蓬莱に駒、半獣に薬

作品集: 最新 投稿日時: 2008/02/11 05:15:13 更新日時: 2008/03/05 10:42:24 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00





 板を打つ音が、三途の川に響き渡る。
 賽の河原に置かれているのは、四本の脚が支える将棋盤。
 九×九の升目に置かれた将棋の駒を、再び小野塚小町は手にとった。
「王手、飛車取り」
 無情の宣言をするものの、対面に座るのは積み重ねられた石の山だけ。
 石の山が打ち返してくれるはずもない。出来ることなど、鬼に蹴られて散らばるぐらいだ。
 小町は石の山から将棋盤へ、視線を移した。
 盤面の駒は、全て自分が動かしたもの。ご愛敬だと飛車と角を落としてみたものの、相手は自分。二重人格でもないし、器用に意識を分けて打つことなどできるわけがない。
 そうなると、心に積もるのは高揚ではなく、
「ああ、虚しい……」
 溜息混じりに呟き、小町は河原の上に寝そべった。
 三途の川は閑散期。サボる暇が無いほど、魂はやってこない。
 上司である四季映姫は、こういう時もあるのだと悟ったように言っていたが、船頭である小町からしてみれば溜まったものではない。
 かといって、繁盛しすぎるのも困りもの。
 死神が忙しい世界など、終末に近いとしか思えない。とかく我儘に聞こえがちな話だが、医者や坊主のように生き死にに関わる仕事の人間からしてみれば、常日頃から抱える悩みである。
 もっとも、小町が抱えるのはそういった高尚なものではなく、単に将棋の相手がいないというだけなのだが。
 駒を手の中で弄びながら、大きな欠伸を一つ。
「そういや、映姫様は将棋が打てるって聞いたけど……頼むわけにはいかないよなあ」
 仕事に律儀な彼女のことだ。いくら暇だからといって、職務中に将棋の相手をしてくれるわけがない。代わりに有り難いお説教を何時間か頂戴することになるだろう。そういった時間の潰し方は御免である。
「誰か将棋が打てる奴がこないかな」
 手の中の駒が、嘲笑うようにカチャリと音を立てる。
 願望を籠めた呟きは、三途の川の向こうへと消えていった。





 不死鳥の如き炎の塊は、輝夜を掠めることもなく、無惨に地面へと落下して霧散する。僅かに生えていた雑草が、悲鳴をあげる間もなく焼き尽くされた。
 大技を放った反動で隙だらけの妹紅。それを見逃す輝夜ではなく、がら空きの胴体に見るも鮮やかなドラゴンバレッタが突き刺さる。
 致命傷を遙かに超えた、即死の攻撃。
 余程の威力だったのか、生き返るまでに普段以上の時間を要した。
 リザレクションで身体と命を取り戻した妹紅の元へ、勝ち誇った顔の輝夜がやってくる。和服が似合いそうな胸を張り、見下すように鼻で笑う。
「ふふん、今日も私の勝ちのようね。これで十二連勝。いい加減、実力の差がはっきりしてきたのかしら?」
 以前ならば僅かに輝夜がリードしていた程度の勝敗は、今となっては圧倒的に輝夜の白星が多い。
 だがそれは、実力差が云々という問題ではなかった。輝夜が気づいているかどうかは知らないが、当の妹紅にはその原因が嫌というほど分かっている。
 身体に異常がない事を確かめると、輝夜に反論することもなく、妹紅はもんぺについた土を払う。
 そして何事も無かったかのように立ち去ろうとしたところで、苛立った口調で輝夜は言った。
「前から気になっていたんだけど、最近の貴女は少し変よ」
「何が? 別におかしいところなんて、どこにもないでしょ」
 確かに目に見えておかしい所など無い。
 外見だけならば、の話だが。
「ふん、気づいてないとでも思った? 馬鹿にしないで頂戴。何百年も殺し合いをしてきた仲ですもの。貴女の連敗の原因ぐらい、とうに見抜いていたわ」
 見抜いた上で、勝ちを取りに来ていたとは。その容赦の無さは相変わらずであった。
「妹紅、貴女やる気がないんでしょ?」
 いきなり図星をつかれては、妹紅と言えども言葉に困る。
 だが、輝夜はそれっきり何も言わない。妹紅の言葉を待っているのか。
 だとしたら、答えないまま去るわけにもいかなかった。無表情のまま、妹紅は静かに告げる。
「ああ、確かにお前の言うとおりだよ。どうも、最近はやる気がでない」
「どうしてと、聞いても答えてはくれないんでしょうね?」
「分かってるじゃない。だけど、答えてあげないんじゃない。私にも分からないから、答えようがないだけよ」
「……そう。勝ち続けるのは良いことだけど、殺しがいが無ければ興ざめね。早いところ、やる気を取り戻して貰いたいわ。それまでは、私が勝ち星を預からせて貰うけど。死ぬまでね」
 黒い魔法使いのような事を言っておきながら、その言葉は彼女よりもタチが悪い。
 なにせ、二人は不死者なのだから。死ぬまで借りるとは、永遠に借りると同義なのだ。
 これから永久に敗北を重ねるなど、とてもじゃないが我慢できない。それを見越した輝夜なりの激励だったのだろうか。本心のように聞こえるけど。
 いずれにせよ、効果は皆無だ。
 輝夜の忠告など馬耳東風に、妹紅は袖を雑巾のように絞る。染みこんだ血が、赤い滝のように地面へと零れた。
 また新しい服を用意しなくてはならない。
 妹紅の胸中にあるのは敗北の悔しさではなく、そんなどうでもいい悩みだけ。輝夜の言葉が届かないのも道理であった。
「もういいわ。次はちゃんとした殺し合いが出来るよう祈ってるわよ。いい加減、勝つのも飽きてきたことだし」
 馬鹿にするような口調にも、妹紅は何の反応も示さない。輝夜は眉根に皺を寄せ、不機嫌そうな表情のまま、竹林から飛び去っていった。
 吹き込んできた風に、妹紅は目を細める。
 このままでいたいとは、思っていない。原因はわからないにせよ、変わりたいという気持ちがあることは間違いない。
 例え、この身体が変化を望まない蓬莱の人形だとしても。
 心は、藤原妹紅のままであり続けたいから。
 地面にできた赤い湖を踏みにじる。
 茶色いブーツは、赤く変色していった。





 言うまでもなく、藤原妹紅は人間である。
 不死者を指して人間と呼べるのかは疑問だが、少なくとも月人よりかは人間に近い。
 だから、妹紅は気軽に人間の里へ訪れることができる。
 妖怪ならば、まず入り口で守護者に追い払われるだろう。善悪を問う事なく、里へ妖怪が侵入することは禁じられていた。そのくせ、悪魔の犬や月の兎は入りたい放題なのだから、守護者はどこか甘いと言わざるをえない。
 服を着替えた妹紅は、あてどなく里をぶらぶらと徘徊していた。
 普段なら竹林を歩いている。だが、あそこはあまりにも静かで、深く深く、考えてはいけない所まで踏み込んでしまいそうになるのだ。
 それならば、多少は賑やかでも雑踏を歩いた方が良い。そう考え、妹紅はわざわざ里へと下りてきたのだが。
 やはり竹林の方がマシだったかと、後悔している最中だった。
「よぉ、時化た面してるじゃねぇか。なんだ、何処ぞの男が夢に出てきたのか?」
 酒屋の向かい側に広がる空き地。元は乾物屋があったのだが、主人が妖怪に襲われて亡くなり、去年の暮れに店を畳んだ。
 今では童の遊び場であり、ご老体のたまり場になっている。
 その空き地を、我が者顔で占拠する傲慢そうな老人が一人。粗末なゴザに座りながら、老人は将棋の駒をお手玉のように弄んでいた。
 界隈では有名な人間である。将棋の腕は達人の領域に達しているのに、女癖の悪さも達人の領域に達しているとか。
 何度も里で出会っているが、妹紅はこの老人をどうにも好きになることが出来なかった。
「生憎と、誰かに思われるほど整った顔はしていないよ。見ればわかるでしょ」
「お前さんが醜女なら、世の中の女は全員醜女だな」
「大袈裟ね」
「その方が女は喜ぶ」
 最後の台詞が無く、胸を凝視していなければ紳士と呼べるかもしれない。
 もっとも、紳士と呼ぶにはあまりにも見窄らしい格好をしている。甚兵衛を着崩した紳士など、笑い話の登場人物でしかない。
「それよりも丁度良かった。相手がいねえんで困ってたところだ。どうせ暇なんだろ、相手をしてくれ」
「さて、どちらの相手をするかによって返答が変わるけど」
「お天道様が昇ってるんだ。昼の相手と言えば一つしかねえ。まあ、どっちでも俺は嬉しいがね」
「なら、私は帰る」
「俺に勝てたらな。ご託はいいから、とっとと座れ」
 有無を言わさない老人である。こういう所も苦手だ。
 妹紅はやむなく、対面に座った。
 と言っても向かいにはゴザすらなく、地面に直接腰を降ろさなくてはならない。
「先手と後手、好きな方をやるよ」
「ちゃんと選ばなくていいの?」
「面倒だ。それに、今日は空の具合が悪い。早めに終わらせて、一杯飲みに行こうぜ。都合良く、向かいは酒屋だ」
 空を見上げれば、なるほど、厚い曇天が煙のように広がっている。一雨きてもおかしくはない。
 早めに終わらせたいという気持ちは分かるが、だったら最初からやらなければいいという気持ちの方が強い。
「飲みにはいかないよ」
「じゃあ、俺が勝ったら一緒に飲む。お前さんが勝ったらとっとと帰る。それでいいだろ」
「私が勝っても得にはならないんだね」
「幻想郷一の棋士になれる」
「巫女に負けたくせに」
「巫女は人間じゃねえ。巫女っていう種族だ」
 当の巫女に聞かせれば、青筋を浮かべそうな言い草だ。
 ただ、妹紅も前から似たような事は思っていたので訂正はしなかった。
 老人は顎髭を撫でながら、握りつぶした和紙のように皺だらけの顔で笑う。
「お前さんと打つのは初めてだったか?」
「ああ、慧音と打っているのを見たことはあるが、実際に打つのは初めてだ」
 あの時も、この老人は強引に慧音を勝負へと誘った。
 それなりに自信があったらしい慧音だが、結果は老人の圧勝。それから三日間、慧音は寝る間も惜しんで将棋に没頭したという。
 再戦の結果がどうなかったは知らないが、顔中を墨だらけにして帰ってきたので、大体の予想はつく。
「守護者の姉ちゃんかい。ありゃなかなか腕を持ってたが、それ以上に立派な胸をしてやがったな。あと腰も」
 この老人は将棋と女にしか興味がないらしい。
 盤面から移った老人の視線は、相変わらず妹紅の胸へと注がれていた。人と話す時は顔を見ろと、親は教えなかったのだろうか。
「そういや言い忘れてたが、お前さん将棋は打てるのか?」
「慧音に教わったからそれなりに」
「ならいいさ。二歩で終いじゃ張り合いが無い」
「どうでもいいけど、胸と会話するな」
 老人は愉快そうに笑い、目を盤面に戻した。
 途端に真剣な表情をするものだから、どうにも調子が狂う。
「さあ、先手でも後手でも好きなように打ってくれ。白玉の露が俺が待っている」
 辛口でありながら、下戸にも好評という不思議な酒。向かいの酒屋特製の酒名を読み上げながら、老人はあぐらの上に肘を置く。
 助平な視線は微塵もなく、その顔にあるのは対極に望む棋士のそれと大差ない。
 強引に勝負をさせられたが、やるからには負けたくはなかった。色々な雑念を押しだし、妹紅は己の気を引き締める。。
「生憎と、酒は明日までお預けだよ」
 挑発的な台詞と共に、妹紅は一打目の駒を手に取った。
 二十分後。
 酒屋でからからと笑いながら酒をあおる老人と、不機嫌そうな顔で杯を傾ける妹紅の姿があったという。





