この青い空の下、君の隣に。

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/12 01:01:11 更新日時: 2007/06/13 16:58:36 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



 
 それは花見という名の宴会が一段落し、幻想郷が緑に染まり始めたある日の事だ。騒ぐだけの体力は無く、けれど家に引き籠もっている気分でもなかった私は、博麗神社へとやって来ていた。
 縁側の近くに腰掛け、霊夢から貰ったお茶を飲みながら、春の暖かな風を感じる。包み込んでくれるようなそれに少しずつ眠気が高まりはじめ、思わずうつらうつらしていると、不意に霊夢が口を開いた。
「そういえば、あんたに言っておく事があったわ」
「ん? なんだよ改まって」
 お茶をちゃぶ台に置き、すぐ近くに座る霊夢へと視線を向ける。すると彼女は普段より少し真剣な表情で、
「博麗大結界に綻び……というより、穴が開いてしまっている場所があるのよ」
「結界に穴ぁ?」
 この幻想郷を包んでいる博麗大結界は、幻想郷と外の世界とを隔てる為に厳重に組み上げられたものだ。紫のような力を持っている者が何か悪さをしない限り、結界に綻びが生じる事は殆ど無い。
 となると、
「紫が何かしたのか?」
「アイツは関係ないわ」お茶を飲み、霊夢は言葉を続ける。「前々から結界が弱くなっている場所があってね。人里からも離れていたし、修復を後回しにしていたの。でもタイミング悪く、私達が宴会をやっている最中に、外からこっちに入って来た人間が居るのよ」
「じゃあソイツが犯人か」
「そういう訳じゃないわ。ただ、その影響で結界の綻びが更に開いて、小さな穴を開けてしまったの。まぁ、穴と言っても、紫が結界を揺らがせる時と同程度のものだから、然程危険はないんだけど……」
 言って、霊夢が私へと視線を向けた。少し睨むような、困ったような表情をした彼女は、「なんだよ」と問い掛ける私から視線を外さず、
「あんたみたいなタイプが、その穴を使って結界を越えてしまうかもしれない。そうなると面倒だから、先に釘を刺しておこうと思ったの」
「なんだ、そういう事か」
 私のようなタイプというのは、百聞は一見に如かずをどんな事にも実行する輩の事だ。特に幻想郷にはこういった『見てみないと気がすまない』という行動的なタイプが多いから、幻想郷の規律である博麗の巫女様には頭痛の種になってしまうんだろう。
 だから私は、心配そうにこちらを見る霊夢に笑みを返し、
「大丈夫だって。――で、場所はどこなんだ?」
「秘密。あんたには詳しい場所は教えないわ」
「なんでだよ」
「言っても聞かないのが解ってるからよ。それに、危ないからダメ」
「けちー。減るもんでもないだろ?」
 しかし霊夢は何も答えず、小さな溜め息と共にお茶を飲んだ。その様子を眺めながら、こりゃどうやっても教えてくれないんだな、と諦める。
 ただ、霊夢の心配は解るけれど、私はそこまで愚かじゃない。危険な状況になればすぐに戻ってみせる。そうでなければ、この幻想郷では生きていけないのだから。
「……」
 ちらりと霊夢を見ると、少し睨むように外を見ていた。
 怒っているのかと思ったけれど、少し違う。恐らくは結界の修復という仕事に対する面倒臭さを感じているに違いない。
 いや、それも違うか。問題は修復よりも、迷い込んだ外の人間を帰す事が面倒なのだろう。突然異界に迷い込んだものだから、混乱に飲まれている可能性が高く、そういった人間はこちらの言う事を聞こうとしない場合が大半だからだ。
 そんな事を思っていると、遠ざかっていた眠気が戻ってきたのを感じる。私は残っていたお茶を飲みほすと、ごろりと畳の上に横になった。
 暖かな空気の中、眠りはすぐに訪れた。


 ぼんやりと目を覚ます。深く寝入る事は無かったのか、まだ外は明るかった。
 少し眠い頭で上体を起こし、そのまま霊夢を探すと……居ない。その代わりに腹に肌掛け布団が掛けられていた。
 柔らかなそれを畳み、改めて体を起こすと、ちゃぶ台の上に書置きが残されているのに気付いた。私の湯のみを文鎮にしたその紙には、
『出掛けてきます』
 そう綺麗な字で書かれていた。
 恐らく、迷い込んだ外の人間の元に向かったんだろう。私はそう思いながら紙を畳んでスカートのポケットに仕舞うと、帽子を手に取って立ち上がった。
「さて、と」
 どうやら今日は萃香や紫は居ないようだし、霊夢が戻って来るまで紅魔館で時間を潰そう。
 そんな事を考えながら境内に出ると、私は軽く指を鳴らした。それを切っ掛けにして魔法を発動させ、相棒である箒を呼び寄せる。
 手元に飛び込んできたそれに飛び乗ると、一気に上空へ。春の暖まった空気を全身に感じながら、神社の裏手方面にある紅魔館へと向けて舵を取った。
 今はもう魅魔様が居ない本殿を越え、見えてきた裏山を越え――ようとした所で、不意に何か不自然なものに気付き、私は高度を落とした。そこはかつて魔界の入り口があったあたりで、
「……これは」
 景色が揺らいでいた。正確には、二つの景色が重ね合わさっていると言った感じだろうか。
 青々と育つ裏山の木々と合わさるように、その背後には痩せ細った木々が広がっていた。
「まさか、ここがそうなのか?」
 博麗大結界に開いた穴。霊夢は小さな穴と言っていたけれど、そもそも大結界はこの幻想郷を包むほどに巨大なのだ。その対比を考えれば、私の身長を軽く越えるだろうこの揺らぎも小さなものなのかもしれない。
 例えこれが紫の作った揺らぎで、霊夢の言っていた事と直接関係が無いとしても、外の世界に繋がっているのは確実だろう。
 これは飛び込んでみる価値がありそうだ。危険を感じたら、すぐに戻ってくれば良いのだし。
「……」
 溜まった唾を飲み込み、意を決してゆっくりと揺らぎの中へと進んでいく。するとあまりにもあっさりと目の前の風景は色を変えて、
「おお?」
 振り返ると、そこには見慣れた神社が見える。そしてその手前に、それに良く似た、しかし寂れて久しい神社が重なって見えていた。
 博麗神社は外の世界と幻想郷の境目にある。それが二重に見えているという事は、
「結界を越えたのか」
 あっさりしたもんだ。けれどそれを認めた途端、妙な高揚感に体が包まれた。
 香霖堂に溢れる用途不明の道具。パチュリーの図書館にある本。紫が持ってくる雑誌や漫画。それらからしか情報を得られなかった外の世界に、私は居る。その事実は、何ものにも変えがたい興奮を生んだ。
「……ちょっと冒険してみるか」
 恐る恐る箒から降りながら、小さく呟く。山の中と思われるこの森の中、視線の先には見慣れぬ街並みが見えて……そこにある建物がどんなものなのか気になって堪らなかった。
 だから私は箒を隠すように木々の間に立て掛けると、胸の中にある高揚感に背を押されるように、神社に背を向けて駆け出した。
 帽子を押さえ、叫び出しそうになるのを押さえ込み、一気に山を駆け下りる。どうやら山の中腹にまで人間の手が伸びているらしく、すぐにグレーの色をした地面が見えてきた。
 確かあれはコンクリートとか言ったっけ。そう思いながら速度を落とし、ゆっくりとそこに進んでいくと、まるで石の上を歩いているかのような固い感触がした。それはある程度の反発がある土とは違って、少し歩き難い。けれどそんな事も気にならない程、私の心臓は高鳴りっぱなしだった。
 山から続く道を進んでいくと、住宅地と思われる場所に出た。似たような形をした家々が数多く建ち並び、まるで迷路のようなそこを進んでいくと、多くの自動車やバイク、自転車が私のすぐ近くを通り過ぎて行った。
 初めて見るそれらは思っていた以上に速くて、そして信号機というものは思っていたより色が変わるのが遅かった。こういった知識も全て本から得たものだったけれど、中々どうして、想像とは違っているものだ。
 大きな背の高い建物……確かビルと呼ばれるそれが数多く見えて来る頃までに私は二回程轢かれ掛けて、外は危険が多いのだと強く実感した。
 それと同時に、外の世界の人間とも多く擦れ違った。
 彼らは私の姿を物珍しげに一瞬見るものの、しかし声を掛けてきたりはせずに歩き去って行く。どうやら外の人間は他者にあまり干渉して来ないらしい。すぐに突っかかってくる幻想郷の住民とは大違いだ。
 そんな事を思いながら歩いていると、正面に巨大な建物が見えてきた。確かこれはデパートという、様々な店が集って出来ている商店だっただろうか。透明な硝子のような出入り口に恐る恐る近付くと、合わさっていた硝子が自動で動いた。
 これはどうやって開いているのだろう。というより、どうやって人間を判断しているのだろうか。足元にあるマットに人が乗ると、その重さで開くのだろうか? 良く解らない。
 と、そんな風に考えながら突っ立っていると、開いていた硝子が元に戻ろうと動き出し、私は慌てて店内へと飛び込んだ。
「危ない危ない……って、やけに明るいんだな」
 店内は沢山の照明が点されていて、恐らく外と同じぐらいに明るい。そして眩しい。帽子の鍔を下ろして目元に影を作りながら、私は広い店内を見て廻る事にした。


