落ちる語り

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/28 03:03:39 更新日時: 2006/11/22 03:03:06 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00

 あるところに、悪魔の妹、と呼ばれる少女がおりまして。
 なんでまた悪魔の妹と呼ばれているかは諸説色々ございますが、単純なところ、人ならざるもの「吸血鬼」だから、と言えばよろしいですかね。
 まあこれが実に見目麗しいお嬢様でして、宝石かと見間違えるような羽に美しい金色の髪、とまあ西洋人形のようでございます。
 そして老いを知らず! と世の婦人方がほおっておけないような特徴もありまして、かなり恵まれているような少女様ですな。
 永遠を生きる……とまではいきませんが、いやはやまあ羨ましい限り。
 ただまあ、美しい玉にはつきものの瑕と申しますか、少々気が触れておりましてな、自分の部屋からそう簡単には出してもらえない。
 本人も何故かは良く解りやせんが、それでも満足しておりまして何も問題がございません。
 ちと奇妙な話ですが、ええ事実でございます。面白いというよりは不気味な印象がありますが、ええまあ事実も事実。
 そんなこんなで495年……スケールの大きいような小さいような話ですが、部屋に閉じこもっていた訳でございます。

 ところが、ある時を境に、外の世界に目を向け始めまして。
 部屋からはたまーに本当にたまーにでございますが、出るようになりました。
 人の、いやいや人ならざるものと言えど、心境の変化というものがあった訳ですな。

 そうやって悪魔の妹様は適当に館内を歩いていると、館の外にも出てみたくなりました。
 ですが、怖い怖い姉上様と姉上様の犬みたいなメイド長が許してくれません。
 ああでも出たいなあとベッドに転がったりしながら悶える日々、どうにか穏便に出られぬものかと策を練る日々でございます。
 そうやってまた幾日も過ぎて、とぼとぼと館内を歩いていますと、普段見かけないお客様の背中。
 特徴的な黒い帽子に自分と同じ金の髪、そして背中に背負った大量の本と右手には箒。
 何故か、ひょっこりひょっこりと抜き足差し足忍び足。
「あれ? 魔理沙じゃない。何してるの?」
 声をかけられて、黒い帽子の少女が振り返ります。
「んー、本を借りに来ただけだぜ?」
 どうにも、借りに来たにしては多すぎる本の量に、こそこそとした足取りでは説得力がございませんが、悪魔の妹はそんなのを気にしません。
「へえ、じゃあちょっと部屋に寄って遊んでいってよ」
 暇潰しになるから、というのもありますな。
「弾幕ごっこじゃないんだったら、考えるわ」

 でまあ、黒い帽子の少女と自分の部屋で話をする事となりましてね。
 途中をちと省略しますが、いつもどおりかみ合わない会話をしていると。
「そういえば、魔理沙、パチェリーのスペルカードを真似したんだって?」
「たまたま同じになっただけだぜ。人聞きの悪い話」
 前科がある人間が言っても説得力なんぞありません。
 しかしながら、この話の最中、悪魔の妹がある事を考えついたんですな。
「ねえ、魔理沙。今度パチェリーの秘蔵魔道書を貸してあげるから、ちょっと頼まれ事を引き受けてくれない?」
「話を聞こうか」
 ひっそりひそひそと、少女二人、密室の計略話。

 二日ばかり経ちまして。
 さてさて、悪企みが実行に移される時が来ました。
「ねえ、咲夜。今日のお昼ご飯はお弁当みたいにしてほしいの」
「はあ、それはまた何故でしょうか?」
「ほら、私外に出れないじゃない? だからせめてお外で食べているような気分に浸りたいのよ」
「なるほど……逃げたりしませんよね? まさかの話ですが」
「そりゃもちろん。だいたい、どうやっても逃げ出せないでしょ?」
「ふむ。それもそうですね。解りました。では今日はお弁当箱に盛り付けてお出しします」
「ありがとう咲夜。美味しく頂くわね。――ああ、そうだ今日は魔理沙が遊びに来るから通しておいて」
「え、それは……パチェリー様が反対なさるかと」
「外にも出れない私のたまにのお客様よ? 通しておいて」
「仕方ありませんね……。本当は嫌なんですが、今日はフランドール様に免じて丁重にお通ししておきます」

