュリーはまたまた溜め息を吐いた。

チルノのことだからこれだけ長々と説明すればもう一つの方は忘れているだろうと思っていた。

しかし、甘かったようだ。

「少し、休憩しましょう」

「あ、そうだね。それ採用」

丁度おやつの時間だったらしく、メイドが4人分の菓子と紅茶を運んできた。

「あれ?一人分余る……?」

気が付くと、チルノの隣には先ほど本を片付けに行った少女がいた。

どうやら彼女の分も含まれていたらしい。

こうして、少しだけうるさい休憩タイムが始まった。




「さて、続きを話しましょうか」

ポットの紅茶が無くなりかけた頃、パチュリーが口を開いた。

「うん、お願い」

「お願いしまーす」

二人の返事を聞き、パチュリーはカップに残った紅茶を飲み干し、また一息吐いてから言葉を発し始めた。

「外の世界に行く方法。その手段は少なく、そして難しいわ」

「どういう風に難しいのさ?」

「手段は3つ。1、博麗大結界を壊す。2、大結界の穴を探し、そこから出る。3、何処かのスキマ妖怪に頼む」

「むう……なんでそれが難しいの?」

「一つ一つ話してあげましょう。まず、その1。博麗大結界は幻想郷が創造されるときに博麗の名を持つ者が張った結界であり、この世界、幻想郷と共にある。それを壊してしまった場合、外と幻想郷の境界が曖昧になり、最終的にはどちらかがもう片方に飲み込まれることとなる」

「そんなことどうでも良いから、やり方は?」

「………さぁ?」

「はぁ?」

「私は壊し方なんて知らないわ。それにあなたは『行く方法を教えろ』と言ったからね。『壊す方法』は教えられないわ」

「????」

チルノの顔には疑問符が沢山浮かんでいる。

恐らく、二つの『方法』の違いが判っていないのだろう。

パチュリーはチルノを無視し、話を次へと進める。

「次に、その2だけど」

「結界に穴なんてあるの?」

まだ考えているチルノではなく、ルーミアが質問をしてきた。

「いい質問ね。確かに、普段見る限りでは穴なんて何処にもない。幻想郷に沿って何日かけても、何人で探しても見つからないでしょうね」

「じゃあ、穴なんてないんじゃあ」

「普段ないからと言って存在しないなんてことはないわよ。穴がなければ?」

「開ける……?」

「そう、その通り」

何となく、パチュリーはルーミアの頭を撫でた。

「でもそれって、壊すことと同じなんじゃないの?」

「こっちから開けるならば確かに同じ。でも、向こうから開いたらどうかしら?」

「あー、なるほど〜けど、向こうからって開けれるの?」

「自発的に開けることはこっちからでもあっちからでも無理に近いでしょうね。そうね……例えば、結構前から朱鷺がかなり増えてきてるでしょう?」

「朱鷺?」

「鳥の一種よ。外の世界で朱鷺は絶滅に瀕している。なのに、この幻想郷では朱鷺が増えてきている。その理由、判るかしら?」

「うーん……」

「外の世界で住めないからこっち来たんじゃないの?」

考えるルーミアの隣からチルノが声をあげた。

「80%正解よ」

「へへーん、そんな問題どんなもんだい」

「全くもって面白くないし意味が通ってないから0点」

「うう……」

「何故この世界の名前が『幻想郷』か。それは外の世界から消えてしまい、空想の、幻想の生き物となった者達が住まう郷(くに)だからよ」

「えーっとつまり……こっちにチルノちゃんや私がいるからあっちには私達はいないってこと?」

「個体を説明するならそうなるわね。今でも極稀にこちらに迷い込んでくる人間がいる。動植物も個体があるとは言え、人間や妖怪等と違って個体より種が重要視されているから種が絶滅に瀕するとこちらに多くなる」

「じゃあ、その鳥とか迷い込んだ人間が通るのが……」

「現実と幻想を繋ぐ大結界の穴」

「んじゃそれ見つけたら出れるんだね?」

ルーミアを押しのけ、チルノが前に出る。

「あなたはもうちょっとよく考えなさい。鳥や人間達はいつ何処からこちらに来るか判らない。しかも、その穴はその時しか開いていない。探して見つかるようなものではないわ」

