愛しき貴方、どうか許して下さいな

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/28 05:12:49 更新日時: 2006/11/22 03:07:19 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



    ※ Do you like Tondemo Mystery?


   ◆


 ――全く、一昨日からずっと暗い顔をして。
    もう少し明るい顔をしてくれないと、私まで気が滅入ってしまうわ。
    ……あら、お客さん? それを先に言いなさい。
    こっちにお通しして。貴方はお茶をお願いね。

 ――お久しぶりですわね。
    そうでもない? あら、そうだったかしら……。
    それより、今日はどういう用件でいらしたの?


   ◆


 一月半ほど前、博麗神社の宴会で起きた事件を覚えていますか?
 ……はぁ、覚えていない。あの場には貴方もいたと、私は記憶していますが。
 まあいいです。今、お話しますので。


 何時もの様に人妖入り混じった、デタラメな宴会でした。
 博麗神社で開かれる宴会と言えば、十中八九そうですけどね。
 ただ、あの時の事件には、皆随分驚かされたはずです。
 前代未聞であり、しかも全く意味不明でしたから。


 『なんじゃこりゃああああっっ!!』と、霊夢さんが叫ばれたのがきっかけです。
 彼女は賽銭箱を覗き込んでいたので、私達も何だ何だと近寄ったわけで。
 見た者は皆、言葉を失い黙り込んでしまいましたっけ。



 賽銭箱の中身は、白い、ドロドロした液体で一杯になっていました。



 最初に口を開いたのは、確か魔理沙さんです。

『……ど、どう見てもせ』

 と言ったところで、霊夢さんとアリスさんに殴り飛ばされてしまいました。
 彼女が何を伝えようとしたのか、今でも誰も知りません。


 次に、萃香さんが中身に指を突っ込んで舐めました。
 皆一様に驚愕の表情を向けましたが、彼女の言葉は至って平凡でした。
 いえ、ある意味では異常かも知れません。

『うん、片栗粉だねコレ。酒で溶いてある……』

 言われてみれば、確かに賽銭箱からは酒臭さが溢れていました。
 場にいる大半が酔っ払いでしたから、気付くのが遅くなったのでしょう。


 その後、賽銭箱の後ろ、社の縁の下に萃香さんの瓢箪が捨ててあるのが見つかりました。
 萃香さんは宴会の参加者が持ち寄った酒に夢中で、瓢箪が何時無くなったのか気付かなかったそうです。
『無くしても萃めれば手元に戻ってくるから、そんな気にしてないんだよねぇ』とも言っていました。


 賽銭箱を一杯にするほどの酒の出所は判りました。では、片栗粉は一体どこから?


 それを調べようとした霊夢さんは、参加者の内どなたかが
『新しい賽銭箱をプレゼントするから、それでこの場は抑えてくれ』と言われ引いたそうです。
 ……ええ、これは伝聞です。
 ただし、実際に神社の賽銭箱が新調されたのを確認しています。


 この事件、犯人は未だ不明のままです。


   ◆


 ――そんな事件があったかしら? 
    季節が変わった今でも宴会が続いているから、そんな前のことまで覚えていないわ。
    だいたい、幻想郷でその程度の騒ぎは日常茶飯事でしょう?
    貴方ならそのこと、よく存じているのではないかしら。
    ねえ、新聞屋さん?

 ――ああ、お茶ね。どうもありがとう。
    それでさっきの話、結局何が言いたいのかしら? 私、よく判らなかったのだけど。
    ……続き? ええ、どうぞお話になって下さいな。


   ◆


 一月ほど前になります。
 ネタ集めのため常日頃から飛び回っている私ですが、あの日は魔法の森にいました。


 突然、弾幕ごっこが始まりました。
 極太ビームに星型弾、それを裂くレーザーに飛び交う人形。
 魔理沙さんとアリスさんです。

 私は弾幕ごっこが小康になるのを待ち、二人に声を掛けました。きっかけは何かと。
 ……些細なことから、大きなネタに繋がることもありますから。だから聞きました。
 ただこの時は、些細どころかいきなり大ネタでしたけどね。


