コタツと加湿器、あと紅茶

作品集: 最新 投稿日時: 2008/02/11 08:40:44 更新日時: 2008/02/13 23:40:44 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
 紅魔館のメイド長・十六夜咲夜は、館の地下にある魔法図書館に呼ばれていた。
 おおよその事情は大体察していた。というのも先程、スペルカードバトルがあったと思しき、派手な物音が聞こえて来たからだ。
(いつものネズミが忍び込んで来たのね……彼女も本当に懲りない人ですこと)
 ネズミ――言うまでもない、霧雨魔理沙のことだ。いつものように図書館の魔導書を(半永久的に)拝借しに来たのだろうが、書物の持ち主であるパチュリー=ノーレッジにバレて、なし崩し的に戦闘に突入してしまったのだろう。咲夜としては、大火力な二人の戦闘の後始末は大変だから、余り館内で戦っては欲しくない所なのだが……
(パチュリー様も……なんだかんだ言いながらも楽しまれている様ですしね)
 いつもは図書館内で、黙々と自分の魔法研究に没頭しているパチュリーだが、魔理沙が来て戦いになる度に、ストックしておいた魔法を実際に試すことが出来る。以前、ティータイムの時にパチュリーが「あいつはいい実験台よ」と、魔理沙について何気無く語っていたのを、咲夜はよく覚えている。自然と楽しそうな笑みを浮かべていたパチュリーの表情が、いつになく印象的だったのだ。「寛大にも本を貸してあげているんだから、レンタル代ぐらい請求しないと損ですもの。毎度の弾幕で済むだけ、安いと思って貰わなくちゃ困るわ」。

