ブラズィル

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/09 10:02:35 更新日時: 2007/05/12 01:02:35 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 ある日、博麗神社の境内の裏にぽっかりと穴が空いていた。

「何なの、これ……」
「なんだこりゃ……あらぬ疑いを掛けられる前に断っておくと、私の仕業じゃないからな」

 霊夢と魔理沙は、頭を突き合わせて真っ暗な穴をのぞき込んでいた。一寸先は闇、と言わんばかりに何も見えないが。
 直径は人間一人がすっぽりと収まる程度。傍目から見ると何でもないようにみえるが、よく見れば穴の形状は綺麗な真ん丸であり、しかも縁は恐ろしいほどなめらかになっている。おおよそ、自然の産物とは考えられなかった。

「試しに石を落としてみよう」

 魔理沙は手頃な大きさの石を一つ拾い上げ、そっと穴の中に落としてみる。
 
 パッ
 ……
 …………
 ………………

「相当深いわね、これは」
「落とし穴にしちゃシャレにならんな。誰が何のためにこんなもん作ったのやら」
「まさか、どっかの誰かがゴミ捨てするためにやったんじゃ……」
「なんでこんな辺鄙なところにある神社に作らなきゃいけないんだ」

 異変、といえるほど大きなことではないが、疑問は募るばかりだった。

「私達ではわかりっこないわね。解決できそうな人でも連れてこようかしら」
「いや待て、閃いたぞ。私に任せろ」

 直感が働かないらしい霊夢を抑えて、魔理沙はすぐさま神社を飛び出していった。
 ほどなくして、魔理沙は宙に浮かぶ黒い球体を牽引してきた。

「あんた、ルーミアなんて引っ張ってきてどうするつもりよ」
「まぁ見てなって。ほれ、そっちの木にこのロープをしっかり結びつけといてくれ」

 魔理沙は、黒い球体もといルーミアの闇の中からロープを引き出し、その端の方を霊夢に投げて寄越す。釈然としないが、仕方なく霊夢は魔理沙の言うとおりに、近くの木にロープをきつく巻き付けた。

「よしルーミア。この穴の中をずっと降りていけば、食べてもいい人類が盛りだくさんだ。ここにいる巫女に調伏されずに済むんだぜ。いい話だろう」
「ほんとー?」
「ああほんとだ。しかも、この穴は見ての通り真っ暗闇だ。だから、ひとたび入れば、闇を出さなくてもお前の大好きな暗闇がずっと続いてるんだ。素敵だろう」
「ほんとにほんとー?」
「ほんとだぜ。私は嘘を付かない」

 大嘘つきめ。
 口には出さなかったが、霊夢は心底そう思った。

「さぁいってこい、なんか見つけたら拾ってこいよ」
「はーい」

 魔理沙に送り出される……というより半ば放り込まれるような形で、ルーミアは珍しく纏っていた闇を解き、真っ黒な空間へと飛び降りていった。
 飛び降りる直前に、姿を露わにしたルーミアを見て、霊夢はようやく魔理沙の意図を把握した。

「妖怪で釣りしようなんて考えるのは、幻想郷の外を探してもあんた以外いないでしょうね」
「もっと褒めろよ、照れてやるから――5メートル、6メートル、7メートルと」

 よく見ると、魔理沙が持っているロープは一定間隔で印が付けられている。おそらくはそれで大まかな長さを測ることが出来るのであろう。また都合良く都合のいい物を持っているものだった。
 ロープはするすると闇の中に飲み込まれていく。ルーミアは自由落下しているわけではないらしく、下降スピードはほぼ秒速1メートルをキープしているようだった。手を擦らないように、魔理沙は束ねたロープを落下速度に合わせるようにリズミカルに緩めていく。

「このロープはたっぷり余裕もあるし、流石に底にまでは辿り着くだろ――」

 ブチッ
 なんか嫌な音がした。

「――あ」
「――あ、って何よ」

 霊夢の声を無視して、魔理沙は心持ち焦ったようにロープをたぐり寄せ始めた。思いっきりこめかみに汗が滲んでいる。
 4メートル、3メートル、2メートル。

「「あーあ……」」

 やっちゃった。まさにそうとしか言えないような空気が漂う。
 ロープの先には、ルーミアは居なかった。ロープの端は、凄まじい力で引っ張られたかのように寸断されている。

「なんだ……モグラの化け物にでもぶち当たったのかね」
「ひょっとしてこれ、謎の地下生物が餌をおびき寄せるために仕掛けた罠だったりしたのかしら」

 ルーミアがいなくなったことについてはさしたる動揺も見せず、二人は変わらず穴の正体について考えを巡らせ続ける。

「何にせよ、気味が悪いから近寄らない方が身のためという結論は出しておこうか」
「そうね、蓋をした上で柵で囲って結界を張っておきましょ。参拝客が落ちたら大変よ」
「その心配はないだろう。どうせ誰もこの神社にはこないんだし」
「うるさい」
「しかしルーミアはどうするよ」
「いいんじゃない? そのうちまたひょっこりでてくるわよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
「ルーミアだもんな」
「ルーミアじゃ仕方ないわよね」

