あなあきのお人形

作品集: 最新 投稿日時: 2007/04/20 10:58:28 更新日時: 2007/04/23 01:58:28 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


 ある日の朝の事。
 いつものように鈴蘭畑の真ん中で眠っていた一体の人形……一人の少女が居た。
 人形である彼女には、本来睡眠という行為は必要ない。
 しかし彼女にとって、この動かない時間は非常に大切な意味を持っていた。
 毒素を血肉とする彼女の睡眠とは、活動で消耗した毒素を充填する行為である。
 これを欠かすなどしてみれば、きっとすぐに毒素が尽きて動けなくなるだろう。

 そして、今日も目覚めの時間を迎えた。
 むくりと花畑の中央に上半身が生えたかと思うと、彼女の身体は再び倒れ込む。
「……あ、あれ?」
 彼女自身、思いもよらぬ事態に困惑した表情を浮かべた。
 寝惚けていた意識は覚醒し、視界に広がる空もすこぶる気持ち良い。
 いつもならば、立ち上がって大きく伸びをして、元気良く『おはよう』するはずなのに。
「ねぇスーさん? なんか、ぜんぜん力入らないんだけど……」
 彼女は情けない声で、力の源であるはずの鈴蘭達へ語りかける。
「うん、そうだよね。いつもどおりに感じるもん」
 彼女は一人頷いた。
 確かに、周りに満ちる毒素は今日も変わりない。
 なのに、しっかり休んだはずの身体には、全然毒素が溜まっていなかったのである。

 考えてみても分かるはずも無く、彼女は大きな溜め息を漏らした。
 そうしてからようやく、身体を走る不自然な感覚に気付く。
 とてつもない違和感を覚えて、彼女は慌てて頭を上げた。
 大きな空から自らの身体へと視線が移ってゆく。
 その瞬間、彼女は自分の目を疑う事になる。

「……へ?」

 彼女が見たのは、左肩の部分が不自然に沈んだ自分の服だった。
 反射的に手で触れてみたつもりだったが、意思とは裏腹に手の動きは鈍い。
 やっと肩まで辿り着いた手は、やはり予想通りの感触を以って解答を突きつけた。
 もはや、服を持ち上げるまでも無い。


 人間で言えば、丁度鎖骨がある辺りだろうか。
 ぽっかりと、大きな穴が口を開いているのが分かった。










- ゆるやかなキオク -


 その日も、変わらぬ朝が来た。
 目を覚ました彼女は大きく伸びをすると、鈴蘭畑を見回して笑顔を作る。
「おはよ、スーさん」
 風にそよぐ花たちの中で、彼女もまた風に吹かれていた。
 感じ慣れた感覚に目を細め、大きな空を見上げる。
 その瞬間。ふと視界が遮られたかと思うと、二つの影が上空から降りてきた。

 ……朝っぱらから、熱心だなぁ。

「おはよう。お邪魔するわ」
「また来たの、お薬屋さん。いい加減、スーさんから毒がなくなっちゃう」
 彼女の言葉に、一人目の客は心外そうな顔で反論する。
「影響の無い分だけ、きちんと計算してから採取させてもらっているわよ?」
「そうなのかも知れないけど。あのでっかい容れ物見たら、ちょっとねぇ」
 嫌そうな言葉とは裏腹に、彼女は慣れた様子で二人目の客人を見つめた。

「師匠、お待たせしました」
「うどんげ、ちゃんと中和剤は飲んだの? 今度倒れたら、もう知らないわよ」
「飲みました。予備も、この通り」
「よろしい」



 四季の花が咲き乱れる幻想郷の異変から少し。
 この薬師は、週に二度もこの場所を訪れるようになっていた。
 外の世界を知るための第一歩として、今も慎重に付き合いを続けている。