「何よそれ。偶然見つけろっていうの?」

「そういうことね。それに、出たら出たでまた大変よ。幻想の産物が現実に漏れ出した場合、その後の行動によっては二度と幻想郷に戻れなくなるかもしれない」

「それじゃダメね。あたい達は『ひがわりツアー』で行くんだから」

「日替わり……?」

パチュリーは少し考えた後、脳内で『日帰り』の間違いではないかと判断する。

しかし、修正を要求するような言葉は出さない。

「ま、とりあえず2番目もダメってことか」

「3番目はもっとお薦めできないけどね」

「3番目ってなんだっけ?」

「何処かのスキマ妖怪に頼む」

あーっと言いながら、チルノは思い出したとでも言いたそうに手をポンッと叩いた。

「で、そのスキマ妖怪って誰?」

「八雲 紫よ。会ったことないかしら?」

「あぁ、あのおばさ―」

何かを言いかけたチルノが勢いよく前に倒れた。

奇妙な叫びと共に、少し鈍い音がする。

腕らしき物が何処からか出てきていたような気がしたが、パチュリーはそれを無視する。

「彼女は境界を操る力を持っている。深くは追究しないけど、彼女の力を使えば外の世界どころか亜空間や異世界に行くことすら可能かもしれないわ」

「じゃあ、その人に頼めば」

「頼みが通れば簡単でしょうね。けど、彼女もちゃんと道理を弁えている。その上性格もあんまり良くないからね。多分頼んでも無理よ」

「性格悪くて年増とか最悪のおばさんだよね」

起き上がったチルノが今度はさっきより勢いよく倒れた。

再び、奇声と鈍い音がした。

「思いつく方法はこれくらいね」

「うう……どれも無理っぽいじゃん」

「そうね。まあ、結界破壊が一番可能性が高いかしら」

「じゃあやっぱりそれで―」

「けど、この中で結界破壊が最もやってはいけない行為でもあるわ」

「へっ?」

「どうして?」

小さく一呼吸した後、パチュリーは口を開いた。

「いい?さっきも言ったけれど、博麗大結界を壊すことは外と幻想郷の境界を無くしてしまうことになるの」

「壊す範囲が小さきゃ良いじゃん」

「確かに、理屈ではそうかもしれない。けど、その破損箇所が実は見た目より全体に大きな被害を与えていたら?修復が遅れたら?どうなると思う?」

「知らない」

「わかんない」

「1枚の氷の板に傷があったりヒビがあるとしましょう。その氷を叩くと傷やヒビがない物より割れやすいでしょう?」

「そうなの?」

「結界も同じ。1箇所破損があれば、僅かとは言わないけどある程度の力を持ってすれば全体が簡単に壊れてしまう。それに、壊して穴を空けた場合、自然に穴が空いた場合と違い、外からの流入もこちらからの流出も格段に多くなるわ」

「それがなんか悪いわけ?こっちがあっちにちょっとくらい流れたって良いことがあるかもしれないじゃん」

「まあ、可能性は無きにしも非ずね。でも、その量が少し、また少しと時間と共に大きく、多くなり、そして結果的には大結界の全てが壊れた場合と同じになってしまうの」

「もう1回言うけどさ、それがなんかダメなの?そもそもあたいには区切ってる理由がよくわかんないんだけど」

パチュリーはまたまた深い溜め息を吐いた。

そして、チルノを見て、心の中で思った。

『あぁ、この娘はバカなんだなぁ』と……

「いい?幻想郷にも人間はいる。けれど、外の世界には妖怪等はほとんどいない。どうしてか判る?」

「こっちに来たいから来たんでしょ」

「違うわ。そういう輩もいるけど、多くは人間に恐れられ、排斥され、ここに流れ着いたの」

「へぇ〜」

「ま、それらも結局は来たいから来たと言っても良いんだけどね。さっき話した朱鷺とは少し理由が違うけど、結果的には一緒」

「で、それがなんか関係あるの?」

「あるわよ。人間は妖怪や悪魔を恐れる。それが外に出たら当然、人間達は恐れてさっき言ったような凄い武器を使ったりするでしょうね」

「なるほど……」

「パンドラの箱というのを知ってるかしら?って知ってるわけないか……」

「パンダの箱って何?」

「お約束のボケをありがとう。パンドラの箱というのは外の世界の神話に出てくる物なんだけど」

「何が入ってるの?」

「お菓子かな?」

「お菓子が入ってたら理想的ね。けど箱の中に入ってるのは厄災と希望」

「はくさい?きー坊?」

「黙って聞いてなさい」

「うう……」

パチュリーの言葉に、チルノは自分の言葉を飲み込む。

「厄災というのは嫌なことや辛いこと、不快なことのことよ。希望というのは願いとか何かに期待する心ね」

「良い事も悪い事も出てくるの?」

「んー……ちょっと違うわね。箱の中には確かに厄災だけじゃなく、希望も入っているけどその規模は極めて小さい。そして、厄災は箱を開けた途端に外に飛び出すけど、希望は箱の中に残るのよ」

「そーなのか」

「ちょっとちょっと、あたいは黙らされてるのに何でルーミアは喋って良いわけ?」

「余計な返事をする暇があるなら黙って考えてみるか考えてから質問しなさい。話が先に進まなくなるじゃない」

「うぐ……」

チルノは再び言葉を飲み込んだ。

「外と幻想郷の境界である結界を壊すということはパンドラの箱を開けるのと同じこと。厄災は外へ飛び散り、希望の名を持つものは動かない。そして世界はめちゃくちゃになる」