 物珍しそうなものは全て見て廻っていく。例えばそれが服だったり雑貨だったりしたけれど、しかし欲しいと思えるものは一つも無い。それは店内にある大きな書店に入った時でも同じだった。
 書店には沢山の本があり、綺麗に丁重された本はそれだけで素晴らしい物に見えた。でも、肝心の中身に興味を惹かれるものがないのだ。どれもこれも似通って見えて、オリジナリティが無いというか。
 これなら、パチュリー手書きの魔道書を読んでいた方が良い。誰にでも読める訳ではない魔道書を読み解いていくというのは、まるでパズルを解いていくような面白さがあるから。
 そんな風に思いながら、それでも胸の高鳴りは強く続いていた。デパートの中は奇妙に暖かく、しかし突然寒くなる場所があったりして、驚きに溢れていたからだ。
「でも、案外何とかなるもんだな」
 以前から外の世界の知識を仕入れていたという事もあるが、そもそもここは日本だ。言葉は通じるし文字は読める。普通に店内を見て廻る程度では、混乱が起こる事も無かった。
 そうやって歩いていて、どのくらい時間が経っただろうか。出入り口へと戻ってくると、外はもう夜の闇に塗りつぶされていた。どうやら窓の無い店内を廻っていたお蔭で、日が暮れてしまっていた事に気付けなかったらしい。
 店内に入った時と同じように、私は自動で開く硝子を通って外へと出ると、
「夜でも明るいんだな」
 街の至る所に取り付けられた外灯から溢れる光は、煌々と夜の世界を明るく照らしている。こんなに明るい夜は、幻想郷ではそうそうありえない事だ。けれど外の世界ではこの明るさが普通らしい。
 直視しているとすぐに眼が痛くなってしまうその光から視線を逸らすと、私は元来た道を戻っていく事にした。
 その最中に思うのも、街の明るさについてだ。デパートの周辺だけではなく、密集している住宅地、更には道路を走る自動車すらも煌々とした明かりを持っている。
 強烈なそれは確か、電気という力が発生されているものだ。それがどのような力なのかは良く解らないけれど、魔法以上の多様性と使い勝手の良さがあるのだろう。だからこそ人々はその力を選択し、外の世界から魔法が消えてしまったのだ。
 そう考えると、なんだか淋しいものがある。魔法というのは便利な力ではないけれど、決して不利益な力でも無いからだ。
 それに……デパートで様々なものを見たけれど、どうやら外の世界は豊かになり過ぎている気がしてならない。物が多くて、どれがどれだか解らなくなりそうになった事もあった。それは衣服や道具だけではなく、食品にも同じ事がいえた。それが悪い事だとは思わないけれど、無駄が多く感じたのも確かだ。
 思っていた以上に外の世界は刺激的で、だからこそ絶望も大きい。山へと続く道を進みながら私はそう思い、少しだけ歩く速度が早くなっている事に気付いた。
 どうやら私は、早く幻想郷に帰りたいらしい。無意識のそれに苦笑しながら山道を歩き続け……人気の無い神社に辿り着いた時、それまで感じていた全ての感情が吹き飛んだ。
「……おいおい、マジかよ」
 幻想郷のそれとは比べ物にならないくらい弱い月の光に照らされたこちら側の博麗神社は、物悲しさを感じる程の静けさに満ちている。しかし、そこには昼間のような揺らぎは存在していなかった。
 場所を間違えていない証拠に、木々の影には私の箒がそのままの姿で待っていた。恐らく、私がこちら側に来ているとは気付かず、霊夢が結界を修復してしまったのだろう。
 予想外の事態に体が動かない。それでも、開いた口は彼女の名前を叫んでいた。
「霊夢!」
 返事は無い。
「霊夢!!」
 声は向こう側に届かない。
 今までに感じた事が無い程の恐怖が全身を走り抜け、私は思わず地面へと尻を付いていた。
 同時に、過去に香霖が言っていた事を思い出す。
『幻想郷には幻想の者が住む。だから僕も魔理沙も、厳密には幻想の存在なんだよ』
 あの時は、そんなものなのか、程度にしか思わなかった。しかし今、ある仮定と共に、その言葉が最悪の想像を生んだ。
 例え数時間とはいえ外の世界に触れた事で、私が外の世界の存在……つまり、幻想の存在ではなくなってしまったとすればどうなる?
 本当はまだ揺らぎがあるのに、外の世界の人間として変質してしまった私には、もうそれが感知出来なくなってしまったのではないか?
「……冗談じゃない」
 私の住処は幻想郷だ。あの魔法の森なのだ。こんな痩せた森なんかじゃない!
「霊夢! ……紫! 誰でも良い! 助けてくれ!」
 頼む、私を幻想郷へ帰してくれ!
「……」
 叫んだ言葉は森の中に虚しく反響するだけで、それに答えてくれる声は、気配は一つも無い。
 ただ、気持ち悪い程の静寂しか、無い。
「……嘘、だろ」
 怖い。恐ろしい。妖怪も人間も居ない森の中が、こんなにも冷たい所だったなんて知りたくなかった。
 嗚呼、なんて事だ。たった少しの好奇心が招いた幸せの終わり。こんな事、望んじゃいなかった。
「畜生……」
 どうする事も出来ないまま、しかし全身を包む恐怖から逃れるように私は立ち上がると、箒を掴み、森を駆け下りた。
 溢れ出す涙を拭う。でも、箒に乗って飛ぼうとは思わなかった。体に魔力は感じている。けれど、もし飛べなかったら――そう考えたら、壊れてしまいそうな程に恐ろしかったから。


 
 次の日。
 明るい夜に恐怖しながら一晩を過ごした私は、公園と呼ばれる場所の椅子に腰掛けていた。
 漸く顔を覗かせ始めた太陽は、幻想郷のそれよりも眩しく感じられる。それを遮るように帽子を深く被ると、私は箒を強く握り締める両手へと視線を落とした。
 魔法は使えるだろうか。それは今まで考えた事が無かった悩みで、魔法使いとして生きてきた私にとって、とてもとても恐ろしい悩みだった。
 自動車や歩行者の数が増え始め、動き出し始めた街から隔離されたような公園の中、一人迷い続ける。
 不安な心は失敗ばかりを想像させて、逃げ出したい気持ちが高まり続ける。気付けば涙が流れ出してきて、私は小さく嗚咽を上げた。
 それでも何とか涙を拭って、なけなしの勇気を振り絞って、私は箒から右手を離した。強く握り締め続けていた為に固まってしまったそれをゆっくり開いて、深呼吸を繰り返す。そして、
「ッ」
 強く目を瞑りながら魔法を発動させ……恐る恐る目を開く。すると、手の平の上には見慣れた魔法陣が形成されていた。
 ぼんやりと淡い光を放つそれに、どうしようもない程の安堵を感じる。でも、どうしてか魔法の効果が弱く、魔力の消費も激しい。外の世界には魔法という概念が存在しないから、その影響を受けてしまっているに違いない。
 これから、どうしたら良いのだろう。
 帰る手段は失われ、唯一の頼りである魔法すら上手く扱えない。ここは日本で、言葉は通じるし文字は読めるのに、右も左も解らない。あるのは、ただ底の見えない後悔と絶望だけだ。
 小さく腹が鳴った。けれど食事を取る事は出来ない。私は、外の世界で使う事が出来る金を持ち合わせていないのだから。
 唯一の救いは、季節が春だった事だろう。夜は少し肌寒いが、震える程ではないから。
 空を見上げる。雲ひとつ無い青空は、まるでその色が違っていた。
「……」
 いっそ夢であって欲しいと強く願う。けれどそんな事は在り得なくて、止まっていた涙が再び溢れ出す。
 今頃霊夢はどうしているだろうか。家に帰っていない私の事に、気付いてくれているだろうか。そして私が外の世界に出た事に気付き、助けに来てくれるだろうか。
「……」
 無理だ、と思う。彼女は、博麗・霊夢は幻想郷の規律である博麗の巫女なのだ。忠告を受けたにも関わらず、勝手に幻想郷の外へと飛び出した私を助ける為だけに結界を越えるような事はしないだろうし、出来ないだろう。
 だからもう、二度と彼女には逢えない。
 膝に乗せていた箒を抱き締めるようにして、抑えられなくなった声を上げ、私は泣いた。
 

 暫くして公園を出た私は、後悔と絶望、そして空腹と疲労でふらふらになりながらも歩き出した。何もしていないと、どこまでも辛くて仕方なかったから。
 街には沢山の人が歩いている。けれど誰も私の姿など見えていないかのようにさっさと歩いて行ってしまって、まるで自分が透明になってしまったように感じる。
 このまま消えてしまって、幻想郷に戻る事が出来れば良いのに。
 そんな事を思い、けれどそんな事は起こりそうに無くて、辛さだけが蓄積し続けていく。
 改めて見てみると、外の世界は汚い。ゴミが入っているのだろう袋が街の所々に山積みになっているし、自動車の排気ガスは臭いし、空気も悪い。落ち着いていればすぐに気付く事が出来ただろうそれらに気付けなかった事が悔しくて、歩く速度が落ちていく。
 そんな時、前方に金色が見えた。
「――」
 瞬間、様々な感情が溢れ出し、一瞬にして全身を満たした。私は、極楽へと続く蜘蛛の糸を見つけたかのような気持ちで、前方に見つけた、その金色――金髪を持ち、見慣れた帽子を被る人物へと駆け寄り、
「ゆ、紫!」
「?!」
 その肩を掴み、無理矢理振り向かせた彼女は八雲・紫――に似ているようで、全くの他人だった。
 突然の事に相手は目を白黒させ、彼女と共に歩いていたのだろう少女も驚いた風に私を見ていた。
 とても、気まずい。
「……すまん、人違い、だったみたいだ……。ごめん……ごめんなさい」
 肩から手を放し、頭を下げると、私は何か声を掛けられる前にそこから逃げ出した。
 そうする事しか、出来なかった。
 

 どれだけ走っただろう。気付くと、私は一晩を明かした公園へと戻ってきていた。
 真っ白な頭で椅子に腰掛け、明け方と同じように箒を抱き締める。
「……」
 涙すら出ない。
 どうしようもないぐらいの期待と興奮の反動は、私の心を呆気無く壊してしまった。
 もう嫌だ。
 右手をスカートの中へと伸ばすと、私はそこにある八卦炉を掴んだ。
「……」
 マスタースパークを撃つ時と同じ要領で、八卦炉へと魔力を籠めていく。このままコイツを暴走させれば、私一人の体なんて簡単に消し飛ばしてくれる筈だ。
「……」
 段々と八卦炉が熱を持ち始める。
 ごめん、霊夢。
 出来る事なら、もっと一緒に居たかった。
 出来る事なら、もっと一緒に笑い合いたかった。
 出来る事なら、
 出来る、事なら。
「……」
 八卦炉を掴んでいた右手が痛みと共に感覚を失い、押し付けていた右足にも同じように熱さと痛みが拡がっていく。
 スカートが内側から燃え始める。
 熱い。
 痛い。
 どうしようもないぐらいに、怖い。
 でも、同じぐらい、私の心は空っぽで。
 燃えていく。


 
 どこか期待していた。死ねば楽になれると。
 でも、此処は外の世界。幻想を忘れた世界。
 幻想郷に花が――外の世界の霊が溢れたのは、六十年に一度の再生の時だった。
 だとすれば、そうでない時、外の世界の幽霊はどこへ向かうのだろうか。
 三途の川。
 小町と映姫が居る所。
 でも、彼女達の管轄は幻想郷のみだ。本来ならば外の世界の幽霊を渡し、裁く事は無いのだろう。
「……」
 そこまで考えて、気付く。

 どうやら私は、無意識に死んだら幻想郷に戻れると思っていたらしい。
 でもそれは誤り。もうどうやったって、あの楽園に戻る事は出来ない。
 それに気付いた時、私は忘れていた声を上げた。




 結果から言えば、私は死ぬ事が出来なかった。
 どうにかして助けられたらしく、しかしその代償に右足に大きな火傷を負い、右手の指と髪の毛の一部、そして箒と八卦炉を失った。
 太もも周辺の火傷も酷かったけれど、直接八卦炉を掴んでいた指の火傷はどうしようもなく、切り落とすしかなかったらしい。事務的にそれを説明する医者に、私はどう答えたのか覚えていない。ただ、ぼんやりと右手を眺めていた記憶だけがあった。
 その後私は、ある施設に移された。身元不明で金も無い私でも見捨てられる事は無いらしく、病院と呼ばれるその施設でリハビリなどを行う事になった。
 右手と右足が自由に動かないというのはとても不便で、自由に食事をする事も出来なければ、一人で上手く入浴する事すら出来ない。
 襲われても反抗する事すら出来ない。
 逃げたくても逃げ出す事すら出来ない。
 生きているのに死んでいるような生活は、それから暫くの間続いた。
 そんな生活が終わったのは、入院して半年程経った頃だ。経営者や職員が逮捕されたとかで、私は他の患者と一緒に別の病院に移される事になった。
 安堵はあった。でも、だからといって一度受けた恐怖が消える訳も無い。しかし逃げたくても逃げられなくて、私は新しい病院でのリハビリに専念した。
 右手は仕方ないにしろ、右足を昔と同程度に動かせるようになるまでどのくらいの時間が掛かっただろう。何度悪夢を見て、暗い部屋の中を飛び起きただろう。辛くて苦しくてどうしようもなくて、それでも私は努力した。
 でも、時には努力すら間違いである場合もあるらしい。
 杖を使えばある程度自由に歩けるようになった頃、私は病院を追い出された。「もう貴方は一人で生活出来ますね」という医者の一言が決めたその理不尽に、一患者である私が逆らう術は無かった。 
 そこから先は、色々な事があった。
 歩けるようになったとはいえ、飛んだり跳ねたり走ったりという事が出来なくなっていた私は、どうにかして生きていく術を探した。
 そんな時、人通りの多い場所で行われている占いを目にし、それの真似事をして金を稼ぐ事を思いついた。しかし、攻撃的な用途に魔法が使う事が多かった私にとって、それはあまり得意な分野では無かった。でも、生きていく為にはそんな言い訳などしていられない。客に違和感を持たれないよう、言葉遣いを女性的なそれに変え、失敗を繰り返しながらも努力を繰り返し……少しずつではあるけれど、客を取る事が出来た。
 稼げた金は少しだったけれど、その金で新しい洋服を買い、身なりを整える事が出来た。そうすると不思議なもので、身なりが貧相だった頃に比べて、客が興味を惹いてくれる回数が多くなった。
 そして占いを続けながら、私のような住所不定の人間でも働かせてくれる場所を探して、アルバイトというものを始めた。これも初めは慣れない事ばかりだったけれど、唯一の楽しみである食事を少しでも豪華にする為に、私は一生懸命汗を流した。
 そうすると不思議なもので、少しずつ意識が変化していくのが解った。少し前までは常に苦痛が付きまとっていたのに、その頃には、アルバイトの事を考える事が多くなってきていたのだ。
 いつしかアルバイト先で友達も出来て、少しずつではあるけれど笑えるようにもなった。そして一度笑えると後は栓が外れたように、忘れていた感情を表情に出す事が出来るようになっていく。
 部屋を借りて一人暮らしを始め、食事にも洋服にもある程度自由に金を掛けられるようになった。
 友達も多くなり、笑える事が多くなった。 
 車を運転出来る奴に連れられて、色んな場所を見て廻った。海にも行ったし、山にも行った。
 突然アルバイト先が潰れて、友達と一晩中話し合った事もあった。
 ある時駄目元で就職活動をして、奇跡的にも就職する事が出来た。
 新しい場所での新しい日々がスタートして、毎日が更に忙しくなった。
 そうやって生きていく内に、幻想郷で暮らしていた日々が、まるで夢の中の出来事だったように感じられるようになっていた。
 そう、まるで落とし穴から這い上がったみたいだ。思い切って外に飛び出してみたら、新しい世界が待っていた!
 辛い事もあるけれど、毎日が慌ただしくて、何よりも楽しい。私はもう、完全に外の世界の住人として生きていた。
 だからもう、辛くない。



 ……辛くない?
「……」
 嘘だ。私はそんなに強くない。
 解っていたんだ。それが強がりだという事は。でも、私はそうやって自分を偽り続け、笑い続ける事しか出来なかった。そうしなければ、心が潰れてしまいそうだったから。
 箒も、八卦炉も無い。幽かにあった魔力も、今ではもう無くなってしまったようなものだ。
 一度失敗した恐怖もあって、死ぬのは怖い。だからこの世界で生きていくしかない。もうそれ以外に、私には選ぶべき選択肢が無い。
 だってそう、こうしている間にさえ、時間は容赦なく過ぎ去って行く。幻想郷が遠くなっていく。

 気付けば、十五年近い歳月が経っていた。



   
 都心から少し離れた場所に、似たような家々が密集して建ち並ぶ住宅地がある。その丁度真ん中辺りに、私の住んでいる家があった。
 近所付き合いも良く、住み心地は良い。唯一問題があるとすれば、ゴミの区分けが面倒な所だろうか。
 まるで昔から利き手がそちらであったかのように左手を動かしながら昼食の準備をしていると、不意に背後から服を引っ張られた。
「おかーさん」
「ん? どうしたの?」
 声に手を止め振り向くと、そこには十歳になる私の娘が立っていた。彼女は少し不安げに私を見上げながら、
「おかーさんにお客さんが来てるよ」
「お客さん?」
 一体誰だろう。今日誰かが尋ねてくる予定は無かったし、新聞の勧誘は昨日断ったばかりだ。だったら宅配便か何かだろうか。でも、客だしなぁ……。
 そんな風に考えつつ、汚れた手を軽く洗ってエプロンを脱ぐと、私はコンロの火を小さくしてから玄関へ向かった。
「はーい?」
 閉じた扉の向こうに問い掛けながら鍵を開け、開くと、
「――」
 息が、止まった。
「……久しぶりね」
 そこに立っていたのは、腋を出した特徴的な巫女服を着た――あの日から何も変わっていない、博麗・霊夢の姿だった。
 それに驚きながらも、私はすぐに笑顔を作り、
「ええ、久々ね」
「突然だけど、御邪魔しても良いかしら?」
「うん、そうして。今からお昼を食べる所だから、ご馳走するわ」
 言って、笑みで霊夢を招き入れる。すると、私の後を付いて来ていたのだろう娘が私と霊夢を交互に見、
「おかーさん、その人は?」
「お母さんの友達。貴女はお茶を用意してくれる?」
「解ったー」
 答え、娘が台所の方へと消えていく。それを見届けていると、霊夢が私の隣に立ちつつ、
「良い子じゃない」
「ええ、自慢の娘よ」
 笑顔で答え、霊夢をリビングへと招き入れる。その中心にあるテーブルへと向かいながら、私は出しっぱなしになっている玩具を片付けつつ、
「散らかってるけど、まぁ、座って」
「ええ。……ねぇ魔理沙。旦那さんは?」
「今は仕事中なの」
「そうなの」
「これが忙しい人でね……」
 手際良く部屋を片付け、霊夢の隣に腰掛けると、私は彼との馴れ初めを軽く霊夢に説明した。小さく頷きながら聞いてくれる彼女は本当に変わっていなくて……だからこそ、私は抑えていた感情が口に出るのを止められなかった。
「……で、どうしたんだよ。今更」
「今更?」
「もう十五年だぜ? まぁ、私が悪かったんだが……」
 口調が過去のそれに戻ってしまうのに気付きながらも、言葉は止まらない。止められない。
「でも、こっちに来られるなら、もっと早く来てくれよ。私がどれだけ悩んで、苦しんで、迷って……どれだけ辛かったか、お前に解るか?! お前に――」
「――ごめん、魔理沙」
 言葉と共に、優しく抱き締められた。
 細い腕。飾り気の無い石鹸の匂い。お日様の香り。草の匂い。
 忘れていた――忘れようとしていた記憶が、涙と共に溢れ出す。そうしたらもう、感情に歯止めが利かなくて、私は霊夢の細い体を抱き返しながら嗚咽を上げた。
「霊夢、霊夢ぅ……!」
「本当に、ごめんなさい……」
「うぅ……」
 謝る霊夢に、上手く言葉を返せない。
 でも、彼女が私の事を忘れていなくて、例えこれだけの時間が経ってしまったとしても、ここまで逢いに来てくれた事が何よりも嬉しかった。
 だから次に霊夢が告げた言葉を、私は予想する事すら――いや、本当は心のどこかで期待し、しかしそれを認めてはいなかった。
「――帰りましょう」
「……え?」
「私と一緒に、幻想郷へ」
「げんそう、きょう……」
 それはもう長い間、口に出す事すらしていなかった場所。この世界の人間が忘れてしまった、人間と妖怪の暮らす小さな楽園。
 ……でも、
「……ごめん、それは無理だ。私にはここでの生活がある。……私はもう、霧雨の苗字を捨てたんだ」
 私はこの世界で幸せを見つけてしまった。愛する夫と娘との三人で、新しい生活を始めてしまう程の幸せを。だから私は、もう楽園には戻れない。
 私の言葉は予想外だったのだろう。一瞬動きを止めた霊夢は、しかしすぐに私の体を強く抱きしめ、少し悲しげに聞いてきた。
「本当に、それで良いの?」
「……ああ」
「幻想郷に、帰りたくないのね?」
「……」
 帰りたくないといえば嘘になる。でも、もう時間が経ち過ぎてしまった。十五年という歳月は、人を変えるには十分過ぎるのだ。……だから私は、無言で霊夢の体を抱き返した。
「……。解ったわ」
 小さく言って、霊夢が私の体を離した。
 そして、すっと音も無く立ち上がると、彼女は私に背を向けて、
「……さよなら、魔理沙」
 言って、玄関へと向けて歩き出す。
 その姿を、どうしてか追いかけられない。
「……」
 ゆっくりと、その背中が遠ざかっていく。
 もう、手を伸ばしても届かない。
「……」
 霊夢が行ってしまう。
 霊夢が消えてしまう。
 もう二度と、逢えなくなってしまう!
「ま、待ってくれ!」
 私の声に、玄関へと続く角を曲がろうとしていた霊夢がぴたりと体を止めた。
 その背中へと、言葉を続ける。
「……解らないんだ。どうしていいのか、もう、私には解らないんだよ……」
 私の居場所とか、幸せとか、幻想郷には沢山あった筈のそれは、こちら側に来た事で全て消えてしまっていた。だからこの世界でそれを見つけて行くしかなかった。それが本当に私の求めていた幸せなのかは解らないけれど、それでも無いよりマシだった。
 今のこの生活だって、本当はそんなに幸せじゃない。娘は学校で虐められているし、夫には外に女が居る。それでも昔よりマシだから、幸せに違いないって思い込まないといけない。
 だってこの生活を失ったら、また私の居場所が無くなってしまう。もう一人は嫌だ。苦しいのは嫌だ。辛いのは嫌だ。痛いのは嫌だ!
 屋根のある家の中で、太陽の光で柔らかく膨らんだ布団の中で眠りたい。暖かいご飯をおなか一杯食べたい。娘と一緒に笑っていたい。私が望むのはそれだけ。それだけなんだ。
 でも――こちらに振り向いた霊夢は、普段の厳しさで言うのだ。
「どうするのかは、あんたが決めるの」
「ッ」
 今更幻想郷に戻って、どうしたら良いのだろう。
 仲の良かった面々は、どうせ私の事を忘れてしまっているだろう。魔法の森にあった自宅は、もうボロボロになってしまっているに違いない。
「……」
 紅魔館では相変わらずレミリアが威張っていて、白玉楼では相変わらず妖夢が幽々子に振り回されていて、永遠亭では相変わらず輝夜と妹紅が殺し合っているのだろう。三途では小町がサボっていて、ブン屋は今も幻想郷を飛び回っているに違いない。
 どうせ香霖は、今日も誰も来ない香霖堂で本を読んでいるのだろう。
 漸く私が帰ってきたって、相変わらずの調子で、でも少し嬉しそうに、「やぁ魔理沙。久しぶりじゃないか」とか言ってくれるに違いない。
 だってそうだろう? 幻想郷という場所は、そういう所なんだ。
 そして幻想郷には、霊夢が居る。霊夢が、居てくれている。
 畜生、涙が止まらない。
 選ぶのは私だ。決めるのは私だ。今までそうやって生きてきたんだ。
 だから、私は、
「私は、幻想郷に――」
 ――と、そんな時だ。キッチンの方から声が来た。
「おかーさん」
「ッ?!」
「おかーさん、どこか行っちゃうの?」
「そ、それは……」
 振り向き、娘を見ると、彼女はとても悲しそうな表情で私を見上げていて、
「やだ! そんなのやだよ!」
 私へと抱きつきながら叫んだ。そしてそのまま顔を上げ、霊夢を睨むと、
「おかーさんはずっとここに居るの! 私と一緒なの!」
 小さい体で、私を放すまいと一生懸命に声を上げる。
 その姿はあまりにも健気で、決めようとしていた決意が一瞬でひっくり返る。だから私は、少しだけ考える時間を貰おうと霊夢へと視線を戻し……そこにある表情を理解する前に、彼女が口を開いた。
「五月蝿い。魔理沙からなら兎も角……アンタにそれを言われる筋合いは無い!」
「れ、霊夢?」
 普段はあまり見せぬ強い口調で言い放つ霊夢に驚きながらも、私は娘を庇うように抱き締めた。するとそれが彼女の癪に障ったのか、一度強く私を睨み、しかしすぐに視線を逸らすと、
「……魔理沙。私はね、あんたが嫌いじゃないの。能天気に笑っているのも、馬鹿みたいにポジティブなのも、全部含めてね」
 娘が私の服を引っ張る。でも、言葉を続ける霊夢から視線を外せない。
「前に誰かから言われた事があった。私の周りには沢山の妖怪や人間が集まるにも関わらず、当の本人である私は誰とも触れ合っていない……本当は、どこに居ても一人きりなんじゃないか? って。
 まぁ、確かにそうかもしれない。私はそういう生き方しか出来ない人間だから。――でもね、」
 そして彼女は私を真っ直ぐに見て、
「私はあんたを、霧雨・魔理沙を友達だと思ってるの。……だから決めたわ。無理矢理にでも、あんたを幻想郷へ連れて帰る!」
「駄目! おかーさんを連れて行かないで!」
「五月蝿い!」
 私の腕から飛び出しながら叫んだ娘へと、霊夢が札を飛ばした。
 明らかに娘を狙ったそれを、私を庇うように立った彼女を抱きかかえて逃げ出す事で回避しながら、私は霊夢へと向けて叫んだ。
「な、何をするんだよ!!」
「……」
 霊夢は答えない。その眼には激しい怒りがあって、私では無く娘だけを見ている。
 不味い。
「ッ!」
 指先に魔力を籠めて十数年ぶりに魔方陣を展開させると、私は霊夢へと星を生み出し放った。しかし、その数は恐ろしく少ない。
 それに悲しくなりながらも、私は娘を抱きかかえてキッチンへ。震える彼女を冷蔵庫の影へと隠すと、再び霊夢へと相対した。
 焦りの為に荒れた息を整えながら、愛する娘を狙われた、という怒りに任せて叫ぶ。
「一体なんなんだ! うちの娘が何をしたって言うんだよ!」
 すると霊夢は、一瞬目を見開き、しかしすぐに表情を改めると、
「――気付いてないのか。アレはね、存在自体が害なのよ」
「が、害?!」
「……勝負に勝ったら、教えてあげるわ」
 呟き、狭い室内にも関わらず霊夢がふわりと舞い上がる。何をするのかなんて、説明されなくても体に沁み込んでいる。
 少ない魔力で魔方陣をどうにか展開すると、私は陰陽玉を放った霊夢へと向けて弾幕を撃ち出した。


