雪が降る頃

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 08:11:40 更新日時: 2007/05/15 23:11:40 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



 冬というのは、優しくない季節だ。
 脆弱な人間達にとって、冬の寒気は大きな脅威である。多くの人間が、春を迎えることなく永遠の眠りにつく。
 だが、そんな厳しさを乗り越えていく強さを持つ者にだけ、明日を生き、未来を築いていく資格がある。
 だからこの季節が、死にゆく者達にひとかけらの優しさも見せることのない、冷たい季節だとしても。
 仕方が無い。それは彼らのために必要なことなのだと。
 彼女はずっとそうやって、自分を納得させてきた。


          *


 一口に幻想郷と言っても、その環境は地域によって様々だ。同じ冬であっても比較的過ごしやすいところもあれば、春が来るまでずっと雪に閉ざされてしまうような場所もある。
 そして、その里は後者の典型だった。山の中腹を切り開いて作ったようなその里は特に寒さが厳しく、一度降り積もった雪は春まで溶ける事がないため、積雪は人の背丈ほどにもなる。ちゃんとした装備がなければ歩くのもままならないほどだ。
 当然、外を出歩く人影など皆無であり、どの家も固く扉を閉じ、春の訪れをじっと待っている。
 ところがその静寂を破り、ある家の窓がわずかに開いたと思うと、一人の少女がひょっこりと首を出した。
「わぁ、今日はいい感じに晴れたね〜」
 青く澄み渡る空と、その光を反射してきらめく雪景色を眩しそうに見渡す。と、窓から入ってきた寒気にあてられたのか、彼女は寒そうに身を一つ震わせると、すぐに引っ込んで窓を閉めた。


          *


 少女は、綺麗というより可愛いと言った方が適切な、まだ幼い年頃の女の子である。
 家の中に戻った彼女は、窓にきちんと鍵をかけると、部屋の横手にある引き戸を開き、中を覗く。
 それは続き部屋との仕切りであったらしく、開いた先にも部屋があった。その部屋には布団が一枚敷かれ、中には一人の女性が横たわっている。その人は静かな寝息を立てて穏やかに寝入っているように見える。
「今日はお母さんの具合もよさそうだし……」
 少女はその様子を見て呟くと、元の部屋に戻り、何やら身支度を始めた。
 厚ぼったい外套を羽織り、手には毛糸の手袋。首には襟巻きを巻く。少女は外に出かけるつもりなのだろうか。この厚い積雪で覆われた山中に、一体何のために。
 さらに奇妙なことに、彼女は雑貨が詰まっているとおぼしき背負い袋に加えて、自分の背丈ほどもある大きなシャベルを肩に担ぎ上げる。そして先ほどとは別の方の扉を開いた。
 その部屋では、一人の男がやかんに湯を沸かしていた。年の頃からすると、少女の父親だろうか。彼は入ってきた少女に気付いて振り返り、
「今日もいくのか?」
 と声をかける。どうやら少女がシャベルを担いで雪山に出かけるのは初めてのことではないようだ。
 少女は彼の言葉に笑顔でうなずき返し、
「うん、最近天気が悪い日が続いて出られなかったから、今日は頑張るよっ!」
 と言って、ガッツポーズのつもりなのかシャベルを持つ手を高く掲げる。
 男はため息をひとつついて、
「気をつけるんだよ。雪山はお前が思ってるよりずっと危ないんだ。それに冬だからって、悪い妖怪と鉢合せしないとは限らないんだからね」
 と忠告する。本心では少女を引き止めたいようだが、それはもう諦めているらしい。
 少女はその声を軽く聞き流しながら玄関に向かい、雪の上を歩くために特殊な形状をした靴を履く。そして靴紐を結びながら、背後の父親に向かって言葉を返した。
「わかってるって。それじゃあ、お母さんの面倒お願いね」
「ああ、それは父さんに任せとけ。なに、心配することないさ。お前もこんなに頑張ってるんだ。きっとすぐに母さんの具合もよくなる。だからお前はあんまり気にするなよ?」
 少女は内心で苦笑した。気にするなと言われても無理な話だ。気になって居ても立ってもいられないから、今こうして雪山に行こうとしているのに。
「それじゃいってきまーす!」
 最後に元気よく父親に別れを告げると、少女は、どこまでも果てしなく白い、冬の幻想郷へと足を踏み出した。


          *


 木々の間を縫って少女は歩く。シャベルを器用に使ってところどころ邪魔な枝を払いながら進む姿は、手慣れたものだ。
 そうして雪山を進む彼女がやがて立ち止まった場所は、少し木々がひらけてちょっとした広場のようになっている所だった。だがそれ以外に特筆するような何かがあるわけでもない。
「よし、今日はこのあたりにしようっと」
 少女は荷物をおろし、羽織っていた上着を手近な木にかけると、持ってきたシャベルを握り、一面に厚く降り積もった雪を掘り返しはじめた。
「よいしょ、よいしょ」
 それは一見雪かきのようだったが、しかし彼女がシャベルを振るっているのは人っ子一人いない山の中である。さらに掘り返し方にはまったく節操がない。直径1メートル程度の穴をぞんざいに掘り続けて、黒い地肌が見えると、かきのけた雪の山もそのままにまた適当な場所を新しく掘り始める。その繰り返しだった。
 結果として、まっさらだった雪面に不恰好な穴がぼこぼこと開くことになる。
 そうやって一人黙々とよくわからない作業を続けていた少女が、最初に異変に気付いたのは、3つ目の穴を開け終えて、一息ついていた時だった。
「あれ、なんだか冷えてきたかな……?」
 少女は首をかしげて、空を見上げてみる。
「曇ってきたわけでもないのに……へんなの。まあでも、体を動かしてればちょうどいいか」
 少女は木にかけられた上着を取って羽織りなおすと、再びシャベルを振るい始めた。
 しばらくはそれで気にならなかったが、しかし寒気は次第に強くなっていく。なんだか嫌な予感を感じ、今日はもう切り上げて家に帰ろうかと少女が考えた時。

「ねえ、あなたは一体何をしてるの?」

 突然かけられた声に少女は驚き振り返った。
「あーあ、こんなにぼこぼこ掘っちゃって。せっかくのきれいな雪景色が台無しじゃない」
 そこに立っていたのは、雪のように白い肌をした一人の女の人だった。
 雪山を歩くにはどう見ても準備不足と言わざるを得ない軽装に、透き通るような薄手のマントをなびかせ、雪景色の中にたたずむ姿。
 それを、少女はのん気に、きれいな人だな、と思った。
「ご、ごめんなさ……あれ?」
 呆れた顔をしてこちらに歩いてくるその女性に、反射的に謝ってしまった少女は、奇妙なことを感じた。彼女が一歩近づいてくる度に、身を包む寒さがさらに強くなるように感じるのだ。
「こんなところで雪遊びしてると、遭難しちゃうわよ?」
 白い女性は、少し離れたところの倒木に腰を下ろして微笑んだ。
 少女は真冬の雪山でいきなり人と出会ったことに少なからず動揺していたが、黙っているわけにもいかないので、とりあえず最初の質問に答えることにした。
「えっと、あのね、わたしは花を探してたの」
 その答えに白い女性は目を丸くした。
「花? こんな真冬の雪山で?」
 当然の疑問だった。彼女は辺りを見回す。スコップを握った少女に掘り返された場所を除けば、地面はどこも雪にすっぽりと覆われていて、どう考えても花など咲くはずがない。
 彼女の訝しげな表情に答えて、少女が言葉を続ける。
「わたしが探してるのは、ちょっと特別なお花なの。お姉ちゃんは、ユキノシタっていうお花、知ってる?」
 女性は首を横に振り、先をうながす。
「わたしの村に言い伝えがあってね……細かいところはよく覚えてないんだけど……」

 少女の語るところをまとめれば、こんなところだ。
 昔あるところに、働き者の狩人がいた。その男は冬も仕事を休むことなく、雪山に分け入って猟をしていた。
 そんな男の姿を、ひそかに見つめる視線があった。その視線の主は、その山に古来より住みついているという雪女であった。
 男に惚れた雪女は、自分の正体を隠して男のもとを訪ね、結ばれる。
 しかし人間と妖怪の生活がうまくいくはずもなく、やがて男は、雪女の妖気にあてられて病に倒れてしまう。
 村人達がもう手の施しようがないと諦めたとき、雪女は何も言わずに突然村を出て、雪に閉ざされた山へ入っていった。
 驚いた村人があとを追いかけると、雪女はか細い手で雪を掘り返し、あらわになった地面から何かを拾い上げていた。
 何をしていたのかと村人が問うと、雪女は自分の正体を明かし、先ほど拾い上げた何かを村人に渡した。それは小さな白い花であった。雪女は、これはよく効く薬草であるから、煎じて夫に飲ませてやってくれと告げると、そのまま忽然と姿を消してしまった。
 村に戻った村人が、駄目で元々と、言われたとおりに花を煎じて男に与えると、たちまち病が治り、元気を取り戻した。
 以来、この村では降り積もった雪の下で咲くというこの伝説の花をユキノシタと称し、万病に効く薬草として言い伝えられているという。

