規戒

作品集: 最新 投稿日時: 2008/02/11 08:59:25 更新日時: 2008/02/13 23:59:25 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00
一 汝、我が友となる事


「パチェ、何処〜?」

紅魔館大図書館に響く声。
私の事を「パチェ」と呼ぶのは此処には一人しか居ないし、
そもそもあれだけ大きな気配が近付けば眠っていても気が付く。
だから、こうして声をかける事には、今までそうして来たから、という以上の理由は無い。

「こっちよ、レミィ」

本の山から辛うじて覗く程度の高さ迄手を伸ばし、振る。
これも、本来意味の無い動作。
吸血鬼として、常人より遥かに鋭敏な感覚を持つ彼女は本のページを捲る音だけで、
私が何処に居るか解っているだろう。
結局、今までそうして来たからこれからもそうするだけ。
惰性と保守の上でだらだらと続く、友情なんてそんな物なのかもしれない。

「ねぇ、パチェ。これ作れるかな?」

前置きも説明も無い、唐突な相談。
何時もの事ではないが、初めてでもない。
この前は……館を丸ごと別の場所に移すにはどうすれば良いか、だったかな?
偽りの揺れる満月を調べに行って、何か面白い物でも見つけたのだろうか。

「見せて」

レミィの持ってきた紙を受け取る。
お世辞にも上手いとは言えない絵だが……これはロケットだろうか?
確か40年程前に人間が実用化した有人宇宙探査用の機械。
偽りの満月を調べに月まで行こうとでもいうの?

「一応、理論は知ってるわ。確か一昨年整理した棚に関連資料があったと思う」
「じゃあ、作れる?」

子供の様に瞳を輝かせて、私を見る。

「幻想郷で材料を揃えるのは難しいかも……材料さえ揃えばロケットは作れるわ」
「材料を揃えればいいのね。それなら咲夜に頼めばいいわ。私は咲夜を呼んで来るから、
 パチェは材料のリストアップお願い!」

レミィは相変わらず私の前では必要以上に子供っぽく振舞う。
仮にロケットが出来ても幻想郷からは出られない。
それが解らない貴女では無いでしょうに……。



一 期間は99カ年とする


ロケットの材料を書き出しながら、ふと昔を思い出してみる。

10年前、20年前、30年前……レミィはあの頃から全然変わらない。
50年前、60年前、70年前……幼い振りをして、その実先回りして私を助けてくれたレミィ。
80年前、90年前…………たった100年程の私の過去は殆ど彼女と共に在った。

隣に居て、様々な物を与えてくれる彼女。
対して、私は彼女にどれほどの事をしてあげられただろう?
レミィが私にする頼み事も、本質的には私の為にしているのだ。
運命を操作する、その偉大な力の下では私の力の及ぶ程度の事は些事に過ぎない。
ただ、私の存在理由を作る為に、必要とされてると思わせる為に、
彼女は幼さを偽装して私に甘える。
私に出来る事は……せめて彼女を失望させないように頼まれた事をこなすだけ。

「また、パチュリー様をそんな事に付き合わせて……ダメですよ、お嬢様」
「あら、パチェは材料さえ揃えば出来るって言ったわ」

レミィが戻ってくる。
とりあえず材料はこれで……アームストロングってなんだったかしら?
まあいいわ。とりあえずロケットの構成要素には違いないんだから後で調べましょう。

「で、材料は誰が集めるんですか?」
「決まってるじゃない」

とりあえず材料のリストはこれで良さそうね。
さて、あの二人に説明しなくては。
頼まれた事はこなす、それがせめて私に出来る事なのだから……。



一 汝、時が来るまでこの契約を忘れる事


咲夜とレミィは「魔理沙」を取りに行った。
案の定、真面目に作るつもりは無さそうだから、暫くはしゃいで楽しんだらお仕舞いでしょう。

日の沈んだ後少し遅れて出てくる十六夜月を見て、レミィが咲夜を拾ってきた日のことを思い出す。
あの日も今日と同じ十六夜で、レミィは食事の帰り、何時ものように洋服を真っ赤に染めていた。
何時もと違うのは、その胸に子供を抱いていた事。

「月の忘れ物、十六夜の子ね」

そう言ってレミィが笑う。

「人間の子供? 拾ってどうするのよ」
「もちろん、私が拾ったんだから私の従者にするわ。パチェにはあげないよ。」

私から守るようにその子を隠す。

咲夜との出会いはそうだった。
此処に来て、雑用をしていた小悪魔と初めて会った時の事。
幽閉されていた妹様と初めて会った時の事。
いずれも鮮明に思い出せる。

なのに、レミィと初めて会った時の事だけが思い出せない。
レミィに聞けばいいのだけれど、何故か聞いてはいけないことのような気がする。
そう、まるで見えない鎖に縛られているかのように。
でも、聞かなきゃいけない気がする。
そうしなきゃ、前に進めないから……。





