赤い瞳は誰の為

作品集: 最新 投稿日時: 2007/05/13 08:35:51 更新日時: 2007/05/15 23:35:51 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 幻想郷に春がやって来た。
 今年は何の事件も無く、巫女もだらけきっていた。
 春に咲くピンクの花が、普通の魔法使いを陽気にさせて騒がしい空気が振りまかれると、それに反応した吸血鬼にせっつかれたメイドが宴の準備をする。
 その宴に出される料理を亡霊少女が片っ端から食べ歩き、行儀が悪いとたしなめながら後に続く半人半妖。
 それらが毎日のように繰り返されている博麗神社の境内の一角で、蓬莱山輝夜はため息をついていた。
「どうしたんですか、姫?」
 輝夜に付き従っている八意永琳が、心配そうに顔を覗き込む。
 しかし輝夜は何も返事をしない。
「どこか具合でも?」
 永琳がカバンの中をあさり始めたのを見て、輝夜は重苦しく口を開く。
「体は大丈夫よ。ただ、気分が乗らないだけ」
 サワサワと揺れる桜の花を見上げながら、呟く様に答える。
「気分ですか。そういえば今日は出発の時からあまり乗り気ではなかったみたいですね」
 永琳は屋敷を出る時の輝夜を思い出す。
 いつもならいそいそと出かけるのだが、今日はウサギ達にせっつかれて仕方なく来た、という感じだった。
「やっぱりどこか悪いんじゃないですか? 気分が悪いというのも立派な病症ですし」
「いえ、そういうんじゃなくて、なんて言えばいいのか……気持ちが沈んでいる感じね」
 まるで問診の様なやり取りをしながら、2人は会話をする。
「何ででしょうか?」
「何でかしらね?」
 2人が首をかしげている間も、暖かい日差しを浴びた桜の下で、いつものドンチャン騒ぎは繰り広げられていた。


 昼から始まった花見は夜まで続けられ、日付が変わる頃にようやくお開きとなった。
 ぐでんぐでんに酔っ払った人や妖怪達はそのまま境内に放置して、三々五々家路に着いた。
 輝夜と永琳も、因幡てゐと共に帰りの道を歩いていた。
 ちなみに鈴仙・優曇華院・イナバは境内に放置されていた。
「今日はあまり元気がなかったんじゃないですか?」
 てゐがしゃんとした足取りで歩きながら、輝夜に話しかける。
 散々飲み明かしたにもかかわらず、酔っている様子は微塵も感じさせない。
「そうね。なぜかしら」
 昼間に永琳とした問答をてゐと始めだす。
「それにしても、イナバは楽しそうね」
 イナバと言われ、てゐは自分の事かと思ったが、視線が上を見ていたので鈴仙の事だと理解した。
 そんな2人のやり取りを見ながら永琳は思案する。
 が、何も思いつかないまま、竹林の奥に在る永遠亭へと戻ってきた。
 夜中でさえなお騒がしい博麗神社と違って、ここは時折風でざわつく竹以外は静かだ。
 永遠亭が持つ落ち着いた雰囲気が輝夜を安心させたのか、小さくあくびをすると、そのまま自室に戻り、湯浴みもせずに寝てしまった。
 てゐはいつの間にかいなくなり、永琳は研究室に入る。
 机のライトを付け、手の平にアゴをのせて今日の輝夜を思い返す。
「……」
 無言で考え続ける間、キーンと静寂の中にある耳の痛みを感じた。
 考えがまとまらず、しばらく耳鳴りに意識を集中させていると、ふとある事を思った。
 永琳は小さく頷くと、そのまま寝床へ向かった。


 次の日、永琳は朝早く起きると、輝夜に一言挨拶してすぐに外へと出て行った。
 輝夜は1日を暇に過ごし、二日酔いでふらふらの鈴仙はいつも以上にてゐに騙されていた。
 夜になり、永琳が帰ってくると、輝夜に提案する。
「姫。明日はいつもと違う場所で花見をしませんか?」
「博麗神社以外でって事?」
「はい」
 輝夜は少し考え、別に断る理由もないので了承した。
「別にいいけど……でも、博麗神社以外できれいな桜が咲く所なんて、冥界ぐらいしか思いつかないけど?」
「どこに行くか、それは明日のお楽しみです」
 永琳は楽しそうに笑い、明日の準備をしなくちゃと鈴仙を連れて台所へと向かった。