「じゃあスーさん、始めるよ。いつも通り、この人たちに毒を分けてあげてねー」
 彼女が腕を一振りすれば、見るからに凶悪そうな毒気が巻き起こる。
「張り切りすぎないでね。まぁ、私にはどうせ効かないけど」
 薬師は相変わらず、余裕の微笑みである。
 中和剤とやらを飲んでいる兎は、その隣で冷や汗をかいていたけれど。
「うどんげ、ほら逃げないで」
「そうだよぉ、逃げたら毒溜まらないよ?」
 からかう様に笑う彼女を見て、兎は引きつった笑顔を浮かべた。
「や、やっぱり生理的に怖いのよぉ〜……」
 いちど彼女の毒で酷い目に遭ったトラウマか、どこまでも逃げ腰である。
 彼女も、直に毒気に晒さないように気を使っているつもりなのだが。
 薬師は溜め息を吐いて、悲しそうな瞳を兎へ向けた。
「私の薬は信用できない? うどんげ、そんなに信用できない?」
 兎はぎょっとした表情で、慌てて首を振る。
「いえ、まさか。効果抜群なのは良く知っていますよ、私だって師匠の弟子ですし」
「じゃあ大丈夫じゃない。ほら、しっかり毒集めて」
 薬師によって、兎が前線に立たされた。
 彼女は楽しそうに笑って、腕をもう一振りする。
 とうとう兎も観念したのか、鋭い目つきで彼女を見据えた。

「ほら、でっかいの置いてくよー! そーれっ!」
「くっ……えぇい、こっちは師匠の薬が効いてるんだからぁーッ!」



 兎の手元で、毒が溜まった容器が唸りを上げている。
「ちょ、わわわっ、勢い強すぎッ……!」
「あらー。ごめん」
 ガタガタと震えていた容器の一部が音を立ててひび割れ、兎の手元を飛び出した。
「うどんげー。毒が漏れてるわ、勿体無い」
「無茶言わないで下さいよ、容器の限界超えてましたってば……」
 薬師は容器の欠片を確認しようと視線を巡らせ、空中を指差す。

「あら? 一緒に飛んでるあの容器って……」
「あっ! よ、予備の中和剤!」

 勢い良く飛んでいった容器は、弧を描いて彼女の頭上へと降り注ぐ。 
 彼女は咄嗟に容器を避けたが、小さな方の容器は目に入っていなかった。
 見事に直撃して容器は壊れ、中身の液体がぶちまけられる。
「わっ……つ、つめたー……」
 肩の辺りが、薬品でぐしゃぐしゃになってしまった。
「あー……ご、ごめん……」
「や、別に良いよ……わたしも張り切りすぎちゃったから」
 特別険悪な雰囲気にもならず、その場は収まりを見せた。

「吸収効率を重視して液体にしたけど、これなら錠剤の方が良かったかも知れないわね」
 薬師は溜め息と共に、毒の詰まった容器を抱えて兎へ声を掛ける。
「ほら、予備の薬がなくなったんだから、そろそろ帰らないと」
 兎が最初に飲んできた薬の効果が切れるのだろう。
 この場所で薬が切れれば、この兎はまた毒で苦しむことになる。
「すみません師匠……あ、そうそう。これ、今日の分のお礼」
 そういって兎は、彼女へ小さな包みを手渡した。
 少し前から取り決めた、花の毒の提供に対する見返りの品である。

「ありがと。今日は何の毒かなぁ」
「見た目に凝ってみたわ。主役は水銀ね」
「うわー。ぎらぎらしててゴージャスねー」
「次は動物の毒を集めてみようかしら。それじゃあ、今日は帰るわ」



 二人は、いつもより少しだけ早くに帰っていった。
 彼女はまた一人になって、花からは採れない毒に夢中になる。
 やがてそれも堪能し終わり、その後は至っていつも通りの一日を過ごした。
 夢は大きく人形解放。あらゆる毒と近所付き合いを以って、ひたすらに力を蓄えるのみである。

 すっかり乾いた服の下。
 なにが起こっているのかも気付かずに、彼女はいつものように眠りに就いた。




 §




「どぉもー。昨日、ここに壊れた容器ほっぽったままで――――」

 夜が明けて、兎が鈴蘭畑に顔を出す。
 兎はいつもの姿が見えないことを訝しげに思い、眉をひそめた。

「…………?」

 耳を澄ましてみると、確かに聞こえる。
 彼女の音だ。
 少しだけ背の高い草に隠れるようにして。
「どうしたの、こんなところで……」
 草を掻き分けてその姿を認め、兎もまた言葉を失う。

 肩の辺りが不自然に歪んだ泣き顔の人形。
 何とか立ち上がろうと、必死にもがき続ける彼女の姿があった。










- せめぎあうオモイ -


 竹林の奥、永遠亭。
 兎が持ち帰ったのは容器ではなく、一体の人形だった。
 屋敷の外へ呼び出された薬師は、面食らったようにその姿を眺めた。
「この穴の所為で、酷く弱ってて……意識はちゃんとあるんですけど……」
 肩に開いた穴から、毒素が垂れ流し状態になっている。
 彼女の生命力が削り取られていくのは勿論、周囲への影響もすこぶる大きい。
「私の研究室へ運びなさい。この子を搬入後、すぐに部屋を密封するわ」
「分かりました」




