鬼魁

作品集: 最新 投稿日時: 2008/01/24 11:02:13 更新日時: 2008/01/27 02:02:13 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



 お前はどこへ行くつもりなのだ。
 たった一人、何も持たず、何も頼らず、何も知らず。
 お前はどこへ行けるつもりなのだ。

 私は私の行きたい所へ行くんだ。
 一人だろうと、全く何もなかろうとも。
 私は私の行ける所まで行くんだ。

 そうか。
 ならばお前の事などもはや思い煩うまい。
 この時を以ってお前はお前の望みの通りたったの一人だ。
 何も持たず、何も頼らず、何も知らないまま野垂れて行くが良い。

 そうか。
 ならば私もあなたの事は考え悩むまい。
 この時を以ってあなたはあなたの傍に誰もいなくなった。
 そこで私が何も無いままにどこまで行けるか、見届けると良い。

 はん、もはや行け。さっさと行ってしまえ。
 この地にお前の居場所は全く無い。

 ああ、分かった。分かったとも。
 この地は全くあなただけのものだ。
 ……私はあなたを愛し敬い慕い畏れてきた。
 だがこれもこの時を以ってそれまでだ。
 まさか、まさかあなたがここまで意固地だったとは!

 意固地なのはお前も変わるまい。
 お前がお前であればあるからこそ、その時点でお前と儂はいずれこうなる事は必定であったろうよ。
 自由だなどと、斯様なおためごかしにお前の矮小な身の全てを捧げようなどというお前とはな。

 何故それがいけないのか。何故それすら叶わぬのか。
 いつまで何もかもから目を背けて居続けられると考えるのか。
 我々はむしろそれをよすがとし、それを以って永らえてきたのではないのか!

 何故現在が理解できぬ。何故現在を受け入れぬのだ。
 目を背けているのではなく目を向けてやる価値すらないのだ。
 もはや過ぎ去った過去なぞをいつまでも夢想する事は、何の意義も見出せぬ。

 夢想などではない!
 今更目を向けるのを拒むあなたには存ぜぬ事かも知れないが、世間というものは見捨てるに値するばかりではないんだ。
 物事の一つきりの面ばかり誇大するあなたには察せぬ事かも知れないが、世間というものは楽しくもあるものなんだ。
 あなたはそれを知っているだろうに。
 何故あなたがそれを否定してしまうんだ!

 だからお前は何も知らぬというのだ。
 お前如きに見渡せる程度の事がこの儂に見渡せぬとでも思うのか。
 そしてお前如きには分かりえぬ事を果て無く知る故にお前が蒙昧であると言う事も分からぬか。
 嗚呼、嗚呼、やはりアレをお前に近づけるべきではなかった。
 よもやこうまでお前を愚昧に貶めてしまうとは!

 私の友を悪く言うな!
 知らぬ私が知る事が出来たのは彼女のおかげ。
 あなたが頑として教えてくれなかった事の全てを教えてくれたんだ!

 お前と言う奴は……!
 アレが友だと!? あんなモノを友だと言うのか!
 何処から湧いたかも分からぬ得体の知れぬ事究竟足らんアレを!

 出自がどうだと言うのか!
 果たして私の友が何者か分からぬとして、それが友とするに足らぬ根拠などになるものか!

 なんと愚かな……何処までも度し難い……!
 今更お前にアレの所業を言って聞かせた所で聞くまいな。
 アレを知りアレを断定するに足る事変の一片も何の意味も持つまいな。
 おお、今こそ儂は儂を呪うぞ。
 この儂にここまで後悔の念を抱かせるお前が故に、そしてアレの存在が故に、儂は儂を呪うぞ。

 っ!
 ……偉大な父よ。
 私が愛し、敬い、慕い、畏れてきた偉大なる父よ。
 ならば私はあなたを覆うあなたの呪いを見事打ち払ってご覧に入れましょう。
 あなたの全てが杞憂であったと笑い飛ばして見せましょうぞ。

 それが愚かだと言うのがまだ分からぬか……!
 儂が愛し、慈しみ、我等を拒む世の理から儂の全てで以って護ってきた儂の大切な娘よ。
 分からぬのか。どうしても、分からぬのか……!