 春の日差しはとても暖かく、頭の中まで春爛漫になりそうな陽気だ。
 すでにおかしくなった妖怪や、いつも以上に陽気で騒がしい妖精たちが、そこかしこでイタズラや弾幕戦で春を満喫していた。
 そんな中、輝夜と永琳そして鈴仙の3人は魔法の森を歩いていた。
 てゐは、騒ぎたいからといつもの宴会に出て行った。
 鬱蒼とした森の中、さすがに春の陽気もこの森には入り込めないのか、しっとりとした空気が濡れた土と緑のニオイを濃くしていた。
「こんな森の中に桜が咲いているの?」
 輝夜は忙しなく辺りを見回しながら永琳に尋ねる。
「いいえ。この先です。それより、そんなにきょろきょろしていると、足元が危ないですよ」
「私は景色を楽しみたいの。危ない時は永琳が助けて頂戴」
 輝夜はふふっと小さく笑い、はいはいと永琳も微笑混じりに返事をする。
「ここは魔理沙とアリスが家を構えているんですよ」
 辺りを興味深げに見やる輝夜に、観光案内よろしく、鈴仙が教える。
「ずいぶんと陰気な所に住んでいるのね。アリスにはぴったりだけど、魔理沙もねぇ?」
「なんでもここに自生するキノコが魔法に使えるとかで、まあよくわからないですけど、魔法使いのすることなんて」
 輝夜との会話が楽しいのか、鈴仙はいつも以上の笑顔で答える。
 そんな会話をしているうちに魔法の森を抜け、草原が広がる。
 この草原も春の陽気な雰囲気は無く、どこか寂しげな空気を漂わせていた。
「ここは秋になると彼岸花で埋め尽くされるそうです。今は何もないですけどね」
「ふーん」
「桜はこの先です」
 永琳は楽しそうに輝夜を先導した。


 木々に囲まれた小さな広場。そこには満開の紫の桜があった。
 数本しかないその木は、しかし千本の桜と比較しても引けをとらないほど美しく優雅だった。
「……綺麗ね」
 しばらく眺めた輝夜が、透き通るような声で感想を漏らす。
 鈴仙は桜のあまりの美しさに声を失っていた。
「ここは、無縁塚になってまして、しかも幻想郷の端の端とあってか、めったに人や妖怪が近づくことも無い穴場なんです」
 永琳がゴザを敷き、その上に料理やお酒を並べていく。
「先日の姫を見て、もしかしたらあまりに騒がしい事が多くて、疲れたのではと思ったのです。それで、静かに花見を楽しむのがいいかと思いまして」
 輝夜に微笑みかけ、座布団の上に座らせる。
「なるほど。確かに最近落ち着いて何かをするなんて事、なかったものね」
 輝夜は桜を見上げる。
「どうぞ」
 差し出されたお酒を受け取ると、その中に桜の花びらが浮いていた。
 そのままクッと飲み干し、小さく吐息を漏らす。
「こんなにおいしいお酒を飲んだのは、なんだか久しぶりね」
 まだ桜に見入っている鈴仙を眺めながら、輝夜の言葉を聞いて永琳が呟く。
「なんだか贅沢になりましたね」
「何の事?」
「いえ、あの永い夜の前までは永遠亭に隠れ住んでいたから退屈で退屈で。でも、外に出られるようになると、今度は騒がしすぎて疲れる。なんとも贅沢な悩みだと思いませんか?」
 永琳がクスクスと笑うのを見て、輝夜はきれいに笑う。
「私がわがままなのは、とっくに知っているでしょう?」
「そうですね」
 お互い顔見合わせて微笑み、お酒を飲む。
 そうやって無言で酒を飲み交わす。
 鈴仙も桜を眺めながら静かにお酒を飲んでいた。
 ゆったりとした穏やかな時間が流れ、久しぶりの静寂を味わっていた。
 ふいに強い風が吹き、視界を覆う程の桜吹雪が舞う。
 3人は目を細め、流れる花びらをいつまでも眺めていた。