 気が付けば夜はすっかり深くなり、いつのまにか晴れていた空からは、優しい月光が降り注いでいた。
 どこぞの鳥はほうほうと鳴いている。
 慧音はあの鳥を死を招く象徴だと言っていたが、果たして蓬莱人にも死を招いてくれるのか。そんな鳥が竹藪に生息しているのなら、自分と輝夜はなんて危険な所で殺し合いをしているのだろう。本当の死が、すぐ側にあるというのに。
 下らない戯言が頭に浮かぶ。酔いが脳にまで達しているのだろうか。
 周りの竹の擦れる音は、足下のおぼつかない妹紅を笑っているように聞こえた。
「マズイな……」
 酩酊する意識をつなぎ止め、確かめるように歩を進める。
 そしてようやく、目的の家に辿り着いた。
 格子窓の向こうには、胡蝶のように揺らめく灯りが見て取れる。
 こんな時間だというのに、まだ何か調べものでもしているのか。邪魔しちゃ悪いとは思ったが、いかんせんこのままでは自宅へ帰るのもおぼつかない。
 穴一つない障子戸を叩く。戸の向こうで、本を閉じる音がした。
「誰だ、こんな遅くに。新聞なら必要ない」
 あの天狗は夜になっても仕事熱心なようだ。それはともかく。
「私よ、慧音。悪いけど、ちょっと一晩泊めて貰えない?」
 戸が開く。案の定、呆れた顔の慧音が立っていた。
 許可も得ないうちから、妹紅は慧音の脇を抜けて家へと入っていった。
「返事をした覚えはないんだがな。まあ、いい。それより妹紅、お前ちょっと酒臭いぞ」
「目の粗いザルと飲んだから。合わせていたら、この有様よ」
 あの老人ときたら、将棋だけでなく酒も強いらしい。本人曰く、この程度なら強いうちに入らないそうだが。妹紅から見れば充分に常識の範疇から超えていた。
「ふむ。私はてっきり、蓬莱の薬を飲んだ者は酔わないと思っていたんだが」
「さあて、酒に酔わされたか、空気に酔わされたか分からないよ。輝夜や八意が酔ったところは見たこと無いし。現に私だって酔ったのは……何時のことだったやら」
 おかげで限界を見誤った。酒飲みの鬼でもない限り、酔っぱらって平気でいることは難しい。
 妹紅は隅っこに置かれていた藁を引っ張り出し、無造作にそれを畳に放る。
 さすがにここで布団へ潜り込むほど、頭の中は陽気ではない。もっとも、藁の掃除も面倒なので迷惑度ではどっこいどっこいである。
「しかし、お前がそれほど飲まされるとは。相手は誰だ? 八雲紫か?」
 あれも酒好きでは知られているが、横に置いておくには胡散臭すぎる。
 大体、最近はあまり姿を現していない。巫女も所在は知らないと言っていたし、今頃どこにいるのやら。
 横に逸れた思考を、慧音の言葉が遮る。
「よもや、輝夜と飲んでいたわけではないだろ」
「あれと飲むときだってある。ただ、今日は違うわ。慧音も知ってるでしょ、里にいる好色家の爺を」
 閉じた本を手にとって、慧音はあからさまに顔をひきつらせる。数々の思い出したくない記憶が、浮かんできてしまったようだ。
「ああ、あのご老人か。確かに酒は強いと聞いていたが、飲まされたと言うことはお前も負けたわけだな」
 そういえば、老人に負けた翌朝の慧音は、ひどい二日酔いに悩まされていた。今になって悟る。
 慧音もまた、被害者なのだと。
「じゃあ、慧音も何か言われたのか」
「久々に他人から説教されたぞ。私の打ち筋は駒を大事にしすぎるそうだ」
 苦笑いしながら、本を棚に収める。
「序盤はそれでも守りを固めることになるから定石となるが、終盤まで同じだと逆に駒を減らすことに繋がると。全ての駒を大事にしすぎるがゆえに、いつしか全ての駒を失ってしまう。見捨てる決断が、今の私には必要だと言われたよ」
「その様子だと、あながち自分でも気づいてはいたようね」
 無言で頷き、慧音は窓の外を見やる。
 格子の向こうでは、月に照らされた白色の竹が風に踊っていた。
「将棋に限らず、私は里の全てを護ろうとしていた。それこそ自分の手が及ばぬところにまで。だが、全てを自分一人だけでする事など不可能だ。一を切り捨て、全を助ける道もあるということを教えられたよ。まあ、その道を選んだことなど今までに一回もないのだが。知らぬよりかは遙かにマシだ」
「無知の知ってやつ?」
「ソクラテスか。妹紅も随分と博識になったようだが、微妙に違う。私は真の知など求めていないからな。ただ、自分が気づいていなかった選択肢に気づかされただけだ。汝が足下は暗闇にあらず、といったところか」
 月を見上げるその瞳は、慈母のように穏やかで温かい。
 彼女が積み上げてきた人生ゆえか。妹紅にはとても真似できる芸当ではなかった。
「ところで、こんな質問をしてきたからには、お前も何か言われたのだろう」
 うっ、と言葉に詰まる。
 慧音の指摘は正しく、妹紅も同じように説教じみた話を聞かされていた。
 しかし、それを悟ったように話せるほど妹紅は人ができていない。
 慧音より遙かに長い年月を重ねているのに、そういった部分はまだ未熟な自分が恥ずかしかった。
「言いにくいのなら言わなくてもいいぞ。別に聞かねば死ぬわけでもなし、自分の胸に留めておくのもまた一つの選択肢だ」
 意地の悪い台詞だ。そう言われては、心にしこりが残る。話さなくては寝覚めも悪くなりそうだし。
 藁の上に寝転がり、慧音とは反対側へ身体を向けた。
 それが唯一の抵抗だったが、見透かされてしまったのか、慧音は小鳥が鳴くようにクスリと笑った。
 笹も気を利かせて、こういう時に騒げば良いのに。慧音の笑い声が聞こえた今となっては、後の祭でしかない。
 妹紅は肩を落とし、嫌々ながらも口を開いた。
「私は敗北を恐れなさすぎるそうだ」
「はて、それは悪い事ではないだろう。むしろ恐れすぎる者の方が、勝負事には向いていない」
 妹紅も同じように考えていた。だが、老人はこう続けた。
『敗北を知らないのはただの愚人だ。敗北を知らない人間はそれを経験することを恐怖するか、慢心していずれ経験してしまう奴の二種類しかいねえ。敗北に怯まないのは無鉄砲な大馬鹿者だ。だが、俺はそういった奴らの方が好きだね。敗北に怯まない奴らは、何をしでかすか予想できないからな』
 前者で思い付くのは博麗霊夢か。妹紅の知っている限り、あれが存命中に負けたという話を聞いたことがない。ただ恐れも慢心もしていなかったが。
 後者は湖の妖精達が当てはまるだろう。彼女らの次の行動を予測するのは、一ヶ月後の天気を当てるより難しい。
 そして妹紅は、どちらかといえば自分は後者だと思っていた。だが、老人はそう見ていなかったらしい。
『お前さんは敗北を恐れない人間だ。本来だったら、そんな人間なんざいるわけがねえ。誰だって負けるのは嫌だからな』
 妹紅とて、好きで負けたいわけではない。
『確かにお前さんは負けたいとは思っていない。だが、負けてもいいとは思っている。不思議だぜ、まるで負けても次があるからと思ってるような節があるじゃねえか。そんな人間を見たのは、お前さんが初めてだ』
 少なくとも、あの老人は永琳や輝夜とはまだ打っていないのだろう。打っていたとしたら、きっと同じような台詞を吐いたに違いない。
 妹紅の話を聞き、慧音も同じような感想を抱いたらしい。
「まあ、ある意味では仕方のないことだ。蓬莱の人間は、敗北すらも結果の一つとして受け止められるからな。死ねば終わりの人間から見れば、そういった風に見えるのもやむをえない」
 蓬莱の薬を飲んだ人間には死が訪れない。
 すなわち、負けても次があるのだ。
 人ならば、殺し合いに負けたら次はない。そこでその人間の生涯は終わり、敗北を抱えたまま息絶える。
 蘇って再戦など、それこそ幻想郷でも限られた連中にしかできない芸当だ。
「次の事を考えながら打ってる奴と戦っても、全く面白くも何ともないと言われたよ。腕だけじゃなく、口もたつも爺ね」
「だが、気に入ったのだろ?」
「不愉快なだけよ」
「そうか、そこまで気に入ったのか」
 顔を見ずとも、慧音が満面の笑みを浮かべている事がわかる。
 振り向いてなどやるものか。
 妹紅はなるべく素っ気なく言った。
「もう遅い。寝よう」
 目蓋を閉じる妹紅の後で、慧音の楽しそうな笑いが聞こえる。
 唇を尖らせた妹紅は必死に、蛙の数を数えるのであった。
 そうしないと、寝られそうにないのだ。





