見上げる想い

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 07:35:47 更新日時: 2007/05/15 22:35:47 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 私は、ただ空を見続けていた。

 ずっとずっと、その空に焦がれていた。


 彼女が穿った穴の中から顔を出して以来、私は空を見続けている。
 その空は決して不変の存在ではなく、常に変化し続けていたから、飽きることがなかった。

 明るくなれば、暖かな光が私を照らしてくれた。
 暗くなれば、ささやかな光がたくさん瞬いていた。
 色々な形の雲は様々に空を彩り、時には全てを覆い尽くし、冷たい雨を降らせた。


 降りしきる雨に囲まれて溺れそうになった時、助けてくれたのは……彼女だった。


 ――大丈夫?


 はっきり声を聞いたのは、それが初めてだった。
 自分はずぶ濡れになりながらも、何か白く大きなもので、雨を遮った彼女。
 まだまだ小さかった私には、その姿がとても大きく、とても強く見えた。


 冷たい雨が、苦手になった。
 だから、温かい光が大好きになった。


 いつしか空を照らす光はその強さを増し、雲は雨をあまり降らせなくなった。
 多すぎる雨では溺れてしまうけど、全く降らなければ私は渇いてしまう。


 ――大きくなあれ♪ 大きくなあれ♪


 彼女の歌声が、風に乗って運ばれてくる。
 彼女はいつもよく解らない変な物を手にして歌いながら、渇いた私に雨を降らせてくれる。
 その変な物は、高くて遠い空の色に似ていた。
 彼女が降らせる雨はやっぱり冷たかったけど、溺れるほどではなかった。


 暖かな光を求めて、空を見上げ続ける毎日。
 あの光に近付きたくて、でもどうすればいいか解らずに、ただ空に輝く光を見詰め続ける毎日。

 ――そんな日々の中で、あんなに大きかった彼女は、強さはそのままで次第に小さくなっていった。

 目線の高さが近付いて、
 いつの間にか追い越してしまって、
 どんどん彼女は小さくなっていく。


 ――ふふ、心配無用よ。


 私は言葉は話せないけれど、ふわりと浮かんだ彼女は、笑ってそう答えた。
 その時彼女が抱えていた、自分ほどの大きさの白い花が、どこかで見たようで思い出せなかった。



 白い花を抱えて、雲のようにふわふわと浮かんで、彼女が空を飛んでいく。
 時には、私を揺らす強い風に飛ばされるように、風に流されていく。

 空には雲や暖かな光だけではなく、彼女のように飛んでいるものがたくさんいた。


 私には、近づけない空。
 それでも、その空に近づきたかった。



 それは、ある日のこと。
 彼女が、空で誰かと話していた。

 彼女とは違う、空と同じ青い髪。
 それでいて、小さな彼女よりも更に小さな相手は、背中に雲のような白い翼を持っていた。
 その小さな相手は、彼女と話し終えるとまっすぐに私の方に向かって降りて来た。


 ――その相手はにこりと笑って、私を空へと連れ出した。


 そこで、私はようやく空以外の世界を見ることが出来た。
 何処までも続いていくかに思える、黄金の花畑。

 その眩しいばかりの眺めを背にし、私に手を振る彼女はどんどん小さくなっていく。
 私を抱きしめ、飛んでいる相手が精一杯叫ぶのが聞こえる。
 『ありがとう』という言葉は、頬を夕焼けのように赤くして発せられた。


 ――私はこの日、ちっぽけな穴から広大な空へと飛び立った。




「うーん……『ぶるどっく』ではちょっと足りなかったかしらね」

 大きな向日葵が豪快に引き抜かれた結果、お椀のように窪んだ地面を見て、幽香は誰にともなく呟いた。
 今はもう、先程の妖精の姿は見えない。余程遠くへ行ってしまったのだろう。

「……ふふ」

 空を夢見て太陽に向かって咲く花、向日葵。
 そんな向日葵を好む妖精なら、もしかしたら向日葵の夢を叶えるため、空の向こうにまで一緒に飛んで行ったのかもしれない。
 そんな発想が微笑ましく思えて、彼女は誰も気付かないくらい小さく笑みを浮かべた。

『かざみさん、かざみさん』

 服の袖を引っ張られて振り返れば、そこには小さな妖精が1人。

「な、なあに?」

 不意を突かれたことを悟られぬよう、無理に落ち着いた声で問う幽香。
 ――動揺している状態の声というのは、悲しいほどに隠し通せるものではない。
 今の彼女も例に漏れず、相手が博霊の巫女や他の誰かであれば、易々と看破されていたに違いない。
 しかし相手が幼い妖精であったのは、彼女にとっては僥倖だろう。

『おはな、もらっていい?』

 舌足らずな口調で問う妖精。
 先程の妖精と同様の質問に彼女は落ち着きを取り戻し、不敵な笑顔を浮かべ、

「ええ、いいわよ。ただし――」

 その小さな妖精に、優しく手を伸ばした。


「そーれっ、ぐりぐりぐりー♪」
『!?――!!』

 向日葵畑に、楽しげな声と悲鳴が響き渡る。
 育てた花を譲る見返りに、その相手を虐める大妖怪、風見 幽香。
 そんな子供っぽい一面を持つ彼女も、妖精との戯れを終えればいっぱしの農夫……もとい、農婦である。
 彼女は次の季節に向けて咲く花のために、その細い指で土に穴を空け、ひとつひとつ種を埋めていく。

 彼女の言葉を借りてその様子を表すのならば――そう。
 季節が変わるごとに、彼女の畑は向日葵になるのだ。
 ハチの巣にするではなく向日葵にすると言った幽香の(神主様の)センスに、
花映塚プレイ時はただただ脱帽するしかなかったことを今でも覚えています。

