早符『湖と水色の巫女−人間のキモチ−』

作品集: 最新 投稿日時: 2008/10/04 09:59:47 更新日時: 2008/11/06 02:59:22 評価: 0/0 POINT: 0 Rate: 5.00


「ホンット、こいつらしつっこいったら……! ――神具『洩矢の鉄の輪』!!」

 諏訪子のスペルカードが宣言されると、巨大な鉄輪が無数に出現し、殺到する妖怪の群に突っ込む。
 何かが砕ける音とともに赤い液体が飛散し、小さな肉片が飛び散る。
 妖怪たちの叫び声が上がり、鉄輪の直撃を受けた不幸な者は輪に巻き込まれたままどこかに消えていく。

 スペルカードの凄まじい威力に妖怪の群が怯んだ一瞬に、諏訪子は前を睨みつけたまま後ろに声を投げる。

「神奈子っ! 早苗はっ!?」
「……ダメ……まだ、まだ目を覚まさないのよ!!」

 諏訪子の後ろには頭と足に血を滲ませた少女が横たえられていた。
 息をついてはいるが、意識なくまぶたを閉じており、神奈子は祈るようにその手を握っている。

「神奈子ッ! 上からッ!!」

 ふたりが早苗と呼ぶ倒れた少女に気を取られた隙に、翼を持つ妖怪たちが諏訪子を飛び越えていく。
 妖怪たちが空から早苗に迫り、彼らの手が光を溜め始めた、その瞬間。

「っざけんな……神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』アアアッ!!!」

 神奈子が振り返り、叫ぶと同時にスペルカードを発動すると、巨大な御柱が天を貫き飛び出していく。
 天を衝くその柱は翼を持つ妖怪たちを次々に打ち据え、彼方へと吹き飛ばしていった。

 彼女らの予想以上の力に妖怪の群れがざわめくと、
 諏訪子は身を震わせながら、神奈子は鋭い目で睨みながら言い放つ。

「来れるもんなら来てみなさいよ。……あんたらに……あんたらなんかに早苗は……早苗はッ!!」
「ふん……宴会にも飽きがきてたところだわ……。軍神の力で、楽しい神祭りを始めてあげるよ……」

 神と妖怪の剥き出しの力が激突する血戦の横で、臥したままの早苗の意識は夢の中を彷徨っていた。
 そして夢の中で思い起こしていた。昼間に湖であった、できごとを――。

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 少女は初夏の湖畔に一人、佇んでいた。

 広漠たる湖の、風に寄せては返す波を見つめる。
 たゆたう水をそっと手にすくうと、それはあまりに穢れなく透明で、手の中で揺れるきらめきと、
 肌に伝わる冷たさでしか知覚できないのではないかと錯覚しそうになる。

――ここは、確かに違う場所なんだ――

 手の中の、見たこともないほど透明で、冷たいきらめきを見つめながら少女は思った。

 唇から重いため息が漏れる。こんな場所で今さら、自分は何を求めているのだろう。自分でもよく分からない。
 それでも広い湖を満たす明るく、しかし虚ろな冷たさはまるで、自分自身の抱える何かのようで……。

 少女が独り、冷たい風の走る湖の上に想いをさまよわせていた時だった。

「いけませんっ!!」

 感傷に耽る少女の背中に声と共にドン! と強い衝撃が伝わる。

「早まってはダメです! ご両親から頂いた尊い命、何を死に急ぐ必要がありましょう!!」
「え? ……ち、ちょっと……あの……? あの!?」

 振り払おうともがくが、ぶつかってきた何かはもがいても振り払えず、
 少女に力いっぱいしがみつきながら必死の勢いで訴えてくる。

「生きていてこそ浮かぶ瀬もあろうというもの、今は辛くても、耐え忍べばきっと!!」
「ちょっと、あなた、さっきから何を勘違いして……って、きゃあああああっ!!」

 しがみつかれた少女がバランスを崩すと、静かだった湖畔に派手な水音が響く。
 舞い上がった水しぶきは陽の光を受け、砕けた水晶のように輝いた。

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 脱いで絞った上着を木の枝に掛けると、水色の浅葱で染められたスカートの裾をまくる。
 少女らしくすらりと健康的な白い脚をのぞかせて濡れた裾を絞ると、水滴がぽたぽたと落ちた。