「ふふっ」
 突然笑い出した慧音に、永琳は訝しげな目を向けた。
 二人がいる場所は永琳の自室。万に一つもないように、薬の保存は完璧のはずだ。笑気ガスが漏れる心配もない。
 永琳の視線に気づいた慧音は、頬に朱を散らしながら咳で誤魔化す。
「すまない、単なる思い出し笑いだ。気分を害したのなら謝る」
「謝られても困るだけよ。それよりも、これ」
 浅黄色をした布の袋を手渡される。
 受け取った瞬間、中で小粒の石が擦れ合うような音がした。
「恩にきる。そろそろ切れる頃合いだったんだ」
 慧音は大事そうに袋を懐にしまった。
 中身は薬。迂闊に振り回しては、成分が変わるやもしれない。
 安堵の表情を見せる慧音とは対照的に、永琳の表情は暗い。
「渡しておいて何だけだけど、あまりそれを服用しない方がいいわよ。なんなら、もっと違った効き目のある薬を処方しても良いんだけど」
「遠慮させて貰う。私に蓬莱の薬は合わない。延命は医師の領域だが、永遠は蓬莱人の聖域だ。私ごとき半獣が立ち入れば、身体ではなく精神が崩壊しかねない」
「その割に、あなたのお友達は今も元気にしているみたいだけどね」
 永琳の皮肉に、今度は慧音の表情が暗くなる。
「元気……ね。そうだと良いんだが、さて」
 最後は消えるような声音で呟いた。
 輝夜を除いて考えれば、おそらく慧音が妹紅と一番付き合いが長い。気分の浮き沈みぐらいだったら、顔を見ただけで把握できる。
 勿論、今の妹紅に覇気が無いことは既に承知済みである。
 しかして、その原因までもは把握していなかった。
 お節介な老人の説教に諭され、自分を恥じている風でもない。当たり前だ、それで考えを変えるような妹紅ではない。
 そもそも、覇気が無くなったのは老人と勝負するよりも前の話だ。
 何かキッカケがあったのか。それとも、何かが徐々に妹紅の心を蝕んでいったのか。
 慧音にはわからない。今はただ、妹紅が話してくれるのを待つだけだ。
 思考に没頭する慧音。
 不思議そうに首を傾げながら、永琳は思い出したように言った。
「そういえば、妹紅に言っておいて欲しい事があるんだけど」
「妹紅に?」
 頭の中を巡っていた単語が突如出てきた為か、慧音は思考の海から戻ってきた。
「ええ。姫がね、張り合いが無いって五月蠅いのよ。だから、もっと本気で付き合って頂戴と。愚痴を聞くのは私の役目なんだから」
 頬に手を当て、溜息をつく。
 玲瓏とした永琳の表情が崩れるほどだ。よっぽどタチの悪い愚痴だったのだろう。推測するだけで身震いがした。
「ああ、一応は言っておくよ」
「一応、ね。心許ないけど、あなただけが頼りなのよ」
 頼りにされても困る。慧音にだって、原因はわからないのだから。
「いっそ永遠の時を止めてしまおうかとも思うけど、それを姫は望まないでしょうし」
 不死を終えるとは、矛盾を孕んだ表現だ。
 だが、永琳は蓬莱の薬を製薬した張本人。毒薬を作る薬師は、解毒剤も予め用意しているという。
 蓬莱の薬の効き目を切れさせる薬があったとしても、案外不思議ではないのかもしれない。
 それを妹紅に飲ませれば、彼女は苦しみから解放されるのだろうか。
 馬鹿馬鹿しい。僅かに浮かんだ考えを振り払うように、慧音は首を振った。
 苦しみから逃れる為に命を捨てるなど、妹紅と最も対極に位置する考えである。
 選ぶわけもないし、選ばせたくもない。
「では、私はこれで。色々と世話になった、例を言うよ」
 そのまま去ろうとも思った。
 背後から永琳が声を掛けてくる事は、何となくわかっていたから。
「忠告しておくけど、延命にも限界があるわよ。あなたの寿命はとうに過ぎている。これ以上の延命を続けるようならば、いずれ身体が生きる事を拒否して植物人間のようになってしまうかもしれない」
 かつて、一粒目の薬を渡したとき、永琳は同じ事を言った。
「博麗霊夢も、霧雨魔理沙も、十六夜咲夜もとうに逝った。あなたと出会った頃の連中なんて、数えるほどしか生きていない。なのに、どうしてそんなに生きようとするのかしら?」
 全く同じ質問ならば、答える返事も同じもの。
「決まっている。妹紅の終わりを見届けたいからだ」
 かつての永琳は馬鹿ねと呟き、慧音に豆のような薬を渡した。
 今の永琳は何も言わず、慧音も無言で部屋から立ち去った。





 部屋で一人、永琳は懐かしい写真を眺めていた。
 文が撮った、遙か昔の永遠亭の写真。
 中央にウドンゲとてゐが仲良く並び、ウドンゲにのし掛かるように輝夜が前へ出てアピールしている。のし掛かられたウドンゲは顔を真っ赤にして、それを見た自分が微笑んでいた。
 カメラの端には霊夢や魔理沙の姿もある。
 今となっては、二人の姿を確認できる資料など殆どない。現博麗の巫女だって、きっと霊夢の顔は知らないはずだ。時は容易に、人を風化させていく。
 何度も味わった、残酷な仕打ち。
 他人が死んでいく中で、自分だけは永遠に生き続けなければならない苦しみは、死の代わりに与えられた痛みなのだろうと永琳は思っていた。
 何事にも代償はある。それすら拒絶するならば、もっと大きな痛みが襲ってくるのだろう。
「だからこそ、慧音は永遠に生きることを拒むのかしら」
 写真に語りかけても、答えは返ってこない。
 姫の為に永遠の従者となることを決めた永琳。
 妹紅の為に寿命を延ばし続ける慧音。
 誰かのためにという目的は同じでも、選んだ手段は全く異なる。
 本人は精神が壊れるなどと言っているが、それは生き続けるのが一人だけだったらという話。永琳とて輝夜がいなければ、今頃はどうなっているか想像だにできない。
 妹紅がいるのならば、慧音の精神だって壊れることは無いはずなのに。
 どうして、彼女は永遠を拒絶するのか。
 その答えを聞けるのは、きっと慧音が死ぬ間際の事だろう。





 訃報というものは、何度知らされても慣れることはない。
 長く生き続け、人と関わってしまったのなら避けて通ることはできない道だ。それを理解し、ああまたか、と達観するぐらいでないと辛いというのに。
「妹紅……あの老人が亡くなられたそうだ」
 説教臭く、酒臭く、女癖も悪いのに将棋の腕前だけは一人前だった老人。
 あれほど酒を飲んで身体を悪くしないのかと思っていたが、案の定なにか身体に問題を抱えていたらしい。
 医者からは酒を控えるように言われいたらしいのだが、あの飲みっぷりを見て控えているだなんて思う馬鹿はいない。
 老人は忠告を無視して飲み続け、道端で突然倒れてしまったらしい。気づいた時には、もう既に逝ってしまったそうだ。
 辛気くさくなる気持ちを追い払うように、勤めて明るい口調で妹紅は言った。
「せめて、線香の一本でも手向けてあげようかしら」
「そうだな。色々と迷惑はかけられたが、悪い御仁では無かったし。ついでに酒も持っていこう」
「杯も忘れるないでよ。墓にかけると怒りそう」
 冗談混じりの発言だったが、生きていたら本当に怒りそうだから恐ろしい。





「あら、珍しいところで会ったわね」
 酒瓶片手に墓までやってきてみれば、見覚えのある顔がいた。
 日光を蔑むような白い肌。それにも負けない白亜の傘を握りしめるのは、紅魔館の吸血鬼。レミリア・スカーレットだ。
「人の台詞を取らないでよ。大体、私が墓場にいるよりも吸血鬼が墓場にいることの方が珍しいじゃない」
「鬼が紅茶を嗜むご時世ですもの。吸血鬼が墓参りに来ても不思議じゃないわ」
 そういうものだろうか。何か間違ってる気もしたが、上手く説明できないし、そもそもそれほど大したことでもないので無視した。
「墓参りと言ったが、ここに親しい者の墓でもあるのか?」
 慧音は辺りを見渡した。つられて、妹紅も墓場を見渡す。
 レミリアと墓参り。そこから連想させる人物は一人だが、生憎と彼女の墓は紅魔館の裏に建てられている。
 そもそも、ここは人間の里に住む者達の墓。レミリアの知り合いなど、いるはずがない。
「親しくはないわよ。会った事があるのは一度きりだから。ただ、ちょっと渡したいものがあっただけよ」
 一瞬、出来損ないのぼた餅でも供えたのかと思った。
 しかしよく見れば、それはなんてことない普通の駒だ。
 ただし、将棋ではない。チェスの駒だ。
「察するに、あのご老体と一戦交えたくちか。驚いたな、将棋だけでなくチェスにも精通していたとは」
 隣にいた慧音は、しきりに感心している。
「勘違いしないことね。あの男は根っからの将棋馬鹿よ。西洋のボードゲームなんて知ってるわけないじゃない」
「はぁ? じゃあ、その駒はなんなのよ」
「決まってるでしょ。勝負に使った駒よ。もうチェスをする相手もいないことだし、手向けに供えるには丁度良いわ」
 ますますもって意味がわからない。
 顔つきが次第に怪訝になっていく妹紅と慧音。レミリアは日傘を持ち替え、愉快そうに口元を吊り上げて言った。
「私はチェスの駒で戦い、あの男は将棋の駒で戦った。さながら異種ボードゲームとでも言ったところかしら」
 将棋対チェスと。
 あまりに常識外れの発想ではあるが、疑えないのが恐ろしい。
 なまじ二人は老人の性格を知っているだけに、レミリアの話を聞いて互いに苦笑を浮かべた。らしいな、と。
「ちなみに、結果はどうだったのだ?」
「結果? さあ、わからないわね。なにせ、将棋とチェスではルールが全く違うもの。どっちが勝ったかなんて、判断できるわけないじゃない」
 結果の出ないゲームとは。何とも後味が悪そうだ。
 もっとも、レミリアの顔には負の感情は微塵も浮かんでいなかった。むしろ、楽しそうでさえある。
「大切なのは結果でも過程でもない。前提よ。誰と、どういう心構えで挑むのかさえ決めていれば、後は結果などどうでもいいわ。まあ、勝つに越したことはないけどね」
「さて、私には理解しかねるな」
「歴史を弄るような半獣にはわからないでしょうね」
「当然だ。私は運命を操る事は出来ないからな。結果が気になるのは、性というものだ」
 笑顔で牽制しあう二人をよそに、妹紅は無言で物言わぬ墓を見つめていた。
 脳裏に流れるのは、レミリアの言葉。
 前提が大切だという彼女の台詞が、妹紅の心の何かに引っかかっている。
 それが何かわかれば、この胸の霧を晴らせるような気がした。皮肉な話だ。霧をはらうのに、吸血鬼の力を借りるなんて。
「まったく、たまに外に出てきたらこれだもの。私が吸血鬼だってことを、改めて実感ささせられるわね」
「良いじゃないか、いいリハビリだ」
「当人にその意志がなければ、それはただの迷惑よ。少しは自重しなさい」
 言うだけ言って、レミリアは踵を返した。
 白亜の傘を傾けて、最後に別れの言葉を口にする。
「それじゃあ、さようなら」
 淡々とした言葉を残して、レミリアは悠々と去っていった。
 久々に会ったから覚えていないのだが、果たして彼女は別れの言葉を口にするような殊勝な人格を持っていただろうか。
 隣の慧音も不思議そうな顔をしている。
 風に煽られ、チェスの駒がコトリと倒れた。