 それと、風神録に向日葵妖精が出る事に感激。
 本家ブログのこの記事がなければ、今回のコンペへの参加は見送っていたかもしれません。
 それくらいネタ出ませんでした。ええもう。
 妖精が越えていったのは空ではなくキャラリセの範囲、とか考えるとちょっと幻想分が減ったりしそうですけど。

 それでは、機会がありましたら次の季節、次回のこんぺでお会いしましょう……。
鈴風 鴻
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投稿日時:
2007/05/13 07:35:47
更新日時:
2007/05/15 22:35:47
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5.00
1. 4 反魂 ■2007/05/13 03:28:39
煙に巻いたような詩的短編は割と苦手な部類に入るのですが、この作品に描かれた世界観はかなり気に入りました。
着想点、ムード、どちらも秀逸だと思います。少々オチが呑み込めないのと、あと御題があまり生きていない気もするのでこの点数で。
清涼な作品をありがとうございました。
2. 5 A・D・R ■2007/05/13 20:35:19
向日葵妖精は私も大好きですww
意外性もなく、ゆったりと進むお話ですが、こういったお話はいいなぁ…と。
描写が丁寧だったのがよかったように思います。
3. 3 乳脂固形分 ■2007/05/13 21:22:31
ぐりぐりするのはほほえましかったです。根底に流れる雰囲気は好きです。
前半部の一人称部分が読みづらく、テンポが悪いので意味が理解しがたい。
もう少し表現や言葉を吟味してほしかったです。
4. 3 どくしゃ ■2007/05/16 04:53:39
独特のテンポが心地良かったです。
5. 3 爪影 ■2007/05/17 16:46:45
 ぶるどっく、なんだろう……
6. 8 ■2007/05/26 10:01:23
こ、これは…サド娘が悪戯お姉さんに?!
いや、こんないじめっ子もいいなあ。妖精も可愛くて良いです。
7. 2 人比良 ■2007/05/26 21:05:35
悪くはないけれど、悪さ以外の何もなく。
もう少し背丈があればなと望みました。
8. 5 流砂 ■2007/05/26 21:59:32
ひまわりぐるぐるたいあたり〜〜♪
9. 6 deso ■2007/05/26 23:38:22
幽香が一つ一つ種を植えて花を育てていくというのはとても優しいイメージです。
でも誤字(特に名前)には気をつけましょう。「博麗」ですよ。
10. 6 blankii ■2007/05/27 11:31:24
短編ながらも鮮やかな情景がとても眩しい。向日葵妖精さんと幽香さんのナイスマッチでした。
11. 7 椒良徳 ■2007/05/27 20:06:46
実に良い作品ですね。
短くまとめられているのが良い。
雰囲気がほんわかしていて実に良い。
向日葵を可愛がるゆうかりんも実に良い。
読んでいてなんだか優しい気持ちになりました。
貴方の新作に期待しております。
12. 3 木村圭 ■2007/05/27 23:45:46
舌っ足らずな妖精ちゃんとゆうかりん可愛いよ!
求聞史記の黒すぎる笑顔を忘れてしまいそう。どちらかがポーズなのかもしれないし、どちらもが彼女なのかもしれない。どちらにしても間違いないのは、幽香が花も妖精も人間も好きってことでしょう。
13. 6 shinsokku ■2007/05/28 00:26:21
視点と空気の流れ方が凄く幻想っぽいですな。
好みでございます。
風神録だとちょっと固くてイラッとするやら信仰が持続できて助かるやらで微妙な存在ですが(笑)。
14. 5 らくがん屋 ■2007/05/29 10:41:38
これ読んで某幽香×ひまわりを連想する俺はダメだと思う。でも素直に感心したのでわりと高評価です。
15. 5 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:52:36
相手によって対応を変える幽香は求聞史紀に書かれている程ほど恐ろしくないですが、やはり向日葵畑の主なのだろう。とか。
鼻歌を歌いながら向日葵畑をうろうろしている様が目に浮かびます。
ちょっといい感じのお話。
16. 4 いむぜん ■2007/05/30 02:37:28
珍しい視点? そして地味にありそうだ。うう、ゆうかりんのツンデレ度数が上がっていく。
でも、今回の向日葵妖精はちょっと元気がいいぞ?
17. 3 ■2007/05/30 03:39:44

ほのぼのしててなごみました〜。気持ちよく読めましたです〜。
18. 7 リコーダー ■2007/05/30 16:03:05
ぐりぐりにやられた。
19. 5 眼帯因幡 ■2007/05/30 17:56:34
向日葵妖精の誕生ですか……それにしてもこの幽香、可憐過ぎである。
穴だらけになる、そう考えると向日葵にするというのは巧いかもしれませんね。
お疲れ様でした。
20. 6 秦稜乃 ■2007/05/30 20:22:32
これは良い向日葵妖精。
花映塚ではコンボに使ってごめんよ(´・ω・`)
21. 7 K.M ■2007/05/30 20:49:00
幽香さんと妖精のやり取りで癒されました。
22. 4 二俣 ■2007/05/30 21:20:31
原作台詞を真摯に受け止める姿勢に好感を持ちます。
23. 5 たくじ ■2007/05/30 22:17:07
ぶるどっくってそういうことか。引っこ抜いてしまう強引さがチルノかわいいよチルノ。
24. 4 藤村る ■2007/05/30 23:49:41
 いい感じです。
 他にあんまり感想が……穴は弱いかな。
25. 2 時計屋 ■2007/05/30 23:49:59
短いですが良いお話だと思います。
ただ文章が簡素なのでもうちょっと工夫をしてみてください。

あと、お題に沿った内容とは言い難いため、
次回以降参加されるときは気をつけてください。
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