無声の声と穴なき笛

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/11 09:19:20 更新日時: 2007/05/14 00:19:20 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 月の頭脳、八意永琳は迷っていた。
 太陽から方位を測定しようにも、深い竹藪の中ではそれは敵わない。
 さらにいえば、光がほぼ遮られる地表付近にあっては時間の感覚すらあやふやになる。それは朝だろうが昼だろうが薄闇の濃さは変わらなからだ。
「まったく……あの子を見失うなんて失敗したわね」
 そして思い出す。なぜ自分がこうなっているのか、その始まりを。


 その日の朝、特になにをするでもない永琳は自室で薬箱の整理などをしていた。
 いくつかの薬の在庫量を考え、材料の調達でもしようかと考えていたとき、
「永琳様、永琳様、少しよろしいですか?」
 廊下を走る軽い音とともに、ふすまを叩く音、そして幼い少女の声が聞こえてきた。
「どうぞ、入っていいわよ」
 顔をあげると同じくふすまが開いた。そして入ってきたのは地上の妖怪兎、てゐだった。てゐは一礼すると二歩ほど中に入る。
「なにか用かしら?」
「ええ。実はこの間、永琳様が探していた薬草が群生している場所を見つけまして」
「ちょうどよかったわ。では早速一籠ほど取ってきてちょうだい」
 普段であれば二つ返事である所だが、なぜかてゐは手をもじもじとさせ、何かを言いたげだった。
「? なにか問題でもあるのかしら?」
「い、いえ。……その、永琳様にも一緒に来ていただきたいなあ、なんて思いまして」
 思いがけない言葉に少々驚き、永琳はなぜだろうかと考えた。しかし思案が幾つか浮かんだあたりで本人が口を開いた。
「永琳様、最近屋敷の外に出ていませんし」
 それにと付け加え、俯きながら小さな声で、
「――永琳様、最近私たちと一緒にいられなかったですから」
 確かにここの所は輝夜の世話だけでなく、外との交流などでなにかと立て込んでいた。てゐにしても鈴仙という姉のような存在はいるが、やはり母性的な部分という点で寂しさはあったのだろう。月の頭脳が考えられるのは薬のことばかりではない。それらを踏まえて、いくつかの可能性を考慮した上で、たまにこうして甘えに来ることは十分に考えられると結論づけた。
「そうね。特に用はないし、散策がてら気分転換でもしましょうか」
 永琳がそう微笑むと、てゐも顔を上げ満面の笑みを見せた。
 一時ほど後に出発することにし、てゐは部屋から出た。
「……くすっ。上手くいったいった」
 黒い笑顔を浮かべ、そう言いながら自分の部屋へと支度をしに行く。
 一時後、大きな竹籠を背負った二人組は、迷いの竹林へと入っていった。
 そして、
 「いつの間にかいなくなっちゃったのよねー。……ホント、困ったわ」
 自分達の術に加え天然の結界という幾重にも重なる結界が、ここを“迷いの竹林”という固有名称を与えるまでにした。そのような場所である以上、如何に永琳であっても案内役がいなければ脱出は容易ではない。
 あれこれ考えつつ永琳は件の案内役、てゐを探すまいと歩みを進める。


 そんな姿を、およそ一町ほど離れた竹に隠れる二つの影があった。
 両者ともに兎耳があり、特に片方の耳はどこかへにゃりとしたものだ。
 後者が視点を下に語りかけた。
「てゐ……そろそろ止めておかない? 絶対バレるって」
「大丈夫ようどんげ。それより集中しないとマズイんじゃない? ま、それでもいいんだけど。こっちは逃げるから」
 そう言われ、仕方ないという風でうどんげと呼ばれたへにょり兎耳の少女は永琳の方へと目を見やる。その目は深くもあり淡くもある紅の光を宿らせ、まるで永琳を包む空間そのものに干渉するかのような力を感じさせた。
「幻視だって結構力使うんだからね。それに、師匠に果たしてどこまで通じるやら……」
「今だって迷ってるじゃん。この竹林の術に紛れるだろうから、幻視使ってるなんてバレやしないわよ」
「そうかもしれないけど……はあ。こんな事ならやっぱり止めておくんだったー」
 否定する言葉に、てゐはムッとした表情で鈴仙を振り返り見やる。
「文句言わない。だいたい、永琳様をたまには困らせようって話に同意したのは誰だっけ?」
「うっ……そ、そりゃあ師匠だって、最近私に対する扱い方が冷たいというかひどいというか。この間も火を吹く草があるとかで、断ったのに夕飯に混ぜられてあわや火事になるとこだったし、その前は背中に翼が生える薬で藤原に対抗しようとか言いだして、これまた翼は生えたけど次の日には背筋が筋肉痛で一週間動けなくなるし、その次は……」
 最近はうどんげの愚痴がひどくなったな、などとてゐは思った。だが当時炊事当番で永琳に渡された草を言いつけ通り素直にうどんげの夕飯に混ぜたことや、藤原妹紅の強さは翼にあるのではないかと提言したのは自分だったりすることがあるので多少は関わっていると言えなくもない、と自己反省した。それが今日のことであり、
「だからこうしてうどんげの鬱憤晴らしに協力してあげようって、いい案を持ちかけてあげたんじゃない」
 プラスマイナスゼロ。これで罪も帳消しになるだろうと考えた。自分も楽しめて、一石二鳥とはまさにこのことだと自己褒称。
 目の前の永琳が頬杖をついて竹林を見渡す姿を、てゐは悦に入ったような表情で見つめていた。