 次の日もその次の日も、輝夜と永琳は紫の桜を見に行った。
 しかし、鈴仙はなぜかついてこなかった。


 今日も今日で、輝夜が永琳を連れて紫の桜を見に行こうと永遠亭を出ようとすると、玄関で鈴仙がおずおずと声をかけてきた。
「姫、今日もあの桜を見に行くんですか?」
「ええ、そうだけど」
 心配そうな鈴仙の顔とは対照的に、輝夜は笑顔そのものだ。
「さ、桜だったら、博麗神社もきれいですよ?」
「そうね、あそこの桜もきれいね」
「でしたら、今日は神社でお花見をしませんか?」
 精一杯にこやかな表情を浮かべ、輝夜を誘った。
「なぜ?」
 しかし、輝夜はきょとんとして鈴仙を見る。
「あ、あの……たまには、皆でお花見をしたほうがいいかと……」
 なぜと聞かれ、何で自分でそう思ったのかうまく表現できず、しどろもどろに答える鈴仙。
「嫌よ」
 しかし輝夜はきっぱりと拒否をし、
「騒がしいのはしばらくいいわ」
 そう言って、鈴仙に背を向け、玄関から出て行った。
 それを泣きそうな顔で見送り、うなだれる鈴仙。
 永琳は、そんな鈴仙の背中を少しだけ見つめ、やがて行って来るわと一言挨拶をして輝夜を追って行った。


 輝夜と永琳が出かけ、しばらくぼうっとしていた鈴仙は、トボトボと自室に戻っていった。
 なぜ輝夜を引き止めたのか。あのわがまま姫に拒否される事は慣れているのに、今なぜこんなに寂しい気持ちになっているのか。
 鈴仙は初めて、輝夜と一緒にいたいと思っていた事を知った。
 もやもやした気持ちで落ち着かなくなり、外に出ることにした。
 フラフラと適当に飛んでいると、ドンチャン騒ぎが聞こえ自然とそちらに向かっていった。
「よう鈴仙、今日は1人か?」
 寂しげに飛んでいた鈴仙にいち早く気付いた霧雨魔理沙が声をかける。
「こんにちは」
 質問には答えず挨拶をして、境内の端っこに座る。
 魔理沙は気を悪した様子も無く、そのまま笑顔で宴会の輪の中に戻って行った。
 鈴仙はそれを何となく眺めながら、輝夜の事を考えていた。
 楽しそうに花見に参加していたのに、何で急に騒がしいのが疲れるようなったのだろう。
 そんな事をぼんやりと考えていたら、なんとも場違いな気分になってきた。
 あそこはあんなに楽しそうなのに、と騒がしい宴会を眺めていると、ふとある事に気付いた。
「そういえば……」
 考えている事が口からこぼれ、それに博麗霊夢が気付く。
「なに深刻な顔してんのよ」
 少し酔っ払い気味の霊夢が鈴仙に近づく。
「ねぇ、姫っていつも宴会の時は端っこにいたわよね?」
「そうねぇ、いつも端にいるわね」
 何でそんな事を、と不思議な顔をする霊夢。
「何故……」
 霊夢の答えに鈴仙は考える。
 また難しい顔をする鈴仙に、多少ろれつの回らない口調で霊夢が言う。
「そんな事より、そんな端っこにいないで、こっちに来て宴会を楽しみなさいよ」
 霊夢の誘いの言葉に鈴仙はハッとし、さらに深く考え込んだ。
 そんな鈴仙を見て、霊夢は少しまじめな顔をしたが、すぐに宴会の輪に戻っていった。