 勝負は続く。
 無意識にテンションが上がる。体の上下左右を縦横無尽に突っ切っていく霊夢の弾幕に、忘れていた興奮が蘇る。襲い来る弾幕の全てをギリギリの所で回避しながら、私の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
 どうしてだろう。たった数分間弾幕ごっこを続けているだけなのに、まるで今までの十五年が夢だったように感じられてくる。感じていた絶望も苦痛も幸福も愛も、全て全て作り物だったように思えてくる。
 だってそう。
 気付けば私は黒いドレスに白いエプロン、帽子を被った普段の姿で霊夢と相対していたのだから。
「……」
 見れば、右手に指がある。風に舞って踊るスカートの中には固い物――八卦炉や魔法発動用の小瓶などが入っている。
 何故?
 まぁ、それを考えるのは後で良い。
 高く指を鳴らして相棒である箒を呼びつけると、弾幕を回避しながらそれに飛び乗り、私は一気に上空へと加速した。天井なんて、もうとっくの昔に消え去っていた。
「――さぁ、行くぜ」
 親愛なる友人を穂先に捕らえ、胸一杯に息を吸い込んだ。
 告げる。
「ブレイジングスタァ!」
 涙が出そうな程に懐かしい急加速。箒を強く握り締め、少し驚いた顔をしている霊夢へと突っ込んで行く。
 でも、当たらない。
 久々のスペルという事もあって簡単に回避されてしまうのは目に見えていたし、ふわふわと飛び続ける霊夢に直線的なスペルを当て難いのは百も承知だ。それは彼女と何度も戦って来たから良く解っている。けど、私は大満足だ。
 嗚呼、気持ち良い。
 加速を抑えながら大きく転回し、巨大な陰陽玉を左右に携える霊夢へと笑みを向け、
「まだまだ行くぜ?」
「望むところよ」
 霊夢が笑みで良い、互いに笑い合う。
 そして再び弾幕を放ち、縦横無尽に飛び廻る。複数の弾幕を使い分けながら、沢山のスペルを放ちながら、その姿を見失わないように、しっかりと彼女を――霊夢だけを見つめ続けながら。
 そんな時、ふと、霊夢が呟いた。
「魔理沙」
「ん?」
「そろそろ時間が無いみたい。だからこれだけは言っておくわ」
 真剣な、それでいて少しだけ苦しそうな表情で、
「……帰るわよ。幻想郷に」
 そして一気に高々度まで飛び上がると、霊夢は私の言葉を待たずにスペルを展開した。それはあの永夜以降、見る事が無かった博麗の極意。
「夢想天生」
 直後、霊夢の周囲に八つの陰陽玉が生まれ、飛び回る私を封じ込めるかのように札が放たれていく。
「ッ!」
 不可思議な軌道を描きながら迫るそれをギリギリの所で回避しながら、私はスカートの中から八卦炉を取り出した。
 負けたくない。
 いや、違う。まだまだ、この勝負を終わらせたくない。終わりたくない!
 だったら回避に徹するだけでは意味が無い。こちらからも撃ち返し、霊夢のスペルを終わらせなければ。
 霊夢が何者にも囚われない無重力の存在なら、私はそれにしがみ付いて、無理矢理でも地に足を付かせてみせる。その為に私は、今まで努力を続けてきたのだから!
「届け!」
 想いの籠った、この一撃ッ!
「マスタァ、スパァァァクッ!!」



 声は力呼び、力は光を増幅させる。
 世界をぶち壊す勢いで放った魔砲は、私の世界を白一色に包み込む。
 そんな中で、声が聞こえた。
「魔理沙!」「おかーさん!」
 白く染まる世界で、確かに声が聞こえた。
 だから、私は――