 §




「うどんげ、私が呼んだ時以外は入室を禁じます。いいわね」
「はい。必要があれば呼んで下さい、中和剤は用意しておきます」
「よろしく」

 部屋に二人が取り残され、研究室の扉は念入りに締められた。
 薬師は軽く息を吐くと、彼女へと向き直る。
「……やっぱり、うどんげが掛けた中和剤が原因よね……」
「変なかんじ……肩がざわざわする」
 彼女はしきりにおかしな感覚を訴えている。
 人形ゆえに痛覚を知らないのか、ならば皮膚の感覚はどうなのか。
 興味は尽きないが、今の彼女は薬師の弟子が生んだ患者である。
 薬師としては、なんとしても救わねばならない。

「心配しなくても、ちゃんと治してあげるわ。……とはいえ」
「ん、なに?」
「人形の身体なら専門家が要るわね。丁度、パペッターを一人知ってるから」
「ぱぺったー?」
「人形遣いの事よ。それなりの腕みたいだし、呼んで損は……」

「…………いらない!」

 彼女は寝たままの姿勢で、けれどはっきりと拒絶の意を示した。
 それだけではない、尋常ではない怒気が伝わってくる。
 薬師は目を細めた。
「どうして? より完璧な処置を受けられるのよ?」
「人形遣い……人形遣い! それはやだ! 絶対やだ!」
「……そう」
 薬師は仕方ない、という風に腕を組む。
「人間とか、人形遣いは嫌い?」
 彼女は興奮した様子で、軋む身体を無理矢理に動かしながら答える。
「好きな訳ないじゃない! 人形遣いと逢うのは、戦う時だわ……人形解放するんだから!」

 ぜいぜいと息を切らせ、彼女はそれっきり大人しくなった。
 思わず言ってしまった、腹の底に隠していた目的。

 いまなお、毒は漏れ続けている。
「……さて、早く対処法を考えないといけないわね」
 そうとだけ言って、薬師の手が彼女の髪を優しく一撫でする。
 彼女は、先ほどまでの剣幕が嘘のようなか細い声で『ありがと』と呟いた。




 §




 薬師はまず、彼女の体組織と同一の物質を生成するところから始めていた。
 本気で修理にかかるにせよ、継ぎ接ぎで誤魔化すにせよ、移植用の皮膚は必要である。
 天才たる薬師にとって、生成自体は大した問題ではなかった。
 順調に解析は進み、いまや培養液の中には完成形一号が出来上がりつつある。
 もちろん、相応の時間は必要だったが。

「ふぅっ……あと数時間といったところよ、もう少し辛抱して……あら?」

 疲れていたのだろう、彼女は眠るように瞳を閉じていた。
 毒素が切れると眠くなると言っていたのを思い出す。薬師にとっては好都合だった。


 時刻は、いつの間にか夕刻を過ぎようとしていた。
 少し前まで日が高かったと思っていたのに、少し集中するとこれである。
「うどんげ、いる?」
 呼ぶにしてはいつも通りの声量であったが、その点は問題ない。
 程なくして、兎が慎重に部屋の扉を開けた。
「はい、用事ですか」
 たった一度の呼び掛けを聞きつけたあたり、さぞ気を張っていたのだろう。
「ええ、大切な用事よ。ちょっと、行って欲しいところがあるの」
「分かりました。それで、どこへ?」
 薬師はちらりと彼女を見やってから、兎へそっと耳打ちする。
 兎はしっかりと頷くと、踵を返して歩き始めた。

