空に穴が空いた夜

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 06:00:42 更新日時: 2007/05/15 21:00:42 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00





 おそらにぽっかり穴が空いたから。
 今日は絶好の冒険びよりだと氷精は思った。





 意気揚々と穴の方へと飛び出したら、向こうからもう一つ穴が飛んできた。
 飛び込んでみたらしたたかに頭をぶつけた。

「いたたた…」「いたいのかー……」

 うめく声が二つ。
 聞き覚えのある声だった。

「…なんで夜中に闇なんか出して浮いてるのさ?」
「いつもより真っ暗だからもっと真っ暗くしてみたかったのかー?」

 そういうことらしい。

「それより、アンタが二人いるわよ」
「本当なのかー!?」

 くい、と空を指差すと。
 ぱちぱちと目を瞬かせて目の前の闇は穴を見つめた。

「…私とおんなじなのかー」

 負けないのかー!と夜空に叫んで。
 闇は穴目掛けて飛んでいった。

「穴なんだから、落ちていったのかしら?」



 暗い竹林を通り掛かると。
 こーん、こーん、と規則正しい音が響いた。

「…何やってるのさ?」
「あん? ああ…どこぞの妖精か」

 竹に打ち込んでいた鉞を担いで。
 もんぺ姿の少女は空を見上げた。

「今夜は竹が、いい状態で取れるのさ」

 けーねに持って行ったら喜んでもらえるかと思ってな。
 そう付け足して、少女は悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 どうしてだろうと首を傾げると。
 妖精にゃ分かるまいと、けらけら少女は笑っていた。

 何だか馬鹿にされた気がしたので。
 あたいは馬鹿じゃないと氷を投げつけてすぐさま飛び去った。

「やれやれ。いっとう暗い夜道は…背後に気をつけなくて済むな」

 ちりり、と燃える炎に氷を溶かして。
 竹を担いだ少女は竹林の奥へと消えていった。



「あの穴は何なんだろう」

 長い竹林は先が見えない。
 そんな事を考えながら、氷精は出口を求めて彷徨っていた。

「迷い人ならぬ迷い妖精ウサ?」

 ぴょんぴょんと跳ねる兎と出くわした。
 
「あたいは最強だから迷子になんてならないわ」
「そう? ならさようなら、お元気で」

 ぴょんぴょん、跳ねて去り行く一羽の兎。
 これはまずいと氷精は彼女を呼び止めた。

「どうしても案内したいって言うなら出口まで連れてってもらってもいいわ!」
「どうしても案内されたいって言うなら出口まで連れてってあげてもいいウサ」

 どうみても相手が一枚上手。
 ここは折れよう。最強だって負けることぐらいあるわ。

「そういえば、アンタ。あの穴が何か知ってる?」
「あの穴? 新月の事?」

 何その呪文。

「新月は新月よ。満月のさかさま」
「満月ならわかるけど。あれが月ですって?」

 どうみても夜空にぽっかり開いた穴にしか見えない。
 嘘つき兎は信用ならない。ここはこの前紅魔館のメイドに教わった必殺を使うべきね!

「月は太陽に食べられて、どんどん欠けていくの」
「へえ」

「全部食べられちゃったのが今日の月」
「そうですか」

「でも、太陽は月のことが大好きだからまた吐き出すの」
「それはすごいですね」

「好きだから食べたい。好きだから、食べない」

 妖精には難しい話だった?
 そう笑って、兎は先を跳ねていく。

「…好きなら、食べちゃえばいいのに」

 太陽の気持ちは分からない。
 例えばあたいが蛙を凍らせるのが好きなように。

 月の気持ちは分からない。
 例えば蛙があたいから逃げるように。

 好きなら食べればいい。
 あたいが蛙を凍らせるように。

 食べられるなら逃げればいい。
 蛙があたいから逃げるように。

 好きだから食べたい。好きだから食べない。
 好きだから……逃げない?