 老人の死から一ヶ月の時が経った。
 妹紅の生活には何の変化もなく、慧音と会ったり、輝夜と殺し合ったり、竹林で人を案内したりしていた。
 ただ、言い様のない漠然とした何かは、確実に大きくなっている。
 輝夜との殺し合いでも、以前にも増して力が入らず、輝夜の愚痴がひどくなったと永琳は嘆いていた。
 老人の死が悲しかったから、というわけでもない。
 妹紅とて、千を超える年月を生き抜いてきた人間だ。
 耐性が付いたわけではないが、それが原因でふさぎ込むような神経はしていない。だから、老人の死は関係ないはずなのだが。
 気が付けば、妹紅はかつて老人と対局した広場に足を運んでいた。
 当然の事だが、そこに老人の姿は無い。広げていたゴザも、今は何処かに消えてしまったようだ。
 九や十かの子供達が、無邪気な笑い声を上げて走り回っている。
 広場の隅っこまで歩き、妹紅は地べたの上に腰を降ろした。
 あぐらを掻きながら、楽しそうな子供達の方へ顔を向けている。だがその瞳は、もっと別のものを見ているようであった。
「なんでだろうな……」
 自然と漏れ出す、疑問の声。
 輝夜との殺し合いにやる気が出ない一方で、老人との将棋はもう一度だけ対局してみたいと思う自分がいた。
 そんなに負けた事が悔しかったのか。
 違う。負けた事が悔しかったのなら、その場でもう一度再戦を申し込んでいた。
 ならば、もう二度と戦えないからだろうか。
 人間とは不思議なもので、持っているときは執着しないくせに、失うと途端に惜しくなる。老人と二度と対局できない気持ちが、後悔の念を生み出しているのでは。
 おそらく、それが答えだろう。
 もしもレミリアのように運命を操作する能力を持ち、老人がもうすぐ死ぬとわかっていれば、あの場で妹紅は再戦を挑んでいた。
 今度こそ、心の底から全力で。
「…………ああ、そういうことか」
 呆れたように、呟いた。
 長らく妹紅の心を煩わせていた、やる気の出ない原因。それが分かったのだ。
 なんてことはない、答えは最初から出ていた。ただ、自分があまりにも長く生きすぎていたから、忘れていただけ。
 あるいは輝夜がいたから、気づくことが出来なかったのか。
「はははははは」
 手で顔を覆い、渇いた笑いを上げる。
 楽しそうに遊んでいた子供達も、気味悪そうな顔で妹紅に注目し始める。
 そのうちの一人、一番幼そうな子供が、妹紅に恐る恐る近づいてきた。
「お、お姉ちゃん、何がそんなに面白いの?」
 指の隙間から少女から眺める。
 少女は身体を震わせて、一歩後へ下がった。
「お姉ちゃんはね、答えを見つけたのよ。誰にだってわかる、単純な答えをね」
 余程迫力があったのか、ひっ、と小さな悲鳴を漏らしながら少女は固まった。
 妹紅は顔を覆っていた手を離し、それを少女の頭の上に乗せる。
 別に驚かすつもりはなかった。ただ、少しばかり自分に呆れていただけのこと。結果として、それが少女を驚かすことに繋がっただけだ。だから、これはせめてもの慰め。
 頭を撫でられた少女は、最初戸惑うように顔を見上げていたが、やがてされるがままに頭を下げた。
「じゃあ、お姉ちゃんがわかった答えってなに?」
 少女は頭を差し出しながら、尋ねる。
 妹紅は言った。
「一期一会よ」





 良薬口に苦し、という諺を考えた人物は誰なのだろうか。
 もしも考えた人物が目の前にいたならば、慧音はこう言ってやりたかった。
 悪薬は口に苦いだけでなく、身体にも苦しいのだぞと。
「はあっ……ふぅ……はぁ……」
 壁にもたれかかりながら、柄杓から直に水を飲み干す。永琳から処方された薬を飲んだ後は、いつも恐ろしいほどの痛みが襲ってくる。
 関節は軋むように痛み出し、喉は焼きごてを押し付けられたように熱い。何度も水を飲むのだが、痛みも熱さも一向にひく気配はないのだ。
 ようやく痛みが収まってきた頃には、いかに自分が苦しがっていたがよくわかる。
 畳は猫が引っ掻いたようにむしられ、瓶に直接顔を突っ込んだせいか、服は水垢離をしたように腰までしっかりと濡れていた。
「ふぅ……八意永琳も、もう少し楽な薬を処方してくれればよいのだが……」
 頼んだのは自分だ。愚痴をこぼすなど言語道断なのだが、七転八倒した後では仕方ないことである。
 畳の傷痕を目立たないように治し、服を着替えた頃には、痛みも完全にひいてきた。
 痛みを堪えている間は、当然だが何もすることはできない。寺小屋仕事も引き継ぎを決めたし、する事と言えば歴史書の編纂程度。
 時を気にする必要はないのだが、無駄な時間を使っている気がした。
 貴重な時間を、苦しみながらのたうち回る事に使っていいのか。
 しかしいかんせん、相手は耐えられるような痛みではないのだ。これも必要な時間と割り切り、それを除いた上で生活していくしかない。
 後悔はしていない。これは、自分が決めた苦しみなのだ。
 口に残っていた水を拭き取ったところで、嫌に機嫌の良さそうな妹紅がやってきた。
「なあ、慧音。少し話があるんだけど」
 どうやらあの痛みも、今日限りの話らしい。





 妹紅と殺し合うのは、これで何度目になるだろうか。
 数えるのも面倒になるほど、輝夜と妹紅は殺し合いを続けてきた。
 最初は防衛の為に。輝夜を殺そうと襲ってくる妹紅を、軽くあしらい続けた。
 しかし、それも時間が経てばやがて薄まり、今では何の為に殺し合ってるのかさえ定かではない。食後の運動がてらという事もあれば、どちらかの機嫌が悪いからという理由で殺し合う。
 さながらそれは娯楽であり、軽い食事のようでさえあった。
 気が向けば、興が乗れば。そんな理由だからこそ、改まって果たし合いのように挑むことはなかった。
 今日、この時を除いて。
 竹藪の奥にある、四方が開かれた不思議な空間。幾度もの戦いを経て、自然と作られた天然の闘技場である。
 輝夜宛に届けられた手紙には、ここで待つと記されていた。
 差出人は妹紅。ご丁寧に、日時まで指定されていた。
「まるで果たし合いね」
 真剣な眼差しで輝夜を待っていた妹紅を見て、思わずそんな感想が零れた。
「今日だけは、適当な理由で戦うわけにはいかないから。こんなまどろっこしい手を使わせて貰ったのよ」
「構わないわ。あなたがやる気になってくれれば、私はそれで大満足」
 このところの無気力ぶりを鑑みれば、その気になってくれた事がむしろ嬉しい。
 無気力な相手と戦っても、ただ疲労が増すだけだ。娯楽性を求める今となっては、悦びが無ければ、何の為に殺し合っているのかわからなくなる。
「それは保証しよう。今の私は、初めてあんたと出会った時ぐらい殺す気に満ちあふれている」
「ええ、私も保証してあげる。懐かしい目をしているもの」
 かぐや姫として過ごしていた頃、藤原妹紅などという人間は全く眼中になかった。
 出会っていたのかさえ、記憶に残っていない。
 何かの噂で、蓬莱の薬を飲んだ人間がいるというのは耳にした事がある。だが奇特な人間もいるものだと、感心した程度だ。
 輝夜の中で初めて妹紅と出会ったのは、幻想郷に来てからまもなく事であった。
 あの時の妹紅の目を、輝夜は一生忘れることはできないだろう。
 輝夜を見つけた驚きから一瞬にして変わった、怒りと憎しみだけで彩られた瞳。
 氷のように視線は冷たいのに、その奥には火山よりも熱い殺気が宿っている。
 ともすれば溶けて消えてしまいそうな瞳に、輝夜は久々の歓喜を覚えた。この人間なら、きっと私を生涯楽しませてくれる。
 当時はそれに気づかなかったが、心のどこかではそう予感していたはずだ。今ならば、確信を持ってそう言える。
 永劫の退屈を紛らわせてくれる、唯一無二の存在を、輝夜は幻想郷で見つけたのだ。
 その考えは、間違っていなかった。
「ここ最近は全く楽しめなかったけど、今日の目つきでご破算にしてあげる。これなら、あと百年は楽しめそうね」
 逸る気持ちを抑えながら、蓬莱の玉の枝を取り出す。
「残念だけど、殺し合いは今日までよ」
 足下に置いてあった風呂敷を手にとって、妹紅はそれを輝夜の方へ放り投げた。地面に落ちた衝撃で、結び目が解ける。
 風呂敷の中に入っていたのは、ごく普通の食料だった。強いて共通点をあげるなら、全て携帯できる乾燥食品だったことか。
「これが、なに?」
 挑発的な笑みを浮かべ、妹紅は口を開く。
「見て分からないの? それは携帯食料よ」
「これが何かを訊いてるわけじゃないわ。何でわざわざこれを見せたのかって訊いてるの。まさか、今日は大食い勝負でもしようってわけじゃないわよね?」
 もんぺに手を入れ、胸を張る。吊り上がった口元から、愉快そうな妹紅の声が漏れだした。
「今日の殺し合い。私が勝ったら、旅に出る」
「なんですって?」
「言葉通りの意味だけど。私が勝ったら旅に出る。もう幻想郷には二度と戻ってこない。この殺し合いも今日が最後ということになるね」
 一瞬、輝夜は呆気にとられた。これが現実なのか、疑わしくなったからだ。
 しかしそれが現実と分かるや否や、沸騰したように熱くなった血が、一気に頭にのぼった。
「馬鹿なこと言わないで! どうして急にそんなこと!」
 永劫と思われた殺し合いが、ここで終わるだなんて。
 そんなこと、認められるはずがなかった。
 顔を赤く染める輝夜とは対照的に、妹紅の顔はいつもと同じ冷静そのものだ。
「気づいたからさ。ここが自分が限界だってことに。私はあんたほど、飽きに強くはなかったんだよ」
 蓬莱の玉の枝を握りしめる。
 輝夜が唯一恐れていたものは、妹紅の心を蝕んでいたらしい。
「そもそも、こんな何も失わない戦いを長く続けられるはずはなかった。あんたは退屈しのぎだからそれでも良いんだろうけど、私は一応復讐という名義で殺そうとしていたの。なのに、あんたは殺しても死なない。私も死なない。これじゃあ、私の目的は永久に果たされることがない」
 殺し合いに娯楽を求めた輝夜と違い、妹紅はあくまで復讐の為に殺し合ってきた。
 永劫の殺人合戦は輝夜を満足させたかもしれない。しかし、妹紅には何も与えることが無かった。
 その齟齬が、妹紅からやる気を奪っていったのだ。
「もっとも、今となっては全てが復讐の為だったかはわからないよ。私だって、退屈を紛らわせる為にやっていたのかもしれない。でも、いずれにしろ飽きは誤魔化せないよ。だって、どちらも何も失わない戦いなんて、つまらないだろ」
 それに、と妹紅は続ける。
「機会ってのは伸ばせば薄まる。あんたと殺し合える機会を、私は少し伸ばし過ぎた。だから自然と味も薄くなる。生憎と、私は濃い味の方が好きなの」
「だから、勝てば出て行くと?」
「そう。だけど、あんたは私と殺し合いを続けたい。私は一度きりの殺し合いをやってみたい。互いの主張を通す為には、力でねじ伏せる以外に方法はない」
 妹紅の背後に、不死鳥の如き炎の鳥が浮かび上がる。
「なんだ、つまりいつもと変わらないってことね」
「そう、やってることはただの殺し合い。今日は特別に、そこに何かを賭けただけよ。互いの譲れない部分をね」
 それならば話は早い。
 要は勝てばいいのだ。そうすれば、妹紅は何処にも行かなくて済む。
 久しく味わっていなかった感覚が蘇る。身体が疼いて、今にも飛びかかりたくなる衝動。
 濃い戦いと言ったのも頷ける。
 なるほど、これも悪くない。
 だが、輝夜はこれに満足することなどできない。一度の殺し合いよりも、彼女は永劫の殺し合いを望む。
 だから、負けられない。
「あなたをこの永遠から解き放ったりはしない。私の悦び、私の満足。それら全てを守るため、あなたを殺すわ藤原妹紅」
「私を不死にした怨み。父に恥をかかせた怨み。それらが薄れて消えゆく前に、決着をつけましょう蓬莱山輝夜」
 木枯らしが広場を通り抜け、最後か最初か知らない殺し合いの幕が、切って落とされた。