「行ってきます。絶対連れてきますから!」

 わざわざ耳打ちした意味が消えた。
 薬師は頬をひくつかせながら、それでも黙って兎の背中を見送る。
 幸い、彼女が気付いた様子は無かった。


 ふと、薬師の視線は時計を捉えた。
 そして何事かを計算すると、彼女の傍らで点滴の用意を始める。
 彼女が眠るのは、毒素の不足のため。

「これは、私とうどんげからの迷惑料。受け取っておいて頂戴」
 計算結果を元に点滴用毒素の濃度を調節しながら、薬師はポツリと独り言を漏らした。




 §




 彼女は、毒素の点滴を受けながら眠りに就いていた。
 暗い室内には、眠る彼女と薬師と、もう一人。

「……パーツはもう用意してあるわ」
「至れり尽くせりね。本当に、あとは私がくっつけるだけじゃないの」

 金髪の人形遣い。
 お供の人形と共に、彼女の傍らへと静かに腰掛ける。
「この子が目を覚まさないうちにお願いね。貴女を酷く敵視しているから」
「それは光栄ね」
 人形遣いは苦笑しながら、彼女の肩の具合を念入りに確認しはじめた。



 やがて、人形遣いによる本格的な修理が始まる。
「で、この人形はどういう?」
 やはり人形遣いは人形遣いである。
 修理をしながらも、生まれてはじめて見る自律人形に興味深々といった様子で尋ねた。
 妖怪化しているとはいえ、人形が独りでに活動している。
 その事実が、人形遣いの心を躍らせた。
 しかし、薬師は首を横に振る。
「詮索は勘弁して頂戴。さっき言ったとおり、この子は貴女が大嫌いなのよ」
「なによそれ。あんまりじゃないの」
「ほら、余所見をしない。それと、静かに」
 人形遣いは薬師を一睨みしようと振り返る。
 薬師はというと、口元で人差し指を立て、ふと小さな笑みを零した。
 それは誰に対する笑みであったか。


 道具として虐げられた過去を持つ人形。
 彼女の言動は、そんな経緯を容易に想像させる。
「今のその子には大きな穴が空いているわ。身体にも、心にも」
「……身体の穴は塞いで見せる。私の意地に賭けて」
 人形遣いはそう言うと、眠ったままの彼女に優しく語り掛ける。

「あなた。人形遣いが憎い?」

 勿論、眠ったままの彼女から反応は無い。
 ただ、薬師は満足げな表情で、その光景を見つめている。

「あなたの気が済むまで、私たちが相手をしてあげるわ」

 細やかな修理作業が……否、治療が続けられる。
 人形遣いは夜が更けるのも忘れ、ひたすらに手を動かし続けた。
 次第に、彼女に空いた穴が小さく、小さくなってゆく。


「……だから、いつでもいい。いつか、私の所へいらっしゃい……」




 §




 夜が明けようとしている。
 治療もほぼ終わり、彼女に開いた穴はすっかり埋まっていた。


「ありがと、上海。あ、蓬莱ー、そっちのそれ。これでー……終わりっ」
 人形遣いと小さな人形達が、嬉しそうにハイタッチした。
「お疲れ様。さぁ、この子が目覚める前に退散してもらえる?」
 間髪入れず、薬師のそんな言葉が人形遣いの歓喜をひねり潰す。
 流石に、この扱いはあんまりだ。
 薬師は疲れ切った人形遣いを見て、さらにこう続けた。

「……お礼は、いつかこの子がしてくれるんじゃない?」

 人形遣いの表情が変わる。
「待ってれば、いずれ来てくれるかしら。 大嫌いな私のところにも」
「その時までに、この子を説得できるだけの言い訳をそろえておく事ね」
「……ふふふっ。そうね、望むところだわ」
 もう一度だけ横たわる彼女を眺めてから、人形遣いは部屋を出ようと歩き出す。
 扉に手をかけた人形遣い。
 見送りに出た薬師は悪戯っぽい口調で、人形遣いの耳元に囁く。

「次は心の穴を埋める番、ってところかしらね?」
「そういう恥ずかしい台詞をサラッと言わないの」

 台無しだわ、というぼやきを残して、人形遣いは明け方の空へと飛び去っていった。










- もうひとつのアナ -


 朝、いつもの目覚めの時間よりもずっと早い時間。
 彼女が瞳を開くと、すっかり元通りになった身体と薬師の微笑みが出迎える。

「おはよう。気分はどう?」
「……うん。すっごく、不思議な気分」
 少しだけ口ごもった後、彼女は戸惑った様子のまま頷いた。

「随分と毒が抜けてしまっているわ。早く鈴蘭畑に帰ること。いいわね」
 薬師のそんな言葉を聞いて、彼女は身体の具合をもう一度確かめた。
 一晩中受けていた毒素の点滴のおかげで、鈴蘭畑くらいまでは飛んでいけるはずだ。
「ありがとう。お世話になったね」
「元はといえばこちらが元凶よ?」
「あはは、そうだった」