「さて――頑張るとしますか」

 そう気負い込み、部下の妖精メイドを引き連れて図書館に踏み込んだ咲夜は、いまだにもうもうと立ち込める、むせ返る程に濃い、ホコリの渦を目の当たりにした。本と本棚とは魔法で防護されているとはいえ、あちこちに積もったホコリが戦闘の余波で立ち上るのは、防ぎようがない。無尽蔵に湧き出るホコリを防ぐ設備を整えるのは、余りに手間がかかりすぎるのだ。
「パチュリー様! どこに居られますか!」
「ここよ……咲夜……」
 本棚の影からフラフラと姿を現したパチュリーは、「ケホ、ケホ!」と痛々しげに咳き込んだ。その後ろには、気まずそうに頭をポリポリと掻く魔理沙の姿がある。二人は咲夜の元へ来ると、毎度のことながら「性懲りもなく魔理沙が魔導書を盗みに来て……」と、事情を説明した。ただ、その最中、ひっきりなしに出る咳に苦しむパチュリーの姿が、咲夜には気がかりであった。
「パチュリー様。お体の具合が、いつもより悪そうですが」
「ええ……それが今、冬で空気が乾燥しているでしょう? 鼻が詰まり気味だったものだから、ついうっかり口で呼吸しちゃってて……ゲッホ、ケホ、ケホ、ケホッ!」
 ここで魔理沙がパチュリーの背中をさすり、「バトンタッチだ、無理すんな」と出る。
「あー、それでな? いつもならジメジメしてて、キノコの一つや二つ生えていそうなこの図書館も、流石に冬は乾燥する訳だ。洋館とはいえ、日本だしな。で、パチェが鼻呼吸しにくいから、口呼吸してる最中に、いきなり私とのスペルカードバトルが始まった、と」
「……どさくさ紛れに『パチェ』とか馴れ馴れしく呼ばないで……ケホ、ケホッ!」
「それで、だ。口呼吸してたパチェは、乾燥した喉に思いっきり一杯のホコリを吸い込んじまったせいで、喘息の発作が起きて今に至る、って訳なんだ」
「だから呼び方を――」
 そこでいきなり魔理沙は、彼女にしては珍しいことに、パチュリーに頭を下げて、
「そっちの事情も知らないで悪かった。もっと状況を把握するべきだったぜ。謝る」
「……べ、別に、弾幕の件に関しては文句言わないわよ」
 と、そこで、微妙な疎外感を感じていた咲夜が「……こほん」と咳払いを一つ。
(この二人……私が思っていたよりも仲良しなのね)
 だからなんだ、という訳でもないのだが、咲夜が見た感じ、パチュリーと魔理沙の間の心の距離は、咲夜とパチュリーの間のソレに近いようにも見える――いや、むしろ、咲夜との距離よりも、魔理沙との距離のほうが近いのかもしれない。共に過ごした時間の長さだけが、親密さを決める訳ではないのだ。それよりむしろ、人に接する態度、つまりは親近感の方が、親しみ易さのハードルを決めると言って良いのだろう。
(きっと、私みたいな人間は余り親近感が沸かないのでしょうね……誰とでも簡単に打ち解けてしまうような、魔理沙とは違って)
 少しだけ、咲夜の心の奥が疼く。
(……柄にもなく感傷的になっちゃったわね。瀟洒な私らしくもない。他人と自分を較べた所で、どうしようもない話でしょうに)
 そして「余計な思考」を打ち切ると、咲夜は心を仕事モードに切り替える。
「では、館内の片付けを始めましょう。パチュリー様、御部屋に御連れします」
「いや、部屋には一人で戻れるからいいわ。ただ……ケホッ! この発作をどうにかしたいから、薬を調達して来てくれると有難いんだけど……」
「永遠亭ですね」
「そうよ――あ、常備薬も切らしてしまったから、良ければ受け取って来て」
「畏まりました。では、片付けはメイド達に任せて、私は永遠亭の方まで飛んで行きましょう」
「……あ、咲夜。最後に一ついいかしら」
「はい?」
「予備のメイド服を一着、貸して貰えない?」
「はあ……何をされるおつもりで?」
「咲夜がいない分を、この火力馬鹿に任せようと思うの」
 むんず、と魔理沙の首根っこを掴んで、パチュリーが前に差し出す。
「それは……控えたほうが懸命かと。片付くものも片付かなくなりそうですし」
 咲夜は以前、異変の調査の為に、魔理沙の家を訪ねたことがあるのだが、それはもう、ひどい有様であった。一言で言って、足の踏み場がない。単なるガラクタやら、書物やら、貴重な魔道具やらが、渾然一体となってカオス空間を形成しているのだ。改めて考えると、あの山の中から新たな妖怪が誕生しても、ちっともおかしくないように思える。付喪神とか。
「おう、片付けは大の苦手だぜ! 散らかすのと壊すのは大得意だけどな!」
 無い胸を張って堂々と言うことではないが、呆れて誰も突っ込む気になれない。
「それじゃあ、片付けはソッチに任せていいんだよな? なら私は、ここいらで御暇させてもらうとするぜ。アリスん家にでも遊びに行くとするかな」
「……浮気者」
「ん? なんか言ったか?」
「ゲッホ、ケホッ、ケホッ!」
 激しく咳き込むが、激しすぎて、わざとらしく聞こえる――実際、そうなのかもしれない。
(やれやれ……魔理沙は魔理沙で、いろいろ大変そうね)
 クスリと、咲夜の口元から、微笑がこぼれた。



