混沌

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 08:23:11 更新日時: 2007/05/15 23:23:11 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 妹紅が炎を纏った拳で私の腹を殴ったら、拳型の穴が見事に空いた。貫通したのだ。いつもは弾幕で死ぬか生きるかの戦闘をしてきたけれど、穴が空くなんて初体験。これは流石に驚かざるを得ない。私はびっくりして反撃も忘れ、暫しその穴を見ていた。その間、妹紅からの攻撃が止んでいたから何だろうと思って前を見てみると、こちらもまたびっくりした様子で私の腹を見ていた。
「で、出来ちゃったのよ、貴方の子」
「そ、そうか。これは責任を取らねばならないなあ」
 あれ、ツッコミは?
 どうやら妹紅の動揺は相当なものらしい。ここは私が寛大な心を見せてあげなければ!
「だ、大丈夫か輝夜?」
 あれ、心配されてる?
 そもそも、だ。
 考えてみれば毎度のように腕を切断するだの頭をすり潰すだのしているのだから、たかだか腹に穴が空いたくらいで驚愕する必要なんかないのだ。第一、私たちは不死、はっきり言って精神面以外の心配をする必要などない。情け無用!
 そう考えると永琳の行動も不可解だ。死なない私を心配して付いて来た、ほらおかしい。
 まあ確かに気持ちは分かる。やはりこんな身体に「してしまった」罪悪感もあっただろうし、死なないからいいやというものでもないのだろう。それは分かる。
 けれど日常に刺激は必要、たまにはこうやって生きるか死ぬか、そんなスリルも味わってみたい!
 幾らやっても死にはしないけれど、緊張感は常々感じられるものであるから……。
「おい輝夜! 返事しろ、しっかりしろ!」
 おっと、どうやら私も相当動揺しているようね。
「だ、大丈夫よ、何を心配してるのよ。いつもだってこんなもん……むしろ、いつもの方がひどいでしょ?」
「う、言われてみればそうなんだが……」
「そうよそうよ、それにどうせすぐ再生するんだから」
 そう、傷が残っていながらにして生き続けるわけではなくて、しっかり傷は元通りになるのだ。細かいことはよく知らないけど、まあ細胞が一杯動いて治すぞー治すぞーと働いてくれているような、そんなやつだと思う。
 だからこの傷だって……。
「再生……」
「してないぞ……」
 あれ、どうなってんの?
「う……」
「ど、どうした輝夜?」
 ああ、私はこんなぽっかり空いた腹を抱えて生きていくのね。もし新たな生命を宿すことがあったとしても、その子はずっと外気に晒されるから、十分な成長が出来ないのね。晩御飯を食べても、外に出て行ってしまうのね。
「わあああああああん!!」
 そう考えると凄く泣けてきた。ひどい、ひどいわ妹紅!
「な、泣くなよ輝夜! ほーら、わんちゃんですよー」
 右手の人差し指から炎を出して、犬型にして見せた。
「わー、お姉ちゃんもっとやってやってー」
「ようし、分かった。じゃあ次は猫さんだー」
 妹紅はそう言うと、今度は左手の人差し指から炎を出す。徐々に徐々に形を成していったそれは。
「はい、猫さんだよー」
 あれ、猫のつもりなのこれ?
「どう見ても蛇じゃん!」
 私はありったけの力を込めて妹紅の頬を叩いた。そういえば、腹に穴が空いてるから腹筋とか無いはずなのに、声とか出せてるわね私。凄い特技じゃん、帰ったら永琳に自慢しよう。
 引っ叩かれた筈の妹紅はしかし、何故か笑顔だった。え、目覚めちゃった?
「ふふ、腹は無くとも元気はあり、だな。そうと分かれば続きをしようか、なあ輝夜?」
「上等じゃない。いいハンデだわ、いつもよりは楽しめる戦いになりそうね」
 挑発されたら返すのが礼儀。というか本能でそうしちゃった。

