それは、軌道に咲く。

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/28 07:55:55 更新日時: 2006/10/30 22:55:55 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


1. From the Orbit, Dear my Papa in love

 漆塗りの視界が静かに開けると『彼女』は関節の一個一個がまだ動くことを確認するかのように、ぎこちなく伸びをする。そうして小さな小さな溜息を一つ、誰も聞く者もない闇の中、誰に聞かせる当てもなく、ゆっくりと終わりまで吐き出した。
 
 深い眠り、永劫に続くかと思われた午睡の時間も過ぎてしまえば一瞬のことでしかない。此処が暗い、暗いとばかり感じられるのは夢の中で過日のことを――今は昔、光の下で育まれた日々を思い起こしていたからだろうか。そんな可笑しい自分の考えについ、くつくつと喉が鳴った。憂鬱の原因を過去に求めるなんて馬鹿な所業は自分を傷つけるだけだ、と長い、長い時の間に嫌というほど思い知ったではないか。此処にこうして漂うだけの存在になってから随分と時を経たのだ。内在の時計が機能を停止してからは時間の概念にもすっかり無頓着になっている。朝光と夕闇とで時刻の判断のできない場所の特性を考えれば仕方のないことかもしれないが、かつての己――定時の報告を欠かさぬように、終日を時計と睨めっこで過ごした自分。あの慎ましやかなコンタクトを心待ちにしていた過去の心地を思い出すと、今の自分には滑稽な事としか思えない。くくくと口から零れた苦笑いは自嘲の声となって己をつつきまわし、この上なく惨めな気分にさせてくれる。
 
 そう、例えば捨犬が眼前を行き交う人々を眺めるような気持ちだ。今この時、自分の前を通り過ぎたあの人が救いの手を差し伸べてくれたなら。もっと有体に言ってしまえば、温かい寝床、飢えた時の食料を与えて欲しい。否、そんな贅沢は言わない。せめて、せめて一晩安心して眠れる場所を。いいや違う、そんなことまで望みやしない。どうか貴方の手で、温かな手のひらで、鼻筋に優しく触れてから、ゆっくりゆっくりと上げていき、頭の毛をこちょこちょと繰りまわし、そうして静かに貴方の体温を感じさせながら、柔らかな指の腹で撫でて欲しい。それに、どうかどうかもう一度だけ、噛み締めるからゆっくりと、一句も耳が逃がさぬように、あの優しい声音で私の名前を呼んで欲しい。
 
 ……ありきたりな妄想、叶うべくもない望みだとは知っている。何故って、私の目の前には誰も居ず、それこそ何もありはしない。ただ漠然と広がる真黒い海原の端っこに、ポツリと捨てられているのが私なのだ。それに何より、私がもう一度だけ撫でて欲しいのは、もう一度だけ温もりを感じたいと思うのは、ただ一人。ただ、パパのあったかい手のひらに他ならないから。

 不意に目が熱くなるのを感じる。あれ、あれと顔を拭う内、自分にはまだこんな思い出を貪る余力があったのだなと不思議に思った。ふと視線を下げてみれば、大きな黒の球体に明滅する淡い光点が一つ、二つ。けれど全てを数え終わらぬ間に視界を遥か遠く、通り過ぎていく。
無数とも言える灯りはあるけれど、ただの一つも自分に近いものはない。伸ばしてみた手は虚空を切って、あんなにいっぱいの光が自分にはどこまでも遠い。そして、その内ひとつの下にはパパが居るかもしれないという想像だけが孤独を一層強めていく。

 私、頑張って役割を果たしたよ。

 来る日来る日に地上を見詰めた。渦巻く危難、些細な異常の兆候を見つけては報告し、ただ褒めて貰うのを待っていた。この孤独な空域に留まっての十余年、待っていたのはただそれだけ。

 それに、それにと言葉を続ける。

 パパとの約束をまだ憶えてる。出発の前の日に話してくれた、私の名前の意味を教えてくれた、その時。私に与えられた役割、パパと私が交わした、たった一つの約束。だから、忘れるはずはないのだ。

 澱みかかっていた意識をもう一度だけ意志の力で揺り起こす。そうだそうだ、私には約束がある。そう、パパとの絶対無二の約束だ。この約束さえ果たせば、きっと。きっともう一度呼んでくれる。私の名前を、パパの、とてもとっても優しい声で。

 ようやく決心が付いた。そう、もっと早くにこうしていれば良かったんだ。高揚して仕方のない心地のままで準備を始める。何の準備かって? 今更問うまでもない。『あいつ』だ、そう、アイツ。アイツを倒すって約束した。パパの願いを叶えるって約束した。もう力なんて微塵も残ってないかもしれない。でも、構わない。そうだ、そんなの構うもんか! だって私はココにいる。アイツへと手の届くココにいる。パパの願いを叶えるのは私しか居ない。だから、私が叶えるんだ。うん。きっと喜んでくれる、褒めてくれる。私はきっと、きっとそうして初めて報われる。確かに、一か八かの賭けかもしれない。でも、こんな冷たくて寂しい暗がりでいつまでもいつまでも転がり続けるくらいだったら、パパの声を聞くため、もう一度私を呼んでもらうため、コイン全部賭けてしまった方が遥かにマシだ――。

 そう考えて準備を終えた。後悔はない。中止する気も毛頭ない。もう一度、もういちど、優しく呼んで貰えたら、どんなに私は幸せだろうか。中枢を駆け巡る思考の刹那、感覚器からは急の伝令が割り込んで、一つ、たった一つ、待ち望んでいた事実が告げられた。そう、『アイツ』がやって来たのだ。

 暗闇に一条、光線が走った。彼方、地平の向こうから走り来る光は、束となって、そして急激に角度を緩めながら彼女を包む。周囲は眩しいほどに光に満ちて、闇が残るのはただ彼女の後方。彼女だけが微かに希釈された薄闇を背負ってアイツと二人対峙する。あまりの光量に彼女の眼は耐え切れず、その機能を一瞬の後に喪失した。構わない。そう彼女は考える。回復を待っていてはせっかくのチャンスを逃すだけ。だから、構わない。彼女は自分の余力がないことを知っていたし、何より今この時が最初で最期のチャンスだと自覚していた。だから失敗することは許されない。否、失敗するハズなんてない。だってこれはパパとの約束。彼女が望みのありったけを託した誠実な履行。だから、失敗するなんてあり得ない。そう考えて、彼女は精一杯に黒々とした空を踏みしめ、アイツに向かって突っ込んだ!!

 余力の全てをふりしぼり、彼女は自身を前進させる推力を得る。それこそが彼女が望んだ力。アイツに近づくため、アイツを倒すために必要だと彼女が信じる、たった一つのもの。彼女を縛り付け暗闇に閉じ込めていた、この軌道を打ち破る無二の効力。だからこそ彼女はこの一瞬に賭け、アイツへの直線航路へ全力で一歩を踏み出した。彼女はこの一瞬に全力を注ぎ、余力は寸分もなく、思わぬ力価に傾く姿勢を全能力で制御し、負荷にキリキリと軋んで痛んで仕方のない全身に、必死の思いで耐えた。それもこれも全部はあの日、過去に交わした約束のため。履行の後に果たされる彼女の望み、あまりに小さい、けれど無上の喜びであるそれのため。彼女はまさに文字通り全身全霊、己に残されたコインを全て賭け切った。

――だからこそ、結果は全て予想の範囲内。数瞬の後には死神の宣告なんて優雅な時間はあり得ずに、終わりの始まりがやって来た。

 パキリ。軽い、軽い音がした。それがあんまりにも拍子抜けした音だったから、彼女は首を傾げて視線を向ける。ようやく回復しかけていた視覚で確認したのは何ということはない。あったのは見慣れた己の片腕で、でもただ一つ変なことにそれが自分の身体と引き裂かれ、ポツリと宙に浮いていた。

「あああああぁぁぁ」

 思わず叫び声を挙げた。まだ、この状況を理解した訳ではない。ピキピキ皹の入った小さな願いと、こんな絶望的な目前の光景との不協和音が脳髄に響き渡り、一部が口から漏れて出ただけ。

「あああああああぁぁぁぁ、アアアアアアアアァッ」

 叫ぶ。叫ぶ。ただ唸り声を挙げる。眼からは涙がぽろぽろ零れ、何を蔑むのか口が呆然と醜く歪む。痛覚などではない、理解したのだ。どうしようもなく理解した、彼女は、この賭けに、完膚なきほど打ち負かされたと。
 もがれた腕が遥か後方に過ぎていくのと同時、彼女は何かに躓いたかのように横転してごろごろと転がった。姿勢を制御しようにも、頭にはエラーランプが明滅するばかりで有効な手段は見つからない。ごろごろごろごろ転がる内に進路は軌道から落ち込み始め、徐々に落下を自覚するようになる。下へ、遥か地獄の釜の底へと魅きつけられる重石の身体で、ぼんやり見開いた両の瞳に映るのは、ボロボロと毀れ落ちていく己の断片。小さな欠片から赤熱し始め、襤褸雑巾のように黒く焦げた肉片、異臭が辺りを満たし、彼女は自分が灼け爛れるのを嗅いだ。ゴウゴウと唸る音だけが耳には届き、ポコポコ皮膚の泡立つ音を聞かずに済んだのは唯一の幸福に違いない。彼女の頭は、こんなハズじゃない、こんなバカゲタ結果が欲しいんじゃない、こんなキモチワルイ音が聞きたいんじゃない、と延々ぐるぐる繰り返す。その間にもパキパキピキピキ、破損の音は引っ切り無しの耳鳴り残して、脳髄が湯気を立てて蒸発する愉快に意識は白熱して消滅しかかる。だから彼女はその瞬間、ああ終わるんだ、って妙に冷静にそれだけ悟った。でも。