 永遠亭へ行くには、まず、迷いの竹林を彷徨わねばならない。
「……困ったわね、道が分からないわ」
 永夜異変の時は、三十分もかからずに永遠亭を発見できた気がするのだが、竹藪の成長は恐ろしく早く、前に見た光景を目印に覚えていても、なんの意味も無い。来る度に、あっちはどうだ、こっちはどうだ、と、うろつく必要性が出てきてしまう。
 確かに、咲夜の能力を使えば、空間と空間とを縮めることで近道出来ることは出来るのだが、それは、A地点=咲夜とB地点=目的地が、共に把握できている場合にのみ出来ることだ。目的地である永遠亭が何処とも知れぬ藪の中では、彼女はフラフラと飛び回ることしか出来ない。せいぜい、周囲の時間を遅れさせて、迷っても許される時間を延ばすくらいだ。
 空から見れば……と、一度だけ考えもしたが、高く深い竹藪は、永遠亭の姿を完璧に隠してしまっている。上空から見ても、ひたすら緑一色で、何が何やら分からないだろう。
「目印に看板でも立ててくれればいいのに。或いは、案内役を常に用意しておくとか、ねぇ――」
 と、そこまで呟いた所で、道端でスゥスゥと寝息を立てて転がっている、一羽の兎を発見した。
「あら、こんな所に案内役が落ちている」
 その一言で、兎――因幡てゐは、目を覚ました。
「……ん〜? いつぞやの銀髪従者じゃない。どうしたの、こんな場所まで」
「永遠亭までお使いに来たのよ」
「そう、頑張って。私は昼寝の時間だから。お休み」
「休む前に道案内を頼みたいんだけど」
「お断りするわ。だって私、今、自主休業している最中なんですもの」
「おサボりをしているのね」
「そう、おサボり。分かったら寝かせて……ふぁ〜あ。疲れたら寝るのが、健康には一番なのよ」
「――そうは行かないわ」
 間髪いれず、咲夜の眼前にナイフの隊列が整然と出現し、今にもてゐに飛び掛らんとする。時間を停止してナイフを取り出し、空間に固定したのだ。その気になれば、いつでも射出できる。
「貴方がおサボりを決め込むのは、他人事だからどうでもいい。ただ、私は遊びでここに来ている訳じゃないの。家人の体調不良を治してあげたいから、来ているの。分かったら早く案内して頂戴。私は真剣なの」
「真剣って言われても……私だって、見付かったらお仕置き食らうから嫌だしねぇ」
「じゃあ、戦るしか無いわね」
 てゐの足元に、ナイフの束が突き刺さる。宣戦布告の合図だ。
「面倒ねぇ……まだ寝起きだから、あんまり動きたく無かったんだけど」
 よいしょ、と立ち上がり、てゐは「おいっちに、おいっちに」と、軽くストレッチ運動をする。
「じゃあ、お互い負けても恨みっこ無しってことで。行くわよ、『兎玉』!」
 ぴょこぴょこ、とトリッキーな動きで跳ね回る弾丸が何発も撃ち出される。ただの玉とは異なり、それこそ兎であるかのように不規則に跳ね回りつつ、兎玉は咲夜に迫って来る。
「この程度? 同じ玉でも、紅白巫女の陰陽玉の方が百倍上手ね」
 玉と玉との間を、まるで峡谷を飛び抜ける猛禽類の要に擦り抜ける咲夜。強力な特殊能力のみならず、彼女の運動神経は常人を軽く凌駕する。
 そして、最初の攻撃を掻い潜った咲夜は、いつの間に取り出したのか、両手のナイフを左右に大きくに構えて、反撃に移る。
「急ぎだから一気に行くわよ――幻符『殺人ドール』」
 咲夜の手元から投げ放たれたナイフの束は空中で拡散し、縦横無尽に軌道を変更しながらも、目標であるてゐの元へ突き進んでゆく。右、左、上、正面、呆れるほどの広範囲から迫るナイフの挙動は、さながら回遊魚の遊泳であるかのようだ。
「なんの、兎のすばしっこさを侮って貰っちゃ困るわ」
 ナイフが放たれた直後、てゐは後方に跳躍して退避し、正面広範囲からの攻撃が迫るのを確認するや否や、今度は逆に前方へ高く飛び出し、銀の包囲網から脱出したのだ。
「逃げるのだけは得意なのね」
「そういうあんたは、吠えるのだけは得意そうね」
「言ってくれるわね……!」
 再びナイフを投擲するが、ろくに狙いが定まらない。
(おかしい……因幡兎の動きは前と余り変わっていない……なのに、どうして?)
「どうしたの? 今日は不調なのかしら」
「さて……どうなのかしら、ねッ!」
 明後日の方角へ向けてナイフを投げる。無論、変化球だ。途中で方向転換をしたナイフは、正確な狙いで相手の不意を付く――『バウンスノーバウンス』。しかし――
「あれ? 狙い外しちゃってるわよ、本当に大丈夫? それとも、私の油断を誘ってるの?」
 おかしい。何かがおかしい。咲夜はちゃんとてゐを狙ったハズだったのだ。なのに、外すだなんて……
「あーあ、なんか馬鹿らしくなって来ちゃったわ。今日はこのくらいで止めておきましょ?」
「でも、道が……」
「私と会った時に、あんたに運の巡りが回ってるはずよ。永遠亭なら、適当に探してるだけで見付かるはずだわ」
「そういえば、貴方は幸運の因幡兎だったわね」
「そういうこと。じゃ、あたしはずらからせて貰うわ。勝負を聞きつけて、鈴仙が探しに来たりすると面倒だし」
「誰が来ると面倒ですって?」
「きゃっ!」
 てゐの後ろから突然現れた鈴仙=優曇華院=イナバが、彼女の頭にポン、と右手を乗せる。きっと、モノの波長を操る能力で光を屈折させ、己の姿を隠していたのだろう。
「い、嫌だなぁ、居るんなら居るって言って下さいよぅ、アハハ……」
「居るって言ったら逃げる癖に……で、紅魔館のメイド長はどうしたんです?」
「貴方の師匠に用事があるから永遠亭を探してたのよ。それで、道に迷っていたから」
「てゐをとっ捕まえて聞こうとした、と」
「ええ」
「じゃあ、私に付いて来て下さい。師匠は今、外出していますが、じきに戻るかと思われますので」
「助かるわ」