「――霊夢! ……う?」
 あれ?
 声と共に飛び起きた私は、何故か自室の――霧雨邸のベッドの上に居た。
 上手く状況が掴めず、混乱の浮かぶ頭を持ちながら目を白黒させていると、すぐ隣から声が返って来た。
「私はここよ」
 声に視線を向けると、そこには珍しく疲れた表情の霊夢が椅子に腰掛けていて、私へと優しく微笑んだ。
「え、あ……?」
 間抜けな声が出る。これは一体どういう事だ?
「私は霊夢と戦ってて……いや待て。そもそも私は外の世界で……!」
 慌てながら右手を見ると、子供っぽい手に指が五本生えていた。そのまま妙に力の入らない体を起こし、焦る心を抑える事が出来ないままに布団を剥ぎ取ると、寝巻き変わりに穿いているズボンの中に手を突っ込んだ。そのまま恐る恐る足に触ってみると、醜く腫れていた火傷の跡が無い。ズボンを少し下げて覗き込んでみれば、シミ一つ無い太ももが顔を覗かせていた。
 それに心の底から安堵しつつも、まだ頭には不安がある。だから私はベッドの近くにある棚から手鏡を手に取り、恐る恐る覗き込み……そこにあった若いままの顔に、安堵の息が漏れた。
「でも、一体どういう事なんだ?」
 手鏡を置きつつ呟く。もう何がなんだか解らない。
 そんな私へと霊夢は苦笑し、そして棚の上に置かれた小瓶を手に取ると、
「これに見覚えが無い?」
 言って、私にその小瓶を手渡してきた。それは普段私が実験に使うサンプルを保管する為に使っている小瓶で、今は何も入っていない。しかし頭の隅に、これに何かを入れた記憶があった。
「あー……確か、」
 そう、確か、アリスの家にあった薬を興味本位で貰って来たんだった。絶対駄目だと注意を受けたけれど、こっそり幾つかくすねて小瓶に入れ、家に持ち帰った記憶がある。だが、それが一体――と、そう思考を動かしていた所で、部屋の中に意外な人物が入ってきた。
「ああ、漸く目が覚めたのね」
「……えーりん?」
 月の頭脳であり町のお医者さんでもある彼女がどうして私の家に居るのだろう。
 それを問い掛ける前に、天才はすぐに答えをくれた。
「色々と混乱しているでしょうけれど、最初に結論を言っておくわ。貴女が今まで見ていたのは、全て夢よ」
「……夢?」
「そう。レム睡眠時に脳が見せるアレね。そしてその原因は、その小瓶に入っていた薬」
 言いながらベッドの傍までやって来ると、永琳は私の手の中にある小瓶へと視線を向け、
「貴女が飲んだこの薬は妖怪用に――小瓶に僅かに残っていた成分から見て、私がアリス用に調整したものだったから、人間である貴女には強い副作用が出てしまった。その結果、貴女は夢の世界に閉じ込められそうになってしまったの」
 ああ、だからあの時、アリスは絶対に駄目だと強く注意してきたのか。てっきり冗談かと思っていたけれど、まさか本当に危険な薬だったなんて。
 って事は、
「じゃあ何か? あの外の世界も、私の娘も……あの十五年間の月日が、全部夢だったって事か?」
 疑念と共に問い掛ける私に永琳は頷き、
「ええ、そうよ。貴女は一週間以上眠り続けていて、その間に十五年という月日が経ったと錯覚したの」
 普段見ている夢がそうであるように、状況が転々と変化しても、そこに違和感を持つ事は少ない。そういった現象が積み重なり、結果的にそれが十五年という時間の経過を錯覚させたのだという。
「じゃあ、どうして霊夢が私の夢に?」
「それは……」
 答えようとする霊夢の声に続くようにして、そのすぐ背後の空間に亀裂が走った。
 亀裂は口を開くように無音で広がり、そこからにゅるりと顔を覗かせた女性は、私の顔を見ると少し驚き、そして微笑んで、
「良かった。目が覚めたのね」
「紫……」
 呟く声がどうしても小さくなる。しかし、今度は本物らしい。夢の中で見た少女の顔をちらりと思い出しながらそんな事を思い、同時に合点が行った。
 と、それが顔に出てしまったのか、霊夢が小さく頷き、
「私があんたに逢いに行けたのは、紫の力で夢と現実の境界に隙間を開いて、そこへ私の意識を送り込んだから。あんたを起こせるかどうかは賭けだったけど、結果はこの通りね」
「賭け?」
「そう。あんたの夢の中で、私は一度帰ろうとしたでしょう?」
 あの夢の世界は薬の効果によって生み出されたものだった。そしてその主人公は私の為、私が『幻想郷に帰りたくない』と考えてしまうと、外から入り込んできた霊夢ですらその影響を受けてしまう。だから彼女は一度私に背を向けて、しかし私が迷った事で再び夢の世界に留まる事が出来た。
 そして今度は、弾幕を放つ事で強制的に私の意識を弾幕ごっこへと向けさせた。私にとって霊夢との弾幕ごっこは日常の象徴でもあるから、それを切っ掛けに目覚めを促そうと計画していたらしい。
 でも、私が『まだまだ弾幕ごっこを続けたい』と願ってしまったから、夢の一部である娘の声が聞こえてしまった。それでも結果的に霊夢を選んだ事で、私は夢の世界から覚める事が出来た。
「途中で時間が無いって言ったのは、夢の世界に干渉出来る時間が限られていたから。あれ以上長く留まり続けていると、今度は私が戻って来れなくなっていたのよ」
「……結構危ない所だったんだな」
 変わらない姿のままで現れた霊夢に疑問を抱かなかったのは、それが夢の中だったからだ。そして夢の中であるという事を霊夢が直接指摘しなかったのは、それを告げても信じない事が解っていたからだろう。夢の中を現実だと思い込んでいた私に『ここは夢だ』と告げた所で信じられる訳が無いし、もし信じたとしても、目を覚ます方法が無い。今回は消えていく霊夢を追いかけるような形で目を指す事が出来たから良かったものの……もし家にやって来た霊夢を引き止めず、弾幕ごっこを行う事が無かったら、恐らく私はあのまま夢の世界に居続ける事になったのだろう。そこには幸せがあると、どうしてか信じてしまっていたのだから。 
 となると、だ。そもそもの発端である結界の穴はどうなったのだろう。もしかするとあれも夢だったのだろうか? それを霊夢と紫に問い掛けると、彼女達はあっさり頷き、
「夢に決まっているでしょう。結界に穴が開くようになるまで放置するなんて有り得ないわ」
「霊夢の言う通りよ。そりゃあ神隠しを行っているのは私だけれど、幻想郷の住民が外に迷い出てしまう前に結界の揺らぎは元に戻すもの」
 そう答える二人の言葉を聞いて、今度こそ全身から力が抜けた。どうやら全てが私の夢だったらしい。
 でも良かった。外の世界が本当にあんな風なのかは解らないけれど、結界の外へ放り出されたら最後、相当辛い目に合うだろうという事を実体験……とは違うが、嫌という程感じる事が出来たのだから。
 と、安堵する私を他所に霊夢が静かに立ち上がった。そして小さく「じゃあ、私は帰るわね」と告げると、振り返る事無く部屋を出て行ってしまった。
 あっさりとしたその動きに何か言おうとするも、間に合わない。助けてもらえたのに、まだ感謝の言葉すら言えていないのだ。思わず私はその背中を呼び止めようとして……嬉しげな紫の声に邪魔された。
「でも、本当に良かったわ。みんな心配してたんだから」
「……本当かよ?」
「ええ、本当よ。特に霊夢が一番、ね」
 突如音信不通になった私に対し、一番最初に疑問を持ったのは霊夢だったらしい。彼女の勘は私の為にも働いてくれたらしく、わざわざ様子を見にこの霧雨邸にまでやって来た。しかし何をやっても起きない私を不審に思い、彼女はすぐさま永遠亭へ飛んだ。
「あの霊夢が妙に急いでやってくるんだもの。あれには驚いたわ」
 それでも話を聞いた永琳はすぐに状況を理解し、複数の仮説を立て、紫へと手助けを求めた。
 そして呼び出された紫が隙間を開き、私の夢に干渉したのだという。
「でも、良くそんな事が出来たな」
 改めて聞かされ、驚きと共に問い掛けると、紫は笑みと共に、
「私だけの力じゃないわ。霊夢が頑張ったから、貴女を助ける事が出来たのよ」
 その言葉に、ますます何かお礼を言わなくては、という気持ちが大きくなっていく。だから私は力の入らない体でベッドから降りると、フラフラする体を何とか動かしながら神社へと向かおうとし――今度は永琳に止められた。
「こら、まだ無茶をしてはいけないわ。眠り続けていたお蔭で、体力がかなり落ちているんだから」
「でも、」
「気持ちは解るけど、今は安静にしていなさい。食事だって点滴で取っていたのよ?」
 言いながら永琳が腰を下ろし、私の左手を手に取った。それに従うように視線を落とすと、手首に包帯が巻かれているのに気が付いた。夢の中で怪我をしていたのは右半身だったから、左腕にある違和感には気が廻らなかったらしい。
 動いた事でずれてしまっていたガーゼを直しながら、永琳が言葉を続ける。
「話すのは辛くない?」
「それは大丈夫。……あー、でも、水を一杯くれないか?」
 口から水分を取っていなかった為か、口の中が気持ち悪くて――それを告げた瞬間、自分の口臭が気になって、途端に恥ずかしさが爆発した。うわぁ、霊夢に口の臭い女だと思われなかっただろうか?
 そんな事を悩みながらいると、永琳が私の手を放して立ち上がった。恐らく台所に向かうのだろう彼女の姿を赤い顔で見つめていると、視界の左の方から一本のペットボトルが生えてきた。 
「はい、お水」
 立ち上がった永琳を止めながら、紫が何処からか取り出したそれを手に取る。良く冷えているそれは本来なら知識の中にしかなかった存在で……でも、夢の中では当たり前のように飲んでいた、という記憶があって、一瞬飲むのを躊躇った。
 それでも喉の渇きとべたつきは気になる乙女心。思い切ってキャップを回して蓋を開け、「一気に飲まないで」という永琳の言葉に頷きつつ、小さな飲み口に口を付けた。
 冷たい。
 少しだけ飲んだ水分が食道を通り、胃へと流れていくのを強く感じる。そのままもう二口程飲んだ後、キャップを締めてボトルを棚の上に置いた。
 ……暫くして、吐いた。
 長い時間使っていなかった事で胃の機能が弱り、突然入ってきた水分に対応出来なかったらしい。近くにゴミ箱が転がっていたのが何よりの幸いだった。
 永琳に付き添って貰いながら洗面所に向かい顔や口を洗うと、ゴミ箱の中身を捨て、溜め息と共に部屋に戻った。
 とても、疲れる。
 やはり夢は夢なんだと痛感する。辛い記憶は沢山残っているけれど、現実の辛さに比べたら全然だ。
 そんな事を思いながらベッドに腰掛けると、永琳の声が来た。
「もう一度聞くけど、話すのは辛く無い?」
「ああ、何とかな」
「じゃあ、一つ質問をするわね。貴女が見た夢がどんなものだったのか、ざっと話してみて」
「えっと……」
 夢の中の認識とはいえ、私の中には十五年分の記憶がある。その全てを覚えている訳ではないけれど、印象強く記憶しているものは多かった。それらを話していくと、永琳は納得したように頷き、
「どうやら、ある程度は薬本来の作用も出ていたみたいね」
 外の世界に向かったのは、私の中にそういった欲求が少なからず存在していたからなのだという。でも、そこに悪夢という薬の副作用が発生し、夢の世界から戻る事が出来無くなった。辛いと感じた事柄も、私が無意識に「これは嫌だ」と感じていた事が具現化したものだったのだそうだ。
 だから、私が知らなかったりする事は夢の中では起こっていなかった。例えば幻想郷を出てすぐに立ち寄ったデパートも内部の記憶があやふやだし、アルバイトをしていた時だって、どこでどんなアルバイトをしていたのかは良く覚えていない。ただ、私はアルバイトをしていた、という認識だけが残っていた。
 そして霊夢と弾幕ごっこをした時に怪我が完治していたのは、それこそ夢だったからこそ、だったらしい。弾幕ごっこという状況に相応しい格好や舞台を夢の主人公である私が強く望んだから、夢そのものにも変化がおきたというわけだ。
「悪夢を見せる程の副作用がある薬にそこまでの自由度があったのは、その薬が本来、飲んだ本人の抑圧された思いを発散させるものだったから。解りやすく言うと、良い夢を見る為の薬だったからよ」
 だから私の夢も悪い事ばかりが起きた訳ではなく――例えば自殺を計った私が助かったように、一応は救いとなるものが存在していた。
 しかし、そこは妖怪用の薬。その強い作用は人間には毒となり、悪夢と呼べるような出来事の比率が増えてしまう。そして、いつしか夢は悪夢だけになり、夢を見る者を死へと追い詰める。
「でも、貴女はまだ幸運な方だったといえるわ。アリスに渡している薬は、元々人間だったという彼女に合わせて効果を人間用のそれに近づけた物だったから。もし妖怪用の薬で悪夢だけを見続けたら、三日も持たずに発狂して死んでいたでしょうね」
 薬というのはその成分によって毒にもなる。それを痛感して、私は自分の愚かさを改めて呪った。
 と、それが表情に出ていたのか、永琳が私の顔を覗き込みながら、
「大丈夫? 話を聞くだけでも結構疲れるから、この続きは後にでも……」
「いや、大丈夫。まだ話があるなら、続けてくれ」
 答えた私の顔をじっと見て、そして永琳は小さく頷き、
「じゃあ、続けるわね。……今言ったように、貴女が飲んだ薬はアリス用に調整したものだった。だから、貴女は一週間近く耐える事が出来たの」
 しかし、眠っている最中の私には特に変わった様子はなく、だからこそ夢の中に入り込むタイミングが掴めなかったのだという。しかしそれを見定める事が出来たのは、霊夢の勘に寄る所が大きかった。
 もしタイミング悪く私が悪夢を見ている時にやって来ていたら、霊夢もそれに巻き込まれていたのだ。そうなったら最後、霊夢の意識も夢の中に閉じ込められてしまっていたのだという。
「本当、危ないところだったんだな」
 結構どころじゃなかった。そう思っての呟きに、話を聞いているだけだった紫が頷き、
「少しは泥棒にも懲りた?」
「ああ。今度からは、危険が無いか確かめてから盗む事にするよ」
 困ったように微笑む紫へ苦笑と共に答えていると、永琳が持参したのだろう鞄を自身の膝上に載せた。
 そしてごそごそと中を探り、液体の入った小さな小瓶を取り出すと、
「最後になったけど、これが貴女専用に作った解毒剤よ。見た目はアレだけど、効き目は確実だから」
「……これを飲むのか?」
「飲むの」
 手渡されたそれは綺麗過ぎる青色で、逆に気味が悪い。まじまじとそれを眺めていると、永琳は鞄を閉じながら、
「寝る前に必ず飲みなさい。目を覚ませたとはいえ、副作用が完全に収まるとは限らないから」
「でも、また吐いたりしたら……」
「大丈夫。その頃には胃の調子も戻っているでしょうから、ゆっくり飲めば戻す事は無いわ。でも、もし目覚めている時でも、何か不調を感じたらすぐに薬を飲む事。妖怪用の薬を飲んでしまったのだし、何が起こるのかは私にも予測出来ないから。解ったわね?」
「解った」
 もうあんな夢を見るのは沢山だ。だから私は素直に頷き、小瓶を棚の上に置くと、そのまま背後にあるベッドへと倒れこんだ。薬を飲まなくてはいけない以上、博麗神社に向かうのは休んでからにしよう……そう思っての事だったのだが、どうしたものか、もう起き上がる力すら入らない。
 そんな私の頭を軽く撫でながら、紫が口を開いた。
「私の力でどうにか出来たら、もっと早く夢から救い出せたのだけれどね……」
「……どういう事だ?」
 思わず問い返した私に、紫は普段見せぬ淋しげな表情で、
「薬を飲んだ後の状態から、飲む前の状態へと戻すのは簡単なのよ。でも、この薬が夢を見せる役目を持っていたのが問題だったの」
 夢を見るか否かというのは人によって違う上に、ノンレム睡眠中でも人は夢を見る可能性があり、夢というものの境界はとてもあやふやなのだという。そこへ夢を見せる薬の効果が付属した為、更にあやふやになってしまった。しかも夢というのは常に変化し続ける物の為、その瞬間の境界を変化させても、すぐに別の変化によって打ち消されてしまうのだ。
 そんな状況にある私を無理矢理元の状態に戻すと、意識が夢に取り残され、廃人のようになってしまう可能性があった。だからといって薬の副作用を取り除いても、それが夢を見せる薬である事までは変化しない。そしてその薬は妖怪用だった為、例え副作用が無くても人間には毒になる可能性がある。
 それならばと薬の効果を変化させようと思っても、体内に吸収されてしまった薬と私の間には境界が存在しない。同じように人間用に変化させる事も不可能。
 結果、夢の世界に居続けていた私を紫の力で救い出すには危険が多いと判断され、霊夢が私の夢に干渉する事になったのだという。
「本当は私も手伝いたかったのだけれど、変化の激しい夢の世界と現実の世界とのスキマを開き続けるのが大変で、一緒に行く事は出来なかったの」
 現実世界とは違い、夢は突然山から海に移動したりする事がある。夢の主人公である私はそれに違和感を感じる事は無いけれど、他所から干渉してきた身となると堪ったものではない。意識して隙間を開きなおさないと、変化前の世界に取り残されてしまう場合があるのだ。そうなると、夢の世界に干渉している霊夢が夢の世界に取り残されてしまう事になる為、注意をし続けていたのだという。
「出来れば霊夢以外にも誰かを一緒に向かわせたかったけれど、霊夢だけで手一杯……。まさか、他人の夢に干渉するのがこれほど難しいとは思わなかったわ」
「そうだったのか……。でも、ありがとうな。お前が居てくれなかったら、霊夢が私の夢の中に入ってくる事すら出来なかったんだ。だからさ、そんな顔をしないでくれよ」
 紫が持つ力のお蔭で、今の私があるのだ。だからいつものように笑っていてもらわなくては困る。
 そう告げた私に少しだけ驚いた顔をして、すぐに紫はいつものように笑って見せた。
 その後、暫く二人と話をした。他愛の無い話は全て幻想郷に関する事で、なんだかとても安心する。
 しかし、落ちた体力と言うのは横になっているだけでは戻ってきてくれないらしい。永琳と紫が帰った後になっても、私は思うように行動する事が出来なかった。