 宴会が終わり、神社に静けさが戻る。
 鈴仙は境内にある桜を見渡し、端っこに生えている小さな桜の木を見つけた。
 その桜の木の前に立ち眺めていると、霊夢が声をかけてきた。
「その木がどうかした?」
 いつもの様に、だらけているがどこか安心させる空気をまとっている。
「この木、もらってもいいかな?」
 鈴仙の申し出に、霊夢は少し考えて何故と尋ねた。
「最近、姫が紫の桜ばかり見に行っているの。私もついて行きたいんだけど、その場所は何故か行ってはいけない気がして……」
 しばらくの沈黙。
 霊夢は視線をはずし、夜風が桜の花を散らしていくのを見やる。
「……騒がしいのは嫌だって、姫は言っていた。だけどそれ以上に嫌なのは、みんなの中に入っていけない事だと思う」
 鈴仙が思い切って話し始める。
「姫は、宴会の時いつも端っこにいて、みんなの騒ぎを見てるだけで、自分から輪に入ればいいのに、それが出来なくて、私やてゐがいても、私達が皆の輪に入ってるのを見て、それでさらに疎外感を覚えて……」
 しゃべりながら、鈴仙は泣いていた。
 輝夜の寂しさを感じてしまった事。そして輝夜を気遣ってあげられなかった事。何より、自分が輝夜に仲間として見てもらえていなかった事が悲しかった。
 自分はこんなに輝夜と一緒にいたいと思っているのに、輝夜にとって鈴仙はイナバの中の1人でしかなかった。
 それらのいろんな事が、頭の中をぐるぐる回っていた。
「それで、桜の木を持っていく事とどう関係あるの?」
 霊夢はどこか温かい目をしているが、泣いている鈴仙はそれに気付かない。
「永遠亭で花見をします」
 いつも赤い目をさらに赤くさせ、鈴仙は決意をこめて語る。
「私とてゐと、ウサギ達と。そして、永遠亭みんなで宴会に参加して、姫を楽しませます。私が姫の仲間になります」
「……そう」
 霊夢のやわらかい笑みを見て、鈴仙の目にまた涙が溢れてきた。
「よく泣くウサギね。あんたの目が赤いのは、泣き虫のせいかしら?」
 霊夢は笑顔で冗談を言い、鈴仙は泣き笑いを浮かべた。


 あくる日。飽きもせず、輝夜が永琳を連れて紫の桜の元に座っていた。
 静かで、ひんやりとした空気が辺りを満たし、輝夜と永琳は会話もせず、それに浸っている。
 そこへ、霊夢がゆっくりと歩いてきた。
「あら、霊夢。何しに来たの?」
 輝夜が少し鬱陶しそうに話しかける。
「最近花見に来ないから、どうしてるのかと思って」
 よっこらせと輝夜の横に腰を下ろし、許可もなく永琳の作ったお重に箸を伸ばす。
「あら、花見なら毎日ここでしてたわよ」
「そう。ここでねぇ……」
 意味深に言葉を発し、霊夢は紫の桜を見上げる。
「ここは桜がとてもきれいだもんね」
「そうね。そして静かだわ」
 輝夜が答え、しばらく無言の時間が過ぎる。
 永琳は2人に酌をしていた。
「ところで、ここがどんな場所だか知ってる?」
 霊夢がお酒をゆっくり2杯飲み、一息ついた頃に話しかける。
「無縁塚でしょ?」
 輝夜が答え、永琳の顔を覗くと、永琳が無言で頷く。
「そう無縁塚。じゃあここにこんなにきれいな桜が咲いているのに、何で見に来る人がいないのか分かる?」
「永琳の話だと、ここが幻想郷の端だから、でしょ?」 
「それもあるわね」
 霊夢の質問に答えた輝夜は、それが何かといった顔だ。
「……不死のあんた達には感じられないのかな」
 輝夜は首をかしげる。
「鈴仙が、あんた達の事を心配してたわ」
 輝夜の呆けた顔に、霊夢はため息交じりで話す。
「ここは、無縁塚。身内のいない霊が眠る場所よ。とりわけ外の人間達の霊が多いわ」
 霊夢が桜の下にある無数の石を見る。
「そして、だんだんと結界が緩んでいる場所でもある。いわば幻想郷、外界そして冥界との交差点みたいな場所」
「……だから?」
 霊夢の視線を真正面から受ける輝夜。しかしいまいち言われている事がピンと来ない。
「つまり、普通の人間や妖怪は、ここには近づかないの。なのにあんた達は毎日毎日ここに来ているから、鈴仙は心配になってるってわけよ」
「ふーん」
 輝夜が気の抜けた返事をして、お酒をクッと飲む。
「関係ないわ。私達は永遠を生きる者。冥界に用は無いし、もとより外界に出るつもりも無いわ」
「そうね。あんた達には無関係かもしれないわね」
 はぁ、とため息をつく霊夢。
「でもね、心配している鈴仙にとっては問題があるのよ」
「なぜ? 心配ないと言えばすむ事じゃない」
 輝夜の言葉に、霊夢は心底あきれ頭をかく。
「なるほど……」
 霊夢の納得を輝夜は勘違いし、これ以上話す事はないと顔を背ける。
 しかし霊夢は気にもとめず、また質問する。
「ところで、どうして鈴仙がここに来ないか知ってる?」
「知らないわ。大方、神社の方が賑やかでいいと思ったからでしょ」
 今までと違い、輝夜の言葉の端々に棘を感じた霊夢は、うつむいて苦笑する。
「まあいいわ」
 ククッとこらえる様に笑い、霊夢は話を変える。
「でもこの場所はだめ。さっきも言ったように結界が不安定で、誰かを居させるわけにはいかないの。それに、ここはきれいで静かな場所ではあるけど、あんたが静かな場所を望むように、ここに眠る霊たちも静かに眠りたいんじゃないかしら?」
 急にまじめな顔でそんな事を言われ、輝夜が霊夢に目を向けると、その後ろに何かがある事に気付く。
「いくら騒いでいないと言っても、死者の眠る地に……」
 そこまで言って、霊夢は口を閉ざす。
 輝夜が自分の後ろにある、名前の書いていない石をじっと眺めていたからだ。
 ここに来て、初めて桜以外の物があることを輝夜は意識した。
 やがてゆっくりと立ち上がると、無名の墓に近づき見つめる。
「……永遠を生きるモノがここにいるなんて、酷い皮肉かもね……」
 しばらくの沈黙の後、墓石に優しく話しかけ、輝夜は向き直り魔法の森へ歩き出す。
 永琳は無言で付き従い、霊夢とすれ違うときに小さく頭を下げた。
 去って行く2人の後姿に、霊夢は赤い目の月ウサギを思い浮かべる。
「あとはあんた次第よ……」
 輝夜達の姿が見えなくなると、無縁墓地に向き直り無名の墓に近づく。
 霊夢は墓標に何か呟いたが、風の音で消えてしまった。
 桜の花びらが、涙のように散っていった。