 と、彼女を湖へ突き落とした当事者へちらりと目をやると、小さくなっていた彼女は申し訳なさげに目を伏せる。

「……ごめんなさい。こんなところに人間がいるから、私、てっきり……」
「もう、いいです……」

 小さくため息をついて柔らかな草原に座り込む。
 長い髪が舞い、濡れた肌に風が気持ちいい。

 少女に背中からぶつかってきたのは、まるで人形のようなリボンだらけの女の子だった。
 しかし彼女もまた人間でないことは場所と、そして雰囲気から察することが出来る。
 人間への害意を持っているふうではなかったので、少女は彼女に声を掛けてみることにした。

「あなた、妖怪なの? 里の人間はこんな山奥には来ないわよね」
「ええ、私は鍵山雛っていうの。人間の厄を受けて、神々に渡しているの」

 つまりは忌まれし付喪の神か。
 嬉しそうに話す彼女の自己紹介を聞き少女はそう思ったがもちろん言葉にはせず、
 礼の姿勢を取ると自分も自己紹介をする。

「厄の神様にご挨拶が遅れたご無礼をお詫び申し上げます。
 私の名は東風谷早苗と申します。風祝として、そこなる守矢神社で八坂様にお仕えをしております」
「あらあら、それじゃあなたが外の世界からこの湖や二柱の神様と一緒に最近引っ越してきたっていう?」
「はい。畏れ多くも厄神様におかれましては、何卒――」
「そんなに畏まらないで。そんなふうに呼ばれるの、慣れていないの私」

 生真面目に神への礼を守ろうとする早苗の態度に、雛が人好きのする笑顔を向ける。

――あ……少し、似てるかも……。――

 人ならずとも同じくらいの年頃の娘にも見える雛の困ったような笑顔は
 早苗が向こうに置いてきた当たり前の――当たり前だった日々をふと思い起こさせた。

「えっと……それじゃ早苗さん、って呼んでもいい? それで私のことはね、できたら……」
――東風谷さんのこと、早苗ちゃんって呼んでいい? それでね、私のことは――

 恥ずかしそうに嬉しそうに目を伏せがちに話す雛の姿が、言葉が思い出にかぶる。
 と思うと、いきなりの出来事で忘れていた気持ちを思い出してしまう。

「……ぅっ……ひっく……」

 涙がぽろぽろとこぼれ、嗚咽が喉から湧き上がる。突然のことに雛は驚き、心配げな声を掛けた。

「……早苗さん……? あの、どうしたの……? やっぱり、何かあったの……?」

 自分で決めたことだ。ここで、私は幸せだ。後悔なんてしない。向こうの世界に未練なんて無い。
 そう思おうとしても、一度溢れた涙は容易には止まらなかった。

「ご、ごめんなさ……なん、なんでも……ひっく……ない……です……ぅっ……えっ……」
「そんなに悲しそうで、何でもないわけないわ。その……もし私なんかで良かったら、話してみて……?」

 雛は可愛らしいレースのハンケチを取り出すと、濡れた早苗の目元を拭う。
 ハンケチからはふわりと優しい香りが漂い、早苗の気持ちを少しずつ、落ち着かせてくれた。

 しばらくして落ち着いた早苗は厄神様にお尋ねしたいことがあります、とおいてから切り出した。

「……神様にとって、人間って何ですか?」

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 博麗の巫女達との一件があったにせよ、幻想郷で神奈子と諏訪子たち
 ――信仰とともに力と実体を取り戻した二柱の神――は楽しげに妖怪たちとの宴会に明け暮れていた。

 天狗や河童……山の妖怪たちは意外にも気さくな者が多く、二柱の神様を信仰してくれるだけでなく、
 早苗にも友好的に接してくれる者が多かった。

 しかし人間であり、しかも酒をたしなむ習慣の無かった早苗は神と妖怪に付き合いきることが出来ない。
 宴席の片隅で申し訳程度に口を湿らせただけで、早々に退出をする早苗を見つめる彼らの視線の中に、
 友好とは違う視線で見る者の存在が混じるのを感じることも事実だった。