「そういうわけで、わたしはその花を探してるの」
 語り終えた少女は一息つくと、少し寒そうに体をさする。
「ふーん……」
 白い女性はいぶかしげな顔で少女を見る。
「むー、やっぱりお姉ちゃん、今の話、信じてないでしょー」
 少女は頬を膨らませて言う。白い女性は苦笑して、
「そんなおとぎ話をいきなり信じろって言われてもねえ……でも、薬草を探してるってことは……」
 少女はうつむいて、小さな声で語る。
「……わたしのお母さんがね、風邪をこじらせちゃって……村のお医者さんの話だと、今年の冬は特に寒さが厳しいから、弱った体じゃ危ないかもしれないって……だから、わたしがユキノシタを見つけて、早くお母さんの病気を治してあげるの」
 少女は手にしたシャベルをぐっと強く握り締めて、再び雪を掘り返しはじめた。
(それにしても、なんだか急に寒くなってきたなぁ……じっとしてたら凍えちゃいそう)
 ざくざくとシャベルを振るう少女の姿を見つめながら、白い女性がぽつりと呟いた。
「そう……それじゃ……あなたは、冬が嫌い?」
 少女は突然の質問に、手を止めて振り返った。
「こんな季節がなければ、あなたのお母さんも病気で苦しまずに済む。こんな冷たく厳しいだけの季節なんてさっさと終わってしまって、早く春になってしまえばいいと、そう思う?」
 少女は手を止めて、思案するように首をかしげる。
「うーん……そっか、そういう風に考えたことはなかったなぁ」
 そのままうんうんと首を捻って悩む。突然投げかけられた、意図のよく解らない質問に、少女は少女なりに真剣に答えようとしているようだった。
 やがて、得心したように笑う。
「うん、でもやっぱり嫌いってことはないなぁ」
 白い女性は、無表情に問い返す。
「どうして? 何一ついいことのない季節なのに?」
 少女ははにかんだ笑みを浮かべて、たどたどしく答える。
「わたしね、一年の中だったら、やっぱり春が一番好きなんだけど、その次に好きなのが冬なの。もうすぐ春になるかなあって、雪が溶けて外で遊べるようになったらどんなことしようかなって、わくわくしながら待つのが楽しいから。
 お母さんのことだってね、今はつらいけど、元気になったらお父さんとみんなで遊びにいこうって約束したの。お母さんも、お父さんも、わたしだって一生懸命頑張ってるから、絶対よくなるって信じてるの。
 春が楽しくて嬉しいのもきっと、その前に冬があるからだと思うの。だから私は、つらいことがあっても冬を嫌いになったりしない、と思うの」
 言い終えると、少女は照れくさそうに笑って、
「変なこと言ってるかな、わたし?」
 白い女性は答えない。ただじっと、少女の瞳を見つめている。
(や、やっぱりおかしかったかな?)
 少女は奇妙な沈黙に居心地の悪さを覚えて、とりあえず話題を変えるため、ずっと気になっていた疑問を投げかけてみる。
「ねえ、お姉ちゃん、そんな薄着で寒くないの? 私なんか、これだけ着てても震えちゃうくらいなんだけど……」
 さっきまで動いていた分、流れた汗が冷えたのだろう。それに加えて、この女性が現れてから気温はどんどん下がるばかり。少女ははたから見ても寒そうにぶるぶる震えていた。
 何か物思いにふけっていたような白い女性は、はっと我に返り、
「え? あああ、ごめんなさい。私、意識してなくても勝手に寒気を撒いちゃうの。これ、自分でもどうにも抑えられなくてね」
 彼女は立ち上がって服の汚れを払い、
「そうね、あなたもかなりしんどそうだから、私は消えるとしましょうか。もし明日も山に来るつもりだったら、今度はもっと厚着してきてね?」
 そう言ってから、彼女は少女の姿を一瞥して、
「今のあなた、頭が寒そうだから、今日はこの帽子貸してあげる」
 そう言うと、彼女は自分のかぶっていた帽子を脱いで、少女の頭の上に乗せた。白くて丸い、可愛らしい帽子だ。
 少女は目をぱちくりとさせて、
「あ、あの、お姉ちゃん? 話がよく解らないんだけど……」
 白い女性は悪戯っぽく笑って、
「あらあら、気付いてなかったの? じゃあ自己紹介しないとね」
 その時、一迅の風が吹き、粉雪が舞った。
 少女は思わず目を閉じて、頭にかぶせられた帽子を押さえる。
「私はレティ。寒気を操る冬の妖怪よ」
 そして少女が再び目を開けたとき、そこに白い女性の姿はなかった。


          *


(どうしよう……)
 夜、少女は布団の中で悩んでいた。
 結局あの後、なんだか疲れたのでさっさと家に帰ってきて、今はこうして今日の出来事を思い返している。
(妖怪さんに遭っちゃった)
 妖怪。強大な力を持って人に害なす、自分達の天敵。
 その恐ろしさは両親からことあるごとに教えられてきた。もし妖怪に遭ったらすぐに逃げろ、でないとパクりと食べられちゃうぞ……。
 今朝だって、父親は妖怪と出遭うことをずいぶん心配していた。もちろん、今日のことはまだ誰にも話していない。話せば絶対外に出してくれなくなるだろう。
(でも、悪い妖怪さんじゃなさそうだったし……)
 自分に危害を加えようとする素振りはなかった、と思う。いやまあ、あやうく凍え死ぬような思いをさせられたのだが、彼女の言葉を信じれば、それも意図してやったことではないらしい。
(でも、やっぱり怖い……)
 今日はたまたま機嫌がよかっただけで、次もそうである保証はないのかも知れない。何かの拍子で機嫌を損ねれば、次の瞬間にはカチコチの氷漬けにされてしまうかもしれない。そうでなくても、無意識に発する冷気だけであの威力だ。人間の、それも彼女のような幼い女の子が近づくにはあまりにも危険が大きいだろう。
(どうしよう〜……)
 わざわざ厚着で来いと指定してくるからには、また山に行けばきっと向こうから接触してくるつもりなのだろう。
 あの人に会いたくないのなら、このまま家に閉じこもっていればいい。妖怪は物事に頓着しないという。少し日が経てば、向こうは自分のことなどすぐに忘れてくれるだろう。
 行くか、行くまいか。それが問題だった。


          *


「やっぱり、借りたものは返さないといけないよね」
 そういうことになった。
 少女は忠告通りに上着を一枚増やして、自前の帽子を用意し、さらに念のため背負い袋に肩掛け等を詰め込んで出かけた。借りた帽子も一緒に背負い袋の中に入れてある。
 正直言うと、体が重い。
 妖怪に会いに行くというのは、どう考えても勇敢を通り越して蛮勇だ。緊張のせいだろうか、歩む速さも遅々としたものになる。
 レティというあの人に会ったら、まずどうしようか。やっぱり機嫌を損ねないよう、ご丁寧に挨拶からだろうか。しまった、それなら何かお土産を用意しておくんだった。礼儀知らずと怒られてカキ氷にされちゃったらどうしよう……。
 くだらない妄想を巡らせながら、昨日とは違う道筋を歩いていく。彼女は毎日気ままに山へ分け入って(もちろん帰り道を見失うようなヘマはしないように工夫をしている)、たまたま掘りやすそうな場所が見つかったら、そこで荷物を降ろしてシャベルを振るう。一度掘った場所で何度も掘りなおしても、探し物が見つかるわけがないので道理である。
 そんな風にうろうろしていると、ふと珍しいものが目に入った。
「あれ? こんなところに……りんごの木?」
 気になったので近づいてみると、周りの木をわざわざ切り開いたような跡まである。となると、この木も隠棲した賢者か誰かが植えたものなのだろうか。
 頭上の枝を見上げてみる。真冬ゆえに葉はすべて落ち、かわりに雪をかぶった寒々しい姿をさらしていたが、
「おおっ、まだ実が残ってる!」
 もう冬も深いこの時期、普通ならどの実も地面に落ちて土になるか、鳥獣の餌になっているかしているところだが、しぶといりんごが5〜6個、なんとも往生際悪くぶらさがっていた。
「登ってもぐのは……難しそうだなぁ」
 その木の高さは、少女の背丈の優に二倍はある。残っている実はどれも高い場所にあり、手はとても届きそうにない。
 少女は幹に手をついてゆさぶってみるが、りんごは落ちてこない。かなり熟れているはずだし、あと一押しだとは思うのだが。
「……よしっ」
 少女は何かを決意すると、ざくざくと足元の雪を踏み固め始めた。
 固い足場ができると、出し抜けに右の靴を脱ぎ捨て、膝を高く上げる。
 大きく深呼吸。そして、
「ちょおおりゃあああ〜〜〜〜〜〜〜!」
 強烈なヤクザキックをお見舞いした。
 いきなりふるわれた刹那の怪力に、りんごの木がみしりと嫌な音を立てる。あわやへし折れるかと思われたがなんとか持ちこたえ、一拍置いて赤い果実達がたまらずにぼとぼとと雪の上に落ちた。
「やたっ、大成功!」
 少女はにこやかに笑って脱いだ靴を履きなおすと、雪面に埋もれた戦利品を拾い集める。収穫は、とびきり大きくていかにも甘そうな完熟りんごが5つ。
「これでお姉ちゃんへのお土産もできたし……あ」
 収穫物をしまおうと背負い袋を取り上げた時、少女は気付いた。予備の防寒具を詰め込んできたため、背負い袋はすでにぱんぱんにふくれていて、りんごを入れる余裕がない。さすがに5つものりんごを両手に抱えたままで山を歩くのは難しい。
 とりあえず何か入れ換えられるものがないかと思って背負い袋を開き、真っ先に出てきたのは、昨日レティにもらった丸い帽子だった。
 それを見て、少女は少し考え込むと、
「……これでいっか」
 とつぶやいて、取り出した帽子をひっくり返すと、その中にりんごをぽいぽい放り込んだ。
 借り物の帽子を荷物袋代わりにするのはどうかと思うが、この子にはそういう感性はないらしい。
「よし、これなら片手で抱えられるし、大丈夫そう」
 少女はもこもこ膨らんだ帽子を脇に抱え、右手のシャベルを杖にして再び歩き始めた。