 偉大な父よ。
 私はあなたと同じ物です。
 それ故、だからこそ、どうしても、分かる事はできない。
 分かるまでは永遠に分かりようがないのだから。

 愚か者め……親不孝者め……。
 もう良い、もう沢山だ。行け、もう行ってしまえ。
 儂の言葉は何一つお前には届かなんだ。
 儂はとうとうお前を理解できなんだ。
 もはやお前は儂とは別の物だ。
 もはやお前は我等とは相容れぬ。

 否、いずれ私は舞い戻りましょう。
 背を向けて逃げてきたのではなく、颯爽とあなたを迎える為に、いずれ私は舞い戻りましょう。

 知らぬ。もう知らぬ。
 もう行け、お前の顔も、お前の声も、お前の存在も、儂は全て忘れる。
 お前など最初からいなかったのだ。
 とっとと去ね。何処へでも好きな所へ去るが良い。

 ……っ!
 そうか、そうか。承知仕った。
 ならば私は私の道を往く。
 そしてその道は、私が魁となるその道は、いずれは我等が祭り往く道となろう。
 あなたが私を忘れようが、私はあなたを忘れはせぬ。
 時が来たればその首に縄を括ってでも共に道を歩んでもらう故、とくと覚悟いたせ!


 惰弱なる人の夢は儚けれど、暴虎たる鬼の夢は、さていかなる泡と消えようか。
Hodumi
http://hoduminadou.com/
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投稿日時:
2008/01/24 11:02:13
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2008/01/27 02:02:13
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1. 6 名無しの37番 ■2008/02/12 09:43:08
萃香の話、で合ってるのかな。なら友は紫か……そりゃああれを無二の親友みたいに思われたら、親としてはたまったもんじゃないなぁ。
萃香の気風の良さが良く出てたと思います。会話だけなのに、雰囲気が出ていました。
2. 2 小山田 ■2008/02/13 01:27:44
私のようなあまり想像力と読解力のない読者としては、読み手の負担を減らす工夫が欲しかったです。
3. 5 織村 紅羅璃 ■2008/02/15 01:40:45
綺麗な文章で表現も好きなのですが、いまいち伝わりにくい印象が。
読めば読むほど味のある作品で、嫌いではないけれど......ってところです。
4. 4 床間たろひ ■2008/02/16 02:27:03
こういうの好みのはずなんだけどなぁ。
やりたいことは解るけど、どうにも言葉の力というか、はったりが足りない。
超越者としての言葉の重さというか、思考というか、同じ内容でももっともっと磨き抜けば、面白くなるのになぁ。いや、実に勿体無い。
5. 3 あまぎ ■2008/02/16 23:54:44
格好いいなあ……このシンプルな対話式も、タイトルも。
6. -1 #15 ■2008/02/25 12:10:16
後書きを読むまでさっぱりでした。もう少し分かりやすい方が良いと思います。
7. 7 ■2008/02/27 21:29:52
短い文章の中に萃香の格好良さが溢れています。
……と、自分でもコメントを短く格好良くしようとして失敗、作者様のセンスに脱帽します。
一方で読後感も結構あっさり過ぎて、物語の内容面でのインパクトが少なかった気がします。
8. 3 つくね ■2008/02/27 23:01:52
舞台でも見ているような感じでした。完成度は高いと感じますが、ただ私の読解力が足らないせいか文章を読んで素直に頭に入らなかったのが残念です。
9. 7 つくし ■2008/02/28 14:53:21
まさに鬼気迫る会話文。ケレン味のある言い回しもきれいにフィットしてます。萃香のエピソードと照らし合わせたりするといろいろクるものがあります。しかしお父さん人間不信だなあ……もしかしてアナタ、酒呑d……いえなんでもありません。
10. 4 ■2008/02/28 20:02:37
この会話の終了がお題の消化になっている。
お題に沿う話が既にアリ、それを当てはめただけと言えばそれまでだが、そこに至る会話を書けていると思うので、読み終えると「……なるほど」と納得してしまう。
起承結な感じ。でも悪いわけじゃない。
11. 1 たくじ ■2008/02/28 22:14:51
言いたいことはわからないでもないですが。これはストーリーになってないですよね。
12. 4 椒良徳 ■2008/02/28 23:32:05
ええっと、霧雨パパと魔理沙なんですかね。なにもわざわざこんな読みづらい文体で書かなくても……
13. 5 時計屋 ■2008/02/29 00:06:50
これは、神綺とアリス……かな?
旧作は二次を通して間接的にしか知らないので間違っていたらすいません。
対話のみという異質のSSですが、その中身はどこかしら心に響くものがあります。