 靴を脱いで永遠亭の応接間に通されると、そこには布の掛けられた御膳らしきものがあった。その上には、竹篭入りの蜜柑がある。洋館に住んでいる咲夜にとっては、少し珍しいものだ。
「コタツ……の、仲間かしら」
「『電気ゴタツ』というものです。一応、月から持って来られた品で、冬を越す際には必須のアイテムなんですよ」
「猫が好みそうね」
「前に、どこぞの式神猫が勝手に入ってて、驚いたことがありますよ……まあ、師匠が来るまで、ここで暖を取ってて下さい。私は、てゐを連れて仕事場に戻りますんで」
 不貞腐れているてゐの手を引っ張って、鈴仙は部屋を後にする。
 部屋の中には、咲夜が一人だけ残った。
(メイドとコタツって、変な組み合わせね……ぜんぜん絵にならないわ)
 そう思いつつ、電気ゴタツに足を突っ込む。布が掛かっているだけの普通のコタツなら、最初は余り暖かくないのだが、電気ゴタツは暖房機能がある為、すぐにポカポカとぬくい暖気が伝わって来る。その気持ち良さに思わず、
「ふぅ……」
 と、安堵の吐息が漏れてしまう。背筋を伸ばしていた緊張の糸がプツン、と音を立てて切れ、咲夜は御膳の上に上体を預けてしまう。
(そうだわ……私、疲れていたのね……)
 先程の戦いが、咲夜にとって芳しくない結果に終わってしまったのは、年末から新年に掛けての仕事量の増加が原因だったのだ。大掃除に忘年会、正月の準備に片付け、そして日夜繰り返される酒盛り……他のメイド達も働いていると言えばそうだが、家事の大半は咲夜が負担しているものだ。時間操作のおかげで、一度に沢山の仕事量をこなせると言えば確かにそうだが、働いた分の疲れは確かに蓄積されている。時折、時間を止めて休憩も取ってはいるが、一度の休憩で全ての疲れが吹き飛ぶ訳ではない。
(たまには、和風の部屋も落ち着くわね……少し、時間を停めて休ませて貰おうかしら)
 そして、咲夜は電気ゴタツの中で、深い眠りに落ちていった。

 ……すぐそこに、誰かが居る。
 直感が告げる何者かの気配に、咲夜は目を覚まされた。
「あら、起きたみたいね」
 咲夜の向かい側に、彼女は居た。
「貴方でしたか……道理で、私の世界に入って来られる訳ですわね」
 永遠と須臾を司る姫君・蓬莱山輝夜だ。
 咲夜の手によって時を停められた世界であろうとも、それは要するに須臾の中に住まうというだけのこと。類似する能力を持つ輝夜の手に掛かれば、どうということはない。こうしてコタツで寛ぎながら、蜜柑をつまむ事だって平然と出来るのだ。
「安穏と眠っている姿を見られるなんて……みっともない所を見せてしまいましたわ」
「いいえ。貴女の寝顔、なかなか可愛らしくて素敵だったわ」
「……それはそれで、悔しいですわね」
「いいじゃない。貴女、少し疲れて居そうですもの。心も身体も、ね。少しぐらい疲れを癒したって、罰が当たることは無いわよ?」
「そうは言いましても、仕事は山積していますので。今日も元はと言えば、永琳様に薬を処方して貰いに来たのが理由でしたので」
「そう……残念ね。ゆっくり碁でも打とうかと思っていたのに――私が勝つまで」
「私なんかよりも、不死身仲間と遊べば良いのではありませんか?」
「うーん、それも考えたんだけどね。今日は妹紅、里に下りて慧音の手伝いをしているっていうのよ」
「彼女も、付き合いの幅が広くなった様ですわね」
「貴女もね」
「……一本取られた、とでも言うべきなのかしら」