          *


 その日は、いい場所がなかなか見つからず、随分と長く雪山の中をさまよい歩く羽目になった。
「あ〜、まだ何もしてないのに疲れたぁ……」
 余計な荷物があるせいか、あるいは慣れない厚着をしているせいか、どうもいつもより疲労が大きい。ようやく手頃な場所を見つけたときには、もうくたくただった。
 少女は穴掘りを始める前に一休みすることに決めて、雪面から顔を出している大きな岩に腰を下ろす。
(これでわたしの勘違いだったらばかみたいだなぁ)
 少女はいまさらになって、あの女性が本当に現れるのか確信が持てなくなってきた。そういえば、今こうして待っているのは昨日とまったく違う場所だ。もし自分を見つけられずに困っていたら申し訳ないなあなどと考えを巡らせていると、疲労のせいかだんだんまぶたが重くなってきて……。


          *


「こらこら、こんなところで寝てると永眠しちゃうわよ?」
 ぼやけた頭に響く声で、意識が引き戻された。とりとめもない考え事をしている間に居眠りしてしまっていたらしい。
 ぼんやりとした意識で最初に感じたのは、辺りがかなり冷え込んでいることだった。
「さむ……」
 思わずぶるりと身を震わせる。だがそのおかげでだいぶ頭がはっきりとしてきた。横でしゃくっと何かをかじる音が聞こえたのでそっちに目を向けると、あの白い女性が、かじられて半分に削れたりんごを手にして口をもぐもぐ動かしていた。
「あ、そ、それ……」
 レティはごくんと喉を動かすと、手にしたりんごに視線を落として、
「あら、食べちゃいけなかったかしら。あんな風に置いてあったから、てっきり私へのお供え物かと思ったんだけど」
 と言いながら視線を横に動かす。少女がその視線を追うと、そこにはレティの帽子に盛られたりんごが3つ。あれ、3つ?
「あ、いえ、いいんです、そのつもりでしたから……」
 少女が再びレティに視線を戻すと、彼女がきれいに食べ終えたりんごの芯を放り投げるところだった。
 放物線を描いて飛んでいくそれを目で追いながら、
(さ、さっき見たときはまだ半分しかかじってなかったはずなんだけど)
 少女は困惑したが、まあ寝惚け眼でなにか錯覚したのだろうと、自分を納得させた。
 レティは置かれた帽子の中からりんごを二つ取り上げて、一つを少女の方に差し出し、
「あなたもひとつくらい食べたら? 甘くておいしいわよ」
 差し出された手には、思わず緊張してしまったが、
「あ、はい、いただきます……」
 そう答えて素直に受け取ることができた。渡されたりんごはキンキンに冷えていた。
 少女はりんごを見て、どうやって食べようか少し悩んだ。このまま丸かじりしてしまってもいいのだが、確か荷物の中にナイフが入っていたはずだ。この季節には珍しい食べ物なのだし、せっかくだからちゃんと皮をむいておいしく食べた方がいいだろうと考えた。それならレティの分もむいてあげようと思い、彼女に向かって
「あの」
 りんごの皮むきましょうか、と言おうとして途中で絶句した。
 少女がレティの方に振り向いた時、彼女は袋代わりにしていた例の帽子を手にとって、ぱたぱたと埃を払っていた。彼女の手の中にあるのはそれだけだ。そう、ならばさっきレティが手にしたりんごは、どこへいったのか。帽子の中に残っていたはずの最後の一つは、どこに消えたのか。
 まさか食ったのか。食い尽くしたのか。少女がこの女から目を離したほんの一瞬の隙に、跡形も残さず処理してしまったというのか。これが、妖怪の力なのか。なんということだ。少女は戦慄した――――。
 レティは帽子を頭にかぶると、少女に笑いかける。
「うん? なにかしら?」
 茫然自失していた少女には、
「い、いえ、なんでもないです、はい」
 そう答えるのが精一杯だった。
 少女は律儀に皮をむくのがなんだか馬鹿らしくなったので、やっぱりそのままかぶりついてしまうことにした。
 レティの冷気でりんごシャーベットになっていたら文字通り歯が立たないところだったが、幸いそんなことはなかった。熟れすぎなくらい熟したりんごは、とても甘くておいしかった。やたらべたべたするのが難点ではあったが。
 りんごと格闘を繰り広げる少女に、レティが話しかける。
「しかしまぁ、あなたも奇特な人間ね。妖怪がいるって知って、わざわざ出かけてくるなんて普通じゃないわよ」
 少女は口の中のりんごを飲み下して、
「でも、お姉ちゃんはそんなに悪い人じゃなさそうだったし……わたしのこと食べちゃったりしないでしょ?」
 レティは苦笑する。
「そういう問題じゃないんだけどね、普通は……。まあいいわ」
 レティは立ち上がると、雪面に足を踏み出す。その足は不思議と雪に沈むことがない。
「そうね、確かに私はあなたに危害を加える意思はないかもしれない。でも、だから無害ですってことにはならないでしょう?」
 少女はきょとんとする。
「? どういうこと?」
 レティは思わず額を押さえてうなだれる。
「あのねぇ、自覚ないの? あなた、さっきからずっと震えてるじゃない。はたから見ても寒そうでしょうがないわよ」
 少女は言われて気付く。妖怪と話す緊張からか、あまり寒さを感じていなかったが、レティが現れてから気温は一気に急降下している。彼女が心配するほどに寒いとは感じないものの、自分の手を見れば確かに震えているのがわかる。
 少女は急いでりんごを食べ終えると、背負い袋からありったけの防寒具を取り出して着込んだ。動きに影響が出るくらいの重装備だ。それだけ着込んでもまだ暖かいとはいえなかったが、もしここで寒いと口にすれば、レティは昨日のように消えてしまう気がした。だから、我慢することにした。
 レティはそんな少女の様子を眺めながら、
「そんなわけで、私は望むと望むまいとに関わらず、周りに迷惑をばらまく存在なの。だから普通は、みんな私に近づきたがらない。私から逃げようとする」
 レティは少女に背を向けた。その表情を見られまいとするように。
「それに私も妖怪だからね。時には人間を殺すこともあるわ」
 その言葉に少女は身を硬くする。
「雪山に迷い込んできた人間を追いかけ回してね。無事に里まで逃げられればよし。私の冷気に耐えられなくなって足を止めたら、おしまい。そんな感じのことをよくやるの」
「……どうしてそんなことするの?」
 少女のその言葉は、聞きようによっては非難と受けとられるかもしれない。しかし彼女は、純粋に不思議だったのだ。目の前の女性はとても優しそうで、そんな風に人間の命をもてあそぶような人には思えなかったから。
 少女なりに理由を色々考えてみても、答えは出そうにない。だけど一つだけ言い切れることがある。
 レティが答える。
「ふふ、妖怪が人を狩る理由なんて二つだけじゃない? 一つは食べるため。とはいえ、私はそんなに人食い好きじゃないけどね。そうじゃないなら、もう一つの方……」
 少女はレティのことをたいして知らない。昨日出会ったばかりで、交わした言葉も多くはない。だけど一つだけ言い切れることがある。
「遊び、よ」
「嘘、だよね」
 少女は断言する。レティは絶対に、面白半分で人を傷つけたりするような人じゃないと。
 レティがくすりと笑った。
「どうしてそう言い切れるの?」
 彼女は少女を試すように問い返す。
「それは……」
 少女は思い出す。初めて彼女に会った時、寒そうだからといって帽子をかぶせてくれたこと。
 自分がいると体を冷やしてしまうからといって姿を消したこと。
「あなたが……」
 信じられないくらい大喰らいなくせに、貴重なりんごを分けてくれたこと。
 一つひとつは、たいしたことではない。単なる妖怪の気まぐれといってしまうことは簡単だ。
 けれど少女は、それらの小さな行為の奥に、レティの確かな優しさを感じ取っていた。
「あなたが、お母さんみたいだから」
 背中を向けたままのレティをまっすぐに見つめて、少女は言う。
「どんな時でも優しい、お母さんみたいだから。だから、お姉ちゃんが悪いことをするのにも、何か優しい理由があるんだと思うの」
 レティの答えはない。振り返ることもなく、何かを噛みしめるように立ち尽くす。
 少女も黙ってその後ろ姿を見つめる。
 そうして、しばらくの静寂が流れたあと。
 レティが、ぽつりと呟いた。