 一時間後。
 歩けないなら空を飛べば良いじゃない、という事に気付いた私は、力の入らない体で何とか着替えを済ませた。そして永琳から貰った薬をスカートの中に仕舞って家を出ると、相棒である箒に乗って博麗神社へと向かった。
 しかし、体力が落ちている時は真っ直ぐに飛ぶ事すら難しく、ふらふらと蛇行しながら境内へ突っ込むと、そのまま縁側まで何とか飛び、着地した。
 どうにか靴を脱いで畳の上まで転がっていくと、呆れ顔の霊夢に迎えられた。
 だから私は、逆様に見える彼女へといつものように笑って、
「霊夢」
「ん?」
「ありがとな」
「別に」
 素っ気無く答えて、霊夢がお茶を飲む。
 その何気ない風景が、広がる畳と緑の匂いが、静かな風が、戻って来られたのだという事を強く強く実感させる。
 嗚呼、良かった。
「……しかし、とんだ墓穴を掘っちまったぜ」
「そこから引っ張り上げるのも大変なんだから、これからはあんな馬鹿な事はしないでよね」
「ああ、解ってる」
 私の居場所はこの幻想郷なのだ。外を夢見るような悪夢など、もう二度と見たくない。
 そんな風に思いながら、私は霊夢の近くまで寄って行き……手でちゃぶ台を少しだけ押し退けると、その膝に頭を乗せた。そのまま友達の顔を見上げ――不意に、目に涙が浮かんでしまった。
 それを霊夢に悟られぬよう腕で目元を覆うと、優しい声が落ちてきた。
「お帰り、魔理沙」
「ただいま、霊夢」
 普段言い合う事が無い台詞。だからこそ心に染みて、溢れ出す嗚咽を止める事が出来なかった。


 漸く涙が収まって、それでも霊夢の膝枕に甘え続けていると、少しだけ眠気が襲ってきた。それは同時に悪夢の記憶を脳裏に浮かばせて、慌てて私は目を見開き、襲い来る睡魔とどう闘っていこうかと考え始めた。
 と、それに気付いたのか、霊夢が私の髪を軽く撫で、
「一度目が覚めてるんだし、眠っても大丈夫だと思うわよ? それに、あんたが起きるまで私が傍に居てあげるから」
「でも、」
「不安なのは解るわ。でも、疲れたら眠って休まないと、体力を回復させ始める事だって出来ないのよ? だから、無理はしないの」
 そう言って、霊夢が私の頭を畳の上へと下ろし、
「……もし何かあったら、また助け出してみせるから」
 見上げるままの私にそう告げて、霊夢が寝室の方へと向かっていく。
 彼女を止めるべき言葉はいくらでもあった。でも、私はそれを告げる事が出来なかった。
 何故ならば私は、博麗・霊夢という少女の事を良く知っているからだ。そして彼女が大丈夫だといったら、本当に大丈夫になる事も知っている。
 だから私は霊夢を信じる事にした。
 寝室へと向かうと、普段あまり使われる事が無い客人用の布団が敷かれていた。しかしそれは偶然にも干したばかりなのか、横になると仄かにお日様の匂いがした。湿っぽい魔法の森ではあまり嗅ぐ事が出来ないその香りは、どうしてか優しい気持ちにさせてくれて、自然と心の力が抜けていく。
 仰向けに横たわり、ゆっくりと目を閉じる。
 どうやら思っていた以上に疲れていたらしく、まるで引っ張られていくように眠りの中へ落ちていく。
 願う。
 今度は幸せな夢が見られるように。また、この場所で目が覚められますように。
「……」 
 でも、そんな悩みが杞憂だという事は解ってる。だって私には、霊夢という大切な友達が居るのだから。 
「おやすみ、霊夢」
「おやすみ、魔理沙」
 元気になったら、また変わらない日常が戻ってくる。
 だから今ぐらいは、霊夢の好意に甘えよう。
 暖かな布団の中でそんな事を思い、私は眠りへと落ちた。




 暗い中、目を覚ます。
「――ッ!」
 慌てて視線を巡らせると、ここは眠った時と同じ霊夢の寝室だった。仄かな月明かりが障子紙を青白く染めて、部屋の中をぼんやりと浮かび上がらせる。
 どうやら思っていた以上に眠りこけてしまったらしい。でも、夢は見なかった。
 ふと、隣から静かな息遣いが聞こえた。
 約束通り、傍に居てくれたらしい。でも、この感じだとそのまま眠ってしまったに違いない。
 よし、寝顔を見てやろう。霊夢の寝顔を覗き見る機会なんて無いし、それを眺めているのも悪くない。
 思わず顔に笑みが浮かぶのを感じながら私は視線を動かし、すぐ隣に敷かれた布団の上で眠る黒髪の少女の寝顔を眺める。
 しかし暗い。どうやら縁側寄りに居る私が月明かりを遮ってしまい、彼女の寝顔に影が差してしまっているのだ。
 それをどうにかしようと体を移動させてみる。けれど、まだまだ本調子では無い体は思ったように動かなくて、少しもたついてしまった。そうこうしていると、私が動く気配に気付いたのか、彼女が小さく体を動かした。
 起こしちゃったか……。そう思いながらも、私は目覚めたばかりの霊夢の顔を見てやろうと視線を向け、

「おかーさん」

 見た先に、霊夢の姿は無かった。
 そこには十歳程の少女が居た。少女はまるで壊れた人形のようにおかーさん、おかーさんと繰り返しながら私を見る。私を、呼ぶ。
「嘘、だろ?」
 声が震える。視線が震える。私を呼ぶ声が響く私を呼ぶ声だけが響く。その聞きなれた声が脳を振るわせる。
 嘘だ。これは夢だ。夢なんだ。落ち着け私。落ち着くんだ。
「おかーさん?」
「わ、私はお前の親なんかじゃない!」
 思わず叫び声を上げて、目の前の現実を否定しようと声を上げる。でも、少女の声は止まない。夢は覚めない。
 その時、私はある事を思い出していた。あの夢の世界から目覚める直前、私は霊夢の声と娘である少女の声を聞いた。それは夢の世界での弾幕ごっこを望んだからだったのだが……改めて考えてみれば、少女そのものが悪夢の具現であるとも言えるのだ。
 何故なら、あの時私が娘を選んでいれば、私は夢の世界から覚める事が出来なかった。つまり、私を悪夢に突き落とす切っ掛けが、あの声だったという事になる。
 という事は、この少女の存在さえ消えれば、私の夢から悪夢は消える事になる。本来はそんな簡単な事ではなかったのだろうが、私が一度目覚めた事でその影響力も落ちている。だからこそ、今の私はこれを夢だと認識出来ているのだし……悪夢の方は、私の心を一番惑わせ易いだろう娘の姿を取って来たに違いない。
 このまま悪夢に飲まれる訳には行かない。そう意識を固めると、私は声を上げ続ける少女に馬なりになった。
 細いその首に両手を添えて、思い切り締め上げる。
「お、おかーさん」
「う、五月蝿い!」
「おかー、さん」
 おかーさん、おかーさん、おかーさん、おかーさんおかーさんおかーさんおかーさんおかーさんおかーさん……
「黙れ黙れ黙れ!!」
 指先に力を籠める。消えてしまえ消えてしまえ消えろ消えろ消えろ消えろ!!
 夢だ夢なんだこれは全て夢なんだコイツは私の作り出した夢なんだだから早く死ね早く消えろもうあんな苦痛は嫌なんだやっと戻ってこられたんだ幻想郷に私の世界に霊夢の隣に!!
「ま……、さ……」
「黙れよ!!」
 締め上げる力を更に籠める。
 すると目の前のそれは口から言葉を生み出すのを止めて、抵抗する素振りを見せなくなった。でも、まだ気は抜けない。
 私は首を絞めた状態のままで魔方陣を生み出し、動かなくなったそれへと光を放った。今の私に出来うる限界まで威力を高めて、その体にいくつもいくつも穴を開ける。
 そうするとそれは完全に動かなくなって、だから私は漸く勝利を確信した。
 やった。私は夢に勝ったんだ。
「は、はは」
 力の籠め過ぎで指が上手く動かない。だから仕方なく、私はそのままの格好で笑い声を上げた。
 やったよ霊夢。私はこれで、完全に自由だ。
「あはははは」
 嬉しくてしかない。
 だから殺した死体に目を向けられない。
「はははは、は」
 すぐ正面にある襖が開いて、誰かが入ってきた。それが誰だか確認しなくても解る。
 部屋に入ってきた少女は、それは嬉しげに微笑み、