 二人に案内された先は、アリスさんの自宅でした。お二人で何やら調薬を行っていたそうで。

 通された部屋で私は目を疑いました。
 調薬用とおぼしきビーカーや鉢、コップに至るまで全て『白いもの』で一杯になっていたのです。

 弾幕ごっこは、お二人が互いを犯人と思って始めたそうで。
 第三者である私が話を聞いた限りでは、どちらも犯人ではないと思いますけどね。


 ……白いものの正体ですか?
 食べ物でしたよ。ええ、“また”ですね。
 豆腐、杏仁豆腐、牛乳寒天、アイスクリーム……
 暑い盛りに良く集めたものと、私、感心してしまいました。


   ◆


 ――それはそれは、大変だったわね。
    でも、貴方の仕事には良いことだったんじゃないの? ネタが集まって。

 ――共通点? さっきの話との?
    ……ええと、何だったかしら。
    ……そうそう、“白いもの”。どっちの話でも出てきたわ。

 ――で、それがどうかしたのかしら?


   ◆


 別の話に移ります。


 二週間前、私が湖の辺りを飛んでいますと、紅魔館の方から爆発音が聞こえてきました。
 すわ事件かと駆けつけてみれば、館の屋根に一ヶ所大穴が開いていました。
 穴の横に立っているのは、紅魔館当主の妹御にして吸血鬼である、フランドール・スカーレットさん。

 愛くるしい普段の彼女はどこにもおらず、彼女は頭から四角く茶色い箱をかぶっていました。
 日傘の代わりと言うには無粋に過ぎるその箱に、目の部分にはのぞき穴を開けて、
手足には箱と同じ色のカバーを着けていました。

 箱の前面には『GANDAMU』という文字が黒く書かれていたのですが、何かの呪文だったのでしょうか?
 フランドールさんは憑かれた様にレーヴァティンを振り回して、紅魔館各所を破壊しました。
『そこだぁーっ!』とか『落ちろぉーっ!!』とか言いながら。


 写真ですか? それはもう、バシバシ撮りましたとも。


 ただ途中で咲夜さんが、
『妹様止めるのに協力しなけりゃ以後一切紅魔館出入り禁止。今ならフィルムだけで許す』
 なんて脅してきましてね。
 逃げようとしたら時間停止されて縛られて、
『雨降らし役のゴクツブシがグースカ寝こけて起きてこないのよ!』と怒鳴られました。

 最終的には、赤い日傘を差して仮面を着けたレミリアさんが出てきましてね。
 フランドールさんと何故かサーベルでガチンコやって、何とかその場は治まりました。


   ◆


 ――知らなかったわ、そんなことがあったなんて。
    知っていたら、レミリアのことからかいに紅魔館まで行ったのにね。
    二週間前だったかしら? 旬のネタとは言い難いわね。今更からかうのに使えるかしら?

 ――それで、話は終わりかしら?
    あと二つ? 何だか妙に長いわねぇ。お茶が冷めてしまったわ。
    ……、淹れ直してきて頂戴。

 ――続きを話したらどうかしら?
    あの子が戻ってくるのを待つ理由は無いと思うのだけど。


   ◆


 そうですね、御話致しましょう。


 一週間ほど前のことになりますか。
 事件と言うよりは私事に近い話で恐縮ですが、私、永遠亭に招かれたんです。
 麻雀の面子として。


 何でも、輝夜さんと妹紅さんが急に麻雀で勝負しようということになったそうで。
 永琳さんと慧音さんを入れての四人では? と私は聞きましたが、
『それではサマ勝負になってしまうわ』
『だな。ヒラ勝負だから、他二人は部外者でないといけないのさ』
 別にイカサマ有りでやってもいいと思うんですけどね。部外者連れ込むくらいなら。
 場が熱くなって、焼き鳥にされたら堪ったものじゃないですし。

 でも、私は断らなかったんですよ。何故だと思います?
 ……ええ、確かに多少のネタにはなります。そうですね。
 でもそれ以上に、もう一人、いえ二人の部外者が意外だったものですから。
 そちらに強く興味を引かれた、と言うのが理由です。


 ……結局、私が焼き鳥になることも無く、麻雀は終わりました。
 日が沈んでから夜が明けるまでで、大体四十半荘(ハンチャン)ですか。
 妙にペースが速かったですよね。原因は判りきっているんですけど。

 一人、あからさまに大物手狙い、……正確には“ハコテン”狙いの方がいたからです。
 知っての通り、ハコテンとは点数をマイナスにすることですね。
 ですがその方は、他人をハコにするというよりも、
自分がハコになっても良いという感じで打ち回していたように思うのです。

 