 あたいと蛙。
 太陽と月。

 おんなじようで、全然違う。

 ぐるぐる、ぐるぐる。
 難しい事は苦手だ。つまらないから。

 けれど何だが。
 不思議な気持ちのまま、氷精は兎についていった。

「…って話だったら、ロマンチックよね」

 そう囁いて、兎はぺろりと舌を出した。



 ふらふらと、ごちゃごちゃした気分のまま湖を飛んでいると。
 向こうから黒い影が箒にまたがって飛んできた。

「おう、バカチルノ!こんばんわだぜ!」
「バカっていうなー」

 形だけ返したものの。
 どうにもムキになる気持ちじゃなかった。

「なんだなんだ、元気が無いな。らしくないぜ」
「うるさいなー。たまにはあたいもセンチになるのよ」

 意味分かって使ってるのか?と黒いのは笑って。

「よし!ここは一つ、魔法使いがいい事を教えてやるぜ」

 ぱちんと手を一つ打って。
 さあ、空を見ろと氷精に促した。

 一体何さ、と渋々ながら空を見上げる。
 ぽっかり空いた、月のあと。

「あの穴は新月といってだな…」
「知ってる」

 そうか、それじゃ話が早いぜ。
 そういって黒いのは手を合わせて新月を拝み始めた。

「何やってるのさ?いきなり」
「新月に願い事をすると、叶うんだぜ」

 願い事。
 黒いのは一生懸命に何かを呟いている。

 あたいの願い事は何だろう。
 もし叶うのなら、何を叶えて欲しいだろう。

 ちょっと考えてみる。

 おいしいものが食べたい。違う。
 ずっと寒ければいいのに。そうじゃない。
 太陽と月。なんだろう。

 もやもや。ぐるぐる。
 難しい事は嫌いだ。

 でも考えなくちゃならない事の気がして。
 考えて、考えて、考えてみて。

 好きだから。好きなら。好きなんだから。

 ふっと、もやもやした気分が晴れた。

「おう、決まったか?」
「うん。あたいの願い事は…」





 太陽と月が、ちゃんと仲良く出来ますように。



 とくとくと、竹のぐい飲みに注がれる酒。
 新月に切った竹を満月に使うとは、中々風情があっていいものだ。
 特に謂れがあるわけでもないが、何となく慧音はそう思った。

「けーねー、戸棚のするめもらってもいいー?」

 聞く前から引っ張り出しているくせに、妹紅はそんな事を聞いてくる。

「…ああ、私はあまり食さないからな。いいぞ」

 どうせ答えも分かっていたのだろう。
 嬉しそうな顔をしてどっかと慧音の隣に腰掛ける。
 まあ、そもそも妹紅の為にと用意しておいたものなのだが。

「んー、良い満月だね。太陽に食べられた月が、また出てきたってところか」
「…月蝕とは言うが。月の満ち欠けとは関係ないぞ」
「でもさ」

 慧音の方に向き直って、妹紅はふふ、と笑った。

「そっちの方が何だかロマンチックじゃない?」

 言われてみれば。なるほど、と思う。
 太陽光が当たる角度の変化で起こるものだと。
 月の満ち欠けを説明するのはたやすいが。その方が――

「ああ。その方がずっと、風情がある」

 終わる事のない追いかけっこ。
 まさにそれは永遠なのかもしれない。
 目の前の少女のように。だからこそ、そんな考え方も出来るのだろうか。

 ぐい、と酒を煽って。
 二人はずっと満月を見上げていた。
名前の無い程度の能力
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2007/05/13 06:00:42
更新日時:
2007/05/15 21:00:42
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 5 乳脂固形分 ■2007/05/13 03:01:37
んー、童話としてみれば結構良いのかも。
終わり方も好きなんですけど。絵本にして見てみたい感じもするんですけど。
もうちょっとメルヒェンに、ファンシーに徹底して欲しかった。
でも東方じゃあ難しいかもしれませんね。
2. 8 A・D・R ■2007/05/13 16:30:13
最初読んだ時の第一印象が『その手があったか』でした。空に穴を〜と考えたまではよかったのですが、具体的なものが思い浮かばず(笑)確かに新月は穴ですね、脱帽でした。
お話もテンポがよく、締めもきれいで、私の趣味を直撃でした。こういった優しくて、不思議なお話は大好きです。
唯一残念だったのは、語尾の『ウサ』が気になった所位でしょうか。
3. 4 爪影 ■2007/05/16 15:18:55
 銀河に願いを、を思い出しました。
4. 6 詩所 ■2007/05/18 19:20:56
新月=穴ですが、その発想はなか(ry
短くともストーリーはしっかりしていると思います。