 無縁塚からの帰り道。輝夜は永琳にぼやいていた。
「あーあ。せっかく静かな場所を見つけたのにね」
 心底残念そうな顔で言う輝夜に、永琳は笑顔で話しかける。
「なら、いつものようにわがままを通せばよかったじゃないですか?」
「うーん……」
 そう言われ、輝夜は言葉を濁す。
「それとも、外から来た人間達に共感してしまったんですか?」
 言われた輝夜が永琳の顔を見て、苦笑いをする。
「永琳に隠し事は無駄ね。そうよ。外から来た人間はああやって誰にも見向きもされず、忘れ去られていくのよ」
 秋に彼岸花が咲き乱れるという原っぱで足を止め、輝夜は空を見上げる。
「私は死ぬことは無いけど、外から来た人間だな、と思ったら、なんかね……。あ、でも私には永琳がいるから」
 寂しげな顔をあわてて取り繕い、笑顔を見せる。
「もったいないお言葉です」
 永琳は笑顔で頭を下げる。
「でも、私だけでしょうか?」
「え?」
 ゆっくり顔を上げ、目をじっと見つめられて言われた永琳の言葉が理解できず、輝夜は聞き返す。
「どういう意味?」
「どういう意味でしょうか、ね?」
 意味深な笑みを浮かべ、永琳は足を動かす。
「さあ、永遠亭に帰りましょう。みんな待っていますよ」