 バイバイ、と手を振りながら、彼女は鈴蘭畑へと帰ってゆく。
 屋敷の入り口でそれを見送った薬師。
 その後ろの扉の影からもう一人の人影。

「あら、姫。おはようございます、今朝は早いですね」
「おはよう。……なんだか、他人のような気がしなくて」

 二人の人形は飛び去る人形を見つめながら、穏やかな表情を湛えていた。

「あの子、鈴蘭畑に住んでるんだっけ」
「ええ。鈴蘭の事をスーさんと呼んで、可愛がっているようです」
 姫はふと表情を陰らせる。
 薬師はそれを見透かしたように続けた。

「小細工ですか? ちゃんと埋め込ませましたよ、身体の穴を塞ぐ時に」

「……他人任せで、しかも埋めっぱなし? 無責任なんだから」
 姫の表情に明るさが戻った。
 無責任と言いつつも、よくやったと薬師を褒めているかのように。
「人形解放を目指す人形です。最大の敵は、やはり人形遣いでなくては」
「ふぅん。で、火種は?」
「言わずもがなです」
 姫と薬師は、顔を見合わせて笑う。


「成る程。危険物取り扱いは、私たちの仕事じゃないって事よね」
「ええ。私たち人形は、大人しく解放される日を夢見ていましょう」
「もう。貴女、わざと言ってるでしょう?」




 §




「……でね、スーさん。なんか、すごくあったかかったの」
 彼女は鈴蘭畑に戻るなり、困ったように鈴蘭へ語りかけていた。
 瞳を閉じて、昨晩のことを思い出す。


 肩がくすぐったくて、目を覚ました。
 見たことの無い人間だか妖怪だかが目の前にいて、とても驚いた。
 余所見をしていたその人の奥で、あの人が人差し指を立てて微笑んだ。
 だから、そのまま眠っていることにした。

「どうしよう、スーさん。一緒に居た人形達も、すごく嬉しそうだったのよ?」
 覚えていることを、ただひたすらに報告する。
 自分が忘れてしまわないように、何かに記憶させるかのように、彼女は話し続ける。
「それに、それにね……」

『あなたの気が済むまで、私たちが相手をしてあげるわ』

 『私たち』。どういう意味だろう。
 自分にとってあの人は敵で、人形遣いは嫌いだ。人形解放の邪魔だ。
 肩に触れる。何度確認しても、穴は綺麗に塞がっていた。
 人形遣いとその人形達による治療の感触が、まだ残っている。



「スーさん。わたし……あの人の人形解放なんて、出来るのかなぁ……?」



 答えは返ってこない。
 風にそよぐ鈴蘭の音だけが、静かに彼女を包み込んだ。



 仕掛けられた小細工は『穴埋め用の爆弾』。
 戸惑いに揺れる彼女の導火線に火がつく瞬間は ―――― きっと、もう近い。
KAZERU
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2007/04/20 10:58:28
更新日時:
2007/04/23 01:58:28
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1. 7 A・D・R ■2007/05/13 01:22:28
一言、綺麗なお話だなぁ…と。
最初、よくわからなくて三度読み返してしまいました。でも、私の解釈に誤りでなかったら…なんて素敵な贈り物だったのか、と。よかったです。
2. 4 床間たろひ ■2007/05/13 01:22:39
あーいーのー自爆装置はー、うーごーきだしたーのー♪
メディの話は凄く久しぶりに読んだような気がw
過剰に干渉しない彼女たちの姿に、こういうのもいいなーとか思ったりw
3. 3 ■2007/05/13 02:16:47