 妹紅は一気に後ろへ飛び、距離を取る。それを見た私は前進も後退もせず、まずは出方を窺った。
 まず妹紅はスペルカードを使わずに、適当に散らした弾幕を撃ってきた。どうやら向こうもこちらの出方を窺っているようだ。やはり何度も何度も戦ってきた仲だけのことはある、お互い相手の行動を知悉しているようね。
 その牽制弾は難無く躱し、距離を詰めて行く。しかし妹紅はそれ以上弾を撃たない。その場で小憎たらしい顔を作るだけだった。
 あの顔、捻り潰してやりたいわね!
 私は彼女までの最短ルートを見つけると、そこを全速力で駆ける!
「単純だな、そう躱したくなるように撃ってたって、気づかないのか?」
 しまった、罠か!
「『火の鳥』!」
 絶妙のタイミングで、妹紅はスペルを発動する。この距離で、この位置で、私の機動力で、『火の鳥』の弾速。解析結果、直撃確実。
 悔し紛れに弾幕を『火の鳥』に向かって放ってみたが、全部燃やされてしまった。せめて相殺くらいはしてほしい。頑張れよ、私の弾幕。
「負けるの嫌ーー!」
 私は腕で目を覆う。自分がまさにやられる瞬間を見るのは中々面白いのだが、この妹紅のスペルは眩しいから困る。
 そして弾が私を直撃――しなかった。
「あれ?」
 思ったタイミングで、被弾した感覚がしなかったから、私は腕を退けて身体を見てみた。
 妹紅のスペルは、私の遥か後方、まだまだ速度を失わず飛び続けていた。
「お前、それはありなのか……?」
 妹紅が化け物を見るような眼で、私を見ている。その時、私は全てを理解した。

 『火の鳥』は私の腹の穴を通過していったのだ!

 凄い、凄すぎるわ私……。
 感覚だけで弾幕との高さを図り、腹の穴に合わせていたようだ。このセンスは神に与えられた唯一無二の力! やはり私はお姫様たる資格を持ちえたということね!
 呆然とする妹紅に対し、私は極めて邪悪な笑みを浮かべる。
「ふふふ、ハンデをあげたというのに、そのザマかしら……?」
 呆然としている妹紅までの距離を一気に詰める。
 刹那、妹紅は我を取り戻し体勢を整えようとするが。
「遅い!」
「何をしてるんですか姫!」
 最初にしてとどめとなる一撃を放つ直前、叫び声に止められた。私を姫と呼び、私に怒りの感情を込めて発言出来る者は一人しかいない。だから私も叫ばれた瞬間に、背中を震わせた訳で。
「全く、そんなみすぼらしい格好で動き回って」
 つかつかと優雅に歩く八意永琳。むう、この女綺麗だなあ。
「そんなことより永琳、傷が治らないんだけど」
「回復するまで我慢してください」
「いつもならとっくに回復し終えてるくらいの時間は過ぎてるのよ?」
「死んでないからいいんじゃないですか? 息も絶え絶えっていうわけでもないでしょう」
 ああ言えばこう言う。
「もう、永琳は黙ってなさい!」
 従者は主人に従ってればいいのよ!
 すると永琳は私を手招きした。
「何?」
 のこのこ近寄った私を、永琳はしっかりと羽交い絞めにする。
「妹紅」
 あれ、何この状況?
「焼きなさい」
「わかった」
 ああ、無情。実に良い従者を持ったものだ、本当に。

 塵になるくらい焼かれた私。ついでに永琳も結構焼けてた。
「あ、治ってる」
 復活した私が腹を見てみると、貫通していた部分の肉が復活していた。やはり健康体はいいものだ。
「どうしてさっきは治らなかったの?」
「さあ? そういうこともあるんじゃないですか? 思ったより時間経過してなかったのかもしれませんし」
「うーん」
 その説明には痼りが残ったものの、まあ治ればいいかなと思って深く考えないことにした。
「あ、妹紅は?」
「もう帰りましたよ」
「ちぇっ、いい勝負だったのに」
「はいはい、もう帰りますよ」
 結局その日はそれで帰ることになった。