レミィは昼間遊び疲れて、今朝は早めに寝るらしい。
ならば、今聞きに行くしかない。

トントン、と寝室の扉を叩く。

「レミィ、ちょっといいかな?」
「今、手が離せないから勝手に入ってきて」

扉を開けると、レミィが寝巻きを着ようとして苦戦していた。
思わず、懐かしいと感じてしまう。
レミィは羽があるから、当然それに合わせて穴のあいた服を着ているのだけれど、
その脱ぎ着が酷く下手なのだ。
最近は咲夜が手伝っているのだけど、咲夜の来る前はそれは私の仕事だったのだ。

「なんで咲夜に頼まなかったの?」
「ほら、今夜はパチェが来るから、ね」

涙目になりながらレミィが言う。
羽の付け根の柔らかい部分をファスナーで挟んだらしい。
想像するだけで痛そうな……そうじゃなくて

「ねぇ、レミィ? 私達が…」
「そう、ロケットの材料はとりあえず魔理沙は確保したわ。『構わないぜ』って快諾してくれ…」
「レミィ?」

レミィは解ってて誤魔化そうとしてるの?

「今まで私は思い出せなかったんだけど…」
「そういえば、パチェには話して無かったよね。今度竹林にね…」
「レミィ……」

もう、レミィに聞かずとも、どうやって出会ったのか解る。
分を超える力を欲っして悪魔に助力を乞う愚かな魔女。
それに応えたのは優しく、そして寂しい悪魔。
強大な力の代償として求めたのは、ただ友達になって欲しい、とそれだけ。
私は、その望みを叶えられただろうか?
ちゃんと、親友になれていただろうか?

今日がその99年の契約の終わる日。
契約に縛られた偽りの友情が終わる日。

「ねぇ、レミィ。私思い出したから……」
「嫌だよ!」

悲痛な叫び声。

「行かないでよ……これからもずっと此処に居て……パチェの為ならどんな運命でも作るから。
 もうわがまま言わないから。ね、だから此処に…………」
「レミィ……」

涙を流して必死に訴える彼女の頭をそっと抱きしめる。

「私達の契約覚えてる?」
「……うん」
「汝、我が友となる事。期間は99ヶ年とする。汝、時が来るまでこの契約を忘れる事」
「……うん」
「多分ね、私は99年かけてレミィと友達になって来たんだと思うの」
「……?」
「99年かけてお互いの事を知って、今ようやく本当の友達になれたんじゃないかと思うの」
「……!」
「だから、これからもよろしくね、レミィ」
「……うん、こちらこそよろしく、パチェ」
お題見たときに「解釈は自由」も使いたいと思って考えたネタです。
色々描きたいけど時間が厳しい・・・。
夕凪
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2008/02/11 08:59:25
更新日時:
2008/02/13 23:59:25
評価:
0/0
POINT:
0
Rate:
5.00
1. 4 カシス ■2008/02/11 01:06:35
ほのぼのです。いいですね、レミィが可愛いです。ただ展開が少し速い気がします。
2. 2 俄雨 ■2008/02/11 20:58:32
もう少し盛り上げられたならと、そこが残念です。長い話で読みたかったなぁ。
3. 2 小山田 ■2008/02/13 19:05:14
いい話でした。ですが、戒めのルールである規戒をパチェリーに課す経緯があまり見受けられないため、レミリアの思いの高まりが少し唐突だったかもしれません。
4. 3 飛び入り魚 ■2008/02/14 00:07:14
レミィがいちいち可愛い
5. 4 あまぎ ■2008/02/15 21:39:35
「規戒」、お見事でした。
レミリアとパチュリーらしい、自分好みのお話で興味深かったです。
しかし、後半は少し味気なかったような気がします。
あと幾らかでも時間をかけることが出来たなら、大変質の高い作品になったと思います。
6. 8 ■2008/02/27 22:42:26
むしろこの短さにまとまっているのがいいです、お話としてスッキリしていて。
(やっぱりこの二人はカップルじゃなくて友情だとこの場を借りて勝手に叫ぶ)
欲を言えば、前半で二人の仲良しこよしがもうちょっと欲しかったです。
後半にぐいっと盛り上がりがある分、前半がちょっと物足りない気がします。
7. 4 ■2008/02/28 20:53:22
くそう、イチャイチャしやがって!
戒の字を使っているけど、これはむしろ契約のような。
8. 4 たくじ ■2008/02/28 22:47:00
パチュリーとレミリアの関係をもっとていねいに描いていたら、最後のシーンがもっと活きてくるんじゃないでしょうか。あまりにあっさりしていて、なぁんだ、という感じで終わってしまった印象です。こういう話はほんわかして好きなのですが、それだけに残念だなぁと思いました。
9. 3 椒良徳 ■2008/02/29 00:09:25
時間が厳しいからってあきらめるな! 大丈夫だ! やれば出来る! 
10. 2 時計屋 ■2008/02/29 01:04:43
契約というアイデアは面白いと思います。
ただちょっと話があっさりしすぎているように思えました。
11. 3 ZID ■2008/02/29 01:45:55
今日もレミリアお嬢様のカリスマは元気に低下中のようですね。話そのものは悪くないものの、表現が若干安く感じます。まだまだ練りたりないって印象を受けました。もうちょい時間があれば、また変わったものになったんでしょうが・・・。
12. 2 床間たろひ ■2008/02/29 03:07:52
うー、ん。
もし契約は絶対でこのままパチェが消えていたとしたら、「んだよそれ!」と思いながらも心に残ったでしょう。
でもできるならば、「んだよそれ! ……くそ、でも仕方ねーよなぁ!」と思えるようにもっと話を練ってくれていたらなぁと、そう思ったりもします。
勿論、これからもよろしくねバージョンでも、ああよかったなぁと思えるだけに仕上げてくれたらなぁとかも。
時間が足りなかったのはわかりますが、もっと読者を引き込ませるだけのシーンや情感を描いて欲しかったです。
13. 3 頭痛 ■2008/02/29 04:07:27
話は好きです
お題に縛られすぎたかな?って印象
コンペでなければ僕は高得点をつけてました
14. 4 とら ■2008/02/29 09:19:12
別れを予想していただけに、ラストでの展開には思わずホッとしました。ただ、後半少し急いでまとめにかかっているような気がしました。
15. 4 らくがん屋 ■2008/02/29 11:24:04
筋自体は好みなのだけど、練り込み不足があからさまなのが残念極まりない。後書きからも判ってしまうし。
16. 4 つくし ■2008/02/29 13:52:15
おぜうさまかわいいよ!!! それより加うるところなし。
冗談はさておき、発想はすごくいいので、それが生きてくる内容がほしかったです。パチュリーが契約に縛られる様とか。料理しようによってはすごく良い素材です。
17. 6 as capable as a NAMELESS ■2008/02/29 15:06:42
なるほど、そこは盲点でした。
18. 3 中沢良一 ■2008/02/29 15:26:05
このレミィにやられる。もっとこってりとえがいて欲しかったです。
改行した後は一字字下げしたほうがいいと思います。
19. 6 名無しの37番 ■2008/02/29 16:24:31
仮初の友情から真の友情へ。吸血鬼と魔女という二人の立ち位置を上手く扱った、興味深い作品でした。
ただ、もうちょっと膨らませて欲しかったというのも正直な気持ち。
コンペでは、時間制限以内にどれだけのものを仕上げるかというのも重要な要素なのですね。難しいものです。
20. 5 K.M ■2008/02/29 18:21:24
「規戒終了の別れ」に怯えるレミリアさんが可愛かったです。
21. 4 ルドルフとトラ猫 ■2008/02/29 19:03:59
むかしむかしの契約が果たされて 優しいのね