やだやだやだパパ、パパ、パパ、助けてたすけてパパぱぱ、ぱぱ。
もういちど、なまえ、よんでよ。ぱぱ。わたしの、

 パクパク空気貪る金魚みたいな口の動き、ほとばしるように出た最期の言葉。耳を傾ける者は誰もなく、言葉尻にはプツリと切れて、もうそのまま。

 
 既に一塊の黒い固質となった彼女は落下を続け、この階層において飛躍的に増した抵抗を身に受けると、歪み、砕かれ、そして音もなく四散した。数百、数千に分かたれた彼女だったもの。あるものは燃え尽き、あるものは赤く燃えたままに落下を続ける。そしてそのうちの一つ、ひときわ大きな塊だけが、淡い光芒を湛えつつ空に赤くひとすじの尾を引いて、はるかはるか東の方へと流れ去った。


2. Hypothesis; Midnight/Teatime

「そういう話よ。流れ星に願掛けなんて、どだい無駄なこととは思わないかしら、パチェ?」
 ズズッと少しだけ音を立てて紅茶を啜った。カップになみなみと注がれていた紅いそれ、口に含めば微かに甘く鼻腔にしとりと滲ませる。
「実際まあまあ、90点。砂糖の加減は控えめにね、咲夜」
 コクリと残りを飲み干した。カップを戻しての一瞬き、そこには口をつける前と同じ様、ほこほこと湯気を立てる紅。
「有難うございます、お嬢様」
 言葉を置き残すが姿は見えず、瀟洒なメイド長は言葉と裏腹、主人から満点を頂けずに随分と口惜しがっていることだろう。それでもそんな姿を衆目に晒さないが故の瀟洒ぶりなのだろうが。
「だからね、パチェ。問題は流れ星よ、流れ星。効果と評価に疑問がアリよ、ていうかむしろアリアリかしら。このデーモンロード、レミリア・スカーレットが掛ける願い事には少々役不足とは思わない?」
 そう言って、にぃと笑うレミィ。その顔が何故だか可笑しく思えて、私はクスクスと笑ってしまった。
「ええそうね、そうかもしれない。でも、事によるとそうじゃないかもしれないわ」
「って、こらパチェ。知識の魔女が言うに事欠いてその台詞はいただけないわね。イエス・オア・ノー? あなたの莫大な知識は、それこそヴワルの紐解きは、私の問いにはなんと答える?」
 そうねぇ、と相槌を打っておき、手元の書物から視線を切って咳払いを一つ。レミィを見遣ればフフンと挑戦的に私を見ている。当たるも八卦当たらぬも八卦。つまり、当たれば万歳当たらなければ無視しておこう、が古来からの習わしの占い、願掛け、神頼み、その他諸々エトセトラ。根拠と結果の因果律を合理では説明できない質問で、根拠の基たる知識の虫、この私を困らせたいのに違いない。レミィのお茶目は嫌いでないが、このような質問は私も困る。なんというか、その、ついつい遣り込めたくなってしまうから。
 そうね、ともう一度相槌を打ってから私は論を始めることにした。これこそ根拠も何もない、口からデマカセかもしれないが。

「ねぇ、レミィ。この場合、問題になるのは『願掛け』で良いかしら? お願いする相手はたくさんいるわね。星、神様諸々、ときたま妖怪、あとは稀少な人間とかね。これがつまりは願望器。誰かの呟いた願い事、願望器に入れてガシャガシャホイ。出てくるのは、蛇かライオンか知らないけれど、結果は必ず付いてくる。勿論何も起こらないっていうのも含めてね。つまり願掛けには、原因・機構・結果があるということ。まず第一に考えたいのは、機構すなわち願望器自体が結果を起こす場合。この場合、結果の如何は願望器自体が担ってる。そいつに出来ることは叶うし、出来ないことは叶わない。勿論そいつが極度の不精なら、簡単な願いも叶わないでしょうね。さて、第二の場合――当然こちらが、大多数でしょうけど。なにせ世の中、他人の願い事にかかずらわりたいなんて奇特な奴らは少数だろうし。これは、願望器自体は何もしない、それとも何もできない場合。とすると、この場合には機構は存在しないことと同じ。願いは入る所がない、だから結果は当然出てこない、ハズよね? でも、実際は異なる。明らかにアレなものに願を掛けた例でも、願望器として機能するのは有り得ることよ、経験的に。つまりね、この矛盾に対する仮説こそレミィへの回答になると思うわ。一つには、ただの偶然。願いは当然のように、運命的に叶うハズのものだった。故に叶った、Q.E.D.でも、これじゃあ面白みがないわよね。だから、私が考えるのはもう少しだけ面白いこと。つまりね、願掛けっていうのは、世に満ち満ちている摂理、私達を絡め捕る運命の糸を張り詰めた水面に落とす、小石なのよ。さざなみの広がりは誰にも予測しようがない。なぜって世界は複雑だから。あなただって全ての運命を把握し切れる訳ではないでしょ、レミィ? だから、あなたの吐き出した言葉の泡沫だって、起こした波紋が何処まで影響するかは知れないわ。――要は何を言いたいか。つまりね、何もしないよりは願掛けでもした方がマシじゃない? という結論よ、とっても経験的に世知辛く」

 長台詞は構わないけど、少しだけ息苦しいのには困ってしまう。コホッと小さく咳き込むと、言わんこっちゃない気な顔でレミィが見てくる。
「ああ、大丈夫かい、パチェ? いやはや全く……で、結論としては願い事はした方が良い、と」
 残っていた紅茶を咽に流し込む。夜気にすっかりと冷めてしまっていたが、今はその方がありがたい。咽の奥が冷やされてかは知らないが、何故だか少しだけ咳が落ち着く。その隙にスーハーと深呼吸、お陰で頭の朦朧加減もすっかり晴れてくれたらしい。
「……もう大丈夫よ、ありがとう。まぁ、そうね。特に流れ星は最適かしら」
 私の言葉にレミィは、あら、どうして? と不思議そうな顔をする。
「言ったでしょ? 小石はさざなみを起こすのが役割。でも、起きる波紋は大きい方が運命を撹拌する作用も大きいわ」
 無理をしないようにと一呼吸を置く。何時の間にやら再び満たされていたカップを取って鼻に遣る。スゥと息を吸い込めば微かな茶葉の匂いと一緒、湯気の温もりが心地良い。
「つまりね。願望器は、願望器と他人に認められなければ意味がないのよ。例えば私が一日三回御飯に箸挿し差し上げて、我が家の門番を拝んだとしましょう。レミィ、あなたはどう思う?」
 くくくと苦笑していたレミィだが、両手を拡げて気障ったらしく、急に真顔を造り上げると精一杯の低音、ボーイ・ソプラノで朗朗と歌い出す。
「ああ、ああ、愛しの魔女の姫君。貴女は遂に狂ったか! なんたる悲劇、なんたる痛恨!! あの時、わたしが、この大馬鹿者めが、貴女を拒みさえしなければ!」
 
 くすくす。ああ、なんて似合わない! レミィが歌うのはバリトン調子、遅すぎた男の求愛の詩。あまりのギャップに吹き出すと、レミィも加えてハハハと笑う。必死に顔を真面目に繕い、言葉を取り出す至難の業。
「そうね、その通り。コイツは狂人か? っていうのがオチね。つまり、ある品物が願望器だ、って前提は共有されなきゃいけないの。そしてね、共有の度合が大きければ大きいほど立てる波紋も大きくなる。そう思うのよ、私は」
 相変わらずの笑い声を立てながらレミィは論に終わりの紐目を結び込む。
「くくくく。……分かったわ、パチェ。流れ星への願掛けなんて、根拠はないけどみんなが知ってる。だからこそ最高なのね?」
「その通り。無意識の共有、強制、トラウマチックな刷り込み現象。他人に何かをさせるには最高ね?」
 私とレミィは再び笑う。とりとめもないお茶会の結びには、ゴマカシ・デマカセ・オオボラの三拍子が最高なのだ。

 レミィは不意に立ち上がり、スカートをパンパンと豪快にはたく。その姿はお嬢様の優雅さとは似ても似つかず、とうの昔から変わりはしない。
「それじゃあね、パチェ。これからが私の時間だけれど、あんたのソレには良くないでしょう? 我侭言って遅くまで付き合わせて悪かったね」
 さくやー、後片付けよろしくねー、と虚空に向かって叫んでいるが、これで通じてしまうのが不思議極まる。まぁ瀟洒であるから仕方がないのか。私は両手をテーブルに付いて立ち上がると、持参した本を片手、空いた方の手をドアノブへとかけた。互いに背を向けては礼儀に背くのかもしれないが、ナシよりアリがましだろうと思い直して、背中越しのレミィへと伝えることにする。
「眠れぬ夜、持つべきものは友達って本当ね? お気遣い、感謝するわ、レミィ。……おやすみなさい」
 後ろ手にパタンとドアを閉める。レミィの部屋の中からは、何やらくぐもった声が聞こえたが、シラナイキコエナイキニシナイ、知らぬが仏。

――全くパチェは、ごくたまごく稀レアケース、コンマ以下3つに足らない風味の確率で、たまーに素直だから困るねぇ。

 廊下に出てからしばらく歩き、ふと横を見遣れば、硝子に歪んだ一面の黒天幕。よく晴れていれば夜空を覆う光点の粒も今日は何処に行ったか姿を見せない。
「明日は曇りかしらね」そう呟いた瞬間、天頂をぼんやりと見つめていた両の眼が不意の異変を捉えた。何とも都合の良いことに、赤い流星が長い長い尾を引いて、彼方天頂から矢のように駆け降りたのだ。願い事でもすれば良かったかしらと考えても後の祭りで、スゴスゴと自分の部屋へと戻るよりは仕方がない。ああ口惜しい。適当に願い事でもしておけば、明日レミィに自慢したのに。


3. Dreamig, happy Athma

ヒュー。

 眼を開けた、という感覚だけが最初。静止した世界は黒々として不安、背中のべっとりとした冷や汗が寝巻きに張り付く。握り込んだ手のひらにはまた、ねっとりと寝汗の感触。縫い留められたみたいに体が動かず、薄いハズの一枚掛けブランケットは鉄の外套。暗闇の重量が絡みつく中もがいてもがいて、どうにか鼻をぴくりと動かせた。

 ああ、夢だったかと安堵する。安堵と一緒に息を吐き出し、
 
ヒュー。

 できない。

 出来ない、出来ない、息を吐けない。肩をいきり挙げて、胸郭全体を動かすように、ゆっくりちょっぴり息を吸う。そして今度は大丈夫、大丈夫、言い聞かせながら、ハァと吐く。前歯に息がかかったくらいで、喉の奥がきゅうとすぼまる。ヒューと高音。すぼまる口が鼓笛みたいにヒューと鳴った。吐けない、息を吐ききれない。これじゃあ悪い空気が肺に溜まって、息が詰まって死んでしまう! 空気、くうき、新鮮で冷たくてキレイでサラサラ、私みたいな熱くてドロドロな喉でも通ってくれる、そんな空気が吸いたい、吸いたい!!
 寝床からガバリと身を起こすと、上半身のあらゆる器官と能力の全て、それこそ考える力も意志の精緻もありったけをぶちこんで、呼吸に、ただ吸って吐くという単純計算に従事する。下半身なんて感覚は全く失っていて、足がどうとか腰がどうとか、ふくらはぎが痛いとか考えられない。まるで私の全体が充血した一個の肺になったみたいに、スーハー、スーハー、スーハーと膨張して収縮して、一定のリズムを刻むのだけに集中する。
 そうして息が静まるまでの数十分だか数時間だか知らないが、私は眼の前で、とろとろの暗闇が固化して融解して気化して昇華して、しまいにちょこんと座ってけたけた笑い始めるまでを静かに静かに待っていた。

 窓外が薄く白み始める頃、ようやくと発作は一応のおさまりを見せてくれた。スーハー。苦しくない。天にも昇る心地とはまさに此の事で、息が苦しくない、息が苦しくない、この一事だけで信じたこともない神やら仏に祈りたくなってくる。
 目の下をこすって大あくび、頭はなんだかぼんやりと霞がかかっているようで、睡眠が足りているとはとても言えない。このまま朝を迎えてしまえば、モーニングティーをこぼしながら大事な本を逆さ読みして、小悪魔を随分と心配させてしまうことだろう。あの仔の気遣いは嬉しいのだが、喘息にはコレですよー、なんて魔界直送便のお国自慢みたいな薬草を飲まされたのは忘れがたい。甘いでなく苦いでなく、敢えて言うならスッパイのだろうか。まるで飼葉を熱帯で存分に発酵させたかのような、あの凄まじい味は忘れがたい。というか地獄の釜の蓋が開くのを見るなんて、絶対に二度とは御免だ。
 思い出しただけでも頭痛がしてくるが、今は寝るのが少しだけ恐い。なにせ、息の吸えない恐怖、吐けない徒労。朦朧とした頭を枕に押し付ける心地良さより、きゅうと締め付ける喉の奥の苦しみが勝ってしまうのだ。

 うじうじとそんなことを考えながら慰めに本でも読もうかと手を伸ばした瞬間、部屋の外でガタガタと物音がした。
「こ、困りますよー。パチュリー様はお休み中です。ただでさえ体調が優れないんです、起こしたらめっ、ですよ、めっ!」
 これは小悪魔の声か。
「で、でも、緊急事態なんです! でっかい変なのが、裏庭にぃ〜〜。とにかく見れば分かります、危険です! ボンバヘッ!!」   
 こちらの普段に輪をかけて落ち着きが無い声色は美鈴のものに違いない。いつもなら五月蝿いと一言剣幕を飛ばすところだが、今日だけは彼女らの騒々しさも有り難いのかもしれない。なにせここで起きてしまえば、塗炭の苦しみに喘ぐ必要も何もかもありはしないのだから。

 お早う。そう言いながら部屋の扉を開けた私に、乱入者二人は少々面を食らったらしい。
「お、おはようございますぅ、パチュリー様! ご、ごめんなさい、五月蝿くしちゃいました。でも、これは美鈴さんがぁー」
 小悪魔はバツが悪そうに話しているが、私はニッコリ笑顔で応じる。当社比120%、スマイルは0円ながらも増量中らしい。
「構わないわ。少々寝すぎて退屈していた所だし、今なら小うるさい乱入者も大歓迎よ。ねぇ美鈴?」
「は、はぃぃっ」
 叫びながら美鈴は直立不動、右手が最敬礼の位置にあるのは、私への敬意かはたまた悪い冗談か。
「ねぇ、美鈴? 私、今朝はとっても機嫌が良いの。早く話してごらんなさいな、出前は迅速落書き無用って言うでしょう?」
 少々寝不足で普段よりも言動が奇抜かもしれないが、この程度は常識的に許容範囲。あからさまに青ざめた二人の顔色は何かの間違いに決まっている。

 コソッ『美鈴さん、パチュリー様が変です! 絶対機嫌は最悪です!! なにせ目の下くまさん二匹、しっかり手懐けサファリパークにぃぃっ』

 コソッ『そ、そんなこと言われても! でも、眼は濁ってるし、笑顔は最慌ぅー!! 後で絶対お仕置きですかぁーー?』

 こちらに聞こえないと思って囁き合う二人だが、こちとら寝不足で脳みそサンサン耳はギンギン。要らぬ言葉を聞く前に、さっさと次の厄介事に取り掛かるとしようか。
「いいから、美鈴! 裏庭で何があったの? 一から十まで要点だけを、起承転結事象の流れを丹念に――30文字で説明なさい」
 
 美鈴の、かいつまんで更に回りくどい説明を聞いた結果は以下の通り。つまり、『裏庭の花壇のまんまん中、昨日はなかったハズの巨大な物体が鎮座している。耳を澄ましてみたところ、ウィンウィンと恐怖の音が!』とのこと。
 まるで要点を射ない説明に随分と時間を費やしてしまったが、事態は思ったよりも深刻。早めの対処が必要と判断する。
「分かったわ。美鈴、貴女は一緒に来て頂戴。出来うる限りを調べてみましょう」
 言葉と同時にヴワルの検索術式を起動、非常時用の術式・簡易式から、ちょっとした切り札までを記載した魔道書を召喚する。この本さえあれば多少の危難、例えば象の大群100匹大行進程度は問題あるまい。
「小悪魔は此処でバックアップ。もしものことがあれば咲夜に伝えなさい、良いわね?」
「で、でもパチュリー様! 今は喘息の加減が……」
 心配げな小悪魔の言葉に、私は少しだけ笑ってみせる。彼女の顔がほんの少し弛んだところを見ると、どうやら今度のメイクスマイルには成功したようだ。あんたの不器用は死んでも治らないよ、なんて毒づいたのはレミィだったか。何時のことかは忘れたが、まったく友人の性質を良くご存知で!
「大丈夫よ、心配しないで。ちょっと調べてみるだけよ。それよりも、あなたの仕事は大事よ、小悪魔? 私達二人の安否は、あなたの肩にかかると知りなさい。ね?」
 
 ハイッと元気良く返事する小悪魔を背中、美鈴と二人でヴワルから本館、更には裏庭へと続く廊下をずんずんと歩き出す。
「現場に着くまでブリーフィング。あなたの見たもの、聞いた音、嗅いだ匂い、触れた感触、全部ありたっけの情報を頂戴な、美鈴?」


4. Encounter a Girl, Pseudoplant of Iron made

 紅魔館には裏庭がある。

 そもそも紅魔館はおおむね『コ』の字型をしていると思って欲しい。中心の最長辺たる本館は前後二つの庭に面し、二本の短辺が端から後方へと張り出している。前庭は湖へと直接に連なって、本来美鈴の守護するべき大門はこちら側。対する裏庭はその真逆、周囲三方向を館に囲まれ、残された一辺は島嶼に残る森に連なる。つまり、裏庭は一種の閉鎖的空間を形成しているのである。森には攻城戦防御用特化の結界陣地が構築してあり、異物の侵入を許すとは考えられない。それこそ木馬の一つも持って来いと言うものだ。とすれば、防御のウェッブを掻い潜るべき盲点は、空か? はたまた地の底か? ともかく此処には巨大な紅魔館の機能を支える様々な裏方の器官、例えば食料庫や燃料庫といったものが散在している。とはいえ、広大なスペースがそれだけで埋まるハズはなく、残りはレミィの眼を慰める娯楽場、紅の花に満たされた花壇として活用されている。この花壇の管理人も美鈴、つまりは彼女が異変に最初に気付く理由そのものであったのだろう。諸々の建築物を除いた裏庭は、長径にして100米、短径が80米の整楕円。その中心には特製紅煉瓦の噴水が、膨大な魔力を浪費しながら天高く水を巻き上げている。そして噴水を基点として、紅薔薇、サルビア、エトセトラと十二の放射状に分割された区域のそれぞれに、レミィお気に入りの紅い花が植わっているのだ。