「じゃあ開けなきゃ良いじゃん」

「……………」

「チルノちゃん……それ、本気で言ってるの?」

「え?あたい何か変なこと言った?」

ルーミアとパチュリーはほぼ同時に溜め息を吐いた。

そして、こう思った。

『あぁ、この娘はバカなんだなぁ』と……

「黙って聞いてろと言いたいところだけど……まあいいわ。その言葉に対することもいずれ言おうと思っていたから」

「ほら、変じゃないじゃん」

「……………」

また燃やしてやろうかと思ったけど、パチュリーは踏み止まった。

「開けなければ良い。確かにそれは正論ね。中身が不都合な物と判っていて開ける者はまずいないでしょう。では、何故パンドラの箱は神話において開かれたか?」

「知らない」

「-273.15点」

「うわ、何その点数」

「絶対零点とでも言っておこうかしら。ともかく、判らないなら答えないで良いわよ。時間の無駄だから」

「中身がわからなかったからかな?」

「50点」

「うーん……他に何かあるの?」

「そうねぇ……あなた達は、何を思って外の世界へ行きたいの?」

「行ってみたいから」

「からー」

「じゃあ、すぐそこに何が入っているか判らない箱があるとしましょう。どうする?」

「開ける」

「開けてみる。あっ」

何かに気が付いたのはやはりルーミアの方だった。

そんなルーミアを見て、チルノは疑問符を浮かべている。

「パンドラの箱は開けた結果、中に厄災と希望が入っているのが判った。しかし、開けなければ少なくとも厄災にみまわれることはなかった。では何故開けたか?」

「中身が判らなかったし、気になったから?」

「それで100点ね。要は無知と好奇心なの。箱を開けた人物は神から貰った中身の判らない箱を好奇心で開け、その結果厄災を世界に出すことになってしまった」

「ふうん……」

「道理を弁えている者は幻想郷から出ようとしても、結界を壊すことは絶対にしない。何故なら幻想郷が壊れてしまうのを知っているから。もう少し別な方法を探すか諦めるでしょうね。けど、あなた達みたいなのは一番簡単な方法を探し、それが結界破壊の場合は迷うことなくそれを実行する。何故か?外への好奇心が強い上に物事をよく考えないからよ」

「もしかして、あたい今バカにされてる?」

「えぇ、凄くしてる」

二人の間に数秒の沈黙が訪れる。

「ふん、まあいいや。ともかく色々判ったわ。そのなんとかの箱に対する解決策もね」

「えっ?ほんとう?」

「ふうん……そんなものがあるなら聞いてみたいわね」

「あんたには教えてやんないもんねー」

ベーっと舌を出してチルノは逃げ出す。

「あっ、チルノちゃん」

「全く……失礼ね」

「あー、えーっと……ありがとうございました」

ルーミアはオロオロとしながら、ペコリと頭を下げてそう言った。

その後、チルノの後を追いかけて図書館から出て行った。

「やれやれ……」




パチュリーはまたまた溜め息を吐いた後、当初読んでいた本を取った。

「……………」

ふと、何かの気配を感じる。

さっきの二人がまだいるのだろうか?

それはないだろう。

出て行くところは見てないが、氷精がまた入り口の結界に弾き飛ばされた音は聞こえた。

では、小悪魔だろうか?