「話し相手になってくれて有難う、咲夜。今日は面白かったわ」
「こちらこそ、長々とお邪魔して申し訳ありません」
「いいのよ――それでは、時の枷を解きましょう。永琳はすぐそこまで来ているわ」
え、と咲夜が驚いて背後を振り向くと、ちょうど時間停止を解除された永琳が、襖を開けて部屋に入ってくる所であった。
「待たせて御免なさい、咲夜。今日は里に買出しに行かなきゃいけなかったのよ」
「いえ、大して待たされてはいませんよ」
「そう……で、今日の用事は何かしら?」
「実は……」
 咲夜は、パチュリーが喘息の発作を起こしたことを説明した。
「そうね……この季節になると、鼻が詰まり易くなるものねえ。分かったわ、アレルギー疾患を抑える薬と、私特製の保湿マスクを持って来るわね」
「ああ、それと常備薬が切れていたので、そちらも購入して宜しいかしら?」
「一式全部でいいの?」
「ええ」
 自慢ではないが、パチュリーの薬の消耗はとても早い。元から病弱な体質で、おまけに光の当たらないホコリっぽい図書館に篭りっきりなので、たびたび体調を崩しているのだ。多彩な属性魔法を使いこなす魔女にしては、随分と情けない弱点に思える(その落差が面白いんじゃないか、とは魔理沙の弁。他人事だからって、能天気なものだ)。

 薬を取りに行った永琳が戻って来ると、手には二つの袋がぶら下げられていた。一つはパチュリー用のものだと思わしい。だが、もう一つは……
「なんですか、これは」
「あなた用のモノよ、咲夜」
「頼んだ覚えはありませんが」
「何言ってるの。顔に書いてあるじゃない、『私とても疲れています』って。医者の目を誤魔化せるとでも思って?」
 きっと永琳は、さっき咲夜を見た瞬間に、その疲労量の多さを察していたのだろう。
「ま、これは私の世話焼きとでも思って受け取っておきなさい。ツケにしといてあげるから。なに、中身は簡単な栄養補助薬品と胡蝶夢丸だけよ」
 胡蝶夢丸――聞いたことがある。確か、いい夢を見てぐっすり休める、安眠の丸薬だとか。気分のリフレッシュには最適らしい。刺激の強いナイトメアタイプもあるとか何とか。
「そこまで言われるなら……素直に受け取っておきましょうか」
「そうなさい。とにかく、仕事は大事かもしれないけれど、休みもキチンと取らなきゃ駄目よ。そっちの家の御嬢様が何か言ったら、『無理すると身体を壊すって医者が言ってた』って、きちんと伝えておくこと。いい?」
「……随分と念押しするんですね」
「長年医者をやっているとね、あなたみたいな人も一杯診るのよ。仕事一筋で生き続けて、挙句の果てに過労で倒れちゃう人。冗談抜きで死んじゃった人だって結構居たわ。私がもっと強く忠告しておけば……って思うことも少なくないのよ。だから私は、心配な時は強く注意する。それが私のプロ精神。あなたもプロでしょう? 分かってくれないかしら」
「……心に留めておきましょう」
 そう言うと、咲夜は電気ゴタツから立ち上がり、
「素敵な文明の利器をお持ちですのね」
 と言い、薬の代金を永琳に手渡した。
「紅魔館にも一台プレゼントしましょうか?」
「似合わないわね。そもそも、電源がないもの」
「それもそうね」
「それじゃ、お邪魔しました。また薬が足りなくなったら、来ると思いますので」
 そう言い、咲夜は部屋を後にした。
 それまで、脇で大人しく永琳と咲夜を見ていた輝夜が、ニヤニヤしながら口を開く。
「ねえ永琳、いつもより何だか心配そうな顔をしていたけれど、貴女、咲夜と何かあったの?」
「医者として当然の責務を果たしたまでですよ、姫」
 八意永琳。その顔に浮かべた微笑が何を意味するものかは、流石の輝夜にさえも分からない。彼女は恐らく、咲夜と何かの因縁があるのだろう。髪の色が銀同士で似通っているのも、偶然のものとは思えない。しかし、その裏にある真実は……きっと、永遠に明るみに出ることは無いのだろう。



