四方八方一方通行。

作品集: 最新 投稿日時: 2008/10/01 15:16:43 更新日時: 2008/10/04 06:16:43 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00



  
 昨日の夜から嫌な予感はしていたのだ。
 試しに視てみた運命は確実に何か不味い事態が起こると警鐘を鳴らしていたし、屋敷のメイド達も普段以上に落ち着きがなかった。彼女達は妖精で、つまり自然から生まれた存在だ。だからその『自然』というものの様子には何よりも敏感で、まるで地震が起こる前に逃げ出す鼠みたいに、今朝の内にはその全てが屋敷から姿を消していた。
 それでも行動を起こさなかったのは、そこまで酷い事態は起こらないだろう、という楽観的な予想があったからだ。現在の幻想郷において、身の危険を感じるほどの状況に陥る可能性は皆無に近い。思い返してみれば、私が霧で幻想郷を満たした時も、西行寺の庭師が春を集めた時も、幻想郷が花で満たされた時も、自然災害のレベルにおいては相当なもので――しかしそれでも、そこまでの窮地には陥らなかった。
 或いは、もし馬鹿な人間や妖怪が私を討伐に現れたとしても、そんなものは簡単に迎撃出来るという確信があった。この屋敷には最高の門番と最強の魔女とその使い魔、そして完全なメイドが居るのだ。その上私は吸血鬼。霊夢辺りがガチで潰しに来ない限りは絶対に大丈夫だという自信があった。 
 そう。私は妄信的なまでに、自分の、この紅魔館の実力を信じていた。
「……」
 でも、甘かった。
 座り込んだベッドの上で、私は絶体絶命のピンチに陥っている。最早この場所から一歩も動けず、逃げ場を失った私は抵抗する事すら出来ない。突如襲い掛かってきたそれに囲まれながら、この時ばかりは自分が吸血鬼である事を呪った。
 死ぬ事はないと解っているのに、しかし何も出来ないこのもどかしさ。試しに弾幕を放ってみるも、部屋の家具が壊れるだけでどうにも出来なかった。
 ベッドで寝ていた私がこうなのだ。地下で眠っていたフランドールは更なる恐怖に曝されているに違いない。咲夜の助けが間に合ってくれている事を祈りながら、私は改めて部屋の惨状へと視線を向けた。
 破壊された部屋。孤立したベッド。その上にいる私。そして――周囲に溢れる、黒く濁った大量の水。
 水。
 流水。
「――最悪だわ」
 小さく呟き、襲い来る絶望と恐怖に目を閉じる。
 けれど、響き続ける雨音が、容赦なく私の心を抉っていく……



 事の発端はなんだったのか、と問われれば、それは昨日から振り出した大雨だろう。
 強い風を伴いながら雨脚を強め始めたそれは、夏の暑さを洗い流すかのように降っていた秋雨とは全く異質なもので、しかしこの紅魔館の中に居る分にはその影響を受けずに過ごす事が出来ていた。
 とはいえ、私は雨の間は外出出来ない身の上だ。暇潰しの為にやって来た図書館で、いつものように魔道書を読んでいた友人にその話題を持ち出したのは、雨の日の恒例行事のようなものだった。
「ねぇパチェ。昨日から降ってるこの雨は、いつまで続くかしらね」
 問い掛けに、魔女は本から視線を少しだけ上げて、すん、と小さく鼻を鳴らし、
「そうねぇ、大気の状態が妙に不安定だから、具体的な予想は出来ないわ。それとねレミィ、これはただの雨じゃ無いわ。台風よ」
「……あれ、台風ってちょっと前にも来なかったっけ?」
 それはまだ数日前の事だ。強い風と共に降り続いた豪雨の影響で、幻想郷の至る所で被害が出た。特に人里では強風によって家屋が倒れたりしたらしく、相当酷い被害になったらしい。
「確かに数日前にも来たわね。でも、台風というのは続けて上陸する事もあるの」
「一度でお終い、という訳にはいかないのね」
 自室から図書館に来るまでの間に、暴雨を伴った風の音を何度も聞いた。ただの雨にしては何か様子がおかしいと思っていたけれど、そうか、台風だったのか。
 そう納得する私へと、パチェは再び魔道書へと視線を戻し、
「まぁ、この屋敷は窓が少ないし、造りも堅牢で風雨には強いから、今回も耐えてくれるでしょう。でも――今年のように連続で上陸してくるのは珍しいとしても――この先も台風はやって来るし、それが紅魔館に被害を与える可能性は零じゃない。そろそろ、何か対策を考えないといけないかもね」
「そうねぇ」
 いくら造りが堅牢とはいえ、予期せぬ状況で壊れる可能性だってある。それに、少ないとはいえ硝子窓があるのだし、暴風対策に板張りをするぐらいの事はした方が良いのかもしれない。
 とはいえ、今から咲夜達に仕事を任せようとは思わなかった。こんな強風の中で外に出たら、思わぬ怪我をしかねないからだ。今回は紅魔館に耐えてもらうしかないだろう。
 と、そんな事を考えていたら、不意にパチェから声が来た。
「あら?」
「ん?」
「ピークを超えたのかしら。雨は止んだみたいね」
「そんな事まで解るの?」
「ええ」
 精霊の声に耳を傾ければ簡単なものよ、とパチェは笑い、そして再び本の虫になってしまった。そんな彼女に「ちょっと外の様子を見てくる」と告げると、私は図書館を出た。
 紅い廊下を進み、図書館から最も近い窓に近付いてみると、確かに雨も風も嘘のように止んでいた。秋の虫も鳴き始め、雲が勢い良く流れる空には小さく星の瞬きまで見えて。
「なんだ。これなら対策を考えるのは後でも大丈夫ね」
 そう楽観的に決めて、私は再び図書館へと戻った。

 選択のミスがあったなら、この瞬間だ。
 もしこの瞬間に何か対策を講じていたら、あんな状況にはならなかっただろう。

 それからすぐにパチェとの話を切り上げた私は、部屋に戻り、眠りに就いた。再び雨に降られたら、と考えたら外には出られないし、図書館で潰せる暇にも限界がある。このまま退屈に時間を過ごすよりは、いっそ早く眠ってしまって、明日は朝から霊夢の所にでも行こうと考えたのだった。
 そうして、私の意識は眠りに落ち……暫くして、不安を煽る、巨人の唸りのような音によって私は目を覚ます事になる。
「何……?」
 再び強く風が吹き始めたのだろうか。そんな事を思いながら布団から顔を出すと、轟々と響く風の音がよりはっきりと聞こえて来た。どうやら眠る前よりも風が強くなっているようで、嫌な不安が高まっていく。その上、周囲から奇妙な水音まで聞こえて、どうにも気持ちが落ち着かない。
「……」
 ……駄目だ。咲夜に甘い飲み物でも作って貰って、気持ちを落ち着かせる事にしよう。そう思い、私はいつもと同じようにベッドから降りようとして――本能が、その動きを止めた。
 寝惚けていた意識は一瞬で覚醒し、無意識の内に召喚したグングニルを右手に強く握り締める。まるで、人間に襲われる事が日常だった時代に戻ったかのように、忙しなく周囲を確認し――すぐに、自分が拒んだ物の正体に気が付いた。
「……水?」
 水。水、水、水!
 扉の隙間から入り込んで来たのだろうそれは、ベッドの周囲に充満し、照明を落とした室内でゆらゆらと揺らめいていた。
『吸血鬼は流れる水を渡れない』
 弱点の一つであるそれが警鐘を鳴らしたのだと気付いた時、私はグングニルを送還し、ベッドに座り込んでいた。そしてこの状況を日本語で『床上浸水』という事を思い出しながら、強い焦燥と共に声を放つ。
「――咲夜!」
「お呼びですか、お嬢様」
 呼べば答える私のメイドは、珍しく少し疲れがあるように見えた。その上、普段は綺麗にセットされている髪も、汚れのないメイド服もずぶ濡れで、完全に濡れ鼠だ。
「これは一体どういう事なの」
 そんな咲夜の様子を含めての問い掛けに、彼女は隠せぬ困惑を浮かべながら、
「それが、まだ完全に状況を把握してはいないのですが……どうやら、湖が氾濫してしまったようなのです」
 この紅魔館は豊富な水量を湛える湖の畔に建っている。雨が降れば当然のようにその水かさは増し、氾濫を起こせば大量の水が周囲へと溢れ出る事になる。そんな、知識としては知っていた状況が、この台風によって実際に引き起こされてしまったらしい。……それは、この状況を甘く見ていた私のミスだった。
 急激に高まっていく不安に胸が締め付けられるのを感じながら、私は咲夜を睨みつつ、
「屋敷に水が入り込んで来たのはいつ頃」
「まだ三十分も経っておりません。何せあっという間でしたので……」
「その間、お前は何をしていたの」
「これ以上の浸水を防ぐ為に、美鈴やパチュリー様と共に防壁の作せ――」
「この馬鹿!」
 嫌な焦りが緊張にも似た焦燥感を加速させ、思わず強く叫んでいた。ああ、どうして咲夜はこういう時に機転が利かないのだろう。他の事なら完璧なのに――!
「今すぐに、フランドールを助けに行きなさい!」
 激昂と共に言葉を放つ。途端咲夜の表情に理解の色が浮かび、そして次の瞬間には姿を消していた。
 私の妹、フランドールスカーレットの私室はこの紅魔館の地下にある。最近では自由に屋敷の中を出歩いているとはいえ、その部屋の位置だけは変わっていないのだ。
 湖からは最も遠い、屋敷の最奥にある私の部屋がこの有様である事を考えると、既に地下へと入り込む水は飽和している可能性が高い。まずは屋敷に入り込む水を防ぐ、という咲夜の発想は間違っていないけれど、この屋敷には地下があって、そこには私の妹が――流水相手では何も出来なくなってしまう吸血鬼が居るのだ。……とはいえ、咲夜は普段から私達姉妹を吸血鬼として捉えずに生活しているから、その弱点にまでは頭が廻らなかったのだろう。
 咲夜が閉め忘れていった扉の向こう。紅く伸びる廊下を眺めながら、思わず声が漏れていた。
「……フランドール」
 大切な大切な、私の妹。
 咲夜は優秀なメイドだ。そしてこの屋敷には彼女の他にパチェや美鈴、小悪魔が居る。咲夜一人では無理な事でも、彼女達が協力してくれればフランドールを助ける事が出来るだろう。そう、信じるしかなかった。

 そうして、今に至る。
「……嗚呼、」
 背中を丸めて、自分自身を抱くように腕を廻す。決して短くない時間を共有してきた咲夜達の事を、私は誰よりも信頼している。だから、フランドールは大丈夫――そう本心から思っているのに、心の奥底から絶望と恐怖が滲み出す。
 フランドールが危険な目に遭うという状況は、過去に何度も出くわして来た。しかし今回のように、私が直接あの子を助けに行けないという状況は初めてで、居ても立ってもいられない。だというのに、私はベッドの上から動く事すら出来ずにいる。
 何が最強の種族だろう。ただそれだけでは命に関わりもしない、言ってしまえば一番影響力の少ない部類の弱点が及ぼす状況に、私はその言葉通り手も足も出ない。人間ならば、他の妖怪ならばなんの障害にもならないだろうこの状況で、吸血鬼である私はどこまでも無力なのだ。
 信仰深い人間ならば、こんな時、神に祈りを捧げるのだろうか。
「……」
 悪魔とは、元を正せば神に仕えていた天使の事だ。父なる者の意に逆らい、堕天された結果、彼等は悪魔となった。ならば、ならば。私が心からの祈りを捧げれば、神に届くのではないだろうか?
 例えその『神』が助けてくれないとしても、幻想郷には八百万もの神が居る。その中の一人ぐらい、フランドールを助けてくれる為に力を貸してくれても良いのではないだろうか――なんて、馬鹿な事を考えながら体を起こす。
 神は助けてくれない。何の救いも与えてくれない。どんな敬虔な信者が相手だろうと、それは変わらない。ある意味で『平等』なのだろうその神の采配の事は、誰でもない私自身が良く理解している。何故なら、こうして私が生きているのがその証拠だ。人間を喰らわねば生きられない存在である私は、それこそ八百万の祈りを喰らってきたのだから。
 それでも、神を信じる人間は――私を悪魔だと蔑む人間達は、この状況を『天罰』だと言うのだろう。神は我等を見捨てていないと、そう歓喜の声を上げるのだろう。けれど、私はこれが罰だとは思わない。これは、ただの自然災害だ。
 だから、私は神などでは無く、咲夜達を信じ、彼女達に祈りを捧げよう。いつの時代も、弱者を救うのは神ではなく、英雄や勇者と呼ばれる人間なのだから。どれだけ世界が変化しようと、その図式は変わらない――
 ――と、そんな事を思う私の視界に、一つの影が現れた。それは恐らく、誰からも感謝されない、けれど英雄と呼ばれるのだろう少女の姿。
「……魔理沙」
「よぅ、久しぶりだな」
 箒に跨ったまま笑ってみせる霧雨魔理沙は、まるで普段と変わらない。ちょっと遊びに来た、と言わんばかりの気軽さで部屋の中へと入ってくると、何かを待ち構えるかのように少し待ってから、
「って、どうした、元気が無いな。世界の怪獣ごっこでのお出迎えは、もう終わったのか?」
「そんな気分でも、状況でもないのよ」
「まぁ、屋敷が完全に浸水しちまったらなぁ。でも、どうしてレミリアはベッドから降りて――って、ああ、流水相手だと動けないんだっけか」
 数多くある吸血鬼の弱点の一つが、それだ。吸血鬼という生き物は(その強制力に個体差はあるものの)、流水が相手だと体を全く動かせなくなる。
 その為、今の状況で床に下りた場合、私は二歩目を踏み出す事が出来ない。空を飛んでいても同じ事で、まるで見えない壁があるかのように体が停止してしまう。それは自分の意思ではどうにも出来ない、本能レベルの拒絶なのだ。
 十字架に強く、そして日光にもある程度の抵抗のある私は、日中でも日傘一本で外出する事が出来る。だからこそ、その反動であるかのように、流水に対する抵抗力がかなり弱い。そしてそれは妹であるフランドールにも言える事だった。
 そうして改めて状況を確認した事で、不安が更に高まっていく。そんな私を励まそうという魂胆なのか、魔理沙が少々明るい声で、
「でもな、実は私も立ち往生中なんだ。台風が過ぎ去ったと思ったら、目に入っただけだったみたいでな。パチュリーが寝てる間に本を借りようっていう計画は大失敗に終わっちまった。だから外にも逃げられなくて、さっきまで図書館で時間を潰していたんだ。こっそりとな」
 悪びれた風もなく、魔理沙は悪戯小僧のように笑う。
 蔵書量の増加に伴い、パチェの根城である大図書館は地下だけではなく一階にもそのスペースを拡げ、現在の出入り口は地上に存在している。そこに居たのだという魔理沙がこうして元気にやっているのだから、図書館は浸水を免れたのかもしれない(というか、パチェの事だから何かしらの対策は取ってあったのだろう)。
 そう思いながらも、私には魔理沙の言葉の中に引っ掛かるものがあった。
「目に、入った……?」
「ん、その様子じゃ知らないのか。それじゃあ、魔理沙先生が教えてやろう」
 私が喰い付いて来た事が嬉しいのか、そう言って魔理沙が微笑んだ。そして、彼女は箒に乗ってふわふわと浮かび続けながら、
「まず、台風っていうのはな――」
 熱帯で発生した低気圧の内、風力の強いものを台風と呼ぶのだという。場所によってはサイクロン、ハリケーンなどとも呼ばれるそれは、暴風雨によって地上に大きな被害をもたらす原因となる。例えば、この状況のように。
「そして台風の目っていうのは、その中心にある空間の事をいう。この目が大きければ大きいほど、その台風の威力も大きいって事になるんだ。だから、目の中が一番風や雨が強くなる……と思われがちだが、実は違ってな」
 何故なら、
「台風の中心は風向きが乱れる為に風同士が打ち消しあって、逆に風が吹かなくなるのさ。その結果、目に入ると風や雨が嘘のように止む。しかも、時には青空すら見えるんだ。……でもな、そこを過ぎた時が一番恐ろしい」
「過ぎた後が?」
「ああ。台風の目を抜けた後ってのは、吹き返しって呼ばれる、風向きが正反対になる現象が起こるんだよ。だから、目を抜けた後は、壁や何かで防げていた風雨の直撃を受ける場合が多くてな。目に入る前よりも大きな被害が出やすいのさ」
 つまり、そうして再び吹き荒れ出した暴風雨に対し、湖はそのキャパシティを越えて氾濫してしまった、という事か。そして紅魔館が浸水の被害に遭い、現在進行形で降り続ける嵐に、魔理沙は動けずに居る――
「……勉強になったわ」
「そりゃ良かった」
 そう笑顔を見せる魔理沙に対し、ここで微笑みの一つも返せない状況なのが嫌になる。それでも、私は改めて彼女へと視線を向け、
「霧雨魔法店店主、霧雨魔理沙」
「な、なんだよ、改まって」
「貴女に依頼が――いえ、お願いが、あるの」
 人間に対して『お願い』をするなんて、長い人生の中で初めてだ。そんな私の正面、空に浮かび続けている魔理沙の表情は驚きに満ちていた。まさか私からその単語を告げられるなんて、夢にも思っていなかったに違いない。
 それでも、私は構わずに言葉を続ける。
「私の妹を、フランドールを助けて欲しいの。あの子の部屋が地下にある事は、魔理沙も知っているでしょう?」
「知ってるけど……って、まさか、この水で?!」
 理解に至った瞬間、魔理沙が驚きに声を上げた。それに頷きを返し、高まり続ける不安を抑え付けながら、
「……さっき魔理沙が言ったように、私達吸血鬼は流水を渡れない。水の中に入ると、動けなくなってしまうの」
 そう、ただ動けなくなるだけ。でも、
「でも、部屋を満たすほどの水の中に放り込まれると、もう自分の力ではどうにも出来ず……そのまま、死ぬ事になる」
 それは、今この瞬間にも起こっているかもしれない、最悪の事態。最も影響力の少ない弱点が引き起こす、だからこそどうやっても抗う事の出来ない、死。
「咲夜をフランドールの部屋へと向かわせているけれど、この水の量だもの。咲夜一人では対処出来ないかもしれない。だから、魔理沙にも力を貸して欲しいの」
 卑怯な手段だと、自分でも思う。依頼ではなく『お願い』である以上、相手に対する強制力は低い。けれど、だからこそ、霧雨魔理沙には有効な手段になる――私はそう考えた。全てはフランドールを助け出す為に。
 そんな私に、魔理沙は真剣な表情で、
「お前は逃げないのか?」
「フランドールが助かってからで十分だわ。あの子と私の置かれた状況は、天と地ほどに違うもの」
「確かに、水中と地上だからな……」そう言って、何かを決めるように魔理沙は小さく頷き、「解った、私も咲夜を手伝ってくるよ」
「有り難う……」
 言い慣れない感謝の言葉が、この時ばかりは自然と口に出来た。そんな私に、魔理沙は苦笑にも似た笑顔を浮かべ、
「フランドールの事が心配なのは解る。でもな、お前が殊勝だと何だか調子が狂うんだよ。だからさ、そんな風に萎れてないで、いつも通りに『お前に任せたよ』って言い放ってくれりゃ良いんだ。そうすりゃ私も気負わずに返事が出来る。っていうか、そういった我が儘を当たり前のように言ってのけるのが、レミリアスカーレットってもんだろう?」
「……そう、ね」
 酷い言いようだけど、それでも少しだけ笑う事は出来た。魔理沙はそれに満足げに頷くと、
「そんじゃ、ちょっと助けに行ってくるぜ」
 箒の先端を廊下へと向け、帽子を押さえながらそう言って――一陣の風を残し、魔理沙が飛んで行く。
 一瞬で遠ざかっていくその姿に期待をかけるだなんて、一昔前ならば考えられなかった。でも、私は知っている。霧雨魔理沙という少女がどこまでも真っ直ぐで、そして、何事にも一生懸命になる少女だという事を。
 人々にあまり好かれていないという魔理沙が、決して人々から恨まれていないのは、そういった要因があるからなのかもしれない。そんな事を思った。

 そうして、魔理沙の姿が消えて。 
 吉報をもった咲夜が部屋にやってきたのは、それから一時間以上経っての事だった。



 私の部屋を出た後、咲夜はすぐに美鈴達の所へと向かったのだという。私が咲夜を呼ぶまで、彼女達は紅魔館正面玄関前で、これ以上の水が屋敷の中へと入らぬように即席の防壁を作る作業を行っていて……具体的には、パチェと小悪魔が魔法で土嚢(のようなもの)を作り出し、それを美鈴と咲夜で積み上げていたらしい(この時点で、誰も魔理沙の姿に気付いていなかった)。
 咲夜は土嚢を積み上げる作業を小悪魔に任せると、美鈴と共に紅魔館地下へと続く通路に向かった。その時点で浸水は踝を越え、空を飛んでいくしかないような状況だったらしい。
 そうして辿り着いた先で待っていたのは、完全に水没した地下通路への入り口だった。フランドールの私室まではその地下通路を更に進む必要があり、例え潜って進んだとしても水圧の関係で扉が開かない可能性がある。そう判断した咲夜は空間の拡張を行い、新たに作り出した部屋へと水を逃がす事を決め、美鈴は通路へと更に水が入り込まぬよう、周囲にある家具や壁を壊し、それを使って即席の防壁を作る作業を始めた。
 しかし、ただ単純に空間を拡げると言っても、一の空間を百に拡げてお終い、という訳にはいかない。紅魔館は既に大小様々な空間拡張が行われている為に、不用意に空間を拡げると他の空間との干渉が発生し、拡張した空間が連鎖的に崩壊し始める可能性がある。最悪の場合、この紅魔館自体が崩れ出す可能性もあるのだ。
 もし咲夜が妖怪だとしたら、そうした危険など関係無く無尽蔵に空間を拡張させる事が出来るだろう。けれど彼女は、十六夜咲夜は人間なのだ。そのキャパシティには限界があり、それを超えた場合にもやはり崩壊が起きる可能性がある。それを理解しているからこそ、咲夜には大きな焦りがあったという。
 それでも、私のメイドは迷わなかった。咲夜は地下の空間を拡げて新たな部屋を作り出し、そこへと通路を繋げて水を逃がし始めた。そして、それ以上の浸水を防ぐ為に美鈴が防壁を築き、水の流れを押し止めていく。
 白黒の魔法使いがそこへ現れるのは、作業を始めてから暫く経っての事だったらしい。少しずつではあるものの、地下通路に溜まった水が減り始めた中で、魔理沙は美鈴の手伝いを始めた。
『水を止めるってのは、こういう事を言うんだぜ』
 その言葉と共に彼女が完成させた魔法は、コールドインフェルノ、という氷の魔法。四つの宝玉から生み出される冷気の炎は、美鈴の築く防壁を凍らせると共に、それを更に堅牢な物とし、そしてその隙間から流れ込んできていた水をも凍り固めていく。
 これにより、地下への浸水を完全に防ぐ事に成功すると、咲夜は水の逆流を防ぐ為の空間維持に努め、魔理沙はそのまま廊下を進んでくる水を魔法で塞き止め続け、手の空いた美鈴は複数のバケツを用意し、通路の水を汲み出し始めた。
 そうして、約三十分後。
 地下通路から完全に水が失われ、水溜りが少し残る程度になった所で、水を大量に吸って重くなった木製の扉を美鈴が開いて――飛び出してきたのは、涙を浮かべたフランドール。
『ドアが開かなくて、でも壊したら駄目な気がして、誰かが来るのをずっと待ってたの』
 わんわんと泣きながら、どうにかそう告げた妹の私室は、しかし私の部屋のように水に侵されてはいなかった。
『何故フランドール様のお部屋は浸水を免れていたのでしょうか。地下通路は完全に水没していましたのに』
 咲夜はそう疑問符を浮かべていたが、答えは簡単だ。というか、私もその報告を聞くまで完全に忘れていた、ある事実。それは、フランドールスカーレットが破壊の力を有している、という事。
 あの子の能力が暴発して部屋が壊れてしまう事が無いように、フランドールの私室は他のどの部屋よりも頑丈に作ってあったのだ。当然のようにその機密性は高く、部屋に水が浸入してくる事も無かった。妹を思う気持ちが、そのまま転ばぬ先の杖になってくれていた、という訳だ。 
 フランドール救出後、一行は図書館へと向かう事になった。図書館は図書館で、パチェによる二重三重の対策があったお蔭で全く浸水せずに済んでいたらしい。
 しかし、廊下にはまだ大量の水があり、フランドールはそこを進む事が出来ない。その為、魔理沙が引き続き水を凍らせ、その上を飛んで図書館へと向かったという(流水ではなく氷(固体)の上ならば、自由に行動出来るからだ)。
 とはいえ、廊下を満たす水の量は多く、そしていくら魔法とはいえ一瞬で水を凍らせる事は出来ない。そうしてどうにか図書館へと辿り着いた時には、三十分近い時間が経っていて――そこで、魔理沙の魔力が尽きてしまった。
『もー無理。すっからかんだぜ……』
 その一言と共に魔理沙がダウンし、その直後、小悪魔に抱かれたパチェが図書館へとやって来たのだという。こっちは体力の限界だったようで、むきゅー、とも言えないほど疲れ切っていたらしい。
 その後、咲夜が私の部屋へと報告にやって来て――報告を終えた後、彼女はパチェ達の看病を行う為に図書館へと戻っていった。 

 そして私は、未だにベッドの上に居る。
 咲夜は空間を更に拡げて水を逃がす事を提案してきたけれど、それは却下しておいた。理由は先の通り。疲れ切っている咲夜にこれ以上無茶をさせる気はなかった。それに、この状況が人為的なものではなく、ただの水害である以上、水は必ず引けて行くのだ。
 フランドールが無事だと解った事で、私の最大の不安は消えている。だから、私は去り際に問い掛けてきた咲夜へと、
「私は大丈夫よ。すぐにパチェと魔理沙の手当てをしてあげて」
「……畏まりました」
 そう答えた咲夜の顔には、『本当に宜しいのですか?』という心配げな色があった。でも、私は彼女を笑顔で送り出し……そうして再び一人になった。
 今は横になりながら、布団の中で丸くなっている。

 ――止まらぬ恐怖に、震えながら。

「……馬鹿ね、私も」
 咲夜に対して、久しぶりに嘘を吐いた。
 確かに『フランドールを失うかもしれない』という不安は消えた。けれど、私自身の安全が確保された訳ではない。今もベッドの周囲は水で満ちていて、豪雨が降り続き、暴風が屋敷を揺らしているこの状況で、吸血鬼の感じる恐怖というのは人間には決して理解出来ないものだろう。
 我が儘を言って咲夜を引き止めるのは簡単だ。彼女もそれに頷いてくれるだろう。けれど、この紅魔館が湖の底に沈むというのならまだしも、このまま耐え続ければ私は確実に助かるのだ。だから、我慢した。
 我慢したけれど――でも、こわい。
 ベッドの上で小さく体を丸めながら、私はきつく目を閉じ、両耳を塞いだ。

 


 どのくらいの時間が、経っただろう。
 暗闇の中。
 夢なのか、現実なのかも良く解らない中。
 丸めた背中の先にある、今は閉じられている筈の扉に、ずっと前から意識が向いている。
 何かその先に気配があるような――或いは、もう何者かが部屋に入り込んでいるかのような、心を削る圧迫感。
 過去も、未来も、現実さえも見失う。
 今がいつで、ここが何処で、敵が誰なのかすらも解らない。
 私に出来るのは、ベッドの上で小さくなり、ただ震える体を抑える事だけ。
 こわい。
 今にも、銀のナイフや白木の杭を打ち込まれるのではないだろうか。
 或いは、無機質な銃口が、もう私の頭へと突き付けられているのではないだろうか。
 一度始まった思考は加速を始め、心の内へと侵食していく。
 そうして零れ出したのは、忘れ去った筈の、過去の記憶。
 激しい不安と恐怖に塗れた、絶望の記憶。
「……」
 破砕された屋根から入り込む日光。
 周囲を満たす水の流れ。
 撃ち込まれた銃弾は銀の祝福を受け、 
 囚われた私は牢獄の中。
「――」
 あの時、私にナイフを突き付けた男は、下卑た笑いを貼り付けながら言ったのだ。
『動けない吸血鬼など、ただの小娘と変わらんな』
 そうして、ナイフが、振るわれて。
 腕を。
 足を。
 服を。
 そして、私、は、
「――あ、」
 不安は痛みの記憶を揺り起こし、
 恐怖は慟哭の記憶を揺り起こし、
 絶望は喪失の記憶を揺り起こす。
「あ――!」
 限界にまで引き絞られていた緊張の糸が弾け、私は跳ね起きる勢いと共に背後へとグングニルを放っていた。
 紅い神槍は呆気なく木製の扉を破壊し、屋敷の壁を壊して外へと飛んでいく。私はそれを確認する事無く、荒く肩で息をしながらベッドへと倒れこんだ。
 より一層風雨の音が激しくなり、そして入り込んでくる水の量も増えたけれど、今はそんな事を気にしている余裕すら無かった。
 ただただ、酷く強い恐怖が全身を震わせる。
「私、は……」
 吸血鬼は流水を渡れない。流れる水の中では動けない。それは直接死には繋がらない弱点ではあるものの、しかし人間に殺される可能性が最も高まる弱点でもあった。ここが幻想郷で、紅魔館の中で、私の命を狙う相手は居ないと自分自身に納得させようとしても――心の奥底にある、五百年分の不安、絶望、そして死への恐怖は拭えない。
 何より、今は自分自身の『幼さ』が憎い。
 どれだけ永い時を生きようと、私の成長は止まったまま進まない。それは肉体だけではなく、精神面での成長も無いという事。百の挫折、千の経験、億の知識を得ようとも、結局何も変わらないし、変われない。それが、レミリアスカーレットという存在が抱える本当の『弱点』だ。
 私は変われないのだ。自分自身を成長させる事が――変化させる事が出来ないのだ。だからこうした八方塞がりの状況に陥ると、途端に何も出来無くなる。どうして良いのか解らなくなる。
 五百年以上生きているのだ。今までだって、何度かこうして流水の上で孤立した事があった。そしてその上で、何人もの人間に襲われた事だってあった。でも、その時の経験を今に生かせない。知識があるのに何も出来ない。何故、というのは愚問だろう。つまるところ、学習というものすら成長の一種なのだから。
 何も、何からも学べない私は、全て誰かの真似をして生きるしかなく、だからこうして独りになれば、どうしようもなく幼く弱い本質を曝す事になる。
 だから、この状況が酷く恐ろしく、怖い。そしてその強い恐怖と、逃げ場がないという焦燥などから来るストレスは、私の弱い心で耐えるには過剰過ぎた。それでも館主として、姉として、吸血鬼として、レミリアスカーレットとして、必死に耐え続けて――でも、こわくて。
 部屋へと入り込む水の水位は上がり続け、降り続ける雨は止む気配が無く、強い風は堅牢な屋敷を紙のように揺らし、いつの間にか響き始めた雷鳴が世界を震わせる。
「――」
 ああ、だめだ。
 だめだだめだだめだ。
 れみりあすかーれっとであろうとするいしすら、くだけてしまう。
「ッ――」
 強く強く枕を抱えて、溢れ出そうとする嗚咽を必死に耐える。それでも恐くて怖くてどうしようもなくて、震えるほどの恐怖が全身を包み、逃げ出したいのに逃げられない。誰か誰か誰か。頼れる相手なんて居ないのに助けてくれる誰かを求める。私は吸血鬼で悪魔で、そんな相手を助けてくれる存在なんて居やしないって事にも気付いている。神も勇者も英雄も、私を助けてくれない事ぐらい、解って、いる、の、に――
 駄目、だ、
「ぅ、あ――」
 張り続けていた虚勢が、砕けた。
 最早流れ続ける涙を拭う事すら出来ず、言葉にならない声を上げ、少しでも恐怖から逃れようと体を丸める。
 泣いて叫んでそれでも泣いて。そうでもしないと恐怖に心を喰われそうで。
 誰か、と助けを求め、
 誰も、と心がそれを否定する。
 素直に助けを求められないのは、私が吸血鬼だからだろうか。子供のように泣きながらも、自分は人間とは違うと、そう思っていたい――そんな、小さな小さな自尊心。
 でも、現実の恐怖を前に、プライドなんて保っていられない。
 いや、今までは保つ事が出来たのだ。五百年間、ずっとずっと恐怖を押し殺してこれたのだ。
 けど、ここにきて、酷く呆気なく限界が来てしまった。
 もう止まらない。もう戻れない。どんな恐怖や逆境にも耐える事が出来た『レミリアスカーレット』が砕けてしまった。
 嗚呼、
 嗚呼。
 でも、それでも。
 私が、
「……」
 最後に、
「……や」
 求めた、
「……くや」
 ものは――
「……」
 ――違う。
 違った。
 ずっと叫び続けていた。
 ずっとずっと呼んでいた。
 館主としてのプライドも、姉としての威厳も、吸血鬼としての誇りも、レミリアスカーレットとしての生き様すらも関係なく。
 いつだって、どこだって、こんな私を助けてくれる、たった一人の従者の名前を!
「さくやぁ!」
 
「――お呼びですか、お嬢様」

 部屋へと入り込む水の水位は上がり続け、降り続ける雨は止む気配が無く、強い風は堅牢な屋敷を紙のように揺らし、いつの間にか響き始めた雷鳴が世界を震わせる。
 そんな不安と恐怖と絶望に染まった世界の中、ぼろぼろと涙を流して、くしゃくしゃに歪んだ視界の先。
 やって来た咲夜の姿を見ただけで、私は救われたのだと、そう思えた。




 心を許した相手に抱き締められるだけで、何よりも強い安堵を得られるのだという事を初めて知った。母親が子供に与える愛情を知らない私にとって、それは驚きで――でも、とても暖かくて。
 思わず抱き返す腕に力が籠ってしまって、咲夜が「ちょっと苦しいです」と言葉を漏らして、慌てて力を抜いて、それでも彼女に抱かれ続けた。
 そうして、暫くの間無言の抱擁は続き……どうにか落ち着きを取り戻したら、今度はそのぶり返しのように恥ずかしさがやって来た。
 羞恥が一瞬にして全身を包み、咲夜の柔らかな胸に埋めた顔が物凄く熱い。冷静に考えたら、これ以上無いほどの醜態を曝してしまっているではないか。このままでは、咲夜の主としての威厳が保てなくなる――!
 そう思って彼女から離れようとするのだけれど、今度は咲夜が放してくれなかった。「無理はしなくて良いんですよ」という微笑みを押し退ける事も出来たけれど、それはそれで子供っぽいと思えて、だから仕方なく、そう仕方なく私は咲夜の背中に再び手を廻した。
 暖かい。
 でも、私はこの暖かさを奪って生きている。奪わなければ生きられない生き物なのだ。……だから、甘えるのはもうお終い。私は吸血鬼、レミリアスカーレットなのだから。
「……咲夜、有り難う。もう大丈夫よ」
「ですが……」
「心配しないで。これからは、辛くなったらちゃんと言うわ」
 その言葉に「解りました」と頷くと、心配げな表情をしながらも彼女がゆっくりと離れていく。それに淋しさを感じながらも、私はベッドから一歩下がった位置に立った、銀髪の少女の姿を改めて眺める。
 私の手で『十六夜咲夜』となった少女は、今や完全で瀟洒なメイドとなった。人間なんて使えないと思っていたのに、今では咲夜の存在が必要不可欠になってしまっているほどだ。『弱点』すら曝して、尚且つそれを受け止めて貰ってしまった以上、彼女にはこれからもずっと私のメイドで居てもらわねばならない。今更嫌だって言ったって、もう放してやるもんか。
「ご心配なさらずとも、私はお嬢様のメイドであり続けますわ」
「当たり前よ、そんなの」
 視線を逸らし、恥ずかしさを隠しながら少々ぶっきらぼうに告げる。でも今は、その一言が何よりも嬉しかった。
 けれど、それに浸ってばかりも入られない。
「……意識を切り替えないと」
 自分自身に言い聞かせるように言って、再び咲夜へと視線を戻す。私を取り巻く状況は、まだ何も変化していないのだから。
 嫌になるわね、と思いながらも、咲夜へと状況確認を行っていく。
「えっと、まずは……玄関の防壁はどうなったの?」
「どうにか完成致しました。即席で作ったものですが、その強度はパチュリー様の折り紙付きです」そう咲夜は微笑み、「防壁は正門を完全に塞いでおりまして、それによって水の流れを変えています。その為、湖から流れ込んで来る水は正門から続く外壁を添うように迂回し、紅魔館の裏手へと流れていっているのですが……」
 言って、咲夜が背後へと視線を向け、
「……その水が、壁から入り込んでしまっているみたいですね」
「あれは、その、えーっと……ごめんなさい」
 視線の先には、グングニルが貫いた傷跡がある。それは紅魔館の壁を壊すだけに留まらず、その先にある外壁までも貫き、破壊していた。結果、正門から迂回してきた大量の水が、紅魔館の敷地内、延いては館内へと勢い良く流れ込んで来ているのだ。
「一体、どうしてこのような事を?」
「昔の事を思い出したら、恐くなってきて……それで、つい……」
 正直に告げると、咲夜は「だったら仕方ありませんね」と困ったように微笑んで――直後、何か重たいものが水の中へ落下したかのような音がして、
「――では、このような感じで如何でしょう」
 一瞬前と打って変わって、目の前には疲労が見える咲夜の姿。時を止めて何かをしたのだと気付き、彼女の背後へと視線を向けると、そこには私の作った傷跡を塞ぐように、一メートル近い防壁が出来上がっていた。それにより、流れ込んでくる水は遮断され、上がりつつあった水位も取り敢えずの停止を迎えていた。
「予備の為に作ってあった土嚢を図書館から借りてきました。書置きを残しておいたので、パチュリー様には怒られない筈ですわ」
 当たり前のように言うその姿に、注意しようと開いた口をそのまま閉じる。彼女は完全で瀟洒なメイド。主人に害なす障害があれば、それをすぐに取り除く存在なのだ。だからここで告げるべきは、疲れているだろう体を酷使した事への注意ではなく、
「ご苦労様、咲夜」
 その一言でどれだけ咲夜を労えるのかは解らない。でも、嬉しさの中にも安堵が見える咲夜の微笑みを見て、私の判断は間違っていなかったのだと思えた。
 その後、私は咲夜をベッドの上に上がらせ、二人で雨が止むのを待つ事にした。咲夜は「このままでも大丈夫です」と立ったままで居る事を主張したけれど、今や私の部屋は足首を軽く超えるほどの水が入り込んでいるのだ。そのままでいれば確実に体が冷えてしまうし、何かあった時の対処も鈍くなってしまう。だからこその、ベッドの上だった。
 咲夜の話では、もうパチェも魔理沙も復活しているとの事だった。肉体的な疲労と魔力のガス欠だから、一休みする事である程度の体力(魔力)は戻ったらしい。
「でも、まさかこんな事態になるなんてね……」
 小さくぼやく。今まで、屋敷のすぐ近くにある巨大な湖に対して警戒を抱いた事など無かった。けれど、台風(或いはそれに匹敵する大雨)でこんな状況になってしまうとは。
 今まで平和に暮らしてこられたのは、ただ運が良かっただけなのだろう。『自然』というものの恐ろしさを感じながら、私はベッドに横になる。
 何はともあれ、今は事態が収まるのを待つしかなかった。




 がたん、と何かが落っこちて、その音で目を開けた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「なによ、いったい……」
 体を起こしながら床へと視線を向けると、グングニルの余波を受けて壊れかけていた机、その上にあった小さめの本棚が床に落っこちていた。全く、私の睡眠の邪魔をするなんて、躾けのなっていない本棚だわ。
 ぶつぶつと文句を漏らしながら、うにうに言いつつ横になっている咲夜の隣に再び収まる。確か咲夜の方が先にうとうとし始めて、それに釣られるように私にも眠気が来て、そのまま一緒に眠ったんだった。フランドール以外の誰かと一緒に眠る事は初めてだったけれど、案外安心して眠れるものだ――って、
「床?」
 むくりと体を起こし、落っこちた本棚へと視線を向ける。本棚は水に侵されて大変な事になっているカーペットの上に落下していて、その中身を吐き出していた。
 いや、問題はそこではない。
 床だ。
 床が見えるのだ。
「水が、ない?」
 眠る前までは大量にあった水が、今ではその痕跡だけを残して全て消え去っていた。壊れた扉の先、防壁の上に少しだけ開いたスペースから見える外に視線を向けると、雷は鳴っているようだけれど、あれ程強かった雨が殆ど止んでいるように見える。夢でも見ているのかしら、なんて思いながらも床に下りてみれば、普通に歩き回る事が出来た。それに、これが夢では無い証拠に、足の裏に返ってくる感触は酷く冷たく気持ち悪い。……まぁ、靴下のまま降りた私が悪いのだけれど。
「靴は……って、流されちゃったか」
 もし流されていなかったとしても、今からでは履くに履けない。私はベッドに腰掛けると、靴下を脱ぎ、汚れていない部分で足を拭き始め……眠っていた咲夜が目を覚ましたのは、それからすぐの事だった。
「ん……」
「おはよう、咲夜」
「え? あ……お、お早う御座います、お嬢様……」
 少し寝惚けているのか、少々の混乱と共に言葉を返してくる彼女に普段の瀟洒さは無い。けれど、体を起こし「ちょっと顔を洗ってきます」という言葉と共に姿を消し、そして再び現れた時には、普段通りの咲夜に戻っていた。本当、便利な力だ。
 と、そんな咲夜が頭を下げ、
「すみません、お嬢様のベッドで眠ってしまいました」
「別に構わないわ。それよりも床を見て。ほら、水が引けてるの。あんなにも沢山入り込んできていたのに……まさかこんなにも早く水が引けるなんて思わなかった」
 部屋にある時計を見るに、私達が眠っていたのは一時間ちょっとだ。水が引けてくれたのは嬉しいけれど、いくらなんでも早すぎるような気がする。そう思う私に、しかし咲夜の答えは予想外のものだった。
「いえ、これは自然に水が引けた訳ではありませんわ。恐らく、パチュリー様と小悪魔、それに魔理沙の魔法が効いたのだと思います」
「魔法?」
「はい。なんでも、水から木を作る魔法を発動させる、と仰っておりました。ですが……」そこで一旦、咲夜は言葉を濁し、「……途中まで説明を受けていたのですが、その、お嬢様に呼ばれてしまいましたので」
「そういう事なら、説明出来なくても仕方がないわ」
 耐え切れず泣き出してしまった私が悪いのだし。
 それはともかく、水から木を生み出す魔法か……。ちょっと昔にそんな話を聞いた事があったような無かったような。それも、誰でもないパチェの口からだ。あれは一体何の時だったか。思い出せ、思い出せ……
「あー……」喉の奥に引っ掛かった骨を、一メートルぐらいあるピンセットで取ろうとしているような感覚。しかも利き手とは逆の手で。そんなもどかしさを感じながら記憶の引き出しを引っ繰り返し、出てきたものは、「……あー、もしかして、水生木?」 
 ようやく思い出したそれは、五行と呼ばれる、万物は木火土金水の五種類の元素から出来ている、という思想の話だった。何十年か前に、パチェが賢者の石を精製している時に教えてもらったのだ。
 その五行の中で、水生木というものがある。水によって木は養われ、それが無ければ枯れてしまうという意味で、恐らくはその意味合いを魔法に込めたに違いない。それに、魔法というのは世界の常識を変化させるものだから、今頃図書館は森になっているかもしれない。
「って、そうでもないか」
 木は火を生み、火は土を生み、土は金を生む。パチェの事だから、そうした錬金術も行っているだろう。そうすれば、実験に使うなり加工して売り払うなり、木のままで置いておくより確実に価値がある筈だ。
 良く解らない、という顔をしている咲夜に説明したあと、私達は図書館へと移動する事にした。このまま部屋に居続けて、もしまた浸水でもしたら堪らないからだ。
 新しい靴下と靴を用意してもらい(仕舞ってあった予備の靴は、どうにか浸水を免れていたらしい)、履きなれないそれにちょっと苦戦しながら、咲夜と共に紅というよりも黒く汚れてしまっている廊下へと歩き出す。
 とはいえ、大量の雨水に侵されていた為に、廊下は泥や土砂、更には木々の枝や壊れた家具の破片などが散乱していて、正直目も当てられない。でも、床に敷き詰めてあるカーペットは買い換える事が出来ないから、どうにか洗って綺麗にするしかないだろう。
 その時は私も手伝おう、と思う。あと、日中の洗濯などは手伝えないけれど、各部屋の掃除ぐらいは出来る筈だ。メイド達が戻ってくればその手間も不要になるかもしれないけれど、それもいつになるか解らない。レミリアスカーレットは我が儘である、と自分でも解っているけれど、この状況をただ黙って見ていられるほど、私は傲慢ではないのだ。何より、大切な我が家の為だ。止められたって、手伝いたい。
 私はそんな風に思いながら、どこから流されてきたのか、廊下のど真ん中に転がっている大きな石を踏み付け、
「……この様子だと一階は全滅ね。まぁ、屋敷の一番奥にある私の部屋にまで水が来ていた訳だし、解り切っていた事ではあるんだけど」
「ですが、戸締りはしっかりしておりますから、二階は無事だと思われますわ」
「こんな事なら、自室を二階に作れば良かったわね」
 そうすれば、被害を最小限に抑えられたかもしれないのに。そう思うものの、もう過ぎてしまった事だ。どの道今朝からは二階で寝るしかないのだし、そのまま二階に自室を移してしまっても良いだろう。それに……って、そういえば、フランドールの部屋はどうなっているのだろうか。これからはあの子の部屋も地上に上げる事になるだろうけれど、だからこそ、その惨状を確認しておきたかった。
「ちょっと寄り道していくわ」
 はい、と頷く咲夜を引き連れて、再び廊下を歩き出す。歩かずに飛んでいってしまえばすぐなのだけれど、少し前までは歩く事すら出来なかった場所を歩けるという幸せを、私はもう少し噛み締めていたかった――と、そこで雷鳴が一つ。その音は大きく、近い場所に雷神が居るのだと教えてくれる。その上、完全には止んでいなかった雨がその雨脚を再び強め始めていて、風は未だに強い。ピークを抜けたというだけで、まだ完全に台風が過ぎ去った訳では無いのだろう。
 嫌だな、とは思いつつも、今はこうして自由に行動出来ているのだ。これ以上事態が最悪に転ぶ事はないと思えた。



 鳴り響く雷鳴を聞きながら、咲夜と共に歩いていく事数分。長い廊下を何度か折れた先に、目的である地下通路への入り口と、その周囲を固める防壁が見えてきた。咲夜の話では防壁や床を魔理沙の魔法で凍らせていたとの事だったけれど、彼女の魔力切れが原因なのか、はたまたその魔法にそこまでの持続性が無かったのか、今では氷の『こ』の字も見られない。それでも、即席とはいえ積み上げられた防壁はしっかりと形を残していて、美鈴の頑張りがありありと感じ取れる。あとで褒めてあげないと。
 真っ赤になって照れるのだろう美鈴を想像しつつ、背後に経つ咲夜に問い掛ける。
「咲夜が来た時には、この地下通路は完全に水没していたのよね?」
「はい。ですが、私がすぐに気付いていれば……」
「フランドールは無事だったんだから、もう気にしないの。それにこれは人災じゃなくて天災だし、咲夜に責任は無いよ」
 とはいえ、咲夜が責任を感じてしまうのも仕方ないのかもしれない。何せ私は、彼女に屋敷のあれこれをほぼ一任してしまっているのだから。その中には私達の安全管理も含まれていて、そうでなければメイドである彼女が銀のナイフを武装していないだろう。
 だから、もう終わった事として話を終わらせる。終わり良ければ全てよし、という訳では無いけれど……次から同じ過ちを繰り返さないように尽力してくれれば良いだけだ。それでも責任を求めるとするのなら、この状況を予測出来なかった私が責められるべきだろう。
「……運命を操る力、か」
 咲夜に聞かれぬように小さく呟いて、地下へと続く階段に近付いていく。
 今この瞬間、私の目の前には複数の運命が視え、そしてそこへと繋がる膨大な数の選択肢を捉える事が出来ている。けれどこれは私個人の運命であって、咲夜達の存在は計算に入っていない。つまり、最善だと思う運命を選んでも、蓋を開けてみれば最悪な未来になっている場合もあるのだ。
 フランドールの力が強力過ぎるように、私の能力もまた使い勝手が悪い。咲夜達と一緒に暮らしている以上、この能力を過信する事は、彼女達との平穏の崩壊に繋がる可能性がある。私は小さく頭を振り、意識的に能力の発動を抑え付けると、そのまま階段を降りていく。
 本来ならば点されている筈の証明は全て消えていて、少々長い廊下は完全に闇の中だ(まぁ、夜目の利く私には、泥水で汚れた通路の惨状がはっきりと見えるのだけれど)。その先にあるフランドールの私室の扉は開け放たれていて、可愛らしい小物で満ちた部屋の様子が良く見える……が、何かがおかしい。
 少し急いで階段を下り、通路を数メートル進んだところで、私はぴたりと足を止めた。いや、止めざるを得なくなった。どうやらパチェと魔理沙の魔法も地下にまでは作用出来なかったらしい。魔法が完成するまでに流れ込んだのだろう水により、通路の中ほどから妹の私室まで、私の部屋のように浸水してしまっていた。
 しかし、あの子が助け出される前までは、この通路を水没させるほどの水が、扉一枚挟んだ向こう側に存在していたのだ。本当に、フランドールには恐い思いをさせてしまった。図書館に着いたら、咲夜にそうして貰ったように抱き締めてやろう。そう思いながら踵を返すと、私は点々と残る水溜りを避けるように歩き出し――不意に、何かを踏んづけて、
「わッ――!」
 つるん、と右足が上がり、バランスを大きく崩し、そのまま硬い床に尻餅を付いた。
「あいたたた……」
 いくら体が頑丈に出来ているとはいえ、お尻はお尻だ。普通に痛い。一体誰だ私をこんな目に合わせたのは、と思いながら右足を見ると、気持ちの悪い緑色の物体が纏わりついていた。
「だ、大丈夫ですか、お嬢様!」
「痛いけど、平気……。ねぇ咲夜、それよりもコレ、何」
「これは、水草でしょうか。恐らく、湖に生えていたものが流されてきたのでしょう」
 そう言って、咲夜が私の靴からその水草を取り払って――

 ――その瞬間。
 鼓膜を破壊するかのような轟音が、屋敷を貫いた。

 それが落雷だと、そう理解するまでに数秒掛かった。この瞬間、私は思わず咲夜に抱き付いており、咲夜も私に抱き付いてきていた。当然、『きゃあ!』という悲鳴と共に。……全く、何が吸血鬼と完全なメイドだろう。これじゃあただの『女の子』だ。
 そしてその数秒の内に、押さえ込んでいた私の能力が何度も警鐘を鳴らした。それに反応出来なかったのは、突然の事態に思考が完全に止まっていたから。一度『弱点』を曝すほどに凹んでしまっていた為か、私も本調子ではなかったらしい。
 そうしてようやく、何か私にとって不味い事が起ころうとしていると気付いた刹那、小さく、断続的に、硝子にヒビが入っていくかのような音が聞こえている事に気付いた。しかし、それに気付きながらも、私は雷についての事を考え始めていた。まるで気付いた予感から目を逸らすかのように。
 地震・雷・火事・大山風という言葉があるように、雷は恐ろしいものの代表として扱われてきた。特に雷は落ちる場所を特定出来ない上に、その直撃を受ければ妖怪でさえ死に至る場合がある。そんなものが落ちた日には、火事が起こる可能性が高く――いや、この紅魔館は、パチェの魔法によって結界が張られている。湖の氾濫によって押し寄せてきた大量の水は流石に防げなかったけれど、火事の要因となるようなものはどうにか防いでくれる筈だ。だから安心……いや、出来ない。結界は侵入を防ぐものであって、受け止めるものではないのだから。
 ならば、落雷のエネルギーはどこへ向かう事になるのだろうか。
「……お嬢様」
 震えるような咲夜の声は、しかし私にでは無く、地上へと繋がる階段の方に向けられていて――
 何かにヒビが入っていくような音は、今もはっきりと聞こえ続けていて――
 咄嗟に動く事が出来なかったのは、きっと、私の心が拒絶していたからだろう。もう何も無いと、そう信じていたかったからだろう。
 そう。スペルカードルールの発展により、直接命を狙われる事が無くなったこの幻想郷で、私はとても弱くなっていた。今そこにある危機に、即座に反応出来ないほどに。
 直後。絶望的な音を上げ、限界まで耐えていたのだろう何かが壊れる音がした。それを理解した瞬間にすら、私は『ああ、そこに雷のエネルギーが向かったのか』なんて事を思っていて。
 
 現実逃避を行っていた思考が目の前の状況を認め、逃げるという行動にようやく意識が向いた瞬間、私達は水の壁に喰われていた。
 


 
 咲夜の能力は紅魔館全域に及んでいる。もしその一部が落雷によって崩壊したとしたら、そこへと繋がる空間が連鎖的に崩壊を始める可能性がある。
 つまり、屋敷の内部が縮むのだ。とはいえ、私達が居るこの通路は幻想郷にやって来る前から――咲夜と出逢う前からあったものだ。だから、その影響を受けない。
 しかし、咲夜が隔離した大量の水は、別だった。
「――ッ!」
 階段を破砕して現れた水は、まるで鉄砲水のように一瞬で、私達をフランドールの私室の壁にへと打ち付けた。それでも、咲夜と抱き合っていた事が幸いし、私だけがその衝撃を受け、彼女を護る事が出来た。けれど、それだけだ。
 途切れる事無く流れ込んでくる大量の水に、動く事の出来なくなった私は咲夜の体を抱き続けられず、渦巻くような流れに翻弄されていく。対する咲夜はその中で必死に抗おうとするのだけれど、流れが激しく、私の手を掴む事が出来そうにない。
 そうしている間にも、勢い良く水が流れ込み続けてくる。その量は多く――フランドールを助け出す作業の間にも水は流れ込んできていた。その分の水量がどのくらいかは解らないけれど――この様子だと、この部屋を含めて、再び地下通路を水没させる程の量になっているに違いない。
 ふと、グングニルを召喚して壁を破壊しようかと考える。けれど、今の私はそれを投げるどころか、握り締める事すら出来ない。或いは弾を放てば、とは思うけれど、狙いすらも付けられないこの状況では、咲夜に当たる可能性が高過ぎる。
 そうして様々な手段を考える先で、咲夜がどうにか私へと近付こうとしているのが見えた。でも、そんな事をせずに、彼女にはこの場から脱出して欲しかった。動けなくなるというだけで、私は一晩程度なら水の中で耐える事が出来る。だから、咲夜さえ生き残ってくれれば私は助かるのだ。それなのに、彼女は私の元へと近付こうと必死にもがき続ける。そんな咲夜に『大丈夫だ』と伝える事が出来ない自分が酷く悔しくて――

 そして――咲夜の体から力が抜けた。
 
 声すらも上げられない状況の中、手を伸ばせれば掴める距離にまで近付いた咲夜の指先が、少しずつ遠くなっていく。
 一瞬で、心が絶望に囚われる。それでも私は必死に体へと命令を送る。送り続ける。動け、動け、動け! どうして動いてくれない、私の体! 例え四肢が千切れようと、体を切断されようと、それでも行動出来るのが吸血鬼という存在だろうに!!
 熱を増す思考とは対照的に、体は氷のように冷たく動かない。助けたいのに、助けられない。世界を呪い、自分自身を憎む思考は加速していき、時間だけが過ぎ去っていく。
 叫べない。
 動けない。
 何も出来ない。
 それでも無理矢理に体を動かそうとし――固定された視界の端に、壊れた階段の破片が一つ。
 それは水の流れに乗ってこちらへと迫ると、私の太股を容赦なく抉り、鋭い痛みを残して消えていった。弱点である水の中に居る為か、肉体の強度が落ちているらしい。
 流れ出す血液は決して綺麗とは言えない水と交じり合って消えていく。咲夜の姿は更に遠ざかり、痛みと共に思考が上手く纏まらなくなっていく。能力の視せる運命は死へと至る道ばかりを羅列し、生存へと続く選択肢は無いのだと告げるかのよう。
 それでも私は、諦める事なんて出来ない。最後まで抗い続ける。
 だから――

 


 魔女がその凄まじい轟音を聞いたのは、美鈴の淹れたお茶を飲み干そうとする瞬間の事だった。機密性が高く、その上防音対策までしてあるこの図書館にまで響いてきたその音は、屋敷と共に、パチュリーの心をも大きく震わせた。
 それは図書館に集まっていた他の者達も同じだったようで、近くに居た小悪魔はカップを掴もうとしていた体勢のまま固まり、可愛らしい悲鳴と共にフランドールが美鈴へと飛びつき、飛びつかれた美鈴は目を見開いたままそれを受け止め――そして本日の功労者の一人である霧雨魔理沙は、びくりと全身を震わせたあと、しかし何事も無かったかのように、
「あー、こりゃ落ちたか?」
 と、まるで他人事のように言ってみせるものだから、流石にパチュリーも何も言えなくなった。そんな魔女に向けて、若い魔法使いは言葉を紡ぐ。
「火事になったら大変だし、ちょっと見て来た方が良いな」
「……ねぇ魔理沙。どうして貴方はそんなに冷静なの」
 もしかしたら偽物か? そんな突飛な事まで考えてしまうパチュリーに対し、魔理沙は脱いでいた帽子を被り直しながら、
「外の世界には避雷針ってのがあるらしいから、そうそう雷も落ちないんだろうが……幻想郷にゃあそんな便利な物は無いからな。木や民家に落ちて、火事になる事が多いんだよ。……そりゃあ雷は恐いし、今のはかなり驚いたが、だからって震えてばかりもいられない。そうしてる間にも、事態は進行していく訳だしな」
 つまりはそう、彼女はそういった天災に慣れている、という事なのだろう。図書館に引き籠もり続けてきたパチュリーとは知識や経験が違うのだ。その割に美鈴が固まったままなのは、ただ雷が苦手なだけか。
「ともかく、ちょっと見てくるぜ。ここが燃えたら大変だからな」
 そう言葉を続ける魔理沙へとパチュリーは軽く首を振り、「それに関しては心配しなくて良いわ」と言葉を返す。
「何でだよ」
「それはね――」
 と、パチュリーが説明を始めようとした、その瞬間。
 落雷の音とは明らかに違う、何かが大きく歪むかのような音が図書館に響いた。それはまるで、形の合わない木箱を力任せに組み合わせていくかのような、酷くひずんだ耳障りな音で――

 ――直後、図書館が崩壊を始めた。

「ッ?!」
 本棚が倒れる、などという生易しいレベルではなかった。まるで図書館を斜めに傾かせたかのように、壁が、本棚が、そこに詰まった魔道書が、巨大な波のように押し寄せてくる。
 それは魔女が最も危惧し、恐れていた図書館の崩壊だった。
「咲夜が拡げていた空間が壊れた……? でも、どうしてこんなタイミングで……」
「おいパチュリー、ボケッとしてんな! 早く逃げるぞ!」「そうですよ!」
 魔理沙と小悪魔に手を引かれ、図書館の外へと引っ張られていく。しかしその目は崩壊していく図書館に向けられたまま動かない。この場所は、魔女にとって書斎であり、住処であり、宝庫であり、そして歴史なのだ。知識には際限があり、記憶には限界があり、そして魔法には未来が無い。それでも魔道書という歴史を積み重ね、魔女や魔法使いは生き続けてきた。生き延びてきた。生まれながらの魔女であるパチュリーノーレッジにとって、それが崩れていく様は、自身の半身の死を目の当たりにしているようでもあった。
 でも、それだけ、だった。
 呆然と目の前の状況を眺めながらも、しかしパチュリーは冷静だった。自分ではもっと取り乱すと思っていたのに、しかし動いている思考は『崩壊の原因』についての事ばかりを考え続ける。何十年も掛けて書き上げた魔道書が、古い知り合いから譲り受けた古書が、もう手に入らないだろう外の世界の雑誌が見るも無残な姿に変わっていくのを眺めながらも、しかし思うのは――
「――咲夜」
 それは魔女として失格かもしれない。何せ、積み上げてきた歴史よりも、共に暮らす家族の心配で頭が一杯なのだから。
「でも、それが間違いだなんて思わないわ」
 それが、現在のパチュリーノーレッジにとっての正解なのだ。そんな彼女に「何か言ったか?!」と魔理沙の問い掛けが来た。魔女は崩れ行く図書館から視線を外し、崩壊と共に生まれ続ける振動から逃げるように空へと浮かぶと、
「もう大丈夫だって言ったの」
「聞こえない!」
「もう大丈夫! 小悪魔も、もう手を放してくれて良いわ!」苦しくならない程度に声を張り上げ、そしてパチュリーは先を行く別の金髪と紅髪へと視線を向け、「――妹様!」
「な、なに?」
 声に、美鈴に抱きついたままのフランドールが視線を上げた。その紅い瞳は不安に揺れていて、それでもパチュリーは声を張り上げる。
「一つお願いがあるの! 私達が魔法で造った木を全て破壊して!」
「え……?! でもあれ、後で何かに使うって……」
「気にしなくて良いから、早く!」
 現在、図書館の出口周辺には大量の大木が転がっている。パチュリーの予定としては、その木々を壊れた正門の修復や、紅魔館の改築、更には魔法の実験に使っていこうと考えていたのだが、それをこのまま放置しておけば、押し寄せてくる瓦礫にこの図書館が耐えられなくなる可能性が高まってしまう。無駄なスペース、そして質量は早めに無くしておいた方が良いのだ。自分達の為、そして崩壊後に救い出す魔女の半身達の為に。
 急な運動に苦しげな表情を浮かべているパチュリーに促されるように、フランドールがそれに頷き、大木の山へと視線を向け――そして、そこにある破壊の目が、その小さな手の中に集められていく。
 そしてパチュリー達が図書館の外へ出た瞬間、美鈴に抱きついたままのフランドールが掌を握り締め、同時に爆発音が連続して図書館の中から響いてきた。それによって大木が破壊されたのだと魔女が理解するよりも早く、魔理沙と小悪魔が図書館の扉を閉め――パチュリーはその場に腰を落とした。
 そんな彼女に掛けられたのは、慌てた様子の魔理沙の声。
「お、おいパチュリー、ここに居たら危ないだろ!」
 対するパチュリーは、しかしゆるゆると首を横に振り、
「……いえ、大丈夫よ。扉が閉められた以上、図書館は隔離されたわ。これでもう、中でどんな事が起ころうと、外には何の影響も出ない」
 何故なら、
「図書館の本には危険なものもあるから、事前にこうした対策を取っておいたのよ。……まさか、図書館そのものが崩壊してくるとは思わなかったけれどね」
 失意と共に呟くパチュリーの言葉に答えるように、遠く小さく、しかし確実に図書館内から響いていた音が消え、廊下が静けさを取り戻す。そうしてうな垂れるパチュリーに小悪魔が何か言葉を掛けようとして、しかし何も言えないままに口を閉じると、その小さな体を護るかのようにパチュリーを抱き締めた。
 霧雨魔理沙はその様子を無言のまま、しかし辛そうな表情で見届け……そして、全員が持っているだろう疑問を、少々躊躇いがちに口にする。
「もう安全なのは解った。でもさ……その、どうして図書館が崩壊し始めたんだ? ここもそうだけど、紅魔館は咲夜の力で空間を拡張してあるんだろう?」
 言いながら、嫌な想像が魔理沙の中に浮かぶ。けれどそれは無いと信じたくて、沈み込んだままのパチュリーの言葉を待つ。
 返事が返って来たのは、外で強い風が二度吹いて、木の枝でも折れたのか、何かが落下したような大きな音が聞こえて来た後の事だった。
「確かに、図書館は咲夜の力で拡張してあるわ。でも、それが解除されたという事は、拡張していた空間を破壊するような何かが起こったか、咲夜の身に何かが起きたか……」
 そうして、少々ふら付きながらも、魔女が廊下に立ち上がる。濡れた廊下に座り込んだ事でスカートが汚れてしまっているものの、それを気にする素振りも見せず、ただ強い瞳で、閉ざされた図書館を見つめ、
「咲夜はレミィと一緒に居る筈だから、彼女の身に危険が及んだとは考え難い。でも、確実に何かが起きたのは確かよ」
「何かって、一体……?」
 不安げに言う美鈴に視線を向け、しかしパチュリーは小さく首を振り、
「解らないわ。でも、拡げられていた図書館の空間が元に戻った以上、紅魔館の各所でも似たような事態が起こっている筈。まぁ、レミィの部屋は無事だと思うけれど……」
「私、見て来ます!」
「わ、私も! お姉様と咲夜が心配だもの!」
 美鈴の言葉に続くようにフランドールが告げ、そして二人一緒にレミリアの自室がある方向へと向けて駆けて行く。もし何か障害が発生していたとしても、あの二人なら大丈夫だろう。
 遠ざかっていくその背中を見送っていると、魔理沙が口を開いた。
「図書館はまだしも、この紅魔館が崩れる可能性はないのか?」
「……無いとは、言い切れない。でも、我が家を見捨てて逃げる訳にはいかないわ。――小悪魔」
 はい、と頷く紅髪の少女へと視線を向けると、パチュリーは真剣な表情のまま、
「多分大丈夫だと思うけれど、保険の為に、図書館へと外から結界を張って。私は屋敷を廻って、崩れそうな場所を補強してくるわ。魔法での補強でも、何もしないよりマシだろうから」
「解りました。……気を付けてくださいね」
 言って、小悪魔が背を向け、そして小さく詠唱を開始する。その名の通り彼女はレミリアと同じ悪魔であり、その力は高い。ここは彼女に任せて大丈夫だろう。そう判断し、パチュリーはゆっくりと漂うに空に浮かぶと、そのまま紅い廊下を進み出し――
「って、ちょっと待てよ! 私に仕事は無いのか?」
「貴女は部外者だもの。これ以上巻き込む訳にはいかないわ。それに、これ以上借りを作るつもりもない」
 そう断言するパチュリーに、魔理沙は「全く、頭の硬い魔女はこれだから……」と溜め息を吐き、そして箒に跨ると、
「利害も何も関係無く、純粋に助けてやるって言ってんだよ。困った時はお互い様だろう? それに、誰かを助けるのに代償を求めるほど、私は落ちぶれちゃいない」
「……本気?」
「誰にモノを言ってんだ。私は麓のヒーロー魔理沙さんだぜ? ……借りたい本も、まだまだあるしな」
 そう言って、力強く笑う。それは、沈み込んでいたこの状況の中で、何よりも強く貴いものに見えて、
「……解ったわ。なら、魔理沙も補強を手伝って頂戴。崩壊しそうな場所があったら、結界を張るなり魔法で固定するなりしておいて。でも、これ以上図書館の本は」持ち出させないから。そう告げようとした魔女の声を遮るように、
「任せときな!」
 言って、まるで風のような速さで魔法使いが飛んで行く。あれで本当に大丈夫なのかと思ったけれど、行ってしまった以上は信じるしかない。そう判断すると、詠唱を続ける小悪魔に一言告げて、パチュリーは廊下を進み出した。



 咲夜が空間を拡げた事によって、紅魔館はその広さと共に部屋数も多くなっている。彼女は空間を拡げるだけではなく、拡げた空間の中に新たな空間を作り出す事が出来るからだ。解りやすく言えば、既存の部屋と部屋との間にもう一つ部屋を作れる、という事。そのお蔭で、この紅魔館は数多の部屋を持つ屋敷になっている。当然廊下も伸びているので、違和感は無い。
 しかし、その空間拡張が解除された今、廊下は酷い有様になっていた。本来の部屋数に戻った為、その中間にあった部屋が壁と壁とに押し潰される結果となり、壁から壊れた扉や家具が突き出てしまっているのだ。
 予想以上に多いその損壊箇所に結界を張りながら、魔女はゆっくりと、随分と短くなってしまった廊下を進んで行く。
 パチュリーが進んでいる方向は、普段はあまり使われていない空き部屋の多い場所だった。空き部屋といえど、ベッドやテーブルなど、必要最低限の家具は取り揃えられており……しかし、最近ではレミリアの思い付いたイベントの際に使用する大道具や小道具が仕舞われる、ちょっとした物置の代わりに使われていた(だからこそ、その損害も大きいのだけれど)。他にあるとすれば、フランドールの私室ぐらいだろう。
「まぁ、妹様の部屋は、咲夜の力の影響を受けていない筈だけれど」
 そう確認するように呟きながら、しかし一応見てみるだけ見てみようと、突き当たった角を右へと折れて――紅く伸びる廊下の先。美鈴が築いた防壁の近くに、何かが倒れている事に気付いた。
 一瞬、思考が止まる。
 それは人間のようで、スカートのような物を穿いていて、その上にはエプロンのような白い布があって、水に濡れた髪は幻想郷には数人しか居ない銀髪で――
「――さ、咲夜!」
 慌てて駆け寄り、うつ伏せに倒れている咲夜を仰向けにさせた。全身を塗らした彼女の顔には生気が感じられず、その肩を揺すってみても反応が無い。
「えっと、こ、こんな時の対処方法は……」
 取り敢えずは仰向けにしたものの、それからの対処が思い出せない。突然の状況に恐怖が生まれ、焦りが加速し、冷静に思考が廻らない。知識はあった筈なのに、その引き出しが開かない。咄嗟に掴んだ咲夜の手はとても冷たくて、思わずそれに涙が出る。そうしたら更に訳が解らなくなって、冷静さがどんどんと失われていく。
 このままでは駄目だと思うのに、何も出来ない。
 そんな魔女を救ったのは、廊下の奥から響いてきた爆発音だった。
「こっちにも居ないよ!」「こうなると……残るは二階しかないですね」「二階ね、解っ――って、パチュリー? どうしたのって咲夜?!」「ちょ、どうなってるんですかこれ!」
 現れたのは、壁をぶち壊す、という実に解りやすい方法で屋敷の内部をショートカットしてきたのだろうフランドールと、最早その暴走を止めるという回路が働いていないのだろう美鈴の姿。
 突然の状況に慌てる二人を前に、パチュリーは咲夜の手を握り締めたまま、
「咲夜、咲夜が……」
 ぽろぽろと涙を流しながら、うわ言のように小さく呟く。彼女もそう、つまるところレミリアと同じ『弱点』を抱えている。捨虫の魔法で自身の成長を止めてしまった事で、レミリア以上には成熟しているものの、その本質は十台の少女に過ぎないのだ。その為、予想外の状況が起こってしまうと、途端に何も出来なくなってしまう。
 フランドールはその姿に感化されて混乱し始め、美鈴は呆然と立ち尽くし――しかし状況を把握したと見るや、彼女はすぐさま行動を開始した。
 美鈴はパチュリーの反対側へと回り込むと、「咲夜さん!」と強い口調で呼びかけ始めた。そして反応が無い事を確認すると、今度はその口元へと耳を近付ける。その目は動きが見られない胸元を注視し――表情を硬くしながらも体を起こすと、美鈴は倒れた咲夜の頭をそっと支え、その顎を上げさせた。そして、口の中に異物が無いか確認し始める。
 そんな美鈴へと、フランドールが呆然と、
「めーりん、何してるの……?」
 対し美鈴は何も答えず、咲夜の鼻を摘み、呆然と座り込む二人を前に人工呼吸を開始する。しかし、呼吸は戻らない。
 表情を更に硬くしながらも、美鈴はすぐに心臓マッサージへと移行する。「一! 二!」と大きく数を数えながら、同時に美鈴は自身の体内を巡る『気』を咲夜に送り込み、三十を数えた所で再び人工呼吸へと戻っていく。
 紅魔館の門番として働いている美鈴にとっては、溺水で死ぬ人間など珍しいものではなかった。何せ屋敷の正面が湖なのだ。過去にも多数の土左衛門を見て来たけれど、幻想郷の水場でもそれは変わらない。むしろ妖精や妖怪が多い分、子供や老人の水死体は外の世界よりも多く感じられた。
 だからそう、溺れ始めた人間を目撃する回数も多いのだ。
 その上、この数年の間で、美鈴は人間と手合わせを行う回数が増えた。その結果、倒した相手が意識を失い、或いは勢い余ってそのまま湖に落ち、溺れてしまう事が多くなった。特にこれからの時期は水温が下がる為か、心停止する者も少なくないのである。そんな人間達を、妖怪である紅美鈴は放置していただろう。けれど今の彼女は紅魔館の門番なのだ。いくらこの屋敷が悪魔の館だとしても、目の前で溺れる人間を見殺しにする、などといった悪評を広めたくはなかった。
 そういった事から、美鈴は心肺蘇生法を学ぶようになった。その結果、更に挑戦してくる人間が増える事となったのだけれど……まさか咲夜に対してそれを行う事になるとは、美鈴自身夢にも思っていなかった。
 むしろ、そんな状況はやってこないで欲しいと、人間と妖怪の違いを良く知る彼女は切に願っていた。
 けれど、現実は非情で――それを打ち破る為に、美鈴は必死に蘇生法を繰り返し続ける。と、そんな彼女の耳にパチュリーの詠唱が響いてきた。それは肉体の再生能力を高めるもので、魔女がどうにか復活した事を意味していた。残されたフランドールは咲夜の手を握り、不安げにその名前を呼び続ける。

 ――そして。
「ッ、ッ!」
 苦しげな咳き込みと同時に咲夜の呼吸が戻ったのは、それからすぐの事だった。




 ブレイジングスターと見紛うばかりの速度で飛んで行った魔理沙が、永遠亭から永琳を拉致して戻ってきた頃には、もうすっかり台風は過ぎ去っていた。
 紅魔館二階の、空間縮小に巻き込まれなかった部屋に寝かされた咲夜の呼吸は落ち着いていて、後は意識が戻るのを待つばかりとなった。彼女が何故溺水し、そしてどの程度の間呼吸が停止していたのかは解らない。けれど美鈴の処置と、パチュリーの魔法、そして無理矢理連れてこられたとはいえ十全な仕事を行ってくれた永琳の治療によって、咲夜の意識は確実に戻るだろうと思われた。
 そうして今、パチュリーは咲夜の倒れていた、地下へと続く通路の前に居る。
「……」
 台風の名残だろう強い風を遠くに聞きながら、魔女の表情は硬い。
 目の前には、黒と言っても遜色がないほどの色をした水が揺らめき、雨水と一緒に流れてきたのだろう草や葉、更には壊れた木材などが浮かんでいる。
 一度美鈴がこの中に潜ろうとしたものの、ここに溜まった水はスライムのようになっていて、奥深くまで飛び込む事すら出来なかった。そして疑問符と共に上がってきた彼女の衣服は、何故か赤黒く染まってしまっていた。
 まるで、血溜まりの中へ潜ったかのように。
「……」
 そしてこの奇妙な水とは別に、未だに解決していない大問題が一つ。この紅魔館の館主である、レミリアの行方が解らないのだ。
 咲夜の看護の合間を縫って、美鈴達と共に全ての部屋を確認したものの、どこにもレミリアの姿は無かった。彼女は吸血鬼であり、もし空間の縮小に巻き込まれていたとしても、自力で脱出出来るほどの力は持っている。そして、こんな状況でかくれんぼをやっていられるほど馬鹿ではない。
『お姉様が一緒なら、きっと咲夜も安心出来るのにね……』
 そう呟いたフランドールの声が、今もパチュリーの耳に残っている。
 だから、
「……レミィ?」
 普段そうするように、魔女は足元の水へと問い掛ける。当然のように答えは無く、水面にはゴミが浮いたまま、何の反応もない――が、暫くすると、ある変化が訪れた。魔女の声に応えるかのように、水底から何かが浮かび上がってきたのだ。
 拾い上げてみると、それは見慣れたドレスだった。普段は洗濯され、綺麗な白を保っている筈のそれは、今や血色の紅に染まっている。
 スカーレットデビル。
 彼女は、そこに居た。 



 
 五感の全てが消え失せた世界の中、私はどうにかレミリアスカーレットとして存在していた。
 とはいえ、自分に意識があるのかどうか、という事すら良く解らない状況だった。脳みそだって消えている筈なので、こうして生まれている思考も、言ってしまえばノイズのようなもの。恐らく、他者には意味を成さない想いの残滓なのだろう。だから、パチェの声が聞こえた気がするのもきっと気のせいだ。
 さて。
 咲夜は助かっただろうか。人間がどのくらい水中で耐えられるのかは解らないけれど、そこまで長い時間ではなかった筈だ。誰かが咲夜に気付いてさえくれれば大丈夫だろう。
 パチェは苦しんでいないだろうか。ただでさえ体が弱いのに、この状況は辛い筈だ。けれど、彼女には困難を乗り越える意志がある。だから大丈夫だろう。
 フランドールは泣いてないだろうか。あの子はいつまで経っても子供のままだから、不安に押し潰されてしまいそうになっているかもしれない。だけど、決して弱い子ではないから大丈夫だろう。
 美鈴は疲れていないだろうか。彼女は妖怪の癖に優しいから、責任を感じてしまっているかもしれない。でも、みんなその力を信じているから、誰かが彼女を支えてくれる。だから大丈夫だろう。
 小悪魔は困ってないだろうか。パチュリーと一緒に居る彼女は世間に疎いから、困惑してるかもしれない。とはいえ、そこは悪魔だ。魔族としての強かさを持っている彼女なら大丈夫だろう
 そして最後に、魔理沙は笑っているだろうか。こんな事態になってしまったから、沈んでいるかもしれない。けれど、彼女は人間らしい強い心を持っているから大丈夫だろう。
 うん。
 もしも誰にも気付かれず、このままこの想いの残滓が散ってしまっても大丈夫だ。みんな強く生きていく事だろう。
 ……辛くないと言ったら、嘘になるけれど。
 そう。辛い。でも、辛いと思う私は、辛いと思考する私はどこに居るのだろう。どこに在るのだろう。脳みそさえ無くなった私が、私を『私』とどう定義しているのだろう。
 自分がレミリアスカーレットだと、どうして断言出来るのだろう。
 それに、一体どれだけの時間が経ったのだろう。
 一日か、
 一ヶ月か、
 一年か、
 永遠か。
 或いは、一秒にも満たない刹那なのか。
 そしてこの瞬間に、どれだけの時間が過ぎ去っているのだろう。
 時間の感覚すらも消え失せたこの状況でそれを知る術は無い。
 けれど、ゆっくりと、この思考が霧散し始めているのは解る。
 それはまるで、紅茶に溶ける砂糖みたいに、私というものが溶けていく感覚。
 吸血鬼という生き物は、血の一滴からでも体を修復出来るからか、命の概念が他者とは大きく違う。
 だからだろうか。
 消えていく事への恐怖が薄い。『再生出来るから大丈夫』と、そんな不可能な事を考えてしまうほどに。
 でも、無理なのだ。
 何が無理なのか良く解らないけれど、私はもう『レミリアスカーレット』に戻れない。
 戻れなくなっている。
 嗚呼、
 嗚呼。
 何もかもが溶けて消えていく。

 そんな時。
 見慣れた友人の魔法陣が、見えた気がして、

「……」
 今、何か聞こえたような。
「……!」
 でも、気のせいよね。
 だって私には、もう体が無い。何かを聞く為の耳が、そしてそれを処理する脳みそがないのだから。
 だから、
「……様!」
 眩しい光も、
 懐かしい匂いも、
 響く声も、
 気持ち悪い口の中も、
 誰かの手の感触も解らない。
「……嬢様!」
 解らない、筈なのに――声は、唇から紡がれた。
「……さく、や……?」
 
「……お嬢様!」
 
 それは、彼女が私を助けに来てくれた時と、どこか似ていて。
 私達は似たもの同士なのかもしれないと、そんな事を思った。
 


 ぼんやりとした、夢と現の境界線を渡り歩いているかような感覚の中、どうにか体を起こしてみると、何故かベッドの周りには紅魔館の住民+αが集っていた。その中でも一番近くに居るのが咲夜で、何故か彼女は目を真っ赤に晴らしていて――突然、抱き締められた。
「良かった……!」
 状況が良く解らないけれどなんだか凄く心配されていたようで、わんわん泣きながら強く抱きしめてくる咲夜を抱き返す。大丈夫、私はここに居るよ、とそう伝えるかのように。
 そうしたら今度は咲夜の反対側に居たフランドールが抱き付いてきて、更には美鈴と魔理沙までもが飛び付いて来た。重い。でも、普段ならどうにか支えられるだろうその重さが、今はどうしてか支えられない。寝起きだからなのか、体に力が入らないのだ。そうして、わーわー言いながらそのまま五人固まってベッドに倒れこんで……妙に柔らかい何かを押し退けてどうにか顔を出すと、そこには疲れた顔をした友人の姿があった。
「おはよう、レミィ」
「あ、うん。おはよう、パチェ。……えっと、これ、何?」
「自分の胸に聞いてみなさい」
 そう答えて後ろを向いてしまった友人の目にも涙があって、それを支える小悪魔の表情も同様で。一体何がどうなっているのかしら、と思いながら、取り敢えず自分の胸に手を当てて――寝巻きも下着も着けていない事に気が付いて、そこでようやく全てを思い出し、
「さ、咲夜!」
「は、はい!」
 一気に高まった不安と恐怖と共に彼女の名を呼ぶと、すぐ側から答えが返ってきて、目の前に咲夜の顔がやって来た。彼女はトレードマークとも言えるメイド服を着ておらず、ヘッドドレスもなく、化粧すらもしていない寝間着姿だった。
 でも、彼女は自分の力で呼吸し、自分の力で行動していて。
 みんな見ていると解っているのに涙が出てきて、溢れ出す感情が止まらない。改めて咲夜を抱き締めながら、私は生まれて初めて、嬉しくて泣いた。



「それじゃあ、解答編と参りましょうか」
「別にミステリーじゃないけどね」
 友人へとその程度の軽口を叩ける程度にまで復活したところで、私は自室を出てからの状況を説明する事にした。因みに、今はパチェと二人きりだ。
 私の意識が戻りそうだ、という事で、無理に体を起こしてやって来ていた咲夜は美鈴に連れられて部屋に戻され、小悪魔と魔理沙は図書館へ。最後まで残っていたフランドールも、「安心したらお腹空いちゃった」と恥ずかしげに笑って厨房へと向かっていった。聞けばもう台風はとっくの昔に過ぎ去っていて、以前のように妖精メイド達が館内を飛びまわっているらしい。だから、食事の用意はメイド達にさせているのだとパチェが言っていた(意外にも、それなりに美味しいらしい。咲夜の指導が効いていたようだ)。
 まぁ、それはそれとして。
「取り敢えず、最初に聞いておきたいんだけど……パチェが咲夜を見つけた時、ちゃんと廊下に居た? あと、私はどんな感じだったかしら」
「咲夜は廊下に倒れていたわ。そしてレミィは、赤黒い、スライムに近いような物体になっていた」
「確信は、あった?」
 あれが私だって。そう問い掛けると、パチェは「馬鹿ね」と苦笑し、
「私を誰だと思っているの?」
「それもそうね。貴女はパチュリーノーレッジ。この私が唯一友人だと認めた魔女だったものね。てっきり、泣き虫のビブリオマニアだと思っていたわ」
「あら、さっきまでわんわん泣いていた女の子はどこの誰だったかしら?」
「さぁ、私にはさっぱり」
「あらそう。それじゃあ話を戻すわね」言って、パチェは真剣な表情に戻ると、「……どうして、あんな姿になっていたの」
「ちょっと、賭けに出たのよ」
 私は今、寝間着に着替えていて、足をベッドの上に投げ出すような形で座っている。見れば太股に傷は無く、綺麗に再生していた。
「賭け?」
「そう。私も咲夜も、生きるか死ぬかの瀬戸際だったから」
 あの時の状況を思い出しながら、パチェに事情を説明していく。
 部屋の水が引き、咲夜と共に外へ出た事。雷の音を聞きながらフランドールの部屋に向かった事。そして地下通路へと下り、落雷が起こり――その衝撃で、咲夜の維持していた空間が破壊され、大量の水に襲われた事。
「咲夜の能力は便利だけど、それに頼りすぎるのも問題になるって事が解ったわ」
「確かにそうね」
 そう、魔女が小さく頷き、そのまま予想もしていなかった言葉を口にした。 
「話を切ってしまうけれど、私もそれを痛感していた所よ。……図書館が、崩壊したから」
「ほ、崩壊?」
 そうして語られ始めた話は、私も危惧していたものだった。咲夜が過剰に能力を使わなければ大丈夫だろうと思っていたその事態が、一度の落雷で引きこされてしまったのだ。
「そう……。だから小悪魔の様子が少しおかしかったのね」
 部屋を去る際、彼女は「私は片付けに戻ります」と言っていたのだ。台風の後始末はメイド達が行っているだろうし、何か妙だとは思ったのだけれど、まさか図書館が崩壊していたとは。
 だというのに、館主である私はスライムになっていて、頼りの咲夜はベッドの上だ。パチェの気苦労は相当なものだっただろう。
「その……ごめんね、パチェ」
「別に良いわ。そこまで切羽詰った状況ではなかったから」
 どうして、という私の問い掛けに、パチェは天井辺りに視線を向けながら、
「レミィは、咲夜の限界が来たらこの紅魔館が崩壊するかもしれない、って考えたみたいだけれど……でも、実際にはそんな事は起こらないのよ。いえ、起こる筈が無いの。何せ、咲夜が拡げているのは空間であって、この紅魔館自体ではないのだから」
「あー……言われてみれば、そうか」
 例えば廊下を広げるにしたって、そこにある柱を横に引き伸ばしている訳では無い。もしそうだったとしたら、この紅魔館の外観すら変わってしまっている筈だ。
「まぁ、扉や家具が壁の間に埋まってしまっているから、結局対処は必要なのだけれど」
「でも、屋敷の崩壊は無いって事ね」
「そういう事。だから焦って指示を出す必要も無く、ゆっくりと確実に片付けを進めているわ」
 つまり、私が想定していたほどの被害は無く、けれど損害は大きかったという訳だ。そう思う私に、パチェが視線を戻しながら、
「それじゃあ、話の続きをお願い」
「解ったわ」
 友人に頷き返し、私は『賭け』の内容について話し出す。
「水に飲まれたあと、私はその弱点から、咲夜は溺水から動かなくなってしまって……そんな時、私は流れてきた木片で足に怪我をしてしまったの」
 身動きも取れず、目の前では大切な従者の灯火が消えかけている状況で流れ出す、死へと繋がる見慣れた紅。
「それを見た時にね、ある事を思い付いて――賭けに出た」
「その状況から? 方法なんて無いと思うのだけれど……」
「私は吸血鬼よ? その再生能力は、例えば血の一滴からでも体を復活させる事が出来るほどに強い。……そこで、逆転の発想」
 怪我を負ったからこそ思い付いた、最後の手段。
「動けないって言っても、体を霧に替える事は出来た。当然、水中で霧になんてなっても、体は維持出来ない。霧は血液と同じように水と溶け合っていって……」
「――まさか」
「そう。私はそこで無理矢理体を修復したの。当然霧と血液はこの体を形作ろうとするけれど、半ば水と交じり合っているから上手くいかない。それでも私は復活を試みて……その結果が、パチェが言うところの紅いスライムね。この体にまでは戻れなかったけれど、それでもああして一つに固まる事が出来た。つまり、体を構成する水分が何十倍、何百倍にもなって、この形を維持出来なくなったようなものね。
 でも、スライムになったとはいえ私は私。少しの間は自由に動く事が出来たのよ。だから、水中に居た咲夜を廊下へと運ぶ事が出来たの。……まぁ、脳みそも体も無い状態だから、だんだんと意識が希薄になって、何だか本当のスライムみたいになっちゃったんだけど――痛ッ!」
 突然パチェが立ち上がったと思ったら、拳骨で殴られた。普通に痛い。
「ちょっと、何するのよ!」
「レミィの馬鹿! なんて無茶をするの!」
 振り下ろした拳を震わせ、本気で怒っているのだろうパチェの声が部屋に響く。
「そんな事をして、もし元の体に戻れなかったらどうするつもりだったのよ!」
 その迫力に少し恐くなりながらも、私は小さく、しかしはっきりと、
「だって……咲夜が死にそうだったんだもの」
 一昔前だったなら、私は確実に彼女を見捨てていただろう。何せ相手は人間なのだ。助けようという気にすらならなかった筈だ。
 でも、今は違う。十六夜咲夜という人間は、違う。
 それはパチェも同様なのか、何か言いたそうにしながらも、しかし何も言わずに椅子に腰掛けた。そんな彼女へとそっと手を伸ばして、その細く白い手を握り、
「不思議と不安は無かったわ。無意識に、パチェなら何とかしてくれるって、そう信じていたんだと思う」
「……馬鹿」
 その言葉と共に、手を握り返された。
 何か他に、もっと安全な方法があったのかもしれない。けれど、今になってそれを思い付いた所で意味は無い。
 もっと心を強くしなければ、と思う。『弱点』を咲夜に曝してしまった時もそうだけれど、床上浸水が起こっただけであの様だ。自分が成長出来ないのはもう仕方のない事なのだから、せめてその内面を、ああいった状況で冷静に思考が出来るような強い意思を持たなくては。……鍛練ですら成長だから、実際には無理かもしれないけれど、それでも努力はしていかないと。
 フランドールだけを救えれば良いと思っていた過去とは違って、今の私には護るべき相手が沢山入るのだから。
「でも、実際にはどうやって私を助けてくれたの?」
 聞き忘れていたそれを問い掛けると、パチェは机の上に置いてある魔道書へと視線を向け、
「レミィがスライムになっていた事から、私はその体が何らかの理由で融解しているのだろうと考えたの。流石に、その理由までは想像出来なかったけれどね」
 そんな無茶をするとは思わなかったもの。パチェはそう私を責めるように小さく言ってから、
「でも、そこから体を復活させる方法が中々見付からなくて……ようやく見つけたそれは、賭けのような方法だったの」
「私と一緒ね」
「今にしてみれば、最悪の一致よ。私には運命を捻じ曲げる力なんて無いのだから」
 魔法は世界の常識を変える力を持つ。けれど、奇跡を起こす訳ではない。それを理解しているのだろう魔女の表情が曇り、そして溜め息をひとつ。
 しかしすぐに私へと視線を戻すと、彼女は何事も無かったかのように話を続けていく。
「レミィは、賢者の石の効力を知っているわよね?」
「確か、その石があれば水銀から金が作れるのよね」
「正解。だけど、賢者の石にはそれ以外にも効力があって、その中の一つに『不老不死の妙薬を作り出せる』というものがあるの。まぁ、魔法で作り出した賢者の石で生成する薬だから、蓬莱の薬には及びもしないし、魔力が切れたらその効力を失ってしまうのだけれど……相手はレミィだったから、その力に賭けるしかなかった。肉体の再構成にまで辿り着ければ、あとは自己修復を行ってくれると信じるしかなかったの」
 解りやすく言えば、何年か前に行った肝試し――あの時に出逢った、フェニックスを背負っていた少女と同じ事だ。リザレクション。意識の有無は関係なく、破砕した四肢を一瞬にして回復する、蓬莱の力。
 張り巡らされた結界の中に運ばれた私は、そこでそれの焼き増しを行う事になる。しかしあんな一瞬での再生ではなく、賢者の石から作られた薬を使ってのゆっくりとした再生――って、ちょっと待て。賢者の石は錬金術によるものだ。そして錬金術による生命って言ったら――
「――ねぇパチェ、凄く嫌な事を思い出したわ」声が震えるのを感じながら、私は友人へと問い掛ける。「……もしかしてこの体って、ホムンクルスと同じ要領で作られたの?」
「えぇ、そうよ」
 そう、パチェは頷き、
「とはいっても、肉体の抽出までだけれどね。その後からは、エリクサーを使っての工程に入ったわ。でも、肉体さえ再生出来れば、吸血鬼の精神がその体を再構成している筈だから、」
「や、そうじゃなくて」
「ああ、そっち?」そこで私が感じている感覚に気付いたのか、パチェが笑みを浮かべ、「それなら気にしなくて良いわ。媒体はレミィスライムだし、あの方法を厳密に再現した訳じゃないもの。だから、別に人間の精――」
「言わなくて良い言わなくて良い!」
 慌てて止める。そうじゃないと解っても、想像が勝手に一人歩きしてしまって、何だか気持ち悪くなってきた。そんな気分を変える為に、私はパチェに話の続きを促す事にした。
「ええっと、それで?」
「幸運にも、レミィの体は再生を始めてくれて……時間は掛かってしまったけれど、こうして肉体を再生させる事が出来たのよ」
「だから全裸だったのねぇ……」
「そういう事。……今更だけど、体に不調は無い?」
 心配の色を持って聞いて来るパチェに、私は指先から蝙蝠を生み出してみせながら、
「この通り元気よ。本当にありがとう、パチェ」
 笑みと共に告げると、しかしパチェはちょっとむすり、として、
「感謝するぐらいなら、始めから無茶をしないの」
「はーい……」
 手厳しいのだった。

 そうして、あれやこれやと話をしながら時間が過ぎていき、話題が台風のそれに移った時、パチェが意外な事を言い出した。
「そういえば、レミィはまだ、湖の氾濫の原因を知らないのよね」
「え? あれって台風が原因だったんじゃないの?」
 降り続いた豪雨の影響で、湖が耐え切れなくなってしまった結果、ではなかったのだろうか。そう思っていた私に、パチェは難しい顔で、
「確かにそれも要因の一つなのだけれど、直接的な原因は別にあったの」
「別?」
「そう。実はね、今回の氾濫には妖怪の山が関係していたのよ。ほら、これを見て」
 そうしてパチェが取り出したのは、天狗の新聞だった。彼女はそこにある記事を指差しながら、
「前回の台風の時、妖怪の山で地滑りがあったらしいの。その結果、山に堤防が出来てしまって、そこに天然のダムが生まれてしまった。天狗達はそれの処理に追われていたらしいのだけれど、今回の豪雨でそれが決壊。そうして流れてきた大量の土砂と水が湖に流れ込み――」
「そして、氾濫に至ってしまったって訳ね」
 話を聞きながら記事へと目を通していくと、前回の地滑り、そして今回の大雨で起こった天然ダムの決壊についての様子がレポートされていた。排他的な天狗が自分達の暮らす場所をこうして新聞にするのは珍しいと思えたけれど、山の麓には湖があり、こうして紅魔館が水害にあったのだ。対岸にある騒霊の屋敷は元より、下手をすれば人里にまで被害が及んでいる可能性がある。その状況を鑑みて、『自分達も被害者なのですよ』とアピールする必要があると考えたのかもしれない。まぁ、そんな事をしなくても、被害を受けた側は復旧作業で手一杯だろうし、逆にそんな中で新聞なんぞを呑気に発行出来る事の方に批難が向かいそうだ。
「いっその事、どこか高台にでも引っ越した方が良いのかしらねぇ」
 冗談めかしてそう呟いて、しかし返って来た答えは真剣だった。
「かもしれないわね。いつかは、幻想郷に大地震が発生するのだし」
「あー……そういえばそうだった」
 それは、いつぞやの天人くずれが引き起こした異変のツケだ。神社に要石を挿したという話だけれど、それは地震のエネルギーを抑え付けただけであり、その発生を防いだ訳ではないという。つまり、いつかは確実に大地震が起きるという事。
 紅魔館内部の修復は、引越しなども視野に入れておいた方が良いのかもしれない。
「明日から大変になるわね」
「えぇ、本当に。咲夜が復帰するまで、レミィにはメイド達の指揮を取って貰わないといけないし」
「……なんだって?」
 予想外の言葉に固まる私とは対照的に、パチェは困り顔で、
「あの子達、私の言う事はあんまり聞かないのよね」
 それは多分、図書館に籠ってばかりいるのが原因だと思う。と、そんな事を思ったけれど黙っておいた。それよりも、今は告げられた面倒の方が重要だ。
「いきなり指揮を任せられても、昔も今も、私は屋敷の事は殆どノータッチなんだけど……」
「館主の勤めだと思って諦めて。まぁ、フォローはするわ。流石に無理はさせられないもの」
「……そう言って、結局私がてんてこ舞いになってる運命が視えるんだけど……」
「気のせいよ」
「ドリアードは関係ない……。まぁ良いわ。その代わり、今日はもう休むから」
 ぽすん、とベッドに横になりながらそう告げる。対するパチェは「はいはい」と苦笑しながら立ち上がった。そして魔道書を抱え、部屋の扉を開き、
「おやすみなさい、レミィ」
「おやすみ、パチェ」
 
 


 そうして、三十分ほど時間が経って。
「……眠れない」
 ごろごろと繰り返していた寝返りを止め、体を起こしながら小さく呟く。
 眠気はあるのだ。けれどどういう訳か、そのまま眠りに落ちてくれない。まぁ、どう見たってここは私の自室じゃないし、ベッドや枕は普段使っている物とは違っている。だから上手く寝入る事が出来ないのだろう。
 このまま睡魔を待つのにも飽きてきたし、暇つぶしに屋敷の中を散歩でもしてこよう。
 そうと決めると、私はベッドから降り、
「よっと」
 床の上に立ってみると、違和感は感じられない。両脚はしっかりと体を支え、指先まで不備無く動く。全くもって普段通りの私、レミリアスカーレットだった。
 その事に安心しながら部屋を出ると、廊下には照明が点され、以前よりも間隔が遥かに狭くなってしまった窓の外は夜の闇に包まれていた。
「なんだ、まだ夜だったのね」
 小さく呟きながら窓へと近寄ってみると、普段見ている景色よりも高い。誰も教えてくれなかったから気が付かなかったけれど、どうやらここは二階のようだ。……いや、浸水の影響があった訳だから、当たり前といえば当たり前か。
 そんな事を思いながら廊下を歩いて行き、屋敷の二階を一周してみる。その大半は片付けられているけれど、未だに廊下のカーペットが大きく歪んでいる場所があったり、壊れた扉の残骸が山積みになっていたりする場所があった。けれど、これでもまだ二階はマシな方なのだ。階段を降りた先は、この状況に浸水がプラスされている。いくらメイド達が戻ったとはいえ、その総指揮を取っていた咲夜が寝込んでいる以上、作業効率は半減している筈だ。
 明日から頑張らないとな。そう思いながら部屋に戻ろうとして……さっきまで自分が寝ていた部屋がどこだったのか、解らなくなった。
「……あ、あれ?」
 屋敷の広さが半減している今、その部屋数も減っている。それを忘れて普段の調子で歩いていた為か、まるで夢の中に迷い込んでしまったかのように混乱してしまっていた。瓦礫のような目印があるならまだしも、それらが片付けてあるこの廊下は、まるで初めて足を踏み入れる場所のようにも感じてしまうほどで、何だか調子が狂う。咲夜が屋敷にやって来る前はこの広さが当たり前だったのに、彼女の力ありきの紅魔館に身も心も慣れてしまっていたらしい。
 とはいえ、一階にある自室で眠る訳ではないのだ。別にどこの部屋で眠っても同じかな、と思いながら歩いて行くと、一つだけ扉の隙間から光が漏れ出している部屋があった。中に誰かが居るらしい。
 これこそ光明だろうか。そんな事を思いながら扉をノックをし、その向こう側へと声を投げ掛ける。
「えっと……ここは、誰の部屋?」
 恐らくみんな二階で暮らし始めているだろうから、住民の誰かの部屋であるのは間違いない。まさか魔理沙という事は無いだろう。そう思いながら返事を待つと、
「お嬢様、ですか?」
「ん? 咲夜?」
「はい」
 その返答に促されるように扉を開くと、部屋の中にはベッドの上で体を起こしている咲夜の姿があった。彼女は読んでいたのだろう本を畳むと、柔らかい微笑みと共に、
「どうなされたのですか?」
「いや、その……迷っちゃって」
「迷う……? お嬢様の仮のお部屋は、この隣ですよ?」
 え、という言葉を残して一度咲夜を部屋を出ると、言われるがままに隣の部屋へ。するとそこには私が寝ていた形跡を残したベッドがあって、廊下にある窓から見える景色は数十分前に見たそれと同じだった。……というか、窓から見える景色で判断すれば一発だったじゃないか、私。
 まだまだ精神的な部分までは本調子に戻っていないのかもしれない。そんな事を思いながら咲夜の部屋に戻り、
「確かに隣だったわ……」
「珍しいですね。お嬢様がそういった勘違いを起こされるなんて」
「まぁ、そういう日もあるわ」言いながら、咲夜のベッドの隣にある簡易ベッドに腰掛け、「……ねぇ、なんでこの部屋にはベッドが二つあるの?」
「私が目を覚ますまで、パチュリー様達が付き添って下さっていたんです」
 パチェと小悪魔(昼)、フランドールと魔理沙(夜)、美鈴(朝)の順番で、一日中咲夜の様子を見守っていたのだという。というか、魔理沙がそこまで咲夜の事を心配しているとは思っていなかったのでちょっと驚いた。いつも屋敷に忍び込んでは怒られているのに。私が目を覚ました時もそうだったけれど、彼女は私が思っている以上に私達を大切に思ってくれているのかもしれない。
 それに、フランドール。日中あの子はスライムとなった私の隣で眠り、夜は咲夜の隣で過ごしていたのだという。あの子は誰かを失うという事に慣れていないから、他にどうする事も出来なかったのだろう。
「あの子は咲夜に迷惑をかけなかった?」
「迷惑だなんて。逆に勇気を沢山頂きました」
 困惑していたのだろうフランドール以上に、目を覚ましたあとの咲夜は動揺していたのだという。咲夜の記憶は、目の前の私を助けられずに途切れているのだ。その後目覚めてみれば、当の私はスライムになってしまっている。その動揺は想像し難いものがあった。
「そんな私に、フランドール様はいつも仰って下さいました。『お姉様なら絶対に大丈夫』と」
「そうだったの……」
 ふと、思う。
「私は駄目な姉ね。そうやってあの子に心配をさせないように……あの子だけは苦痛を知らずに微笑んでいられるようにと、そう思って生きてきたというのに。そう願って、戦ってきたというのに」
 理想と現実は違う。それは解っているけれど、でも、私は成長出来ない子供だから、思い描いた理想を現実に出来るのだと信じている。運命を操る力を持つからこそ、尚更に。
 そう思う私に掛けられた咲夜の声は、
「お嬢様」
 五百年の苦痛を覆すような、力強い声で、
「今は、私達が居ます」
 一瞬、何も考えられなくなった。でも、その言葉の意味を理解した瞬間、目頭が熱くなってきて、それでも私は頷きと共に、
「……本当、私は駄目ね」
 この屋敷には最高の門番と最強の魔女とその使い魔、そして完全なメイドが居るのだ。何を恐れる事があろう。フランドールの言う通り、私は――私達は、絶対に大丈夫なのだ。
 その事を実感しながら、洋服の袖で涙を拭う。
「……咲夜には、恥ずかしい所ばっかり見られてる感じがする」
「私はお嬢様のメイドですから」
 その微笑みは答えになっていないようで、でも私にしてみれば何よりも正解に思えた。
 だからだろうか、ここに来てようやく、『レミリアスカーレット』に戻れた気がする。咲夜達の主であり、パチェの友であり、フランドールの姉であり、そして吸血鬼である私に、戻れた気がする。
 そうしたら燻っていた眠気が一気に押し寄せてきて、堪らず欠伸を一つ。
 歩き回って多少疲れたし、このままならすんなり眠れるだろう……と、そのまま簡易ベッドに横になろうとして、ここが咲夜の部屋なのだと思い出す。でも、出来る事ならこのままここで眠ってしまいたかった。それは多分、咲夜が側に居るからなのだろう。でも、それを直接口に出すのは何だか恥ずかしい。けど、何も言わずにここに横になるのは彼女の主として、というか常識的にも問題があるだろう。
「……」
 ちら、と咲夜の方を見つつ、あれやこれやと考える。「一緒に寝たい」と一言言えばそれで済むのに、それが出来ない自分がもどかしい。
 そうして言葉を捜していると、不意に咲夜から声が来た。
「お嬢様は、これからお休みになられるのですか?」
「え、あ、うん。そうだけど……」
「では……よろしければ、私と一緒に眠っていただけますか?」
「え?」
 予想もしていなかった言葉に思考が止まってしまう。そんな私に、咲夜は少々恥ずかしげに、
「昨日まではフランドール様達と一緒でしたから、何だか淋しくなってしまって。……それにこのベッド、一人で眠るには少々大きいんです」
「そ、そういう事なら、仕方ないわね」
 簡易ベッドから降りると、私はいそいそと咲夜の隣へ腰掛ける。何が仕方ないのかは解らないけれど、どこかほっとしている自分が居た。
 そうしてベッドの上に座ると、台風の直中に居た時の事を思い出す。あれほどの不安と恐怖を、まさか幻想郷で味わう事になるとは思わなかった。本当に大変な目に合ったものだと、今更ながらにそう思う。
 と、咲夜がベッドの上で居住まいを正し始めた。そして改めるように私へと視線を向け、深く頭を下げると、
「――遅ればせながら、助けて頂き有り難う御座います」
「主として当然の事をしただけよ。咲夜は私の物で……フランドール達にとっても、なくてはならない存在なんだから。だからね咲夜、貴女はもっと自分の体を気遣いなさい。解った?」
「はい、お嬢様」
 頷き、そして微笑む咲夜とこうして一緒に居られる事が嬉しくて、心が暖まっていくのを感じる。
 今夜はゆっくりと眠れるに違いない。そう思えた。




 照明を落とし、二人で横になる。
 静かな時間の中、すぐ目の前にある咲夜の顔を眺めていたら、不意にある事を思い付いた。それを自分から言い出すにはとても大きな勇気が必要で、でも時間を掛けると咲夜が先に眠ってしまう。
 短い時間の中での長い逡巡のあと、私は顔が真っ赤になるのを感じながら、
「ね、ねぇ、咲夜」
「なんでしょう、お嬢様」
 開かれた青い目が、真っ直ぐに私を見ている。
 恥ずかしい、
 恥ずかしい、
 凄く凄く恥ずかしい。
 でも、どうにか、言った。
 咲夜に甘えたいと、そう思ったから。
「……えっと、その……だっこ、して」
 一瞬咲夜がきょとんとして、しかしすぐに柔らかく微笑む。そして「解りました」という優しい声と共に、その腕が私の体を抱き締めた。
 それは台風の中、涙と一緒に感じた感触と同じ。
 暖かくて、柔らかい。


 その幸せな感触を逃がさぬよう、私は咲夜を抱き返し、そっと目を閉じる。
 再びこうする事が出来た幸せを、噛み締めながら。












おしまい。







宵闇むつき
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投稿日時:
2008/10/01 15:16:43
更新日時:
2008/10/04 06:16:43
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5.00
1. 5 慶賀 ■2008/10/05 13:13:48
テーマは妹様危機一髪でしょうか。心配してるレミリアが可愛いですね。
 ただなんか釈然としないものがあるというか、悪いと思ったわけでは無い
んですが……。
2. 7 no name ■2008/10/05 19:06:13
五百年たっても心は幼女。素晴らしいですね。
へたれみりゃ可愛いよへたれみりゃ
3. -3 名無し ■2008/10/06 20:17:27
次に期待しています
4. 8 小山田 ■2008/10/06 23:29:40
水害を題材にして、奇をてらった変化球も投げないまま、ここまで魅せる物語にする手腕に脱帽。
先の展開にハラハラしながら最後まで一気に読み終わりました。
些事の荒さも目だななくなるだけの力のある作品でしたね。
5. 3 佐藤 厚志 ■2008/10/07 03:36:16
少し長すぎるような気がしました。
またどこかで書いたのですが、小説は作家が何を言いたいのかが大事です。今回は紅魔館を舞台としたパニック長編でしたが、その言いたいことのために、洪水は必要だったでしょうか。私はそこが疑問です。災害の恐怖を映画のように表現するのが狙いとも思えませんでした。
なんか生意気でごめんなさい。
6. 9 名前はないです… ■2008/10/07 23:03:50
語彙力がないので、気の利いた事はいえませんが…
面白かったです。
7. 4 神鋼 ■2008/10/08 21:02:46
いいお話でした。ただ設定等で首を傾げるようなことが多く、どうにも納得いきませんでした。
8. 7 yuz ■2008/10/14 18:00:34
可愛らしい。オレもだっこする。すぐに。
9. 10 r ■2008/10/15 02:52:00
とてもよかった。
やっぱりちゃんとストーリーが練られている作品は読みごたえがあって面白いです。
これからどうなるんだろう、とドキドキしながら読めました。種あかしも最後きれいにまとまっていて、後味もよかったです。
素晴らしい話を読ませていただいて、ありがとうございました。
10. 9 deso ■2008/10/23 23:37:30
おおお、これは面白かったです。
なんだかパニックものの大作映画を見るようなハラハラドキドキでありました。
ごちそうさまです。
11. 10 三文字 ■2008/10/24 00:33:03
可愛いなぁ可愛いなぁ、やっぱお嬢様は可愛いなぁうふふ。
しっかりとカリスマを見せつつも、子供故の不安定なお嬢様がとてもよかったです。
吸血鬼であり紅魔館の主でもあるが、その実、成長をしていない小さな子供。
まさにお嬢様の魅力がぎっしりと詰まってました。
あと、咲夜さんの瀟洒っぷりが格好良すぎです。
お嬢様が不安に駆られて叫んだ場面での登場は、格好よさに鳥肌が立ちました。
アクション映画の如く次々と起きていくハプニングにハラハラとしながら、楽しく読むことができました。
良い作品をありがとうございます。
12. 5 詩所 ■2008/10/26 20:18:04
行動に矛盾点というか、無防備すぎて疑問に感じました。
吸血鬼であるレミリアはまだしも、一緒に付き添っている咲夜がいながら被害甚だしい場所へ足を踏み入れるでしょうか?
結果論からの印象と言われてしまえばそこまでかもしれませんが、レミリアの水に対する並々ならぬ恐怖が丁寧に書かれているからこそ余計に感じました。
13. 5 ミスターブシドー ■2008/10/27 00:12:52
スカーレットスライムか……斬新な姿だ……

それなりに面白い。
終わって見れば読後の印象も悪くない。
事件も他に類を見ない、というかありそうで無かった話で、しかもきちんと書いてある。
だがこの違和感はなんだ。
やはり事件に都合の良さを感じる。事件が起きないとお話は動かないわけで、自然には逆らえないと言えばそれまでなんだが。
でも落雷以降はちょっと強引な気がする。
微妙に前後編になっているんだが、後編に波が無くて、微かに蛇足な気がする。長いから?
レミリアの弱さに対する独白はよかったが紅魔館の家族の絆を語る話は数限りなくあるので、目新しさに欠ける。
よく出来ているんだけど、なにかこう、首を捻る。
あ、あとパチェが天候を制御できる点を忘れてはいけない。どの程度の規模かは知らんけど。
何だ、起承転結と事件と解決が予想を越える事が無かったからか?
14. 5 PNS ■2008/10/28 14:11:04
ちょっと読みにくいです。キャラも結構都合良く動いているような……。
あまり緊迫感が伝わってきませんでした。申し訳ありません。
15. 8 つくし ■2008/10/29 17:41:38
 なんつーか作者さんの「俺は紅魔館のやつらが大好きだあああああ!!だからお前らもこれを読めえええええ!!」的な情熱がビンビンきて終始感情移入させられっぱなしでした。おぜうさまかわいすぎやばいだきしめたい。ただちょっとヤマがひとつふたつほど多すぎた感があって読み疲れも。
16. 6 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 06:55:35
水と吸血鬼とは直球なお話。直球で温かいお話。
教科書どおりの上手なストーリーラインが素敵。
17. 4 藤ゅ村 ■2008/10/31 17:46:42
 おもしろ……どうだろ。
 話を盛り上げたい! という感じは伝わって来るのですが、それでもちょっと前振りが長いというか書き込みすぎというか、冗長な感じはしました。
 二転三転する展開は躍動感にみなぎっていたのですが、描写が濃すぎることも重なって、異常事態が何回も続いて少し疲れてしまった気も。
 そのあたり、登場人物が感じている億劫さみたいなものが、読んでいる自分にもしっかり伝わっているということなのだとも思いますが。
 レミリアと咲夜が合体する話。手とかいろいろ。
18. 5 今回は感想のみ ■2008/10/31 20:48:04
エンターテイメント的な内容で楽しめました。
ハラハラしたり深刻そうに見えたり臨場感があったりはしませんでしたが、
紅魔館らしい危機への対処だなあとほのぼのしました。
19. 7 じらふ ■2008/10/31 21:32:03
自分の中のレミリア像が(良い意味で)突き崩されました。うん、こういう主従関係の紅魔館もありですね。
幼く脆くも優しく気高い、紅い悪魔が愛おしくなるお話でした。
20. 8 つくね ■2008/11/01 03:19:39
レミリアを一度殺す(厳密には死んでないが)とは思わなかった……
さて、一種の孤島での殺人事件にも似たスリルと情景、そして優しさを大きく浴びた気がします。主要キャラクター一人一人に気が配られ、最後まで丁寧に描写されているのは高評価。ただ時々表れる心理描写を使った他者の描写が少々解説くさくもあり、しかし全体的によくまとまっていてなかなかのボリュームにしては読みやすかったです。
21. 6 八重結界 ■2008/11/01 18:32:07
構成もしっかりしていたし、お嬢様達の感情の動きもリアルに届いてきました。
ただ、インパクトには欠けるかと。綺麗に纏めすぎたすぎたような印象を受けました。
22. 6 名乗る名前がない ■2008/11/01 21:03:21
あんなところにあって、かつ住人があれなのだから対策をしていないはずがない。
と思ったが全然そんなこと無かった。
誰もが一度は夢見る(?)床上浸水ですが生憎私は遭遇したことがありません。
起こってしまったことは仕方がない。大切なのは起こってしまったことにどう対処するかだ。
つまりお嬢様かっこいい、でも状況補正で相殺。やっぱりお嬢様だ!
23. 5 blankii ■2008/11/01 21:35:33
この上ないハッピーエンド。レミリアにとっての咲夜、咲夜にとってのレミリア、というものが優しげな雰囲気の中で書かれていて、なんというか円環が完成しているようなかんじ。だからこそ、こんなハッピーエンドにたどり着けたのだと信じたい。
24. 8 木村圭 ■2008/11/01 21:47:02
これは上手い。構成も見せ方も直球100マイルなお題利用も。
でも一番上手いと思うのはタイトル。一目見た時にこれは、と思い読み終わった後で良いタイトルだなぁと改めて思いました。
成長についての解釈がとても面白かったです。そこが強調されているにも関わらず咲夜を命懸けで助けようとする辺りに絶大な愛情が見て取れて、もう。
25. 5 時計屋 ■2008/11/01 23:28:14
なんと健気で良いお嬢様。
最近公式では傍若無人の大暴れといった態のお嬢様ですがこういうのもいいですね。

最後のゼリーのアイデアは面白かったのですが、全体的に文章が淡々として味気なかったようにも感じます。
長い部類のSSですので、さらなる工夫が必要かと。
26. フリーレス リコーダー ■2008/11/03 13:15:11
期間中にコメントできなくてすいません。
文章は本当に好みです。レミリアのキャラ付けが、適度にカリスマを匂わせつつ一本気さを最大限に活かしていて、理想に近かった。
引っかかったのは、いくら天狗の山云々があったからとはいえ、自然災害で幻想郷のパワーバランスの一角がこんな事になっちゃっていいのかなあという事、それにネタばらしらしき物が独自理論だったので裏をかかれたという感覚がそもそも無かった事です。
入力出来ないけど7点で。
27. フリーレス 宵闇むつき ■2008/11/05 20:58:12
カリスマ溢れる吸血鬼レミリアも良いですが、可愛く可憐なお嬢様も素敵だよね! という事でコンペも六度目。宵闇むつきです。
沢山の感想、本当に有り難う御座います。では、コメント返しをば。



リコーダー様
いえ、コメント有り難う御座います。
確かに、呆気なく吸血鬼姉妹が危険な状態になってしまいました。ですが、吸血鬼という種族は弱点が多い為、逆に自然災害によって危険な状況に陥る場合が多いとも思うのです(雨が降っただけで身動きが取れなくなる訳ですし)。とはいえ、ネタばらしを含め、それを作品内で納得させる事が出来なかったのは失敗でした。

時計屋様
独自設定で突っ走った感じがありますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
ですが、文章が淡々としていましたか……。普段通りに書いたつもりだったのですが、心情部分を表現しきれなかったのかもしれません。努力します。

木村圭様
有り難う御座います。普段はタイトル付けにかなり悩むのですが、今回は天啓のようにこの名前が出てきました。
それは成長などの設定についても同様で――なので今回は書きながらの思い付きが多かったのですが、楽しんで頂けたなら何よりです。

blankii様
ハッピーエンド大好き! なので、意識的にも無意識にも、この結末を臨んで書いていたのだと思います。
楽しんで頂けたなら幸いです。
 
名乗る名前がない様
妹様を外に出さない為にパチェが雨を降らせた事はありましたが、逆に入り込んでくる水には……と思って出来たのがこの作品でした。
強気だったり弱気だったりしたお嬢様でしたが、そのお嬢様らしさを感じて貰えたなら何よりです。

八重結界様
有り難う御座います。ですが、インパクトが足りませんでしたか……。
今のところこれ以外の纏め方が思い浮かばないですが、様々な出来事が起こった後なので、何か別の終わりへと繋げる道があったのかもしれません。発想力を鍛えねばですね。

つくね様
高い評価、有り難う御座います。読みやすかったなら何よりです。
しかし、解説臭さがありましたか……。自分設定を説明する為だったのですが、それがくどくなってしまっては意味が無いですね。気を付けていきます。

じらふ様
有り難う御座います。
自分設定満載で突っ走った上に、作者さんによって色んな主従関係があるので、そのお言葉が凄く嬉しいです。

今回は感想のみ様
楽しんで頂けたなら何よりです。
ですが、ハラハラしたりはしませんでしたか……。ちょっとは狙ってみたのですが、どうにも表現力が足らなかったようです。努力せねば。

藤ゅ村様
無駄が多い上に描写が濃すぎましたか……。展開の変化の多さについての意識はあったのですが、それ以上に削るべき点があったようです。
「おもしろい」と断言して頂けるように、精進していきます。

眼帯つけた兎さん様
有り難う御座います。
本当は、少しぐらい教科書から外れていた方が面白みが増すのかも知れないのですが……それはそれ。楽しんで頂けたなら幸いです。

つくし様
もう大好きですので! 楽しんで頂けたなら何よりです。
とはいえ、疲れさせてしまいましたか……。自分でも起承転結が狂っている事は自覚していたので、もっと推敲を繰り返せば良かったようです。妥協しちゃ駄目ですね。

PNS様
いえ、こちらこそ申し訳ありません。そして、この長い話を読んで頂き有り難う御座います。
読み難いのは、作品として最大の失敗。キャラの行動なども含めて、もっと表現力を鍛えたいと思います。

ミスターブシドー様
有り難う御座います。ですが、違和感がありましたか……。それに、確かに後半は無駄が多かったかもしれません。でも、書いている最中は「これで大丈夫」だと思ってしまうんですよね……精進します。
パチェについては、脳内設定に引っ張られてしまったようです。大失敗だ……。

詩所様
それだけ咲夜さんの能力を過信していたという事と、まさかの落雷だった為、という感じです。
とはいえ、描写に対して無用心だったのは確かですね……。近くに大量の水があった訳ですから。気を付けないと。

三文字様
お嬢様も咲夜さんも、沢山の作家さんによってそのキャラクターが掘り下げられていますが、私のそれを楽しんで頂けたならとても嬉しいです。
こちらこそ、高い評価を頂き有り難う御座いました。

deso様
有り難う御座います。お嬢様も咲夜さんも動かしやすいキャラクターなので、自分設定と共に動き回ってもらいました。
楽しんで頂けたなら何よりです。

r様
こちらこそ有り難う御座います。
長い上に起伏の多い話でしたが、そう言って頂けると凄く嬉しいです。(今更ですが、練り込みが足りないかな、と思う部分もありましたので、尚更に)

yuz様
そう思って頂けたなら何よりです。
最後の部分は投稿する少し前に思い付いたラストだったのですが、ボツにせず突っ走って良かったようです。

神鋼様
有り難う御座います。ですが、納得させる事が出来ませんでしたか……。
自分設定が多かったので、その分説明を増やしたつもりだったのですが、上手く行かなかったようです。努力します。

名前はないです…様
有り難う御座います。面白いと感じてもらえた。その一言が何よりも嬉しいです。
それに、気になさらないでください。私も上手い事言えないので……。

佐藤 厚志様
いえ、謝るのはこちらの方です。上手く表現出来ず、すみません。
自分では大丈夫だと思っても、やはり作品とする以上は、もっと客観的に作品を見る必要がありますね……。努力していきます。

小山田様
お褒め頂き有り難う御座います。でも、些事の荒さがありましたか……。
二次創作とはいえ作品として発表する以上、そういった点も無くさないとですね。長い物語でしたから尚更に。精進です。

名無し様
はい。その期待に答えられるように頑張ります。

no name様
有り難う御座います。公式で『子供』と断言されているからこそ出来た作品でした。
大概、長生きしているキャラは精神が老熟している気がしますし……そう言った意味でもお嬢様超可愛いです。

慶賀様
有り難う御座います。とはいえ、作品を納得させる事が出来なかったのは私のミスです。
恐らく、起伏の多さやキャラクターの行動からそう感じさせてしまったと思うので、今後はそうならないように作品を作っていきたいと思います。



最後に、皆様に心からの感謝と愛を。あと、面白みの無いコメントしか返せなくてすみません……。これからも精進を続けていきたいと思います。
今回は本当に有難う御座いました。
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