「おかーさんは、ずっと私と一緒なんだから」

 動かなくなった霊夢に手を掛けた格好のまま、私は笑い声を上げた。










「……という夢を見てな」
「最悪ね」
 霊夢と向かい合いながら、私は昨晩見た悪夢の事を話していた。
 どうやら夢の世界にいた時間が長過ぎたせいか、その臨場感は凄まじいものがあった。だから目覚めた時はもう涙と汗で大変な事になっていたものだ。
「でも、もう細部は思い出せない。普段見る夢と同じになってきてるみたいだ」
「なら良いんだけど……。でも、一応安静にしていなさいね?」
「解ってるよ」
 心配げに言う霊夢に言葉を返し、縁側へと向かう。程よく日が差してくるそこはぽかぽかと暖かく気持ち良い。
 そんな時、スカートの中に小さな違和感がある事に気付いた。一体なんだろうと思いながら、私はそれを何気なく取り出そうとして――突然強い妖気を感じて、その動きを止めた。視線を上げると、楽しそうな笑みで現れた少女が一人。
「や、遊びに来たよ――って、魔理沙。久しぶりだねぇ」
「よう萃香。久しぶり」
 笑みで現れた鬼へと笑顔を返す。すると座していた霊夢が「湯飲みをもう一つ持ってくるわ」という言葉と共に立ち上がり、台所の方へと消えていった。
 その姿を眺めていると、萃香が不思議そうな声で、
「……何見てんの?」
「は? 何言ってんだよ。今の霊夢の声、聞こえなかったのか?」
「いや、霊夢の声って、私には何も聞こえな――」
 言いながら萃香が部屋の中へと視線を向け――突然驚いたように目を見開き、ある一点を凝視した。そして何か言いたそうにして口を開き……しかし何も言わずに俯いた。
「萃香?」
 一体どうしたのだろう。窺うように問い掛けると、彼女は私から逃げるように背を向けると、
「ごめん、紫に呼ばれてたのを思い出したわ!」
 そう言って、止める間も無く消えてしまった。
「なんなんだよ、一体」
 首を捻りながらいると、何も持たずに霊夢が部屋へと戻ってきた。私は自由に動かない体を忌まわしく思いながらも彼女の元へと戻り、事情を説明する。
「変な奴だよな。いきなり来て、いきなり帰っちまうんだから」
「確かにそうね」
 そう答えて、霊夢が苦笑した。
  
 不意に鶯の鳴き声が聞こえてきて、私はそれに釣られるように外へと視線を向けた。
 今日も良い天気だ。きっと素敵な一日になるに違いない。そう思うと自然に笑みが溢れてきて、私は思わず微笑んだ。 
 同じように、すぐ近くに座る霊夢が微笑む。
 
 穴の開いた赤い塊は何も言わない。
 
 血相を変えた紫が部屋の中に飛び込んできたのは、それから少し後の事だった。
 











end
  
宵闇むつき
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作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2007/05/12 01:01:11
更新日時:
2007/06/13 16:58:36
評価:
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Rate:
5.00
1. 3 A・D・R ■2007/05/13 03:48:35
構成、文章ともとてもよくできていたと思います。ただ、お題へのつなげ方が少し強引なように感じたのと、個人的にあまりこういったお話は好きになれなかったので…ごめんなさい。
2. 8 だおもん ■2007/05/14 00:02:12
何重もの落ちが気持ち悪いです。が、楽しめる気持ち悪さでした。
3. 7 shinsokku ■2007/05/14 20:08:06
うーん。真っ黒。
嫌ーな気分がお腹の中でぐるぐるいっています。多分、狙い通りなのですね。
夢って怖いですよねぇ。生まれてこの方、楽しい夢なんて見たことありません。
だから睡魔って呼ぶんだと思っています。
起きながら見る夢なんて、これほど穴だらけのものも無い。
4. フリーレス スミス ■2007/05/14 23:27:45
書き慣れた文体という印象を受けました。そのせいでしょうか、
一方で行き当たりばったりという印象も受けました。
それとダークな話は苦手です。

私なら根が百合好きなので、霊夢の産道を壊す程度に留めておいたかなー。
穴つながりならそっちの方が良いと感じる。歪んだ愛情みたいのも
表現できるし、そこで完結しないという意味ではシビアだもの。
5. 8 爪影 ■2007/05/15 20:26:31
 仰ぐ空は、青く、あおく――
6. 3 ■2007/05/19 00:18:34

コンペのお題というのはどこまでテーマであるべきなのかという事に悩みます。
お題としてならお題を作中で使えばいいのだから文句無しなのですが、
さてテーマとなるとどうでしょう。少し弱い気が。
話自体はとても面白いテーマで書かれていて、個人的にはわくわくしながら読んでいたのですが、
やはりというかなんというか、もう少し色々と溜めが欲しかったところ。
折角面白い話なのに「もう次にいっちゃうの?」となる場面が多々ありました。
内容と文章力で十分な話になっているとも見れますが、
やはり掘り下げの甘さがいくらか目立ってしまっています。

まぁ人の事を言えた口ではないのですが、一感想として。
7. 8 どくしゃ ■2007/05/19 03:35:00
なんて話。
ちゃんと寝る前に薬を飲んでいたら…。
恩人の霊夢を殺すことになるとは。
凄く良く出来たお話で、引き込まれました。
8. 5 秦稜乃 ■2007/05/22 15:57:51
…ああ、なんていう狂い具合だ。
9. 4 床間たろひ ■2007/05/24 01:04:17
二転、三転とする展開。それでもどこか「ああ、やっぱりね」と思ってしまったのは何故でしょう。
魔理沙の一人称であるのに、妙に説明的な語り口だったから今ひとつ嵌り込めなかったです。惜しいなー、演出次第では神SSになったかもしれないのに。
10. 9 詩所 ■2007/05/24 04:17:37
麻薬、いや魔薬とでも読んだほうがいいのか?
人の精神を破壊し、効果は服用を止めても続く。
悪魔の薬が生んだおぞましく、悲しいフィナーレ。ヒロインは終わりにすら気付かない。

ちなみに素的→素敵かと
11. 10 復路鵜 ■2007/05/24 13:45:42
この発想は無かったwwwwww
ラストでは世にも奇妙な物語的な風味を感じました。うーん後味悪い。
なんにせよ、堪能させていただきました。
12. 7 反魂 ■2007/05/25 01:45:51
面白かったです。展開自体は割と王道的ですが、読ませられるだけの引き込みがある作品でした。文章力的にも破綻が無く、随所で挟み込まれるエピソードにも力があり、完成度の高い作品だったように思います。
ただ魔理沙の夢のパートが少し短すぎて真実味が薄れたことと、種明かしが座談形式で間延びしたのがちょっとマイナスでした。

そして……結末部分は、個人的な感覚で言えばですが蛇足のような気がしてなりません。
あのまま友情物語っぽく終わっていれば9点でした。私自身の好みから言えば、もったいなかったと言わざるを得ない部分ではあります。むやみに屈折した終わり方にする必要が無かった気も。

良い作品ではあったのですが、最後の最後でストレートに「面白かった!」と言えなくなってしまいました。
こういうところを採点に含めるかは悩んだのですが、やはり自分が感じた作品の面白味こそ物語の第一指標と考え、自分なりの感覚で「作品の評価」を数字にさせて頂きました。申し訳ないです。

※)誤字
音信普通→音信不通
13. フリーレス 流砂 ■2007/05/26 21:46:15
「――――っていう夢を見たんだよ」
「なんでそんな事細かいのよ」
ループってこわくね?  力作、お疲れ様ですー。
14. 6 deso ■2007/05/26 23:58:53
後味悪いなぁ。ホラーとしては良い感じです。
しかし、中盤夢から覚めるあたりは夢オチに対する言い訳っぽく感じます。
それに、夢についての危険性があるならその場で永琳が薬飲ませるだろう、とかですね。
細かい部分でいろいろと気になる点はありますが、話は面白かったです。
15. 5 blankii ■2007/05/27 11:04:44
最期のブラック・オチは苦手であります……。途中までの展開が好みだった訳ですが、ううん、そこでこうくるか、みたいな。好みの問題であると思います。
16. 10 椒良徳 ■2007/05/27 19:43:11
「私を呼ぶ声が響く私を呼ぶ声がだけが響く」は「私を呼ぶ声が響く私を呼ぶ声だけが響く」
「きっと素的な一日になるに違いない」は「きっと素敵な一日になるに違いない」でしょう。
いや、あかんわけではないですが。
途中まで誤字脱字等なかったのに、最後の方がひどいですね。
力尽きたのだとは思いますが、もう少し気をつけましょう。
 さて、内容のほうですが、そんな瑣末な事を感じさせないほど素晴らしいもので、勃起を押さえる事が出来ません。
タイトルがまた良い。
私も夢を見たという夢を見たという夢を見たことがありますので、こういう入れ子構造になった悪夢の物語は背すじが凍るものがあります。
また貴方の作品を読んでみたいと思わせる作品でした。
貴方の新作に期待しております。
17. 8 木村圭 ■2007/05/27 23:31:39
解説パートがちょっと冗長に感じました。鮮烈な締めでまた引き締まってくれましたが、もう少しすっきり纏めてもらうと更に良いものになるのではないかと。
げに恐ろしきは胡蝶夢丸、ではなく人間と妖怪の絶対的な差。薬飲み忘れたとはいえ一度目を覚ましたのに、霊夢を無茶苦茶に巻き込むほど強烈な副作用がまだ出るんだもんなー。
18. 7 らくがん屋 ■2007/05/29 11:00:19
うわぁー、こういうの大好き。あざといって言うのは簡単だけど、実際に書けるかどうかは当人の能力&覚悟次第なわけだしね。テーマ的にはちょい無理矢理繋げたっぽさがあるけど、やっぱこういうのはイイね、うん。
19. 8 ■2007/05/29 13:10:47
筋自体は読めていたのですが、それでもやっぱり繰り返す悪夢ネタは心臓に悪いです…
20. 5 鼠@石景山 ■2007/05/30 00:51:54
外魔理沙の生活がちょっと長い……かも。ここでの生活が戻って来られた事への安堵の足場で、それがオチを固める足場になっている……割にはオチがバッサリ気味な感じ……?
まあこれ以上引っ張っても仕方ない気もしますし、どっちが表だか分からなくなりつつあるし。
21. 4 いむぜん ■2007/05/30 02:24:07
霊夢死んだ……
夢と精神の関係の所、紫は「夢と現の呪」というカードを持っているから、その辺も割と自在に出来そうな……
22. 5 ■2007/05/30 03:01:38