 美鈴と二人、まさにその裏庭に薄皮一枚と肉薄した扉を開放した瞬間、それまでは清浄と感じていた館の空気に異臭が混じる。否、異臭なんて生易しいものじゃない。ぐつぐつと煮込んだ肉鍋を空焚いた後数時間、カラッカラまで水分を飛ばして干からびた真っ黒焦げ、その中に爛れた植物と焼石と蒸発する水銀。そしてほんの少しだけ香るタンパク質の、そう、生肉のじゅくりと焼ける良い匂い。 
 一層これが鼻の奥、嗅覚の中枢を刺激して、なぜだか眼前の地獄絵図を美味しそうと錯覚させる。口腔にはジワリと唾液が滲んで、思わず自分の正気を疑いたくなってしまう。いけない。こんなものが美味しそうなんて考えを受け入れたらいけない。だって、そうしたら私は一介の獣に成り下がるより道はないのだ。
 吹き付ける熱風、まるで体感温度は十度も上昇、不快指数はうなぎ昇り。空きっ腹には堪える刺激の応酬に胃の入口は弛みっぱなしで、逆流した胃酸が食道をじくじくと焼いていく。それがいずれ口まで上ってくるのは時間の問題。咽の奥がうえっうえっと泣き止まない赤ん坊のように嗚咽し始め、口の中と眼の底と鼻の奥が熱くなるのが一緒、私はうずくまってブチマケタ。

「大丈夫ですか、パチュリー様!?」
 美鈴は口元を押さえながらも、私の背をゆっくりと擦ってくれる。
「……ええ、大丈夫よ、悪いものみんな吐き出したから。それよりあなた、随分と気丈ね? 実際私も見習いたいくらい」
 軽口を叩く私の様子に、美鈴も少し安心したようだ。キッと見詰める視線の先、異変の元凶はその先にあると無言のままに告げていた。
「なにせ、荒事だけならパチュリー様より馴れてます。……それに、私は二度目ですから。最初は一緒、せっかくの朝御飯をすっかり吐いちゃいました」
 互いの軽口に少しだけ、ほんの少しだけ心が軽くなったか、二人して開け放たれた扉の先を見詰める。

 昨晩まで壮麗な佇まいを見せていた広大な花壇が今は無残、地にはベヒモスがこしらえたかのような巨大な爪痕が一本走り、立ち昇る煙に良くは見えないが、森の奥までずっと続いているらしい。そりゃあ、こんな巡航ミサイルじみた超弩級の異物では、自慢の結界陣地だってとてもとても機能できまい! 花壇には幾本もの地割れが穿たれ、周囲の小屋同様に火の粉が飛んだか、パチパチと白煙を渦巻きながら燃え盛る。
 そして何より、この大惨事の元凶と思われるそれ、天を目指して聳えたバベルを打ち崩す雷撃のよう、豪奢を誇った噴水装置を叩き壊し、ガラガラ崩れ落ちる煉瓦の産業廃棄物を従えて、臭い立つ蝿の王の如き紡錘形の異形塊。それが一本の単純な軍槍みたいに、地に突き立って鎮座していた。
 元の噴水よりも幾分大きくなったとも思われる巨大な怪物、紡錘形の頂点には割れ目が見えて、無数の電気索を無理やり引っ張って繋げて絡まらせて、縦横無尽に走らせた基点。その割れ目からはパイプに土管をチグハグと連結したとしか思えない、無骨で凶悪な幾本もの蔓、趣味の悪い造物主謹製に違いない先鋭な棘持ちのイバラ。これらの網目を脳内で無理に一つの事物であると考えるのなら、それは種から芽吹く異形の、そして何より醜悪な、一個の麗しい植物体に他ならない。
 その想像はかつて可愛らしいイバラが支配していた庭園の一角を思い起こさせるが、コレはそんなものの比ではない。異形の蔓は紅の花達が昨夜まで存在していた全域を支配し、蹂躙し、今や住人達を思いのままに屠っていた。無骨な鋭い棘は花壇を形作っていた煉瓦をも侵食し、丸々と穿たれた穴もむごたらしく、そして植物体全体がビチビチと痙攣するかのように跳ねている。
 この光景は吹き付ける熱波の中においても二人の背筋を凍りつかせ、何かそら恐ろしいもの、この世にありうべきでないものを見ているかの印象を抱かせた。

「始めましょうか。美鈴、あなたは周囲を警戒していて頂戴」
 了解。そう歯切れよく美鈴は答えるが、顔は極度の緊張に歪んで頬をつぅーと汗が一筋流れ落ちる。私は抱えていた魔道書の所定の頁を繰り、懐から取り出した札との間に霊的な結合をセットアップ。ちょっとした物体移動の術を施して手離せば、札はひらひらと気流に舞いながらも、くだんの植物体の蔓の一本へと貼り付いた。
「……開始。準備は良いかしら、小悪魔?」
 勿論私の横に小悪魔はいない。今頃は準備も万端、ヴワルで緊張の面持に座していることだろう。すると耳の裏側、脳の表層の辺縁ほどにあの仔の声が賑やかに届いた。

『あー、あー。マイクテスッ、マイクテスッ。聞こえますか、パチュリー様? こちらヴワル、念話の感度は良好に推移。日月火水木金土、七曜の魔道書をそれぞれ厳選して接続してありますよ! 準備は万端です!! あっ、そう言えばホストには、パチュリー様の秘蔵っ子を使っちゃいました。ごめんなさい、えへへ……』

 秘蔵っ子、の4文字にこめかみがピクリと動くのを感じたが、今は敢えて気にするまい。
「OK、小悪魔。こちらも感度は良好。周波数は適度に設定、そうね、7,000,000辺りから始めましょう。禁書の件は、とりあえず不問にしてあげる。魔女の秘密の代償は高いわよ? ……第一波を30秒後に発射」

『ヴワル了解。幸運を、パチュリー様』

 辺りを包む一瞬の緊張。私の耳には最早何の音も届かず、ただ静寂だけが世界を支配する。美鈴の頬を垂れる汗の粒も妙にゆっくりと見え始め、指先の熱感に没入する感覚が私を満たし、絡め取り、そうして一瞬の隙に逆転する。私を媒介とする魔力線の束をぐいと掴むような感触。右手人差し指が本の頁に五芒を綴り、口では所定の印呪を暴く。ウイイィィィと、音が術式の起動を知らせ、私の身体は細かに細かに振るえ出す。波の長さを千切って伸ばして適度に調整。秒間七百万の細微動に照準し、ピタリと合わせれば出来上がり。
「設定完了。後の解析は任せるわ」

『ヴワル了解! お疲れ様です、パチュリー様。解析は5分、ううん、3分で終わらせます!』

「あら早い。また腕を上げたかしらね、あなた」
 えへへ、と可愛らしい照れ笑いが念話を通じて聞こえてきたが、そのまま小悪魔は沈黙した。魔道書間の設定を最適化し、莫大な情報を整流し、結果の最良を引き寄せるのがあの仔の役割。こちらは出力を良質に保ち、後は結果の報告待ちと言う訳だ。
 少しだけ緊張をほぐして汗を拭った私に、美鈴が不思議そうな面持で話しかけてくる。
「あー、一体全体何をしてるんですか、パチュリー様? 私には何が何やら……」ポカンと口を開けた美鈴の顔が可笑しくて、こちらも少し笑ってしまう。
「それが当然。荒事があなたの得意なら、こちらが私と小悪魔の専門事。……まぁ簡単に説明するとね、あの札からは高周波が出ているの。反射を私がヴワルに転送。ヴワルでは小悪魔の構築した多層並列結合の魔道書達が、それぞれ術式の特性を活かしながら解析するという訳。有体に言ってしまえば、一種の物質解析装置みたいなものよ。七曜の属性にどのような不平衡を示すか、てね」
 美鈴は相変わらず我不如意的な顔を崩していなかったが、やがて平手を拳でポンと打つ。
「まぁ、これで異変の原因を突き止められれば、無問題ってやつですね。難しいことはよく分かりませんが、安心して下さい。パチュリー様の背中は、この美鈴が、紅魔の門番、紅・美・鈴が護ってますから!」
 カンラと明るく笑う美鈴に、私もつられてクスクス笑う。勿論と変な意味ではない。人に得意分野があるように、妖怪にも専心すべきことが諸々ある。それが偶々美鈴には武術であり、私には魔法であっただけのこと。

『パチュリー様!』

 緊急の入電に再び意識を念話へと集中する。術式の並列展開には馴れているつもりだが、意識を途切らすと厄介なのだ。
「どうしたの? 解析終わった?」

『ハイ! 速報結果を伝達しますね。素材解析は、『月』に強い集積が見られます。一方で、変ですねぇ……情報解析で最も強いのは『木』。『月』への集積との平均差と分散を考慮して、有意差アリです、アリアリです! どういうことでしょう? 普通は同一検体に対して一致するハズなのに』

