博麗最終枯渇宣言

作品集: 最新 投稿日時: 2008/09/08 00:40:45 更新日時: 2008/11/12 22:53:30 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



「水不足です」

 霊夢は大仰に宣言した。

「はあ」

 博麗神社の境内に集められた人妖は八名、霊夢に選りすぐられたいずれ劣らぬ精鋭ばかりである。多分。
 左から、萃香、にとり、パチュリー、アリス、魔理沙、早苗、神奈子、諏訪子と続く。ラスト三名は、いつものように守矢の神々が足を踏んだ踏まないだので小競り合いを繰り広げているため、風祝がおろおろしながら仲裁に入っており、実際の戦力には加算されないものとする。
 そしてみな一様に「なんでこんなことしなきゃいけないんだろ」と言いたげな表情を浮かべ、炎天下の砂利の上に佇んでいる。
 ここで、霊夢から一言。

「助けてください」

 懇願である。
 何故だかマジ泣きしそうな気配がしたもので、魔理沙が咄嗟にフォローに入る。とはいえ、霊夢の口の中にヘビイチゴをぺしょぺしょ詰め込むことくらいしかできない。魔理沙は己の無力さを嘆き、霊夢はただヘビイチゴを咀嚼した。
 ぱそぱそする。

「むぐむぐ……」
「うまいか?」
「超まずい……」

 それでも何とか顔に生気が戻る。魔理沙を含め、一同は胸を撫で下ろした。
 わりと切羽詰まっているらしい彼女の瞳が見つめる先には、既に枯渇済みの井戸がある。釣瓶落としとして近頃存在が確認されたキスメが、出だし早々から目をぐるぐる回して井戸の縁にしがみついている。困窮度でいえば、彼女の方がよっぽど危うい。

「そんなわけですから」
「なんで敬語なの」

 萃香が素早く突っ込むが、早くも瞳が虚ろになっている霊夢は聞く耳を持たなかった。

「みんな、早いとこ私に水を恵んでくれればいいと思う」
「嫌だと言っ」

 たら、と言う前に、にとりの鍵におよそ十本の針が突き刺さる。
 その間、わずかにコンマ二秒!

「たらればを語るひとは嫌いだな……」
「ですよねー」

 一本一本、これを千本飲まされたら歩くハリセンボンと化してもおかしくはないほどのぶっとい針を抜きながら、にとりはしみじみと同意する。

「そもそも」

 若干、説教口調になりかけている霊夢が、針を抜き終えたにとりにゆらゆらと歩み寄る。

「オ……オプティカルカモフラージュ!」

 ふらふらと残像を生み出しながら接近する霊夢の体術はまさに、河童が作り上げる透過技術に匹敵する。人でありながらその高みに届かんとする霊夢ににとりは戦慄し、それでもやっぱりちょっと怖いからのびーるアームで距離を取ってみた。
 だが接近回避。

「ひゅいッ!?」
「あんたがとっとと水をざばーんと生み出してくれさえすれば、万事うまくいくのである」
「いたいいたいいたたたた」
「おい霊夢。そのへんにしといてあげな」

 霊夢のアイアンクローがにとりの額をがっちり捉える中、萃香がずいいっと前に出る。さすがは山の出身、同胞の危機を黙して見過ごすことはできないと見える。

「萃香も空気中の水分を萃めて私の井戸にざぶーんと収めてくれればいいと思う」
「おっ、あだだだだだ! 角! 角を捻るな! あぎゃぎゃぎゃ、これ折れるって! むしろ折れるから角なんだって! ほんとだって!」

 なんかだめっぽい。

「やれやれだぜ……」

 だが、阿鼻叫喚の渦中にあっても魔理沙は決して怯まず、異変解決時さながらのガチオーラを醸し出している霊夢に近付いていく。肩を竦める魔理沙の姿に、霊夢は剣呑な視線を送る。注意が逸れ、巫女の拘束が緩んだ隙に、にとりは両手のびーるアームで豪快に距離を取り、萃香は既に霧と化して消え失せていた。
 ちなみに、にとりはバックステップに勢いがつきすぎて階段落ちしました。
 二名脱落。