 そうして。
 宣言通り蓋と結界によって、この謎の穴は封じ込められた。それっきり、二人の間でこの穴のことが話題になることもなかったという。

 ◇ ◇ ◇

「これよ蓮子、これは絶対に合成でもなんでもないわ」
「メリーがそう言うんだったら説得力がないでもないけど……私の目には真っ黒な球体にしか見えないわ」

 メリーと蓮子は、頭を突き合わせてディスプレイを眺めていた。
 二人が見ていたディスプレイの映像は、インターネットニュースで公開されている写真だった。そこには、どこまでも広がる青空にぽっかり穴を開けたような、真っ黒な球体が大きく映っている。
 ここ最近、その事件はテレビやインターネットを騒がせていた。南米のとある地域で、上記の写真のような真っ黒な球体がたびたび目撃されているのだという。今秘封倶楽部の二人が見ているような写真に始まり、数々の地元民の目撃証言に一般人の回したカメラの映像やテレビ局のカメラ、果ては防犯カメラにもこの球体が映っていたこともあるのだという。
 あまりにくっきりとした見栄えもあり、もちろん証拠映像を疑う論調も存在しているが、UFO説、宇宙人説、UMA説、悪魔・悪霊説etcと憶測の広がりは止まるところを知らない。それを煽るかのように、目撃証言や証拠映像は後を絶たず、最近では人や家畜が襲われかけたという報告すらある。
 そんな地球の裏側での大騒ぎの元凶について、今現在日本にいる一人の魔術師が、その正体に近づきつつあった。

「この球体は間違いなく境界の“向こう側”からきた存在よ。見える境界の形があまりに私達の世界と違いすぎる。宇宙人とか、悪魔とかって言い方は正しくないわ。これは私達の“想像外”の領域なんだから」
「宇宙人も悪魔も十分想像外だと思うけどねー」

 一見気のない返事を返す蓮子だが、内心では既に一つの答えを導いていた。
 月旅行は途方もない話だが、南米ならちょっぴり背伸びした学生旅行にできると。

「メリー、貯金いくらくらいある?」

 蓮子の楽しげな視線を感じて、メリーは彼女も乗り気だと知り安心する。

「蓮子の方こそ。まぁ今回は私が二人分払ってもいいわよ、ツケるけど」
「残念だけど、利子はあげらんないわよ。驚くなかれ、今の私ならメジャーリーガーのユニフォームがオークションで落とせるわ」
「まぁ、セレブね」
「セレブですわ」

 けらけら、と二人は心底楽しそうに笑い合う。

「さ、いつごろ有給休講とるかしらね。夏までは待てないし、早めに行かないとね」
「それって、代返でサボるってことね……あ、新しいニュースが来たわ」
「どれどれ、『謎の球体の巣か? 某市で奇妙な穴を地元住民が発見――』」

 そーなのかー
 今の子供にこの穴の話をしてもわかってもらえるだろうか、というのは流石に世間を見くびりすぎでしょうかね。きっと誰もが生涯に一度は考えるであろう素朴な疑問であります。

 妖怪の山の内部には地下楽園があり、結界に穴を開けて外の世界と通じているかもしれない、という話が求聞史紀にありましたが、果たして地球を貫く穴は結界をも越えられるでしょうか。