 が、半刻経ち一刻経っても同じように困った表情で立つ姿に、だんだんと飽きがきた。そして二刻も過ぎる頃には日も暮れ始め、けれども立ち姿は変わらない。
「……ねえ、てゐ。さすがに様子がおかしいんじゃない?」
 荒事には率先して対処する柄、体力はある方だがさすがに疲れた表情をして鈴仙は問うた。
「うーん……でも、あれは絶対罠よ。うん、そうに決まっている」
 疲れた感じを見せつつも妙に自信のある声で否定した。
「だって蓬莱人でしょ? きっと時間が経つことなんてそんな苦じゃないのよ」
「そういうもの、なのかな……?」
「そういうものなの!」
 しかしついには日付も代わり、草木も眠る丑三つ時にまでなった。
 今回の黒幕たるてゐは妖怪兎だが、永遠亭で長きにわたり人間と同じ時間割で生きてきたためか眠ってしまった。
 鈴仙は起きていた。生来の真面目な性格ということもあって、例えてゐが言い出した計画とはあってもサボるような真似はしなかった。
 だが鈴仙は、てゐが完全に寝入ったのを見てすっと立ち上がり、月光がスポットライトのごとく点々と照らす竹林へと躍り出た。先ほどまで監視対象としていた人物に歩を進め、ついには三歩ほどの距離にまで近づいた。そして右手を前へと突き出し、拳銃のような形へと指形を変化させる。
 発射。
 座薬型などとも称される一発が音を超え、自身の敬う不死の人間へと直進し、左側頭部へと着弾した。
 刹那、不死であるはずの人は光の粒となって空に立ち消え、消滅した。
 鈴仙は右手を下げ、やれやれといった表情で後ろを振り返る。
 そこには今消えたはずの人物が、穏やかな表情で立っていた。そして表情は崩さぬまま、口を開く。
「で、いつから気がついていたのかしら?」
 その問いに答える。
「……さすがに、いつまでたっても変わらないんじゃ罠以前に気がつきますよ」
 それに、普段の師匠とは波長が異なってましたから、と付け加える。
「あら、やっぱり付け焼き刃の式神じゃダメねえ。せっかく八雲藍のところに講習を受けに行ってたのに」
「? 式神に式神の作り方を習っていたんですか?」
「ほら、当のご主人さまは寝ているでしょ。それに橙とかいう式神がやんちゃでよくケガをするから、薬関係で世話になってる私には気をよくしてくれているみたいでね」
「それであそこには、師匠自らが薬を届けに行ってたんですね」
 ええ、と頷き、
「なにせ、結界を操るあの妖怪にはなにかと助けてもらったから」
「……巫女と一緒に好き勝手暴れられた気もしますけど」
「そうね……でも、それで姫や貴方が事由になれたなら、悪くはないわ」
 鈴仙は何事をいうでもなく、ただ月を仰ぎ見た。竹の葉に隠れよく見えない月を。
 それから幾ばくか経ったとき、永琳は口を開いた。
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「はい」