 紅魔館に戻ると、図書館の片付けはそれなりに進んでいる様であった。
 妖精メイド達だけでここまで出来るのなら、けっこう見直したものだが――
「おう咲夜、お帰り」
 どうして、霧雨魔理沙がメイド服で片付けを手伝っているのだろう。
「……どういう風の吹き回し?」
「それがな、さっき咲夜が出てった後、パチェが『着ろ、着ろ、着ないと私が着るぞ』って、息を荒げて恐ろしいことを言いやがるもんだから――」
「真っ赤な嘘を言わないの」
 ごん、とパチュリーが手にした魔導書で、魔理沙の頭を小突く。呼び方に関しては突っ込むのをやめたみたいだ。いちいち言うのが面倒なのか、それとも魔理沙を認めたのか……
「パチュリー様、お体の方は大丈夫ですか?」
「ううん、あんまり。貰えるのであれば、今すぐにでもお薬を貰いたい所だわ」
「薬の類は食後のはずでしたが……ああ、そうでした。コレをどうぞ」
 咲夜は袋の中から、永琳謹製・保湿マスクを取り出す。
「……見栄えは悪いけど、しょうがないわね。喉や鼻の粘膜の保護にも繋がるし」
 そう言い、パチュリーはマスクを着用する。
「よく似合ってるぜ」
 ごん。またしても魔導書の一撃。
「痛いぜ……」
「余りふざけた事を言うと、あなたの家に押し掛けて、今まで盗られた魔導書を全部奪い返してやるわよ?」
「いいぜ、探し出せるもんならな」
「……阿呆らしい」
「ところで、魔理沙……これはなに?」
 咲夜が脇を見ると、シュンシュン、と湯気を立てている薬缶の姿がある。下には魔理沙のミニ八卦炉があり、火の元になっているようだ。
「ああ、コレな。前に香霖堂で『加湿器』とかいう、湿度を上げる道具を見たことがあるんだが、それの仕組みがこんな感じだった気がするんで、実際にやってみよう、ってコトになったんだ」
「部屋の湿度を上げるには薬缶を沸かせばいい……言われてみれば、簡単な理屈だったわ」
 もっとも、この図書館は広大すぎるので、近くで沸かさないと余り意味が無いということだが……
「それじゃあパチュリー様、これから紅茶にしようかと思いますので、お部屋を移動することにしましょう」
「いいわね。ちょうど私も喉を潤したいと思っていた所だわ」
「せっかくだから、私も一杯頂いて行くぜ」
「……駄目って言っても、あなたは聞かないんでしょうねえ」
「まあまあ、パチュリー様。魔理沙も魔理沙で片付けを手伝ったつもりの様ですし、ここは報酬に一杯ぐらいあげてもいいってことにしておきましょう」
「そうね。いい考えよ、咲夜」
「……なんか、負けた気がするんだぜ」

 二人に疎外感を感じていたのは、もう朝のことになる。
 今の咲夜は、もう冷たくはない。乾いてもいない。
 コタツのほかほかした暖かさが、加湿器のしっとりとした水蒸気が。
 咲夜の心を、癒してくれた。

 紅茶の優しげな香りが、鼻腔をくすぐる。

「落ち着くわね……」

 紅茶は温かくて、しっとりとしている。

 だから、ホッとするのかもしれない。
指定テーマから脱線しまくりで意味の分からない作品になってしまいました、ホントに申し訳ない。
いちおう咲夜さんがメインだったはずなのに、書いてる最中はパチュリー可愛いよパチュリー……な状態になってしまったのが情けないです。
ただ、いちおう元からある設定を活かした作品にしようとは思っていたので、その目標だけは達成できた(の、かな……)と思っています。