 それは人間への警戒、敵意、軽蔑、嘲り――そして、獲物への欲望。

 そのたびに早苗は向こうの世界でのことを思い出さずにはいられない。
 向こうの世界に置いてきたはずの気持ち。級友で賑わう教室を一人で出る時にいつも感じた、あの気持ちを。

 それでも向こうの世界には早苗と仲良くしてくれる友達がいて、一緒にいてくれた。
 しかし幻想郷では、妖怪が封鎖している山の奥に鎮座する守矢の神社を訪れるような人間は一人もおらず、
 幻想郷を楽しみ妖怪の信仰を集め続ける二柱の神に、人間の小さな悩みを相談することも躊躇われた。

 山の高みにある広大な守矢の神社で、早苗はひとりぼっちで孤独だった。

 現人神と崇められる風祝であっても所詮は人の身である自分はいつか老い、死んでいく。
 強大な力を取り戻し、これからまた悠久の時を過ごしていくであろう二柱の神々にとって、
 はかなく一瞬にすぎない早苗の存在、そしてその命にどれほどの価値があるのか。

 自分は奇跡を起こす現人神として、たいていの困難は乗り越えられると思っていた。
 だがそれがひどく甘い考えだったことは、幻想郷に来てすぐ麓の人間達に痛感させられた。
 ここ幻想郷では、早苗は酒に弱く多少力がある程度の、ありふれた人間に過ぎない。

――もしかして、ここで私は誰にも必要とされない存在なのではないだろうか……。――

 その恐怖を心に封印をして暮らしてきた。だが、封じられても感情は少しずつ育つ。
 いつの間にか、鍵掛けられた心の扉を破るばかりに成長してしまっていたその存在、
 自分の中で育っていた弱い気持ちに、人懐っこい雛の笑顔を目の前にして、早苗は初めて気づいた。

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 雛は、早苗の短い問いにすぐには答えなかった。しばしの沈黙。
 初夏の風が走ると、湖がわずかに波立ちさざめいた。
 雛は髪をさらりとかきあげると、遠い何かを思い出すような寂しげな眼差しで話し始めた。

「私にも……今でも……はっきりとは分からないわ。そしてきっと、これからも。
 人間は弱くて儚いのにすぐにお互いに争い、傷つけあって……。
 欲望に忠実で誘惑には弱くて。神様にすがるかと思うと、
 せっかくの親切を暴力で返したり、えんがちょだなんて言ってきたり……」

 何か心当たりがあるのか、苦笑しながら話す雛の横顔は年頃の娘のように可愛らしく、
 懐かしいその雰囲気に早苗は思わず見とれてしまう。

 雛は一息置くと、でもね、と続けた。

「でもね、やっぱり私は人間が好き。弱くて儚くても、それが人間の強さと激しさだと思うの。
 人間は、あまりに長い時間を持つ私たちには無い強さや力を持っているわ」

 ね? と雛は笑顔で早苗を振り返った。

 人間の娘のような雛のその仕草が、もう遠い日々を思い起こさせる。
 現人神である自らを誇り、信仰薄い世界に幻滅し奇跡溢れる幻想郷に夢を見て、
 しかし家族や友人に囲まれ守られていた日々のことを。

――……それなのに、今の自分は……。――

 精一杯に抑えていた感情と共に、言葉が早苗の口からあふれ出した。

「でも……でもっ、私にはっ! 私には何の力も……お二方の役に立てなくて、意味が無いんです……。
自分で決めたことなのに後悔しそうなくらい弱くて……
なのに、なのに何も言えなくて……一人で……一人ぼっちなのかも、って……」

 叫ぶと俯いてまたぽろぽろと涙を流れ出す。どこにこんなに涙がたまっていたのだろう。
 泣きながらそんなつまらないことを考えていても、涙は止まらなかった。

 この涙は寂しさか、悔しさか、恐怖か、不安か――それともそれら全てなのか。
 奇跡を起こす現人神と名乗っていながら、いつから自分はこんなに弱い人間だったのだろうか。