「ええ、了解よ。それに関してはこちらでアプローチをしてみるわ。そちらは詳しい解析を続けて頂戴」

『ヴワルりょうかい……って、ええ!? 駄目ですよ、パチュリー様! 危険です! せめて潜在危険予測値を待っ』

 プチン、と甲高く音を響かせて念話から離脱する。念話に効果音は不要な気もするが、まぁ気分が出るのだ多分。 いずれにせよ、アレが危険物であることなんて予測値の測定をするまでもなく明白なのだ。とすれば、一刻も早く、寸分の余地なく破壊し尽くすより他はあるまい。けれど未だ不可知な事象が目の前にはあり、おいでおいでと手招くように私の欲求を掻き乱しているのだ。好奇心はネコをも殺すらしいけど、この知的好奇心は魔女さえ殺してしまうのかしら? ――まぁ、初めから結論ありきの議論には、意味などないのかもしれないが。
 
 私はスッと本を地面へ下ろすと、あの奇怪な植物体の根本、噴水へと突き刺さった紡錘の異形へと足を向ける。
「ねぇ、美鈴。私、これからアイツを精査してみる。あなたは来なくて構わない。……もし万一のことがあれば、皆に宜しく」
 私の言葉に美鈴は初めギョッとしたようだったが、いきなり無言で腕を掴んできた。行くな、という意思表示には違いない。
「どうしたの? 止めたって無駄よ? 私の性格はあなただって先刻承知でしょうに」
 すると、腕を掴んでいた力が弛む。不承不承ながらも認めます、という所だろうか。ところが彼女の反応は予想ハズレも著しくて、俯いていた顔を上げると口を真一文字に結んでいる。私の顔を、私の両の眼をじっと見詰めたと思うと、不意に顔を崩して美鈴はあっけらかんと言い放った。
「お供します」
「――え? これは私の我侭よ。業務の範疇からは除外されるわ。あなたは此処で待ってなさいな、あんな怪物に近づくのは嫌でしょう?」
「お供します、と言いました。アハハ、なにせパチュリー様の背中は護ると約束してしまいましたから。まぁ仕方ないですよ」
 美鈴の明るい笑い声には、こちらも苦笑するしかない。まったく、とんだ強情者が私の側には多すぎて困ってしまう。
「……分かったわ。大口を叩いたからには存分に働きなさい、事が終わって、背中に汚れの一つでも付いていたら承知しないわよ?」
 そりゃ難儀ですねー、なんて明るい声。けれど美鈴の顔は直ぐに緊張に引き締まる。私は美鈴からの視線を切ると、まっすぐまっすぐ異形の本体を見詰める。そうしてコクンと唾を飲み込んで、一歩目をゆっくり踏みしめた。

 最早瓦礫の山と化した噴水の残骸のふもと、仰ぎ見る異形の紡錘は視界の端から端までを埋め尽くし、その威容をちっぽけな私達二人に見せつける。けれど幸いにも、未だ触手のような蔓にも目立った動きはない。こんな極悪な触手が動き出したら、意識のない私では直ちに捻りつぶさてしまうのに違いない。
 私は右手に『月符』、左手に『木符』を握り込むと、そのまま異形に両手を触れた。ソイツはなんだかひんやりと冷たくて、凶悪な印象とは裏腹、何故だか随分と寂しげな印象を受ける。
「それじゃね、美鈴。少しばかり潜って来るから、身体の方は任せたわ」
 了解しました。そう言う美鈴の力強い返事を聞くか聞かぬかの内、私の意識は白く白く澄んで染み渡り、黒々とした鉄、冷え冷えとした剛体の内部へと、ゆっくり、溶け込み、そして潜って、いった。


5. Intermission; the Past. What I'm for, Why I'm needed

 カーゴの開け放たれた蓋の周囲には、黒髪に白衣の男達が多く集まっており、ガヤガヤと騒々しく会話が続いていた。彼らの目当てはカーゴの立方体に収まったそのもので、暗がりを覗き込んでみれば、銀の体躯に照明が反射して鈍く光る。収まっていたのは銀の箱。白衣の男の一人も驚いたように、その大きさはほんの両腕を伸ばした程で、こんな小さなものが、とあちこちから感嘆の声も聞かれた。
 白衣の男達の中から一人、髪には白いものが混じった初老の男性が進み出る。彼は銀の箱へと手を置くと、その表面を優しく撫でながら柔らかな声でこう言った。

「長い、長い旅をご苦労様、外国生まれのお嬢さん。これから私達は、君に、物事をしっかりと見るための眼をあげよう。危険を感知するための、耳をあげよう。そして、私達と話すための口をあげよう。そうして、それらが全て成ったなら、君は宙へと行くんだ。きっとキレイだ、違いない」

 箱はとある高さで段差をつくっており、その段差になった肩の部分には、よく眼を凝らしてみれば金髪の少女が一人座っているのが見える。けれど彼女に気付いた者は周りには誰もないようで、何者も彼女を気にした様子がない。ただ、彼女は眼を閉じたまま、プラプラと足を動かしている。何か歌うように口をパクパク動かすが、喉から漏れるのは空気だけで一向に音が紡がれる様子はない。緑のワンピースから伸びる太腿の白が生地に映え、白衣の男が箱に触ると彼女も一緒、腰までの長い髪をゆらりと揺らし、口元を弛めてにっこり笑った。

 月日が経つに連れ、銀の箱には様々な装置が取り付けられる。地上を観察するためのレンズ。エネルギーを取り入れるパネル。そして、地上への送信器械。その一つ一つが果たすべき役割に必要なものであり、その工程が進むことは出発の日が近づくのと同じ意味だった。
そんな日々の中、初老の男は今日も銀の箱の傍に腰掛けると、ゆっくりと話しかける。

「私には、娘が一人いるんだ。とても元気な子でね、いつも、パパ、パパって電話で……」

 穏やかな調子で話を終えると、いつものように軽く、少しずつ完成に近づく銀の箱を愛おしそうに撫でながら微笑む。少女はいつも箱の側にいるので、特にそんな時などは心地よさそうに碧眼を細め、にっこりと嬉しそうに笑うのだった。

 そして、運命の日はやって来る。箱が宙高くへと飛び立つ前日、男は普段と同じように箱の側へとやってくると、いつもと同じように語りかける。けれど今日一つだけ違うのは、男の眼はどこか虚ろで表情には生気が欠けていることだった。
「今日は一つ良い知らせ。君の名前が決まったよ」
 男の呟く四文字の名前、少女はそれを聞くとわぁと顔を輝かせて喜ぶ。けれど、男の顔は一層生気を失っていき、ポツリポツリと再び話し始めた声は低くしゃがれて、少女の大好きな優しい声音とは似ても似つかぬものだった。
「それと、悪い知らせも一つだけ。前にさ、話したことがあったろう? ほら、うちの娘の話だ。あの子な……死んだよ、つい昨日のことだ。季節外れの台風、家の側の川から水が溢れた。怒涛のように流れが寄せて、そう、土も泥も木も花もガードレールも、コンクリートも! みんなみんな流されたんだ。私の家はね、周りより土地が低い所にある。だから、決壊した水、行き場のない水、溢れて迷子の水が一斉に集まったんだ。だからね、気付いた時にはもう手遅れさ。妻が必死に助け出そうとしたけれど、もう手遅れ。私がこんな場所で研究に携わっている間に、あの子は天井と押し上げて来る水に挟まれて死んだ! あっぷあっぷともがくのだけれど、最早口のやり場がない、空気が残った場所がない。だから、あの子はきっと縁日で買った金魚みたいに、空に向けてパクパク口を開けるのだけれどちょっとの空気も吸い込めず、そのうち水を飲み込んでゴホゴホと咳き込む内に力尽き、暗い水底に沈んだんだ。違いない。……後悔しても仕方がない。私が一個の無力な父親だっただけの話だ。でも、でもと無意味なことばかり考えてしまう。君が、もし君が、もっと早く打ち上げられていれば!台風の進路予測は容易だったハズ、あの子だって余裕を持って避難できたハズ。畜生、畜生、ちくしょう! どうしてうちの子が死なねばならない? 世の中にはあれだけガキがうじゃうじゃしてる。どうしてソイツラの一人じゃなくて、うちの子が死なねばならない?」

 ガンガンと金属の台座を拳で打ち据えて、男の手は赤く血に塗れる。少女はどうして良いかも分からずに、じっとその様を見詰める他にない。
「……娘は死んだ。それを覆すことは不可能だ。だから、だからどうか君に頼みたい。君には能力がある、役割がある。雨を予測し風を見て、雷雨に雪害、吹雪に旱魃、長雨に台風。君の可能性は無限に近い、防げる悲劇は無数に近い。そうしていつか、いつの日にかは、あの太陽さえも操って、どうかどうか二度とは娘を殺せぬように――」

 うずくまって泣く男の姿を見て、少女はゆっくりとその傍に立つ。片手を男の頭に添えると、そっとそっと愛おしむように撫で出した。与えられた温もりを、今度は彼女が還すというように。
 そうして彼女は言葉を紡ぐ。生まれて初めて口から出たのは、彼女の尊い誓いの言葉。けれど、まさにその言葉がその誓いが、彼女の一生を縛る呪いともなる。

『わかったよ、約束する。わたしは自分の役割を果たす。わたしは、あなたのくれた名前のままに、あの太陽に向かい続ける一個の花。そうしていつか、あいつを従え、あなたの思い通りにさえしてみせるから。だから、だからどうか顔を上げて、もう一度笑顔を見せて。どうかどうかもう一度、わたしの名前を呼んでよ。お願い、お願い……ねぇ、パパ』

 パチュリーはこの光景をすぐ傍で、けれど決して届かない場所から見続けていた。なにせ、これらは鉄の異形に秘められた過去の記憶で、どれだけ手を伸ばしたとしても絶対に届くことはない。
 そうして鉄の記憶を最後まで、少女の末路までを見届けて、パチュリーはゆっくりゆっくりと己が覚醒するのを感じていた。


6. Conclusion; Sunny, Sunny. Funeral of Sun Flower

 覚醒と同時に眼を見開くと、両の瞳はぼんやりながらも活動を再開する。まず結像したのは振動する紡錘の異形、眼前のスペースを分厚く覆うそれ、カラカラと小石振り落としながらその異様を拡大しつつある。
 どすん、と背中に重い感触。何事かと振り向けば、背中合わせの美鈴が両手両足をフルスピードで疾駆、迫り来る数多の蔓に応戦していた。
「良かった。意識は戻りましたか、パチュリー様?」
 ハァハァと軽く息を切らす。滝のように流れる出る汗、ブンと首を振ると辺り一帯にパラパラと散る。けれど美鈴は手数を減ずることなく、触手を一本、また一本と丹念に叩き落す。拳には紅く血が滲むのが見え、相手の硬度は相当なものであるらしい。
「コイツ、さっきから動き始めましてね。どうやら私達二人を、敵だって認識したみたいですよ?」
 言葉の間に放った拳は三、蹴りは四。一発ごとに裂傷は見る見る悪化、パァと鮮血が散って手の甲を染める。それでも美鈴はぎりり歯を食いしばって、耐える、耐える。頭上からの襲来に蹴撃一閃、倒れ込む回転速度をそのまま両拳は眼下の二敵を叩き割る。
「どうします? このままじゃあ、ハァ、危険です、パチュリー様!」
 美鈴の獅子奮迅の活躍にもかかわらず、敵の攻撃密度が薄くなる気配は一向にない。つまりは、こちらの必死の奮戦は相手には蚊に刺された程ということ。大量の援軍でも来なければ白兵戦での勝利など望めまい。
「ねぇ、美鈴。私達は、花を愛でるわ。咲いた咲いた、キレイだなって。違う?」
 戦闘とは何ら関係のない独白に美鈴が目を丸くするのが見て取れる。ええ? と驚いた顔をしながらも、手を休める暇は何処にもない。
「でも、散った花には眼もくれない。散る様を儚いと惜しむ人はいるけれど、散った花、泥に塗れて靴底に踏みしめられたボロボロのはなびら。それを眺める奇特な奴はいるかしら?」
 い、いませんよねー、あんまり、と生返事。既に美鈴には余裕のカケラもありはしない。
「どうしたら良い? 私は何も考え付かない。せめて、弔って遣るくらいしか。……だから、そうしようと思う」
 へ? と呟く美鈴の顔は一層の疑問に歪む。
「これから咲くのは、過去の花。人の造った機械の徒花。もし良かったら見てやりなさい、生涯一度の大輪を。……それじゃあ、これから仕掛けるわ――十を数えるまでに離脱して」

「だ、駄目ですよ、危険過ぎます!」
「大丈夫よ。館には被害がないように、うまーく力は加減するから。レミィに怒られたら敵わないわ。ほら、1、2、3……」
 言って、美鈴に向けニッコリ笑う。すると私は余裕の笑みのつもりだったのだが、たちまち美鈴の顔は蒼ざめてプルプル震えだす。本気だ、あの人本気だ、なんて捨て台詞をして、しっかりと退避してくれた。
 巻き込む心配のある者はいなくなり、私は懐から一枚の札を取り出す。この呪符が切り札。空を見上げれば、立ち昇る煙に誘われたかのよう、一面の曇天に太陽は姿を隠す。まさに絶好のシチュエーションというばかりで、花の門出には相応しかろう。
 
 呪符の封印術式をディスペルすれば、立ち上る、そして匂い立つ程の濃密な気配が満ちる。すると、まるでその気に中てられたかのように、異形がミシミシ音立てて蠢く。紡錘には頂点から四方にヒビが入り、ピキピキパキパキと表面の小金属片をこそげ落としながら段々拡がる。触手は手に手を取り合ってダンスを踊り出し、ビチビチと跳ね回りながら一層花壇の破壊を強める。
 ああ、悲しいことに目論見通り。コイツは呪符に反応している。そりゃあそうだ、なにせ、コイツの求めて已まなかったものがココにある。
「さあ、来なさい、開きなさい。あなたの倒すべきものは、コレ?」
 そう言って、呪符を異形に向かって突きつけた。すると、一瞬。

 紡錘がガリガリ呻きを上げながら四つに開く。ガリガリ、ガリガリ、まるで歯車仕掛けの機械時計。無骨な音が耳を引き裂き、吼え狂う脳髄の悲鳴、ガンガンと押さえつける頭痛を意志でねじ伏せる。
 やがてソイツは開き切り、まぁ見えたのは、まっ黄色の毒毒しい原色彩る真円の嘘。そう、あの紡錘はツボミだった、コイツを内に秘めたツボミだった。これほどの醜怪な機械花、密集する花弁の一枚一枚は鋭く尖り、私へと向けて悪意を放つ。私が両手を広げるよりも遥かに余る長径をナミナミ、黄色の鉄片たる歯牙、花弁の渦はぐるぐると潮に満ちる。ソイツは、まるで太陽を持つことを知るように私をじぃっと見詰め果て、睨む両目はないけれど、鉄の錆びた赤黒い芳香が鼻を突く。
 なるほど、コイツは、花だ。まっすぐに太陽へと向かう一途花。叶わなかった想いを悪意に変えてしか在り続けられなかった、忠実な黄色い朽花。その姿があんまりにも悲しくて、私はこの娘を正視できない、できるハズがない。
「あなたが勝つか、この符が勝つか。一世一代大勝負、のるかそるかはあなた次第。まぁ、分かりきった話だけれど」

 そう言ったが最後、私の意識は一点へ、針の穴より尚小さい極小の微小、唯一の原子核と電子軌道、その両輪をはっきり見据える。お前は見たか、眼に焼き付けたか? あの不憫な黄色い花を、お前が葬り去る美しい泥花を? 自問するが、答えなどあるハズなかった。

『日符』

 双輪の電子軌道が交叉する。パチンと音立てて片割れを弾き飛ばし、殻を破ってもぞもぞ喚く。これで、完成。あとは結果を目の当たりにするだけ。

『ロイヤルフレア』

 解き放った言乃葉に、世界は凝縮して圧縮されて、所定の成果を産み出した。見えるは小球、白光の玉体。手の平にも収まりそうな、小さな小さな私の切り札。

 その無様を見たあの娘、こんなものが、こんな小さな虫けらみたいなビー玉が! そう言いたいのか、かたかた身を揺する、嘲笑う、猛り狂う。そうして顎みたいなガクをギリリと持ち上げ、しゃりしゃり磨り合わせる無数の歯の一面、暴食する恐竜、ぱくりと飲み込んで高笑いする。

『あア、ぱパ、パぱ。ワタし、ヤッタ! ノんデやッタ、たいようヲ、ノミほしテヤッタ!!』

 再び閉じたツボミに私は安堵する。あれだけの想い、あれだけの献身、あれだけの小さな望み。その末路が、こんな一瞬に終わる謝肉の歓喜ではやりきれない。

 けれど、どうしたって終わりの終わりはやって来る。それは何より私の仕向けたことであり、この雲に覆われた地上に現出している唯一の太陽、それを食わせるハナムケを、私は選んだのではなかったか。せめて、最期の望みを果たせるように。だが、それは叶わない望みなのだ。アレに近づくものは地に落とされる他はない――だから、歓喜の後には一瞬に、気付かれる間もないように、消し去る以外に道はない。
 
「さよなら。ヒマワリ」

 連鎖が始まる。水素と水素がヘリウムを産み、余剰のエネルギーが次の反応を生む。連鎖に連鎖する拡大再生産の熱反応、小球は小球を萌芽して一面は白熱赤光の灼熱、反応場は無限円に拡大する。これを限界点、増殖する巨大球の反応面で解呪するのが私の役割。一個一個の計算は簡単であっても、無限に増殖する反応式を制御して終息へと持ち込むのは至難の業。私にも余裕はカケラもありはしない。
 そして、視界はやがて白の一色に覆われて、もう何も、もう何も、そこにあった泥濡れの、踏み躙られたヒマワリの黄色い美しい姿も、もう、何も見えない。


7. the End; My brand-new Spell Card, Satellite Himawari

 黒い灰が、サラサラ、サラサラ降っていた。

「哀れなる哉」

 私が立つのは半径50米の巨大球にえぐられた地面の中心で、そこはかつて噴水のあった場所、この紅魔館を巻き込んだ異変の中心。

「イカルスが」

 計算通りに館の損害は軽微に終わり、この分なら咲夜の説教一時間コースでお釣りが十分に来るだろう。空を一面に埋めていた灰色の雲、今は途切れ途切れに散り始め、隙間に覗く天上の真作からは一条、光が手元に差し込む。