 自分より年上のはずのてゐを背負い、年齢としては姉になる妹の寝顔を見て穏やかな気持ちになった。自分は人間ではないが、ちょっとだけ幸せになれた、と思う。
 並んで家路につく師匠を見て、鈴仙はそういえば、と聞く。
「なんで、てゐが寝た後もすぐに現われなかったんですか? 私に気づかれていたことは薄々感じていたのでは……」
「それはね、うどんげ。あなたが気づいているかいないかは私の主観によるもの。だから、あなたがもし気づいていなければ折角こちらが騙せていたものを自ら暴露してしまう。風流じゃないわ」
「風流って……じゃあ、そもそもなんで私には教えてくれなかったんですか。てゐが騙そうとして騙し返すのはともかく、巻き込まれたこっちはかなり疲れたんですけど……」
「そんなこと、いちいち説明されたから分からないようじゃ、一人前にはなれないわよ。それにあれが式神だってことぐらい、すぐ気がつかなきゃダメじゃない」
 いいこと? と前置きをして永琳は続ける。
「『穴なき笛は耳より外に音を聞くべし』。あなたもその耳ばかりに頼らないで、様々な知覚をつかって物事の理を見抜けるようにならないと」
 自慢げに地上のことわざを唱える永琳に、申し訳なさそうといった様相で鈴仙は言葉を返す。
「あの〜、そのことわざって、見抜くという点では私が気づいたかどうかを見抜けなかった師匠も同じなんじゃ……」
 その言葉を聞いて、永琳はきょとんとした顔になり、そして静かに笑い出した。
 なにがおかしかったのだろうと思いつつ、思わずつられてしまう鈴仙。
 いつしか我が家の灯りが見えてくる。
この作品は、最後に永琳が言うことわざから考えたもので、そもなぜこのことわざを選んだかと言えば、お題の「穴」と聞いて真っ先に「同じ穴のムジナ」ということわざを思いつき、しかしこれでは他の人と被ってしまう恐れがあると判断したため、でも同じことわざ系統で面白いものはないかなーと思って見つけたのがこれです。
なにか暖かいものを感じていただければ幸いです。

姫様が出ていないのは一つご容赦いただければと(ぉぃ
あと、最近文法についてあれこれ言われているようなので普通に小説を書くような形で(それでも完璧ではありませんが)投稿させていただきました。少々ネット上で見るには苦しい感じになってしまったかもしれません。見にくいぞーという方、大変申し訳ありません。
つくね
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投稿日時:
2007/05/11 09:19:20
更新日時:
2007/05/14 00:19:20
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1. 6 A・D・R ■2007/05/13 02:57:07
上手くまとめられていてよかったと思います。
こういったお話は大好きですww
2. 5 乳脂固形分 ■2007/05/13 21:34:35
この慣用句は知らなかったので、勉強になりました。
内容に関しては、可もなく不可もなくといったところでしょうか。
登場人物が子供っぽすぎる印象を受けましたが、
そういうジャンルだと考えれば受けれられないこともありません。
3. 3 shinsokku ■2007/05/14 18:56:09
うむむ。暖かい感じはするのです。
が、幻想っぽさにやや欠き、自分の好みとは噛み合わなかった模様です。すみませんです。

自分も文法は良く判りませんが、特段読みづらい文とも思いませんし、問題ないのかな、と思います。
4. 6 新角 ■2007/05/15 00:50:34
オチに穴をこじつけたようにしか……
5. 5 爪影 ■2007/05/15 11:27:09
 なんだか穏やかで良い感じでした。
6. 1 どくしゃ ■2007/05/17 04:41:17
淡々と読めました。
7. 6 秦稜乃 ■2007/05/22 15:13:45
永遠にほのぼの。
8. 7 KIMI ■2007/05/23 17:49:38
内容はいい感じです。
行間をもう少し空けてみるともっと見やすかったかもしれません
9. 4 詩所 ■2007/05/24 04:21:56
そして起きたてゐに待っている地獄
10. 3 反魂 ■2007/05/24 14:37:46
少々テーマ消化が強引な気も。
お話自体はちょっと尺が足りないかなという印象でした。必要最低限の叙述に留まった感じで、もう少し物語としての面白味や読み応えがあったならという感じです。