 というやり取りを経て、お昼に咲夜がお弁当箱を持ってきてから一時間後。
 さて、魔理沙が部屋にやってまいりました。
 まだ残暑も厳しい季節なのに、どうしてかマントを羽織って。

「ふー、やれやれ暑くてたまらないな。仕方がないけど」
「待っていたわ。それじゃ始めましょう」
 フランドールが魔理沙から帽子とマントを受け取りそれを見につけます。
「直視されると背格好からばれてしまうから。ちょっと急いで飛んでいくと良いと思うぜ」
「ええ、了解よ。それじゃよろしくね」
 こうして、魔理沙の格好をした悪魔の妹は部屋から出ました。
 魔理沙は十分ほど待って、戻ってこないの確認してベッドに入りました。

 二日前に話したのは、入れ替えによる脱出計画。
 あとはもう一つが成功すれば、謀は完璧でございます。

「フランドール様、紅茶をお持ちしましたが」
 こん、と扉を叩く音とメイドの声。
 悪魔の妹の部屋には、ときおりですが、見回りが来ます……まあ悪魔の妹視点にはそう映っているのですな。
 それをごまかす為に魔理沙は残った訳ですな。
 あの時、思いついた事を魔理沙にやらせてみたら、これが思いのほか似ていたからの一手。
『今はそういう気分じゃないからいらないわ』
 そう、少なくとも扉越しにならフランドール・スカーレットという認識になるような声色。
「かしこまりました。何か御用の際は及びだしください」
『ええ、その時はお願いするわ』
 という風に、これがきちんと綺麗にはまった次第。
 こうして、魔理沙は帰ってくるのを悠々と待つばかりと――いかないのが世の常でございましょう。

 何度か、メイドの見回りを終えた後。
 メイド長の咲夜が扉をノックしてきました。
「フランドール様、お弁当箱を回収にしにまいりました」
『また後にしてちょうだい』
「駄目です。夏場ですから、すぐに洗いに出します」
『……ええと、まだ食べ終わっていないから』
「いかほどお食べになられました?」
『…………半分ぐらいは』
「代わりにサンドイッチとケーキをお出ししますから。入りますよ」
『待って! ええと、その……あー、食べ終わったらすぐに持っていくから!』
「そんなに今日の料理がお気に召したのですか?」
『そ、そうそう! 凄く美味しいから味わって食べたいの!』
「そうですか、それは嬉しいです。ちょっと酸味がきついかなあと思っていたので」
『ううん! ちょうど良い具合だったよ! 美味しいなあ!』
「ともかくとして、入りますね」
『駄目だって!』
「なんでまた、そんな強い拒否を……」
『………………えーと、あんまり食べている姿を人に見られたくないの。だらしなく見えるから』
「ああ、これは失礼いたしました。では二十分後あたりに、取りに参りますので、申し訳ありませんがお急ぎください」
『うん、解った。食べ終わっておくね!』

 扉の前から足音が遠ざかっていくのを確認しながら、魔理沙は胸をなでおろしました。
「やれやれ、危うく扉を開けられるところだったぜ……まあごまかせたから良いとしよう」
 部屋を見回すと、お弁当箱が確かに置かれていました。
 ただし、中身は入ったまま。
「フランドールの奴、持っていくのを忘れたのか、はたまた食べるのを忘れたのか……まあいいや、私が食べておけば、次来る時もごまかせるだろう」
 蓋を開けてみると、色とりどりの具が盛りだくさんのお弁当。
 これは期待できると、美味しそうなミートボールに箸をつけて、口の中にひょいと一口。
 口の中に血の味が広がったところで魔理沙は倒れたそうな。
 吸血鬼の食事ですから当然でございます。