「結局、霊夢は私がいないと何も出来ないんだな」
「え、にとり無視?」

 幻想郷最後の良心、アリス・マーガトロイドが勇ましく指摘する。誰も聞いていなくても気にしない。その隣のパチュリーは喘息の発作に忙しい。
 遠く聞こえる悲鳴と咳音を背景に、魔理沙はパチュリーの背中を擦りながら彼女を前に押し出す。

「うぇっほうぇっほ……」
「早くも脱落しそうなんだけど」
「まあよく聞け」
「ふがふふがふ」

 あんまりよく聞こえない。

「このパチュリーさんはだな、なんと七曜の力を自在に使いこなせる人材なのだ!」
「それでそれで」
「あふぅ……全く、喘息持ちを砂煙立ち込める境内に連れ出すなんて、殺人にも等しい暴挙だわ……げほっ、かはっ!」
「プリンセスウンディネに不可能はない!」
「神社がぶっ壊れるじゃないの」
「帰る……」
「あ、送って行くわ。なんだか顔色がスカイブルーで心配だし」

 常時、体をくの字に折り曲げているパチュリーに介護欲をそそられたのか、アリスがパチュリーの送迎を希望する。パチュリーもぜえぜえ言いながらその申し出を受け入れた。

「悪いわね……エレメンタルハーベスターの破片をあげるわ……」
「なんで破片……いや今取り出さなくていいから。ていうか血痕……」
「じゃあジェリーフィッシュプリンセスでいいよもう。霊夢は贅沢だなー」
「同じじゃん、ていうかあんたは何もしてなくない?」
「そそんなことはないのだぜ」

 口調がぎこちない。
 霊夢としては誰に助けてもらっても一向に構わないのだが、気が付けば呼び寄せた精鋭の数も随分と減っている。何故だろう。
 守矢神社の面々は、手っ取り早く雨を降らせてくれるから頼りになると思っていたのだが。ケンカするほど仲が良いにも程があるというか、こいつらお互いにほっぺた抓り合って大人げがなさすぎるんじゃないのか。子どもか。
 早苗が泣くぞ。

「ああもう……のどかわいた……」
「そうだな。暑いな」
「あんたはなんでそんなに平然としてるの……釣瓶落としもそろそろ干からびる頃よ……」

 キスメ蒸発の危機。
 これはいかんと魔理沙は咄嗟に永江衣玖の件のポーズを真似てみたが、特に何も起こらなかった。
 びしッと決まっているところを見るに、以前から練習していた可能性が高い。
 こういうときに限って、守矢軍団も魔理沙を注目しているから困る。
 しかし魔理沙は不敵に微笑む。

「……ふっ」
「恥ずかしい恥ずかしくない以前に、もし成功しても雷が命中しちゃうだけだから逆効果なんだけど」
「焼き釣瓶落とし……なんて、新しいとは思わないか?」
「いいからそのポーズ解きなさい」

 渋々、魔理沙は天に突き立てた指を下ろす。
 気に入ってたのかそれ。

「おお、釣瓶落としが何処かへ旅立とうとしている」
「涅槃?」
「甘いな。こっちの水くらい甘いぜ、霊夢」
「こっちってどっち」
「あっちかなー」
「あっちか……遠いわね……」

 霊夢には何が見えているのだろう。

「いいか、水を求める生き物ってのは、本能的に水の在り処を知っているんだ。だから、あいつについていけば、おそらくは……」
「なるほどね! さすがは魔理沙、頼りになるわ!」
「お礼は有り金ぜんぶな」
「頼りになるわ!」

 繰り返した。
 その瞳に込められた意志の強さに、魔理沙も「おお」と言うほかなかった。
 霊夢はよろよろとふらつきながらも、これまたふらふらと旅立つ桶キスメの後に続く。頼りない水鳥たちの行進は見るに耐えないものだったが、魔理沙はただ合掌をして彼女たちの行く末を見守った。
 正直なところ、枯れているのは博麗神社の井戸だけだから、魔理沙を含め召集された面々は別に何も困っちゃいないのである。
 だからこそ、守矢一味もまた安穏と喧騒を貪ることができるのだ。八坂の神風も唸りを上げる。
 しかし何故、ここの井戸だけが枯渇の憂き目に遭ったのか――。
 その答えはきっと、キスメが行き着く先に待っていることだろう。

