えっちらほいさと穴を掘る。

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 05:23:43 更新日時: 2007/05/15 20:23:43 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


 その日チルノは、犬が穴を掘り、飼い主から貰った骨をせっせと埋めているのを見掛けました。
 何をやっているのかが解らなかった彼女は、タイミング良く近くを通りかかった天狗に聞いてみました。
「犬というのは、大切な物を無くさぬよう、土の中に埋めてしまうのですよ」
 成る程、とチルノは納得して、その日はぐっすりと眠りました。

 次の日。
 チルノも大切な物を埋めてみる事にしました。
 ちっぽけな存在だと蔑まれる事の多い妖精の身の上ですが、チルノとて大切な物はあるのです。
 湖畔に穴を掘ると、チルノは大切な物を埋めました。
 それはなんだか特別な行為だった気がして、その日は満足しながら眠りました。 
 
 更に次の日。
 実はまだ大切な物はありました。けれど結構大きいものです。
 隠しきれるか心配になりながらも、チルノは大きな穴を掘りました。一生懸命掘りました。
 そしてその大きな穴に大切な物を埋めると、その日は泥のように眠りました。

 次の日もまた次の日も、チルノは大切な物を埋めました。
 一生懸命穴を掘って、沢山沢山埋めました。
 そして誰も居なくなるか――という事は無く、大切な物を全て埋め終わったチルノは、充実した気持ちで眠りました。



 そんなある日の事です。
 いつものようにチルノが湖で遊んでいると、湖畔に倒れている人間が居ました。
 近寄って声を掛けてみても、指で突いてみても、その人間は動きません。
 初めは寝ているだけかと思いましたが、どうやら違うようです。理由は解りませんが、その人間はピクリとも動かないのです。
 さて、どうしたものでしょう。チルノは考えて考えて考えました。一晩眠らずに考えました。
 そして眠らないまま太陽と顔を合わせたとき、ある事に思い至りました。
 なのでチルノは再びタイミング良く通りかかった天狗にそれを問い掛けました。天狗は答えます。
「うーん、それはですねぇ……」
 天狗の答えに、成る程、とチルノは納得して、眠い身体を押して穴を掘りました。一生懸命掘りました。
 そして出来上がった大きな穴に人間を埋めると、チルノは優しい気持ちで眠りました。
 
 次の日。
 何人かの人間が、昨日チルノが埋めた人間を探しに湖へとやってきました。
 だからチルノは答えます。
「人間は命が一番大切なんでしょう? だから無くさないように、土に埋めてあげたわ」
 満点の笑顔で答えました。
 


 こうして幻想郷に土葬のルーツが拡がり、人々は死者を土の下に葬るようになりました。
 ですが、その切っ掛けを生み出したチルノが認められる事はありませんでした。
 彼女は知らなかったのです。人間は死ぬと、命を失ってしまう事を。そしてそんな妖精を認める程、人間は優しくなかったのです。
 人間はそれを自分達が考え出した事にして、その歴史を積み重ねていきました。

 とは言え、最近では幻想郷にも火葬が拡がり始め、土葬の歴史は静かに幕を閉じようとしています。
 しかし、私達は忘れてはいけないのです。小さな妖精の無知が生み出した、他者への優しさを。
 




 その日も、チルノは元気に穴を掘ります。
 どこに何を埋めたのか、どうして大切な物を埋め始めるようになったのか、小さな妖精はもう覚えていません。
 それでも彼女は穴を掘り、大切な物を埋めるのです。