誤字・誤用)
・てゐを探すまいと歩みを進める→てゐを探そうと/てゐを探さんと
  探すまいと、では、探さないでおこう、という意味になります。
・事由になれたなら→自由になれたら
11. 4 流砂 ■2007/05/26 21:44:42
可も無く不可も無い感じ。
特に山場も無くのんびりと。
12. 6 deso ■2007/05/27 00:01:20
いや、良いほのぼの話でした。文体は自分はわりと好感持てました。
13. 5 風見鶏 ■2007/05/27 03:12:06
可も無く不可も無くって感じかな。さらさら読めて良い感じでした。
14. 5 blankii ■2007/05/27 11:03:01
永琳にしてみれば「困った妹達ね。」みたいな距離感でしょうか。てゐにしてもても冒頭の台詞こそ真実――かな? かまってほしい〜というオーラが愛しいです。文章に関しては(印刷して読んでるけど)違和感なく。
15. 6 椒良徳 ■2007/05/27 19:38:57
ほのぼのしていてよいですね。
誤字脱字等もなく、読みやすい文章でよかったと思います。
16. 4 木村圭 ■2007/05/27 23:29:18
夜になったらおねむのお姉ちゃん可愛いよ! 遙か高みに居ると思いきや意外とそうでもない永琳もきゅーと。
17. 8 ■2007/05/28 09:35:48
何だかんだ言って、永琳も鈴仙も、風流のためだけに丑三つ時まで待てるあたりよく似ている気がする。母と姉、くらいの似方かな?そして、待てないてゐはまだまだ修行の足りないやんちゃな妹。
18. 3 らくがん屋 ■2007/05/29 11:02:46
“事由”はちょっと見ない誤字ですね。文章形式はこれで読みやすかったですが、内容的には毒でもなく薬でもなく。
19. 4 鼠@石景山 ■2007/05/30 00:50:06
お互いの事が分かっているからこの流れなんでしょうか。
たまにはこんな日もあるんだろう、みたいなお話。でも、この話の穴は師匠の論の穴だと思ってみたり。
20. 3 いむぜん ■2007/05/30 02:22:19
うどんげ、幾ら死なないとは言え、いきなりヘッドショットかよw
オチに穴の説明が出てくるけど、作中見えてこないのはどうかと。
少し物足りない。
21. 3 リコーダー ■2007/05/30 16:19:54
永琳の言葉無しに、この話からテーマの諺を感じられるかというと少し微妙です。
22. 4 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:25:58
終始のんびりと進む物語に感じましたが、最後に締りが足りなく感じてしまいました。
しかし、「同じ穴の狢」から「穴なき笛は耳より外に音を聞くべし」をつなげるアイデアは面白かったです。
もう少し尺を長くして、此処が面白いという部分を強調すると良いかなぁ……なんて;
未熟者が偉そうにすみません、お疲れ様でした。
23. 5 K.M ■2007/05/30 18:52:58
騙し騙され竹林の中…流石師匠。
文体は、気になるほどでもなかったですよ。
24. 5 二俣 ■2007/05/30 19:25:50
この永遠亭の描き方はかなり好きです。
ええ、姫の影が薄いのも含めてですよ?

それと書式に関してはこれでいいんじゃないかと。
25. 6 たくじ ■2007/05/30 22:30:44
穏やかで、鮮やかに裏をかく永琳は本当にかっこいい。てゐにうどんげ、この永遠亭家族がきれいに描かれていて楽しめました。
26. 5 藤村る ■2007/05/30 23:23:25
 短いながらよく出来ていたと思います。
 印象は弱いんですが……。
27. 1 時計屋 ■2007/05/30 23:30:57
普通の辞書には載ってない珍しい諺ですね。
意味解らないからググったら3件しかヒットしませんし。
しかしお題との絡みがこれのみというのはあまりに薄いです。

また、お話が何処かちぐはぐな気がします。
たとえ小ネタであっても、話にメリハリをつけるようにしてみてください。

あと文章は後書きでご自身が言われているように、
たしかに全体的にぎこちなく、誤字も目立ちます。
文章は推敲を重ねれば重ねるほど良くなりますので、
投稿前にもう少し頑張ってください。
28. フリーレス つくね ■2007/06/27 00:43:38
大変遅くなりまして申し訳ありません。(コメントで返信してよいのかな、と思い悩んでいましたらすっかり時が経ってしまいました(汗)
今さらですが、今回コメントをお寄せ下さった皆様、並びに読んでくださいましたすべての方に、厚く御礼申し上げます。
個々の方々にまでコメントできないことを、どうかご容赦ください。

今回は非常に貴重な体験ができました。よもやこんなに点数とコメントを頂けるとは思っていなく、とても嬉しかったです。
次回また投稿する機会がありましたら、よりいっそう面白い作品を作れるよう頑張ります!
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