「私は、優しくなんてないわ」

 背筋の凍りつくような冷たい声で。


          *


「私が生まれたばかりの頃。よく冬という季節が何のためにあるのか考えてたわ。私は冬の化身みたいなものだから、それが私の存在意義につながることでもあると思ったから」
 レティは空を見上げながら、独り言をつぶやくように語る。少女は何を言う事もできず、ただじっと彼女の声を聞いていた。
「冬は、一年のうちでもっとも多くの生き物が死ぬ季節よ。食べ物もろくに手に入らず、大地は雪に閉ざされて出歩くこともままならない。あなたのお母さんのように、寒気にあてられて体を壊す者もたくさんいる」
 淡々と言葉を紡ぐレティの声に、今までのような温かみはない。少女は彼女の言葉を一言も聞き漏らすまいと、震える体を抑えつけて耳をすます。
「幻想郷はね、優しくないの。弱い者、生きる力のないものは容赦なく命を奪われていく。この世界で生きていけるのは、いろんなつらい事、厳しい事に耐えて、成長して、自分で生きていける強さを身につけた者だけなのよ。私は、冬っていうのはそういう世界の優しくないところをひとまとめにした季節なんだって思った。そうやって冬がすべてのつらさや悲しみを引き受けてくれれば、残りの3つの季節はみんなが幸せに過ごせるでしょう?」
 それは憎まれ役だ。春が明るく、夏が楽しく、秋が豊かであるために、そうでないものはすべて冬に集めてしまおうと。そして、自分が背負っているのはそういう季節なのだと、彼女は言う。
「そう気付いてから、私自身も冬のように生きようと決めた。弱い者には、せめて安らかな死を。強い者には、さらなる苦難を。それは簡単なことだったわ。私は、冬の厳しさが人の形をして歩き回っているようなものだもの」
 だから自分も憎まれ役になるのだと、彼女は言う。巡りあうものすべてを凍てつく寒気で出迎えて、それゆえに誰からも逃げられ疎まれて、時には石を投げられて。それでもそれが自分の役目なのだと。
「私は、これからもずっとこんなことを続けていく。みんなをいじめて、傷つけて、時には命まで奪って。だから私は……優しくなんてない。優しくなんて……なれないの」
 そういってレティがうつむいた時、ずっと黙っていた少女が、こらえきれなくなったように叫んだ。
「どうしてっ……! お姉ちゃんが、そんなことしなくてもいいじゃないっ……!」
 少女は、泣いていた。
 彼女には、レティの言うことは全然理解できなかった。納得なんて絶対したくなかった。
 わかったことは、レティはやっぱり優しい人だということ。なのによくわからない理屈をこねて、わざわざ皆を傷つけるようなことばかりしているということ。
 もし彼女の理屈が正しいとしても、それに彼女が付き合わなければならない理由が全然わからなかった。
 レティは哀しげに微笑む。
「私は冬の妖怪だから。生き方を自由に選べるあなた達人間と違って、私たちには決められた生き方があるの。私は冬の妖怪だから冬のように生きる。好きとか嫌いとかじゃなくて、そういう風にしか生きられないの」
 それはきっと、彼女が今まで何度も自分自身に言い聞かせてきた言葉なのだろう。たとえ違う生き方を望んだところで、妖怪としての力と宿命が、それを許さない。その定めを受け入れられるようになるまでに、彼女は一体どれだけの涙を流してきたのだろう。
「そんな……の……そんなの……おかしい、よ」
 ずっと少女に背を向けて語っていたレティが、ゆっくりと振り返った。その顔は、いつものすべてを包み込むような笑顔に戻っていた。
「あらあら、あなたが泣くようなことじゃないのよ? 私はこの季節が大好きだし、自分の力を誇りに思っているもの。この厳しさを乗り越えて、みんな一回りも二回りも大きくなっていくの。そういうのを見てると私も嬉しいから」
 少女をあやすようなその声に、先ほどまでのような暗さはまったくない。いつもの優しげな声で少女に語りかける。
「そんなの、じゃ……ダメ……ぁ…だよ」
 途切れ途切れに、少女は必死で言葉をつなぐ。
 レティは、そんな少女に歩み寄りながら語りかける。
「あなたが冬は嫌いじゃないって言ってくれた時、自分が誉められたみたいに嬉しかったわ。そんな風に言ってもらえたの、はじめてだったから。私はそれで十分よ」
「ちがう、よ……はぁ……おねえ……はぁ……ちゃん、は――――」
「……? ちょっと、どうしたの?」
 レティは少女に駆け寄る。少女の声が切れぎれなのは涙のせいだと思っていたが、どうも様子がおかしい。
 そして、うずくまる少女の姿を見てレティは愕然とする。少女は防寒具の上からでもはっきりとわかるほど震えていた。尋常な震え方ではない。レティは少女の額に手をあてる。
「! ……すごい熱……バカ、なんでこんなになるまで何も言わなかったの!」
 レティは、もし少女がつらいと言えばすぐに立ち去るつもりだった。この子と一緒にいたいと思う以上に、この子を傷つけるようなことだけはしたくなかったから。
 レティは自分の知識と経験から、これはただの風邪なんかではない、もっと危険な病気だろうと判断した。レティの寒気で体の抵抗力が弱っていたところをやられたのだ。いきなりこんな激しい症状が出るはずはないから、おそらく昨日の時点ですでに……。それなら、きっと今日だって、体がだるいとか何か兆候があったはずだ。それなのに、なんでこの少女はこんな無理をしたのだろう。
 さっきまで一見平常に見えていたのは、ただのやせ我慢に過ぎなかったのだ。少女は、今では見るほうがつらくなるほど苦しげに息を継ぎながら、なんとか声を絞り出す。
「だって……言えるわけ、ないよ」
「どうしてよ!」
 レティは反射的に怒鳴ってしまった。少女は身をすくめて固くまぶたを閉じると……溜め込んだ思いを一気に吐き出すように、かすれた声で叫んだ。

「……お姉ちゃんがいると寒いから帰ってよ、なんて……そんなひどいこと言えるわけないじゃない……!」

 この人は、ずっとそんな風にみんなから疎まれてきたのだ。
 本当はとても優しいのに。みんなに優しく接してあげたいと思っているのに、そうやって差し伸べた手は、誰からも拒まれて。
 自分ではどうしようもない力があるせいで、誰からも嫌われて。
 だから彼女は、望みもしない生き方を自分に押し付けるようになってしまった。
 そんなのは理不尽だと思った。そんな理不尽が許せなかったから、だから意地でも彼女を遠ざけるようなことは言いたくなかった。
 誰かひとりでいいから、彼女の笑顔に笑い返してあげる人がいなければ、あんまりだと思った。

 レティは苦々しげに唇を噛みしめる。
「……このバカ。他人のことより、まず自分を大事にしなさいよ……!」
 叱りつけてやりたい気分だったが、今はそんな場合ではない。こんな雪山の中にいては、少女は衰弱していくばかりだ。急いで里に帰さなければいけない。里には人間の医者もいるだろうし、しかるべき処置を施してくれるはずだ。
 レティは震える少女を抱え上げようとして、一瞬ためらった。寒気を撒くレティの体質。周囲に及ぼす影響だけでも相当なものなのに、じかに抱きかかえたりすればどれだけの冷たさになるのか。それが今の少女にとってどれだけの負担になるのか。
 だが、少女をここに残して運び手を探してくるのでは時間がかかり過ぎる。よしんば都合よく人手が見つかっても、人間の力では少女を山から降ろすのも大仕事だろう。少女の容態は一刻を争う。愚策であっても、他に手段がないのではやむを得ない。
 レティが抱き上げると、少女は苦しそうにうめいた。
 さっきは自分で誇りだとか言ってたくせに、今はこの力が憎らしくてしょうがなかった。