 ――違いますか? 西行寺幽々子さん。




   ◆


 淹れ直した茶を持った妖夢が部屋の障子を開けたのは、文が幽々子の名を出すのとほぼ同時であった。
 部屋全体がしんと静まり返る中、妖夢は主と客人に茶を配り、そして文の横に座った。
 幽々子と文は微笑んだ顔でお互いを見つめ合い、妖夢は斜めに幽々子の顔を眺めている。


「麻雀の話は、少し毛色が違ったわね」
 先に口を開いたのは、幽々子だった。
 文は頷き一つ返して、
「そうですね。ただ、先程述べたことがちょっと引っ掛かって、頭に残っていたんですよ。
 一晩の麻雀の結果としてではなく、何か意識すべきこととして覚えておけと、記者の勘が告げたんです」
 幽々子は何も答えず、静かに湯気の立つ湯呑みを手に取った。


 幽々子が湯呑みを置くその時に、今度は文が口火を切った。
「必要とは言え、長い前置きに付き合わせてしまい申し訳ありませんでした」
「では、いよいよ本題なのかしら」
 幽々子が問うと文は頷き、もっとも、と一言付け足す。
「……貴方も良く御存知のことについての話になります」
「まあ、何かしら?」
 言葉を交わす二人の表情に変化は無い。
 一方、脇で押し黙る妖夢の表情は、いささかこわばったものとなっている。
 文が口を開く。


「一昨日の夕方頃に、妖夢さんが私の家に訪ねて来られまして。
何でも一昨日の朝、突然半身が消えてしまったそうです。
眠る時には確かにいたのに、朝起きた時にはいなくなっていた、と」

 幽々子の表情は変わらない。
 妖夢はうつむいた姿勢のままでいる。

「基本的に、半身に自立性は無く、妖夢さんと一緒にいるのが常であった。
……こんなことは初めてだと、妖夢さんは言いました。
心当たりはあらかた調べ、それでもダメで私を頼ってきたそうで。
半身って、普通の幽霊とは少々異なりますからね。大きさとか、透明さとか。
だから私も、手掛かりくらいはすぐに掴めると思っていたのですが、
鴉からも天狗仲間からも、噂の一つも得ることは出来ませんでした」

 幽々子が茶を啜るのに合わせて、文も湯呑みを持ち上げた。

「てっきり、紫さんが犯人かと思ったんですがね。
性格的にも能力的にも、あの方がやりそうなことですから。
ところが、妖夢さんが直接マヨヒガに乗り込んでも何も判らず、
私が藍さんに袖の下を渡しても『今回は、紫様は無関係だ』としか聞けませんでした。
貧乏記者には、油揚げも安くないんですけどね
それでも、『今回は』というヒントは頂けたわけでして」

 文は言葉を切り、湯呑みを口へ運ぶ。

「そもそも、妖夢さんを玩具にしそうな方といえば、紫さんより先に幽々子さん、貴方が来ます。
ですが、妖夢さんは屋敷を隅々まで探しても見つからないと仰った。
それでも幽々子さん。貴方の身が潔白だとは、私には思えません」

 文は茶を啜り、そして言った。



「妖夢さんの半身の居場所は、貴方が存じているのでしょう?
半身を隠したのは貴方ですね、幽々子さん」



 妖夢の顔のこわばりはいよいよ増し、彼女は主にその無様な顔を見せまいと顔を伏せうつむいてしまった。
 幽々子の方は微笑をちらりとも崩さず、
「どうしてそういうことになってしまうのかしら?」
「発想の転換、そして閃きの連鎖ですよ。
幽々子さん、貴方のことを考えていて思い出したのが、永遠亭での麻雀のことです。
あの時貴方は、妙に“ハコ”にこだわっていました。
それで次に“ハコ”で思い出したのが、紅魔館の妹様御乱心事件です。
事件の際フランドールさんが被っていた謎の箱は、『ダンボール箱』という物です。
これは香霖堂の店主に確認してもらったので、間違いありません。
重要なのは、『ダンボール』が幻想郷では製造不可能な物だという点です。
つまり、事件の犯人は十中八九、……八雲紫さんということになります」