――初対面なのに何度も泣いちゃうなんて、こっちでもまた変な人って思われちゃうかな――

 涙の合間から早苗がそんなふうに思っていると、暖かで柔らかい何かがふわりと早苗を包む。
 見ると、雛が早苗を横から優しく抱き包んでいた。
 久しぶりに触れる――かつてはありふれていた――少女の香りと温もり。

 早苗を柔らかな胸に抱き包みながら、雛は静かに詠うように話しかけた。

「――そんなこと……。だって、早苗さんはお二方のことが大好きなんでしょう?」

 雛の言葉に、早苗は泣きじゃくったままこっくりと頷いた。
 早苗がどんなに不安でも、二柱の神が大好きな気持ち。それは確かな事実だった。
 だけど、だからこそ不安で――その気持ちを雛の言葉が解きほぐしていく。

「それなら、それで十分。私たち神にとっては、好きでいてくれる人間の気持ちが一番なんだから」
「でも……私は……」
「早苗さんがお二方を好きなら、お二方もきっと早苗さんのことが大好きなはずだわ――
 だって、こんなに綺麗な湖に坐す神様と、こんなに湖水色の似合う素敵な巫女さんなんだもの」

 本当に、そうなのだろうか。自分は必要としてもらえているのだろうか。
 こんなに力無く心弱くいつか死すべき自分でも、力と信仰と永劫を持つ二柱の神にとって、
 意味のある存在であれるのだろうか。

「――大丈夫。神様はね、一生懸命に頑張っている子のことが、いつだって大好きなんだから……
 だから泣かないで。きっと、大丈夫だから……」

 抱いた早苗の頭を撫でながら、雛は幼子をさとすように優しく言葉を紡ぐ。
 涙に滲む視界の向こうでも、広く青い湖は光を受けて相変わらずきらきら輝いていた。

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――……なえ! さなえ!! ――

 遠くで誰かが呼んでいる気がする。
 ぽたりと何かがひとしずく頬に落ちたのを感じ、目が覚める。
 ゆっくりと目を開けると早苗の傍らには神奈子がおり、目に涙を浮かべた諏訪子がぴょんと飛びついてきた。

「早苗っ! 良かった、気がついたのね!!」
「あーうー、良かった……早苗ったら本当に心配したんだから!」
「あ、あの……八坂様? 洩矢様? 私、一体……?」

 なぜこんなところで寝ているのだろう。
 早苗が疑問に感じながら身を起こすと、掛けられていた毛布がはらりと落ち、
 白く形の整った胸が、桜色まで隠さずあらわにこぼれる。

――カシャリ、と時が止まった気がした。

「って……ぁ……れ? ……ぇ……? きゃあああああああああああああっ!!」

 叫びざま抱きついていた諏訪子を突き飛ばすと、慌てて毛布で胸を隠す。
 服を纏っていないだけでなく、肌に直接畳が触れる感触からして……下も何も身に着けていないようだ。
 つまり産まれたままの姿に毛布だけ掛けられて寝ていたらしい。

 何で。こんな。何が。
 様々なあらぬ想像が駆け抜け早苗は混乱したが、二柱が苦笑して説明をする。

「えーっと……。覚えてないの?」
「え……あ……、そういえば……」

 徐々に記憶が戻ってくると、そういえば早苗にも思い当たる節があった。

「そういえば私……今日は頑張って、お二方にお付き合いしてお酒を頂いてみようと思って……」

 そこまでは覚えているが、その先の記憶が無い。
 無理して酔い、酒に飲まれて寝込んでしまったのだろうか。だとしたら何という失態だろう。
 思わず早苗が顔を赤くすると、二柱は顔を見合わせ呆れたように溜息をつく。

