魅惑の四方結界(mistake)

作品集: 最新 投稿日時: 2006/10/28 08:55:32 更新日時: 2006/10/30 23:55:32 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
「おーい、妹紅いるかー?」

ドンドンと扉を叩く音と、聞きなれた半人半獣の友人の声で目が覚めた。
んー、と寝ていた体を起こして伸びをひとつ。
窓の外を見ると既にお日様はあがっていた。

「居ないのか?」
「いるよー、ちょっと待って」

のそのそと薄い布団から這い出す。
さすがに気心の知れた中とはいえ、寝巻きのまま応対するのは乙女としてどうかと思うし。
白の襦袢を竹で編まれた籠へと放り投げ、いつもの洋服と札の貼られたもんぺを身に纏う。
台所と呼ぶのもおこがましい場所に置いてある水瓶から杓子で水を一杯掬って口へ。
うがいをして、顔を洗う。
律儀な友人の事だ、待ってと言った以上はいくらでも待つかもしれないが、余り待たせるのも悪い。
普段しているのよりも手順を省いて寝起きの準備を済ませた。

「ごめん、待たせた」

がらがらと立て付けの悪い扉を開くと、目に太陽の光が染みた。
その光を背に慧音が腰に手をあてて立っていた。
若干顔に呆れの表情が見て取れる。

「こんな時間まで寝てるとは、少々気が抜けすぎているんじゃないか?」
「あー、昨日はちょっと遠出しててね。今日はどうしたの?」

まずい、と直感から慌てて話題をそらす。
律儀な上に、友人は妖怪の癖に人の里で教鞭を振るうくらいの生真面目なやつだ。
放っておいたらお日様が頭の上に来るまでは愚痴をこぼす事だろう。
口を軽く開けてさらに何か言おうとしていたところを遮ったせいか、不満そうな顔をしコホンとわざとらしく一つ咳を入れ。

「いや、里の者達が収穫した物のお裾分けをしてくれてな。
 さらにそのお裾分け、というわけだ」

振り向いた慧音の目線を追うと、木箱に詰まった野菜が目に入った。

「いつもいつも、すまないねぇ」

ごほごほと咳ごむ老婆の真似をして言ってみたのだが、慧音には受けが悪かったようだ。
形の良い眉が歪んでいる。

「……いらないようだな」
「あー、すいません神様仏様慧音様」
「無表情で言われても嬉しくも無いな」

まぁ、神も仏も信じてない私にそれらと同等の扱いで並べられても嬉しくも無いだろうな。
正直なところ、持って帰られると私もマズイ。
食べなくても死なないこの不死の体。
ただし、空腹は感じる。
空腹だけじゃなく、痛みも疲労も感じるのだけど痛みはすぐに修復されるし、疲労は寝て癒すことが出来るが、空腹だけは戴けない。
無いものは無いのだ。
空のお腹には食べ物を入れなければならない。
問題は、畑を耕すでもなく、周囲の森の中に住む動物と果物だけが食物の私にとって野菜は貴重品ということだ。
その辺に生えている雑草を食べれないことは無いけど、さすがにそれは最後の手段としたい。
家にある野菜の備蓄もそろそろ切れる頃だし、慧音の訪問は正直ありがたかった。

「冗談だってば、ほんと慧音は冗談通じないなー」

けらけら笑いながら慧音の肩を軽く叩く。
そんな私を見ながら慧音は深いため息を一つはいた。




魅惑の四方結界(mistake)




よいしょ、と慧音が持ってきてくれた野菜を台所の傍にある棚へと移してから茶を入れる。
移していて思ったのだが、いつもどうりの結構な量があった。
茶はこんな重い物を運んできてくれた友人にせめてもの礼だ。
茶菓子、なんて洒落たものは無いので手作りの大根の漬物を切って添える。
本当は酒の方が良いのだが、お日様のあがっている内は慧音が飲むのを許してくれない。