 そうして二十分後、咲夜が返答もないのを疑問に思い、扉を開けて、事が露見してしまいましたとさ。
 あとは怖い怖い姉上様も知るところとなるのも必然。

 それを知らないフランドールは意気揚々と戻って来ました。
「楽しかったけど、お腹空いたなあ。忘れ物をするとはもう歳なのかしら」
 自分の部屋の前について、扉を軽くノック。
「魔理沙ー。帰ったわよー、ありがとう」
 部屋の中からの返答は、
「フランドール、早く部屋に入りなさい!」
 これを聞いてフランドールは感心しまして、
「へえさすが魔理沙。お姉様の真似も上手いわね」

 この後、物凄くこってりと絞られましたとさ……。
 「落ちる語り」の一席でございやした。
古今亭志ん生が好きー。

……元ネタ知らない人置いてきぼりー。

追記

ううう、こんな後書きを書いて困惑させてしまうような浅はかな人間ですいません。
次回、次回はきちんと気をつけます。
萩 ほとり
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作品情報
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最新
投稿日時:
2006/10/28 03:03:39
更新日時:
2006/11/22 03:03:06
評価:
0/0
POINT:
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Rate:
5.00
1. 5 as capable as a NAMELESS ■2006/10/28 14:29:53
知らないけど楽しめた。
2. 2 箱根細工 ■2006/10/29 15:37:57
かの天衣無縫を文字で表すには些か。
3. 6 a ■2006/10/29 21:47:43
元ネタとは…なんのことです?
4. 3 らくがん屋 ■2006/11/01 16:59:11
元ネタは知らんでもないのだけど、面白いかって言ったらNOだねェ。テーマもろくに処理出来てないし。
5. 2 爪影 ■2006/11/01 19:31:27
 語り口調が良い感じです。
6. 6 74 ■2006/11/02 20:28:31
元ねたなどしらないが割とおいしかった。
7. 3 椒良徳 ■2006/11/03 12:28:28
置いてかれた……
8. 5 床間たろひ ■2006/11/04 00:38:53
リズムいいですねぇ。読んでて気持ちよかったですw
9. 4 Fimeria ■2006/11/04 20:20:44
元ネタを知らないからこそ楽しめた気もします。
文章をそういったものにしないで、最後のあとがきでネタバレすればもう少し好感触だったかなと。
あくまで個人の意見として。
10. 7 nn ■2006/11/05 21:48:44
元ネタは全く分かりませんが笑わせてもらいました。短くてもしっかりとした話でしたし、オチも粋でよかったです。
11. 3 反魂 ■2006/11/07 04:16:35
落語系のネタは、とかく文章で語ろうとすると難しいです。まして口調通りに模写すると、どうしても面白味が落ちるのは避けがたい。あれは落語家の落語家たる技術、抑揚や声音の妙を駆使して笑わせているのですから、無機質な活字の羅列に直してしまうとどうしても目立ちにくいです。

アイディアとしては良かったと思いますし、うまく東方の舞台にデフォルメされていたとは思います。が、やはり笑えたかどうかという点で評価すると、どうしても首を捻ってしまうのが率直な印象でした。申し訳ない。
12. 4 つくし ■2006/11/07 18:38:33
元ネタわからねぇー。とはいえ、この語り口はわりと好きです。「オチ」も落ちる語りらしくクスリとできるものでしたが、東方SSとして評価した場合、ちょっとパンチ力に欠けることも否めないような。
13. 3 おやつ ■2006/11/07 21:59:26
なんと可愛らしい妹君にございましょうか!?
計画穴だらけだけど其処がまた素晴しいw
でも、いっぱい怒られておいでなさいな。
14. 4 翔菜 ■2006/11/07 23:28:33
んー、この空気がいいですわー。
というかもう歳なのかしらにワロスwww
15. 3 2:23am ■2006/11/10 00:42:03
落語なんですから落とさないと。いや原稿でなく。
16. 8 ■2006/11/11 00:45:30
パチェリーじゃなくて、パチュリーですよ。