          *


 空から見下ろすと、少女の里の場所はすぐにわかった。
 妖怪達にとって、この程度の距離はひとっ飛びだ。抱きかかえた少女に負担がかからないようゆっくり飛んでも、あっという間の到着である。だが、それからが問題だった。
 レティは妖怪である。人間にとっての脅威であり、恐怖の対象。彼女は長くこの近辺を住処としていたから、里の人間には顔も割れている。ここには、彼女によって肉親の命を奪われた者だっているはずだ。
 そんなところに飛び込んで、穏やかに済むはずがない。
 妖怪の突然の来襲によって、里に動揺が走る。多くの家は扉という扉を硬く閉じて貝のように引き篭もるが、やがて武器を持った男達の集団が、レティ達の方へ向かってくる。妖怪達から里を守るための自警団だ。
 団長とおぼしき男が、一歩前に進み出る。が、腰が引けている。レティは妖怪の中でもそれなりに力のある方だ。もし戦闘になったら、勝ち目がないとは言わないまでも、相当の被害を覚悟しなければならないことをわかっているのだろう。
「や、やい、お前! 俺達の里にいったい……」
「この子の家はどこ! 医者は! さっさとしなさい、手遅れになるわよ!」
 男の口上をさえぎって、レティが一喝する。その一声で、男達は完全に威圧されてしまった。
 目の前の妖怪の意図をはかりかねながらも、男達は抱きかかえられた少女を見る。うなされる少女は確かに一刻を争う状況のようだ。
 その時、立ち尽くす人垣をかき分けて、一人の男が飛び出してきた。
「き、貴様ぁ! 俺の娘に何をした!」
 彼は果敢にもレティにつかみかかる。レティはそれを振りほどこうともせず、男に確認する。
「あなたがこの子の父親?」
 男は乱暴に頷くと、レティをつかむ腕にさらに力を込め、
「そうだよ! 俺の一人娘だ!」
 男はレティを睨みつける。答え次第では容赦しないと、その視線で叫ぶ。
 その時、レティの腕の中で苦しんでいた少女が、かすれた声を絞り出した。
「お父さん……違う、違うの……」
 男は思わず少女の方を見る。その瞬間に、レティは男を軽く突き放した。何気ない仕草に反して驚くほど強い力に、男はよろめいてたたらを踏んだ。
 そしてレティは、腕の中の少女を両手で抱えなおすと、目の前の男に黙って差し出した。
 男は状況に困惑しながらも、両手を差し出し、娘をしっかりと抱きしめる。
 毒気を抜かれた彼は、戸惑いがちに問う。
「な、なんなんだよ、一体……」
 レティは黙って人間達に背を向けると、一言、
「……ごめんなさい」
 呟くと、粉雪のようにふわりと空に舞い上がる。
 
 少女は薄れゆく意識の中で、それを見送った。
 青い空に溶けていく、孤独な後ろ姿。
 それが、少女の見たレティの最後の姿になった。


          *


 どうして、こうなってしまうんだろう。
 あの子が苦しんだのは私のせいだ。私が人とまともに付き合うのなんて無理だって、とっくの昔に、嫌というほどわかっていたはずなのに。
 この子なら、と思ってしまった。
 この子なら私のことを理解してくれるかもしれないと。ずっと邪魔者扱いしかされてこなかった自分を、なぐさめてくれるんじゃないかと。
 そんなくだらない欲をかいて、結局すべてをぶち壊してしまった。
 私が望んだ以上に優しくしてくれたあの子を、私はこの手で谷底に突き落とした。
「もうやだ……こんなの……」
 どうして私はこんな風に生まれてきたんだろう。
 ちゃんと納得してきたはずのことが、今は無性にうらめしい。
 自分の力には、役目には、ちゃんと意味があるのだとしても。
 みんなから嫌われ逃げられてしまうのは仕方が無いことだとしても。
 せめてたった一人、大切にしたいと思った人くらい、守らせてくれてもいいではないか。
 今、あの子は私のせいで苦しんでいる。だというのに、私はあの子のそばにいてあげることすらできない。そんなことをすれば、あの子を痛めつけるだけだから。
 あの子は助からないかもしれない。だというのに、私はあの子に何ひとつしてあげることができない。
 ……仕方が無い。私はそういう生き物なんだから。
 ああ、やっぱり私は人を傷つけることしかできないのだ。
 やっぱり、友達なんて求めてはいけなかったのだ――――。


          *


 レティは虚ろな目に涙を浮かべて、あてもなく雪山をさまよう。
 静寂に包まれた森に、彼女のむせび泣く声が響く。
 やがて日が沈もうという頃、いかなる因果か、彼女がたどりついたのは少女とはじめて出会ったあの場所だった。
 病気の母親のためといって、ありもしない薬草を求めて、ひとりで黙々と穴を掘っていた少女。
 つまらない好奇心にかられて、何気なく声をかけてしまったのが、すべての始まりだった。
 目の前には、少女の開けたいくつもの穴が、まだそのままの姿で残っている。
 レティは思う。あの少女は、一体どんな気持ちでこの穴を掘ったのだろう。
 真冬の雪山は、大の大人でも尻込みするような難所だ。あんな幼い少女が、半端な気持ちでこれる場所ではない。
 あの小さな体にどんな想いと覚悟を秘めていたのだろう。あんな眉唾物のおとぎ話を信じて……。
 いや、もしかしたら。
 レティはふと考える。もしかしたらあの少女にとって、話の真偽なんて、薬草のあるなしなんて、どうでもいいことだったのかもしれない。
 目の前で大切な人が苦しんでいて。でも、幼い少女にできることなんて何にもなくて。その無力が、どうしようもなく悔しくて。
 そう、まるで今の自分と同じように。
 だけどあの子は、『仕方が無い』と諦めはしなかった。お前にできることなど何もないと、非情な現実をつきつけられても。
 おとぎ話なんて、きっとただの口実だったのだ。それで本当に誰かを救えると思ったわけじゃない。
 ただ、大切なものが失われていくのを、指をくわえて見ているのが嫌だったから。
 あの子はそういう子だ。ただ自分の意地を張り通すためだけに、なんにもならないことにバカみたいに頑張るのだ。
 レティは雪に膝をつく。そして、手袋も何もつけないまま、その手を厚く積もった雪面に突き入れた。
 そしてかつてあの少女がしていたように、雪をかき出し穴を掘る。その下に咲いているはずの、幻の花を探すために。
 その行為に希望があるかどうかなんて、どうでもいい。
 すべてが終わってしまったあとで、仕方が無かったんだと、何もしなかった自分に言い訳を並べたくはない。
 レティはただひたすらに穴を掘る。この手がどんなに傷だらけになろうと関係ない。この山をすべて丸裸にしてやるまで、絶対止まってやらないと、声にならない声で叫ぶ。
 その鬼気迫る姿は、さながら牢にとらわれた囚人が、自由を求めて石の壁に穴を開けようとするかのようだ。
 彼女は思う。冬の妖怪である自分は、確かに周りを傷つけるだけの存在かもしれない。
 冬というのは、優しくない季節だ。
 脆弱な人間達にとって、冬の寒気は大きな脅威である。多くの人間が、春を迎えることなく永遠の眠りにつく。
 だが、そんな厳しさを乗り越えていく強さを持つ者にだけ、明日を生き、未来を築いていく資格がある。
 だからこの季節が、死にゆく者達にひとかけらの優しさも見せることのない、冷たい季節だとしても。
 仕方が無い。それは彼らのために必要なことなのだと。
 彼女はずっとそうやって、自分を納得させてきた。
 だけど、『仕方が無い』で諦めたくないものがある。
 誰一人救うことができないのが、背負わされた定めだというのなら。
 彼女は、運命という名の牢獄に、願いという名の穴を穿つ。


          *


 ぱちぱちと、薪がはぜる音が聞こえる。
 ありふれた木の家の、暖炉が据えられた部屋の中。その床に並ぶ布団は、今では二つ。
 その布団に寄り添うように座る男は、固く絞った手ぬぐいを布団に眠る少女の額に乗せると、大きくため息をついた。何もかもに疲れきったようなその背中は、心なしか小さく見えた。
 医者の話では、少女はかなりの重態ということだった。今は比較的落ち着いているものの、いつ容態が急変してもおかしくない、と。
 妻と娘の二人を夜通し看病していた男は、疲れを隠せない声でぽつりと呟く。
「レティ……お姉ちゃん、か」
 何があったのかは、少女が全部話してくれた。
 体を案じて制止する父親を押し切って、少女はレティとの出会いから、今まであったことの一部始終を残らず話した。
 お姉ちゃんは何も悪くないの、と。少女は何度も繰り返していた。
 事実が少女の語った通りならば、確かにレティを恨むのは筋違いだろう。レティに悪気があったわけではない。むしろ、ずっとやせ我慢を続けていた少女の自業自得というべきだ。
 それに、少女のそばにいたレティがすぐにここへ運んでくれなかったら、少女の命は確実になかっただろう。そういう意味では、命の恩人でもあるのだ。
 だが、そう頭では理解していても。
 男は目の前でうなされる少女に視線を落とす。さっき乗せた手ぬぐいが、もうびしょ濡れになっている。
 たった一人の娘なのだ。親思いの、とても優しい子なのだ。いくら悪気がなかったとはいえ、この子にこんなつらい思いをさせたレティという女を、許してあげてやるということは、どうにも難しかった。
 そんなふうに思い悩んでいた時、不意に男は物音を聞いた気がした。
 最初は風が窓を叩く音かと思ったが、どうやらその音は玄関の方から聞こえてくる。
 誰かが戸を叩いているようだ。しかし、今はもう夜更けだ。こんな遅くに来客があるものだろうか。
 訝しげに思いながらも、男は玄関に出て、戸を開けた。
 そこには……しかし、誰もいなかった。
 男はため息をつく。だいぶ疲れてるな、と自分に呆れて部屋に戻ろうとした時、視界の端に何かが引っかかった。
 彼の目にとまったその物体は、玄関の外に落ちて……いや、置いてあった。
 男はそれを拾い上げる。それは白くて丸い、女性がかぶるような洒落た帽子。
 そしてその中に――――目がくらむように真っ白な、一輪の小さな花が収められていた。