チルノはいい子だな〜、Hだけどね。
5. 8 ■2007/05/25 11:08:22
最初に穴の方へ飛び出したチルノが、何の理由もなく竹林に方向を変えるのがちょっと不自然でした。例えば、穴へとどんどん飛んで見たのはいいが、その内チルノの能力における限界飛行高度に達したので直接行くのは諦めて誰かに聞くことにした、とか間に挟まっているのなら問題ないと思うのですが。
その一点を除けば、いかにもチルノらしいいい話でした。馬鹿には嘘は通じないのです。
6. 3 反魂 ■2007/05/25 20:53:29
新月と月蝕は違――ただその辺を意識的に使い分けておられるのかどうかちょっと曖昧で、それ以上は何とも。

柔らかい雰囲気の良いお話でした。
7. 4 shinsokku ■2007/05/26 14:02:55
シンプルな小噺でありますな。
月も太陽も空の穴ですな。翳すことはあっても、塞ぐことは出来ない。
8. 2 人比良 ■2007/05/26 21:03:55
「おはなし」としてはそこそこ素敵。

9. 4 流砂 ■2007/05/26 21:55:59
……そーなのかー。
新月の夜は月の部分が黒くなるのかー、え? マジで?
天文学的にどう考えても在り得ない……幻想郷ではそうなのかしら? 情報不足だわ。

満月こそが空に開いた穴だという考えがあるそうですが、
新月で来るとは思いもよらなかったです。
10. 6 deso ■2007/05/26 23:44:00
難しいことはわからないけど、本質的にはわかってる。
チルノはそういう子なんでしょうね。
11. 6 blankii ■2007/05/27 11:23:48
頭の内容物が段々と氷精思考へと毒されていくようで心地良い。スキップする思考がそのまま詩的で、なんともぽえみぃなチルノを見せていただきました。
12. 5 椒良徳 ■2007/05/27 20:00:32
…は二つ並べて使い、!と?の後ろに文章が続くときにはスペースを入れるのが一般的です。
なんともいえぬ不思議な雰囲気の作品ですね。面白い発想をお持ちで。
ただ、新月が見えるというのに違和感を覚えます。新月は昼間に昇り、夜は地平線の下に沈んでいるから見えないのではなかったでしょうか。
いや、月食のことを言いたいというのでしたら別に構いませんが。
13. 7 秦稜乃 ■2007/05/28 21:37:43
凄く懐かしい感覚を思い出した気がします…
ありがとうございます。チルノが可愛い。
14. 4 らくがん屋 ■2007/05/29 10:46:49
『新月は、天上の連中が地上の人を見下すためののぞき穴』てのを思い出しました。
15. 4 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:49:19
確かに、知らなければ空に穴が空いたようにも見える、それらの天体ショー。
自然に近しい妖怪妖精なら、むしろこの反応の方が正しいのかも知れませんね。
あとがきは別に分けなくてもよかったのでは。本分でも妹紅の出てくるセクションがあるんだし。
16. 3 いむぜん ■2007/05/30 02:34:16
てゐが「ウサ語尾」かと思ったら……これはてゐのスタイルだったか。
むしろ「なのかー」ルーミアの方が。普通に会話できる子なんだけどなぁ。
話は悪くないんだけど、キャラ描写で力を感じなかった。
17. 5 リコーダー ■2007/05/30 16:05:29
何だか、全体的にロマンチックというか。
18. 5 K.M ■2007/05/30 19:00:09
チルノは馬鹿だけど、それがやはり可愛いと再々(中略)認識。
ってか、ルーミアはどうなった?w
19. 7 二俣 ■2007/05/30 21:07:00
台詞一つ一つがとても綺麗で印象に残りました。
タイトルも秀逸だと思います。
20. 4 たくじ ■2007/05/30 22:21:42
ルーミアの語尾に違和感がありました。
21. 3 藤村る ■2007/05/30 23:44:30
 チルノぽい考え方で悪くないと思いました。
 もうちょっとこねくり回した方が深みが増したような。
22. 1 時計屋 ■2007/05/30 23:47:20
初っ端から何をやっているのかよくわかりませんでした。
朴訥な幼い文体で書かれた点は良いのですが、
必要な描写まで省いてしまっているので
逆に解りづらい文章になってしまっています。

ただ、お話自体は良かったと思います。
23. フリーレス 眼帯因幡 ■2007/06/01 01:29:08
まるで夢のように取り留めのない物語でしたが、読後感がとてもよかったです。
チルノは本当に、純粋という言葉がよく似合いますね。
お疲れ様でした。5点
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード