最後の犠牲者

作品集: 最新 投稿日時: 2008/09/20 18:02:29 更新日時: 2008/09/23 09:02:29 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00

 弥陀の本願には、老少善悪のひとをえらばず、ただ信心を要とするべし   歎異抄より



 
 
 何かが、幻想郷の空を飛んでいた。仮初めの翼を生やし、鋼鉄の腕をぶら下げ、それは曖昧な線を空間に描いていた。満開の桜が上昇気流に乗り、それの周りにドレスのように取り巻いている。そう、季節はすっかり春であった。幻想郷に住むある妖精はこの光景を見て、友達の人間にこう言ったのだった。
「昼間に、変な生き物が飛んでたよ」
 
 物語は、ある人間の部屋から始まる。これは彼の物語である。



 
 
 部屋で本を読んでいると、突然、落ち着かないような不安な気持ちに襲われたのは、午後九時をまわったときであった。家を出よう、と私は決心した。
私は父親が宅配で送りつけてきた建築の批評本を、暇つぶしにと手にとってページを手繰っていた。仮にこれがハードボイルドの推理小説であったら、興奮に駆られ着の身の儘サンダルを突っかけあわてて外へ飛びだす、という事になっていたかもしれない。
 しかし何故、建築の批評本?と貴方は思われるかもしれない。

「A県H市に架かるアーチ橋は、この街に空間の広がりを与えた。日本中の地方経済が逼迫する中、H市は微かだがアーチ橋を中心したエリアから創作フランス料理や建築などの新たな文化を発信している。また上空からこれを見ると、あまりに活き活きとした緑色なので、砂漠の中屹立する若木のようだ」

 兎に角私は部屋着のジャージを脱ぎ捨て、クローゼットを開けた。雑然と垂れ下がった沢山の衣類の中から、流行の襟の小さなワイシャツ、モスグリーンのパンツ、灰色で薄手のベストを選ぶ。これから行く場所には出来る限りの良い服装でなくてはならない気がしたのだ。
 それからバックを取り出し財布、ハンカチ、パン、幾つかの文庫本、着替えを詰め込む。きっと暫くは帰れないだろうから。多めに持つことにする。
 自分の準備を追え、二年間世話になった七畳の部屋を見渡した。昨日の朝に掃除を終えていたので、畳は艶々とし、便所と風呂には水垢も全く生えていない。
 今日までこの部屋と私は一体であったのだ。自堕落な私が、欠かさずこの部屋を手入れできたのは、そんな錯覚にとらわれていたからだと思う。暗鬱としていて深海のように静かな場所。目の前が海なので朝には坂なの跳ねる音で目覚め、その後ここで本を読み、ウイスキーを飲むと名状しがたい開放感が四肢に漲るのだった。両親にねだってここで一人暮らしをしてよかった、と思う。

 私は玄関のドアを開けた。いつもの夜とは違う。夜空の下、葉桜の香りと、それから生き物が闇を飛び回る気配が横溢している。不安とともに私は期待で胸を焦がし、馴染みの部屋に背を向けている。さぁ出発だ。私は踏み出した。目指すは神社だ。

 アパートの階段を下り、十分ほど歩くとここらの海を抱くように岬が延びている。そこは鬱蒼と針葉樹林の支配する場所である。そのなかに小さな稲荷神社は身を隠している。岬の根元に立つ鳥居を潜り抜けると、雨上がりの地面が発する青臭い土の香りがした。
 長い参道には明かりが皆無で矢張り生き物の気配で満ちている。虫や鳥だろうか?
 やがて本殿が見えてきたが、私の目的地はその傍らにポツリと作られた末社で、漁の神様を奉っている。
 この神社はもともと稲荷信仰では無かったようだ。後からこの地に根付いた稲荷様のだ。その海の神は名前が無い。由来もわからない。一度宮司に質したことがあったが、とんと要領を得ない。彼の推測ではこの地で奉られていた名も無き神、つまり海の自然信仰は稲荷様の伝来により忘却の彼方へ消えようとしていた。漁師たちはその神を忘れないよう、末社を据えたというわけだ。
ここにいればいい。取り敢えずここに来ればいいのだ。私は時間が来るのを末社の隣で膝を抱えて待つことにした。
(私はここで何をしているのだろう。衝動でアパートを飛び出したが、こうして冷静になると随分馬鹿なことをしたな。だが深層心理の、私の見えざる意志は「然り」と呟いている。理屈が判然としないのは頗る不快だが)
 
 私の思惟はそこで途切れることになる。上空から身の毛もよだつ、野太い悲鳴が聞こえたのだ。「ぶぉぉぉう」と段々音が大きくなる。何かが近づいている!
 虫の羽音とは明らかに懸隔のある、音。私の体中の肌が生硬に引き締まる。そして月を背負い、月明かりに翳った飛行物体を確認した。左右に広がる大きな翼だ。迎えとは決して思えない。私は末社の影でそれをやり過ごすことにした。
 松の木の先端をすれすれの高度まで急降下したそれは、鷲のように末社の周囲を旋回し始めた。餌を探しているとでもいうように。今のところは見つかっていないらしい。
 それは飛ぶ範囲を広め、やがて岬の先端にそびえる、鎮守の森の木々の陰に飛び去った。私は末社からそっと身を乗り出し辺りを覗う。あれは何だ?大きな鳥のようだった。あんな生物見たことがない。
静寂と暗黒と、低く鳴り響く音が質量を持ち私の体を揺さぶる。まとわりつく湿った空気が激しく震えた。

 刹那、参道から大きな影が私に猛スピードで向かって来た。気が付いたときには私の体は既に地上を離れ宙吊りの状態を呈していた。捕まってしまった。そして両肩に激痛が走る。翼が夜空に蓋をして、私の周囲の空間は完全な闇であった。両翼から二本の細く長い腕が、私の肩を鋭い爪が貫いている。
「止めろ!」と叫ぶも声は虚空に吸い込まれた。
「私をどうする気だ」
 返答は無い。翼はあの「ぶぉぉう」という鈍い音をたてて羽ばたいている。顔面にぶち当たる激流と化した冷気の壁。梅雨の空は凍りついた大気の塊であった。
 寒さで歯ががちがちと擦れた。
「どうする気だと思う?」
 上から声がした。女の声だ。少し掠れた、鐘に似た優しい声だ。
 私の両肩から血があふれ出し、血の玉となって小さくなった木や神社に落ちていく。
「あの界隈は昔から私達が使っていた狩場なのだよ。行商人や旅人を捕まえるの。もっとも今は草ぼうぼうで、人が通るとは思っていなかったけど」
「じゃあ私は餌か」
「随分落ち着いているのね。それにしても夜にあんなところで何してたの?里の人間ならあんなところ夜に一人でぶらつかないよ」
「里?何のことだ?ここは日本なのか?」
「ニホン?あぁ確かに日本だよ」
 手足の先が凍え、私の体温は急激に失われつつあった。瞼も次第に重くなる。やはり私は事情が飲み込めないままだ。そして私はつり下ろされた屠殺場の家畜同然の姿だろう。最早肉塊なのだ。忸怩たる思いにまみれ、私は意識を失った。




 
 博麗神社の夜。
 酒気が漂い、乱雑に大皿や盃が転がり、またおしゃべりや歌や踊りで騒然としていた。まるで巨大な嵐そのものである。それというのは、神社を管轄している巫女が何かと理由をつけては酒宴を開くものだから、山の妖怪や亡霊や暇をもてあます八百万の神々、それに宇宙人の類が神社の美酒のお相伴に預かろうとやってくるのだ。空から幻想郷を俯瞰すれば、まるで漆黒の大海原の波濤ように山と山が重なる中、そこ一点だけが力強く輝いているに違いない。
 
 境内にて、本日の客人たちは巫女を尻目に好き放題の様子である。「葉桜を愛で、過ぎ行く春に名残を惜しみ、きたる梅雨を酒と歌で迎えよう」という名目の酒宴であるが、情緒も面白味も無い桜の木に関心を払うものは少ない。客人の大半が人間の数十倍、或いは数百倍の齢を重ねる人外であるから、移ろう季節の有難味など、とうの昔に忘れてしまっている。そんな連中なのだから宴会は粗雑で、ともすると暴力的な色合いを帯びることもあった。喧嘩に決闘。幻想郷に耐えないものである。

 それでも度々博麗の巫女が魑魅魍魎相手に酒宴を開くのは、彼女自身が無類の酒好きであるし、そうした幻想郷の妖怪たちを決して嫌っているわけではないからだ。幻想郷を脅かす力を有する吸血鬼や鬼の少女だって、時折人間がため息を付くような笑顔や愛嬌を見せることがある。

 裏の井戸で霊夢が空いた皿を洗っていると、家の陰から竹馬の友、霧雨魔理沙がひょっこり顔を出した。
「おい霊夢、何をしてるんだ?あっちで呑もうよ」
「洗い物。私がやらないと一体誰が片付けしてくれるのよ」空の皿は五十枚近くに及んでいる。
「悪い悪い」
 そういうと黒づくめの少女はにかっと笑った。手伝う気も無い。悪びれた様子も無い。そんな笑顔だった。彼女は魔法使いで、火力重視の豪快な攻撃魔法が専門である。里者は怖がっているが、人間イコール食料の原理主義を持ち続ける妖怪と付き合うには、これくらいの骨が無くてはならないという見本だった。
「向こうでみんな議論をしているんだ。面白いから早くおいでよ」
「もう鬼の踊りとかメイドの手品は皆飽きちゃったのかしら。それで何の議論?」
「今やってる議論はね、始まりはレミリアの一言だったんだ。『ねぇどうして人間は私達のような姿形をしているのかしら?』だって。そしたら何故か幽々子が噛み付いて『あら、そちらが人間の姿を真似っこしたんじゃなくて』って言ったんだよ。そしたらあっという間にその話題が人外共に広がってさァ……。私に言わせりゃ、ひよこが先か卵が先かみたいなものだと思うけど」
「確かに決着はつかないわねぇ」
「私は一応人間だからこれから人型人間起源説を擁護するつもり。霊夢はどっちだと思う?」
「興味ないわ。でもそんなことを話し合うなんて珍しいな」
 幻想郷の人外は意外と知的である。主に精神世界へ興味、関心は高く、逆に自分の見かけにはあまり関心が無い。人間とはやはり違うのだと考えてしまう。

 俄かに、境内から悲鳴が上がった。その後どっと笑い声も起こった。
 霊夢は立ち上がり、皿の山はうっちゃって置いて、酒場のほうへ駆け出した。境内の地べた一面に筵がしかれ、亡霊、烏天狗、河童、吸血鬼、その他妖怪がその上で思い思いの格好になり杯を酌み交わしている。
 境内を挟んで立つ赤い鳥居の下で男が一人、倒れている。のべつ百鬼夜行の様相を呈していた神社を見て、精神の平衡を失ったのだろう。妖怪たちは指を差してその無様な男のことを笑っていたのだ。傍らには竹かごが転がっており中にはジャガイモや玉葱といった野菜が詰まっている。
(この人、近くで働いてるお百姓さんだわ)
 霊夢は魔理沙に手伝ってもらい、のびている男を、彼女の平屋建てに運んだ。
 人里で買い物をする妖精がいて、自前の新聞を購読してもらうため人間の店に営業へ行く天狗がいて、人と妖怪はそれなりに懇切な関係を築いているらしいが、それでも人は妖怪のことが怖いのだ。
 百姓さんはうなされている。魔理沙が呼びかけ、体を揺すってやる。
 漸く目を覚ました。
「ここは……。あっ巫女様に、白黒の魔法使いさんじゃないですか」
 男は堰を切ったように話し始めた。逢魔ヶ時、収穫を終え人里へ帰ろうとした。やがて日がとっぷりと暮れ、急ぎ足で里に向かうと、北の空から化け物の雄叫びが聞こえた。その時北の空におかしな物飛んでいたのだという。目を凝らすと人間が大きな鳥に誘拐されていたのだ。百姓さんは里者がさらわれたと結論して、博麗神社に、迷いながらやって来たのだという(里者は滅多に神社にやって来ないから)。
「神社に来て見ると、どういうわけか妖怪たちに占拠されていましたし、驚きました」
「心配しないで。いつもだから。それよりその妖怪は北のほうへ飛んだのね」
「はい」
 北の方角。確か森が続いた後、ぽつりと廃村が佇んでいるはずだ。
 
 百姓さんには速やかに帰宅を命じ、霊夢は準備を始めた。攫われた人間は助からないかもしれないが、自分の仕事は妖怪退治である。頼まれたら助けに行かない訳が無い。赤と白の目出度い装束に着替え、髪を結い、符《アミュレット》を取り出す。帰ってからの神社の惨状を思うと気持ちも萎えるが、妖怪との決闘はそこそこの気分転換になる。
 外に出て夜空を見上げる。満点の星空だった。
「霊夢、弾幕ごっこしようよ」
「霊夢私も連れて行って」
 妖怪の少女たちが集まってきて、騒ぎたてた。霊夢は有象無象に「ちょっと黙ってて」と一喝した。刹那、彼女の華奢な体躯は浮力を得て、ふわりと三十センチ持ち上がる。革靴の下で硬質な空気が、熱を孕み旋回し、強力な上昇気流に変わった。そして霊夢は一気に空に舞い上がる。低い位置に浮かぶ雲を突っ切って、霊夢は北の村へ飛ぶ。そういった廃村には妖怪が住み着くことがあるのだ。




 
 私が目を覚ましたのはふかふかのベッドの上であった。一瞬自分の部屋に戻ってきたのでないかと思ったが両肩の包帯が見えると、一連の記憶をちりちりと蘇った。あと体が痛みで動かせない。
私を喰らう、とあの翼の化け物は言っていた。こんなところに餌を運んだ化け物は何をする気であろうか。治療をして、服も寝巻きに変えてあった。
 部屋の戸を誰かがノックした。扉が少し開き隙間から年端も行かない娘が顔をのぞかせる。
「起きた……?」
「起きた」
 肩まで届いた黒い髪をさらりと揺らして、部屋に入ってきた。両手にお盆を持っている。ホウロウ鍋と壷が載っていた。
「あんたは誰だ?」
 彼女は長いまつげを震わせ、下を向いた。
「貴方をここに連れてきた」
 アッと私は声を出してしまった。
「でも大きな鳥だと思っていた」
「あれは河童が作ったアイテム」

 後で見たのだが、私が大きな鳥だと思っていたのは、パラグライダーに良く似た、全長四メートル程度の機械であった。動力はディーゼルエンジンらしい。排気口からは石油の焼ける匂いがするのだ。あの「ぶぉぉぉ」というのはエンジンの駆動音であった。

「貴方名前は?私は青連露実」
「これから食べる人間に名前を聞いてどうする?」
「そう怒らないで、でもごめんなさい。本当に」
 あろうことに彼女は涙の粒をぽろぽろと零していた。
「こんなこと初めてだった。まさか人間と妖怪を間違えるなんて。久しぶりの狩だったし」
 事情をまったく飲み込めない。妖怪?わたしが?
 目を真っ赤にして、彼女はベッドに近づいた。体の包帯をとると壷の中のどろりとした液体を、傷口に塗った。
「永遠亭のお医者様が下さったお薬よ。すぐに良くなると思うわ。知っているでしょう永遠亭?」
 私の顔色を覗うように、彼女は言った。勿論、私が知っているはずが無い。
「ここは、あんたの家か?」
「今はね。昔は人間が住んでいたらしいのだけど、干ばつがあって、皆出て行ったの。それからずっと私の家。人間みたいな暮らしが出来て楽しいわ」
「君は人間じゃないのだね」
「見ればわかるでしょう。貴方だって同じ妖怪なのに。ところで貴方何の妖怪?」
 沈黙が私と彼女の間を占めた。
 私は口を開きかけた。が、止めた。まず私は妖怪ではない。私は確かに人間の肩書きがある。大学で海洋力学の勉強をしている。テニスサークルに入り週三回友達と球を打つ。週四回アルバイトで小遣いを稼ぐ。読書と買い物が趣味だ。来年卒業予定で、それなりの企業へ行きたいと考えている。つまり私は普通の学生なのだ。
 いくらでも露実に話すことはあったが、躊躇われた。一体私の情報はどのくらい彼女に正しく伝播するだろう。答えは皆無だろう。私の世界の常識は、彼女の世界には全く通用しないだろう、多分。だから「わからない」と言った。
「そう。頭を強く打ったのかしら。ねぇお腹すかない?これ食べて」とホウロウ鍋の蓋を開けた。中は粥であった。
「人間は喰わないぞ」
「入ってないよ。人間嫌いなの?はい、どうぞ」と匙ですくって私の口に運んだ。
「……私は人間だ」情けない反面、腹も減っていたのでその施しを受け入れた。
 粥は旨かった。
 露実は首をかしげながら、ゆっくり私の口に粥を流し込む。鍋が空になるといぶかしむ様に私の顔をまじまじと見つめた。
「何か必要なことがあったら言って頂戴。何でもするから」
 露実が部屋から出て行った。一人でいると、人生の中で一番の静寂を味わうことが出来た。窓からは、濃厚な闇が落ち込み、外には家の明かりも街灯も見えない。森のざわめきが聞こえる。まるで人の気配がしない。
 それに私は上空から見た、眼下に広がる風景を忘れることが出来ない。夜の帳が下りた地上には脈々と連なる、見たこともない山系、それを包む原始的な森、そして地平線まで続く飲み込まれそうな闇。文明が浸透しきった日本から消えた、暗黒だった。
 
 おかしなことになった。私は愚かな衝動によって家を飛び出したが、こんなこと予想もしていなかった。今は何時であろう。私は何故か携帯電話を持ってこなかったのを、いたく悔やんだ。携帯電話は私のいた世界と私を繋ぐ最後の線だった。

 翌朝、目を覚ました。ベッドの傍らのチェストにメモが残されていた。
「私は河童のところに行ってきます。お昼には帰ります」
 酷く喉が渇いていた。痛みも引いていたので、喉が痛く水を貰うため私は台所に向かった。しかし露実の家は、実際は屋敷であり、うろうろしながら一階に下り、今から食堂へ、その間テレビやパソコン、冷房といった文明の利器はとうとう見ることが出来なかった。
台所を見つけた。だが西洋風の屋敷に土間があって、その中には竈があり、味噌や漬物の樽が並んでいるのは、不思議な光景だ。ひょっとしたらこの方が使いやすいのかもしれない。
 勝手口を開けると庭の中心に、手押しポンプ式の井戸が鎮座していた。レバーを押し込むと蛇口から水が噴出した。手ですくって飲んでみると清澄で力強い甘みがする。きりりと冷たく、体中の細胞が目覚める清々しさである。
後ろを振り返り屋敷を見渡してみる。この西洋と日本の文化を抵抗も無く組み合わせる感性は、日本のものだろう。ここは多分日本だ。但し私のいた日本ではない。別の日本の側面だろうか。

 その後食堂でまどろんでいると、「ごめんくださーい」と呼びかける者があった。露実であろうか。
 玄関には少女が一人、立っている。
「やっと見つけた」
 その美しい少女は私の目を見て、敵愾心をむき出しにしていった。
「悪いけどさっさと退治させてもらうわよ。眠いし」




 一晩中、廃村を探し回った。明け方漸くアジトを発見した。
 霊夢といえども幻想郷すべての妖怪を知り尽くしているのでは無い。ましてやどこに住んでいるかなど、把握できないのが現状だ。だから事変でも派手に起こさない限り(だいたいが事変の中心に行けば犯人に会えるから)、こうして地道に探すしかないのだ。
 霊夢は符《アミュレット》の束を懐から取り出す。符は彼女の手から宙を切りながら飛んだ。符は屋敷の上空で円を描いて、天使の輪のように回転した。簡易式の結界である。屋敷の半径五十メートルは、見えない壁に囲まれた。折角追い詰めたのに逃げられたら面倒であるからだ。
 少し考えたのだが、正面から敵にぶつかる事にした。
 決闘において彼女に打ち勝つことの出来る妖怪を見つけるのは難しい。それほど強い。自信もある。
「ごめんくださーい」と呼びかけると、中から男が一人出てきて出迎えてくれた。空気によってもたらされる男のバイオリズム、息遣い、気配から彼女は妖怪と判断した。ところがおっとりした雰囲気はどこか人間くさいのだ。人間か妖怪か、白黒つけがたい。
 まぁいいや。
「やっと見つけた」
 男は狐につまされたような顔をしていた。
「悪いけどさっさと退治されてもらうわよ。眠いし」
 すばやく霊夢は符を男の額に、びたりと貼り付けた。まもなく彼の全身から力が抜け、彼はその場に仰向けにぶっ倒れた。
「やはり妖怪だったか」
 膝を着き彼女は男に質した。
「聞きたいことがある。あんたが誘拐した人間はどこ?」
「誤解……だ」と男はうめいた。
「もし食べたのならあんたを里へ連れて行く。あんたはそこで見せしめにされて首を切られる。食べてないならさっさと開放しなさい。ある程度痛めつけるくらいで許してあげる」
 
 霊夢にも同情はあった。妖怪が人間を喰う、それは自然の理である。人が牛や鶏を喰う様に、だ。人と妖怪が仲良くなろうとも、その関係は変わらぬ。ひょっとしたら明日は自分が妖怪の胃袋に入るかもしれない。そんな諦念を、幻想郷の人間は抱いている。

(自分は人間の側にいるから、人間の味方なだけ)

 おーいと魔理沙の声がした。箒にまたがった彼女が手を振っていた。
「入れてくれよ」
 霊夢が指を鳴らすと精緻な環を描いていた符が、列をなして小さな掌に集まってきた。全てが手の中に収まった。結界の解除である。
「お前に言われて里のほうに言ってみたんだけど、どうやら喰われたのは里者じゃないみたいだね。自治警も動いてなかったし。里は平和な朝だったよ」
「じゃああの百姓さんの勘違い?」
「そうだな。ごめんなさいって言ってた」
「それだけ言いにきたの?」むっと不機嫌そうに霊夢が言った。
 ずかずか土間に入ると魔理沙は転がっている男に近づいた。そして符を強引に引き剥がす。「優しいじゃない」
「私の武士道に反するからな」
 憐れな冤罪を掛けられた男は抗議した。
「私は人間だ!」
「何訳のわからないことを言ってる?どうみても妖怪よ」
 魔理沙が男の顔を覗き込んだ。
「なぁ本当にこいつ妖怪か?人間じゃないの。弱そうだし」
 霊夢は顎に指を当て、難しそうな顔をした。
「……そうなのよ。不用心だし、弾幕も使わなかったし。それにこいつ生き物の境界が不安定なのよ」
「人と妖怪のハーフってこと?」
「ううん。もっとこう、形の問題じゃないのよ。今まで会った事のない、幻想郷の外からきた生き物かも」
「よく判んないけど」
 魔理沙は言った。
「別にやっつけなくてもいいんだよな」
 雀が鳴いている。二人は顔を見合わせてため息を付く。一晩掛けた努力は徒労に終わり、罪も無い人間だか妖怪だかを消しかけたのだ。
「じゃさよなら。あと十分位したら動けるようになると思うから」
 朝日をたっぷり吸収した霊夢の巫女装束はいっそう彩りを増し、美しく朝の風にはためいていた。男にはその美しい光景は却って彼女たちの残酷さを引き立てているように感じた。自分の生命を簡単に奪う力を、あの少女たちは持っていた。そして彼女たちの気まぐれで、自分は裁かれ、気まぐれで自分は許されたのだ。
 男は、二人の裁判官が飛び去るのを、呆然と見送ることしか出来なかった。




「大変な目にあったね」
 約束どおり昼に返ってきた露実は、私の話を聞いて大層驚いた。紅白の空飛ぶ巫女と白黒の魔法使い。彼女たちは幻想郷(彼女たちの会話から私はこの土地の名を知った)の英雄的な存在であるという。恣意的な理由で災害を発動する妖怪、亡霊、宇宙人を懲らしめてきた。どんな強い妖怪も二人に勝つことは出来なかった。
 一方で純粋な妖精を見つけては、からかったり、いじめたりする……。露実は悪意を込めて私に語った。
「だからあまり関わっては駄目」
 露実は私を咎めた。
「気をつける」といささか憮然とした調子で私は答えてやった。そもそも露実によってこのきっかけはもたらされたのである。
 尤もその怒りは、露実の何気ない気配りや、あの遠くから響く教会の鐘の声に中和されてしまった。寧ろ二日間だけだったが、献身的な看病に感謝の念すら沸いていたのだ。
 
 それから安静のためベッドに横になっていた。その間私が置かれたこの特異な環境について、自分なりに整理することにした。
・今私がいるのは、日本のどこかにある幻想郷という場所である。しかし何らかの理由で私達の社会からは幻想郷を目視できない。その逆も然り。まさかと 思うが、タイムスリップしたのかもしれない。
・幻想郷には人間の他、妖怪などの、我々がとらえるところの幻の生き物が住んでいる
・彼らは人間をエネルギー源とする。だが普通の食べ物も食べる。
・両者の力関係は、拮抗しているようだ。その証拠に幻想郷にはテロも戦争も起きていない。あるいは妖怪の支配下にある、という可能性もある。

 一頻り思索を巡らせ頭にふと浮かんだのは、どうやってこの幻想郷にきたのだろうか、という疑問だった。例えば門とか入り口をくぐったのだろうか。
それに私は何故ここに来たのだろう。私は幻想郷の土を踏むまで、その存在は与り知らぬ世界であった。望んでいた訳ではないと思う、偶然の結果だ。
しかし待てよ、私は無意識のうちに、厭わしかった人間関係や巷に溢れる聞きたくも無い情報から逃げてきたのではないか。私にとって、否、現代人にとって幻想郷とは逃げ場としての機能を有しているのかもしれない。本当なら幻想郷はいい迷惑だし、私はさっさと元の世界に帰るべきだ。

 考えてから、睡眠をとった。考えるうちに頭がこんがらがってしまい、疲れたのだ。起き上がると痛みは大分治まっていた。薬が効いたのだろうか。腕はほぼ自由に動かせるようになっていた。
 私はひょっとしたら妖怪かもしれない。周りの人間、両親や友達はそれを隠し、悟られぬように私と接してきたのかもしれない。常識的に考えてこんなに傷が早く癒えるか?

 居間へ行くと露実が柔らかそうなソファに身を埋め、お茶を飲んでいた。古いコーヒーテーブルの上には、ティーカップ、羽ペン、インク瓶、ノート、そして本の山。
「おはよう」と露実が顔を上げた。
「うん、おはよう」
「傷、見せて」
 露実は私を隣に座らせて、体の包帯を解いた。
「寝ている間に、傷が殆ど塞がったみたい。よかったわ」
 そう言って薬を丁寧に塗ってくれた。目と鼻の先に端正な露実の顔立ちに影が落ち、唇に走る薄い紅色がどこか物悲しげだった。

「正直に言って欲しいの。貴方は……どこから来たの?」薬を塗り終えてから彼女は私を見て、こう問いかけた。
「確かに、私は貴方にすごく悪いことをしたわ。何回誤っても貴方に与えた侮辱は消え去らないと思う。けれども今こうして向かい合って、正直貴方が何の生き物なのか、はっきりわからない。私にはそれが少し怖いの」
「うーん。ただあんたは信じてくれないと思う」
「それでもいいから、教えてよ」
私は最小限の言葉をもって答えを紡ぐ。
「私は、大学生だ」
「ダイガク……?」
 私は大学のことを教えてあげた。海に望んだキャンパスはいつも磯の香に溢れ、実験棟、図書館、船のドックが立ち並ぶ。学生は知的好奇心、エゴイズムに似た使命感のままにそれらに通いつめ、勉強する。私は誇張を含め伝えた。我々の大学の実情は、彼女を無駄に失望させるだろうから。
「貴方は大学のあるところから来た妖怪なのね」
「えぇ、まぁ、そんな感じだよ」
「きっとこの村のような場所なんだ」
 本の山の中から一冊、あるページを開き、私に差し出した。相当傷んだ表紙なので、気をつけて読まなくてはならなかった。タイトルは『北月村記』とあった。

 ……日照りが続き、水田は枯れ、人々の疲労困憊は限界に達している。水源の野池はひびわれた土を晒すばかり。蛙は姿を消し、水鳥も歌うのを止めてしまった。井戸には風に乗った埃が溜まっている。とうとうこの村を捨てる時期が来たのだと、誰もが囁く。かつては賢者が集い知を競っていた。村は学びの喜びの中、美しく栄えていたこの村を。私は北月村最後の領主として、また破滅に対して手を拱いているしか出来なかった無能者として伝承されるであろう……

 私は本を閉じた。
「あんたは何の勉強を?」
「今は星の勉強。正座とか星の運動とか」
「勉強が好きなんだ」
「うん、好きよ」破顔させて彼女は言うのであった。笑うと露実は頬に赤みが走る。
「ここで一人でか?」
「そう、妖怪って集中力が無いし、マイペースだから、皆でいると大将棋をしたり昼寝しちゃうの。だから勉強するには一人でいる方が、いいのよ」
 私は何故ここに露実がこの廃村に留まるのか、やっと理解できた。仲間から距離を取り、書物のページを手繰り、思索を巡らす生活を選んだのだ。
 露実の黒く艶のある髪が、流れ込む風に靡き、川のように宙に舞った。彼女の皺のないブラウスの滑らかな表面がほっそりとした体を縁取っている。私がいた世界に、これほど弱々しくも美しい輝きを放った人がいただろうか。これほど生命の豊饒を内包する人はいただろうか。私は知らない。
私は確かに露実の姿に目を奪われていた。それは彼女がこの幻想郷に暮らすものだからだろう。幻想、それは私達の理想や失われた美しさのことだ。それは私が決して手を触れることのできない宝石なのだ。ひょっとしたら幻想郷はその保存を図るための、言わば博物館のような所なのかもしれない。
 私は露実のことが気になり始めていたのだ。
「貴方もお茶飲む?」
「あ、あぁ、頼みます」
 つい使い慣れない敬語が出た。慌てて私がティーカップを取りに台所へ向かうと露実がついて来た。
「私がやるのに」
「いやいいよ。それによく考えたら、ずっと露実さんに世話になっていたから、あまり甘えるのは良くないし。あ、そういえばさ、ここの井戸は水が枯れていないんだね。井戸から水が出るから」
「私が毎日汲みに行っているのだよ」
 二つ山を越えてね、と彼女は微笑んだ。
「じゃあ今もこの村には水が……」
「元来この知の土壌は砂のようにさらさらで貧弱だから、少し雨が降ったところですぐに地面が水を吸収してしまうのよ。整備する人がいないと尚更ね。それでも人々がこの村に留まろうとしたのか、私には不思議だけれども」
「ここは自然が近いから、妖精や妖怪が遊びに来てたんじゃないか」
「それで一緒に勉強していたのかしら?ちょっとうらやましいなぁ」
 露実は有田焼にそっくりのティーカップを戸棚から一つ手にした。バラの模様が描かれたものだ。そして居間でカップに紅茶を注いでくれた。
「一人で寂しくないの?」
「慣れちゃったわ」
 呟くように言った。
「一緒に勉強できる友達が欲しいけど」
「友達……」
 彼女は居間に差し込む陽光に身を預けるように、自然な形で立っていた。
「それなら、私が最初の友達になっていいかい?」その姿に私は語りかけた。
 露実の目が大きく見開かれた。そして笑った。
「うん、いいね。じゃ貴方の知っていることを教えて」
 そうだな、と言いかけて頭の中で大きなひらめきが瞬いた。
それは途方も無い試みであるに違いないが、露実にすることのできる、私の恩返しであると思う。刹那私の脳髄においてけたたましく数字と数式とが走り始めた。
「でも貴方の力じゃここじゃ生活できないわ。ここで一緒に暮らしなさいな」
 嬉しい提案であったがその時私はある考えでいっぱいであった。罰当たりにもぶっきらぼうで、「そうする」と答えその分析を続けた。
「ここには村人の残した沢山の本が残っていてね、本当に《翼》で持ち運べないくらい沢山。だから貴方にとっても都合がいいと思うよ」
「それなら、学校を開くなら、ここだね」
 くすくすと彼女は私の顔を見つめた。
 間違いなく私の言うことを冗談だと思っているのだろう。女性にジョークを飛ばして笑わせるのは楽しいが、今戯れを言っている場合ではない。
 私は大学で水産土木という、学問を専攻していたのだ。在学中はずっと文学や哲学にかぶれていて蔑ろにしていたのだが、基礎はできているつもりである。
「水をこの村に引こう。それで学校作ろう」
 



 博麗霊夢が平屋の縁側に座っていると、目の前のイチョウが、陽炎のように歪んだ。はじめは小さな変化であったが、やがて八紘に伸びたイチョウの枝が激しく渦巻いた。そして直径2メートルの円状の漆黒がばりと口を開けた。実際はその奥底も覗えぬほどの深遠には無数の眼球を認めることができる。その空間に穿った風穴から一人の少女が姿を現す。
 八雲紫のことを言葉にするのは非常に困難である。幻想郷の最古参の妖怪で、聡慧にて麗人。空間を自在に移動する神出鬼没の貴人。現れる瞬間花の匂いが辺りに弾ける。
「今日和。良い御天気ねぇ」
「今日は何の用?」
「お茶をいただきに」
 霊夢の隣に座ると微笑を口元に、お茶を飲み始めた。
 季節はすっかり夏になってしまった。しかし今年の夏は何時になく涼しくて、頭上の太陽もどこか大人しげである。柔らかな日差しを浴びて緑は
 霊夢は紫の横顔をしずしずと眺めた。端正な顔立ちには、厄介ごとを持ち込んだといった作為は感じられない。風流な様子で庭の池を見つめている。いつもと同じ、何を考えているのか判然としない不気味だけ、その大きな眸に浮かべていた。
「今年は過ごしやすくていいわね。幽霊をとっ捕まえる必要は無いから」
「そうねぇ」
 蜩(ひぐらし)が高く、蒼穹に向かって鳴いた。
「後でうちの式神がお寿司を作って持ってくるから、一緒に食べましょう」
 こうしてふらりと立ち寄っては、霊夢と時間を過ごす。珍味や酒を持ってきて、語り合ったりする。寿司は悪くないなと、霊夢は思った。
「聞いてよ。最近おかしなことがあったのよ」と紫。
「ちょっと待った。また事変?」
「事変じゃないわ。ちょっと北のほうで妖怪たちが騒がしいのよ」
「お祭りでもしているのかしら」
「皆で何かを作っているのよ。すごく大きなもの。妖怪の山から天狗やら河童やらがわざわざ、旧北月村に集まって、色んな資材を運んで……。何なのかは何となく判るけど」
「何なのさ」
「ふふ、内緒。気になったら自分で調べてご覧」
 ふーんと言って霊夢はお茶を飲んだ。
 やがて、「御免」と玄関のほうから声がした。三和土には紫の式神が包みを持って待っていた。
「主人に頼まれて持ってきた。包みは後で取りに来るから」
 漆塗りの立派な重箱で、中は箱寿司だった。機械が作ったかのように精緻である。何故か下の段にはイナリ寿司も並んでいるが、兎に角旨そうである。卓袱台に置くとそれだけで部屋に華やかさが増した。
 二人で寿司をつまみながら、霊夢が出した麦酒を飲んだ。
「今日は、魔理沙はいないのね」
「あぁ図書館か魔法の森でしょ。それともその北月村じゃない?」
「ふぅん」
「ねぇ、村では何を作っているのよ。教えなさいよ」
「橋」
「橋?なんでそんなもん?」
「水を通すため」
「わからないなぁ。水を通すのと橋を作るのと何の関係があるの」
「さぁ何でだろうね」
 ふふ、と小さく笑った。矢張り何を考えているのか、霊夢からすれば五里霧中だった。
「最近は事変も起きないから、暇でしょう。遊びに言って御覧なさいな」
「面倒くさいから嫌よ」
 全く、と嘆息を漏らした紫の姿が突如消えた。身を乗り出そうと卓袱台に手をつけた瞬間、後ろから羽交い絞めにされた。紫が瞬く間に空間を超え、後ろに回りこんだのだった。
「そう遊惰に任せていると、妖怪退治の勘も鈍るわ。それに人間はすぐ脂肪が溜まるから、毎日の運動が大切なのよ」耳元で囁くと、紫の右手が霊夢の腕をとり、確かめるように撫でた。左手は霊夢の腰に回されていた。
「離せ気持ち悪い」
「ヤダ」急に子供のようになった。
 夏らしい熱気が、漸く午後になってからじわりと神社に落ちてきた。イチョウの木漏れ日が日陰を僅かに照らしている。密着した背中に汗が流れた。
 紫の手を振りほどいて、庭へ跳躍した。
「あんまりからかうと、承知しないわよ」
「じゃあ久しぶりに稽古でもつけてあげようかしら」
 紫が闘志を剥き出しにした。そして鎮守の森の鳥たちが一斉に飛びだった。
 霊夢は考える。いずれその橋が幻想郷にとって厄介な存在へ変貌するときが来るのではないか。それこそ事変を起すような何か。霊夢に話したのも注意を促す目的がある可能性がある。そしてその時紫はその橋を排除するために動くであろう。彼女ほど幻想郷を愛している妖怪はいないのだから。
「大丈夫。橋は絶対壊さない。ただ作っている人がちょっと問題でねぇ」
 心を読まれたか。心の中で霊夢は舌打ちをした。




 あれからどれくらいの月日が流れたのだろうか。幻想郷にいるうち、私は徐々に時間への関心を失っていった。それは自分にはある程度の時間が残されているからだ。ある程度と言っても人間が持ちうるはずの無い、長い時間である。人間の持つ不安、とりわけ死への不安は当面取り払われたのだ。以前と変わり霧が晴れた心地、明朗な気分で私は生きている。
 体もまた、全身に力が漲り、私の五感は針のように鋭く機能するようになった。露実の力を借りずとも鳥を捕まえ、山菜や果物の匂いを察知することが出来る。
 
私は何としてもこの地に彼女の夢を結実させたかった。私がとった方法は、水路を使ってこの村まで水を引くことだった。露実が水を汲むという山の水源からここまでを一本の線で繋ぐのだ。
 盆地に位置する北月村に水を供給するにはそれだけでは無理があった。それはどんなルートを設定しても、一つの幽谷を越えなくてはならないのだ。水路だけでは谷に水が溜まるばかりである。
 私はその幽谷に橋を架けるのがベストの選択である、と考えた。我々の日本には灌漑のための水道橋が幾つか存在する。例えば通潤橋だ。アーチ橋なら幻想郷でも作れるかもしれない。
 私の仕事はまず半信半疑の露実に私がどれほど本気であるか、話さなくてはならなかった。
「水路と水道橋を使ってこの村に水を引くんだ」
「でもどうやって?二人でやるの?それに……どうして貴方はこの村を復興しようと思うの?」
「露実さん、正直にいうと私もあんたと似たようなものなんだ。私の周りに真剣に海洋力学を学ぼうとする人間は、殆ど皆無なんだ。学生にとって、大学は学びの場ではなくて、大きな収入を得るための、通過点みたいなものに過ぎないんだ。私はそれはそれで、一つの人生だとは思う。ただ私はどうしてもそんな生き方に納得できないんだ。青臭いとは自分でも思っている。けど私もあんたみたいな仲間に飢えていた……」
 自分の言っていることに間違いはあった。いずれは自立するため、大学は通過点とするのは当たり前のことだ。私も奨学金を貰い勉強を続け、いずれは働く。当たり前だ。ただ共に海の事、文学の事、語り合う仲間が欲しかっただけだ。
 
 翌日、二人で地図の作成のため、交代で、付近の山系を隈なく飛び回った。水源から谷、そして村に至る道程をスケッチした。また地形、地質を徹底的に調べ上げた。
その結果、多少難しい工事になるが、水路と橋を作れることが判った。水源となる山の川から村にかけ、穏やかな斜面になっていたから、ややこしいサイフォン技術を利用する心配も無い。水はスムーズに流れるだろう。水は引くことは可能である。川の推量も豊富だから、水が枯れる心配も無い。

問題は、人材であった。何しろ大規模な工事である。計画は早くも頓挫しかけたのであった。頭を抱えていると、露実が、河童に相談してみたらどうだろうか、と言った。幻想郷の河童の一族は皆、優れた技術者なのだそうだ。
「それに少しなら私も河童に顔が利くのよ」
 河童たちは二つ返事で承諾してくれた。彼らは露実の屋敷に揃っている、エレクトロニクスの蔵書や資料に興味があるようだ。それに学校という、よく分からないものにも関心が無いわけでもない様子である。
 ただ私や露実、それに河童たちが失念していたことがあった。それは彼らのヒエラルキーの上位階級に属する、烏天狗のことだった。

 メンバーに河童が加わり一週間が経ち、皆で露実の屋敷に集まって話し込んでいると、突如明るかった空が、蓋がかかったように、暗くなった。河童が脅えた表情を浮かべたとき、硝子が割れ、疾風がなだれ込み、目の前の河童の少女の体が部屋の隅に向かって転がった。尤も私も強く頭を打った。意識が深いところへ沈んで、光を失った。

 露実に抱き起こされると、目の前に独りの天狗が仁王立ちでこちらを睨んでいる。
「困りますねぇ。勝手に妖怪の山を出たりしちゃ」
「天狗様、な、なにとぞ……」
「貴方たちの行動を規制するつもりはこれっぽちもありません。ただあんな大勢で行動して、それに天狗に一言もかけずに動いたものだから、大天狗様はお怒りですよ!」
「そんな……」
「貴方たちは謀反の疑いをかけられているのです」
「滅相も無いです!」
 河童の少女たちはおろおろと泣き出してしまった。私は河童に責任を感じるのと、またあまりに一方的過ぎる天狗に憤りを覚え、立ち上がった。
「この河童さんたちに工事の手伝いを頼んだのは、私だ」
 訝しそうに私の目を見た。
「何の工事ですか?」
「水路と、橋」
 容疑者を尋問する態度が、一瞬ぐらついたのを私は認めた。好奇心を剥き出しにした子供の感じがした。
「それで、そんなものを造ってどうするのです」
「ここに大学を造ります」
 私達の計画を包み隠さず彼女、射名丸文に伝えた。その間彼女はぶつぶつ呟きながらメモ帳にペンを走らせた。
「幻想郷初の大学誕生す、かぁ。成程これは確かに我々には害はありませんね。大天狗様には私がうまく言っておきましょう」
 わっと部屋中に歓声が上がった。
「それでそのぉ……」と文が言いづらそうに話すのだった。
「代わりと言っては何ですが、私に独占取材させてもらえませんか。ドキュメンタリー式で新聞に載せたら面白いのではないかと……まぁ思いまして」

 実際、河童たちの技術は高度なものであった。クレーンやショベルカーが登場し、水路を掘った。またウォーターカッターで岩石を豆腐のように切って、寸分の狂い無く、ブロックを生産した。
 彼らの熱心さは、彼らもまた知識や学問に飢えていたことを意味していたのだった。幻想郷の科学は、人間の道具や技術によってもたらされる。我々の世界から流れ着いたものから、彼らは技術を盗み出す。だが、あくまで人間の技術である。
 要するに彼らは河童オリジナルの科学技術を欲しているのだ。幻想郷だけの科学力だ。
 現場の谷で私は指揮をとっていた。ちょうどアーチ橋を架けるための視察に河童と来ていた。私達は水路を掘る班、橋を造る班とに分かれていた。露実は水路に敷設する石畳を、《翼》の機動力をいかして運んでいるはずだった。
「カントク、橋の素材はどうするの?」と尤も信頼している河城にとりという河童が私に尋ねた。私はここでカントクと呼ばれるようになった。
「最初は木でもいいかなと思ったんだけどさ、ちょっと難しいな」
 向こうの山までざっと百メートルは離れているのだ。
「カントクって意外と適当なんだね……」
「本当はこういう橋って鉄で作るんだよ。流石にここには製鉄所は無いだろうしな」
「鉄ならいっぱいあるよ」
「それを早く言え。どこ!」
 鉄くずは妖怪の山にある、河童の倉庫に転がっていた。自動車のボディ、ボルト、鉄骨。どれもこれも錆付いていた。河童も何かの役には立つだろうと、捨てずに放って置いたのだと言う。
「この鉄を溶かして何とかなるかもしれない」
「火山の熱を使って溶かそうか、カントク」
 にとりや他の河童と検討した結果、木材との併用が望ましいということになった。鉄の絶対量が足りないのだ。骨組みは山のヒノキを使い、水路と木の接合には鉄を使う。
「ただ足場が弱いかも知れんな」
「倒れたらまた造ればいいじゃない」
 幻想郷流の考えか、何故かと納得してしまった。
 
 北月村の屋敷で図面を確認していた。そこは屋敷の最上階、書庫である。見上げる程高い本棚には間隙無く、古書が詰め込まれている。黴の匂いがし、決して太陽光の届かない、静寂の空間だ。
 露実の部屋は書庫の赤い扉の先にあった。そこは屋敷の中では比較的小さな部屋であるが、露実にとっては本を読むのに便利というわけだった。元は書庫の管理人の部屋だったらしい。その部屋の、突き出たバルコニーから露実は《翼》で飛び立つのだ。
 露実は部屋で休んでいる。連日の労働から酷く疲れているのだ。
 赤い扉を開ける。ベッドから身を起し露実は外を見ていた。月明かりに照らし出された彼女の体は心なしか、いつもより一層やせ細って見える。こちらに気が付くと薄く笑った。
「ごめん、起こしたかな」
「いいわ、さっき起こされたの」
「うるさかったかい?」
「ううん、それより貴方も早く寝たほうがいいわ」
「いや、いよいよ明日から橋の組み立てだからね。チェックは入念にしないと」
「しょうがないわね」彼女は眉を少しひそめた。
そしてふらふらしながら私に近づくと彼女は私に言った。彼女の体は徐々に弱っているのだ。それは一緒に暮らしていれば、明瞭のことであった。
「寝てないと……」
「聞こえる?」
「何が?」
「私達の子供の音よ」顔を赤らめ、私に通告したのだった。
「大変だ」私はと言うと、喜びのあまり、卒倒しかけた。

 露実が寝た後、村の外れで盛大な酒盛りが敢行された。河童も天狗のブンヤも豪快な酒飲みだったが、今日は私も限界を超えて飲めるだろう。そして酒樽が次々空になった。この調子では明日の工事に支障が出ないか、心の片隅で杞憂が生じたが、やがて喜悦の氾濫に押し流された。愉快でしょうがない。
 今日の酒宴には河童と天狗のブンヤ以外に、麓から妖怪や人間が参加していた。私達の復興事業に興味を持ち、よく工事を手伝ってくれるのだ。
 私は酔った勢いでにとりに、こんなことを尋ねた。「どうして河童は私達を手伝ってくれるんだい?」作業中のにとりは作業に集中して、どういうわけか質問しづらいのだ。
「カントク、それは河童と人間が盟友だからだよ」
「ほう」
「つまり、ダイガクが完成して人間の知恵と河童の知恵が一緒になれば、もっといい発明が出来るんだ」
「そうだといいねぇ」
「また出た、にとりの十八番」とブンヤの文がちゃかした。夜はまだ、長い。




 数年が経ったある日のことだった。
 八雲紫がある男に手紙を出した。

「重要な話がございます。差し支えなければ、ぜひ出席いただくよう。お待ちしております」

 最後に自分の署名をし、自分の式神に手紙を持たせた。
 彼女は今、博麗神社の邸宅に一人座り、式神の帰りを待っている。霊夢や魔理沙がいては話がややこしくなりそうだし、相手方が落ち着かないかもしれないから、今しがた無理やり追い払った。
 博麗神社を選んだのは単に彼女の気まぐれである。それに自分の住まいに式神以外の生き物を入れない主義だ。
 外は紫が迎えた、何百回目の春であった。満開の桜は歌うように枝を広げて、風が靡くたび花びらは空に向かって飛び去っていく。活きるものは全て朗らかなこの日に生きることを喜び、そして笑いあうのだ。
 障子の反対側から「失礼します」と狐の式神の声がした。
「お客様をお連れしました」
「ご苦労様。下がっていいわ」
 男は着物が板についた、青年だった。涼しげな笑顔付きの。
「初めまして、八雲様。今日は及び頂き、真に光栄です」
 恭しく頭を下げた。礼儀正しく謹厳な眼差しを持つ。
「まぁそう硬くならずに」
「それで、今日はどういった御用件でしょうか……?」おずおずと男はいった。

「貴方は自分が生物の、どのカテゴリーに属しているかご存知かしら?人間なのか、妖怪なのか、宇宙から来たエイリアンなのか」
「ええ、判ります。私は人間です」
「正解ね、でもその答案は五十点」
「しいて言うなら、何にでもなれる人間ですか」
「そこまで知っていたのね」
 正直少し驚いたが、それなら話もしやすい。紫は顔色一つ変えず、続ける。
「そういえば、学校の授業は平気なの?無理やり連れ出してしまった形になったけれども。貴方先生なのでしょう?」
 男は頬を赤く染め、俯いた。
「先生なんて大げさなものじゃないですよ。教えてもらったり、教えたり。寧ろ教えてもらうことが多いです。私が教えられるのは海のことだけです。ここじゃ海そのものが伝説ですけどね。皆興味を持って聞いてくれますよ。妖怪や妖精、里の人間、それに北月村の賢者も戻ってきて大学で教鞭をとってくれますし。ところで八雲様、何故あんな辺鄙な場所に北月村は開かれたと思いますか?」
「さぁ……」
「答えは簡単ですよ。北月村の祖先は人と妖怪の混血児だったのです。人の里にも馴染めず、妖怪の山では生きて生きない、そんな人たちが集まって出来たのです。彼らは残した書物は、膨大であり、また難解です。内容は彼らが残したのは文学、哲学、法律、歴史、そしてエレキテルと星座学、植物学です」
「自分たちが人なのか妖怪なのか、彼らは逡巡しながら、自分たちが良く生きるための方法を文字にしてきました。その迷いは逆に彼らを強く、しなやかにしてきたのです。彼らの根底にあったのは、幻想郷という世界であったと思います」
「八雲様、私達のいた世界は非常に恐ろしいところですよ。空ろな人間が歩き回る世界。空ろな人間は、何にでもなれます。その代わり絶えず何かになろうとして、彼らは必死で世界に横溢する情報や理想を食い漁ります。そして彼らはというか、私は幻想も食べるのです。それも知らないうちに」
「貴方も誰かの幻想を喰っていたんじゃなくて?」
「私は露実の幻想を食べていたのですよ……。彼女を彼女たらしめる幻想をね。だから一緒に暮らすうちになってから、露実は目に見えて弱っていきました。それに気が付いてから急いで露実から離れました。判ったのはつい最近ですけれども。」
「奥さんは大丈夫なのね」
「永遠亭に入院させてから、少しずつ、回復しました。ただ子供が寂しがって」
 男は全身に、人間とは懸隔のある力強さを湛えている。同時に人間特有の隠微な脆さのようなものも持っている。

(流れる水のように、彼はこれからも様々な生き物になるのだろうか)

「これからどうしますか」と紫は核心に迫った。

「露実は、私の最初で最後の犠牲者です。ここにいるときっと友をも傷つけてしまう」
 男は決心した様子である。
「元の世界に帰ります」
 
 自分の能力を自覚した瞬間、男は深い絶望に襲われたのだった。外の世界はあらゆる娯楽、飽和する食い物、そして平和が詰まっている箱だ。その箱の中で空ろな人々は絶えず救いを求めている。自分は何者なのかと。そして彼らの一人が幻想の領域まで手を伸ばしてきた。それだけだ。今回の事変は。
「八雲様のお話は何なのでしょうか」
「私も同じことを言いたかったのよ」
 男は立ち上がると、着物の皺を伸ばすように裾を払った。
「もうお別れですね」
「そうね。今日発つのかしら」
「はい。八雲様。僭越なのですがお願いがあるのです。私達の村を見守っていてもらえないでしょうか。学校も不完全ですし。ほんの少しでいいのです」男は深々と頭を下げたのだ。
 もちろん、と紫は言った。「貴方には感謝しているのよ。停滞している幻想郷の文化も、これを期に発達するかもしれないし。気が向いたら先生もやってみようかしら」
 楽しげに紫が言うと、男はにっこりし、部屋を後にした。

 男は博麗神社の鳥居を潜り抜け、空を仰いだ。淀みない青が地平線まで広がりを見せている。小鳥が空を横切った。桜の馥郁たる香りが満ちた楽園には、一時の平和と豊かな森と、ほどほどの喧騒、それに生物間の闘争を生きる妖怪や人間の気配を認めた。今日も幻想郷はいつもの通りであった。
 
 結局、八雲紫は自分のことを利用していたのだろう。男は思った。結界の綻びを通じ、やってきた男のことを、彼女は知っていたのだ。幻想を喰うという厄介な能力を有する怪物を、彼女が見逃すであろうか。幻想郷に流れる全てのものを管理するとされる彼女が。水路と橋と、文化の発展の可能性を幻想郷にもたらすため、あえて彼女は黙っていたのだ。ひょっとしたらここへやって来たのも、何らかの企みがあったかもしれないが、最早それは藪の中であった。
先程の会見も、返答次第ではあの場で殺されていたかもしれない、と考えた。自分はもう用済みなのだ。
 
清々しい風に乗って露実が《翼》で悠然と宙を切っていた。男は幸せそうにそれを見つめていた。
「露実、こっちだ!」
 旋回しながら地面に彼女は降りたった。露実の顔色は熟れた林檎の様に、真っ赤だった。
「体は大丈夫かい?」
「殆ど治ったのよ」
 何と露実は、抱っこ紐で腹の辺りに赤ん坊を抱いていた。母親のフライトに満足したのか、きゃあきゃあと手を父親に振っている。空飛ぶ快感を伝えようとしているのかもしれない、と男は思った。
「八意先生も、もう体を動かしてもいいって仰って下さったし」
 男は子供の涎を着物の袖で拭ってやっていた。
「あと貴方を見送りに」
「うん、ありがとう」
 二人の間に、少しだけ沈黙が流れた。




「ここにいて欲しい」露実が沈黙を破った。
「駄目だ。外の世界の人間は幻想郷に居てはならないんだ。君の大切なものを沢山奪ってしまうから」
 神社は幻想郷を見下ろす、小山の上にある。人里は陽気な桜色に染まり、どんな生き物でも歓迎している空間だった。
「それに私がここにきたのには、ちゃんと理由があったんだ」
「わかるよ。外の世界から抜け出したかったのでしょう。本当は帰りたくないのでしょう。だったらここにいればいい」
 私は首を横に振った。私が幻想郷に来た本当の理由は、食欲を満たすように、幻想を喰うことだったのだ。
 彼女は寂しそうに笑うと、背中の《翼》をはずし、私に押し付けた。私は工事で使い方を心得ている。
「貴方の子供は、立派に育てて見せます。幻想郷でたくましく生きる妖怪に」
 黒い彼女の眸から、涙が溢れた。その涙はいつか飲んだ水と同じ、透き通った淡い青色であった。
 宝石のような露実の目が大きく見開かれた。刹那、視界を黒い何かが遮り、露実と子供の姿は、あっという間に消えてしまっていた。遠くから祭囃子の太鼓の音が小さく響いた。

 足元には烏の羽が何枚も、石畳の上に散らばっている。
 烏天狗の子供はこれから、北月村で生き続けるのだろうか。それとも妖怪のヒエラルキーの中で、生きるのだろうか。ブンヤの射名丸文のように新聞を書くのだろうか。それは露実次第である。
 《翼》の鉤爪に包みが括り付けてあった。開くと握り飯が二つ、水の入った竹の水筒が一つ、そしてこの爪で貫かれたブラウスが丁寧に畳まれ、入っていた。
 
 私はそのまっ白なブラウスを抱きしめた。そして、ただ涙を流すしかなかった。
 この小説は8月の終わりごろから書き始めたものです。つい最近、このコンペティションを見つけ、偶然にして私の小説も「水」を取り扱った内容であったので、少し怖くもありましたが、投稿する決心をいたしました。
 若輩者ですからご不満な点があると思います。そこは厳しさをもって見守ってくださるのが、私と致しましても望ましい次第なのです。まだまだ私は修行が足りませんので。ですから忌憚のない意見をお待ちしております。
 
 最後にコンペの主催者さま、東方ssの先輩諸兄及び諸姉、乱文を少しでも読んで下さった方、そして博麗神主に最高の感謝を。本当にありがとうございます。
佐藤 厚志
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2008/09/20 18:02:29
更新日時:
2008/09/23 09:02:29
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1. 6 慶賀 ■2008/10/05 13:07:25
テーマは人と妖怪といった感じでしょうか。いいなー。
凄い二次創作してるなー、と凄く羨ましく思います。
下手に読者に歩み寄る文章よりも、ノッテる感じが好きなんです。
2. -1 小山田 ■2008/10/06 22:34:44
なんといいましょうか……作者様の脳裏だけでつらつらと続いていく物語を、何なのだろうと思いつつ傍目で見ているこの感覚を。
入り込める面白さや目を惹く要素を見つけられませんでした。申し訳ない。
3. フリーレス 佐藤 父 ■2008/10/07 02:05:53
あなたには杜撰という言葉が良く似合ふ。
無駄な修飾語、改行しない、誤字、訳のわからん倒置法、果ては一文抜けてるし。
修行が足りんわい。
4. 5 神鋼 ■2008/10/07 23:45:53
大変珍しいタイプの作品で唸るように楽しませていただきました。
ただ少々ですが男の理解と納得が性急だったようにも思えます。
5. フリーレス 暇を作るのが下手な人 ■2008/10/08 22:12:32
紫は幻想郷に外の世界のような
進歩をさせることを望まないと思います
(スキマから外をのぞける訳ですし
@私だけの感想だと思いますが
恋仲になっていく過程をかいたほうがいいと思いました
(子供ができた場面で違和感を 感じたので 

文章てきには面白かったです
6. 7 歩人 ■2008/10/10 23:02:06
いいね。中々に興味深く拝見させていただきました。
7. 7 yuz ■2008/10/15 22:11:00
オリ要素がしっくり来る
8. 7 twin ■2008/10/23 21:19:29
 根底にあったテーマを私なりに捉えると、現代に生きる人間の生きざまを皮肉った作品だと思います。また他にも、幻想郷の明文化されていない規律の厳しさ、妖怪と人間の関係の殺伐さなども感じました。

 ただ全体を見通してみて、そのテーマの全ては暗喩的になっていて、読み手を少々混乱させる要素が少なからずあったかと思います。私も、私自身が感じた事が果たして作者様の意識と同じである自信はありません。ただ作品の捉え方は十人十色なのだから、それが小説の読み方に相応しいのだと考えていますので、そこに苦は感じ得ませんでした。

 文体は終始淡々としていて、しかしその場面の中での感情がよく表れているなと思います。またそれぞれの登場人物の物事の考え方なども分かり易く、人物像の想像はし易かったです。オリジナルの人物をここまで引き立てられるのは中々出来ない事だと思うので、素直に敬服しました。

 ただ、「」≠フあとに地の文を持ってくるのは、横書きが基本であるネット上の小説では些か読みにくいと思いました。感じた早さの俊敏さを表現するにはいいと思うのですが、それを差し引いてもやはり読みにくいと思ってしまいます。
 それと八月の終わりに書いたという話なのですが、少し誤字脱字が目立ってしまったかと思います。特に、
>>柔らかな日差しを浴びて緑は
という文があまりにも不自然な個所で途切れていたのには、推敲不足を感じてしまいます。作品として重要な意味を持った文ではないようでしたので、摘発すべき所ではないと思いますが、完成度の高さという意味では致命的なのではないでしょうか。


 そして断定するにはそのための要素が少な過ぎたと思えるのが、露実の子供でした。結末の描写を見ると、どうやら烏天狗との間に出来た子のように思えるのですが、主人公を父親と称す描写も見えたので、どうしても違和感を持ってしまいます。ただ、私の読解力不足が招いた混乱かも知れないと明言します。個人的にはその辺りを明確にした描写が欲しかったと思いました。

 物事を深く考察する力が作者様に備わっていると思わせる知的な文章はただただ驚嘆します。物語の合理性なども見事だと思いました。結末は悲しいものでしたが、読後感はとてもよく、ああ読んだなと寂しいような不思議な満足感を感じます。よい作品に出合わせて頂きありがとうございました。
9. 4 deso ■2008/10/23 23:41:55
掴みが弱く、読んでてうまく乗りきれませんでした。
オリキャラに魅力がいまいち感じられなかったことと、霊夢や魔理沙などの東方キャラが薄く感じられたこと。そのためか、淡々として山もなく物語が終わってしまったように思います。
10. 3 尾張典待 ■2008/10/25 14:13:19
文章力は豊かで大変読みやすい類のものだったと思います。
が、オリジナル要素を含んだものがあまりにもメインとして主張しすぎて
些か東方の作品としては余分な色がつきすぎ、読みたいという気持ちを削がれてしまいました。
次回投稿することがあれば是非オリジナルと言う便利な要素に頼らない作品をお伺いしたいものです。
11. 5 詩所 ■2008/10/26 20:11:33
このSSは……面白いとか、感情に呼びかけるものと違い、評価に苦しみますね。
東方はで脇役、水は脇役より下に感じました。
書き方字体は卓越したものを感じますので、惜しい気もします。
12. 4 ミスターブシドー ■2008/10/27 00:01:32
なんというか導入にテンプレ的な強引さを感じる。
橋の落成のシーンはあっても良かったかも。
大学はともかくとして、あれだけ引っ張ったのにいきなり数年後になっているのはちょっと突飛に思えた。
終盤まで行けばあれこれ判るが、伏線がオリジナル要素を含んでいるので、付いて回る疑問が気持ち悪いままなのがどうにも。
まあ、混血は前例があるから「ああ、そういう事ね」とある程度は納得できるのだが、果たしてこの能力は物語にどの程度必要だったのだろうか。お題に即するという点で見れば、確かに変容性を含む能力は水に近いかも知れないが
13. 6 PNS ■2008/10/28 13:57:38
いい話です。でも、いい話で終わっちゃってるような。
ちょっと話の展開が都合が良すぎるように思えてしまいました。
14. 7 つくし ■2008/10/29 17:05:46
 主人公ヒロインともにオリキャラにもかかわらずこれは上手く幻想郷できてますね。もう少し露実ちゃんのキャラが立って欲しかったような、でもこの分量がこの小説にはちょうどいい気がするので文章量増えてほしくないような、そんなジレンマ。
15. 5 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 06:59:10
さて、最初に問うべきはオリジナルキャラクターについてでしょう。
失礼を承知で未熟な私の考えを書かせて頂きます。
先ず、主人公の特異性。彼の思想は一般的な人々とはかけ離れたものというのは作者であるあなたもご存知と思います。こうした特異なものに、読者は……私は感情移入をしにくく思うでしょう。人の心を変えるような異変もない初期設定の段階でこうした考えの違いはキャラと読者の間に深い溝を作るものと考えます。
できるなら、地の文での一人称は露実の方がよかったかな……と。妖怪ゆえの考え方の違いなど、また面倒な描写は増えるかもしれませんけど、こちらの方が自然かな。
次に気になったのは事象の描写が急であること、気づけば妖怪になっていたり、子供が生まれていたりと事後報告のような描写は更に作品への感情移入を難しくしました。
あとは、文の繋ぎに違和感を感じるところが処々に見られましたね。
> 部屋で本を読んでいると、突然、落ち着かないような不安な気持ちに襲われたのは、午後九時をまわったときであった。
音読してみると何となく違和感を覚えるかと。襲われたで一区切り。
最後に、全体的に見て説明文にボリュームを持たせすぎてしまったような。
と、思えば逆に、上記のように事象の顛末の説明が薄すぎたりと、落差が激しいように思います。
軽すぎず、重すぎず、自然な流れというのは難しいものです……あはは。
さて、若輩者が長々とすみません。
話自体は点数のとおり。もう少しボリュームがあればもっとよかったかなと思いました。
以上を感想として、失礼させて頂きます。
16. 1 今回は感想のみ ■2008/10/31 13:39:36
自分の世界で突っ走ってしまって、自分の世界だけのコトワリで完結してしまった。
その物語に、ただお疲れ様と言うしかない。
17. 4 藤ゅ村 ■2008/10/31 17:24:17
 わかるようなわからんような。
 普段からオリジナル書いてる人の匂いがする。キャラの語り口とか、いろいろと。
 河童の技術って、そんなに現代に即したような技術なのかなあと思ったりも。もうちょっと幻想郷風味を足してほしかった気が。
18. 5 じらふ ■2008/10/31 21:28:43
読み終わって悩んでしまったのは、「私」は露実を本当に愛していたのだろうか、という事でした。
「私」が露実に惹かれたのは、幻想を食う習性だったからとも読めましたので…。
もしその「私」の妖怪としての習性故に二人が共に在ったのだとすれば、この出会いも別れもとても悲しいものだなあ、と。

でも、初めは妖怪としての食欲故に惹かれていたのだとしても、そこに愛が育まれたのだとすれば。例え別れが決定付けられていただろうこの出会いも、素敵な意味のあった事と思います。
…自分はこちらであって欲しいですね。

作品全体については、二人の出会いと別れが主題だと思うのですが、描写不足が目立った気が。
自分の読み込みが足りないせいかもしれませんが、「私」が「人間の持つ不安、とりわけ死への不安は当面取り払われた」のが何故か良く分かりませんでしたし、「私」と露実が深い仲になった過程が描かれていないので、子供が出来たというのも唐突に感じられました。

また水関連の整備や大学の設立についてや、「私」と露実の生活がもっと盛り込まれていれば主題の掘り下げになったのでは、とも。
正直良いキャラクターを生かしきれていないのが非常に惜しいなあと思いました。
19. 3 つくね ■2008/11/01 01:00:22
最後まで読ませて頂きました。オリジナル要素は強いですが幻想郷という世界の中でしっかりとこの物語が生きていることを感じました。
やや推敲の足らなさ、設定の違和感があります。また言い回しが複雑で、先の通りオリジナル要素が強いので読解するには難があります。
20. 6 リコーダー ■2008/11/01 09:26:31
分かり辛いところもあったけど文章は好みかな。
しかし、やはり肝心な部分への説明不足は気になります。
根っこの部分がえらく観念的なんですよね。
能力は発露しても目に見えず、先天的にしろ後天的にしろ何故そんな物が備わっているかの説明もなく。
主人公の研学意欲の出所もよく分からないし、外の生活に鬱屈してるというのは分からないでもないですが直接的に描写がなかったので。
全体的に、ただの直感しか根拠がないのに、妙に確信を持って行動しますよね。
この辺りの出所について、もう少し具体的なエピソード等を添えるとか、比喩的に心象風景を入れるとかビジュアル化された形で読みたかったかなあと。
あと、露実さん地味にみすちーとキャラ被ってません?
21. 4 八重結界 ■2008/11/01 18:28:35
ストーリーの為にキャラクターが無理やり動かされているようでした。
いまいち行動原理が理解できない。
22. 5 blankii ■2008/11/01 21:21:00
最後の方の展開で、(例えば主人公と露実の別れのシーンとか)主人公の理性が(感情に対して)勝ちすぎているような印象も受けました。その辺りに少し違和感があったのかなと思いますが、全体に描写もキレイで自然描写が特に印象的でした。
23. 5 木村圭 ■2008/11/01 21:43:36
「つゆみ」なのか「ろみ」なのかそれ以外なのか。姓も同じく。
辞書を引けばどうにでもなるひぐらしよりも人名に送り仮名をお願いいたします。
それはさておき、面白いのに少し物足りませんでした。
穏やかに進んでそのまま終わってしまって、あれ、もう終わりなんだ、と。
当方刺激物を好む俗物ゆえ、一山欲しいなぁと思ってしまう次第。
24. 4 時計屋 ■2008/11/01 23:03:53
色々と惜しいという印象です。
推敲が足りていないせいか文章は粗が目立ちますし、物語の主題もなかなか見えてきませんでした。
力作だとは思うのですが、残念です。
25. フリーレス 佐藤 厚志 ■2008/11/03 17:43:23
読んでくれた皆さん本当にありがとうございます。佐藤です。
次回も絶対参加します。そのときはお付き合いください。シュウカツでアヒアヒ言っているかも知れませんが。

返信です


慶賀さんへ
ありがとうございます。
私は幻想郷そのものを書くの楽しくてしょうがなかったですね。


小山田さんへ
とんでもないです。次は自己満足にならないようにします。


父へ
すみません。


神鋼さんへ
珍しかったのですか?あまり自覚はないのですが。
もうちょっと最後、主人公を逡巡させたほうが良かったかもしれません。


暇を作るのが下手な人さんへ
僕は苦手なんです、レンアイ。
そんな訳でいつの間にか子供が出来てたとお茶を濁しました。
恋愛描写のスキル、鍛えたいです。源氏物語読むかな。


歩人さんへ
高得点ありがとうございます。
次も頑張ります。


yuzさんへ
そう言って下さると涙が出そうです。


twinさんへ
まずこのss書くに当たってやろうとしたのは、私にとって幻想郷(空想とか神々の世界)とはなんやろか、ということなんです。
もしそこに我々が足を踏み入れて、何事も無く生活できるのかなと、どうでもええ疑問をssにしたのです。
幻想郷を美化しているのかもしれませんが、普通の人間が幻想の域に入っちゃいけないのかな、と考えながら書きました。
作品の完成度に関しては杜撰の一言で、言い訳をすると新参でしたので、焦っていたのかもしれません。
申し訳ないです。
露実の子なんですが、あえて「こうなんやで!」と返答しないことにします。ごめんなさい。
丁寧な感想ありがとうございます。


desoさんへ
霊夢魔理沙の扱いなんですが、突っ込まない方針で書いたのです。
東方キャラをクローズアップすると言いたいことが書けないような気がして。
確かにヤマは無かったのは反省すべき点です。参考になります。


尾張典待さんへ
オリジナルは余計でしたか。
すみません。次は地霊殿オンリーでやってみます。


詩所さんへ
評価に苦しまれたとのことですが、確かにエンタメ要素は皆無でした。
やはり人を楽しませるって難しいですね。


ミスターブシドーさんへ
急すぎるというのは他の方からも言われたのです。
落成式にしても学校の様子にしても、何故か想像が湧かなかったので、じゃ必要ねぇかという塩梅式でした。軽率でした。
主人公の能力(?)に関してですが、ちょっと説明が足りなかったかも知れません。



PNSさんへ
それは自分で書いていて思ったことです。
主人公が本読んで攫われたのも、橋造ることになったのもちょっと都合が過ぎますね。


つくしさんへ
彼女のキャラはある意味一番の難関だったです。
活字の表現に限界を感じ、結局地味な感じになったのですが。


眼帯つけた兎さんさんへ
韜晦している主人公です。私は読者のことを考えてなかったですね今考えると。
今回は読者の共感より書きたいという衝動が勝ってしまったのです。
次は気をつけます。


今回は感想のみさんへ
お疲れと声を掛けてくださるだけで、どんなに心強いか。


藤ゅ村さんへ
実は処女作なのです。
河童技術はご都合主義丸出しでした。光学迷彩があるなら、ショベルカーくらいあるかなと思い。



じらふさんへ
描写不足は確かに読み返して感じました。
確かに村や登場人物についてはもっと書くことがあったかもしれません。
そのうち改稿するかもなので、お暇なら是非お付き合いください。
(ただパスワードを忘れた・・・・・・)


つくねさんへ
各種設定について。説明を極力避けた結果がこれだよと、なってしまいました。
逆に判りづらいですね。ごめんなさい。あとどの辺が違和感なのかこっそり教えてください。
推敲については弁解の余地もありません。


リコーダーさんへ
私が一番反省していることは、独りよがりなものを書いたなってことですね。
具体的なエピソードの挿入は次回の課題です。


八重結界さんへ
もともと私が後先考えず走る人間ですから、ひょっとしたら似たのかもしれません。


blankiiさんへ
次はストーリーで褒めてもらえるように頑張ります!


木村圭さんへ
お名前は「あおれん つゆみ」です。
「アオ○ンアップルジュース」からとりました。
当初の構想には、興味半分で橋をぶっ壊そうとする霊夢魔理沙連合軍VSチーム北月村、の戦いがあったのですが
長くなりそうでやめたのです。


時計屋さんへ
主題が見えない、というのは本当に辛いです。とほほ。
もし次の機会がありましたら、時計屋さんを唸らせる作品を送り出したいです。
26. フリーレス 名無し ■2008/11/03 19:19:53
オリ要素が強くて楽しめませんでした。
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