 大切な物を大切に思う心を、忘れないように。









  
宵闇むつき
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2007/05/13 05:23:43
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2007/05/15 20:23:43
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1. 10 ■2007/05/13 00:55:32
ぐぁ…!その目が、その無邪気な目が、汚れた心に痛いッ!いや、これは実に見事なチルノ。素晴らしい。
2. 4 A・D・R ■2007/05/13 16:19:03
短いお話なのですが、なぜか心に残りました。
童話のような語り…そんな雰囲気を感じました。
3. 7 だおもん ■2007/05/14 00:18:16
ものすごく納得しました。シンプルな構造故に無駄を感じません。
4. 6 爪影 ■2007/05/16 14:50:29
 チルノちゃん偉いね。
5. 4 詩所 ■2007/05/18 19:35:14
チルノがいずれ大妖精を埋めないか心配ですw
6. 5 shinsokku ■2007/05/19 01:51:17
底冷えしますねぇ。
ひんやり。
7. 2 人比良 ■2007/05/26 21:03:18
かわいくはあるけれど、可愛さはない感じです。
8. 5 流砂 ■2007/05/26 21:55:15
あれ? ち、チルノ……さん?
9. 4 deso ■2007/05/26 23:45:05
チルノは可愛いのだけど、しっくりきません。
これを土葬の起源にしちゃうのは無理があるような。
いくらチルノでも死んでることくらいわかるだろう、と。
10. 6 blankii ■2007/05/27 11:22:33
短いながらも、ぐっとくる御話。チルノの認識と行動の単純さ、そしてだからこそ生まれる優しさ。身につまされるなぁ。
11. 6 椒良徳 ■2007/05/27 19:59:19
不思議な雰囲気の作品ですね。ほのぼのというにはちょっと違うし、ホラーは全然違うし、これがこんな作品だとは上手く言えませんが。この雰囲気は嫌いじゃないです。ぜひ貴方の道を突っ走ってもらいたい。ですが、佳作、大作、というには力不足です。ですのでこの点でご容赦おば。
12. 4 木村圭 ■2007/05/27 23:42:12
間違いなく大妖精を埋めるだろうと思ってしまった汚さが情けない。
いきすぎた純粋さは得てして毒になりやすいものですが、それでもチルノは責められる立場には無いはず。鮮やかな笑顔が眩しすぎて、どこかで嫉妬してしまったのかもしれないなぁとか思ったり。
13. 6 秦稜乃 ■2007/05/28 21:20:04
この短さで全てを伝えきれるとは…感涙です。
14. 4 らくがん屋 ■2007/05/29 10:48:13
チルノが死人を探しに来た人間にボコられなかったか気になります。
15. 2 反魂 ■2007/05/29 19:10:32
これだけでは何とも評価のしようが。
チルノたる理由も東方たる理由もありませんし――
16. 6 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:48:29
絵本のような話。きれいに短くまとまっているのがお見事。
17. 5 いむぜん ■2007/05/30 02:33:26
トンチ系か。短いのがいい感じ。これ以上は蛇足だろう。
18. 5 リコーダー ■2007/05/30 16:06:11
チルノが埋めちゃって「やばいんじゃないかなー」と思ったら少し肩透かし。
雰囲気は好きです。
19. 6 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:46:53
チルノの純粋さが短く、強く描かれているように感じました。
単純だからこそ、それは印象に残りますね、素晴らしいです。
お疲れ様でした。
20. 4 K.M ■2007/05/30 18:32:02
な、なんだってーーー!!というお約束のギャグはさておき。
実に分かりやすい短編でした。
21. 7 二俣 ■2007/05/30 21:05:22
してやられました。
なんというか、そうとしか言いようが無い。
22. 5 たくじ ■2007/05/30 22:22:27
ちょっといい話。こういうの好きです。
23. 3 藤村る ■2007/05/30 23:42:38
 なるほどと思う反面、いや別に誰でもいいよなあ、とも思いました。
24. 4 時計屋 ■2007/05/30 23:46:26
いい話だなぁ。

しかしそれまで幻想郷ではどうやって死者を葬っていたんだろう。
風葬……?まさか鳥葬ってことは……。どっかの妖怪は喜びそうですが。
25. フリーレス 宵闇むつき ■2007/06/10 17:36:14
チルノはHだけど、愚かではないと思う。宵闇むつきと申します。
皆様、沢山の感想を有難う御座いました。そして、こちらから感想を送る事が出来ず、申し訳ありませんでした……。