少しご都合主義が過ぎたかなぁという思いもありますが、
全体を通してみれば、綺麗に纏められていたかとは思います。
もう少し前半で引き込む要素があればもっと良かったかも。
4. 7 新角 ■2007/05/13 10:44:22
メディとアリスとを巧く料理できていると思う。
中和剤でメディが弱るというのも、ありそうでなかった話
5. 5 爪影 ■2007/05/13 16:24:41
 さて、世界を広げようとする彼女は、これから何を見るんですかね。
6. 5 だおもん ■2007/05/13 23:48:46
なんと暖かい爆弾でしょう
7. 5 shinsokku ■2007/05/14 01:03:00
毒気が抜かれて気の毒に。
自分は永琳の優しさで服毒死。
8. 7 風見鶏 ■2007/05/14 16:09:20
結構上手いテーマの使い方だと思いました。なかなか面白かったです。
9. 4 スミス ■2007/05/14 23:35:04
dolls in holesよりは素朴で良いと感じました。
少数派かも(えーΣ ̄□ ̄||)
10. 4 どくしゃ ■2007/05/16 03:29:13
いい終わり方をしてるんだけど、面白いだけに、
続きが読みたかった。
作者様には、いつか続きを書いて頂けたらと思います。
11. 5 秦稜乃 ■2007/05/16 21:12:57
ちょっと口に合わなかったかも。という感じでしょうか。
文章としては全然悪くないんですが。好みの問題で…
12. 8 KIMI ■2007/05/16 23:38:58
良いお話でした。
段落ごとに区切ってあったのでとても読みやすかったです
13. 9 ■2007/05/19 00:59:17
別の場所で、この続きをもう一作読んでみたい…感想はこれに尽きます。
とはいえ、あえてここで止めるほうが余韻があっていいかも知れません。
どっちがいいのか、鈴蘭にあてられて見えやしませんとも。
14. 3 人比良 ■2007/05/26 20:52:16
話としては大変面白かったです。
ただ、人形+毒である彼女は、本体である毒が乖離するのが主
であるような気がします。「かかった部分がとける」でも「消
滅する」でも「感覚がなくなる」でもなく、「穴があく」とい
うのはテーマのために存在するように思えました。
15. 5 反魂 ■2007/05/26 21:32:28
涼やかで過不足無く楽しめる物語でした。
とても易しい物語で、読了感も非常に爽やかです。
部分的にちょっと掴みづらい描写もありましたが、総じて技術の高い人と見受けました。良作でした。
16. 6 流砂 ■2007/05/26 21:37:32
すんなり頭に入ってきて分かりやすい文章。 素晴らしい事で御座います。
アリス登場時にもう少しボリュームが欲しかったけど、そうすると
この穏やかな空気が無くなってしまうのかと考えれば、これはこれで。
それにしても師匠の中和剤つえー。
17. 4 deso ■2007/05/27 00:12:25
中和剤が降りかかるシーン、誰が何をやってどうなったのかがわかり難いです。
『鈴仙』の手元の容器が割れ、『鈴仙のどこか』にあった中和剤が一緒に飛び出し、『メディスン』にかかった。
しかし、場にいるのは皆女性なので『彼女』だと中和剤がかかったのが鈴仙のようにも読めてしまいます。
(というか自分が最初にそう思ってしまいました。『肩の辺り』で気付きましたが)
18. 6 詩所 ■2007/05/27 02:18:30
アリデレ&メディデレですか。
私にもニヤニヤしてしまう毒が散布された気分。
19. 6 blankii ■2007/05/27 10:38:34
ああ、何この温い空気は……とか思わせといて師匠も姫も怖いよ。ぴりり。『爆弾』てのは象徴的な意味なんでしょうか? 人形と人形使いのこれからの関係や如何に。
20. 8 椒良徳 ■2007/05/27 19:29:35
ほのぼのとしていて良い作品ですね。
誤字、脱字等もなく、文章も読みやすく、良く書けていると思います。
また貴方の作品を読んでみたいなと思いました。
21. 5 乳脂固形分 ■2007/05/27 20:56:10
文章が読みやすく、読後感も清々しいものがありました。
ただちょっと話の流れが平易すぎるのが、自分にとっては物足りなかった。
22. 8 木村圭 ■2007/05/27 23:19:00
素直で無邪気なメディスンとスマートで暖かなアリスが好印象。穏やかで優しい素敵な雰囲気が大好きです。
23. 6 らくがん屋 ■2007/05/29 11:11:06
これはいいアリメディですね。ぜひ続きを読んでみたい。
24. 4 鼠@石景山 ■2007/05/30 00:42:03
さっくり終わった感じ。
物語の余韻と、この期待感がバランスを崩す。期待が勝つけど物足りないのでこの点数。
25. 3 いむぜん ■2007/05/30 02:16:13
中和剤で穴が空くってもどうかと思うが。物理的には「人形」なんだし。
お話的には、これからどうなるって感じか。
26. 4 ■2007/05/30 02:34:49