「次会うときを楽しみにしてなさい、妹紅!」





 その話を、あの時と同じ竹林で私は妹紅にした。
 あれはいつ頃の話だったのだろう? まだ私たちがこの地で出会って間もない時だったように思う。今だったら、妹紅も腹に穴が開いたくらいでは怯まないだろうしね。
「ねえ妹紅、私たち長い間戦ってきたけど、あの日が一番楽しかったと思わない? 今では怪我をしようがどうなろうが放ったらかしで、どんな反応をしようがお互い興味無し。面白くないわ」
 妹紅は返事をしない。
「まあそんなことはどうでもいいの」
 妹紅は返事をしない。
「私も、貴方の腹を貫通させたいわ。」
 妹紅は返事をしない。
 当然か。気絶してるんだから。
「私ってば力の無いか弱い女の子だから、貴方がしたみたいには出来ないんだけど」
 スペルカードを取り出す。
「『蓬莱の弾の枝』」
 弾幕が張られる。撃ちだす前に前に出て妹紅の背後に回る。彼女を抱きしめる。
「いい匂いね、妹紅」
 弾幕が動き出す。私たちに向かって。
「肉が抜ける感触を直接味わえないから、こうするわ」
 強烈な弾幕が、まず妹紅に当たる。妹紅は声無き悲鳴を、大きく上げた。

 そう、これよ!
 これが味わいたかった!

「あああああ!」
 妹紅が叫ぶ。その瞬間、彼女の腹を弾幕が貫通し、私の腹に届く!
 私は黙って弾幕を受け続ける。受け続ける。受け続ける。
「妹紅、痛い? 痛いの?」
 痛みを堪え続けてきたから冷や汗が垂れてきた。けれど、まだこんなものではいけない。もっと、もっと強い弾を!
 そして、遂に私の弾幕は一線を越えた。
「ふふ、妹紅……。こっちを見てみなさい。貴方と一緒よ?」
 妹紅は叫ぶ。ああ、これってこんなに痛いものだったんだ。私は妹紅の胸の辺りに置いていた腕を、彼女の穴に置いてみた。剥き出しの臓器を触ると、妹紅は悶絶する。