「はい、お茶」
「ん、ありがたくいただくよ」

秋と冬の境目、日が出ているうちは快適だが明け方に外に出ると身震いするくらいの季節。
多分今年の野菜のお裾分けは今回で最後になるだろう。
なんてことを考えながら、慧音と二人縁側で茶を啜る。
いかんいかん、これではまるで何処ぞの巫女じゃないか。

「ご馳走になった」
「どういたしまして」

慧音が渡してきた茶碗を受け取って台所へと運ぶ。
今回の野菜の礼に何か無いかと、保存食の棚を漁る。
……お、こないだ獲った猪の干し肉が余ってた。
火で炙って鍋に入れたら良い出汁が出るな。

「妹紅ー?」

ああ、いかん慧音が呼んでる――呼ばれた声に応えようと体を後ろに捻った刹那。

ガッ

慧音が持ってきた木箱に足が当たり、バランスを崩した私は尻餅をついた。

「痛ったたたた……」

木箱で背中を擦ったのか、刺すような痛みが腰から上の方と膝の裏に広がる。
というか、体がうまく動かない。
――自分の今の状況を良く見てみよう。
アの尖った部分が私のお尻だ。そのお尻が非常にうまい具合に木箱にフィットするようにはまり込んでいた。
膝を曲げる、曲がらない。
腕を曲げる、肩まで嵌っているせいで曲がらない。

「どうすんのよ、これーっ!?」
「も、妹紅!?」
「あ、なんでもない、なんでもないから!」

幸い、慧音は台所からは死角になった場所にいる。
こんなマヌケな姿をあの友人に見せるわけにはいかない!
絶対に笑われるし。

「んーっ、んーっ!」

何とか抜け出せないもんかと両手両足をジタバタさせるが、やる度にどんどん体が木箱の奥へと嵌っていく気が……
しょうがない、最後の手段だ。
浮遊の術で体を浮き上がらせて、再度四肢をばたつかせる。

「む、無理……」

さて、本当にどうしたものか。
全力で箱を内側から破ろうとしてみるが、非力なこの少女の身、大量の野菜を運ぶ為に出来るだけに頑丈に作られた木箱はびくともしなかった。
鳳凰の炎で箱を燃やしても良いのだけど――

「服に燃え移ったら嫌だしなぁ」

燃えないように札を貼ってあるとはいえ、それは私自身の「鳳凰の炎」に対してのみの効果であって、燃えた箱からの自然の火で燃える可能性は捨てきれない。
ふよふよと体を浮かせながら「うーん」と唸って考える。

「妹紅、どうし――」
「あ」

しまった、必死になりすぎて慧音のこと忘れてたーっ!?

「あははははははははっ、も、妹紅、おまえなんて格好!
 くっ、あはははははははは、う、げほげほっ」
「む、咽るほど笑わなくても良いじゃない!?」

大声で笑いなれてない癖に、そんなに友人のマヌケな姿が楽しいか。

「笑ってないで、助けてよ慧音ー」
「ああ、スマンスマン、ってその格好のままこっちに飛んでくるんじゃないっ! あはははははははははっ」

じ、自分は銀閣寺頭にのっけてるくせにこの友人は……
ひとしきり笑いきって満足し、普段どうりの冷静な心を取り戻すまで三十分掛かったことを私は忘れまい。






「慧音、準備良い?」
「何時でもいいぞ」

今の私たちはかなりマヌケな姿をしているだろう。
浮遊してお尻が入ったままの箱を慧音に後ろから持ってもらっているこの状況、誰にも見られる事は出来ない。
まぁ、この山奥の庵には私かこの後ろで神妙な顔をして箱を両手で掴んでいる慧音しか来ないから見られることは無いのが救いか。

「いくよ」
「おう」

アの形になった体を前の方へと飛ばす、慧音は地面に足を踏ん張らせ更に後ろへと飛ぶ力も上乗せさせる。
これでこの木箱ともオサラバだっ!
結果として、木箱からの脱出は成功した。