 通常の戦闘ならば、必要なのは力だけではない。
 戦術に駆け引き、知的な要素も必要となる。
 だが、こと妹紅と輝夜に戦いに関しては、そんな面倒な要素は不必要だ。
 必要なのは力のみ。純粋な力と力のぶつかり合い。
 ゆえに、実力の違わない二人の勝負は、どちらが勝ってもおかしくはないのだ。
「難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』」
「時効『月のいはかさの呪い』」
 互いの宣言と共に攻撃は発動し、五色の弾幕と二色のナイフが交差する。
 ルナティックよりも遙かに難度の高いそれを、二人はいともたやすく避けきってみせた。だが、驚いた様子もない。
 この程度、二人にとっては挨拶のようなもの。腕や足が一本ぐらい吹き飛んでからが、本当の勝負である。
 ただし、今日の妹紅はそこまで捨て身になる気はない。
 だからこそ、次の攻撃に全力を籠める。
 思えば、かつての殺し合いもそうだった。小細工などは一切無く、いつだって勝負は最初の一手で決まっていた。
 なるほど、将棋で勝てないわけである。一手で決まる将棋など、名人だって実現は不可能だ。
「悪いけど、この一撃で全てを決めるわよ」
 フジヤマヴォルケイノのスペルカードを取り出す。その数は優に十を超えていた。
 弾幕ごっこでは禁じられている、スペルカードの重複。通常ならば一発や二発ぐらい当たっても、気合いで何とかすることができる。
 しかしスペルカードを重複すれば、威力だって倍増していく。被弾すれば、体力も気合いも根こそぎ奪い尽す。それこそ、命だって容易に。
「惜しいわね。せっかくの本気、もう少し味わっていたかったのだけど。まあ、これも私達らしいと言えばらしいわね」
 輝夜の所有している五つ難題。それら全てを虚空に浮かべながら、輝夜は五枚のスペルカードをトランプのように広げて見せる。
 スペルカードの同時使用。これもまた、弾幕ごっこでは禁じられていた。
 合成という形でならパチュリーが使用している。
 だが、それだって安全地帯は必ず用意されていた。弾幕ごっこであるならば、そのスペルカードは必ず避けることが可能でなければならない。
 輝夜のそれには、安全地帯などありはしなかった。
 文字通り、必中のスペルカード。
 発動すれば、必ず相手を倒すことができる。
「相変わらず、えげつない手段をとるのね」
 皮肉混じりの言葉を投げかけながらも、精神を徐々に高めていく。
「それはあなただって同じこと。大体、そんなことは昔からわかっていたじゃない。私達の殺し合いには、どこにも逃げる余地がない。だからこそ、いつだって勝負は一発でケリがついていた。むしろ、ここ最近の長ったらしい勝負の方がどうかしていたのよ」
 輝夜の言う通りである。
 そう言った意味では、互いに迷走していたのかもしれない。
「ねえ、輝夜。もしもの話なんだけど」
 ここにきて少し不安そうな顔で、妹紅は口を開いた。
「何よ」
「もしも、私があんたを騙して……」
 不意に、言葉を止める。
「いや、やっぱり何でもない。わざわざ自分で不吉な未来を予感させる必要もないでしょ」
 勝利を望んでいるのならば、敗北した時の事を考えるなど愚の骨頂。
 それこそ、あの老人が言っていた通りのことではないのか。
 負けた後の事を考えるな。今日に限って、敗北の次は無いのだから。
 呼吸を整え、輝夜に向き直る。
「これまで何勝何敗してきたか、覚えている?」
 妹紅の問いかけを、輝夜は嘲笑った。
「覚えられるほど馬鹿じゃないわ。それに、そんな事はどうだっていい。例え今まで全勝していたとしても、今日を負けるわけにはいかないのよ」
「気持ちは同じか。さて、どちらが勝つのやら」
「どんな生物だろうと、勝敗を分かつのはただ一つ」
「強い方が勝つ」
 妹紅と輝夜はスペルカードを構える。
 一撃必殺が勝つのか、百発百中が勝つのか。
 互いにもその答えは分からず、ただ己の未来を信じるのみである。
 天地開闢かと思うほどの光が、竹藪を覆い尽くした。





 地面に膝をつく。
 さすがに五つのスペルカードを同時に使用するのは骨が折れた。
 だが、その甲斐はある。
「私の勝ちね、妹紅」
 右腕は炭化されてしまったが、命を奪われるには至らなかった。
 対して、妹紅は四肢を原型を留めぬほど壊され、胴体を五色の龍に貫かれている。出血死かショック死か脳死かさえわからないほど、殺され尽していた。
 広範囲の輝夜の攻撃と違い、妹紅の攻撃は一点集中。先に攻撃が当たれば、目標がずれるのは当然の事であった。
 だがもしも、妹紅が先に攻撃を当てていたら、立っていたのは妹紅の方だったろう。
 それほどに拮抗し、先の読めない勝負だったのだ。
「馬鹿な事は言うものじゃないわね。生憎と、娯楽を手放す気はとんと無いのよ」
 勝ち誇るように胸を張り、無遠慮に妹紅へと近づく。
 勝負は自分の勝ちだ。これで妹紅が何処かへ行くことはなく、この殺し合いも再び永劫の時を重ねていく。
 時折は、今日のように何かを賭けて勝負するのも良いかもしれない。焦ったり動揺もしたけれど、輝夜とて今日の戦いに燃えなかったわけではない。
 もっとも、毎回同じ事をするのは御免だけれども。
「まったく、いつまでそうしているつもり? 早く蘇りなさいよ」
 いつまで経ってもリザレクションしない妹紅に、輝夜の愉快そうな顔が次第に不快な物へと変わっていく。
 これぐらいの時間があればとうに蘇り、悔しそうに顔を歪めていてもおかしくはない。現に輝夜の腕は既に修復されていた。
 だというのに、今日はなかなか目覚めようとしない。
 それどころか、妹紅の足下に広がる血溜まりがどんどん大きくなっていく。傷口が修復されていない証だ。
「ちょっと妹紅!」
 ここにきて、ようやく輝夜は異変に気がつく。
 確認の為に触れた顔にはまるで生気がなく、氷像のように冷たい。頭から流れた血が、輝夜の手にかかった。
「起きなさいってば、妹紅! 負けを認めるのが嫌なのかしら!」
 いくら挑発しても、揺すってみても、妹紅の口から言葉が漏れ出すことはない。
 ただ、赤い血液が零れるばかり。虚ろな瞳はビー玉のように、コロコロと気味悪く動いていた。
 考えたくもない想像が、頭の中に浮かび上がる。
 これでは、まるで普通の人間ではないか。
「そんなわけない、だって私達は蓬莱の薬を……」
 不意に、半獣の姿が思い浮かんだ。
 歴史を操れる彼女ならば、妹紅が蓬莱の薬を飲んだ歴史も消してくれるのではないか。どういう意図があるのかは知らないが、そうだとしたら許されざる行為である。
 これでは何の為に永劫の殺し合いを取り戻したのか。
 妹紅を地面に寝かせ、血溜まりを思い切り踏みつける。
 空へ飛び立った頃には、自分が認めてしまった事も忘れていた。
 藤原妹紅は、死んだのだと。