時計屋様
妖怪の食料になっていたんだろう、って香霖が言ってた。
なので多分、妖怪達は喜んでいたのかもしれません。

藤村る様
確かにそうかもしれません……。
でも、チルノだからこそ、的なこう、なんていうかアレな感じがあると思うんです。……言い訳っぽいですが。

たくじ様
有難う御座います。
私もこういった話は好きなので頑張ってみました。好いて頂けたなら何よりです。

二俣様
有難う御座います。
一本取る事が出来たなら、そして楽しんで頂けたなら何よりです。

K.M様
これが幻想郷に隠された真実だったんだよ!! ……はい、すみません。
楽しんで頂けたなら幸いです。

眼帯因幡様
有難う御座います。
私なりのチルノっぽさ、楽しんで頂けたなら何よりです。

リコーダー様
所詮は妖精が行った気紛れ。でも、そこには深い想いがあったりしました。
好いて頂けたなら何よりです。

いむぜん様
短いながらも身のある話を。
長くする事も考えましたが、短く纏めて良かったみたいです。

鼠@石景山様
有難う御座います。
チルノの無知と優しさ、楽しんで頂けたなら幸いです。

反魂様
読んで頂き、有難う御座います。
確かに、結構……というかかなり無理のある話だったかもしれません。要努力です。

らくがん屋様
どうだったでしょう……。もしかしたら危なかったかもしれません。
楽しんで頂けたなら幸いです。

秦稜乃様
有難う御座います。
でも、まだまだ努力を重ねていこうと思います。楽しんで頂けたなら何よりです。

木村圭様
……ぶっちゃけ大妖精出すの忘れてたとか、そういう事は無いです、はい。
人間には無い純粋さ。それを届ける事が出来たなら幸いです。

椒良徳様
有難う御座います。
黒い話を書いた反動が出たのかもしれません。力不足を補えるよう、頑張って生きたいと思います。

blankii様
有難う御座います。
短い話でしたが、楽しんで頂けたなら何よりです。

deso様
自分でも思っていたりします。でも、それを解らなかった場合の可能性、という感じでお願いします。
いつの世も、ふとした切っ掛けから歴史は生まれて行くものだと思いますので。

流砂様
愚かだけど馬鹿じゃないチルノを考えたら、こんな話になりました。
楽しんで頂けたなら幸いです。

人比良様
違っていたら御免なさい。平仮名のような感じ、という事で良いのでしょうか? というより、絵本的というようなニュアンス? 
ともあれ、楽しんで頂けたなら幸いです。

shinsokku様
冷やしてしまいましたか。
でも、そこに何か暖かいものが残っていたなら嬉しいなぁ、とか思ってしまいます。

詩所様
多分大丈夫かもしれませんが、やってしまうかもしれません。
未来は誰にも解らない……という事で、ご想像にお任せです。

爪影様
チルノ……いえ、妖精だからこそ思いつき、出来た事なんじゃないかと思います。
楽しんで頂けたなら幸いです。

だおもん様
お褒め頂き、有難う御座います。
似たような文体の作品を同時に出していた為に色々と不安があったのですが、そう感じて頂けたなら何よりです。

A・D・R様
有難う御座います。
これからも、心に残るような作品を書いていきたいと思います。

翼様
有難う御座います。
チルノは思い入れのあるキャラなので、蝶嬉しいです。


柔らかな土の布団で眠りに就けば、いつかチルノと同じ存在になれるのかもしれない。そんな事を思いつつ。
レス返しというものに慣れていないので、不快な点があるかもしれませんが、お許し下さい。
というか、同じような事しか言えない自分の語彙の無さが悲しい。気の聞いた事が言えなくてすみません。

今回は本当に有難う御座いました。

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