「さて、行くか」

 己を鼓舞するように、魔理沙は呟き、振り仰ぐように箒に跨る。
 空に架けられた無数の弾幕は、真実を求める魔法使いを讃えるかのように激しく、憐れむかのように切なく、瞬いては消えていく。










 ザ・有頂天。

「あ、やっと来たわ! なんだかもう私なんか初めからいないもんだとばかりに日常生活をエンジョイしてくれちゃってるから、あんまりにも悔しくて、思わず地下水が汲み上がるところの地盤をやわらかーくしたらうまい具合に井戸が枯れたみたいね! さあ、異変の首謀者はこの私よ! 存分に憂さを晴らすがいいわ!」
「……いち、に……さん、し」
「あれ、来ないの?」
「……ちょっと待って。いま力溜めてるから」
「ふふ、いいわよ、それくらいじゃないと張り合いがないから。なにせ、こっちもあんたたちと戯れる機会がなかったから、すっごく鬱憤が溜まってるのよねー。うふふふ」
「……なな……はち……」
「ねー、まだなのー?」
「おぃーっす、天子は居るー……かー……あ、ごめん、空気が読めなかった、帰るわ」
「え、もう帰っちゃうの? あんたも遊んでいけばいいのにー」
「うん、まあ、また今度な、あと、ちゃんと前見た方がいいと思うぞ、私は帰るけど」
「ちぇ、小心者ねー。いいわよ、土産話持って遊びに行くんだから。……ああそれと、前がどうかした、って――――」
「十」








 幻想郷は今日も平和でス。





今、霊夢の怒りが有頂天に達したァァ!
藤ゅ村
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投稿日時:
2008/09/08 00:40:45
更新日時:
2008/11/12 22:53:30
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1. 7 慶賀 ■2008/10/05 13:03:40
テーマは……水不足?とにかく霊夢のキャラクターが水を得た魚みたい。
うまいこと言えてない。とにかくあっさりした読みやすい文で凄い好みです。
敢えてケチをつけるならちょっとオチが弱いかなと。
でもオチを気にする話じゃないですね。
2. 7 神鋼 ■2008/10/06 19:44:39
誰がうまいこと言えと!!
数行毎に無鉄砲なツッコミ所が来るので、息切れのしない丁度良い文章量でした。

……天子の最初の台詞がM過ぎる……
3. -3 名無し ■2008/10/06 20:10:53
次に期待してます
4. 3 小山田 ■2008/10/06 22:13:27
ところどころ面白いフレーズがあったのに、作品全体の質へ生かしてなかったのが残念です。
5. 4 佐藤 厚志 ■2008/10/07 01:05:30
このssを読んで、マンガならもっと笑えるかもなぁ、というのが私の感想です。パロディ、東方2次創作ネタで溢れているようすは、ニコ動で見かけるものを感じさせます。どたばたした楽しい雰囲気を演出されたのはいい仕事ですが、文章でしか表せない言葉の面白さがあってもいいのでは、と思いました。
6. 3 twin ■2008/10/09 22:00:11
 ギャグ物の評価は苦手なのですが、それらが評価される点は間違いなく笑えるか否かにあると思っています。
 その上でこの作品を評価すると、あまり笑えませんでした。霊夢貧困ネタは若干見飽きた感がありますし、貧困ネタでそれなりの評価を取ろうとするのなら、真新しい展開が必要だと思います。

 終始物語のテンションが単調で、何処が笑いどころなのか判別し辛く、正直にいうと笑ったのは一場面程度でした。
 また、冒頭で紹介された八人の役目が薄すぎて、登場する意味が感じられず、登場させるならさせるで、もう少しうまく絡めた方がいいと思いました。

