墨桜之恋塚

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/12 21:38:57 更新日時: 2007/05/15 12:38:57 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00

零.

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。

 あたりを覆いつくす、白。
 右も左も、前も後ろも。

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。

 これは、そう、霧か。
 薄暗い霧の中。

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。

 歌うように聞こえてくる、何かの音。
 それに誘われ、足が進んでいく。

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。

 暑くもなく、寒くもなく。
 ただ見えるのは白のみ。

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。

 霧の向こうに、何かの影が見えた。
 …………人、か。

 ざく、ざく。
 ………………。

 人影がこちらへ振り返る。
 霧と同じくらい真っ白な顔色をした少女。

「もう少しだけ待っていてください。
 あと一息で、あなたが入れる大きさになりますから」






壱.

 人は「死」というモノに魅了された時、その命の花を散らす。
 それは運命と呼んでいいだろう。
 どんなに逃げようとしても、彼らは容赦しない。そもそも容赦など知らない。
 心奪われたが最期、肉体と魂は切り離され「死」が訪れる。

 広大な庭に、人間が二人。
 一人は少女。
 ふわりふわり、舞っている。
 その優雅な動きに魅入られる男が1人。
 男には、蝶のように見えた。
 その幽雅な動きに魅入られるモノがたくさん。
 ひらりひらり、それらは無表情の少女につられて舞う。

 それこそが、「死」だった。
 本来、死は魅するモノであって、魅されるモノではない。
 だが、少女は違った。
 死すらも魅了しているのだ。

 男の頬がみるみるうちに痩せこけていく。
 少女が呼び出した「死」にも魅入ってしまったのだ。
 その表情には歓喜が。
 それなりに長かった男の人生の中で、最高の喜びだった。
 そして。
 静かに崩れ落ちた。
 魂が肉体を離れた。

 ひらりひらり、少女は舞う。




弐.

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。
 少女は無表情で掘り続ける。
 自分が殺した男の肉体を、大地に還すため。

 少女はその舞を「亡我郷」と名づけた。
 亡我郷を目の当たりにした者は、何人たりとも死から逃れられない。
 死に誘う舞。
 それを知ってなお、見たいと押しかける者が絶えない。
 何故、死にたがるんだろう。
 何故、死に恋をしてしまうのだろう。
 どれだけ考えても、少女に答えを見つけることはできなかった。

 庭に1本の大きな桜がある。
 そのまわりを覆いつくす、無数の塚。
 少女にも、いくつあるのか分からない。
 ただ、無表情で掘り続ける。
 ざく、ざく。

 何年、何十年、何百年、こんなことをしてきたのだろうか。
 そして、これからもずっと続いていくのだろうか。
 広い広い屋敷、たった一人で暮らしている。
 家族はいた。
 皆、逝ってしまったけど。
 死を魅了する少女は、死に魅了されることはなかった。
 時の流れ取り残され、無表情で今日も生き続けている。




参.

 ある日、妖怪と名乗る者が現れた。
 背後から。突然に。
「ちょっと暇なので、話し相手になってくださらないかしら」

 どうでもよかったが、断る理由もなかった。
 妖怪は気まぐれに、何度もやって来た。
 ここに来る人間と同じように、ただの死にたがりなのか。
 本当に暇なだけなのか。
 とりとめのない世間話をする。
 どうでもよかった。

 ざく、ざく。
 ざく、ざく。
 妖怪と一緒に、できたての亡骸を埋める穴を掘る。
 ざく、ざく。
 ざく、ざく。
 一人でやるよりも、3倍早くできた。
 どうでもよかった。

「そう、あなたは。
 死に飾られたその人生に、憂いているのね」
 春の匂いがし始めた季節になっていた。




死.

『本当にすばらしいものは、案外身近にあるものよ』
 妖怪が言っていたことは、あながち嘘ではなかったようだ。

 墨染めの桜が、ひらひらと舞っている。
 雪の季節が去り、新しい命が生まれていく。
 少し前までは鋭かった風が、今は甘くやわらかい。
 少女はぶらりぶらりと、高いところから春を眺めていた。
 桜は血を吸い、鮮やかな花を咲かせる。
 だから少女は、この木の下に残された肉体を埋め続けた。
 今年も綺麗だ。
 そして、これからもっと鮮やかになることだろう。

 ぶらり、ぶらり。
 とめどなく舞い散る桜の花びら。

 ぶらり、ぶらり。
 その中に「死」が混ざり始めていた。

『何故、死にたがる人間が絶えないかって?
 あなたも一度死んでみれば分かるかもしれないわね』

 ぶらり、ぶらり。
 薄れていく意識の中で、最期に思ったこと。

 桜と共に舞う「死」も悪くない。






零.

「ゆーゆこ。まぁた穴なんて掘ってるの?」
 朝霧が、広大な西行寺家の庭を覆っている。
 すぐ側には、てっぺんが見えないほど大きな木。
 妖怪桜、西行妖だ。
「…………あれ、紫?」
「あれ、じゃないわよ。
 早起きはいいけど、夢遊病は関心しないわ」
「あなたも、めずらしく早起きね」
「起きたら朝だっただけよ」

 冥界に来てからの幽々子は、とても元気だった。
 生前の頃とは、まったく別人と言っていいくらいに。
 それでも、時々昔のことを思い出してしまうのだろうか。
 体に染み付いているものが、落ちきっていないのだろうか。
 寝ぼけながら、桜の木の下に穴を掘ることがあるのだ。
 本人は、生きていた時のことは全く覚えていないと言っているが。