――そして突きつけられたのは、早苗にはあまりに過酷な現実だった。

「あーその……酔って寝ちゃったのも事実だけど……
 早苗、一升瓶抱えたまま寝転がって酒まみれになっちゃったから、先にお風呂だけ行かせたんだけどね……」
「早苗、お風呂から上がった時にタンスの角で足の小指ぶつけて、その拍子に転がってた酒ビン踏んづけて、
 ころんだ時にタンスで頭ぶつけた挙句、落ちてきた神棚で頭打って目を回してたんじゃない……」
「あーうー……、どこでこんなに厄をもらってきたのかって思うくらい、ひどい展開だったわ……」
「板間に寝かせるわけにもいかないけど、頭を強く打っていたから、
 その……万一の場合を考えて、ひとまず一番近いこの座敷に運んでそのまま寝かせたのよ」

 回避する余裕も無い早苗に二柱の弾幕が次々に直撃し、思わず早苗は耳まで朱色に染める。
 せっかく頑張ってみようと思ったのに、結局また迷惑ばかりを掛けてしまうなんて。
 恥ずかしさで顔も上げられない。だが、今の早苗にはそれ以上に気になることがあった。

「は、はあ……私が意識を失っていた経緯は分かりましたが……その……それは?」

 早苗が呆然と眺めやる神社の大広間は、酒や膳が滅茶苦茶になってあちこちに散乱し、
 調度は壊れ障子や襖が吹き飛び畳も破れめくりあがり、さらに天井の所々が裂けて星の輝く夜空が覗いている。

 早苗が真心を込めて宴の肴に準備した刺身やじぶ煮は、床にこぼれ踏み潰されて小さな肉片と化しており、
 妖怪の誰かが差入れで持ってきてくれたはずの赤ワインは、瓶ごと砕けて赤黒い染みになっていた。

 境内の片隅にはノビて目を回した河童や天狗たち――なぜか男ばかり――が無造作に転がされており、
 天狗や河童の女性達があるいは二柱に頭を下げ、あるいは何かブツブツと文句を言いながら、
 河童の大型輸送用機械を使いまとめて運び去ろうとしているところだった。

 ……つまり、早苗の記憶にある神社の原風景を全く留めていない有様だった。

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 早苗の視界から後ろを隠すようにしていた二柱は、問われるとびくっとして後ろを振り返り、
 改めて惨状を認識すると、渋々……というより恐々と説明を始めた。

「それは……早苗が裸で倒れたって聞いて一目見ようと鼻の下伸ばして寄ってくるエロガッパどもを……。
 その……ね……怒った諏訪子がさあ、特大の鉄輪を転がしまくって轢ね飛ばしまくってさ……」
「この女、何を私のせいだけにしてるのよ! スクープ写真撮ろうと飛んできたバカラス天狗たちを、
 キレて屋根ごと御柱で吹き飛ばしまくってたのは神奈子じゃない!!」

 言い争いを始めてしまう二柱をあっけに取られて見ていると、思わず苦笑がこぼれる。
 それで、ふたりで神社がこんなになるまで暴れていたというのだろうか――ただ早苗を守る為だけに。

 なんて不器用なんだろう。自分も、そして神様達も。
 一生懸命な二柱の前で笑い出すわけにもいかず、早苗が俯いて笑い声を押し殺していると、
 二柱はぴたと争いをやめて心配そうに尋ねてきた。

「だ、大丈夫だよ早苗! あいつらなんかに可愛い早苗の、嫁入り前の大切な身体は見せてないからさ!!」
「あーうー……早苗、まだどこか痛いの? それとも……も、もしかして……やっぱり、怒ってる?」

 口々にまくし立てると、二柱はもう一度ちらと後ろを見て、そのまま揃ってうなだれてしまう。

「まったく……もう」

 神社の惨状と、しょんぼりとした二柱の姿を改めて交互に見た早苗は、思わずため息が出てきた。
 しかしそれは、今朝までのものとは比べ物にならないほど軽い吐息だった。

 枕元に置かれていた着替えに手を伸ばす。早苗が気を失っている間に準備しておいてくれたのだろう。
 きっと、早苗がいつ気がついても大丈夫なように。

 毛布から覗く、ぶつけた足の小指には小さなバンソウコウが貼られ、ほんの少し血が滲んでいる。
 カエルのキャラクターがプリントされたそのバンソウコウには見覚えがあった。
 早苗が何気なくあげたそれを彼女はすごく喜んでくれて、とても大切にしていたはずなのに。