 それらを総合してこの得点です。
 八人の立ち回りに工夫が凝らされていたら、もっとよくなっていたかなと。
7. -1 人形屋 ■2008/10/12 13:27:16
キスメはどうした・・・。
8. 5 77号 ■2008/10/12 18:12:17
読んでいて、いまいち情景が脳映りにくいのでちょっと流れが悪いかな、と思わなくもないです。
そして水の場所を探る(と魔理沙が言っていた)キスメが、天界に向かったと言う事は、全ての原因が天界にありと見抜いたという事ですね、キスメすげぇ!
9. 6 #15 ■2008/10/12 18:38:12
てんてん…。いくらなんでも、やっていい事と悪い事が…
10. 6 三文字 ■2008/10/13 22:17:02
ていうか、紅魔湖とかから水汲めばよかったんじゃ……
もうちょっとドタバタ劇が欲しかったなぁ、ってのが個人的感想です。
11. 3 yuz ■2008/10/16 20:39:13
さすがに霊夢は格が違った。
12. 2 つくね ■2008/10/17 17:02:13
ははは非想非非想天の娘めははは。
ギャグ調なのは無問題として、会話・文章に無駄な部分が多く、理解しにくくなっているのがちょっと厳しいかな〜と思いました。
13. 8 deso ■2008/10/23 23:44:33
この霊夢さんはノリノリだw
面白かったです。
14. 4 詩所 ■2008/10/26 20:08:35
比那名居天子「はいはい、わしのせい」
15. 2 ミスターブシドー ■2008/10/26 23:56:33
しょーもない話(蔑称にあらず)の見本というか
粗いというかありがちさが目に付くが、まあ、ありそうじゃね?程度で納得。
展開の強引さはもはや誰がどう出ていようと関係ない程度に。
霊夢が適当に煮詰まればいいんだから、これが自然か。
天子オチも今ならまだ目新しいか。キスメの扱いが微妙すぎて「ただ出しました」的な所が惜しい。
まだキャラが固まってないんだから、すき放題するチャンスだと思う。
16. 2 PNS ■2008/10/28 13:49:11
話がぎったんばったんしていて読みにくく感じてしまいました。
オチもちょっとあっさりしすぎです。
17. 7 つくし ■2008/10/29 16:34:45
 バカバカしいの大好き。
 ギャグSSの呼吸をとらえてます。欲しいところに欲しい間があって、安心して読める感じ。
18. 4 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 07:00:58
最終的に記憶に残ったのは蛇苺のシーン。ぶっ飛んでました。
最初のインパクトからずるずると笑わされましたね、キスメの変化に涙が止まらない。
幻想郷が平和すぎて泣いた。
19. 5 今回は感想のみ ■2008/10/31 11:34:07
突き放した地の文の距離感がいい味になっています。
20. 4 じらふ ■2008/10/31 21:26:48
その怒りは留まるところを知らず、その日天界では陰陽玉や座布団の如き物体が乱舞したと言う(何
…とはいえ、しばらく懲りた後、また地上にちょっかい出しそうな天子ちゃんは間違いなくドM。
21. 6 八重結界 ■2008/11/01 18:25:57
どこからつっこめばいいんだ……
22. 3 blankii ■2008/11/01 21:08:50
なんというナンセンス・ギャグ。初っ端に霊夢の口にヘビイチゴ詰めるあたりで悶絶した。天子もまたしょーもない、だがそこが良い。
23. 7 名乗る名前がない ■2008/11/01 21:12:55
私の脳内で<裁かれました>な天子ちゃんの映像が止まりません。
もうやめてあげてください、お水怖い。
24. 4 木村圭 ■2008/11/01 21:40:52
しかしグレイズし放題!
25. 3 リコーダー ■2008/11/01 22:01:09
霊夢何やってるの。自分を助けられる妖怪まで張り倒しちゃったら意味ないじゃん。
なお「一事が万事」は誤用ですね。
26. 6 時計屋 ■2008/11/01 23:01:16
さようなら天子。
最後のカウントだけ漢字なのはきっと貴女のための十字架を表しているのでしょう。
お前ら神社と巫女になら何してもいいと思ってるのか、と最近公式見てても思います。
27. 2 Id ■2008/11/01 23:43:24
これは完全に私個人の問題なのですが、こういった話についていけなくて。人によっては面白いのだと思うのですが。
28. フリーレス 藤ゅ村 ■2008/11/09 22:53:46

 まず、こんぺの主催者様、運営、感想を含めてこんぺに携わった全ての皆様へ。
 おつかれさまでした

 この度は、「博麗最終枯渇宣言」をお読み頂き、まことにありがとうございました。
 読んだ通りの特に主張すべきこともないSSではありましたが、読み終わったあとにほんのわずかでもクスリとして頂けたら幸いです。

 またの機会がいつになるかはわかりませんが、そのときにまたお目にかかることが出来れば、それ以上の喜びはございません。
 では、その日までしばしのお別れを。
 藤村流でした。
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