 半ば家を破壊するような勢いで、輝夜は慧音の家へ飛び込んでいった。
 慧音は逃げも隠れもせず、糸の切れた操り人形のように四肢をだらしなく放り出し、壁にもたれかかっていた。
 生真面目な彼女からすれば、それはあまりにも不釣り合いな姿だ。
 しかし、今はそんなこと関係ない。
 輝夜は挨拶も無く畳の上に土足で上がり、殺気混じりの視線をぶつける。
「どういうつもり?」
 ただそれだけで、慧音は輝夜の質問を理解できたらしい。ふっと微笑み、力無く言った。
「そうか、妹紅は負けたのか」
 これで確信した。
 少なくとも、慧音は妹紅が既に不老不死でないことを知っている。
「答えなさい。どうして、妹紅の歴史を隠したの」
「勘違いしているようだから答えるが、私は妹紅の歴史を隠してなどいない。そもそも、蓬莱の薬を飲んだという歴史を食べたのなら、この時代まで妹紅が生きているという歴史も消えて無くなる。お前と戦うことすらできない」
「じゃあ、どうして妹紅は死んだのよ!」
 咳き込みながら、慧音は答えた。
「最初は妹紅も私に歴史を隠してくれと頼んだ。だが、歴史を隠せばお前と戦えなくなる。あいつは人の身で、お前と戦いたかったらしい」
 悔しさで噛みしめた歯が悲鳴をあげる。
 妹紅を殺した事を悔やんでいるのではない。
 もう二度と、殺し合いが出来ないことを輝夜は嘆いていたのだ。
 いや、そもそもあんな馬鹿げた賭けをした時点で輝夜の望みが果たせないことは決まっていた。
 負ければ妹紅は言葉通り旅に出ていただろうし、勝てばこの有様。どちらにせよ、自分には勝利など残されていなかった。
「そこまで思われるお前が、少しばかり羨ましいよ」
「そんな事はどうでもいい! それよりも、どうして蓬莱の薬の力が切れたのか教えなさい!」
 激昂する輝夜に対し、慧音は呆れた顔で言った。
「お前なら、少し考えれば気づくはずだ。幻想郷と言えども、そんな芸当が出来るのは一人しかいない」
 博麗の巫女にそんな力があるわけもない。八雲紫だって、不死という境界が無い存在には干渉できない。
 だとしたら、最早答えは一つしかなかった。
「永琳……」
 それしか考えられない。だが、それだけは有り得ない。
 輝夜の為に地上まで降り、月人を裏切ってまで尽してきた永琳が。輝夜の生きる糧と成りつつあった、妹紅との殺し合いを邪魔するわけがない。
 だが、永琳ならば蓬莱の薬の解毒薬を作っていても不思議ではなかった。
 輝夜も力を貸してはいるものの、製薬したのはあくまで永琳である。
「だから後のことは八意永琳に訊いてくれ。生憎と、私の時間ももう残り少ない」
「あなた、ひょっとして薬を飲まなかったの?」
 慧音が寿命を延ばす薬を、永琳から処方されていた事は訊いていた。
 妹紅の最後を見届けるのだと、馬鹿な事を言っていると嘲笑ったことがある。
「里の守りも後任を決めた。寺子屋だって、後は人間だけでどうにか出来るだろう。妹紅を見守るという幻想的な目的でさえ、達成してしまった。もう私に、生きる意味なんて無いよ」
 心から満足そうに、慧音は笑った。
「どうして、そこまで……」
「決まっているだろ。妹紅は私の親友であり、家族だ。ならば、せめて彼女が死ぬまで支えてやりたいと願うのは当然のこと」
 目蓋を閉じ、最後に慧音は掠れた声で言った。
「だから、私の人生は幸せだったよ」
 目を逸らし、輝夜は慧音に背を向ける。
 こんな気持ちで、彼女の顔を見続けるのは苦痛でしかない。
 背後で誰かが倒れる音がしても、輝夜は決して振り向かなかった。





 永遠亭の廊下を抜けて、永琳の自室へと辿り着く。
 襖を開けた。永琳は何も言わず、真っ直ぐにこちらを見ている。
 嫌な予想は見事に的中したようだ。
「なぜ?」
 開口一番、訊きたい事だけを訊いた。
「あれがそう望んだからよ」
「だとしても、それを私は望まない。あなたは私と妹紅、どちらが大切なのかしら?」
「無論、姫。だけど、藤原妹紅の精神は限界だった。あれ以上生きていたとしても、いずれは崩壊していたでしょうね。そうなった時の姫を思えば、今のうちに死んでしまった方が良い」
 月人と違い、妹紅は純然たる地球の人間だった。その違いは微々たるものだったとしても、長い年月を経ていけば、大きな歪みに発展するのかもしれない。
 だとしても、やりきれない感情は抑えられない。
「だったら」
 輝夜は永琳の目を睨みつける。
「妹紅を蘇らせる薬を作りなさい」
 永琳は僅かに顔をしかめ、呆れたように溜息をついた。
「無理ね。延命の薬は作れても、蘇生の薬を作ることはほぼ不可能よ」
「だったら、私にも蓬莱の薬の解毒剤を寄越しなさい。もうこの世に未練なんて無いわ」
「それも無理な話。解毒剤は妹紅に渡した一つきり。また作るには、あと数千年は掛かるわ」
 輝夜は力無く、畳に膝をついた。
「じゃあ、どうすればいいのよ!」





 悲痛な輝夜の叫び声を聞きながら、ばれないように永琳は解毒剤を机の引き出しに隠した。
 解毒剤を一つだけしか作らないなど、愚の骨頂である。
 予備も含めて、あらかじめ五個の解毒剤は用意されていた。妹紅に渡したのは、その内の一つである。
 貴重な薬を渡すのは勿体ない気もしたが、輝夜の反応を見るにはうってつけであった。
 永琳が妹紅に薬を渡したのは、妹紅の精神が壊れる事を危惧したからではない。それもあるにはあるが、大部分は姫の反応を見る為であった。
 月の頭脳たる永琳にも分からない、ただ一つの疑問を晴らす為に。
 すなわち、今の輝夜は生と死のどちらを望むのか。
 死にたいと願えば、解毒剤を渡すつもりだった。
 だが生きたいと願うのならば、自分はただ見守り続けるだけである。慧音と違って、永琳は不老不死。その気になれば、輝夜を看取ることだって簡単に出来る。
 しかし、輝夜はそういった感情を表に出すような性格ではない。
 慧音からの相談は、渡りに船だった。
 妹紅の死を通して、輝夜がどういう反応をするかで真意を探る。残酷かもしれないが、妹紅が解毒剤を欲しがっていたのも事実。
 自分はただ、それを利用しただけに過ぎない。
 そして、結果は出た。
「姫と対等に戦えるのは、何も妹紅だけじゃないと思うけれど。吸血鬼とだって、良い勝負は出来ると思うわよ」
「でも、彼女らもいずれは死ぬ。不老不死でも無い限り、どんなものにもいずれ崩壊は訪れる。だから、妹紅じゃないと駄目だった。妹紅じゃないと、駄目なのよ!」
 崩れ落ちる輝夜。咄嗟に、永琳は輝夜の身体を支える。
 もしも、輝夜が死を望んでいたとしたら、最初に言うべきは「解毒剤を渡しなさい」だった。
 だが、輝夜は生きる事を望んだ。妹紅と永劫の殺し合いが出来る、この世界を選んだのだ。
 ゆえに、彼女は「妹紅を蘇らせる薬を作りなさい」と言った。
 それが何よりの証拠。
 だったら自分は何も言わず、輝夜の後をついていくだけ。
 それだけが、永琳に残された唯一の出来ることだった。





 誰かと打ちたいと願った日が、まるで遠い思い出のように感じられる。
 今、切に願うのは、早くこの地獄から抜け出したいというそれだけ。三途の川で地獄とは、あっちの連中が聞いたらさぞや首を傾げることだろう。
「ほれ、どうした。これで五十五連敗だな」
「もう止めにしよう。大体、あんたは充分なお金を持ってるじゃないか。それだけあれば、往復してもお釣りがくる」
 余程、現世では思われていたのだろう。老人の懐には、一代が築けそうなほどの金銭が詰め込まれていた。
「なんだ、戻ってきてもいいのか」
「いやいや、失言。戻ってこられちゃ私が怒られる」
「まあいいさ。さっきの勝ちで、俺の渡し賃はタダにまで下がったんだからな」
 渡し賃を賭けての将棋勝負を挑まれた時、素直に断っておけばよかった。
 勝負に飢えていたからといって、受けてしまったが終わりの始まり。あっさりと完敗した小町は、慌てて再戦を申し込んだ。
 渡し賃を割り引いてしまったなんてこと、映姫の耳に入れば大変なことになる。ちゃんと払って貰わねば。そう考えたのが、運の尽き。
 後はあれよあれよと負けていき、今や無料で渡すことが決定していた。
「ああ、絶対に映姫様に怒られる」
 今のうちから頭に鉄板でも仕込んでおいた方がいいかもしれない。などと考えていると、
「おいおい、何してやがる。勝負はまだ終わってねえぞ」
「はい? もう渡し賃はタダなんだし、賭けるものは無いでしょ」
 老人は嫌らしい笑みを浮かべ、小町の衣装を指さした。
「あるじゃねえか。今度から、負けたら一枚ずつ服を脱ぎな」
 なんという好色家。これは地獄行き間違いなしである。
 個人的にも、そちらに行って貰った方が平和な気がした。
「相変わらず、馬鹿な事ばかり言ってるわね。少しは自重しようって気持ちは無いのかしら」
 いきなりやってきた人間が、老人の頭を遠慮無く叩く。将棋盤の上に、老人は思いきり頭を打ち付けた。
「痛えじゃないか、この野郎!」
「あんたが変わらないから、仕方ないでしょ」
 その人間の顔を見て、小町は思わず息を呑む。
 自分の仕事とは永遠に関係のない相手だと決めていた。ここと白玉楼には、永遠に訪れる事は無いとばかり思っていた。
 だって、不老不死なのだから。
「なんだ、お前さんもこっちに来たのか。それにしちゃ遅かったな」
「待ち合わせしてるんじゃないんだから、遅いも早いも無いって。大体、あんたはどうしてこんな所で将棋なんか打ってるのよ」
「良いだろ。どこで打とうと。それより、今度はお前さんが相手してくれないか。この姉ちゃんは弱すぎて、ちょっと退屈してたところだ」
 妹紅は頭を掻きながら、やれやれと老人の対面に腰を降ろす。
 その後から。盤面を見守るようにして人影が現れる。
「輝夜との勝負の次は、ご老体との勝負か。お前はどこに行っても、誰かと戦っているのだな」
 妹紅は一瞬だけ驚いた顔をするが、すぐに苦笑へと変わっていった。
 慧音は何も言わず、妹紅の後にそっと座り込む。
 妹紅と老人の視線は、既に盤上へと向けられていた。小町と戦ったときは違い、老人の顔にも若干の真剣さが見て取れる。
「ちっとはマシな将棋が打てるようになったか?」
 妹紅は不敵に笑い、歩を手にしながら言った。
「だからこそ、ここにいる」
 板を打つ音が、三途の川に響き渡った。
 
 

 人は誰しも、幸せな人生を送ることを望んでいます。
 ですが、幸せな人生など、死ぬ間際になってみないとわかりません。ひょっとしたら、死ぬ寸前にその人にとっての幸福が訪れるかもしれないのですから。
 一見すると輝夜の人生は不幸のように見えますが、もしかしたら妹紅のように最後に幸せがやってくるかもしれません。
 遺言の言葉が、幸せだったと言えるような人生を送りたいものです。
八重決壊
http://makiqx.blog53.fc2.com/
作品情報
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投稿日時:
2008/02/11 05:15:13
更新日時:
2008/03/05 10:42:24
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Rate:
5.00
1. 7 takuwan ■2008/02/12 01:16:14
きれいな読後感でした。
澄んだ水を飲んだ後のようです。
2. 2 小山田 ■2008/02/13 02:03:44
私に想像力がないためか、登場人物が必死で訴える悩みや苦しみが伝わってこず、その選択肢にも意味を感じないまま読み終わってしまいました。理解できる方なら点数はずっと高いと思いますが、あくまでも個人的な点数ということで。
3. 9 名無しの37番 ■2008/02/14 20:31:45
こういうオリキャラがいい味出してる作品は好きです。こんな爺さんと飲んでみたい……でもこっちが潰される気もするな。
個人的には、輝夜が酷い目に会ってること自体よりも、妹紅、慧音、永琳がそれぞれの思惑や企みで動いているのに、輝夜一人が状況に置いてけぼりにされてるのがかわいそうな気がしました。
でも輝夜の悲劇として演出するなら、これ以外に無いような気もするので複雑です。