 永遠亭の一角に桜の木が植えられていた。
 鈴仙が博麗神社から持って来た桜で、まだ小さいながらもかわいい花を咲かせていた。
「姫。静かに花見を楽しみたい時は、ここでやりましょう。私達と一緒に!」
 輝夜達が帰ってくると、鈴仙が駆け寄って出迎え、泣きそうな顔になりながらそう言った。
「な、何よ急に……」
「私は、姫と師匠と一緒にお花見がしたいです。でも、紫の桜のところには行けません」
 輝夜は霊夢の言葉を思い出す。
「静かなお花見をしたいなら、ここですればいいと思ったんです。そうすれば、姫も、私も……」
 必死にこらえていた涙が鈴仙の目から溢れる。
 泣いている鈴仙を見て輝夜は、帰り際の言葉を思い出すと、ハッとして永琳を見る。
 永琳は、何か? といった笑みを浮かべていた。
「……なるほど。やっぱり永琳にはかなわないわね」
 自分でも気付かない心を見透かされ、お手上げの仕草をする。
 泣きながら、必死で何かを言おうとしている鈴仙の頭を、輝夜は優しく撫でてあげた。
 輝夜の行動に、鈴仙はビクッと顔を上げ、やがて満面の笑みを浮かべる。
 くすぐったそうな、嬉しそうな、でもどこか恥ずかしそうな表情を鈴仙はして、それを見たてゐは、自分もと自ら輝夜に頭を撫でてもらった。
 そんな3人を見つめながら永琳は、小さく笑みを浮かべていた。
中沢良一
http://d.hatena.ne.jp/toho_naka/
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投稿日時:
2007/05/13 08:35:51
更新日時:
2007/05/15 23:35:51
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Rate:
5.00
1. 7 ■2007/05/13 00:34:46
鈴仙って、女子高生みたいな役柄とお姉さん的役柄どちらもこなせるんですよね。この鈴仙には、「女の子」を感じました。よろしい、実によろしい。
2. 3 A・D・R ■2007/05/13 22:33:39
お話自体の評価は6点です、色々な意味で巧くできていると思いました。
ただ、お題の穴が、何度か読んで『穴場』しか思い当たらず、深読みをすればいくつかは思い当たるのですが、確証が得られるほどではない以上、評価の対象にはできませんでした。そうなるとお題へのつなげ方があまりに強引過ぎるように思い、大きく減点させていただきました。
失礼な言い方で申し訳ありませんが、恐らく私の読解力不足が原因とはいえ、わかりやすさも評価の一つの基準と考えておりますのでご容赦を。
3. 5 秦稜乃 ■2007/05/14 17:07:30
ちょっと複雑な気分にさせられました。
落ち、としては悪くないけど、持って来る場所を…ってなんか批評みたいになってしまった。批評ですけど。
雰囲気はいいと思います。
4. 4 反魂 ■2007/05/15 16:36:51
綺麗なお話です。
キャラのバックグラウンドをよく生かした、二次創作として非常に優秀な作品だったように思われます。
が、御題がどこにあるのかちょっと分からないです。また鈴仙の行動がやや唐突なことと、あとちょっと展開が淡々としすぎていて、魅力を形作る力強さに欠けたかなという印象でした。
5. 3 詩所 ■2007/05/15 22:40:41
えーと、穴分は?
私の読解力不足でしょうか?
6. 5 爪影 ■2007/05/17 19:47:26
 さて、今夜は静かに飲みましょうか。
7. 4 時ノ葉 ■2007/05/22 02:41:14
シリアスな話は苦手なのですけどすらっと読めました
展開も無理がなく上手いと思います
8. 5 どくしゃ ■2007/05/24 09:49:31
永琳は策士ですね。
お題をワザと活字にしなかったのが、素敵でした。
9. 2 人比良 ■2007/05/26 21:07:42
穴が浅すぎて窮屈な感じ。もう少し広いか深いと可愛かったか
も。
10. 5 流砂 ■2007/05/26 22:03:11
くぁ……鈴仙が、鈴仙がぁーーー。 えぇ子や……
お題がドコで使われているかは分からなかったけどとりあえずご馳走様。
無理をすればどれにでもこじつけられるけど「コレだ!」ってのが見つからない。
にしても師匠は最初から全て計算づくで無縁塚に誘ったのかなぁ。
11. 5 deso ■2007/05/26 23:31:51
「今日はあまり元気がなかったんじゃないですか?」とあるので、以前は楽しく元気そうに見えたわけですよね。
鈴仙の分析では、その時点でもあまり溶け込めてないということだったので矛盾すると思うのですが。
12. 5 blankii ■2007/05/27 11:36:46
紫桜の下で花見を――罰当たりかもしれませんが、一度はやってみたいものです。てな訳でてるよの心情もなんとなく分かるのですが、不死人の見る死者の花。随分と滑稽で美しいものなんでしょうねぇ。
13. 6 椒良徳 ■2007/05/27 20:16:05
なんというか、綺麗な雰囲気の綺麗な作品であったと思います。
誤字脱字等なく、読みやすい文章でよかった。
ただ、それだけです。
ひとひねり、というかぐっと読者を引き込むだけの力にかけている気がします。
それがなにかは判りませんが、なにか足りない。
そんな作品でした。
14. 4 shinsokku ■2007/05/28 21:47:35
穴・・・穴がわかりませんでした。
何だったのだろう・・・と思わせた読者の心中に穴、というオチでせうか?
難しい。
15. 4 らくがん屋 ■2007/05/29 10:33:56
テーマ処理は不死人の喪失感や欠落感とでも解釈すればいいのでしょうか。ぶっちゃけ読了後第一声は「穴関係ねェー……」でした。さすがにテーマを表に出さなすぎに感じたので、1点減らさしてもらいます。
16. 5 鼠@石景山 ■2007/05/30 01:57:15
罪人が裁きを受けるまでに咲かせる、猶予の花。そこに罪人であり不死者である二人が来る。
紫の桜の意味を知っているはずのうどんが何も言わなかったのは、言いにくい事だからかと思っていたけど、霊夢も何も言わなかった。言うべき事ではないと思っているのか。
人の為に泣けるうどんは優しいなぁ。
17. 4 いむぜん ■2007/05/30 02:41:45
花見にあの桜を使うのはいいが、あそこは小町の縄張りのはず。いや、どこかでさぼっているのかもしれないが。
あと、うどんげは紫の桜の意味を知っているのでは?
個人的にうどんげのトラウマポイントだと思うのだけど、あの桜を見て何も含みが無いのはかえって変に思える。
永琳あたりは知ってそうな気もするけど。
18. 7 ■2007/05/30 03:53:09