 昨日までの虚ろで冷たい何かに変わって、暖かな気持ちが胸の中に満たされていくのを感じる。
 こんなに想われていながらなぜ気づかず、なぜ不安に心を囚われていたのだろう。

――おふたりは、やっぱり湖みたいね。――

 手に取ろうとするとまるで捉えどころが無く感じてしまうのに、少し離れて見ると大らかに暖かで、とても綺麗で。
 早苗は心の中にたゆたっていた厄が湖の水で洗い流されていくような、そんな清々しい気持ちだった。

「そうですね……お二方には後で重々しっかりと反省して頂くとして……」

 言いながら毛布の中で下着を身に着けると、手早く着替えに袖を通し立ち上がる。
 そして湖水色のエプロンの紐をきゅっと結ぶと、早苗は振り返って微笑んだ。

「まずはみんなで、お掃除から始めましょうか」


〜Fin〜


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――そして、翌日。発売された文々。新聞には早苗が身体を起こした決定的瞬間の写真が
 一面にカラー印刷で掲載され、里でも山でも驚異的な売上げを示したという――

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#もう1つの作品とレス共通化しています。

感想くれた方、ポイントくれた方々、ありがとうございました。

本当はひとつずつレスを返すのが筋であるとは重々承知ですが
今は何を書いても言い訳になってしまいそうなので
まとめてのレスとさせて頂くこと、どうかご容赦ください。

たくさんの厳しいご指摘、ありがとうございます。
何というか、情けなく悔しい思いをしております。

ただ指摘内容は自分でも納得できる内容ばかりなので
やはりそこは自分の実力不足…以外に言いようがないかな、と。

まさにここは精進するしかない、そして自分が納得するまで推敲を重ね続け、
文章が長くなることなんて恐れず伝えたいことが伝わるようになったと思えるまで
必死に文章を練るしかない、と痛感いたしました。

どちらも書きたいことを書くと分量が倍以上になってしまうので
むしろ切り詰める方向で書いたことを心底から後悔しています。

SSを書く上で一番大切なことは何かが、分かっていなかったと思っています。

お褒めの言葉・励ましの言葉を下さった方々、本当にありがとうございます。
実は投稿した後=頭が冷めた後に後悔しまくっていたのですが
暖かいお言葉を頂けたことで、参加して良かったと思えています。