 前半部分。「手の込んだプロットってわけでもないのに、文章がうまくてすごく面白い!」とわくわくしながら読んでいて、霊夢が出てきて弾幕ごっこはじめた頃には「すげえ……一体どうやってこのジレンマに決着つけるんだろう……!」と完全に夢中になっていました。なっていたんですが……。
 夢オチっすかorz
 いや……あそこで夢オチはさすがにまずいと思います……。話の収拾がつかなくなって匙を投げた感が強すぎます……。そこまででテンション上がりまくっていただけに、がっかり感が半端なかったです……。
 さらに夢から醒めた後の解説パートが長すぎです。解説パートが冗長な上にあまりにも説明臭いので、せっかく話に引きこまれていた読者の気持ちが冷めてしまい、ラストの再どんでん返しの効果が半減です。あの解説パートは「今までのは全部危ない薬のせいでした。霊夢と紫が助けてくれてめでたしめでたし」という部分だけを簡潔にまとめて、一気にラストに駆け込んでしまうのがベストでしょう。話のつじつまを合わせるために展開の理由をきっちり説明したい気持ちは解るのですが、時には勢いを活かすために開き直ってしまうのも大切です。
 単なる夢オチで終わらせずに、最後でちゃんともう一オチつけたところは評価したいのですが……それにしたって、ぶっちゃけた言い方しちゃうとヤク中廃人オチだもんなぁ(汗)。夢オチ、廃人・発狂オチ、あと記憶喪失オチ(※後述)なんかは、私のようにやたらと毛嫌いする人間がいるので(笑)、避けたほうがいいです。
 前半部分(夢から醒めるまで)だけなら8点なのですが、オチのつけ方がどうにもいただけないので大幅減点します。魔理沙のジレンマにきっちり決着がついていたらお世辞でなく10点でした。文章は本当に面白かったので、次回作にはとても期待しています。
(※)念のため解説しときます。例としてこの作品に記憶喪失オチを適用してみると、幻想郷に帰るか外の世界に残るか苦悩する魔理沙が(この場合の外の世界は、作中と違って夢ではないれっきとした現実であるとする)、霊夢に力づくで幻想郷に連れ戻されたところ、魔理沙はそのショックで外の世界の記憶をすべて忘れてしまい、何の気兼ねもなく幻想郷で幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。みたいなご都合展開ですね。ついでに廃人・発狂オチをここに適用すると、幻想郷に連れ戻されたショックで魔理沙は気が触れてしまい、霊夢は責任を感じて魔理沙の世話をするのでした。BADEND。みたいな感じですね(笑)。いずれのパターンも、キャラクターが突きつけられた命題(この場合は幻想郷と家族とどっちを選ぶか)に対して、回答を出さずにうやむやにしてしまうのが問題なわけです。記憶喪失や精神崩壊を使うこと自体が悪いと言っているわけではないです。そういう意味では、今回のラストの廃人オチは別に問題ないのですが、そこはまあ、二次創作でキャラをヤク中にするのはいかがなものかという別な問題が(笑)。てかこのレス無駄に長すぎだろ私(汗)。
23. 10 リコーダー ■2007/05/30 16:17:46
ここからもう一度突き落とすな、とは思いましたが、
実は娘のいる方が現実、などの可能性も考えられて、最後はもう先の予想がつけられなくなって。
何だかんだ言ってパターン化された筋になることが多いSSというジャンルで、こういう感覚は味わえないとばかり思っていました。
24. 9 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:30:01
ハッピーエンドと油断していたら、最後の最後に落とし穴がありましたね。
薬の忠告を忘れて、夢と現実があやふやなまま……と言うことでしょうか。
読後感は絶望です。お疲れ様でした。
25. 10 二俣 ■2007/05/30 19:46:54
・・・読み終えたあとしばらく採点止まりました。ものすごい破壊力。
全員が全員『ありえそう』な行動を取っているのが素晴らしく最悪で最高です。
加えて、ラストの狙い澄ました後味の悪さにはもう文句のつけようがありません。
26. 8 K.M ■2007/05/30 20:53:34
一般的な悪夢のニュアンスを超えるほどの悪夢。境界を穿ち侵食する恐怖…
バッドエンドかハッピーエンドか予測できない話の持って行き方も含めて、お見事でした。
27. 5 たくじ ■2007/05/30 22:29:01
読み終えて気分が悪くなりました。これはこの場合ほめ言葉になってしまうのでしょうか。読んだ自分が恨めしい。
28. 6 藤村る ■2007/05/30 23:26:48
 まさかのバッドエンド……。
 感動オチになるかと思いきや、って感じでしょうか。勿体ないような、ある意味で当然の帰結のような。
 ていうかこれだけ長くてバッドエンドだと、前振り長いし解説長いしで、ダメージでかいです。バッドエンドとしては、ダメージでかい方がいいのでしょうが。
 穴も弱いな……。
29. 8 時計屋 ■2007/05/30 23:35:10
後味が最低で、最高のお話でした。(誉め言葉です)
悪夢から脱出できた、と思ったら実はそれこそが夢だった。
それだけでも怖いですが、そこに至る演出がとてもよかった。
子供の首絞めるシーンは本気でどきどきしました。

残念なところは前半〜中盤が少しだれて見えるところ。
特に薬の説明の部分はあそこまで長く書く必要があったのかなぁ、と。
あとテーマが重いにもかかわらず、そこにお題がまったく絡んでないのが残念でした。
30. フリーレス 宵闇むつき ■2007/06/10 17:02:01
ハッピーエンドが好きです。でも、ダークなのも結構好きです。宵闇むつきと申します。
皆様、沢山の感想を有難う御座いました。そして、こちらから感想を送る事が出来ず、申し訳ありませんでした……。

時計屋様
ドキドキして貰えたなら何よりです。
永琳の説明は……読み返してみると、確かに長いですね。お題の消化不良も含め、工夫が足りませんでした……。

藤村る様
突き落とすなら、幸せになってからの方が良い――とか考えていたのですが、長すぎてしまったようです。
それでもせめてお題を消化出来れば良かったのですが、努力不足でした……。

たくじ様
すみません……。
オチがオチでしたので、黒い話注意、的な文章を入れる事はしませんでした。でも、読んで頂いて有難う御座います。

K.M様
有難う御座います。
黒い話でしたが、楽しんで頂けたなら何よりです。

二俣様
有難う御座います。
資料と睨めっこして書き上げた甲斐がありました。楽しんで頂けたなら幸いです。

眼帯因幡様
有り難う御座います。
あやふやになった上に、目の前の現実から目を逸らしてしまった、といった感じでした。

リコーダー様
オチをどう持ってくるか、結構悩みました。
そして出来上がったこの作品で、新しい感覚を味わって頂けたなら何よりです。

執様
いえ、長文レス、有難う御座います。指摘を頂けるのはとても嬉しい事ですので。
明るい話が好きな人もいれば、暗い話が好きな人もいる。そして、全ての人に受け入れられる作品を作るのはとても難しい……今回はそれを痛感しました。これからも、努力と工夫をしていきたいと思います。

いむぜん様
大 失 敗 。完全に忘れてました……。
そう考えると、もっと簡単に魔理沙を救い出せたかもしません……。

鼠@石景山様
魔理沙目線なので、色々と描写する所が多くなってしまいました。
解説部分も含めて、もう少し短く調整した方が良かったのかもしれません。

翼様
すみません……。
救いを見出せるエンドも考えてはいたんですが……更に単調になる恐れがあったので、こんな結末になりました。でも、読んで頂いて有難う御座います。

らくがん屋様
有難う御座います。
ですが、提示されたお題にそった作品でないといけない以上、努力を重ねたいと思います。

木村圭様
現実ですら薬の飲み間違いはありますし、幻想郷ではこういった事が発生してもおかしくないのかもしれません。
ですが、確かに寝起きの魔理沙に対してあの説明量は多過ぎました……。

椒良徳様
誤字を修正しました。ご指摘、有難う御座います。
次回もご期待に副えるよう、頑張っていきたいと思います。

blankii様
すみません……。
救い無く終わらせてしまったので、苦手な方には悪い事をしてしまいました……。ですが、読んで頂き有難う御座います。

deso様
有難う御座います。
確かに、解説部分は工夫が足りませんでした。飲み薬が無理なら注射で打ち込むとか、他にも色々とやり方はありましたので……。

流砂様
有難う御座います。
恐いですよね、ループ。終わりが見えないと尚更に。

反魂様
誤字を修正しました。そして、読んで頂いて有難う御座います。
単調になり過ぎず、しかししっかりと物語を構築するというのは、難しいですね……。感じられた勿体無さを少しでも減らせるように、頑張っていきたいと思います。

復路鵜様
身近な所に人生を狂わせる穴がある。そんなイメージでした。
楽しんで頂けたなら幸いです。

詩所様
誤字を修正しました。ご指摘、有難う御座います。
目覚めなければ夢を夢だと認識出来ないように、気付かなければ幸せな事もあるのかもしれません。……それが幸せかどうかは別として。

床間たろひ様
一人称なのに三人称のようになってしまうのは、私の癖のようです……。
物語にもっと深く引き込む事が出来るよう、努力していきたいと思います。

秦稜乃様
読んで頂き、有難う御座います。
その狂気を少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

どくしゃ様
お褒め頂き、有難う御座います。
小さな切っ掛けが引き起こす悪夢、楽しんで頂けたなら何よりです。

紫様
お題を上手く消化出来なかったのは失敗でした。序盤の展開は魔理沙の夢だから、という事で少し急いだのですが……もう少し、練り込んだ方が良かったようです。
読んで頂き、有難う御座いました。

爪影様
もう、隣に彼女は居ないけれど……。
読んで頂き、有難う御座いました。

スミス様
読んで頂き、有難う御座います。
確かに、殺してしまうのはやり過ぎたのかもしれません。ですが、書いている最中にその選択肢を見付けられませんでした……。行き当たりばったりと感じさせてしまった部分を含め、発想力なども高めていかなくてはです。

shinsokku様
夢から逃げられなくなったらどうなるのか? という事ですみません、狙ってみました。
読んで頂き、有難う御座います。

だおもん様
楽しんで頂けたなら何よりです。
もし次に黒い話を書く事があったなら、楽しめるレベルを維持出来るように頑張りたいと思います。

A・D・R様
いえ、読んで頂き、有難う御座います。
話の流れを強引に感じさせてしまったのは私のミス。これからも努力を重ねていきたいと思います。


レス返しというものに慣れていないので、不快な点があるかもしれませんが、お許し下さい。
というか、同じような事しか言えない自分の語彙の無さが悲しい。気の聞いた事が言えなくてすみません。
同時に、物語を作るのは本当に難しい……。そう痛感しました。

今回は本当に有難う御座いました。
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