それも違う。

彼女は気配を消そうとはしない。

気配の主は無理に気配を消そうとし、逆に炙り出し状態になっている。

そんなことをするのは一人しか思いつかない。

「魔理沙、本の持ち出しは禁止よ」

「げっ、見つかったか」

パチュリーが座っている椅子の丁度後ろの本棚の裏側からそんな声がした。

本をまたテーブルの上に置き、本棚の裏からこちらに近づいてくる足音に耳を傾ける。

「よ、よぉっ」

「立読み、座り読みは自由。けど汚すのと持ち出しは禁止。何度言ったら判るのかしら?」

「誤解だぜパチュリー。私は別に持ち出そうなんざ―」

「膨らんだ風呂敷背負いながら言っても説得力がないわよ」

魔理沙の背には魔理沙の頭よりも大きく膨らんだ風呂敷がある。

頬被りをして口周りに髭でも生やせば典型的な泥棒にでもなるかもしれない。

「いつからいたの?」

「えーっと……お前等が話を中断して休憩してるときくらいだな」

「で、その間に物色してそろそろ帰ろうとしてたってわけね?」

「物色とは人聞きが悪い」

「それじゃあ、その本は置いて行くのよね?」

「お、おう。ここで読んでいくぜ」

微かだが、魔理沙の口元から舌打ちのような音が聞こえた。

そして、パチュリーと同じテーブルに座り、渋々ながら持っていた本を読み始めた。

「なぁっ」

数分しか経っていないが、魔理沙が声をあげる。

「うん?」

「さっきの話を聞いてたんだけどさ、幻想郷がそのなんとかの箱だってんなら、幻想郷の中での希望ってなんなんだ?」

「パンドラの箱よ。まあ私は幻想郷をそれに例えた覚えはないけどね」

「でも、近いとは思ったんだがな。厄災ならそこら辺にうようよしてるし」

「そりゃあね……けど、私はどっちかと言うと外の世界をその箱に例えてたつもりだったんだけどね」

「外をか?それは無理なんじゃないか?」

「なんでよ?」

「いいか?」

そう言って、魔理沙もテーブルに本を置いた。

パチュリーにとっては魔理沙の言おうとする言葉よりも彼女が何故未だに風呂敷を背負ったままなのかの方が気になっていた。

多分、隙あらばそのまま逃げるつもりなのだろう。

「パチュリー、聞いてるか?」

「聞いてるわよ。そもそもまだ言ってないでしょう」

「まあそうだが。でだ、その根拠だが」

魔理沙は少し声を溜める。

パチュリーは相変わらず魔理沙の背後を見続けている。

「あっちの世界の方が大きいからだ」

「………はぁ?」

一瞬だが、魔理沙がチルノに見えたような気がした。

いや、むしろ意図的にそう見たのかもしれない。

「バカ」

「何か言ったか?」

「言ったけど言ってないことにしておいて。取り合えず、そんな単純なことでは私の言葉を否定する根拠になってないわよ」

「どうしてだよ?幻想郷よりでかいんだぜ?幻想郷から見て箱なわけないじゃないか」

「いい?箱を開けるのは幻想郷ではなく一個人よ?その個人より大きい箱なんていくらでもあるわ」

「けど空間的におかしいだろ。自分よりでかくても、自分がいる空間に入りきってるから箱って言えるんじゃないか?」

「そうね。確かに幻想郷は外よりも圧倒的に小さいわ。でも幻想郷が箱の中の箱だとしたら?」

「なんだそりゃ?」

「外の世界自体が大きな箱であり、幻想郷はその中の小さな箱の一つっということよ」

「私自身は外の世界を知らないんだが……外の世界にも結界みたいなのがあるのか?」

「あるわよ。そこら辺はどこかの蓬莱人にでも聞けばよく判ると思うわ」

「しかし、箱の中の箱って言ってもなぁ……それだとこっちから向こうを箱だと言うことへの証明にはならないと思うんだが」

「ま、万人に通じることじゃないでしょうね。でも、こちらから蓋を開けてみれば外の世界という箱の中身は判るし。それに私は幻想郷の視点から見て外を箱に例えたわけじゃないわ」

「じゃあ最初からそう言えよ」

「あなたの根拠があまりにもバカらしく単純すぎたから付き合ってあげただけよ」

「そりゃどうも」

魔理沙にはパチュリーの話がいまいち理解できていない。

ただ、自分の意見とパチュリーの意見には大きなずれがあることだけは判った。

「で、何で外がそのなんとかの箱なんだ?」

「パンドラよ。聞いてたから判るでしょうけど、パンドラの箱の中には厄災と希望が詰まってる」

「あぁ、聞いたぜ」

「そして聞いてないでしょうけど、外の世界には人間だけではなく妖怪をも大量に殺戮する兵器が沢山あるのよ」

「ほー……」

「開いてしまえば、外と幻想郷は確実に戦争になるでしょうね。そして、数人凄いのがいるけど結果的に負けるのはこっちになる」

「吸血鬼や幽霊や蓬莱人でも無理か……怖いもんだな」

「戦争もそうだけど、私が一番危惧しているのは妖怪の人間化……そして、人間の妖怪化よ」

「人間が妖怪化ってのはわかるが……」

「別にそれそのものに完全になるわけじゃないわ。ただ、力関係が完全に逆転してしまい、妖怪が力を捨て、人間から隠れて生きるために人間と同じような状態になるかもしれない。古の法や特殊な力というものは全て闇に葬り去られ、人間にとっての現実が突きつけられる」

「それが妖怪の人間化か」

「そうよ。そして人間は自分達の文明を生かし、妖怪達を研究し、いずれは妖怪がやってきたことを苦労しながらでもやり遂げていく……ついでと言ってはなんだけど、妖怪も人間も敵わない絶対的な力を持ちつつね」

「けど、それらは厄災の部類だろう?希望があるんならなんとかなるんじゃないか?」

「いいえ、パンドラの箱で一番の問題点は希望は箱から出ずに動かないということなの」

「つまり、自分で取り出せってことか?」

「取り出せるならまだ良いわ。だけど、外の世界をパンドラの箱とした場合、それも容易ではないの」

「なんでだよ」

「私の知る限りだけど、外の世界で明確な『希望』は存在しないからよ」

「はっ?」

魔理沙が数秒固まる。

「そういえばさっき、幻想郷をそれとした場合、希望は何なのかと訊いたわね?」

「訊いたぜ。話をそらしたのはそっちだがな。まあそれはいいとして、何なんだ?」

「別に考えなくても判るでしょう。凄い力を持ってるけど、自発的に動かないのがいるじゃない」

「あー……いるなぁ」

二人の頭にお茶を飲んだりゴロ寝してるとある人間の姿が思い浮かぶ。

「ここで言う希望は厄災を討払う、または打開策を見つけるためのもの。だからまあ幻想郷のは判りやすいんだけどねぇ」

「外の世界にはそれっぽいのがないってことか。じゃあ外をその箱に例える必要ってなくないか?」

パチュリーは魔理沙の言葉にうーんと唸った。

「厄災しかないなら微生物とかはともかく、人間みたいな生物は生きていけないわ。何処かに希望はあるはず。けど、それが判らないし厄災が巨大で明確過ぎるから私はパンドラの箱に例えるのよ」

「なるほどな。確かに開けたら厄災と希望が入ってることになるな」

「希望は行方知れずだけどね……まあ、厄災から成る酷い希望ならあるわよ」

「なんだそりゃ」

「大量殺戮兵器。それを使えば人間も妖怪も共存せざるをえなくなるほど衰弱するわ。ただ、それをした場合、環境問題やら食糧問題でまた争うことになるけどね。更にその兵器を使えば、今度は全てがなくなってある意味平和になるけど生命滅亡という大問題が待ってるわ」