お題は機会……のみならず、期会(一期一会)か、というのは穿ちすぎかな。
4. 7 nanasi ■2008/02/15 01:16:17
読み応えがあって良いSSだった。
欲を言えば輝夜と永琳のオチが少々物足りないかな。
5. 7 #15 ■2008/02/17 21:02:52
ナイス、ハッピーエンド
6. 10 俄雨 ■2008/02/21 22:18:52
えがった。短く、あるべきものを詰め込んで、けど無駄が無い。非常に文章が瀟洒であります。オリキャラは違和感もなく。伏線の収まり方が見事。発想と展開には唸るばかり。御見事にございまする。
7. 8 織村 紅羅璃 ■2008/02/22 00:34:34
妹紅の痛み、輝夜の叫び、慧音の想い。
彼女たちの感情がすべて胸の中へ流れ込んできて、たくさんのことを考えさせられました。
8. 7 床間たろひ ■2008/02/24 21:25:07
永遠亭関係の行く末に思い巡らせた時、このようなパターンに思い至るのはそう目新しいものではありません。
ただ勝負、一期一会という概念に将棋を組み込んだのは面白いなと思いました。
だけどそのためにはこのスケベじじいをもっともっと書いて欲しかったな、と。妹紅を変える切欠としては十分ですが、それを読者を納得させるにはまだまだ尺が足りなかった気がします。まぁ、それを惜しいと思えるくらい、あのジジイが魅力的だったということなんですけどねw
面白いが故に物足りない。うん、勿体無いなーというのが素直な感想です。
あとあちこち散見する誤字もまた勿体無いw
9. 10 あまぎ ■2008/02/25 00:31:34
この素晴らしい作品を読むことができて、本当に良かったです。
まだ全ての作品を読んだわけではありませんが、おそらく、満点をつけさせて頂くのはこの作品だけでしょう。
それほどに、深く深く、感動させてもらいました。
もう、何の迷いも無く満点です。可能ならもっと高得点を送りたいほどに。

一切の無駄もない文章、どこまでも現実味のある感情描写。
ある意味で理想的でありながら、またある意味では悲愴な結末。
殺し合いの場面は拳を握るほど熱く、老人の姿勢は不安定ながらもどこか威厳があって……。
輝夜と永琳の想いは言わずもがな。
慧音の最後にいたっては、思わず涙を浮かべている自分がいました。

こんぺの結果は気になりますが、この作品を読むことが出来ただけでもう十分すぎるほど満足です。ありがとうございました。
10. 10 ■2008/02/27 21:50:57
泣きました。
個人的に慧音と妹紅は(慧音に寿命があると知っていても)永遠の二人で、
二人が分かれるor死ぬなんてとても想像できないし考えたくもないし、
『そんな未来があるなんて納得できないっ』と思っていたのですが、
このお話なら……イイです、納得できます。むしろ涙を拭って見送るよ。
輝夜、永琳、小町、おじいさんといった個々のキャラクターも際立っていましたが、
特に慧音の最期の一言が胸を打ちました。
妹紅も同じ気持ちで旅立ったのだと信じます。
最後に。
あんたは最高だ!
11. 5 つくし ■2008/02/28 16:10:42
ナイスジジイ。つーかジジイがステキすぎて全部持って行かれた気も。佳い作品だったんですが、蓬莱の薬に解毒薬が存在するとするならば、蓬莱の薬がただの便利アイテムになり下がってしまう気がするのです。取り返しのつかないことだからこそ不老不死というテーマは重みを持つわけで。うむむ。
12. 8 ■2008/02/28 20:15:49

あ、かなり先の話なんだ。でも自然だな。
なるほど確かに、普段は印象薄そうだ。失うのは回りなんだから。
慧音も妹紅も殺した。ある意味で「見たくない話」ではあるけど、これはそれを押さえ込むだけの説得力がある。
輝夜と永琳側に少しだけ都合のよさを感じるが、完璧な舞台装置でなくてもいいだろうと思います。
ああ、面白かった。
13. 5 たくじ ■2008/02/28 22:22:49
何百年もやってきたのに、今更こんな風になるかなぁ。ちょっとすんなりと受け入れられませんでした。
さばさばしているようでしっかりつながっている、妹紅と慧音の関係が好きです。
それから誤字が多くて気になりました。何個もあると興が削がれるので、もったない。
14. 7 つくね ■2008/02/28 22:59:32
長編を書かれる方はやはり上手い人が多いように思います。安定感もあり、いくつか誤字(だと思う)はあるものの、気にならないほどです。
私は残念ながらこうした話は好んで読むタイプではないのですが、それでも最後まで読み進めたことは、やはり上手いの一言に尽きる。
15. 4 椒良徳 ■2008/02/28 23:47:00
「敗北を知らない人間はそれを経験することw恐怖するか」
ちょwwwwwまwwwww。それはともかく、シリアスな文章の中にこういう2chの表現を仕込むのはどうかと思います。
いや、まあ、嫌いじゃないですがね。
それはともかく、あまり面白い作品じゃなかった。それが残念。
16. 8 反魂 ■2008/02/28 23:50:20
 「きかい」というテーマを消化できていないことが悔やまれます。あと少しだけ演出作用に物足りない部分もありました。少し素直すぎたかなという印象です。

 ですがそれを惜しいと感じるほどに、物語としての完成度は素晴らしいものがありました。精緻に編み込まれたストーリー展開、深奥なテーマ性、完成度が非常に高く、手抜かりのない作品作りで非常に良かったと思います。
 それだけに、こんぺという舞台で御題性を含めて評価せねばならないのが心苦しいところ。改めますが非常に好みの物語であったことは間違いなく、作者さまには惜しみない賞賛の拍手をお送りするところです。
 素晴らしい作品をありがとうございました。
17. 7 時計屋 ■2008/02/29 00:29:17
非常に重いテーマでしたが、一つの主題に沿って整然と話が進められていた点が見事でした。
文章も巧みで、唸らせる表現も散見されます。
長い部類のSSにも関わらず、読み手に飽きを感じさせない良作であったと思います。

ただ、生命や死というテーマの重みに比べて作中の回答が画一的であるような気がします。
個人的にはもう少し丁寧に扱っても良かったのではないかと思いました。
18. 6 ZID ■2008/02/29 01:21:34
救いがあるのか無いのか。全体的に興味深く、面白い話ではあったんですが、妙なしこりが。恐らくは「成り立て」の頃に、それこそ精神が擦り切れるまでに渇望し、探求し、探しつくしたであろう蓬莱の解毒薬が、当たり前のように存在する事実に違和感があります。今作のような解釈は有りだとは思いますが、本筋から外れることを承知でも「永琳が今まで存在する事は明かさなかった理由」をもっと掘り下げた方が良かったかもしれません。
19. 6 飛び入り魚 ■2008/02/29 02:11:28
……一点の隙も無い。
何か減点しようかとあらゆる面から考えても、
それが全く思い浮かばないのでございます。
敢えて言うなら、守りはいいが稼ぎに来てない。将棋の慧音さんタイプだろうか。
一期一会に気づく場面でもっと盛り上げても良かったのかもしれない。
それにしても、やっぱり姫は永琳と殺し合いはしたくないのでしょうなぁ
20. 4 木村圭 ■2008/02/29 04:49:40
何やってんだもこけーね、あと1日ゆっくり来ればこまっちゃんがぜん(そこまでよ!
物語のアクセントになってる爺さんが良いですね。どっさり金を持って三途の川に居たことが何となく嬉しい。間違いなく生きる糧になっていた妹紅がいなくなっても、死のうという考えが全く無い輝夜は妹紅とは根本的に違うんだな、と思うと言葉に出来ない感情が。
21. 9 とら ■2008/02/29 09:43:42
全く個人的な意見になるのですが、氏の作品は、今回の中で一番テーマがはっきりしてるいる作品だったと思います。氏の書きたいこと、主張したいことが、明瞭に伝わってきました。
特に、エピソードとの絡ませ方が本当に上手いと思います。過不足なく、全てが作品のテーマを支える屋台骨として機能していました。
敢えて難を言うのならば、エピローグにもっと尺を持たせて欲しかったというところでしょうか。輝夜がその後どうなったのか、少し気になります。