ただし、スポーンという快音を鳴らせて前へと吹っ飛んだ私の体は、脆い庵の壁を貫いて外の森の木へと頭から激突する羽目になったけど。

思いっきり打って赤くどころか青痣が出来たおでこを摩りながら、飛び出してきた庵を振り返る。
馬鹿な手伝いをさせてしまった友人にお礼の一つも言わなければ。

「……あれ?」

目の前には庵は無く――瓦礫の山がそこにあった。

「ちょ、私の庵がーっ!」
「まず先に私の心配をするのが人としての筋じゃないのかっ!?」

ガラガラと音を立てて、藁葺きの屋根の残骸や柱だった木材を跳ね除けながら半人半獣の友人が空中へと浮かび上がった。

「あ」
「ん?」

ただし、問題点があるならば。
慧音のお尻にはまた別の木箱が――――

「あははははははははははははははははっ!?」
「な、くっ! わ、笑うな妹紅ーっ!!」

私との違いがあるとするならば、お尻を突っ込ませ箱詰めになっている慧音の顔の下。
普段から私なんか足元に及ばないほどの物であるにも関わらず、更に膝で寄せて上げられた谷間。
四方を木箱で囲まれたそれは、ああ、それはなんて――――素敵で魅惑の四方結界
同時刻、アリス亭

「上海と蓬莱じゃ無理ね……魔理沙助けてぇ〜っ!!」

誰一人訪れることのないアリス亭、お尻を箱に突っ込んだアリスが一人もがいていたそうな
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投稿日時:
2006/10/28 08:55:32
更新日時:
2006/10/30 23:55:32
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5.00
1. 9 ■2006/10/28 12:14:18
何だこの箱詰め連鎖はwやっぱり隙間妖怪あたりの悪戯なのか?
2. 3 as capable as a NAMELESS ■2006/10/30 10:46:14
どうり→どおり しかし谷間。
3. 3 らくがん屋 ■2006/10/30 17:18:24
箱に尻詰め。古式ゆかしいネタですね。
しかし肝心の四方結界についての描写が足りなすぎる。あと三行も費やしてくれていれば点数アップだったのですが。
4. 8 VENI ■2006/10/31 01:03:39
短いし、それほど強烈な物語の起伏があるわけじゃないんですが、
ほのぼのしてて安心して読めると思ったら最後ちょいエロw
うん、ものすごく感動するとかいうんじゃないけど、こういうのは好きです。
心を揺さぶられすぎないところこそが魅力というか。全体的に好みでした。
もこけーね好きだし。
5. 5 復路鵜 ■2006/10/31 08:02:08
これはまた素敵な箱ライフですね
6. 3 床間たろひ ■2006/10/31 21:47:26
つまり妹紅も慧音もアリスも安産型という訳だな。これでお父さんも安心だっ!
7. 4 椒良徳 ■2006/11/03 13:30:28
みんなケツがでかすぎるんだ。
ウギギ
8. 2 箱根細工 ■2006/11/07 04:28:23
今一。
9. 4 反魂 ■2006/11/08 22:09:12
シンプルだがじわりと面白いw 絵ヅラを想像すると、滑稽というか扇情的というか蠱惑的というか。えrい考えばかり。
填り込むまでは無かったものの、自分も稚い頃は同じ事やりましたねえ。大きめの段ボールがあると真っ先に。
10. 6 nn ■2006/11/09 12:43:23
簡素かつ明快な素晴らしいコメディだったと思います。
11. 5 爪影 ■2006/11/10 14:04:06
 ああもう、皆、可愛いなぁ……
12. フリーレス サカタ ■2006/11/12 04:49:35
とある日、って感じでほのぼのとしました。
後書にもう1つのオチ的なのを書くのはやめたほうがいいと思います。
13. 4 たくじ ■2006/11/12 21:55:05
箱にはまった妹紅萌え。でもあとがきで書いてるように他のキャラでもできるし、言ってしまうと東方じゃなくてもいいですよね。
14. 4 藤村うー ■2006/11/13 02:47:34
 慧音は巨乳なのか!
 というところで共感しながら、妹紅もそれなりにあるんじゃないかと思ったりしまして、できうるなら慧音のその後の葛藤と恥ずかしがり具合が見てみたかったなあと思った次第であります。
 あと、アリスは構成から見ても特に必要なかったような……対比にしては少し弱いようにも思えましたし。出したいから出したにしても、なんでアリス? というところが引っかかってしまうとちょっと勿体ない気も。
15. 6 ABYSS ■2006/11/13 07:09:24
上手いなあ。ほんと上手いなあ。
そーゆう情景を考えられるだけで個人的には羨望のまなざしですよ。
もうちっと膨らませられたかな?とおもったのでこんな感じですが、個人的にはもう少し上の点数だったりします。
16. 7 Fimeria ■2006/11/13 22:21:30
なんということでしょう。
箱というテーマにはこんな素晴らしい使い方があったのですね。
……それは良しとして、笑わせていただきました。
よいギャグSSを有難うございます。
17. 3 おやつ ■2006/11/14 11:30:02
阿呆が……阿呆がいっぱいおるw
18. 3 翔菜 ■2006/11/15 11:24:37
その発想はなかったわww
割とほのぼのとした空気からこっちへの変わり方はそう悪くもなく。