「何も解決されてなくないか?」

「そうね」

「希望……希望ねぇ」

「厄災を一手に担う希望も、厄災の中で生き延びる希望も用意されてはいない。もしかしたら、外の世界という大きな箱の中では、幻想郷という存在自体が希望だったのかもしれない。だから、幻想郷からすれば外に希望なんてものはないのかもね」

「厄介なもんだなぁ」

「だから私は危惧してるのよ。中身が判ってるんだから開ける必要はない。開ければと必ず損をすると判るんだから開けるな。どうしても開けたいのなら、せめて打開策を考えておきなさい」

「私も心に留めておくかな」

「そうしてもらえると話した甲斐があるわ」

パチュリーは再び本を手に取る。

そして、もう語るのは止めると体現するかのように、本を読み始めた。

「そういえばあいつら、何か判ったとか言ってたなぁ」

「どうせロクなことじゃないでしょうけどね。それより魔理沙」

「何だ?」

「いい加減、背中のそれを降ろしたらどう?」

「……………」

「……………」

「あ、あぁ、そうだな。私としたことが忘れてたぜ」

どうやったら忘れられるのか、パチュリーは疑問に思った。

まあどうせ、隙を見て持って逃げるつもりだったのだろう。

「あぁ、それと」

「ま、まだなんかあるのか?」

「帽子の中に入れてるのも置いていってね」

「………おう」

弱々しく返事をした後、魔理沙は帽子からも本を取り出した。

そして、持ち出すことを諦めたのか、パチュリーと一緒に本を読み始めた。




「チルノちゃーーん、待ってよーーー」

やや日が傾き始めている午後、湖付近でそんな声が響いた。

見れば、青っぽい少女を黒っぽい何かが追いかけている。

遠巻きに見ればそんな感じだが、近くに寄ればその正体はすぐにわかる。

チルノとルーミアだ。

湖を抜け、林に差し掛かった辺りでルーミアはチルノに追いついた。

「遅いよルーミア。これから忙しくなるんだからそんなにノロノロしてちゃダメよ」

「ご、ごめん」

「まあいいわ。これから最強で天才でゴージャスなこのチルノ様がこれからの作戦を説明するからよーく聞きなさい」

「うん」

適当な大きさの石の上に立つチルノ。

そして、ルーミアは地面に座った。

「まず、外の世界に行く方法ですがー」

「うんうん」

「当初の予定通り、結界破壊の方向で行きます」

「お〜……けど、図書館でそれはダメだって―」

「あんな紫もやしの言うことなんて信じなくて良いわ。あたいはだっかいさくを思いついたんだから」

「打開策?」

「そう、打開策」

チルノはルーミアの修正を暗黙のまま受け入れ、そしてクルリとその場で回った。

「はい、ではルーミアくん。なんとかの箱とは何かを言ってみたまえ」

「パンドラの箱?」

「そう、それ。ルーミアくんに判るかな〜?」

何か腹が立つがルーミアは我慢した。

そして、さっきまでの話を少し思い出す。

「えーっと、厄災と希望が詰まった箱で、開けると厄災だけが飛び出してきて世界をめちゃくちゃにしてしまうような箱?」

「う……な、なかなか覚えてるじゃない」

声をどもらせた理由をルーミアは追究しない。

そんなことよりも、チルノが言う打開策とやらを聞いてみたいからだ。

「まあ取り合えず、世界がめちゃくちゃになっちゃったら外の世界へ行っても意味がありません。そこで、チルノ教授は考えました」

「教授……?」

「最初から希望を用意して開けましょう」

「………は?」

「幻想郷から厄災が飛び散らないようにして、その上で希望だけ出すの。そうすれば外の世界の人間達とも仲良くなれるでしょう?」

「え?あ、うん、そうだね」

「というわけで、これからその『希望』とやらを探しに行くの」

「……………」

ルーミアはぎこちない笑みのまま、再びこう思った。

『あぁ、彼女はバカなんだなぁ』と……

「そうと決まれば、ぜんざいは急げよ!」

「お汁粉?」

「あたいは粒餡派さ」

「じゃあ私は白玉団子つきでー」

「さー、行くよルーミア。あたいの伝説はここから始まるのさ!」

「粒餡伝説かー」

「ちがーう、チルノ伝説!」

「あー、はいはい」

ルーミアは少し考えてみた。

幻想郷の希望。

厄災を押し留めるような希望……

そして、一つの答えに行き当たる。

「で、ルーミア。何か『希望』に心当たりある?」

「え?ううん、全然」

ルーミアは首を振ってそう答えた。

「そっか。じゃあ適当に探そ」

「うんっ」

二人は飛び立った。

希望のある場所へ。

希望がいる場所へ。

それが何処かは知らない。

片方は知っているけど知らない振りをしている。

何故なら、それが正解だとすれば本末転倒になるからだ。

でも、楽しめれば良い。

見つからなくても、過程で楽しめれば良い。

それで答えが違っており、更に正解まで見つかればそれも良い。

二人は、各々が希望することの行方を追う……








<了>



希望は何処にある?

希望は此処にはない。

希望はそこにもない。

希望は何処にある?