いずれにしても、本当に素晴らしい作品だったと思います。ありがとうございました。
22. 10 らくがん屋 ■2008/02/29 11:00:31
俺、永夜モノはほんとダメなのよ……不覚にも泣き、再読までしてしまいました。“蓬莱人の死”は、反則でもあり、伝家の宝刀でもある。この短さの中に充分過ぎる要素を詰め込み、まとめあげている面白さ。文章力、構成力、テーマ処理、オリジナリティ、そしてキャラ補正。見事、数え役満でした。
23. 6 as capable as a NAMELESS ■2008/02/29 14:36:58
じいさんの逝き方は良かった。
妹紅の死はちょっとあっさりしすぎた感があったかもしれません。
24. 1 中沢良一 ■2008/02/29 15:09:19
お題がどこに使われていたのか、私には読み取れませんでした。
妹紅と輝夜ってどうも殺伐として、狂ったイメージで描かれる場合が多い気がしますが、何にも考えてないと私はおもいます。それではお話にならないからしょうがないんですが。
好みの評価で申し訳ないんですが、東方にシリアスってどうしても結びつかないんですよね。それは上記の通り、誰も何にも考えていない。ほのぼのと生きてるとおもうんですよね。だって楽園ですからね。
25. 7 カシス ■2008/02/29 16:34:05
「棋界」と「期会」ですね。人生に二の矢は無いわけでして。
終わりよければ全てよし、と言える人になりたいです。
26. 9 ☆月柳☆ ■2008/02/29 19:44:51
確かに理屈は通っている。
でもなんでだろう、輝夜が死を望まなかったようには捕らえられなかったです。
「だったら、私にも蓬莱の薬の解毒剤を寄越しなさい。もうこの世に未練なんて無いわ」
この言葉はあまりにも重いよ。
やっぱり、輝夜は死にたかったんじゃないかな。
ただ、妹紅については不老不死から逃れられたのだからよかったのかなと。
後はオリジナルの割に、じいさんがいい役者ぶりを発揮してた。
あれ、そういえばこれ「きかい」ってどこに…。
う〜ん「きかい」をどんな感じで使ってるか分からなかったです。
申し訳ないけどフリーレスで、と思ったけど、機械・器械って「自分の意思を失ったように、指令どおりに動いたり、物事を繰り返したりすること」っていう意味もあるんですよね。
もしこの意味で機械を使っていたのであれば、心の底から拍手を送ります。
単純な機械の話しは結構あったけど、機械をこういう風に使ってきたのはここまで作品を読んできて初めてだったので…。
一期一会をよく表してる作品でした。ほんとすごいわ。
27. 9 K.M ■2008/02/29 19:56:20
永遠はあくまで限定条件付の永遠で、条件次第では終わりはある…と。
私はまだ自分の死と言うのは「事故」という突発的事態に巻き込まれるであろうことしか想像できませんが、
少なくとも家族により迷惑の掛かる最後だけは迎えたくないものです。
28. 9 レグルス ■2008/02/29 20:05:31
不老不死の終わり、しんみりしたお話でどことなく感傷的になりました。
色んな立場の色んな心情が見えてとても面白かったです。
しかし脱衣将棋には笑いました。
29. 9 12 ■2008/02/29 21:30:41
うまいなぁ。オリキャラのおっさんも、いい味出してる。
難があるとすれば、山場の輝夜vs妹紅の結果が、そこまでのプロットがしっかりしすぎてるせいで、なんとなく読めてしまうところぐらいでしょうか。
でも、テーマのしっかりした良い話。
30. 7 O−81 ■2008/02/29 21:51:20
 レミリアかっこよかった。
 「きかい」は機会ってことだと思うんですけども、機会っていう解釈だとお題の意味があってないようなもんだからどうしたもんかと。でも面白かったです。
 永琳と輝夜が若干尻切れトンボな感じでしたが、それはそれで未来があるということかもしれません。
31. 8 只野 亜峰 ■2008/02/29 21:56:31
誤字がいくつか見受けられたものの、文章も高いレベルで安定していたので読みやすかったです。
物語としても完成度が高く、オリキャラのエロジジイさんも良い味を出してました。
物語の展開上しかたないとはいえ輝夜の悪役っぷりと、殺し合いがガチ過ぎたのが個人的にちょっと引いたような気もしないでも。
32. 5 BYK ■2008/02/29 22:00:45
どうか永琳と輝夜に幸せな最期が訪れんことを。
33. 6 綺羅 ■2008/02/29 22:49:04
誤字が気になってしまいました。ストーリーはよく練られていると思います、しかし地の文がちょっと語りすぎてしまっている気が。
34. 6 moki ■2008/02/29 23:13:47
老人が映姫の変装かと思った。そんなエロイ映姫様なんて想像したくなかった。
生は有限だからこそ輝かしいものですね。
35. 7 赤灯篭 ■2008/02/29 23:33:33
 最後に一度の殺し合い。ある意味最も妹紅らしい最期かもしれませんね。
36. 6 blankii ■2008/02/29 23:47:08
妹紅は死なぬ、なんどでも蘇るさーとか思っている故の衝撃。姫様の苛立ちも相当なものに違いありません。蓬莱人の死を書くのは難しいと思われますが、今回はある意味反則(解毒薬)でその終末を見取ることが出来ました。その模様が清涼風味なので、こんな終末もアリと思わせてくれた作者さんに感謝。

37. 5 冬生まれ ■2008/03/01 00:00:11
後味の微妙な悪さが逆に印象を強めました。嫌いじゃないです。
いろいろ考えさせられる話です。
38. フリーレス DIO ■2008/03/02 23:09:40
ジジイのインパクトが強すぎ。
でも、妹紅と慧音の絆の強さには感動しました。
2人に永遠の幸せを
39. フリーレス 八重決壊 ■2008/03/03 21:59:55
短編とはいえそれなりの分量がありましたので、読んで頂いたことにまずは感謝を。
そして評価して頂いたことにもお礼を。
作品についての解説は別の所でやっておりますので、興味のある方はそちらも是非。

>takuwan様
そう言っていただけるとありがたい限りです。
うっかり道を誤れば鬱な展開になり、書くのが少し難しかったもので。

>小山田様
読者に理解させる事が出来なかった事は、作者の技量不足かと思います。
もう少し描写をしっかりさせて方が良かったかもしれません。

>名無しの37番
あくまで妹紅の物語ですから、輝夜には随分と残酷な位置に立って貰うことになりました。
ただ輝夜の物語があるとすれば、きっと此処が出発地点になるんでしょうね。

>nanasi様
本来あのシーンは蛇足だったので、あまり力を入れてませんでした。
都合が良すぎたのはその為です。

>#15様
多分、一番幸せだったのは妹紅の胸を見ることができた爺

>俄雨様
お褒めに預かり光栄です。
個人的には少し説明や描写が足りなかったのではないかと思ってるんですが、シンプルと言えばシンプルなのかもしれません。

>織村 紅羅璃様
ありがとうございます。
しかし深く考えすぎると沈んでしまうのが、この話のテーマだったりします。

>床間たろひ様
本当は爺様にはもっと出番がありました。妹紅との二戦目だとか、映姫様と戦って説教臭い奴だと呆れたりとか。ただ、この手のオリキャラが扱いが難しいもので、あまり出番が多すぎると俺のオリキャラを見てよ!という方へ行きがちなのです。
この調整が出来るようになれば、もっと面白い話を書けるんじゃないかと思っています。
それにしても誤字ですか。う〜ん、推敲と校正はしっかりしたつもりなのに。

>あまぎ様
物書きにとって、涙を流した、思わず笑った、というのは最高の褒め言葉だと思います。
そこまで感情移入して頂けたのなら、この作品を世に出した甲斐があるというもの。
こちらこそ、ありがとうございます。

>畦様
別れそうにない二人を別れさせるのが好きな歪んだ嗜好を持っているので、いつだってその辺りを読者の方に納得して貰えるように努力しております。
正直なところ、慧音の台詞はそれほど斬新なものではありません。だからこそ、その台詞に胸打たれたというのは物書きとしてありがたい限り。
なんでもない台詞で人を感動させることほど、難しいことは無いのですから。

>つくし様
紫の能力と永琳の薬といえば、幻想郷二大便利アイテムでして、なるべく使わないようにしてはいたのですが。話の流れで登場させてしまいました。
何か別のアイデアもあったのではないかと、今になって思っています。

>鼠様
その都合の良さを消すことができれば、もっと面白い話を書けるんでしょうが。まだまだ未熟ということです。
精進、精進。

>たくじ様
何百年も同じことを続けていくうちに、徐々に変わっていったということになっていますが確かに唐突すぎた感はあります。その辺の心理描写ももう少ししっかりしておけば良かったかもしれません。
それにしても誤字。う〜ん、誤字。

>つくね様
気にならないと言って頂けるのなら幸いですが、今後はもう少し気をつけます。

>椒良徳様
2ch的な表現ではなく誤字なのですが、どちらにせよあまり好ましい事ではないわけで。
もっと精進させて頂きます。

>反魂様
盛り上がりに欠けていた事は事実です。あっと言わせるような展開もありませんでしたし。察しの良い方なら途中で最後の展開にも気づかれたでしょう。
課題に関しては「機会」でもあり「棋界」でもあるという消化方法を選びましたので、中途半端になってしまいました。普通の投稿作品ならともかく、こんぺでしたので。消化方法に関してはもう少し考える必要があったかもしれません。

>時計屋様
練り込みと仕上げが不十分だったかもしれません。それだけに変に教育的な一環した話に見えてしまったり。
キャラクターの心理とテーマについてもっと練り込めば良かったと、今更ながらに後悔。

>ZID様
本作の最大の弱点は、「何故薬の存在を輝夜に明かさなかったのか」。
これだけは最後まで上手い説明が思いつかず、半ば放置して書き上げてしまいました。
もう少し掘り下げておけば、ひょっとしたら何か良いアイデアが思いついたのかもしれません。

>飛び入り魚様
作品は守りに入っていますが、将棋の腕は妹紅タイプです。
ちなみに爺曰く、永琳は考えすぎて逆に馬鹿みたいな手を打ってくるらしいです。

>木村圭様
本当は小町が大ピンチのところまで書いていたのですが、パチュリーの待ったが出たので止めました。
人と月の民は、似ているようで多分違うんだと思います。そこら辺が死生観に出るのではないかと思ったり。

>とら様
出来ることなら永琳の独白と三途の川のシーンの間には何も入れたくなかったので、輝夜にはかわいそうなことをしてしまいました。
出来ることなら輝夜にも幸せな人生を歩んで貰いたいところです。

>らくがん屋様
死による別れは使い古された感もありますが、蓬莱人の死はなかなかどうして。斬新ではないにしろ、難しいものがありました。
お褒め頂き、ありがとうございます。この調子で現実の麻雀でも数え役満を出せるよう頑張ります。ん?

>as capable as a NAMELESS様
普通ならあそこで妹紅の独白なり、走馬燈みたいな演出を入れるのですが。輝夜視点の方が盛り上がるかなと思って、敢えて入れませんでした。
だから、少しあっさりしすぎたかもしれません。

>中沢良一様
私も妹紅と輝夜は殺し合いをしながらも、微妙に仲が良いんだろうと思ってます。ただ人生の終わりに近い話を書きたかったので。
二人には少し精神を乱して貰いました。

>カシス様
しかしながら、良き終わりを迎えることほど難しいことは無いわけで。

>☆月柳☆様
機会は一期一会、棋界は将棋という風に使っていますが、機械は単に妹紅と輝夜の殺し合いが機械的な作業になっているという程度しか使っていません。だから、そういう解釈もあるのだなと唸ってしまいました。
輝夜に関しては、断られた勢いであの台詞を吐いたということにしています。口では死を望みながらも、心の奥底ではまだ妹紅の蘇りを期待していると。だから妹紅が蘇らないと核心したならば、本当に死を望むのかもしれません。

>K.M様
私は無神論者なもので、あの世も輪廻転生も信じていません。それだけに人より死が怖いわけで。
そこら辺のイメージが強いから、こういった作品を書いているのかも。

>レグルス様
現実世界で流行らせ、廃れさせることが出来たのなら幻想郷入りするかもしれません。脱衣将棋。

>O−81様
お嬢様には助言役をして貰いました。あまり助言していませんでしたが。
永琳と輝夜に関しては、読者の想像に委ねるという形で。

>只野 亜峰様
本当に本作の輝夜は不遇すぎたと、今になって思うわけでして。書いてる最中は全く気にしていませんでした。
爺はもっとエロくしようかと思ってましたけどね。自重しました。

>BYK様
私も願っております。

>綺羅様
誤字はもう見直し不足としか言えません。仕上げにもっと時間を掛けるようにします。

>moki様
老人が映姫様という発想はありませんでした。確かに面白いかもしれませんが、胸や尻に興味深々の映姫様はどうだろう。

>赤灯篭様
妹紅は倒れる時は前向きに、輝夜は後ろ向きに倒れるイメージがあります。

>blankii様
ありがとうございます。他人の裏をかきたがる捻くれ者でして。

>冬生まれ様
後味は悪いんだけど、何とも言えないような話を目指しました。
そう言って貰えると、非常に嬉しいです。

>DIO様
爺はあの世でもハッスルしていることでしょう。
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