 
コースケープ
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投稿日時:
2007/05/09 10:02:35
更新日時:
2007/05/12 01:02:35
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1. 4 A・D・R ■2007/05/13 02:12:24
ルーミアで釣り…魔理沙酷いww
何度か読んだのですが、結局『この穴』の話がわからずに…何か見落としがあったのかなぁ。
2. 4 爪影 ■2007/05/13 21:00:45
 聞いた事があるような無いような……どーなのかー?
3. 8 新角 ■2007/05/13 21:50:49
地面に空いた穴というのはミラクルなもんですよ
たとえそれがマンホールでもね
4. 2 だおもん ■2007/05/13 23:54:02
何か、ものすごいデジャヴュを感じました。
5. 4 shinsokku ■2007/05/14 02:01:01
時穴・・・懐かしい、っていうのも変ですか。
ボボ・ブラ汁。
あら卑猥。
6. 7 風見鶏 ■2007/05/14 17:52:29
DQ?
7. 5 久遠悠 ■2007/05/15 19:29:20
おお、子供のころに考えていた夢がこんな所に。
そもそも、トンネル掘ってどれくらい深くまで行けるんだろう、と今更ながら考えてしまいました。
8. 1 どくしゃ ■2007/05/16 04:43:46
霊夢も魔理沙もひでぇw
面白かったです。
9. 6 KIMI ■2007/05/19 21:33:04
面白かったです。
やっぱり穴をあけたのは紫でしょうか…?w
10. 5 秦稜乃 ■2007/05/21 22:02:55
>有給休講
どんな大学だよ。
11. 8 ■2007/05/22 10:08:47
いろいろ言いたいことはあるが…霊夢に魔理沙、まさに非道。ナチュラル過ぎて何も言えねえw
12. 4 詩所 ■2007/05/25 17:24:51
魔理沙マジ外道
容認する霊夢も外道
13. 2 人比良 ■2007/05/26 20:54:49
ふと月光堂を思い出しました。地球最後の秘法。あるいは地球
最初の秘封。秘封倶楽部はかわいいですね。
14. 5 流砂 ■2007/05/26 21:41:57
穴は扉と同じ位に世界を分断する機関ですので、案外と結界なんて
簡単に通してしまいそうな感じもしますね。
時間も世界も結界もマントルも貫き通してこんにちは るみゃ。
15. 4 deso ■2007/05/27 00:06:05
タイトルだけで中身が読めてしまうのは残念です。
あと、多分誰かが突っ込むと思うけど、一応。
給料は貰ってないから『有給』じゃないですよね。
16. 5 blankii ■2007/05/27 10:59:47
いやぁぁぁあっ。惨劇の予感がココに! まさに正反対というか貫通式? ああそれでブラズィル、とかひとり納得。
17. 6 椒良徳 ■2007/05/27 19:34:01
懐かしいですね。できるできないの秘密でしたか。いや、本当に懐かしい。
今の子供達だって……いや、俺子供じゃないし。
18. 4 木村圭 ■2007/05/27 23:25:59
知ってるかもしれないけど分かんねぇ。あまりに酷い二人とあまりに能天気な全員に和んだのでどうでもいいや。
19. 3 らくがん屋 ■2007/05/29 11:06:31
ルーミアがかわいそうだ! 謝罪と賠償を(ry
20. 3 鼠@石景山 ■2007/05/30 00:46:09
ルーミアって自分の出した闇も見通せないという話では? というのはこの際いいとして。
でもこれって、「外の世界にも妖怪が出る」というだけで、たまたまルーミアが考えなしにうろついているだけなんだよなー、とか。
上空もそうだけど、大結界って地下はどの程度までフォローしているんだろう?
21. 3 いむぜん ■2007/05/30 02:19:38
ドリル特急。博麗大結界は地面の中までフォローしてんのかな? してそうだけど。
穴に一切の説明が無かったり、オチを秘封任せにしたり。ルーミアの扱いの酷さも涙w
後書きと本編の温度差もヒドスw
22. 3 反魂 ■2007/05/30 03:05:49
少々尺が短すぎな気もしますが、そういうスタイルと割り切るべきでしょうか。
淡々とすすんでしまった印象で、起承転結の起と転がもう少しはっきりあれば尚楽しめたかと思います。
23. 5 リコーダー ■2007/05/30 16:21:28
検索してみると、地球の中心を通るトンネルの中心は、気圧により空気が鉄より硬くなるため通り抜け出来ない、とのこと。
行動の無責任っぷりがどいつもこいつもまあ。
24. 4 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:18:29
日本の裏側まで続く大穴ですか、確かに幻想になっていて、もおかしくはないかもしれませんね。
ルーミアは外界で何人を食べたのでしょうか……。
ともかく、お疲れ様でした。
25. 4 二俣 ■2007/05/30 19:15:04
ええとまず一言『そんなことデキッコナイス!』…よし、満足。
色々とわかってやっているあたりにお茶目で素敵な悪意を感じました。
この話、リアルにやろうとしたマッドさんが実在したらしいのですがあの人も幻想になったのでしょうかね。
26. 7 K.M ■2007/05/30 20:43:01
なるほど、地球貫通して日本の裏側の国(正確には、ちょっとずれてるけど)に着いた訳ですか。
…ってか、魔理沙非道w
27. 6 たくじ ■2007/05/30 22:33:02
ルーミアなら戸惑いもせずホワホワ浮かんでそうですね。マントルが熱いから無理かなとか、小さい頃真剣に考えてました。
28. 3 藤村る ■2007/05/30 23:20:15
 星新一ぽいけどそうでもないかな……。
 序章、ていう感じ。まだまだ続きそうな気がしましたから、ここで終わったのは少し勿体ないかなあと。
 なんとなく、戦闘機の弾幕を受けるルーミアを想像しました。
29. 3 時計屋 ■2007/05/30 23:22:43
地球空洞説ってやつですか。
その手のSFは読んだことが無いですが、確かに誰でも一度は考えるのかも。
しかし、ルーミアの扱いが……。

小話ではあるのですが、文章が過不足なく読みやすかったです。
こういう話も良いですね。
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