          *


 やがて季節は流れ、春が訪れる。
 花が咲き乱れ、鳥が鳴き、人々が笑いあう。
 長かった冬の抑圧から解き放たれ、動物も植物もみな歓喜に躍っている。
 少し前まで景色を白一色に染めていた雪も、今はもうすっかり溶けて流れ、世界は明るい色彩に満ちている。
 そしてここにも、春を象徴するように楽しげにはしゃぐ姿がある。
「ほら、お父さんお母さん、はやくはやくっ!」
 白い帽子をかぶった少女が、満面に笑みを浮かべて、あぜ道を駆ける。
 元気一杯な彼女に少し遅れて、二人の男女が、少女のそんな姿を笑って眺めながらゆっくりと歩いている。
 今日は、少女とその母親の全快祝いと称して、隣村の親戚の家へ家族三人で遊びにいくのだ。

 結論から言うと、言い伝えの謳い文句は誇大広告だった(と少女は主張する)。
 彼女は、万病に効く薬草というからには、どんな病気も一口飲めば一発全快あら不思議、とかそういうのを想像していたのだ。ところが現実には彼女の熱はなかなか下がってくれず、完治するまで何週間も布団で過ごさなければならなかった。とはいえ、医者の言うところだと、彼女の病気の深刻さから考えれば十分に驚異的な回復力だそうだから、文句を付けるのは酷だろう。一つの花を母親と分け合ったから、その分効き目が弱まったのかもしれない。
 寝たきり生活で衰えた体力を取り戻すのにも時間がかかり、結局、彼女が昔のように元気に動き回れるようになったのは、季節がすっかり春になってからだった。
 少女は、医者に外出を許されるようになると、真っ先に山に登ってレティを探したが、雪が溶けてすっかり暖かくなった山には、彼女の姿を見つけることはできなかった。
 落ち込んで帰ってきた少女を見かねて、父親はレティ=ホワイトロックという妖怪についての話を彼女に教えてあげた。冬の妖怪である彼女は、冬と共に現れ、気ままに寒気をまき散らし、春の訪れと共に何処かへと姿を消す。彼女は毎年それを繰り返しているのだという事を。
 それを聞いて少女は、少し残念だったけれど、でも悲しくはなかった。

(きっとまた会えるよね、お姉ちゃん)
 またいくつかの季節を越えて冬になれば、あの人はここに帰ってくる。
 次は病気になったりしないように、今のうちに体をしっかり鍛えておこう。それで、今度はお互い気兼ねなく、一緒にいっぱい雪遊びをしよう。
 借りた帽子ももう一度返さなきゃいけない。とってもかわいくて気に入っちゃったから、それまではこっそり使わせてもらっちゃおう。
 そして、たくさんの言いたかった事、言えなかった事を、次はちゃんと伝えよう。

 多くの期待と希望を胸に抱いて。
 少女は『冬』を待つ。



 後のチルノである(わけがない)。

 最後まで読んでくださったあなた、おつかれさまでした。そしてありがとうございました。時期的には、レティがチルノと知り合う前ですから(ええ私はレティチル推進派ですよ。神主様がなんといおうともさ!ヘン!)、東方の本編より前の話ということになりますね。何十年前か何百年前かは知りませんが。

 しかし今はいい時代になったもんですねえ。病気なんて八意先生のところにいけば無問題だし、レティには寒いの大歓迎なチルノがいるし。

 というわけで、私にとってレティは母性愛溢れるお姉さんキャラです。文句あっか! 


 最後にもう一度、改めまして。
 決して短くない分量のこの作品(しかもオリキャラメイン……)を、コンペという多忙な状況にも関わらず最後まで読んでくださったあなたに、形式だけではない、心よりの感謝をささげます。ありがとうございました。もしこの作品のおかげであなたのレティ株が上昇してくれたなら、それこそが私にとって無上の喜びであります。それではこれにて……
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2007/05/13 08:11:40
更新日時:
2007/05/15 23:11:40
評価:
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5.00
1. 5 反魂 ■2007/05/13 02:04:05
オリキャラメインということもあってどこか一次に雰囲気が近いお話でしたが、ちょっと古びた感じの世界観が東方によくマッチしていたと思います。
終始優しいムードが心地良いお話でした。
一方でそれが故に、「ヤクザキック」とか「シャーベット」とか、その世界観にそぐわない単語があったのが少し残念でもありました。物語の雰囲気を損なわないためにも、単語は出来るだけ相応しくない物を省いてゆくのが良いかと思います。

レティと少女、二つの優しさが絡み合う温かい物語でした。
優しい冬のお話を堪能させて頂きました。
2. 8 A・D・R ■2007/05/13 21:21:51
こうなるだろうなぁ…と思っていたのにほろりときました。
丁寧に丁寧に創られているお話で、女の子とレティに感情移入してしまったせいでしょう。お見事でした。
ただ、お題としての穴を生かし切れなかったのではないかなぁ…と感じてしまったり。
3. 3 だおもん ■2007/05/14 00:20:50
チルノの優しい一面がいいですね。
4. フリーレス 詩所 ■2007/05/16 19:40:40
後書きで台無しw
女の子の優しさと現状に葛藤するレティの姿は人間らしい。
でも、生き方を変えようとしないのは人間と妖怪との違いですかね。
5. 5 爪影 ■2007/05/17 17:19:19
 冬は苦手です、朝が辛いから。
 でも、雪は好きです。雪景色も好きです。
6. 4 名無し ■2007/05/18 20:09:17
読みやすかったのですらすら読めました。
オリキャラもそんなに気にならなかったです。
けど「穴」というお題があんまり関係ないように思えました。
7. 7 秦稜乃 ■2007/05/21 21:57:32
レティの優しさに俺が泣いた。
なんだか、冬を好きになれそうです。ほんとに。
8. 5 どくしゃ ■2007/05/24 11:28:49
レティ株上昇しました。
元々持ってた自分のレティ像が固まった感じ。
お題が物語りに溶け込んでいたのも素敵に思いました。
9. 8 ■2007/05/26 00:46:39
お姉さんレティを見たのは久しぶりです…我が同志よ!(勝手に決めるな)
雪の照り返しのように綺麗で目に痛い、冬に相応しい話でした。
ただ、欲を言うなら、少女とレティの交流がもう数日あり、レティの冬の妖怪としての心情についてもプロローグくらいで前振りしておいた方が、キャラの「理由づけ」がよりしっかりしていいんじゃないかと思います。
10. 3 人比良 ■2007/05/26 21:06:42
冬なのに暖かい良い話。
11. 5 流砂 ■2007/05/26 22:00:48
俺もレティチル推進派だ文句あっかー!
作品はとても素敵な優しさに包まれた作品です。
ただ難点をあげればクッションが足りなかった気がします。
少女が泣く前、レティが泣く時。 読者に彼女達の心情をちゃんと伝えて
やってあげてれば、もうボロ泣きな作品ですよ、マジで。
レティさーーーーん。
12. 7 deso ■2007/05/26 23:35:32
前向きな少女の姿が眩しくて、レティの葛藤が辛くて、全体として実に優しいお話です。
冬の話なのに暖かい。レティ株確かに上がりましたよw
13. 7 blankii ■2007/05/27 11:33:35
 GJ! おなじく某レティチル本読んで以来の推進派の人であります……あんまり明確に書いたことないけども。
 ともあれ、レティの否応なく持つ『冬』という背景と、レティ自身の優しさとの対比が印象深い。雪国の冬は本当に厳しいんでしょうねぇ。
14. 7 椒良徳 ■2007/05/27 20:11:22
 東方のキャラが出てくるまでに結構時間がかかるので、短気な人は途中で読むのをやめたかもしれません。いや、読み込んでみるとおもしろかったですが。
 誤字脱字等もなく、読みやすい文章で良かったです。
「まさか食ったのか。食い尽くしたのか。少女がこの女から目を離したほんの一瞬の隙に、跡形も残さず処理してしまったというのか。これが、妖怪の力なのか。なんということだ。少女は戦慄した」貴方はなにを大真面目に書いているんですが。こういうノリは大好きです。
 レティチル推進派というと貴方ひょっとして……
 さて、内容に関してですが、切なくて良いお話であったと思います。冬という季節に捕われたレティの哀しさを上手く表現できていると思います。また貴方の作品を読んでみたいなとそう思いました。貴方の新作に期待しております。
15. 5 木村圭 ■2007/05/27 23:47:40
そうか、レティが大食らいなのは食い物限定ブラックホールだったからなんだな!(大嘘
もっともっと力をつければ、多少は気ままに動けるようになるのでしょうけれど。持って生まれた性質と思考回路が一致しないと辛いですね……。
16. 5 shinsokku ■2007/05/28 01:55:55
姉キャラ説は全力で支持します。
あのたおやめぶり。
17. 7 74 ■2007/05/28 21:38:48
あんまりレティっぽさがない気がしますが、いい話でした。
18. 6 らくがん屋 ■2007/05/29 10:37:41
後のチルノであってほしかった……!
ちょっとテーマが薄い気がしたので、7点分は楽しんだのですがこの点数です。申し訳無い。
19. 6 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:54:35
丁寧な文章。違和感も無いスムーズな流れ。展開に奇をてらった所がないので、やさしく読み終われる。
少女が冬を嫌わなかったのは、生まれてずっと付き合ってきた四季の流れなら、厳しくても自然なものとして捉えているからなのかも。年間最高気温が2℃とかいう地域だと、0度をこえると「暑い」らしいし。
20. 6 いむぜん ■2007/05/30 02:39:04
ああん、レティ…… 妖怪として見ればありえない、とまでは言わないがやはり齟齬があるのだろう。
でも、雪女は情に厚いのが通例だしな。
そう考えると、自分の能力を物ともしないチルノはレティの救いなのか? でも文花帖ではそんな感じは……
いや、「ツン」なだけかも。
21. 6 リコーダー ■2007/05/30 16:01:04
ちょっと展開が分かり易すぎたかな、と思わなくもないですが。
全体的には良かったと思います。
22. 5 眼帯因幡 ■2007/05/30 18:10:13
読んでいて暖かくなるような物語でした。
童話では雪女は消えたようですが、レティは消えませんよね?
この少女にチルノが嫉妬とかしたら素敵。
お疲れ様でした。
23. 8 K.M ■2007/05/30 21:03:07
優しいんだけど、人を傷つけてしまう己に悩むレティさん…確かに愛おしいっス!
24. 6 二俣 ■2007/05/30 21:39:52
でしゃばらず、等身大のこういうオリキャラなら文句など全くありません。
あとがき通り、よいイメージのレティ像でした。
25. 5 たくじ ■2007/05/30 22:15:48
レティが人間に嫌われていて寂しいという設定に違和感がありました。もっと余裕たっぷりでそんなことは全然気にしないんじゃないかなぁと思います。とは言え、こういう話は大好きです。来年また会えるといいね!
26. 8 時計屋 ■2007/05/30 23:50:57
いい話だなぁ。
少女の純粋さにはレティならずとも心打たれます。
東方では報われていないほうのキャラなんで、
こういう話はすごく新鮮味があっていいですね。