「幾人も来ては」

 私は手の平を空に向け、降り積もる灰の中、金属粉でも混じっているのかキラキラと反射した。

「落っこちる」

 灰の山に水滴がポトリポトリと零れると、一握の、黒い塊が出来上がる。右手に月符、左に木符。握りこんだままに両手を合わせ、塊ごとと握り締める。
 遠くからは美鈴と小悪魔の声が聞こえ、私は手を挙げてそれに答えた。一歩を踏み出す私の手のひらに残っているのは、まだ生まれ立ての新しいカード。私はその符に未だ名前がないことを思い出し、少し頭を捻るフリをするが、すぐに苦笑を浮かべてこう言った。

「こんにちは、『サテライトヒマワリ』。ご機嫌いかが?」


――それは、幻想郷のマスター・オブ・パパラッチ、射命丸文が実験台として紅魔館の露と消える、少しだけ前のこと。
……終わった。なんとか間に合った。万歳。

 この読みづらい文章を最期まで読んでくれた方がいるのなら、本当にありがとうございます。オリキャラ成分というか擬人化成分というかが混入した事に関してはホント申し訳ありません。ごめんなさい。自分の拙い脳味噌ではこの辺が精一杯なのですよ。その分、歪んだパチェ萌えを注ぎ込んだつもりなので、その辺が伝わったくれたら嬉しいです。

そんな感じで東方SSこんぺに栄えあれーー。主催者様も参加者の皆様もホントにお疲れ様です。
blankii
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2006/10/28 07:55:55
更新日時:
2006/10/30 22:55:55
評価:
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1. 5 as capable as a NAMELESS ■2006/10/29 18:44:18
知らなかったらゴメンナサイですが、なんとなく後藤なお絵のファンタジア文庫思い出した。
2. 6 反魂 ■2006/10/30 01:32:04
わーお、評価難しいw
複雑ながらもテンポの良い文章、ファンタジックな空気、懐の広い世界観……と、感服した点が沢山あるのは間違いないんです。サテライトヒマワリに着想してこういった物語を書かれたっていうのは、もう拍手喝采を送りたい。
ただ、一言で言ってしまうと竜頭蛇尾。ヒマワリについて暗喩的に使った前・中半の描写を結局生かし切れてないこと、中盤で紅魔館連中が大騒動を展開した割には結局パチェがひとりで片付けてしまっていること、流れ星や願い事云々の思わせぶりな長広舌が結局何も無いまま丸投げになっていることなど、どうも欲しかったところに手が届ききらず心の中に残されている。何というか、全体的に伏線っぽい描写を多用した割には、回収されきらず案外素直な一直線で終わってしまったな、という感じです。尻切れトンボな印象は、それに起因する物でしょう。
あと忘れちゃいけない。ちょっと「箱」の要素が薄すぎます。

とはいえ、全体的に精度の高い文章と先述の通り脱帽のストーリで、きっちり楽しませて頂きました。良作としての評価は間違いありません。異色の作品をありがとうございました。
3. 1 箱根細工 ■2006/10/31 01:03:53
本当に読み難かったです、色々。
4. 9 床間たろひ ■2006/11/01 07:23:43
オリキャラつか人工衛星『ヒマワリ』の擬人化? にはちょっとばかし「へ?」って感じですけど、これほど読んでて気持ちの良い文章はなかったです。貴方の他の物語を読んでみたい、そう切に願う程にシビれました。
何というか、辿り着きたいと思っていた地点の具現化といいますか、素直に憧れてしまいますw
パチェもまた理想系w こんなパチェが見たかったw
5. 10 らくがん屋 ■2006/11/01 16:37:14
発想・構成・文章どれをとっても言うこと無し!
満点に値する作品が出てくるたァ、正直思っていなかった。最大級の賛辞を送りたい。
6. 7 椒良徳 ■2006/11/03 12:54:26
豊富な語彙とひまわりをだすアイデアは素晴らしいと思います。
ただ、文章の可読性が著しく低く、よんでいる私まで電子スピンの舞をはじめてしまいました。その点でこの作品は損をしているように思います。
まあ、そんなことより
ボーイズソプラノのお嬢様ウギギ。
7. 6 nn ■2006/11/07 00:29:48
饒舌といよりは朴訥な自分語りの執拗さが物語全体を埋め尽くして、窒息させてしまったという感じです。物語の核となる部分は個人的に大きな好感を抱いていたので残念でなりません。
8. 6 爪影 ■2006/11/08 15:36:30
 独走的な文体は中々に私の好みなのですが、少々お題成分が薄いと感じましたので、この点数にて失礼します。
9. 9 復路鵜 ■2006/11/08 20:51:46
こいつは おもしろい!!
気に入りました。
10. 2 おやつ ■2006/11/08 21:36:26
いや全く凄まじく読みづらかったですわあはははは。
ヒマワリが来るとは思いませんでした。
発想とそれを形にした貴方に乾杯。
11. フリーレス VENI ■2006/11/10 22:44:30
字の文に遠まわしな表現が多かったので、噛み砕くのに苦労しました。
好みの問題もあるとは思うのですが。
ちょっと採点しづらいのでフリーにしときます。
12. フリーレス サカタ ■2006/11/12 00:04:50
なるほど、1つのスペルが出来るまで、という話でなかなか面白くはありました。しかし、最初の部分でいきなり意味不明に陥りました。ここはもったいないと思います。また、衛星が交代するなかで、意思を持つ衛星が太陽に突っ込む、ということですが、幾百幾千といって、都合よく核の部分が幻想郷にというのはちょっと都合がよすぎるかなと。せめて一塊であれば話もすんなりいくとは思うんですが。あと、落ちたところの話で、落ちてきたものが有機体なのか無機物なのかが分かりませんでした。
地の文など文章力をもう少し磨くと、いい作品に仕上がると思います。
13. 2 Fimeria ■2006/11/12 15:16:43
何でしょうか、表現の部分で細やかに描写しているのはわかるのですが、装飾しすぎて本来伝えたいことが解り辛くなっているように感じました。
後は改行の面ですが。縦書きのノベルと違い横書きのSSの場合文字を見失いやすい為、本来の原稿用紙のものとは違った使い方を推奨します。
簡単に言えば改行をもう少し多くして欲しかったです。
私には合わない文体だったようです、すみません。
こういった印象を受ける奴も居るんだなぁと受け流していただければ幸いです。
14. 6 たくじ ■2006/11/12 22:05:30
美鈴いいですねぇ。自分の言葉の通りにパチュリーを完璧に守る。こんな美鈴が見たかった!
そしてパチュリーの優しさもいいです。せめて最後に太陽を飲み込ませてあげるという、むなしいかもしれないけどパチュリーにしてあげられるのはこれだけだったんでしょうね。
ただこの導入部は、その後を読まないと意味がわからない部分なだけに、ちょっと長かったなぁと感じました。
15. 9 ■2006/11/12 23:54:16
ちょっと読みづらいかな?あと、公式には科学は幻想郷では邪教であり、パチェが形容詞として機械の名前を使えるほど知られているか疑問ではあります。

…その分を差し引いてなお、この点数をつけさせていただきます。パチェと他キャラ(特にレミ様なんか)の会話が実に風変わりでユニークで、それがどうにもぴったり馴染みました。
そして、特徴的な文体による独特な雰囲気作りも見逃せませんでした。お見事です。

…なんか蓬莱学園の人を思い出すなあ…
16. 7 藤村うー ■2006/11/13 02:40:24
 ○文字のあたりでヒマワリのような気はしたのですが、その後にある学者の台詞と衛星の決意が胸に刺さりました。最後、パチュリーがサテライトヒマワリを宣言するシーンも秀逸です。
 箱はさほど関係ありませんでしたが。
17. 6 2:23am ■2006/11/14 22:26:06
あのH2Aに乗っていたヒマワリは幻想郷に落っこちたのでしょうかねぇ。まぁ現実のヒマワリは太陽むいてませんけど。人工惑星ってのもあるんですけどね。
それは置いといて、ちょっと長い文が多かったですね。ある程度で区切って間を入れたりすることも大事だと思います。
18. 3 翔菜 ■2006/11/14 22:29:41
過剰な感じのする描写はむしろ必要なものでむしろ良し……と感じ、文章も多少読みにくくはあれど読んでしまう勢いとかそういうのはあったのですが。

じゃあ何がって――難しかった。
何回か読んで考えてみたけど……ううむ。
19. 4 つくし ■2006/11/15 18:45:50
気象衛星つえぇー。さておき、ケレン味の強い文章はハマればとことんハマりますが、同時に読者を置いてけぼりにしやすいです。独創性の強いプロットもまた然り。私としては冒頭で、読んでいる自分のテンションと文章のテンションに大きなギャップを感じて上手くお話にのめりこめませんでした。冒頭以外の、芝居がかり方とか独自世界の展開のしかたとか好きなのですが。
20. 7 いむぜん ■2006/11/15 21:11:18
ヒマワリには涙が。
そうだよな、オービターは使い捨てだものな。
パチェの説明が「読んだ知識である」という事を忘れていなければ、正しくパチェであると。
副次的な知識が補正するけどこの点数を。
21. 9 ABYSS ■2006/11/15 21:42:36
…やられた。
「名前」は途中で読めましたが、つなげるところが全く予想できませんでした。
正直、非の打ち所があまり無い作品だと思います。
文には力があり、語るべきことはぶれておらず、先へ進みたいと思わせるテンポもあります。
ただひとつ、本当に非を語るなら、単純に「読み辛い」ということでしょうか。…ああいや、間違えました、「とっつきづらい」です。
一度引き込まれればすいすいと進みますが、それに至るまでに時間を要します。見やすいだけが正解じゃないとはいえ、ちょっと洒落にならないレベルでも有ると思いました。
しかし、それを補うほどの面白さでした。もはや、天晴れとしかいえません。
22. 3 人比良 ■2006/11/17 20:09:26