箱の中にはない。

箱の外にもない。

希望はない。

けれど、希望は確かにある。

遠くに、近くに。

きっと、すぐそこにあるに違いない……
対馬 光龍
http://t-r-k.hp.infoseek.co.jp/main.htm
作品情報
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投稿日時:
2006/10/28 00:38:06
更新日時:
2006/10/30 15:38:06
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Rate:
5.00
1. 4 as capable as a NAMELESS ■2006/10/28 14:21:39
いやいや外にも希望はある、はず。
2. 10 読むだけの人 ■2006/10/29 03:00:50
お見事でした!
3. 3 箱根細工 ■2006/10/29 15:21:14
思慮が足らない。
4. 3 反魂 ■2006/10/31 04:07:21
全体的にちょっと単調な気がします。ほのぼのとはしていますが、いかんせん物語になりきっていません。問答集になってます。
行動の理由付けが少なく、語りが多すぎます。これではまるで語らせるためにキャラが置かれているみたいな、本末転倒な感じを受けてしまう。魔理沙なんかが特に顕著で、パンドラ問答を進めるために居てもらっただけ、と見えてしまいます。まして幼稚キャラがなまじ軸にあるのですから、もっとストーリーに奥行きや脈動を付けていかないと、ただ問答するだけでは小学校の授業参観みたくなってしまいます。

最後のまとめ方、フィニッシュは綺麗でした。好印象です。物語に据えたメッセージも、決して悪くない物だと思います。
それだけになお一層、きちんと物語として創り上げられていればという印象が拭えない。ちょっともったいなかった感じです。
5. フリーレス 反魂 ■2006/10/31 04:18:16
附記;あまり知られてない二次設定で減点するのも失礼ですので、採点除外という意味でフリーレスにて。

>遥か昔にはこちら、幻想郷と同じ程度の文明だったのに、僅か数百年の間に目まぐるしい進化を遂げた

この文に、少々引っかかりを覚えました。
ひょっとしたら他の方も触れられるかもしれませんが、幻想郷が外界から隔離されたのは、設定では明治時代のこととされています。よって、数百年前は遡りすぎです。少なくとも100年前までは、幻想郷も外界と同じ進歩文明を辿っていた世界である、という公算が強いようです。

お節介ながら、その書き方からしてひょっとすれば勘違いされてるのでは―― と思ったので、ここに一筆添えておきます。
6. 1 爪影 ■2006/11/01 02:28:51
 人間は、素晴らしいですよ。
7. 3 らくがん屋 ■2006/11/02 16:12:11
長さの割りに中身スカスカ。まあ全文一行空けのせいで無駄に長くなっているんだけど。またルーミアとチルノの台詞の区別がつきにくい。地の文が少なすぎるせいで、読みにくさに拍車がかかっている。
一体この文章のどこを楽しめば良いのでしょうか? てのが正直な感想。
綺麗な締め方で誤魔化そうとしたって、そうは問屋がおろさねぇってもんです。
8. 6 74 ■2006/11/02 20:21:53
ルーミアは話せばわかる子だ、という点において同意する
9. 6 椒良徳 ■2006/11/03 12:25:52
チルノの馬鹿さ加減に乾杯。
さて、後ろの方で「」付き会話文が連続している所があり、文章の流れが悪いと感じました。もう少し、細かな描写を地の文として挟んでみてはいかがでしょうか。
10. 3 Fimeria ■2006/11/04 20:10:37
パンドラの箱の希望は無知でしたっけ。馬鹿=希望。
未来を知る能力が残されて未来という希望が箱の外に残った。
それだともとから箱の中に希望なんて無かったことになりますよねぇ。