うう、読み返しても伏線が理解できないのは、私の読解力不足なんだろうか(泣)。
お話はすらすら読めて楽しかったです。
27. 5 リコーダー ■2007/05/30 16:24:07
清々しい感じで終わって、よかったと思います。
28. 7 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:10:54
メディスンの周りに居る優しい毒と、人形のような人間と、味方のような敵。
その全てが優しくて、その全てが彼女を祝福しているような、暖かい物語でした。
お疲れ様です。
29. 4 K.M ■2007/05/30 18:49:47
これはよい、炸裂が楽しみな時限爆弾(起爆時刻不確定)
30. 6 二俣 ■2007/05/30 19:03:01
そして人形のお話はまだまだ続く、と。
とてもよい幻想の1コマでした。
31. 6 たくじ ■2007/05/30 22:36:14
メディの世界は少しずつ広がっているようですね。アリスの人形に対する愛情、うーんいいなぁ。
32. 4 藤村る ■2007/05/30 23:12:04
 中和剤かけられて穴ってところがお題的に弱いかなあ。最後は胸に穴が空きましたというところなのでしょうが、戯れにしても永琳がそういう展開を望むかなってのは疑問ですが。全体的に、笑いを狙っているのか真面目に語っているのか、文章からだけでは判断しにくいというところもありまして。
 また、メディスンに中和剤がかかるシーンも、「彼女」という言葉だけでは誰に中和剤がかかったのか一瞬理解できませんでした。彼女=メディスンというのは文脈からすぐにわかったのですが、それでも。
33. 1 時計屋 ■2007/05/30 23:13:21
気になったところをざっと書いていきます。
うざいと思ったら読みとばしてください。

まず誰が何をしているのか、文章を読んでも解りづらいこと。
たとえばメディスンが中和剤をかぶるシーンですが、
誰が、何の瓶の中身を受けてしまったのか、一読しただけでは理解できません。

次に使っている単語の選択が適切ではないこと。
例えば以下の文。
>屋敷の外へ呼び出された薬師は、面食らったようにその姿を眺めた。
眺める、という単語は、何か別のことを考えながら対象を見つめたり、
もしくは遠くにあるものを見やるときに使用します。
少なくとも面食らうという単語とは併用できないのではないでしょうか。
他にも違和感を感じたのは「裏腹」とか「至れり尽くせり」とか。
日常であまり使わない単語はまず辞書を引いてみることをお勧めします。

後、
>「この子が目を覚まさないうちにお願いね。貴女を酷く敵視しているから」
>「それは光栄ね」
と来たすぐあとに、
>「詮索は勘弁して頂戴。さっき言ったとおり、この子は貴女が大嫌いなのよ」
>「なによそれ。あんまりじゃないの」
とアリスの応答に矛盾があるように見えます。
読んでいて首をかしげてしまうので、統一性をもたせるか、
なんらかのフォローを入れたほうが良いのではないでしょうか?

お話自体は悪くなかったと思いますが、上記の点が面白さを半減させてしまっていたのが残念でした。
34. フリーレス KAZERU ■2007/06/01 03:26:44
 まずは、ご読了&ご評価どうもありがとうございました。
 まだ全作品読みきれてないです。まことに申し訳ない。
 ここではコメント返しをするとの事なので、お返事致します。
 もし的外れなこと言ってたらすみません。
 ともあれ、皆さん本当にお疲れ様でした!


>時計屋 様
分かり辛さは未熟さゆえ、単語の誤用は思い込みでの使用。
アリスの態度は「敵視は構わないけど詮索ダメって何それ?」と言った所。
って、こんな解説してると虚しくなってきますね(笑
改善していくよう頑張ります。ご指摘ありがとうございました!

>藤村る 様
心身の穴、というテーマは確かにありきたりだとは思いましたが、
あえて、最初に思いついたこの話を形にして投稿させていただきました。
穴は仕掛けの爆発を以って塞がると。逆に広がる可能性もありますが。
文の分かり辛さについては申し訳ないです。精進致します。

>たくじ 様
人形解放と人形遣い。メディの中ではどんな形で決着がつくのか。
もう想像が止まりません。

>二俣 様
ええ、まだまだ続くのでしょう。
軌跡は想像することしか出来ませんが。ここまでも、これからも。

>K.M 様
全ては火種を持つ人物の、匙加減一つ。

>眼帯因幡 様
ありがとうございます。
個人的には、彼女が笑顔ならこういう世界があってもいいかな、と。

>リコーダー 様
ありがとうございます。
お話としては、細かく突っ込むべきか、さらっと流すべきか。
この辺り難しいです。

>執 様
恐らく私の表現力不足が足を引っ張っている予感。申し訳ないです。
解釈事態は自由で構わないと思っていますが、何も伝わらないという事態は避けねばなりませんね。