 縁側。今日もいい天気だ。
「ねぇ、幽々子。例えばよ。
 毎日毎日、あなたの力を頼りに自殺志願者がやってくるの。
 ずっとずーっと、ただただ殺し続ける人生。
 そんなことになったら、どう思う?」
「そうねぇ……」
 山積みだった桜餅の、最後の1つに手を伸ばす。
 妖夢におかわりの合図を出すも、無視された。

 しばらく悩んだ後、満面の笑みでこう答えるのだ。
「毎日毎日、おやつが好きなだけ出てくるなら、悪くもないかしら」

今日のおやつは、これだけです。おかわり駄目っ。
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2007/05/12 21:38:57
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2007/05/15 12:38:57
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1. 4 A・D・R ■2007/05/13 15:00:23
引き込まれるような不思議な雰囲気でした。
でも、後書きでその雰囲気が崩れてしまったようで少し残念でした。
2. 2 反魂 ■2007/05/13 15:17:19
個人的な好みからすると今ひとつ、でしょうか。
死というテーマがどこか装飾品のように使われている雰囲気が感じられてしまい、私にとっては少々舌に合わない作品でした。
大変申し訳ないのですが。
3. 6 だおもん ■2007/05/14 00:16:37
偉そうな言い方になるかもしれないですが、死そのものの幽々子様の悲しみをよく表されていると思いました。
4. 4 shinsokku ■2007/05/15 23:24:47
冥界に埋めると、幽霊とは別クチで、死体の霊が出て来そうですね。
他にもタイムカプセルの霊とか、生ゴミの霊とか。
ゴーストコンポスト。なんつって。
5. 3 爪影 ■2007/05/16 13:46:04
 バナナはおやつに入りますか?
6. 3 詩所 ■2007/05/19 15:52:07
人って死ぬとこんなにも変われるのか、私も一度死ん(ry
7. 6 秦稜乃 ■2007/05/24 09:05:18
…人って変わるなぁ。とか思いつつ。
8. 7 どくしゃ ■2007/05/24 11:46:36
幽々子様w それは無いんじゃないのw
深いお話でした。
9. 4 流砂 ■2007/05/26 21:52:15
もう少し、推敲を。
いや決して読めない訳じゃないけど、場の空気に酔える程では無かった。
空気に酔えればとても清々しい作品だとは思うのですが。 ざんねん。
たどたどしい感じでの地の文を、もう一段階昇華して欲しかったです。
10. 5 deso ■2007/05/26 23:50:09
詩的な雰囲気は悪くないですが、オチが説明的すぎるかな、と。
匂わせる程度で、最後まで客観的な視点で語られた方がより味があると思います。
11. 6 blankii ■2007/05/27 11:12:18
ゆるやかな断片を通して語られる過去、ざく、ざくと擬音が耳に残ります。一度は見てみたいですね、『忘我郷』。まだ少し早いかなぁ、と思いますけれど。
12. 7 椒良徳 ■2007/05/27 19:54:35
だがおかわりする。
さて、雰囲気と言い、誤字脱字のないことといい、読みやすい文章といい、なかなか良い話でした。ただ、背すじも凍るホラーというには少し力不足か。文章量が足りないのか、残酷さが足りないのか。ホラーというには少し幽々子様がいい女過ぎるからかもしれません。まあ、こんなことを書きましたが、貴方の新作に期待しております。
13. 3 木村圭 ■2007/05/27 23:37:08
喜ぶべきか、憂うべきか。幽々子が笑顔でいられるのであれば、その代償が何であれ構わない……とは割り切れない私は真っ当な人間だと思う。良いも悪いも無い。
14. 10 ■2007/05/28 00:34:38
なるほど。では、明日のおやつはまたちゃんと出て来るんですね?具体的には、次の作品を読めるのを楽しみにしていますがw
このくらい飄々と、少し人間ばなれしたくらいが幽々子様って気がします。素晴らしい。
15. 8 らくがん屋 ■2007/05/29 10:52:30
理解しきれない文章を読んだときって、自分が未熟か文章が未熟かのどちらかが多いですよね。
実際がどうであれ、今回私は前者かなあと感じました。なのでこの点数を。
16. 5 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:44:19
おやつと比べる幽々子様の「死」に対する認識がちょっと恐ろしい。
本当にどうでもいいのか、桜餅以下なのか。
17. 5 いむぜん ■2007/05/30 02:29:07
ものすごーくどうでもいいが、「ざくざく」と来て三倍はどうしても赤くて角付きを連想してしまう。
書き手にギャグのつもりがなくても。
話のテンポが淡々としているのに、そういうノイズを読み手の脳が生みかねない。
勿体無い。もしまったく意識しないで書いていたら申し訳ない。
18. 7 リコーダー ■2007/05/30 16:09:04
泥臭さを感じない。綺麗です。
19. 4 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:40:47
死をおやつと認識している幽々子が、とても“らしい”と思えました。
それにしてもこの幽々子、老人と変わりない寝ぼけ方である。
お疲れ様でした。
20. 5 K.M ■2007/05/30 18:56:51
文字通り、「桜の樹の下には死体が埋まっている」ですか。
夢遊病のケがある幽々子様萌え。
21. 4 二俣 ■2007/05/30 20:32:57
重そうで重くないバランスが気に入りました。
22. 4 たくじ ■2007/05/30 22:24:49
起きたら朝だっただけって、なんだか紫らしい感じがしますね。
23. 3 藤村る ■2007/05/30 23:35:43
 短いなりにまとまってはいましたが、モチーフとしてはありふれていたので、そこから抜け出るほど突出してもいなかったかなあ、という感じでした。
24. 3 時計屋 ■2007/05/30 23:44:07
小ネタをきれいにまとめていますが、
これだけだとありがちな内容です。

幽々子の憂いや、彼女が操る死の魅力も、
十分には伝わってきませんでした。

ただ、幽々子の最後の台詞は彼女らしくて印象的でした。
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