物語後半部分から地の文が全く無い部分がどうも好きになれませんでした。
ただ作者の考えをキャラに語らせているだけのような。
そういった作風であるとしたら、私には少し合わなかったようです。
申し訳ありませんが、厳しい点数にて。
11. 4 nn ■2006/11/05 20:21:14
オチの発想は面白いと思います。ですが、そこに至るまでが冗長すぎで、メリハリもなく非常に苦痛でした。それとルーミアのキャラ付けがあざと過ぎて、少々萎えました。
12. 2 つくし ■2006/11/07 18:26:21
こういう理詰めの会話で進むSSはかなり注意深くセリフを整理しないと一本調子になります。ちょっと結論に行くのに遠回りをしすぎではないかなあと思いました。場面整理や地の文を使えばもう少し短く出来たような。
13. 5 おやつ ■2006/11/07 21:25:52
チルノは国語には多少強そうなイメージあったけどなぁw
ともあれ良いコンビだったと思います。
締めも非常に前向き&バカで好みでしたw
14. 6 翔菜 ■2006/11/07 23:21:09
なるほど、幻想郷は箱の中の箱、か。
それも含めて面白かったです。
15. 2 2:23am ■2006/11/10 00:35:23
考えがそのまま話になっています。プロットそのまんま、みたいな。もうちょっと膨らましていただきたい。
16. フリーレス サカタ ■2006/11/11 05:58:41
文章ごとに改行があるので非常に読みづらかったです。
17. 7 ■2006/11/11 18:03:54
ちょっと説明っぽ過ぎるんじゃないかと思いました。これだと多分チルノは理解出来なくて納得しな(アイシクルフォール
18. 4 たくじ ■2006/11/12 22:19:41
一行ごとに間が空いてるのが私には読み辛かったです。
それから魔理沙の扱いがチルノ達とさほど変わらないというか、パチュリーに説明させるためだけの存在になっちゃってるかなと。
希望を探しに行くっていうチルノの無邪気さはいいなぁと思いました。
19. 4 藤村うー ■2006/11/13 02:04:40
 なかなかテンポよく読めました。
 不思議と。
 ほとんど会話だけでしたけど結構面白かったです。微妙に落ちてない気もしますし、現代社会に対する露骨な皮肉みたいなものは感じましたが、単純に愚かな人間どもめとかいう下手な厭世主義に傾いてなくてよかったです。パチュリーがそういう目線じゃなくて淡々と事実を語っていたのが好印象。
 あとルーミアとチルノは自由気ままが素敵。なんで外に出たいのか、出てみたいという好奇心以上のものがないってところがいいですね。
20. 4 いむぜん ■2006/11/15 20:49:31
「そーなのかー」だけじゃないルーミアには好感だが、パチェが饒舌すぎる嫌いがある。
説明はいいんだけど、延々続くから疲れてくる。
これも重複ネタだからちょっとなぁ。単品で創想話で読んだらどうかと思うが。
チルノがおバカなんだが、微妙に真理をついてるところが面白い。
それが書けるのはすごいと思うが、全体が面白いかは話は別。
21. 5 雨虎 ■2006/11/16 00:36:49
チルノとルーミアが良い感じでした。
それに付き合うパチュリーも。
22. 6 ABYSS ■2006/11/16 17:08:37
うーん。考えさせられますし、話も良かったと思います。
が、ちょっと長すぎな気もしますね。語るべきことを全部語っちゃってるせいか、文が長くなってます。改行の特徴もそれを助長してしまってますね。
その割にはメリハリが足りないので、結果として少しだれてしまいました。
もう少し切り詰めても良かったと思います。
23. 6 blankii ■2006/11/16 20:58:28
そういや災厄は勝手に出て来やがるけど、希望は残ってるだけですものね。二人は捜し当てられるのか? 人間よりずっと寿命の長い妖精と妖怪だけど、果たして果たして。
24. 6 灰次郎 ■2006/11/17 02:14:08
教育番組を見ている気分になった
あと馬鹿と哲学者は紙一重なのかもとか思った
25. 5 しかばね ■2006/11/17 19:03:20
チルノは本当にばかだなあ。
ルーミアがマトモに見えてなりませんでした。
店を根城にされつつある霖之助、根気よく説明をしたパチュリー、お疲れ様です。

粒餡伝説、可愛い響きだ。
26. 2 人比良 ■2006/11/17 20:17:06

教えてパチュリー先生、どうして1ボスはそんなに可愛いの。
27. 3 目問 ■2006/11/17 22:05:50
 説明を受ける役として無知な子を選ぶのは常套手段ですが、チルノたちを選んだためか妙に話の進みが遅い印象でした。
 まあボケるチルノは可愛いのでいいのですが。
28. 8 K.M ■2006/11/17 22:38:04
チルノとルーミアの能天気コンビがとても楽しかったです。
29. 1 時計屋 ■2006/11/17 23:13:45
文章が簡素すぎるので、もうちょっと工夫を。
30. フリーレス 対馬 光龍 ■2006/11/19 13:04:43
読んでくれた方もその他の投稿者の方もお疲れ様でした。
そして、多数のコメントありがとうございます。
まずは同じような意見に対してまとめて返答をし、その後個々に返答させていただきます。

>>(行間の空けすぎで)長い、見辛い
確かに会話文以外の全ての文章を改行し、そして1行空けるということをやってますからやたら長くなりましたね。しかし、過去に「文章が詰まってて見辛い」「文ごとに改行した方が見やすい」との指摘を受けたことがありますので、今回は改行の方式をとらせていただきました。空けすぎで見辛いという指摘は今回が初めてです。詰めても見辛くない文章を考慮しなければ……

>>物語になってない、長さの割にスカスカ、物足りない、プロットそのまま
耳が痛いご指摘です……これでも、最初に考えた内容にかなり肉付けをしたつもりなんですが……しかし、そう指摘されるということはやはり全然だったということですね。「つもり」付けはあんまり良くないなぁ〜

>>メリハリがない、地の文が少ない、会話文が多い、単調
理詰めですからどうしても会話文が多くなってしまいますね。地の文で説明しても良いのですが、それだと読者は理解できてもチルノとルーミアは理解できずに先に進まないと思い、ほとんど会話文での説明になりました。説明含んでない地の文は書いてる内にどんどん入れ辛くなってしまいまして……メリハリも自分でよく判っておりませんでした。まだまだですな自分……

>>話の進みが遅い、説明長すぎ、遠回りしすぎ、語りすぎ
聞く相手がチルノとルーミアですから説明過多になってしまいましたねぇ。イメージとしてはルーミアはチルノが判らない部分を補足していくような感じにしたのですが、何だかルーミアの理解+パチュリーの説明で余計に長くなったかも……