>いむぜん 様
この辺りは脳内設定が強すぎた感じです。
確かに、溶けるって通常ありえない現象か。
毒素と深く結合した物質は強力な中和剤で溶けるんだ、とか思い込み。
永琳先生特製だし。
お題に引っ張られすぎたせいですね。こじ付けという。反省します。

>鼠@石景山 様
さっくり終わらせるつもりでした。
ボリューム不足を感じられたのは、むしろ当然かもしれません。
完成後、さらに書き込むべきかは迷ったのですが……。
ご期待にそえず申し訳なかったです。

>らくがん屋 様
そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。

>木村圭 様
ありがとうございます。
……私の作品、なんかこのまったりした雰囲気が地みたいです(汗

>乳脂固形分 様
どうも話に起伏を持たせるのが上手くないようです。要勉強ですね、頑張ります。

>乳脂固形分 様
ありがとうございます、いずれまた機会があれば、是非。しかし、ほのぼのと平坦は紙一重ですね。(汗

>blankii 様
『迷惑料』という名の、ちょっとした世話焼き。あとはどうぞお二人のご自由に、と。

>詩所 様
ごめんなさい、すぐに解毒……あぁいや、ほっとけば治るんでご心配なく。(笑

>deso 様
すみません、その辺りは皆さん混乱したようですね。描写不足でした。
メディは『彼女』で統一しましたが、この辺りも反省材料ですね。
自分では、脳内補完されてしまって気付けませんでした。もっと第三者の目を鍛えたい所です。

>流砂 様
過度な説明は極力避けたのですが、諸刃の剣となっていました。メリハリ大事ですね。
え、中和剤? そりゃあ師匠の作る中和剤ですもの、強くない筈がない。(笑

>反魂 様
どうもありがとうございます。描写不足はその通りです、今後じっくり改善していこうと思います。

>人比良 様
テーマである穴に対して、『人形の身体に穴があく』という現象へ無理矢理繋げた所為です。
中和剤というトリガーは、確かに考えが浅かったところです。やはり、設定には注意が必要ですね。

>翼 様
実は作者としても、書くべきか書かざるべきかで葛藤があったりします。私も鈴蘭にあたっているようです。

>KIMI 様
ありがとうございます。
区切り方とか、間違えていないみたいで安心しました。

>秦稜乃 様
好みに合う合わないは、絶対にある話です。どうぞお気になさらず。

>どくしゃ 様
続きを読みたいと言って頂けるのはやはり嬉しいです。
そういう終わり方ですしね。ありがとうございます。

>スミス 様
『dolls in holes』の存在を知った時には、『おし。僕頑張った。』って自己完結しそうになりました。(笑

>風見鶏 様
そう言って頂けると救われます。真っ先に『メディに穴あけるか』とか考えた私は酷い奴なのかも。

>shinsokku 様
毒だだ漏れのメディが通った竹林は、きっと壊滅状態。(台無しだ

>だおもん 様
起爆と同時に、人形解放の在り方も決まってしまうのかもしれません。

>爪影 様
色々な世界に触れて、そのうえで笑っていて欲しいですね。うん。

>新角 様
毒で動いているんだから、多分効果はあるんじゃないかと。何といっても師匠作ですし。

>紫 様
綺麗にまとめるためにご都合主義になった、とも言えますが……。
導入に限らず、全体的に起伏をつける工夫を考えて行きたいですね。

>床間たろひ 様
最低限の干渉で、自分の望みの方向へ持っていくのが上手い人物が多いような気がします。
幻想郷の住民には。……なんて、独断と偏見ですが。

>A・D・R 様
読了&解釈、ありがとうございます。あとは、火種と導火線が出会う日を待つばかりです。


こんぺチャットの仕組みが分からず、指をくわえて傍観している風流でした。
35. フリーレス KAZERU ■2007/06/02 04:39:20
下記コメントにて、椒良徳 様と書くべきところを、
乳脂固形分 様と名前を間違って書いていました。失礼致しました。
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