さて、批評です。
文章はとても綺麗で読みやすく、長文であることを意識せずに
読むことが出来ました。

お話もテーマがすっきりしており、読後感が非常に爽快です。
良いお話を読ませていただきありがとうございました。
27. フリーレス ■2007/05/30 23:51:20

 どうも、作者の執です。わざわざコメント欄まで見に来てくださり恐悦至極です。

 このこんぺには第1回以来の参加となります。一年半も昔のことになりますから、覚えている人なんているわけないですね。実はSSを書くのも1年半ぶりだったりします。
 正直に明かしますと、前回のこんぺ以来東方界隈からは離れていたのですよ。鬱でひきこもりになったりと色々あったもんで(笑)。今では昔のように門板でネタ作りに励むこともなく、覗くことすら稀です。
 しかし昔のような情熱はなくとも、心はいつも幻想郷と共にあります。燃え盛る情熱的な愛もあれば、長くくすぶり続ける穏やかな愛もある。そして、そんな愛し方でも何かを作ることができるということを証明するために、再びここに戻ってきました。

    *

 以前にも書いたように、自分の作品を貶めすような謙遜は嫌いなため「だが謝らない」主義ですけど(「作ったSSに! 男はドンと胸をはれ!」)、それと自己反省は別です。というわけで、他の人の作品にコメントをつける要領で、自分の作品の改善点を挙げてみたいと思います。私に辛口コメントつけられてムカっときていた方は、お前だって人のこと言えた立場じゃねーじゃんケケケとほくそ笑んでください(笑)。

1、長いよ
 はっきり言って冗長です。このプロットで2万字は長い。後半になって話が盛り上がってくるあたりはいいのですが、序盤のだるさが致命的です。ただでさえオリキャラ主人公で敬遠されやすいのに、こうもツカミが弱くては途中で投げられる確率が高すぎます。こんぺでなければ読まなかった、という人も多いのではないでしょうか。

2、ミスリード
 今回、最大の危惧はこれです。昔話が出てきた時、昔話の雪女=レティと誤解した人がいるのではないでしょうか。そうするとレティは薬草を採取する方法を知っていることになってしまいます。すると少女が発病した時点で「どうせレティが薬草持ってきて解決でしょ〜?」という誤った楽観的な予想(結果的には正しいのですが)が立ってしまい、作品の緊張感が完全に失われてしまいます。ですので序盤の段階で、レティは薬草の実在を知らない、頭っから完全無欠に信じていない、ということを明記しなければいけないところです。それが不可能なら、昔話からレティを連想させるような表現はカットすべきです。

3、展開読みやす過ぎ
 前項とややかぶりますが、そもそも話がシンプルなのに加え、序盤に昔話という形であらすじが出てくるので展開が読まれやすいです。
 今回、執筆に取り掛かるにあたって「最初に言い伝えを登場させて、すべてが終わってみたらなんかその言い伝えの通りになっちゃいました」というギミックを使ってみたいというのがありました。ですがこれは超危険です。特に雪女というキーワードを出すのはやり過ぎです。昔話が出た時点で今後の展開がすべて読めてしまった、という方もいるのではないでしょうか。
 こういうギミックを使いつつ、なおかつ話の緊張感を維持するには、もっと徹底的なカモフラージュとミスリードが必要です。特に薬草の実在については完膚なきまでに否定しておかなければいけません。読者が薬草の存在を信じていなければいないほど、ラストが盛り上がるのです。

4、モノローグと三人称視点の区別があいまい
 この作品の地の文は基本的に三人称視点ですが、部分的にキャラのモノローグに切り替わる部分があります。それ自体は問題ないのですが、一部モノローグなのか三人称視点なのかあいまいな部分があります。特に、少女がレティに会いに行くか思い悩むシーンでこれが顕著です。このシーンの地の文でレティのことを「あの人」と呼称している部分がありますが、三人称視点だとするならこの呼び方はあり得ません。

5、真冬にりんごなんてあんの?
 日本で一般的でなおかつ比較的収穫の遅い品種「ふじ」の場合、収穫時期は『11月上旬』です。
 少女がぶっ倒れてから回復するまでの間に春を迎えなければ話が成立しませんので、その場合少女は少なくとも3ヶ月以上は寝たきり生活していなければなりません。いくらなんでも長すぎです。そもそも11月上旬では雪が積もってるかどうかも怪しいです。
 一説によると3月上旬まで収穫できるりんごもあるという話ですが、ウラは取れていません。情報求む。
 実はこの問題こそが、今回の執筆作業で一番苦労したポイントだったりします(笑)。
 元々、今回やりたかったシチュエーションの一つに「少女がレティの帽子に何かを入れて贈り物をし、レティが帽子に薬草を入れて少女に返す」というものがありました(私の実力不足でうまくギミックとして機能しませんでしたが)。
 帽子を入れ物とするためには、贈り物は家から持っていくのではいけません。その場合だとどう考えても背負い袋に入れていくのが自然だからです。
 必然的に雪山で現地調達になるのですが、地面は完全に雪で覆われているため、採取可能なのは果物のみとなります。
 というわけで冬になる果物を探したのですが、これが非情にレアで、りんごやみかん(しかしみかんは寒冷地に生えない)ぐらいしかない。
 収穫時期ではなく自然落果時期ならもっと遅くなるのではないだろうかと、ネットや百科事典で調査したのですが、どんな資料にもなぜか落果時期が載っていない。仕方が無いので、結局今回は恥をしのんでリアリティを放棄し、りんごで強行することにしました。まことに面目ないです。
 というわけで、作中のりんごは、「収穫が遅い品種の特別しぶとい実がたまたま残っていた」ないしは「3月初旬まで実がなるという幻想のりんごの木」ということでよろしくお願いします。ちなみに3月りんごのソースはこちら。
ttp://www6.airnet.ne.jp/mkaji/fruit/rinngo.htm

 ざっと問題点を挙げると以上の5点でしょうか。
 自覚していながらなぜ対処しなかったかと言われると頭が上がらないのですが、こういう構造欠陥に気付いたのは感想期間に入ってからでして……(りんごは故意犯ですが)。とはいえ、レティの見えざる葛藤と愛情を描くという本来の目的は達成できたので、やり残したことはあるにせよ、いい作品になったと自分は満足しています。読んでいただけて嬉しいです。