まあ、突っ込みどころ満載ですので、辛口評価も覚悟しています。
ただ、よければ「オマエどうせならパチュ×マリ書けよ」みたいな意見も欲しかったりします。

では、失礼しました。

(あ、地の文と会話の比率が途中から狂ってるなぁ……波長をいじられたのか?)
U=Wktk
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2008/02/11 08:40:44
更新日時:
2008/02/13 23:40:44
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1. 2 小山田 ■2008/02/13 08:22:14
会話文の連続をなぞっているうちに終わってしまった感がありました。あと、最後付近の「つもり」を文字を弄って強調するよりも、地の文で補足したりして「つもり」に収束するようにした方がいいかもしれません。そのあたり手を抜くと、書き手と読み手の「面白い」という認識が乖離しがちですので。
2. 5 名無しの37番 ■2008/02/14 18:58:09
まったりゆったり咲夜さん。確かに年末年始は逆に忙しそうだな。
ツッコミどころは……「てゐは弾幕やるより素直に案内したほうが楽だったような」とか「パッチェさん図書館で加湿器っていいのか」とかかな。
まあ前者は「挑まれたなら受けないのも癪だ」ってことだろうし、後者は「あそこの本なら結界とかで湿気くらいはどうとでも」ってことなのか。
3. 4 あまぎ ■2008/02/17 17:11:15
「つもり」に吹いた。
永琳と咲夜さんの関係が良い味出してますね。
ただ、もう少し内容にまとまりを作ったほうが、読みやすくてわかりやすいSSになったかも知れません。
4. 2 飛び入り魚 ■2008/02/20 14:26:06
心もほかほかしっとりってのが良い発想に思える。それをもっと押し出しても良かったかも。
オマエどうせならパチュ×マリ書けよ
5. 4 俄雨 ■2008/02/21 17:49:04
多少インパクトが薄かったかなと思いました。そう意識されたのかもしれませんが。それにしてもこの時期は乾燥するなぁ
6. 6 カシス ■2008/02/27 21:38:29
お題は機械で、炬燵の事でいいのでしょうか?ちょっと解りかねます。
7. 5 ■2008/02/27 22:17:04
たしかにパチュリー可愛いよパチュリーが暴走しているw楽しかったんですけど
図書館と永遠亭とでの温度差がちょっと激しすぎますね。
それと輝夜が出てくる辺りの会話がちょっと不自然でした。
■一つ置いて長話をしたことになっているのが唐突過ぎると思います。
あと、
つ「オマエどうせならパチュ×マリ書けよ」(これはもう本気で)
8. 3 ■2008/02/28 20:38:17
少し人間味のある咲夜さん。疲れてくれば弱気にもなるか。
輝夜と咲夜さんは珍しい組み合わせかも。能力的には近しいのに不思議と絡まない。
ちょっといい輝夜。お題の消化の弱さが問題か
9. 2 つくし ■2008/02/28 22:01:32
咲夜さんの癒しグッズ紹介文、という感じでした。そしてそれ以上でもそれ以下でもない。あまりに普通すぎます。小説は必ずしも「物語」である必要はないですが、「物語」以外で魅せようとするのはけっこう難易度高くなります。二次創作なら萌え特化とかありますが。とかく、読ませどころをひとつ焦点として絞ってほしかったです。
10. 6 織村 紅羅璃 ■2008/02/28 22:34:58
原作の設定にある程度則っていたことはすごい良いことだと思います。目標にすえられていたというなら、ご安心を、きちんと達成できておりましたよw
会話のテンポも良かったのですが、やはりお題がうまく使えていなかった感は否めませんな。
あと。あなたはパチュ×マリを書くべきです。w
11. 4 たくじ ■2008/02/28 22:36:14
うーん…結局、何が言いたいのかよくわからなかったという感じでした。見所が無いというか。
やさしい輝夜がなんか好きです。
12. 4 椒良徳 ■2008/02/28 23:59:24
俺はパチュマリよりも咲マリの方が好みなんだ。だからこの作品は評価できない。
13. 4 時計屋 ■2008/02/29 00:51:30
なんかアンニュイな午後の咲夜さん、って感じですね。
最後はほんわか温まる良いSSでした。
14. 4 ZID ■2008/02/29 01:36:52
文章にコレといった欠点が無い反面、構成に方向性が薄く、兎にも角にも印象が『薄い』です。もっと斜めにぶっ飛んだ一幕があってもいいかもしれない。
15. 2 木村圭 ■2008/02/29 04:58:28
オマエどうせならさくえー書けよ! 書かないならもっとさらっと流せよ! 投げっぱなしになってる部分をそのまま拾って投げっぱなすのはどうかと。
時にパッチェさん、換気の出来ないところで下手に湿度上げるとカビの原因になるので気をつけてくださいねー。