SFと読むべきか幻想と読むべきか。
確かに読みづらいですがよかったです。
23. 8 目問 ■2006/11/17 22:26:05
 情報量にちょっと気圧されましたが実際は読みづらいこともなく。面白かったです。
 登場人物も生き生きとしてて良かったです。
 箱は、衛星の頭脳部ってことでいいのかな……電子妖精?
24. 7 木村圭 ■2006/11/17 22:57:57
ごきげんよう、サテライトヒマワリ。この上なく幻想郷的なスペルカード誕生秘話、実に素敵でした。
ところでパチュリーさん、貴女は俳句および川柳をもう少し勉強した方がいいかもしれないですよ? まあ真顔で変なこと呟いてる方が彼女らしい気がしますけど。
25. 9 K.M ■2006/11/17 23:04:34
人工衛星は望み叶える夢を見るか?
途中で予測はついていたが、彼女はやはりあの衛星だったか…

最後に一言。「役不足」はほめ言葉らしいですよ、レミリア様。
26. 6 時計屋 ■2006/11/17 23:22:47
お題が生かされていなかった点をぬかせば、お話自体はとてもよかったです。
オリキャラ云々はそれほど気にならず、むしろよい味を出していたかと思います。
ただご自分で指摘しておられるので多くは語りませんが、読んでいて文意が掴みづらいです。
27. フリーレス blankii ■2006/11/19 16:31:26
 読んで下さった方達、過分な評価をして貰ったり厳しい言葉を貰ったり。本当に、ほんとうに有難うございます。正直な話、投稿後の画面を見ていて『ごちゃごちゃし過ぎ……誰にも読まれないんじゃなかろうか』とかエラク不安でした。全部自分が悪いのですがorz

 調子に乗って全員にレスなどしてみんとするなり。みんとするなりー。

>>as capable as a NAMELESSさん
 最近ラノベを読んでないのですよ(あのハルヒでさえ)、一時期狂ったように貪りましたが。後藤なお氏は絵師ですよね? うーむ、なんだか気になる。

>>反魂さん
 おめでとうございますー、と自レスで祝福(伝わらないかもしれない祝辞に、意味はあるのでしょうか?)。
 伏線は結構回収した『つもり』になっていました。申し訳ないです。読み返してみたら、ああ、やっぱり分かりにくい。流れ星とかの話は、願望器の機構(入って出てくる。つまり、『箱』の見立て) = 流れ星 = 落ちるヒマワリ みたいなつもりだったのです。……読み手に伝わらないと意味がねぇ。

>>箱根細工さん
 も、申し訳ないとしか言いようがない! 改善できるように頑張るのですよ。

>>床間たろひさん
 ぎゃー、床間さんにこんな感想貰えるとは、ぎゃー。チルノと壊れたラジオの話が大好きです、いやもう切に際限なくこの上なく。

>>らくがん屋さん
 うおおおお、生涯初めての満点ゲッツ! な、何をそれほどに気に入って貰えたのでしょうか(モミテ・スリテ・ウワメヅカイ)? ありがとうございます、これからも細々と文章を書いていく糧になりますよ。

>>椒良徳さん
 読みにくい点は本当に申し訳ないです。れみりゃお嬢様の声はどう頑張っても低くなり切れないのです。精一杯の背伸び、そんな俺の萌え心。

>>nnさん
 例の長文独白の部分を指されているのだと思います。やっぱり不自然かなぁと思いつつ、勢い重視で入れてしまいました。一本まっすぐ通った背骨は大切、それを絞め殺してしまわないように精進したいです。

>>爪影さん
 うう、やっぱり薄いですか……。他の方の作品を読みつつ「やっちまったか、俺? みんな『箱』とがっぷり四つじゃぁないか? ぎぎぎ」とか呟いていたり。

>>復路鵜
 ありがとうございます! 頑張って細々ながら書き続けていけます。

>>おやつさん
 うわわわわ。実に読みにくかったようで本当にごめんなさい。
「はっはっはー。まさか『箱』でサテライトヒマワリ来る奴おらんだろー」とか独り悦に入ってました。鬱。

>>VENIさん
 地の文が遠まわしー、うう、自分で読み返しても同じ感想が……。粉飾決済し過ぎかなぁ、言いたいこと伝わらなかったら意味ないもんなぁ、うう。

>>サカタさん
 個人的には、流れ星という『現象』化した彼女と、幻想郷という『場』とか考えています。有機体・無機物云々に関しては、彼女は機械だった。けれど、彼女に与えられたのは植物の名だった。『幻想郷』という場で、彼女の心はどんな『形』をとるか? とか。地の文含めて鍛えていきたいです。

>>Fimeriaさん
 言われた通りでして、書く時に参照(改行とか鈎括弧とか)してるのが手元の文庫本なのです。SSとは勝手が違うなー、と考えながらも未だに矯正できてない。皆さんの文章形式も参照に、ゆるゆる精進していきたいです。

>>たくじさん
 導入部分は、ただでさえ分かりにくい文章に加えてボカシテる所があるので余計に駄目駄目。修飾語は過多気味なので、目指せコンパクト! ですね。美鈴に関しては、自分のように『最萌2』で二次創作に触れた人間としては、カッコイイ彼女が忘れられないです。

>>翼さん
 幻想郷で科学は邪教、って知りませなんだ。申し訳ない。ヴワルの隅で埃被ってそうですけどねー、『プリンキピア初版』とか。お褒めの言葉は額面通りに受け取ってしまう駄目な奴です、わーい。

>>藤村うーさん。
 『箱』にもっと関連した題材を選べば良かったかなー、と少し後悔。でも書きたいもの書けたから良いや、とも。少しでも気に入って貰えた部分があったなら嬉しいです。

>>2:23amさん
 確かに、と言うか。実際のヒマワリの名前の由来は、「向日葵がじっと太陽を見詰めるように、ヒマワリはずっと地球を眺めてる」ってことらしいですね。文章適当に考えてると果てしなく長文になるとかいう悪癖があるので、意識してスタカットというか強調気味に文を区切る練習もしたいです。

>>翔菜さん
 やっぱり理解し難かったでしょうか……。私の力不足故、申し訳ないです。

>>つくしさん
 冒頭のアレは、「はっはっは。冒頭クリンチ、ここで読者の心を鷲摑みゲーッツ」とかホザイテいた頃の夢の果てです。インパクトのある始め方って難しい、つくづくと。

>>いむぜんさん
 中盤の物質解析装置云々のことでしょうか。あの辺りは「魔力原動の超音波解析とか面白そー」とか軽いノリだったのです、怒らないでー。情報解析云々言ってるのでニューロン逆行性の記憶素子解析を、こぁ全面バックアップでーとか妄想。

>>ABYSSさん
 ……洒落にならないレベルorz うう、今日の前進は明日の後退。一歩進んで二歩下がったら、あれ、此処何処? みたいなことにならないように頑張ります。お褒め頂いて光栄至極。

>>人比良さん
 SFとか幻想とか別に区別せずともー、と適当に考えています。もとからSFって凄くメルヘンチックですし。

>>目問さん
 ええと、日間さん、ですよね……(汗。電子の妖精じみた何かー、とかメルヘンに全力で誤魔化したい所。イメージ的にはむしろオモイカネに近いですけど。

>>木村圭さん
 『俳句および川柳』って部分は、もしかしてパチェさんの「哀れなる哉〜」の台詞でしょうか。実はココ、梶井基次郎『Kの昇天』からの孫引きになってまして、元々はフランスの詩人の『月光』(だったか?)からの引用です。あちらは月に昇る話。こちらはそのまま墜ちる話に使っていて、ううん捻りが足りないなぁ、と。自分も最初は、あれ、語呂悪っとか思った記憶が。

>>K.Mさん
 『役不足 - 正しい意味は、「素晴らしい役者に対して、役柄が不足している」』って、そーなのかー。産まれて以来20年と少し、ずっと間違ってたよ……。いけねぇ、お嬢様の願い事が取るに足らない、なんて個人的にも認められん。うう、誤用も用法とかでお見逃しをー。

>>時計屋さん
 お題に関しては皆様の感想を読みながら、反省至極。オリキャラ成分出すのは何時になっても精神的にキツイです。いや、ホント虎馬。文章はもっと向上していきたいなー、と(努力せよ、己)。
 
 てな訳で返信完了でございます。ではもう一度だけ、スバラシイ『場』を提供してくださった主催者様。数多の幻想を『魅せて』くれた作者様方。それに、拙作に感想付けてくださった『読』者様。それにそれに忘れてならない、バナー・ガイド・集計、etc.etc.と活躍された『名無し』の方々(かぶってる人多数?)。みなさんに感謝&おつかれさま。

 SSこんぺに栄えあれー。
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