22. 4 ☆月柳☆ ■2008/02/29 20:04:22
パチェだけに見せるレミィの姿。
なんかレミリア様が可愛く見えた…。
23. 6 八重結界 ■2008/02/29 20:58:50
できれば、なぜレミリアが悪魔と契約してでもパチュリーと一緒にいたかったのか書いて欲しかったです。
そこが描かれていなかたので、レミリアの必死さがあまり伝わってきませんでした。
それにしても、小悪魔や咲夜や妹様のことは鮮明に思い出せるのに、美鈴のことは……
24. 4 O−81 ■2008/02/29 21:19:33
 最後、ちょっと慌しいかなあ。
25. 4 只野 亜峰 ■2008/02/29 21:34:23
とりあえず「」でない通常文章は書きはじめに1マス空けたほうがいいかな。
少しものたりなくも思いつつ。こんな二人も良いかもと思ったり。
26. 5 BYK ■2008/02/29 22:21:23
少しづつ歳をとる妖怪ならば、互いを知るのも気の遠くなるような時間が掛かる。そして理解を深めるべく、また数十年単位の時間を掛けるのでしょうか。
二人の友情に幸あれ。
27. 3 つくね ■2008/02/29 23:08:54
ロケット建造を契約期間とする、そのアイディアに一票。
28. 5 綺羅 ■2008/02/29 23:22:13
時間が厳しいのは仕方ありませんが、やはり分量が少ないゆえ話が急ぎ足になって短絡してしまった気がします。規戒なら規戒で、何故そのような契約をしたのかというところまで掘り下げて欲しかった。
29. 6 冬生まれ ■2008/02/29 23:22:53
「きかい」の独特な解釈にそーきたかーと、感心しました。
30. 2 moki ■2008/02/29 23:30:28
これだけではなんとも……もっと膨らませるなりしてほしいです。
それと、題の規戒って戒めという意味で、内容と合わないのでは?
31. 4 反魂 ■2008/02/29 23:42:24
 御題はさておき。
 色々と突っ込み所はあるながら、そもそも短尺ですしあまり「色々」を要求すべきでは無いとも。
 良いお話でした。
32. 5 blankii ■2008/02/29 23:58:06
愛称で呼び合うという特別な関係。寂しい悪魔の望んだ『何か』は真実となるまでに100年を要した訳で、やっと役割を果たし終えた約束自身も、本望だったのに違いない。

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