印象に残る作品でした。
14. 3 ZID ■2008/02/29 01:17:10
幻想郷に来る前の萃香の話ですかね。作品の題材としては好みに合致するものの、文章からはテーマとの一致を感じず、また一人称に固定し、個人名を表記しない作風のせいもあるのでしょうが東方でやる意味あるのかな? というのが読み終えての正直な感想でした。
15. 1 とら ■2008/02/29 08:59:38
文章は本当に上手く、惹かれるものがあります。ただ、読者には優しくないと思いました。こういう作品もあっていいとは思いますが、自分はこの点数で。
16. 5 らくがん屋 ■2008/02/29 10:50:13
自分の裁量で入れられる点数としては、これが限界。異色作って評価しにくい。
17. 4 as capable as a NAMELESS ■2008/02/29 14:11:52
これから過去にしろ未来にしろ繋がりそうな話です。
これ単体よりは、色々とくっつけて出した方が良かったのでは?
18. 1 八重結界 ■2008/02/29 14:56:36
これは誰の話なのか、読んでいる限りではわかりませんでした。
そこが残念です。
19. フリーレス 中沢良一 ■2008/02/29 14:59:50
鬼の先駆けとなるのかどうなのか。といったところなんでしょうかね。
雰囲気SSは正直好きではないので、私は評価できません。なぜならコレはお話になっていないからです。萃香が鬼の国から出て行く話なのでしょう。会話だけで萃香の気持ちを表そうとしているのでしょうが、全体がお互いの主張だけで流れや、なにより楽しむエンターテイメントの部分が無いと私は思うからです。
20. 3 赤灯篭 ■2008/02/29 18:32:38
 ひとつひとつの台詞に力強さがあり、読んでいてとても迫力がありました。ただ、「魁」の意味が後で辞書で調べるまで分からず、最後少し困惑してしまいました。
21. -3 ☆月柳☆ ■2008/02/29 19:38:39
どう点を付けていいのか分からない…。
けど、あえて点をつける。
22. 4 K.M ■2008/02/29 20:16:34
それぞれのスタンス、それぞれの思想……今は相容れなくともその先がどうなるのか、それはきっと不確定ですよね。
23. -1 飛び入り魚 ■2008/02/29 20:47:31
魔理沙とその父の会話として見ればよいのだろうか。
いささか難解。ごめんなさい。分からない。
24. 10 12 ■2008/02/29 21:16:10
うぉお……かっこえぇ……
というのが、読後一番の感想。このまま舞台なんかでも使えそうですね。
というか、それこそオペラなんかで歌い上げてもいけそう。
それぐらい、一言一句考えて、リズムを大切にして文章を練り上げられているように思えました。
いわゆるキャラの過去話というのは、どうしても水っぽくなりがちです。
それをここまで、いかにも鬼というような、物悲しくも勇ましい一幕に仕立て上げるとは。
それも会話文のみで! 
ボリューム不足、との意見もあるとは思いますが、個人的にはこういった切れ味鋭い1エピソード、大好物です。
完全脱帽、10点です。
25. 5 BYK ■2008/02/29 21:52:55
だがその鬼は魁になることはかなわなかった。確かに鬼の音読みは「キ」だが、まさかこういった解釈があるとは。
26. 4 O−81 ■2008/02/29 22:01:21
 なるほど。
27. 3 只野 亜峰 ■2008/02/29 22:05:21
suicaと理解するのにしばらくかかった。
28. 5 綺羅 ■2008/02/29 22:37:26
文章力が高い方が書いたのだろうなあとは思いました。詩的であり、言葉の一つ一つが選ばれていると。しかしこの話、鬼だけに酔狂な作品といいましょうか、読む人を選びますね。私は個人的には好きなんですが、高得点かというと悩んでしまう。そういうわけでこの点で。
29. 3 moki ■2008/02/29 23:33:02
鬼の魁。果たして続く道が出来る日は来るのか。
30. 5 blankii ■2008/02/29 23:42:43
いつか〜みた、すいむ〜そ〜。とか新アレンジにも興奮気味な俺が来ました。泣ける。そして造語とのマッチ率がすごすぎる。

31. フリーレス 反魂 ■2008/02/29 23:46:26
 「解釈に幅がある」というのは、割と難しい技法を必要とする気がします。
 幅があるからには、中央に一本の解釈がなければいけません。
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