>>作者の考えをキャラに語らせているだけ、語らせるためにキャラがいる
これも耳が痛い指摘です。私は論を考えてからそれを基にストーリーを構成する場合が多いようなので、パチュリーのようなキャラはそうなりやすいのかもしれません。そして、今回の魔理沙の扱いはほんとにパンドラ問答の追記でしかもパチュリーから見ればチルノ達と同じでしたね。魔理沙ファンの方には申し訳ないことをしました……しかし、チルノ達に語っても全く理解されないでしょうし、パチュリーが一人で語るのも変だし、その理由がない。だったら語る相手は自然とある程度の知識を持ち、尚且つ少し勘違いをするキャラになってしまいます。それ故魔理沙が採用されたという感じです。


さて以下個別返答
>>as capable as a NAMELESSさん
いえいえ外にも希望はありますとも。

>>読むだけの人さん
お楽しみいただけたのなら幸いです。できれば今後ともよろしくお願いします。

>>箱根細工さん
恐らく全体に対して言っているのでしょうけど、何に対して思慮が足らないのか少し気になります……

>>反魂さん
詳しいご指摘+時代云々のご指摘ありがとうございます。時代年代の話は完全に勘違いしておりました。この返答コメントを書いている際に確認してみたら、永夜の輝夜のキャラ設定にそれらしきことが書いてありましたね……次からはそれも考慮します。

>>爪影さん
言葉と点数が意味深……確かに人間は素晴らしいですが、素晴らしくない面も多々ありますね。

>>らくがん屋さん
辛口ですが大まかな指摘をありがとうございます。次からはらくがん屋さんにも卸してもらえるように努力します。

>>74さん
話せば判る娘なんです。けど話がない……

>>椒良徳さん
バカな子ほどかわいい。そんなチルノを表現できたらなぁ〜

>>Fimeriaさん
無知=希望ではないでしょうね。開けずに中身が知れる(かもしれない)状態なのに、開けること以外で知ろうとしない。それを無知と表現しました。未来はどうでしょうねぇ。未来は希望もあれば絶望もあるので、希望と決定付けることは無理ではないかと思います。

>>nnさん
あざと「過ぎ」ましたか……もうちょっと単純でも良かったかな……

>>つくしさん
場面整理……心がけねば……

>>おやつさん
間違ってても気にしない。それがチルノ。多分……

>>翔菜さん
楽しんでいただけて光栄です。箱の中には箱があり、その箱の中には更に小さな箱があり、その中にも―無限ループ

>>2:23amさん
プロットそのままで書いたつもりは全くありません。けど実際そうなったorそう判断されたのならその通りなんでしょうね……やはり「つもり」判断は宜しくない。

>>サカタさん
真に申し訳ないです。ほんとそれ以外の言葉出ません。

>>翼さん
チルノが理解できそうな説明を詰め込んだ結果です。まあ、本当に理解できてるかどうかは疑問ですが……省きすぎると彼女がパーフェクトフリーズ。

>>たくじさん
魔理沙の扱いに関しては非難轟々でも仕方ないですね。事実その通りなんですから……チルノ教授は今日は探し、明日には忘れてるかもしれません。

>>藤村うーさん
深く考えない。それが彼女(チルノ)達の生き方だと思います。

>>いむぜんさん
パチュリー先生は知識が豊富なので、語るときはやたら語るような気がしてこんなキャラになりました。知識と言っても、私の考えを語ってるだけですが……単品で創想話に出した場合、ここまでコメントが付かないのが哀しい……

>>雨虎さん
付き合わないと彼女等は何するか判りません!でも何かしてもパチュリーなら簡単に抑えれそうですな。

>>ABYSSさん
Aを語ったらBを語らないと筋が通らない。そんな感じになったのかもしれませんね……いらないAが多すぎたかも?

>>blankiiさん
探し当てる前に何故探してるのかを忘れそうです。

>>灰次郎さん
THK教育番組「パチュリーと一緒」 土曜日と日曜日の昼12時から放送時間を過ぎてでも全て放送されます。視聴するためには幻想郷へGO。

>>しかばねさん
正直、「善哉とお汁粉は違うもんだ」という指摘がなかったのが良いのやら悪いのやら。そして私はどの餡でも気にしない人間。

>>人比良さん
ソレハネ、1ボスダカラダヨー。

>>目問さん
リグルとかミスティアとか橙も出そうかと思いましたが、人数が多くなりすぎると理解は早くても会話が更にごっちゃになりそうなのでチルノとルーミアの二人だけにしました。二人だけで既に判り辛いと指摘されてますしね……ただ、リグルは問答集化に拍車をかけそうですし、ミスティアは内容をすぐ忘れそうですし、橙は近くに結構知識持ってそうなキャラがいて意外と色々知ってそうなので敢えてチルノとルーミアの二人にしました。

>>K.Mさん
外が雨でも雪でも二人は快晴です。

>>時計屋さん
何とか工夫をこらせるように努力します。


皆様のコメントを糧に、次の作品・次のコンペで良い物を書けるように頑張ります。ただ、その頑張りが空回りしてたり、指摘の履違えなどがありましたらまた指摘していただけたら幸いです。
最後に、もう一度。
コンペに関係された全ての方々、本当にお疲れ様でした。
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