あと いつもどうりの→いつもどおり(通り)の かなではないかなと。
文章もところどころ粗いような印象。
19. 4 いむぜん ■2006/11/15 21:17:49
うははは、短いし山もないけど笑ったから俺の負け。
ってかどんな力で引っこ抜いたんだ。
20. 6 blankii ■2006/11/16 21:13:05
箱に詰まって、いっそうに、蠱惑的な、けーねの! とか言うと実に変態ぽい(反省
21. 3 つくし ■2006/11/16 21:55:03
至宝、もとい四方結界ステキ。ちょっとメインパートにたどり着くまでの助走が必要以上に長く感じます。書きたいことの焦点を定めるために、いっそのことお尻がハマったところを冒頭に持ってくるとかの工夫があればよかったのかもです。
22. 3 雨虎 ■2006/11/17 16:45:17
普段コメディ要員でない者がすればするほど、
このネタは面白くなりますね。足をバタバタさせる姿には悶えますw
23. 4 2:23am ■2006/11/17 20:03:13
確かに大変なんだけど、普通は笑われますからねぇ。
24. 2 人比良 ■2006/11/17 20:06:50

きっと突くのでしょう。間違いなく。
25. フリーレス 蒼刻 ■2006/11/17 21:58:53
目立った欠点もなく、良いテンポで読めました。
ただ、お裾分けのお裾分けで木箱一杯の野菜は、個人的にはちょっと違和感。
普通、そんなにくれないだろうと……籠くらいならまだ良かったかなと。
ワケ有りで点数はつけれないのですが、自己採点では5でした。
26. 7 K.M ■2006/11/17 22:18:09
箱は、幻想郷では恐るべきトラップなんだろうか?w
27. 5 目問 ■2006/11/17 22:33:12
 この発想はなかった……タイトルにも納得だー
28. 4 木村圭 ■2006/11/17 23:00:20
箱にケツ突っ込んでふよふよ飛んでる様を思い浮かべると笑いが止まりません。シュールすぎる。
突っ込みどころは多々ありますが、とりあえず慧音の結界に全速力で突撃してきますね。
29. 4 時計屋 ■2006/11/17 23:26:57
思うに体のとある部分、っていうかぶっちゃけ臀部が他人と比べて大きいせいじゃないかと。
特に慧音が。……いやだって牛だし。
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