今回は本当に良い勉強をさせて頂きました。

色々と後悔はありますが今は言い訳を重ねるよりも
頂いたこれらの感想を糧に、いつか人に見せられる作品を書いて
返すことが出来たらいいなあ…と思っております。

最後に、改めてありがとうございました。
名前募集中
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2008/10/04 09:59:47
更新日時:
2008/11/06 02:59:22
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5.00
1. 6 慶賀 ■2008/10/05 13:21:14
テーマは共感でしょうか。すいません、早苗さんが
裸で倒れたシーンが頭から離れません。雛gj。
 でも雛が差し伸べたものは同情のように読んでしまうんです。
2. 5 no name ■2008/10/05 20:58:30
万難を退け奇跡の撮影を果たしたあややに乾杯!
ところでその新聞はどk(ry
3. 3 小山田 ■2008/10/07 00:26:31
東風谷早苗が幻想郷にきて、現人神とのギャップに直面する話は多々つくられてきましたが、今作もその範疇で収まってしまったので強い印象を持つことができませんでした。
ですが、読みやすい文章だったので、得点プラスです。
4. 4 神鋼 ■2008/10/09 19:01:02
冒頭でちょっとシリアスさを出しすぎてミスリードを狙っているのが見え見えになってます。
それとちょっとお題が弱いかと。
5. 4 deso ■2008/10/23 23:29:02
わざわざ戦闘シーンを冒頭に持ってくるわりには、繋がる部分が強引だったかなあ、と思います。
6. 4 詩所 ■2008/10/26 20:24:03
物語の骨組みからするとこれから盛り上がりそうなところで終わってしまった感じです。
何行か読んで面白くなりそうと感じていたために、短く纏めてしまった感が残念。
7. 3 ミスターブシドー ■2008/10/27 00:24:00
柔らかい話。
冒頭の戦闘の理由がしょうもないが、あとはさほど目立った違和感も無く。
引越しの影響で悩む早苗さんという展開に目新しさは無いけど、雛を持ってきたのは面白いか。
普段なら人間同士で解決しがちなネタだしな。
まあ郷に入らば郷に従えだとは思うが。
少し話の波が弱いか。
8. 7 三文字 ■2008/10/29 23:41:56
最初のシリアスな展開が台無しすぎるw
作者さんに綺麗にだまされたなぁ。
あ、文ちゃん、その新聞は一部頂戴。
9. 2 眼帯つけた兎さん ■2008/10/30 06:52:19
あとがきの〜の続編とかはいらなかったかな。
上記作品とはあまり繋がりも無いですしね。
さて、本編ですが……早苗の涙までの間にもう少し言葉が欲しいところ。
あとは、冒頭部分と落ちの繋ぎ方が面白かったです。良い感じ。
10. 3 つくし ■2008/10/30 16:57:40
 早苗の感傷に感情移入できればこのSSはいいものになるのでしょうが自分にはあまり響いてこなかったようです。なんというか、感傷をそのままポンと提示されただけで説得力を持たせるための文章が足りない感じでした。
11. フリーレス 今回は感想のみ ■2008/10/31 21:35:08
ありがちで陳腐な言葉を話す厄神と、それに説得される早苗さんがなんだかうすっぺらいです。
何も感じなかったので、フリーレス。
12. 6 じらふ ■2008/10/31 21:35:20
あ、その文々。新聞一部くだs(エクスパンデッド・オンバシラ

初めの部分に見事騙されたり、シリアス物だと踏んでたのに(笑
そして現人神と厄神さまの優しい心の交流なだけだと思ったのに、厄移されてるし…物語の引っ張り方が上手くてお見事です

別作品にあるような、雛が人間に必要とされないのではと悩んだ日もあった事を思うと、早苗さんへの言葉がより重く感じられました。
なのでこんぺとしてはこの点数ですが、心の中では+1点してありまっす。
13. 5 PNS ■2008/10/31 22:13:41
こちらの話では雛が早苗さんにほとんど語るだけ語っただけでキャラクター像が見えてこなく、話の外にいますね。
だからこそ残念ながら、話全体が中途半端なものになっている気がします。
14. 5 藤ゅ村 ■2008/11/01 17:17:18
 普通……かな。
 カエルの絆創膏は早苗さんとか普通に持ってそうですね。
 早苗さんのシャッターチャンス!
15. 2 八重結界 ■2008/11/01 18:35:27
もう少しゆっくりと話を進めた方が良かったのかも。
いきなり早苗が泣き出したり、立ち直ったり、読んでるこちら側がついて行けない部分が多々ありました。
16. 3 つくね ■2008/11/01 19:03:45
個別に採点させていただきます。
同人誌で言うなら16Pのちょっと短い感じでしょうか。少々話の展開を急いだ感じもあり、話は理解できても多少の焦燥感が否めません。
二作書かれたということで仕方がない部分もありますが、そこのあたり長さがあれば書ききれたのかなーと。
――ところで文々。新聞はまだありますか?
17. 4 blankii ■2008/11/01 21:55:27
冒頭で血沸き肉踊る的な展開を期待してしまった私は負け組。
中盤の展開でどうなるかなー、と思ってたらエロガッパなのかー。そーなのかー。
ということで早苗さん可愛いよ早苗さんと言わざるをえないSSです。だから俺にも当日の文々丸。新聞のカラー面を!
18. 2 時計屋 ■2008/11/01 23:40:26
感想はもう一つの方のSSにて。

ただこのSS単体で見るなら、登場人物に共感する前に終わってしまったような印象でした。もう少しエピソードが欲しいところです。
19. 6 リコーダー ■2008/11/01 23:58:59
すいません、コメントは後ほど
20. フリーレス リコーダー ■2008/11/03 14:40:39
冒頭の超カッチョイイ戦闘→本編読む→もっかい冒頭読んで吹く
という流れだけで楽しめた。
もう一本よりも明るいトーンだったのがよし。
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