 妹紅の腹を抜け、私の腹を抜ける弾幕を見る。
 久しぶりに、楽しい戦いだったように思った。

 それで私の意識が途切れた。妹紅はどうなったか知らない。どうでもいいわ、どうせ生きてるんだもの。
 次に会うときが楽しみだ。


タイトルが全てです。
sdsd
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投稿日時:
2007/05/13 08:23:11
更新日時:
2007/05/15 23:23:11
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1. 4 A・D・R ■2007/05/13 22:01:56
ふ…ふむむ、タイトルが全てですか。確かに混沌としていましたね。
どことなくユーモアのある勝負の様子が面白かったです。
2. 4 秦稜乃 ■2007/05/14 17:10:25
ど、どうコメントすればいいんだ…
とりあえずこれなんてカオス?
3. 3 反魂 ■2007/05/15 16:45:43
混沌。
少年漫画的なノリが良い感じです。
あと輝夜が地味に黒いです。
4. 4 詩所 ■2007/05/16 00:25:58
輝夜と妹紅はアホな会話と殺し合いが両立するから困る。
5. 4 爪影 ■2007/05/17 19:03:41
 はてさて、七つの穴を穿てばどうなるのやら。
6. 6 あああ ■2007/05/23 20:43:37
序盤と終盤のギャップが凄いなー
7. 4 どくしゃ ■2007/05/24 10:19:50
ギャグで始まったかと思いきや、スプラッタで締める。
上手いですね。
8. 8 ■2007/05/25 00:44:00
確かに混沌な思考回路。さすがこの二人、伊達に永く生きてない。
9. 1 人比良 ■2007/05/26 21:07:19
秩序あるカオス、というのは素敵な言葉ですね。理解できない
けれど一定の法則があるという。
10. 3 流砂 ■2007/05/26 22:01:54
タイトルが全て…………混沌って『混じりあって区別が付かない状態』の事だから……
むむ……深い意味があるのでしょうが、自身の愚かさが恨めしい。
何を指して混沌なのかが分かりませんでした。
内容的にはカオスって訳でも無いし……むぅ、正解求む。
11. 6 deso ■2007/05/26 23:33:37
わー、お姉ちゃんもっとやってやってーがツボりましたw
12. 6 blankii ■2007/05/27 11:34:59
てるよxもこのカオスっぷり楽しむ作品かと思っていたら、結末はなんとも美しい。多少のグロ成分含めて楽しめました。
13. 6 椒良徳 ■2007/05/27 20:12:52
なんかとてもシュールな作品ですね。
コミカルに進む前半とコミカルさを投げ捨てた後半とのギャップがそのシュールさをかもし出しているのかもしれません。
文章自体は誤字脱字もなく読みやすい文章でよかったですが、それだけでは評価には結びつきません。
いや、わざとやっているのだとは思いますが。
14. 5 木村圭 ■2007/05/27 23:49:28
前半と後半の落差がもうね。輝夜にしてみればどちらも面白がってるだけなのでしょうけれど……。
15. 4 shinsokku ■2007/05/28 02:23:29
カオスよりエロスを感じた件について。
16. 4 らくがん屋 ■2007/05/29 10:35:48
穴ってよか“欠落”という観点だとかなり面白いのかもしれない。
17. 4 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:55:56
ああ、この二人はこんな事してるんだな。 仲がいいんだか悪いんだか。
終盤にそこはかとなくエロさを感じました。
18. 4 いむぜん ■2007/05/30 02:40:28
風穴をあけていい(=死んでいい)というと、やはりこの二人か。
ラストの件にエロスを感じた。
19. 8 ■2007/05/30 03:50:30

しょっぱなからぶっ飛んだテンションに脱帽w
このセンスは正直うらやましいです。
しかしえろいw
20. 4 リコーダー ■2007/05/30 16:00:05
何だかなあ。
としか言いようがないのですが何だかなあ。
21. 4 眼帯因幡 ■2007/05/30 18:11:47
ギャグ路線かと思えば、後半はシリアス……グロ?
正に混沌なのですが、前半の展開からの落ちを期待していたので、肩透かしといいますか……。
お疲れ様です。
22. 5 K.M ■2007/05/30 19:03:10
前半の空気も捨てがたいが、後半の関係もいいなと思っちゃう俺はきっと無節操。
というか、腹部が復元しなかった理屈は結局不明なんですね。混沌。
23. 2 乳脂固形分 ■2007/05/30 21:08:45
戦闘にそこそこ緊迫感を感じました。ただ、ショートショートとしては意外性に欠けていたと思います。
24. 4 二俣 ■2007/05/30 21:53:52
これ、実は物凄く悲しい話なんじゃないか…となんとなく。
おそらく普段はものすごくしっかりプロット構成をして一文一文をチェックする人の作だと思いました。それが透けて見えるようで意図したのかしないのか妙な味が出てます。
…勝手な錯覚だったら申し訳ないにも程がある斜め読みなんですが。
25. 6 たくじ ■2007/05/30 22:14:54
火の鳥って拳大より小さいのでしょうか?いやしかしこんなことで動揺する二人がかわいいなぁ。最後の輝夜はちょっと怖いけど。
26. 1 時計屋 ■2007/05/30 23:52:21
なんだか悪い夢のようだ。
あらゆる意味でカオス。
27. 3 藤村る ■2007/05/30 23:53:40
 うーん、もうちょっと行けるような気がする……ネタとかノリとか……。
 笑いのまま突っ走った方が楽しかったのになあ。ノリノリだし。
 下手にシリアスに走ると輝夜と妹紅は切りないからなあ。
 ありふれたネタで面白みに欠けるし。
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