ところで、元ネタ知りませんけどオチ着いて読めましたよ?
…お後がよろしいようで。
17. フリーレス サカタ ■2006/11/11 06:00:53
あとがきで冷めました。分からない人は置いてきぼりな話は酷いです。
18. 5 たくじ ■2006/11/12 22:18:29
元ネタ知らないけど落語なんですか?テンポがいいですね。
関係ないけど東方寄席っていうのがあって、上方とか江戸の落語に対抗して東北地方で東北弁で寄席をする人達なんですが、この話をやってもらいたいなぁと思いました。
しかし元ネタ知らない人置いてきぼりって開き直るのはどうかと。余計な一言だったんじゃないでしょうか。
19. 4 藤村うー ■2006/11/13 02:08:38
 落語ですねえ。
 元ネタが分からないのでどこまで似ているのかはっきりとしないのですが、これもひとつのオマージュと言うべきなのでしょうか。
 キャラの当てはめ方や小気味よい調子は上手かったと思います。
20. 4 いむぜん ■2006/11/15 20:52:13
ネタ自体がもう「何度目だ紅魔館」状態なのがもったいない。MOTTAINAI
落語調なのは好きですけど。
21. 5 ABYSS ■2006/11/16 16:49:21
上手いですね。
ただ、上手いだけに期待してしまうのが人の罪、といった感じです。
良くも悪くも小さくまとまっていたのが凄くもあり残念でもあり。

あ、あと元ネタ知らないですごめんなさい的外れだったら恥ずかしいな…。
22. 6 blankii ■2006/11/16 20:59:30
寄席は聞いたことないなぁ、昔に東京MXとかで見たくらいです。演じてる落語家さん想像しながら読んだら吹いた。
23. 5 雨虎 ■2006/11/16 22:59:02
軽快な内容で面白かったです。
24. 6 灰次郎 ■2006/11/17 02:14:39
これは上手い落ちで
25. 5 しかばね ■2006/11/17 19:11:55
東方で落語スタイル。
元ネタは寡聞にして存じませんが、面白かったです。
26. 6 K.M ■2006/11/17 21:29:00
元ネタ知らなくても楽しめました。
27. 4 目問 ■2006/11/17 22:07:17
 どこまでが元ネタから引っ張ってきたものなのかは知らないのですが、いかにも落語的な落ちは良かったです。
 でもさすがに魔理沙とフランの行動は怪しすぎると思うのですがw
28. 2 木村圭 ■2006/11/17 22:54:15
元ネタを知ってると何倍も楽しめたりするのでしょうか?
慎重に言葉を選んでフランドールのフリをする魔理沙がかわゆい。
29. 5 時計屋 ■2006/11/17 23:14:33
噺家風の語りがとても良かったと思います。
ただネタはもうちょっと凝ってたほうが良かったかな。
30. フリーレス 萩 ほとり ■2006/11/19 02:57:56
 まずは読んでくださった皆様方に感謝。
 そして本当にすみませんでしたと謝罪。

 えーと、問題の元ネタは落語で「干物箱」って言いまして。
 まあその安直に箱の名が入っていまして。

 下地にしたそのネタを知っていれば「箱」ってお題もこなせているよねーという錯覚の元に書いていました。でも知らない人にはこれテーマこなせていないとか言われるんじゃないかと思い、つい書いてしまいました。完全に余計で無意味な一言です。本当に申し訳ございません。

 次がありましたら、そこらもきっちりと考えて書こうと思います。
 二度目ですが、このたびは本当にありがとうございました。
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