 文は一度言葉を切って、緊張を流すように残りの茶を喉へと流した。
 その文に対し、幽々子が語りかける。

「……紫が犯人だったのなら、貴方の話した全てが、私には関係無い事件ではないかしら?」


 幽々子の言葉の余韻は、タンッと強く置かれた湯呑みが断ち切った。


「昨日ほぼ丸一日使って、橙さん経由で藍さんを抱きこむことに成功したんですよ。
オフレコ前提なので記事には出来ませんが、重要な証言を得ることが出来ました。
『紫様が実際に行ったのは、ダンボールの入手と、目的地までスキマを開くことだけだ』。
実行犯は別にいる。そう教えてくれたわけです」

 そしてまた、と文は言った。

「一月前のアリス邸、一月半前の博麗神社での事件についても問いました。
藍さんの返事は、ほんの少し顎を引いただけ。それをYESという意味で取るのなら、
“白いもの”を実際に詰めたのは、紫さんではない実行犯。
その誰かは、紅魔館含む三つの事件全ての犯人ではないだろうか?
……最後のは、私の推測に過ぎませんけどね」

 ただし、と文は言う。

「藍さんに、ダンボールの手配を紫さんに頼んだのは一体誰なのか、聞いてみました。
その答えですが、『――紫様の大切なご友人だ。名前を出すことは出来ない』」


 くつくつと、幽々子が声を出して笑った。


「全く、藍ちゃんったら。言っているのと一緒じゃない」
「ええ、全くその通りです」

 文も少し笑って、そして言った。

「――西行寺幽々子さん。
貴方は、箱に拘泥するような精神状態になってしまっているのですね。
箱に拘泥、などと一言でまとめるのは不正確かも知れません。
ですが、……間違っているとは、思っていません」



 真正面から睨むように見つめる文の視線を、幽々子は微笑んだまま受け止めた。

「藍ちゃん優しいから、妖夢が可哀想になったのかしら。
言ったら自分が痛い目見るの、知ってるのにね」

 奇特な子だわ、と幽々子は言った。
 その言葉に文は、少しだけ眉をひそめる。

「……貴方や紫さんの方が、よほど奇特だと思いますけど」
「私達からすれば藍ちゃんが奇特なのよ。
ま、妖夢の泣き顔は好きだけど、これ以上仕事に支障があると困るわね」
 幽々子は右袖に逆の手を突っ込み、そこから鍵を取り出した。妖夢に向かって投げる。

「これは……?」
 受け取った妖夢が、弱々しい声で幽々子に尋ねた。
 幽々子は先程から変わる様子の無い微笑を返し、

「庭の蔵にある古箪笥の下、床下収納が隠れているわ。その中に箱が入っているから、それの鍵。
ほら妖夢、呆けてないで行きなさい」


   ◆


 蔵にあった古箪笥を文と妖夢がどかすと、そこには確かに床下収納の蓋があった。
 妖夢は恐る恐る蓋をどけ、体を乗り出して上半身を闇の中へと差し入れた。
「……妖夢さん、大丈夫ですか?」
 文の声に返事は無い。

 だが、ゆっくりとした動きで妖夢は“箱”を抱え上げた。

 妖夢の体躯からすると一抱えはあるその“箱”は、完全な立方体として作られているように見えた。
「蔵の外で開けた方が良いんじゃないですか?」
 文の言葉を無視する妖夢。
 窓の無い薄暗い蔵の中で、妖夢は錠に鍵を差し込んだ。

 ガチャ、と重い音がする。

 錠前を外した妖夢は、震える手で“箱”の蓋を持ち上げた。




 箱の中には、白い白い半身が。


 みつしりと、つまつてゐた。




    ◆



「――ずうっと昔、妖忌の半身を箱詰めにしようとしたことがあるの」

 蔵の入口から漂ってくる幽々子の声。

「でも、すぐにバレてしまって。以後、チャンスは一度も無かったわ」

 妖夢と文は、“箱”に見入っている。否、“魅入られてしまっている”。

「妖忌が去ってしまったから。だから妖夢、貴方の半身を箱詰めにしようと思ったの」

 白い半身は、“箱”の口が開いているのに出て来ない。
 たゞ、みつしりとつまつてゐる。

「すぐに詰めなかったのは、妖忌と同じではなくても、もうちょっと大きい半身が良かったから」

 文は、首に提げたカメラも、ポケットのメモ帳にも触れず、硬直している。

「でも、時が経つにつれて箱詰めの衝動は段々と小さくなったわ。
西行妖に気が向いていたからかしら。」

 半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。

「ところが一月半前、急に抑えきれなくなりそうな衝動が襲ってきて。それで紫に相談したの。
少しでも衝動を和らげようと、神社の賽銭箱を片栗粉で一杯にしてみたわ」

 妖夢は、身じろぎすらせずに半身を見つめている。半身に魅入られている。

「……少しだけ、少しだけ衝動が和らいだの。白いものが箱一杯に詰まっているのを見て。
でも、またすぐに襲ってきたわ。襲われたわ」

 半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。

「箱じゃなくて別のものならどうかと思って、色々な実験器具で、色々な白いもので試してみたの。
少しだけ楽になったけど、気休めにしかならなかった……」

 蔵の静謐とした空気の中、幽々子の声だけが響いている。

「でもね、半身がいなくなった妖夢は、どのくらい悲しむのかと思ったの。
そしたら、妖夢に手を出せなくて、でも衝動は抑えられなくて……」

 半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。

「紅魔館の、あの子に恨みがあったわけではないの。
でも、箱をかぶせたら彼女は化けたわ。抑圧されたものを吹き飛ばすみたいに」

 幽々子の声は、淡々として抑揚が無い。

「スキマ越しに紫と二人で眺めて、笑い転げたわ。気分は晴れたけど、衝動はそのままだった……。
それで、もう、やるしかないんだなあって思ったの」

 半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。

「そう決めたら、ちょっと衝動が治まってね。
どうやって詰めようかしら、何時にしようかしらと悩んでいる内に、麻雀に誘われたの」

 些細なことでも聞き逃さんとする文の耳が、幽々子の声を、言葉を、拒否しようとしている。

「……既に、私の心の中は“ハコ”で満たされていたわ……」

 半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。

「三日前の深夜、紫に妖夢の“眠りと目覚めの境界”を弄ってもらって、起きないようにしてね。
ゆっくりと、時間を掛けて少しずつ、半身を箱詰めにしたの」

 妖夢の血の気が失せた頬が、蔵の薄闇に浮かんでいる。

「片栗粉も何もかも、半身を詰める感覚とは比べ物にならなかった。
比べることすらおこがましい快感がそこにはあったわ。
あのつやっとしてむにゅっとした手触り、そして箱の狭さに抵抗する反発感――」

 妖夢の眼が、僅かに輝きを増す。

「……理解不能の絶頂の後、気を失ったわ。紫に起こされた時、衝動はもう消え去っていた」

 妖夢の眼から、涙が零れ落ちる。

「でも、半身の詰まった箱を見て、美しいと思ったの。だからここに仕舞ったのよ」

 零れた涙は、白くみつしりとした半身の上に落ちる。



「『幻想郷はすべてを受け入れる』。
紫はこう言っていたけど、私の業は、受け入れられたのかしら――」



 妖夢の眼から溢れる涙が、ぽたぽたと半身の上に落ちる。
 みつしりとつまつた白いものに、塩気の水が降り注ぐ。
 箱という聖域は、涙によって侵される。

 救われた者は、誰もいない――――

【みつしり】

(意味)
 ものが隙間無く満ちている様。

(用例)
「小町、貴方の胸はみつしりとし過ぎている。なので減給三ヶ月です!」


※11月19日 一ヶ所修正
らくがん屋
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/10/28 05:12:49
更新日時:
2006/11/22 03:07:19
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1. フリーレス らくがん屋 ■2006/10/28 13:54:46
致命的なミスは、フランがガン●ム化した理由が抜け落ちていること。
しかし、“みつしり”を書きたいがために延々電波文を書き連ねたことについては評価出来なくも無い気はする。
胡散臭いエセミステリー風味は出ていると思うのだが、“Tondemo Mystery”を免罪符にするようではあまり褒められたことではない。
文章自体は好みなので(当たり前だ)色つけて4点、実質3,5点というところか。
2. 5 as capable as a NAMELESS ■2006/10/28 15:56:05
ああ、亡霊の精神構造が理解できない……
3. 3 箱根細工 ■2006/10/29 15:58:23
訳が分かりませんね?
4. 2 椒良徳 ■2006/11/03 12:37:19
許さない。
5. 5 爪影 ■2006/11/03 17:55:02
 幽々子様、自重しろ。
6. 9 Fimeria ■2006/11/05 13:30:36
貴方は少しシュール過ぎる……イイゾモットヤレ。
前半部分、新聞記者という情報だけを与え、不確定ながらも取材という場面を想像させるところが素直に巧いなと思いました。
7. 6 nn ■2006/11/05 22:48:09
評価が難しい。。。
でも、片栗粉の件と話が繋がってて微妙にびっくりしました。
でも、もと飛躍なり勢いが欲しいとも感じました。
8. 9 つくし ■2006/11/07 21:17:04
ああ……全力でバカをやるというのは、こういうことなのですね……(超絶誉め言葉)。「どう見ても」とか「箱ガン○ム」とか小ネタをはさみつつ最後に一番でっかいのを持ってくる構成に脱帽。謎な事象が解き明かされてゆく快感とあまりのバカバカしさに涙が止まりません。
9. 3 おやつ ■2006/11/07 22:53:38
救いも何もあったもんじゃねぇなこの仏様はよぉw
訳わかんないっすもうフランちゃん可愛いよフランちゃんでいいや!
10. 6 翔菜 ■2006/11/09 11:45:36
いやー、面白かった。
それぞれの話がくすりと来ただけに、幽々子の抑えようとして抑え切れなかった衝動がよくわかるw
終盤、ひたすらに繰り返される『半身は、たゞみつしりとつまつてゐる。』も良い具合に哀愁を誘います。
爆笑には至らなかったんですが、始終ニヤケと軽く吹き出す息が止まりませんでしたww

ごっそさんです。
11. 6 2:23am ■2006/11/10 22:03:24
凄まじい技量。方向性間違ってるけど。
12. フリーレス サカタ ■2006/11/11 22:15:20
みつしり!面白かったです。
最後の妖夢の涙とかまたなんともいえず。
幽々子の執着心にゾッとしつつ、やっぱりみつしりが笑えた。
なんだか分からない話という危険もありますが、私は好きでした。
13. 5 たくじ ■2006/11/12 22:15:05
え、これで終わりなの?という感じでした。
衝動にかられて賽銭箱に片栗粉を溶かして入れるってなんだそりゃあって思いました。わけわからん。
涙を流すだけの妖夢も何だか怖いし。ただただ異様な幽々子様、そこらへんがミステリーなのかなぁ。
14. 4 藤村うー ■2006/11/13 02:12:41
 あとがき噴いた。
 でもなんで幽々子がみっしり詰め込んだのかよく分からんというか分かっても仕方ないことのような気もするのですけど、これはもうそういう性癖ということで納得するしかないのでしょうか。
15. 9 VENI ■2006/11/13 14:07:53
面白いw
このスカーレット姉妹いいなぁw
16. 4 反魂 ■2006/11/15 05:57:06
これは……
自信はないんですが、京極夏彦ですかね。

試みとしては面白いのかもしれませんが、これでは流石に話として通らなくなっており、この作品の評価としてはあまり好印象を抱けなかったです。これを一個の作品として見てみると、ミステリアスで謎解き風味の展開だったのに、用意された謎明かしは何やら訳が分からない……という形。これでは全くもって肩透かしも良いところです。
パロディにするにしても、ちゃんとストーリーとして成立してないと楽しめないかと思います。贅沢言って申し訳ないですが。
17. 8 ■2006/11/15 16:12:51
む、むむ?何やら覚えがあるようなないような、この雰囲気は…ひと世代前のミステリのような、どこか薄ら寒くてどこかあかあかと…はて?
18. 4 いむぜん ■2006/11/15 20:56:20
「みつしり」を知らないとダメなのかな?
幽々子の独白には言いようの無い迫力があるが。
19. 8 ABYSS ■2006/11/16 15:46:46
投げっぱなしジャーマンに近いですよこれ!
すっきりしない終わりがもやもやとして残り、まさに救われたものはいないですよ、読んだ私も含めて(褒めてます
でも文自体は読みやすいし、ミスリード誘いもうまいです。途中まで紫さまだと信じて疑いませんでしたし。テーマも…凄い中心に据えてますね。
というか、何故最後は文体が古くなったのでしょうか? それだけがわかりません本当に。
20. 6 blankii ■2006/11/16 21:01:46
こ、こーりんどー!! じゃなかった、京極堂。箱と言われて、その『匣』が来るとは思いもしませんでした。加菜子タンかわいいよ加菜子タン。
21. 8 雨虎 ■2006/11/17 01:50:12
幽々子は自身の混沌の詰まった箱を開けてしまったわけですか。
淡々と紡がれるカオスな展開が小気味よかったです。
22. フリーレス 人比良 ■2006/11/17 20:14:30

物語は面白いですが、どこか違和感を憶えました。
全く関係ないですが、てゐの作る船は泥舟になりそうで怖いです。
23. 6 K.M ■2006/11/17 21:27:53
マッドネス幽々子様。
しかし〆はサイコ系ながらもそれ以外はギャグ分多いなぁ。
一番記憶に残ったのはローマ字のアレww
24. 3 しかばね ■2006/11/17 22:07:45
京極堂さん! ここにも憑き物が!
25. 6 目問 ■2006/11/17 22:14:48
 真相が明かされる場面の馬鹿らしさが素敵すぎです。幽々子のパラノイア加減も
26. 5 時計屋 ■2006/11/17 23:16:43
みつしりきたー。
ミステリーとしては伏線が足りないような気がしますが、
もうトンデモだから良しとしましょう。
ええ、トンデモ大好きです。ただしネタ限定で。
27. フリーレス 人比良 ■2006/11/19 01:15:43
書き送れたのでこちらで。申し訳ありません。

ネタありき。
半霊なら隙間なく詰まるでしょう。素敵。二点。
28. フリーレス らくがん屋 ■2006/11/19 02:01:13
読んでくださった皆様、感想まで書いてくださった皆様、本当にありがとうございました。
以下、コメント返信です。

>as capable as a NAMELESSさん
某師父の言葉を引用すると、“考えるな、感じるんだ”ですね。

>箱根細工さん
判る人に判れば良い、って文章は不親切ですよねまったく。俺のことですが。

>椒良徳さん
ゆゆ様は妖夢にだけ許してもらえばそれで良いんだよ!
きっと一ヶ月メシ抜きくらいで許してくれるはず。

>爪影さん
釈迦に説法。むしろ馬耳東風?

>Fimeriaさん
こういう細工は初めてなので、巧いと受け取ってもらえたなら最高にありがたいです。

>nnさん
片栗粉は最初それだけで一本SS書こうかと思ってました。
勢い不足は、静かなバカ話を書こうとしたので。結果アンバランスになってしまったのかな。

>つくしさん
自分が面白いと思える話を書いたので、どうやらつくしさんは同志のようです。結婚して下さい。

>おやつさん
シ○アとレミ様、ア○ロとフランは意外と似てません?

>翔菜さん
ギャグとして読んでもらえただけでも感無量です。マジで。

>2:23amさん
明後日の方向に、猛ダーッシュ!! てなもんです。

>サカタさん
意味不明なものって、ハマると本当楽しいですよね。読者選ぶけど。選んだけど。

>たくじさん
妖夢は、下手に喋らすよか黙らせといた方が話が面白くなると思ったんです。不気味さで。
『重苦しい空気なんだけど中身は馬鹿話』ってのを目指したんですが、至らない所が多かったようです。

>藤村うーさん
あとがき噴いてくれてマジ感謝。性癖という言葉もピッタリです。

>VENIさん
私の中でスカーレット姉妹は幻想郷の萌えを一手に担っています。ただしもこたんは別枠。

>反魂さん
厳しいご指摘、ありがとうございます。ネタに溺れた故に小説として成り立っていないというのは、言い訳のしようもありません。
今回はもうどうしようもないので、次回以降のためにお言葉胸に刻んでおきます。

>翼さん
一世代前のミステリは少しは読んでますが、実際モデルはあるのかというと、……何なんでしょう?

>いむぜんさん
元ネタ知らない人は置いてけぼりです。申し訳ありません。

>ABYSSさん
箱みつしりさえ書ければ何でも良かった。反省はしていない。
文体古くしたのは単に雰囲気作りのためで、あまり深い意味はありません。

>blankiiさん
半霊を解体するのだけは、良心が咎めて出来ませんでした……。

>雨虎さん
>幽々子は自身の混沌の詰まった箱を開けてしまったわけですか。
さ、作者より上手いこと言わないで下さいっ!

>K.Mさん
ローマ字なら著作権に触れません。多分。きっと。

>しかばねさん
京極堂ならゆゆ様の憑き物落とせるかも知れません。紫が介入すると怪しいけど。

>目問さん
ゆゆ様は変な方向に壊れている印象が強いです。二次設定、ってわけでもなく、なんとなく。

>時計屋さん
トンデモミステリーは初めて書いたので、至らない点があったかもしれません。精進します。

>人比良さん
半霊みつしりはテーマ見た瞬間に思いつきました。神主様のお告げだったのでしょう。
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