うー、ええ話や……。
こういう輝夜めっちゃ好みですわー。
界隈の輝夜というと、妹紅とどつき合うか、ネタでいじられるかばっかでいかん。
やっぱ輝夜は心に傷持つお姫様キャラですよね!
いいものをありがとうございます!
19. 5 リコーダー ■2007/05/30 15:59:13
鈴仙がよく泣きますが、何だか芝居がかって見えてしまった。
20. 5 眼帯因幡 ■2007/05/30 18:13:10
>あんたの目が赤いのは、泣き虫のせいかしら?
この言葉が妙に微笑ましく、暖かい気持ちになれました。
ただ、お題の穴が薄いように感じ、残念でした。
お疲れ様です。
21. 7 K.M ■2007/05/30 20:49:29
鈴仙の健気さはガチ。
無縁塚の桜と不死の人……確かに深く考えたら酷くシュールですね。
22. 3 乳脂固形分 ■2007/05/30 20:59:14
うーん、そつの無い出来なのでしょうが、それほど感銘を受ける箇所がなかった。
23. 4 二俣 ■2007/05/30 22:11:00
全体的に、BGMのない映画を思わせる静かな雰囲気で上手くまとまっていたと思います。
キャラクターの性格付けにちょっと違和感があるようにも思ったのですが、上記の通り一貫した文体だったので左程気にならず最後まで読めました。
24. 2 時計屋 ■2007/05/30 23:53:35
お話がちょっと浅いかなぁ。
輝夜の言動があまりに大人気ない気がします。

文章もこれといった欠点が無い代わりに、長所もないものになっています。
この類のお話ならもう少し情緒的にしても良いのではないでしょうか。

あと最後になりますが、
お題に沿った内容とは言い難いため、次回以降参加されるときは気をつけてください。
25. 7 藤村る ■2007/05/30 23:54:47
 いいなあ。
 寂しさの描写がすごく好きです。共感できるところが多いというのも多分にあるのですが。
 輝夜がやや鈍感かなあという気もしますが、寂しさに浸かっちゃってるといまいちそのへんの感覚がよくわからなくなってくるんですよねえ。バンプオブチキン思い出した。
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