16. 2 とら ■2008/02/29 09:17:23
会話文が多く読みやすくはあったのですが、反面作中の雰囲気があまり伝わってきませんでした。また、お題との絡みもよくわかりませんでした。
17. 5 らくがん屋 ■2008/02/29 11:12:17
童話調? 上手いと思うのだけど、自分は対象年齢外だよなぁと思ってしまいます。
18. 1 中沢良一 ■2008/02/29 15:20:14
咲夜の疲れがあまりえがかれていなかったので、疲れ方が唐突な気がしました。なぜそんなに疲れているの、ああだったこうだったと回想させるより、1つ出来事をいれるだけでも説得力が増すと思いますよ。
地の文に括弧付けで咲夜の心のうちを語らせるより、地の文と会話で伝えたほうが文章として締まる気がします。
後書きでも書かれていますが、後半会話文ばかりで、状況説明が乏しいので、もう少しバランスよく書いたほうが良かったかと思います。
19. 3 つくね ■2008/02/29 17:04:24
お題が小道具として随所に出てくる、いうなれば分散型配置でしょうか。
確かに強力ではないものの、どこか名脇役という風情でじわじわと効いてきますね。
20. 6 K.M ■2008/02/29 18:53:07
ワーカホリック気味な咲夜さんに安らぎあれ。
そして、何のかんの言っても魔理沙と仲良しなパチュリーがとても可愛かったです。
やり取りはもはや夫婦漫才じゃないですかw
21. 1 ルドルフとトラ猫 ■2008/02/29 19:10:07
つまんない えーと、なにがしたいのかわからなかった
22. 8 ☆月柳☆ ■2008/02/29 19:53:38
辛口評価なんてとんでもない!
むしろニヤニヤできる部分が沢山あったので、面白かったですよ。
「……浮気者」のとこでは、それはいちゃらめぇ!みたいな突っ込みを心のなかでしてみたり。
こたつで式神猫が丸まってるとことか、咲夜さんがこたつに突っ伏してる姿とか、メイド姿の魔理沙とか…。
最高でした。
23. 5 八重結界 ■2008/02/29 20:52:43
話自体はよく纏まっているんですが、些か盛り上がりに欠けるかと。
雰囲気で読ませる話なのかもしれませんが、それにしたってもう少しぐらい何か展開が欲しかったです。
24. 6 O−81 ■2008/02/29 21:41:13
 結構いい雰囲気でした。
 押し付けがましくない程度に感傷的で、しんみりとしていて、好きです。
25. 5 只野 亜峰 ■2008/02/29 21:43:59
彼女は恐らく、〜の一文がちょっち蛇足かな。
三人称とはいえ、基本的に咲夜を主軸として展開しているわけだし、ここでNEETの思考に深く言及するのは野暮っぽ。
ここはもうちょい「そういって八意永琳は思わせぶりに笑った」程度に留めてあっさりと行ったほうが良いかも。
つもりが太字に見えるのはタグでも使ったのだろうか。
まぁ、文章機能がさほど充実してないのはわかりますが、強調したいのであれば"つもり"とかその程度に置き換えても良い気ガス。
もしくは何も強調記号入れなくてもそれはそれで。咲夜さんならこういう嫌味さらっと言いそうだし。
主題がおぼろげになってしまったのは残念ながらも、基本的にはほのぼのした雰囲気が味わえました。
26. 5 BYK ■2008/02/29 22:11:53
コタツと聞いて真っ先に八雲家かと(ぉ
八卦炉で加湿器を構成した魔理沙にアイディア賞をw
27. 3 綺羅 ■2008/02/29 23:14:50
実際に加湿器が登場したならともかくとして、薬缶を火にかけても機械とは言わないだろうし、コタツも正確な機械の意味からは離れているような気がしなくもない。と、そういう個人的な考えは置いておくとしても、とりあえず使ってみました感が否めないなと思いました。物語は作者の愛に溢れているのだろうなと思いましたが、いかんせんこちらまでそれを上手く伝え切れてない感じを受けます。
28. 3 moki ■2008/02/29 23:24:36
小物の使い方がいいですね。咲夜の心を癒す物。もっと分量読みたいです。
29. 4 反魂 ■2008/02/29 23:25:11
 波長を弄られたとすれば、物語の指向性の方だと思いました。
 短編の割には、テーマが端々で散逸しすぎているような気がします。
30. 4 冬生まれ ■2008/02/29 23:33:09
完全で瀟洒な咲夜さんの、影での苦労が垣間見れて面白かったです。
が、それゆえにテーマが生かされてないのが残念。
31. 3 blankii ■2008/02/29 23:52:47
『機械』として加湿器、でしょうか。ある程度の湿度がないとむしろ暮らしにくいですよね。といっても、あんまり高すぎてもアチチなのかもしれませんが――どこぞの鬱陶しい白黒のように。

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