    *

 前作(第1回こんぺ)を書いた時に影響された作家さんは奈須きのこ先生でしたが、今回は鎌池和馬先生と秋山瑞人先生を意識して書きました。
 特に鎌池先生の『とある魔術の禁書目録 5巻』に影響された部分は絶大でして、知っている人は苦笑してしまうかもしれません。もしかするとレティは穴を掘りながら、「たとえ私がどれほどのクズでも、どンな理由を並べても、それでこのガキが殺されて良い事になンかならねェだろォがよ!!」とか叫んでるかも知れません(笑)。僭越ながら両氏の名前をスペシャルサンクスとして勝手に挙げさせていただきます。

    *

 にしても、なんで私って自作品コメントがこんなに長いんだろうなぁ。さすが最萌愚痴スレで「自己顕示欲が旺盛で羨ましい限りですね」とか言われるだけはある(笑)。この労力を他の人の作品のコメントに注ぎ込んだ方がどんなにか建設的だろうに……。だがこれで最長レス記録はいただきだな(爆)。
 さて、今後はどうするかなぁ……。創想話デビューすべきかすまいべきか……。書きたい気持ちはあるんですが、でも私が書く意味なんてあるのかなぁ……いや、創作ってのはそういうもんじゃないってのは解ってんですけどね。ごめんなさいねウザいやつで(笑)。でもウザいの承知で言います。誰か書けって命じてくれません?(爆)そしたら書きますよ(うぜえwww)。
      〜 おわれ 〜
28. 6 藤村る ■2007/05/30 23:51:59
 よくまとまってるなあー。
 なんとなくご都合主義の展開ぽいけど、スタンダードなお話だと思えばまあ。
29. フリーレス ■2007/06/03 01:04:01
私の作品を最後まで読んでいただき、さらにコメントまでつけて頂いた皆様には、いくら感謝してもしたりません。
まことにありがとうございました。
お礼というにはつまらないものですが、感謝の気持ちを込めてお返事をいたします。

>藤村る氏
今回はあえて、批判承知の上でご都合主義に突っ走ってみました。
次回はもっと手の込んだ話に挑戦しようかな、とは考えています。

>時計屋氏
お褒めいただきありがとうございます!
これからも報われないキャラに愛の手を差し伸べてゆきます。

>たくじ氏
確かに今回のレティ観は受け入れられにくかったかもしれないです。
まあきっと、他の人間の前では弱気なんて見せずに「くろまく〜」なのでしょう。

>二俣氏
書き始める前はオリキャラを使うことにかなり悩んだのですが、
なんとか皆さんにも受け入れてもらえたようでホッとしています。

>K.M氏
葛藤に悩む人間って、話の題材としていいですよね。
これよりさらに昔の、生まれたばかりの頃のレティを書くのも面白いかもしれないなぁ。

>眼帯因幡氏
レティがこのあとどうするかは……さあ、どうでしょう?
まあ一つ確実なのは、レティの方から来てくれなくても、この子は絶対泣き寝入りなんてしないだろうってことですね。
その気になれば、幻想郷なんて狭いですしねぇ。

>リコーダー氏
まったくもって、言い訳しようがありません。
次回はもっと精進いたします。

>いむぜん氏
『冬』ってツンな季節だと思いませんか? そういうことです。
神主様がなんと言おうとそういうことです。

>鼠@石景山氏
お褒めいただきありがとうございます。
今回は狙ってやった事とはいえ奇をてらわなさすぎたので、次回はもっと工夫しようと思います。

>らくがん屋氏
さすがに人間が妖精に変化するのは無理ですw
テーマは出来るだけ話の中核に持ってくるよう努力したのですが、やはり穴を掘るだけでは弱かったですね。

>74氏
自分自身のレティ像をプッシュしまくった形なので、違和感を感じた方も多かったと思います。
こんなレティもありかな、程度に思っていただければ幸いです。

>shinsokku氏
本当はチルノと組み合わせてお姉さんっぽさを主張するのが正しいのでしょうね。
オリキャラとからませるのは邪道かと自分でも少し思ったり。

>木村圭氏
レティはふくよかとか言われてる割に、その理由が説明されることがあまりないですよね。私は大食い説を主張。
作中のレティはかなりジレンマに苛まれてますが、そのうちゆゆ様みたいに吹っ切れるんじゃないでしょうか。

>椒良徳氏
こんなギャグしか書けない未熟者です。っていうかこれちゃんとギャグとして機能したのか不安です。
導入の弱さについてはおっしゃる通りです。今後の課題です。
期待だなんてもったいないお言葉ありがとうございます。これは自作品コメントの宣言通りに新作書くしかないか(笑)。

>blankii氏
レティチルはもっと評価されるべきだと主張します。
作品のテーマを的確に受け取っていただけたようで歓喜の極みです。

>deso氏
これはレティのために書いたSSなので、そのお言葉が何にも勝る誉め言葉です。
ありがとうございました。

>流砂氏
同志よー! 私達はレティチル推進派だ文句あっかー!
指摘の点、言われて確かにその通りだと感じました。
自分で気付いていないところを指摘して頂けると非常にためになります。
ありがとうございました。

>人比良氏
振り返ってみると、途中の展開の鬱度が足りなかったかな、とも思います。
自分でも、今だとただの「良い話」で終わってしまっているように感じます。

>翼氏
心配ない……我が同志よ!
指摘の件はごもっともです。たった二日の交流でここまで感情移入するのはおかしいですよね。少女の病気の発症にも無理があるし。
実は当初の予定ではもっとじっくり二人の心が近づいていく過程を書くつもりだったのですが、
そうすると文章量が洒落にならなくなることに気付き、やむを得ず最低限の二日というスケジュールに押し込みました。
本来ならプロットから練り直すべき問題ですが、まったくもって私の怠慢です。弁解のしようがありません。

>どくしゃ氏
レティの人気向上にわずかでも貢献できたと思うと、それだけで報われます。
お題に関しては賛否両論の様子ですが、お褒めの言葉ありがたくお受け取りいたします。

>秦稜乃氏
もったいないお言葉、ありがとうございます。
冬もいいですけどレティも好きになってあげてください(笑)。

>名無し氏
お題の消化に関しては全力を尽くしましたが、それで至らぬのは私の実力不足の証明です。
まったくもって面目ありません。

>爪影氏
 冬は好きです、二度寝が気持ちいいから。その後が地獄ですが。
 雪も好きです。けど今年はうちの地方、雪降りませんでした……。

>詩所氏
今回、レティはかなり人間臭く書きました。
けど妖怪ってのはアホみたいな弱点抱えてたりするように、ままならないものが多いんだと思います。

>だおもん氏
ちょwwwチルノ出てないっすwww

>A・D・R氏
展開の読みやすさは欠点だと自覚していましたが、それでも楽しんでいただけたようで一安心です。
お題の消化については努力したのですが、それでも活かしきれていないのはまったくもって私の力不足によるものです。面目ありません。

>反魂氏
オリキャラが自己主張しすぎてレティを食ってしまったのは問題ですね。
カタカナ語に関してはギャップによるギャグ狙いだったのですが、見事にスベってますね。
ギャグを狙うならもっと思い切りよくテンションを上げるべきだと自分でも思います。
シリアスな話にギャグを混ぜる技巧は、なんとしても習得したいテクニックの一つなので、これから先も、数え切れないスベりを乗り越えて前に進んで行きたいと思います。
30. フリーレス 乳脂固形分 ■2007/06/10 01:42:36
この素晴らしい作品を期間中に熟読できず、点数を入れられなかったことをお詫びしたいと思います。もし点数を入れられていたら、満点に近い点数を差し上げていたでしょう。
正直、内容的には今こんぺで一番の感銘を受けました。
ほめてばかりですが、確かに完璧な作品ではありません。粗もあります。確かにヤクザキック等の表現は唐突に感じました。が、それを補って余りある感動を受けました。
一次創作に近い、ありふれた王道ストーリー、ご都合主義。確かにそうでしょう。しかしながら、作者の哲学やメッセージ性が無理なく作品中にすっきりと溶け込んだ物語は、自分にとって物語における一つの理想形のように感じられました。それに東方という恣意的解釈による二次設定が広く受けいられている場で、オリジナル要素が強いということが、それほどマイナスに感じられるとも思いません。自分の中ではこれはレティの過去と宿命性を語ったサイド・ストーリーとして、まぎれもなく東方でした。ちょっと自分は気に入った作品を見つけると、それに目がくらんでしまって他の悪いところが見えなくなってしまう性質なので、まともな批評ができなくて申し訳ありません。
ただ一つだけ申し上げさせていただくと、日本ではフジなどの冬になる品種はすべて近現代において品種改良された末に生まれた品種であり、原生の和りんごは温度の関係上冬には生らないようです。そんなことはどうでもいいとは思うのですが。
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